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No.30479の一覧
[0] 【第十四話投稿】Muvluv AL -Duties of Another World Heroes-[なっちょす](2014/09/10 01:21)
[1] プロローグ[なっちょす](2012/07/16 02:08)
[2] 第一話[なっちょす](2012/07/16 02:10)
[3] 第二話[なっちょす](2012/07/16 02:10)
[4] 第三話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[5] 第四話[なっちょす](2012/07/16 02:21)
[6] 第五話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[7] 第六話[なっちょす](2012/07/16 02:13)
[8] 第七話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[9] 第八話[なっちょす](2012/07/16 02:16)
[10] 第九話[なっちょす](2012/07/16 02:15)
[11] 第十話[なっちょす](2012/07/16 02:20)
[12] 第十一話[なっちょす](2012/07/16 02:17)
[13] 第十二話[なっちょす](2012/07/16 02:18)
[14] 第十三話[なっちょす](2012/10/28 23:15)
[16] 第十四話[なっちょす](2014/09/10 01:21)
[17] キャラ設定[なっちょす](2012/10/28 23:18)
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[30479] 第七話
Name: なっちょす◆19e4962c ID:3f492d62 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/16 02:20
―2月21日―
――国連軍・横浜基地・屋外廃墟演習場――

―タケルside―

…何で俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ

今の気持ちを代弁するとそんな感じだ


このクソ寒い中、歩兵の装備一式を持って伊隅大尉等ヴァルキリーズのメンバーと廃墟の中を進んでいる


いや、正確には索敵している…だな
一体如月はどこに隠れてんだ?
本当にこんな訓練がAH戦訓練になるのか?


「あ゛ぁ~さみ~」


思わず口に出る
けど、それほど寒いのだからしょうがないよな!?


「伊隅大尉。
 どうやら白銀は人肌で暖めてほしいそうです」


「む、宗像中尉!?」


やばい…墓穴掘った


「あら?
 伊隅大尉ではお気に召しませんでしたか… 
 では碓氷大尉はいかがですか?」


「そういう問題じゃなくて!!(汗」


「へぇ…白銀は私でも碓氷でも駄目なのか」


ちょ…伊隅大尉!?
いや、その笑み怖いです…マジ怖いですって!


「なら速瀬少尉は…って、それはないですね」


あ…そうやって速瀬少尉に振ったら…


「む~な~か~た~?
 「平ってが言ってました」
 慎二~!?
 「俺!?」 」


…ね?ほら始まったよ

まぁ俺から照準がはずれたから良しとしますか
俺の後ろにいた三人組が何か言い合っているが、良く聞こえなかったので気にしない

そんなこんなで俺達は旧商店街通りに向けて進んだ




「ここで5分休憩だ」


通り裏の廃墟で伊隅大尉が俺達に指示を出した

伊隅大尉、待ってました!!

…以外に瓦礫の道を歩くのって疲れるもんなんだな~

俺は早速腰に付けていた水筒の水を飲もうとする

――ゾクッ――

なんだろうか?
背筋が冷える…というかプレッシャーのような感覚はが俺を襲った


いつも純夏とかから浴びせられるようなもんじゃない
もっとなんというかこう…コロス!!の一念だけしか無い、そんな感じのプレッシャー…


伊隅大尉とかは!?


俺は他のメンバーの様子を見た


どうやら伊隅大尉や碓氷大尉、綾瀬中尉の古参メンバーは何かを察知したみたいだったが、他のメンバーは気が付いてないみたいだ

一応立ち上がって辺りを見渡してみたが、宏一らしい影も見当たらない

う~む
見渡した感じは異常なしか…
それにさっきまでのプレッシャーも感じないし、それ以前に此処物陰だし… 勘違いかな?

俺はまた、ゆっくりと腰を下ろし始める

―ヒュッ…スパァァァァン!!―

慎二のヘルメットに白く大きなペイント痕が付き、反動で涼宮少尉を巻き込みながらづっこけたのは、俺がヘルメットを外したとほぼ同時だった


―タケルside end―


―2時間前―
――地下B18フロア・会議室――

タケル等との模擬戦から数日後に孝之と慎二が復隊し、ヴァルキリーズのメンバー全員が揃った


しかし、シミュレーターのXM3対応化の為の各部強化、及びCPU換装に予想以上に時間がかかり、未だにXM3の講義は座学しか受けられなかった


「なら、換装が終わるまでAH戦の基礎訓練でもします?」


そんな時に宏一が期間限定でという条件付きで提案し、それが即決された
即決されたことを受けて、宏一は訓練の内容を説明し始める


「まず、基礎として生身での“かくれんぼ”を行います」


宏一の内容に全員の顔が「ハァ?」といった顔になる


「宏一、どういう意味だ?」


孝之が聞く


「詳しいことは考えなくて良いよ。
 全員でウチのことを見つけ出す、ただそんだけ」


「全員ってことは俺もか?」


タケルが反応する


「勿論。
 タケルは操縦技術だけでAH戦を乗り切ってる感があるからね。基礎を学ばなきゃ」


「へぇ…」


「それで…
 訓練開始は本日の1000から1時間。
 場所は屋外廃墟演習場内の廃墟の駅を中心とした半径1km。
 全員、各自に割り当てられた歩兵装備一式を装備して、ウチからの合図が有るまで駅にて待機しておいてください」


宏一が装備一式を書いた紙を各々に渡し、全員に渡し終えると準備の為と言い残し退室した


「…なぁなぁ、タケル?」


「ん?なんだ?」


宏一の退室と同時に慎二がタケルに話しかける


「ただの“かくれんぼ”なのに、歩兵装備一式っておかしいだろ…
 アイツの本意、わかるか?」


「いや、全く。
 こっちが聞きたいくらいだ」


「そうか~
 「ただ…」
 …ん?」


「ただアイツの事だから、穏便に終わらない気がするんだよな」


「…」


最後の一言に慎二は黙ってしまう


(いったい何を始める気なのだろうか…)


それがこの部屋にいる全員の考えていることだった

―現在―


「す、スマン!
 大丈夫か?涼宮?」


慎二が自身の下敷きになった遙を起こす


「だ、大丈夫だよ。
 慎二君こそ、それはいったい…?」


起こされた遥は慎二のヘルメットのペイント痕を見る


『平少尉。
 頭部被弾により戦死判定…
 ポイントBまで移動・待機してて』


突然宏一からの無線が入る


「え!?それはいった
 『これは命令。異論は認めません』
 はぁ…」


慎二は両手を使って「なんじゃこりゃ?」とジェスチャーすると、その場を離れた


ほかのメンバーは既に物陰に隠れている


「…銃声がしない、サプレッサーか…
 誰か発砲炎を見たか!?」


状況をいち早く理解したみちるが全員に聞くが、返ってくる返事は一言だけだった


「クソッ」


タケルが悪態を付く


「穏便にスマなかったなぁ!
 タケル!?」


孝之が叫ぶ


「あぁ!
 さっきあいつがニヤケながら出て行ったワケがわかったよ!!」


「「「それを早く言え!!」」」


タケルに対し全員が叫んだ


(俺が悪いの!?)


「…伊隅大尉、私が囮になりましょうか?」


水月が言い出す


「…頼めるか?」


「もっちろんです!」


「わかった、頼む」


「了解!
 スリーカウントで出ます!」


水月が自分の銃に初弾を装填する


「オールヴァルキリーズ、全周囲警戒!!
 速瀬を援護しろ!」


「「「了解」」」


みちるの命令で全員が初弾を装填し、各々の方向を警戒した


「カウントスリー!!
3、2、1!
行くわよ!!」

水月が飛び出す
しかし、物陰から出たと同時にヘルメットにペイント弾が命中、転倒しそうになった

『速瀬少尉、頭部被弾により戦死判定…
 ポイントBに移動・待機よろ』


無線が入る


「え~!?
何でわかったのよ~」

文句を言いながら移動する水月


「…見えたか?」


返事は先程と一緒だった


「…駄目だったか」


みちるは再度自分の銃の4倍率スコープを覗いた
一つずつ宏一が隠れていそうな目ぼしいビルの廃墟を見渡す

そして、あるビルを確認していると…


(…な、なんだ?また… っ!!)


直感的に危険を感じ物陰に身を隠すも、ペイント弾がみちるのTARを吹き飛ばした


「…ック!?」


吹き飛ばされた銃が乾いた音を立てて地面に落ちた
その音に皆が振り向く


「いるぞ!
 11時の方向!!」


みちるが方角を示す
全員がその方向を向きながら、物陰に隠れた


「どこら辺!?」


「すまない。そこまでは…」


沙恵の質問にみちるはレッグホルスターのP99を初弾を装填しながら答える


「あちら方角で狙撃に使えるのは…
 あの二つのビルくらいしかないですね」


静香が鏡の破片を使って確認する


「距離は300か…
 コイツじゃギリギリだな」


「風もある。
 まず無理だな」


タケルと孝之は自分らの銃では手に負えないと判断する

くぎ付けになっている状況に、誰もが苦い表情を浮かべる
そんなとき遙が突然言い出した


「…全員で同時に多方向に飛び出すのはどうでしょう?」


彼女としては只の思いつきであり、まじめに考えたものではなかった
その為、みちるからの視線に気が付き慌てて訂正しようとする
しかし、それは満によって遮られてしまった


「それでいこう」


「…ふぇ?」


「どちらにせよ打開策はない。
 ならば少しでも生き残れそうな可能性の物を採用するのが常だ」


みちるの説明にメンバーは「なるほど」と頷くが、遙は只一人一人ポカンとしていた


……

各々の振り分けられた方向に、各自が向く


「カウント3。
 3,2―」


みちるがカウントを取り始めた


「―1,Go!」


全員が同時に走り出す
目標はある廃墟ビルの一階…
各自が廃墟となった通りの障害物を巧みに利用し、蛇行走行しながら近づいてゆく

しかし、飛び出してからわずか十数秒程で遙が、数秒おいて孝之がHSを喰らう


『涼宮・鳴海、両少尉。
 アウト』


「くっそ~!!」 「うぅ~」


二人がやられたのを知ると、残りのメンバーは直ちに障害物に身を隠し動きを止めてしまった


「またくぎ付けか…」


タケルがぼやく


「…伊隅大尉。
 ここで私が援護しますので、先に行ってください」


最後尾の静香が言いだした


「…ここからじゃまだ有効弾は望めない。
 …駄目だ」


「しかし、このままではまた先程と同じ状況になってしまいますが…」


美冴が口を挟んだ


「このぐらいの距離でしたら援護可能です。
大尉…どうしますか?」

「そうか…
綾瀬、頼む」


「了解」と告げ静香は銃から弾倉を抜くと、ポーチから缶詰を二つ横につなげたような弾倉を取り出した

150発入りダブルドラムマガジン ―通称:Cマグ―

それは普通の小銃に分隊支援火器並みの弾幕を持たせる事が出来る逸品だが、同時に横に大きくかさばる為にTAR21の様なブルパップ式小銃には向いていないものでもあった
それを装填すると、次にハンドガード下に付けていたバイポッドグリップを二股に変形させる


「準備完了」


「よし」


みちるが合図を出すとタケルと沙恵がスモークグレネードを投擲
周囲を白い煙が包み込み、同時に静香が発砲する


「行くぞ!」


みちるが飛び出す
続いて沙恵・タケル・美冴が飛び出していった


―タァァァン―


連続する発砲音とは別の銃声が響く
放たれたペイント弾は沙恵の顔を掠め道路を白く染めた


「あっぶな~!!」


走りながら叫ぶ沙恵


「急げ!グズグズするな!!」


点々と存在する障害物の間を不規則に蛇行していたみちるが叱咤する

宏一からの狙撃を潜り抜けながら四人は地下道入り口にたどり着く


タケルが振り返る


展開させた煙幕は既に薄くなり、更に静香の発砲炎が周囲の煙幕を押しのけて行く

つまり、静香の姿はほぼ丸見えだった


其処に一つの銃声…連続した発砲音は消え、代わりに宏一からの通信が入った


『綾瀬中尉、アウト。
 残り、伊隅・碓氷・白銀・宗像、計4名』


「ったく。演習とはいえ悪趣味ね…
 白銀!!如月はサドなの?」


みちると共に前方警戒をしていた沙恵が視線だけをタケルに向けながら聞く


「知りませんよ!
 しかし、あいつ狙撃上手いなぁ~」


「まったくだ…
 けど、ここからは地下街だ。
 これなら奴も狙撃できん」


みちるがニヤケながら言った



地下街は付近一帯に広がっており、目標のビルもその一帯に入っていた
しかし、肝心の入口が崩落していたために仕方無く四人は付近の出口から地上に出る

出口からビルの入口まではほんの50m程…
狙撃されるのは当然だと四人は考えていたが意に反して攻撃は一切なく、これが逆に四人を警戒させる事となる



ビルの扉側面の壁に張り付く


『アイコンタクト』


『『『了解』』』


『―3、―2、―1…
 ラッシュ(突入)、ラッシュ、ラッシュ!!』


指とアイサインで意思疎通を図った後、カウントし突入していった


先頭はみちる、サポートはタケルと宗像、後衛は沙恵のフォーメーションで各階を制圧する手筈だった


各階を制圧してゆく四人…
その様は特別な訓練を受けた特殊部隊ほどでは無かったものの、一般歩兵よりは明らかに上手であった

途中いくつかのトラップが巧妙に隠されており、発見者が各自で解除していく
しかし、宗像がその一つを解除中にブービートラップに引っかかり退場


これにより残りは三人となってしまった



3階に達するとみちるが何かに気が付き、身を伏せた
二人もそれに続く


『あそこを見ろ』


ハンドサインで一片の鏡の破片を指す
破片はドアが吹き飛ばされたドア枠にもたれかかっており、サプレッサーの付いたL96の銃身を映していた

二人が頷く


『―良し。
 白銀はそこの扉、碓氷と私はそこの穴から突入・制圧』


作戦を立てると三人は音を立てずに所定の位置に移動し、着いた
カウントを取ると、タケルが閃光弾を投げ入れる

―発光―

三人が突入する
制圧を始めようとしたが、しかし、そこにはL96しかなかった


「いない…?それに薬莢もない…
 まさか!!」


みちるが振り返ると、隣のビルにMP7を構えつつ崩壊したビルの瓦礫に身を隠していた宏一がいた

瞬時に銃を構える三人…
二月の寒空にサプレッサー独特の乾いた発射音が響き、三人の腹部に数発ずつペイント痕が付いていった


『伊隅・碓氷・白銀大尉、アウト。
 …状況終了、お疲れさん』


瓦礫を払った宏一が微笑みながら言った

……

―30分後―
――国連軍・横浜基地・地下B18フロア会議室――


「え~、それでは先ほどの演習の結果を発表します」


如月がモニターの前で発表を始めた


「“AH戦想定演習:基礎編”の合格者は、伊隅・碓氷・白銀の三名でした」


「「「“AH戦想定演習:基礎編”合格者?」」」


一同が口をそろえる


「そ!
 今回行ったのはAH戦の訓練を始める前の一種のテストの様な物です」


「なにそれ?」


速瀬が食いつく


「“本能的危機察知能力検査”…
 まぁ簡単にいえば直感の良し悪しを調べるテストを行わせていただきました」


「行うなら行うで、なんで説明してくれなかったんだ?」


今度は慎二がやや呆れ気味に聞いた


「言ったら意味がないでしょ」


「まぁ…そうだねぇ」


宏一が説明を始める


「本来AH戦ってもんは基本的に突発的に発生するもんがほとんどです。
 まぁ稀にAH戦を目的とした戦闘もあることはあるけど…
 例えば、いきなり味方だと思っていた奴から背中から撃たれた時、慎二、回避できる?」


「…」


宏一は返事がないことを確認すると説明を続けた


「そんなときに最後の頼りの綱となるのは、人間が持っている…いや、全ての生物が持っている“第六感”…“直感”ってやつ。
 これは、ある人に言わせれば{非科学的、根拠がない}等といわれるけれど、ウチ自身の経験上これに勝るものは存在しないね」


全員を一瞥して質問を問いかける


「慎二が撃たれる前に何か異変を感じた人、挙手」


みちる・沙恵・タケルの三人が手を挙げる


「それは一種のプレッシャーの様な物だったっしょ?」


「そう言われればそうねぇ」


沙恵がその感覚を思い返し、うなずく


「それが直感ってやつ。
 その時はウチが発した殺気に反応したってわけ」


(殺気って漫画の世界だけの話だと思ってた…(汗 )


心でつぶやくタケル


「人間は生物を殺める際、何かしらの殺意を持っている。
 故にその際に自然と殺気が放たれるってわけ。
 まぁ極まれに殺気を発せず人を殺められる奴もいるけどね」


「つまり、直感を感じ取れるようになればAH戦は有利になると…?」


静香が聞く


「まぁ、簡単にいえばそういうこと」


「けど俺たちにはXM3があるんだぜ?
 あれがあれば無敵じゃないのか?」


孝之が口を挟む


「そう。
 その“油断”こそが一番の“敵”なんだ」


その場にいる者の顔が「何故?」といった顔になるが、数名はすぐに気が付いた


「XM3での優位性を保てるのは、ごく僅かな期間だけだということか」


みちるの解釈に頷き、その理由の説明を始めた


「ウチらは今後、何度か各軍と合同で作戦に参加することもありうるよね?
 そこでXM3を搭載したウチらが活躍すれば当然その理由を探る奴が現れる。
 そしたらXM3の存在が知れてしまうのは時間の問題で、知られたら後は香月博士の交渉用の持ち札となるだけ。 いつかは全世界に広まってしまう…
 そうなったら我々に残されるカードはそれまでに培った操縦経験のみだけれども、でも、その経験もいつかは越されるだろうね」


「けれども、それは対BETA戦での話ですよね?
 流石に対AH戦のエキスパートを教育するのは、このご時世ではすぐには…」


宗像が反論する


「それも考えられるね。
 でも、実際海の向こう側の“ある国”では対AH戦用の特殊部隊が―非公式だけど―存在しているし、その方向の性能に特化している第3世代戦術機も開発中という噂まであるんだ。
 だから一概に“無い”とは言えないね」


「それにウチらだってそうじゃない?」と、ジェスチャーしながら更に言葉を続ける


「AH戦専門の部隊にXM3が渡れば、それのノウハウを会得するのはあっという間と考えるのが妥当…
 また、それが博士の敵性勢力である可能性も否定はできない…
 となると我々と対峙する可能性も否定はできないよね?」


「おいおい、そんな状況あるわけn
 「戦場に“あり得ない”事など存在しないよ」
 …!?」


慎二の食いつきに宏一の声のトーンが急に下がり、殺気が微かに放たれる


「戦況は常に変化してゆくもの…
 ついさっきまで攻勢だったのが、今では壊滅寸前等という状況は幾らでもあり得るんだ。
 そんな戦場で生き延びたいのなら、常に最悪のケースを想定し、対応策を想定して、そして、常に水のような柔軟性でもってその状況に対応する…
 それができなければ…仲間が自分の為に無駄死にすることになるんだ」


「「「…」」」


宏一が睨みをきかせながら言い放つ…
その発せられる殺気を前にしては誰も口出しができなかった
また、その言い分にも理があったのもその要因である


「…話が脱線したね。
 まぁ、ともかくAH戦で生き残るカギの一つは“直感”だということは覚えておいて。
 …それじゃ、次の訓練説明に入ろっか」


次の訓練―生身での回避訓練―についての説明は比較的スムーズに終わった。



―15分後―


「はぁ~
 …まだまだ甘いなぁ~自分」


宏一は通路の自動販売機の前で合成ほうじ茶を買いつつ、ため息を漏らしていた
販売機横のベンチに座り、ふたを開け、ボーっとそこまで高くない無機質な天井を眺める


宏一しかいない通路に一つの足音が響いた


「オッス!」


「…ん?タケルかぁ~」


「何だよ?その“タケルかぁ~”ってのは」


「いや、何でもない」


「…まぁいいや。
 隣、いいか?」


「お構いなく」


合成玉露を買ったタケルが宏一の隣に座った
ほんの数秒、二人の間には無言の時が過ぎた


「…さっきの話、前の世界でのか?」


タケルが切り出した


「…ん?
 あぁ、前の世界での実際の体験談」


「そうか…
 なぁ、もしよければお前の前の世界について教えてくれないか?」


「ここで?」


タケルはあたりを見渡す


「誰もいないが、流石に不味い…かな?」


「いや、不味いだろ」


「「…」」


「「…ップ」」


「「アハハハ!!」」


不意に笑い出す二人
そんな時にもう一つの足音が通路に響くが、この時二人は気が付かなかった


「いた―――!!」


「「!?」」


突然響く声に、二人は思わず身構える
声の元には一人の少女が立っていた


「純夏!?」


「タケルちゃん、こんなところにいたんだ~
 そりゃ見つかるわけないよ~」


純夏は顔を膨らませながら言う


「夕呼博士がおよびだよ~?
 あと、如月って人もらしいんだけど、どこにいるか知ってる?」


「宏一ならそこにいるぞ?」


「ふぇ!?」


「どうも~」


「あわわわわ…」


「「…?」」


純夏は宏一の存在に気が付くと急にあわて始め、敬礼しながら自己紹介を始める


「は、はじめまして!如月大尉!!
 わ、わた、私は鑑 純夏であります!
 白銀大尉とは、あの~その~…」


「はじめまして、鑑さん。
別にウチは堅っ苦しいのは好きじゃないから、そのままでいいよ」


「…ふぇ?
 そっかぁ、あせったよ~。
 あ、よろしくね! 如月大尉」


「此方こそよろしく」


軽い握手を交わす二人


「怖ーい人じゃなくてよかったなぁ~?純夏ぁ?」


「怖ーい人って…何だよそれ」


「そうだぞ~!
 如月君にあ~や~ま~れ~!!」


「いや、そこまでしなくても…(汗」


「純夏の事は放っておいて…そんじゃ行きますか」


「無視すんなー!!」





「白銀、如月。探したわよ」


入ってきた二人に対して夕呼が不満そうに言う
二人と言うのも、純夏は二人を送った後CP訓練に向かった為である


「スミマセン、先生。
 …それで呼び出した理由とは?」


「…先日、如月は新種のBETAと交戦したわよね?
 そのデータ解析が終わったわ」


「…!
 もう終わったのですか!?」


宏一がやや興奮して聞く


「えぇ。
 調査部は“久しぶりの調査だ~”って事でかなり気合が入っていたみたいよ?」


「へぇ~」


「それで、それの発表ってわけですか?」


「簡単にいえばそう。
 ただ、如月の戦闘ログ内にまだこっちでは見つかっていないタイプもいるみたいだから、それの説明をしてもらいたいのよね」


「わかりました」


夕呼が霞にモニターを起動させるよう指示する
それを受け霞がコンソールを操作すると、モニターに蟲の様な姿のBETAの写真が映った


「今回の調査でわかったのは、コイツには“飛行能力”“射撃能力”のほかに、“思考能力”を持っているということよ」


「…!
 それって…」


「まぁ、待ちなさい。思考能力って言っても、人間でいえば赤ちゃんレベルの物よ。
 “突撃”“攻撃”“退避”“回避”…そのくらいの物ね」


「…」


飛鳶の戦闘ログ内から取ったと思われるそのBETAの写真の背部が拡大され、昆虫の羽根の様なものがモニターいっぱいに映る


「次は飛行能力についてだけど、コイツらはこの背中の羽根をメインに各所のジェットエンジンの様な物だけで飛んでるわ。
 だから、この羽根をもぎ取れば飛べなくなるはずよ。
 そうよね?如月」


「えぇ。
しかし、飛行能力を完全に奪うには、付け根を破壊するか羽根自体を完全に破壊するしかありません。 
それ以外では一時的に能力を奪えても、あっという間に再生されます」


「…だそうよ?」


「へぇ…」


次に爪の拡大写真が映る


「格闘能力はあまり説明する必要はないわ。
 主にこの爪によって行われるっていうのと、爪の硬度はスーパーカーボンと同程度ってことぐらいかしら」


いくつかの写真に分かれ、それぞれ腕部・背部・胴体を拡大していた
腕部は主に爪の内側が中心となっており、其処には銃身の様なものが映っていた


「次に射撃能力について。
 この爪の内側についてるのは、戦術機で言う突撃砲になるわ。
 威力は、大体36mmと同程度…
 当たった場所にもよるだろうけど、数発程度では“直ちに行動不能”って事にはならないはずよ。

 …問題はこの背部の主砲と、胴体各所から発射されるミサイルね」


夕呼が爪を噛みながら言う


背部には右側に細長い円錐形と短い円錐形が互いの底辺を合わせたような細長い物体が、又、胴体を覆う甲羅の裏には円筒形のミサイル発射管の様なものが埋まっていた


「そんなにヤバいのですか?」


「如月、お願い」


「背部主砲の威力は戦艦の主砲レベル級。
 “向こう”でも一発で軽く駆逐艦が吹っ飛んだ。」


「なっ!?」


「ただ、当たらなければどうということはない…という言葉がある様に、弾速も腕部のソレ程ではないから、回避は簡単だよ」


「そ、そうか…」


モニターにBETAから発射される無数のミサイルと、その拡大写真が映る


「一番厄介なのは、このミサイル。
 まず、通常の回避法では100%命中するね。それにチャフやフレアといった囮も無意味なんよ」


「ならどうすればいいんだ?」


「一番手っ取り早いのは、文字通り“たたき落とす”方法。
 でもこの方法だと弾薬を食うし、下手な奴がやるとその分余計に弾薬を消費するし、最悪ただ弾をばらまいて味方に被害を出して、尚且つ自分も喰われるって事も…
 そんな奴は超低空飛行での三次元飛行による回避が一番いいのけど、これもミサイルの来る方向によって左右されるし、第一今のOSでは数発避けたところで処理落ちするだろうね」


「…だから厄介なのか」


「そうなんよ」


「「「…」」」


「あと、こいつの装甲はかなり堅い事かな…」


宏一は思い出したように言う


「如月、それどういうこと?
 調査部からは何も言ってこなかったわよ?」


「えぇ、そのはずです。
 「つまり?」
 こいつらは“生きている”時にしかその能力を発揮できないのです」


「…なるほどね。
 だから“ミンチ”からはわからないと…」


「宏一。
 堅いってどのくらいだ?
この前は36mmが全く効かなかったが…」


タケルが「早く早く」といった顔で宏一をせかす


「コイツ等は生きているとき、その活動エネルギーを装甲に流すことで強靭な防御力を得ているというのが、向こうでの説だった。
 たぶんそのとおりだとウチも思う。
 その防御力は、その装甲にほぼ直角に命中する36mm以外はすべて弾くほど…
 だから確実に仕留めるには、的確に急所を打ち抜くか、危険を顧みずに格闘戦で仕留めるかの二つしかないんだ」


宏一がレーザーポインタで、急所を示してゆく
しかし、それらの急所は関節や各肢の付け根といった撃ちにくい場所しか示さなかった


「うへぇ~
 撃ちにくいところにあるなぁ」


「そう、それなんだよね~
 タケルレベルの操縦テクを持ってれば単機で3~4匹を同時に相手できるけど、今のヴァルキリーズの能力じゃあ良くて2匹…かな」


しばらく沈黙が続く
夕呼も腕に自信のあった自分直属の特殊部隊ですら苦戦する相手と知って、流石に苦虫をかみつぶしたような顔をしていた


「け、けどエレメントで相手すればそれ程手のかかる奴じゃないよ!
 実際前の世界じゃそうやって対処してたし」


「それが唯一の救いね…」


「そういえば、宏一はあの時、俺と伊隅大尉に“AH戦は得意か”って聞いたよな?
 それはどういう意味だったんだ?」


「あれは、コイツの機動が戦術機のソレに非常に似てるからなんだ。
 だからAH戦についての技術を備えておけば、こいつはそれほど憂慮するある相手でも無くなるということ」


「そうだったのか… 
 って事はお前の次の訓練内容って!」


「そ、コイツの対策も兼ねているわけよ」


「しかし、なんでまた生身でなんだ?
 それならシミュレーターでもいいじゃないか」


「勿論シミュレーターでもやるけど、生身で行う理由もあるわけで…
 まず一つ目に、肝心なXM3対応シミュレーターが無いこと
 二つ目に、ウチは戦術機は自身の身体の延長線上にあるものと考えているんだ」


「自身の体の延長線上…?」


タケルが眉を寄せながら考えるが、全く分からないといった顔をして宏一にその理由を聞いた


「これは飛鳶の操縦システムの影響かもしれないけど、XM3を使ってみた結果、改めてこの結論に達したんよ。
 前のOSじゃあ人体にはあまり行わない動作が多かったから考えにくいだろうけど、XM3は操縦性がピーキーな分、人体に近い動きができるからね。」


宏一はジェスチャーを交えながら説明を始める


「自身の身体の延長線上…
 つまりは“自分の体を動かすように、戦術機の操縦を行う”という意味。
だから自身でその動作を理解していなかったら、当然操縦には反映できない。 
 そして自身でその動作を理解するには、自身がその動きをしなければならない。
 だから生身での訓練が必要ってわけ」


「なるほどなぁ~
 …お前、スゲェこと閃くんだな」


「それほどでもない(ドヤッ」


二人が訓練について話していると、夕呼が口を開く


「如月、アンタの操縦講習もいいけど、そろそろコイツの説明してくれない?」


そう言う夕呼の顔は少しばかりヒク付いていた


「(ヤバ~い)了解です」


宏一はモニターに映る、先ほどのBETAとは異なる戦術機よりふた回りほど大きいBETAについて解説を始めた


「コイツはさっきの奴の上位種…と勝手にウチは決め付けたけど、攻撃種類が酷似していて、大概さっきの奴を2~3匹引き連れてる事が多いね」


「上位種なら多少さっきの奴より強いってだけか?」


「いや、全くの別物だよ…コイツの強さは…」


宏一の表情がかすかに強張った


「さっきの奴は、機銃二丁・主砲一門・ミサイル発射管約20本。
 それに対してコイツは、機銃四丁・主砲二門…ミサイル発射管に関しては約50本以上なんよ」


「あのミサイルが一気に50発もかよ…」


冗談だろといった顔になるタケル


「それに格闘も爪ではなく、この大型の鎌状の物で仕掛けてくるからね…
 これが地味に侮れないんだよな~」


「俊敏性はどうなの?」


夕呼が聞く


「俊敏性も上がっています。
 さっきの奴を一般衛士級と例えれば、コイツはエースパイロット級ですね」


「そう…」


夕呼はそう言いつつデスクから一枚の高解析度衛星写真を取り出した
二人にその写真を渡すと、両者の表情が変わる


「博士…これって…」


「そう、これらのBETAがカシュガルハイブに向かっている写真よ…」


三人の間に深い沈黙が広がった



第七話END
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どうも
なっちょすです
第七話です
今回は長文になりました
補足説明は…無い、かな?
何かありましたら感想板まで!!

それでは、また!!


次回予告
帝国・斯衛軍との極秘会談に挑むタケルと宏一の二名…
二人の発表内容に驚く各軍参謀。しかしその中に二人に対し目を光らせる一つの影があった
次回『プレゼンは計画的に』
彼らの知らないところでも歯車は動きだす――【Cv.香月 夕呼】




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