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No.34254の一覧
[0] MuvLuv Alternative Possibility (TE&Alt) オリ主[Haswell](2013/03/11 22:45)
[1] プロローグ[Haswell](2013/08/23 18:40)
[2] 横浜基地にて[Haswell](2013/08/23 18:41)
[3] 想い[Haswell](2013/08/23 18:46)
[4] MANEUVERS[Haswell](2013/08/23 18:51)
[6] War game[Haswell](2013/08/23 19:00)
[8] Alternative[Haswell](2013/08/25 16:33)
[9] 番外編 試製99式電磁投射砲[Haswell](2012/10/29 02:35)
[10] Day of Days[Haswell](2012/10/27 22:34)
[11] Project  Diver[Haswell](2012/11/06 23:11)
[12] Dog Fight[Haswell](2012/12/03 20:55)
[13] Active Control Technology[Haswell](2013/03/12 21:28)
[14] Tier1[Haswell](2013/06/13 16:56)
[15] FRONTIER WORKS[Haswell](2013/08/23 01:10)
[16] ATM[Haswell](2014/01/02 03:12)
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[34254] ATM
Name: Haswell◆38da89e4 ID:d6dfba99 前を表示する
Date: 2014/01/02 03:12
とりあえず1月1日に投稿したかった都合上。作品を上げます。
追加部分は明日までには完成し改稿します。(改稿完了いたしました。)
私事が忙しく、長い間更新をあけていましたが決して作品を途中で投げ出さないということが個人的なポリシーですのでエタることはしません。その決意も込めて今日上げさせていただきました。


宗像中尉や風間中尉などについて記憶が飛んでいる面もあってなかなかうまく表現できないので苦しみました。とりあえずこれでこの話は完了です。


米国製戦術機の充実度合いに比べて欧州戦術機がF-5とハリアーとトーネードがいっしょくたにされている等、かなり不遇な扱いを受けているという気は前々からしていました。本作ではもう少し欧州機のバリエーションを増やしたいということでオリジナルとしてハリアーが登場しています。原作ではトーネードが短距離で離陸できるということになっていますが、本作ではその機能はありません。





諸君らの多くは2度も降下せずしてその生を終えるだろう。
地表に降りてBETAと戦えればまだいい。熱で棺桶が変形し、展開しないまま地表に激突
する者もいるだろう。
生きる者と死ぬ者。
両者を分けるのはただ運のみ。


降下衛士は衛士の中の衛士だ。
大気圏外から地表に降下し、敵陣のただなかに降下する。
若くして管制ユニットで死ぬしか英雄にはなれん。
なりたがる奴の気がしれんよ。

January 23  2000
ラムズゲート統合教育センター

「ヴィルフリート・アイヒベルガー招喚に応じ、ただ今到着しました。」
第44戦術機甲大隊、ツェルベルス大隊 その指揮官であるアイヒベルガー少佐はこの日、
欧州国連軍参謀本部からの求めに応じ、広報任務のためラムズゲート統合教育センターを
訪れていた。センター上空をEF2000で飛行したのち、訓練兵を激励し、与えられた役割
をこなしたのであった。アイヒベルガーは定期的に広報部から回されるこの仕事に正直な
ところ少しうんざりさせられていることをハッキリと自覚していた。BETA侵略以前の世
界においての客寄せパンダのような役割を与えられて気分の良いものはいないだろう。と
いっても訓練兵に対する対応は殆どが、彼の半身、ファーレンホルスト中尉にまかせっき
りであったのだが。広報部も元々が寡黙なたちであるアイヒベルガー少佐に饒舌な語り口
で訓練兵たちを激励することを期待していなかった。黒き狼王の名を持つヴィルフリー
ト・アイヒベルガー、そしてその半身である白き后狼ジークリンデ・ファーレンホルスト、
欧州七英雄と讃えられる両名が立っているだけで十二分に効果は見込めるのである。しか
し今回はそればかりのためだけにわざわざ呼び出されたわけではない。欧州七英雄の中で
もとりわけ人気の高い両者に上層部からの意向を伝えるべくこの基地に呼び出したのだ。
ドーバーコンプレックスが完成してからというもの、英国に上陸を試みた98%のBETAが
海の藻屑と化し、残りの2%は50mも進めない有様であった。欧州国連軍上層部には安穏
とした空気が漂っていた。

「楽にしてくれたまえ。」

「はっ」

「今日の訓練校の教官は皆、だいぶ年を取っている。軍上層部としては新兵に新しい世代
の、つまるところ第三世代機に搭乗し、戦場を駆けたことのある教官を充てたいと考えて
いる。」

巨漢を前にして男は動じた様子もなく切り出した。軍上層部で政治の中心にいるというこ
とは想像を絶する精神力を必要とする。

「仰りたいことの意味が不明です。」

アイヒベルガーは顔をしかめた。それは常日頃より彼と共にいるファーレンホルストにし
かわからないようなわずかな変化であった。続く言葉がなんであるか2人はほとんど確信
していた。上層部からの命令は絶対だ。だがとても応じることができそうにないものであ
る。命令とあらばそれは受けなければならない。だが要請であればまだ、突っぱねること
は可能であった。上層部からにらまれることを恐れる士官もいる。だがそれは総じて野心
のある者たちだけであった。男は立ち上がり、窓枠に手を駆けるとまだ若き生徒たちの訓
練風景を眺めた。

「ファーレンホルスト中尉の功績をかんがみれば中隊長の役職とそれに見合った階級が用
意されるのが道理。そしてそれは君にも言える。ファーレンホルスト中尉を大尉に昇格さ
せ、そののち数時間後には少佐に昇格させたいと考えている。わかるとは思うが、一度に
階級を二つ上げないのは2階級特進などと縁起の悪いことを避けるためだ。君には昇進の
後、本校の戦術機教導の主席教官として着任してもらいたい。大隊はファーレンホルスト
中尉に引き継いでもらう。」
「…それはご命令ですか。それとも要請でしょうか。」

「今のところ命令ではないよ。これは要請だ。だが私の意も少しは酌んでほしい。君の事
を嫌って厄介ごとを押し付けているわけではないのだ。BETAの目が東に向いている今
は欧州奪回に向けて力を蓄える時期だ。大戦初期は多くの衛士を失った。私はあの轍を再
び踏む気はない。それには君の力が必要だ。」
男は穏やかな口調であったがその言葉には力がこもっていた。戦場で戦っていた者のみが
出せる言葉の重みがあった。絶大な人気を誇るアイヒベルガーがこれ以上功を立てること
を警戒しての発言ではない事を感じ取ることができたのである。
「閣下。閣下がBETA西進時に感じた気持ち。私も忘れたことは一度たりともありません。
私はあの日に蹂躙された祖国の地を再び取り戻すまで戦いを止めることはないと誓ったの
です。」
黙してあまり語ることのないアイヒベルガーは丁重に断りの言葉を伝えた。男は予期して
いたのか苦笑いだった。広報部が彼を呼び寄せると聞いてダメでもともと広報部の予定に
面会の時間を無理やりねじ込んだのだ。他の複数の士官に対してもこの話を持ちかけてお
りアイヒベルガーはその一人であった。
「そうか。なき同僚との誓いを君は果たしたまえ。君が祖国を取り戻すことができたとき、
私の要請を飲んでくれることを期待してもいいだろうか。」
部屋を後にするアイヒベルガーの肩越しに投げかけた。
「ええ。必ず。」
短いながらも力強い返答とともに扉は閉じられた。








January 30  2000
大西洋上中部アフリカ

「イーグル01を発艦させろ。」
シューターの合図でLSEがハリアーに発艦を指示する。ハリアーは危なげなく垂直上昇
するとその機体を滑らせ出撃する。
発艦要員は休む暇なく次の機体の発艦作業に移る。作業が遅れればそれだけ先発機の燃料
が消費され、作戦行動時間が短くなるからだ。ハリアーの場合などは特に問題が顕著にな
る。
かつて軍民併せて多くの人間をドーバー海峡よりイギリスへ避難させるのに多くの船が使
われた。その中には個人所有のクルーザーや漁船などの姿も見えた。足の遅いこれらを掩
護するために多くの戦闘艦がBETAに沈められたうえ、その後のBETA戦においても数多
くの軍艦が失われた。とりわけ空母の不足は深刻な問題と化した。欧州国連軍は解決策と
して中、大型商船を徴用して補てんすることとしたが、少なからざる問題があった。その
最もたるものが搭載する戦術機がない。という問題である。軍上層部の目論見とは裏腹に
現在の西側東側のいずれの戦術機も多くの商船で運用するには自重が重い。またカタパル
トを設置不可能な商船では戦術機の発艦に必要な離陸距離を稼げず、かといって噴射跳躍
などすれば艦が転覆するであろうと調査報告がなされた。米国を含む後方国家の造船所は
日夜、艦船を吐き出してはいたものの、その生産能力の全てを空母に傾けるわけにはいか
ず、この慢性的な戦術機輸送手段の欠如は欧州戦線における柔軟な作戦行動を阻んでいた。
JBDやスチームカタパルトの存在しない商船空母において通常の戦術機を運用するという
ことは考えられなかったのである。比較的小型な商船でも扱える戦術機の開発を強いられ
た英国政府にホーカーシダレー社が持ちかけたのが本機の前身であるケストレルであった。
ホーカー社は、かねてよりこの問題を予測しており、社内で特異なエンジンの研究を行っ
ていた。同時期に西ドイツ政府支援で同様の研究を行っていたEWRA社は研究が思うよう
に進まない現状と、BETA西進による戦局の悪化を受けて、既存機の生産と改良に注力す
る為に開発を打ち切った。英国の地政学的条件とジョンブル魂がハリアーを育んだと言え
る。ハリアーはその特殊なエンジン構造故、他の戦術機とは全く異なるエンジン配置がな
されている。ハリアーの跳躍ユニットは只のダクトであり、可動兵装担架システムが取り
外された空間に英国の英知を結集して開発された大型エンジン。ペガサスエンジンが組み
込まれている。本体側面部に2か所、エンジンノズルが飛び出している。取り外された可
動兵装担架は専用設計になり、跳躍ダクトともいうべき跳躍ユニット部に取り付けられて
いる。これは通常戦術機とは異なり跳躍ユニットがダクト化していてスペースに余裕があ
る本機のみにみられる珍しい配置である。 本体側面から出るエンジンノズルと跳躍ダク
ト2つからなる計4つのエンジン噴射口によって繰り出される独特の機動はBETA間引き
作戦時にも大いに活躍した。やがて米海兵戦術機部隊が本機の評判を聞きつけ、米国仕様
に改修した機体も存在している。

「イーグル01よりマザーグースへ。目標地点上空に到達したが、ターゲットを確認できな
い。そちらで確認できるか?」
「少し待て。」
「北東に1kmほどに目標物を視認できないか?」
「旋回して確認する。あたりはうっそうと茂る森林だらけだ。何が何やら……。糞っ!ブ
レイク!ブレイク!」
「イーグル02。1番機がやられた!どうなってやがる。なんでここに…」
細切れのノイズ、警報音がCDC内に響きやがて静寂に包まれる。
ビクスビーは無意識に直ぐい頭髪を撫でる。困難に直面ときはいつもやってしまう癖であ
った。めっきり白くなった頭髪の持ち主でありながら、その背筋は若者同様油断なく伸び
ている。アナポリス出身の士官には出せぬであろう風格を持ったこの老人を誰もが敬愛し
ていた。
「奴ら急速に防空網を広げていますな。」
商船空母フォミサイドは主戦力たるハリアーを2機失った。CDCのディスプレイ上には彼
らのたどった航路が示されていた。ここ一か月活発化している海賊の活動を抑えようと海
賊の根城の偵察任務にハリアーを出した矢先の出来事であった。二線級の艦船で構成され
た艦隊の任務はBETA戦の矢面に立つことではなく、近年、問題となっているシーレーン
を荒らす海賊への対処である。旧型艦艇の中にあってひときわ異彩を放っていたのが戦術
機ハリアーを要するフォミサイドである。
「インビジブルより入電!現在SBSがobj-1に臨検を実施、激しい抵抗にあい現在応戦中。」
「資金繰りに困った東側の連中が、無責任にも旧兵器をテロリスト共に売りさばくせいで
我々に被害が…共同作戦などと口走るのはどの口だ。」
フォミサイド艦長イマニュエルはいらだたしげに呟く。その視線は航行中のフォミサイド
を含む警備艦隊各艦に肩を並べる東独の駆逐艦56号計画艦に注がれていた。あまりの剣幕
に同乗している連絡将校が首をすくめた。忌々しげな艦長を尻目にビクスビーは思考の海
にふける。ここ最近の海賊の活動は艦隊の能力を大きく上回っていた。明らかに海賊の活
動ではない。夜間に一つの船舶に複数の海賊船であたり、成功いかんにかかわらず襲撃か
ら10分以内には必ず立ち去った。救援要請を受けてから出撃し、救助に到着するころには
船には大きな損害が加えられていた。作戦は波状的に行われ、海賊たちは高度に組織化し
ていた。彼らの目的も変わった。船長以下クルーを人質にとり身代金を要求していたかつ
てとは違い、クルーは殺害され、積み荷の一部を持ち去っているような痕跡があった。も
はや通商破壊と言ってもいいほどの攻撃にビクスビーはテロリストの関与の疑いを深めて
いた。民間船舶の中にテロリストの輸送船が紛れ込んでいることも気がかりである。やら
なければならないことは山ほどあった。何はともあれまずは衛士の救出を第一に行わなけ
ればならない。
「ビーコンは確認できるか?」
「いえ、確認できません。」
「そうか。引き続きビーコンを確認せよ。敵通信網の状況は。」
「敵無線局に変化は認められません。」
ディスプレイから照らされる青白い光で満たされた室内で皆、司令官の命令を待っていた。
「墜落地点へ海兵隊を投入せよ。」
ビクスビーの言葉を受けてCDC内は慌ただしく活動を開始する。
「敵の注意を引く大がかりな部隊投入は避けたい。今、作戦区域で何が起き、何が起きよ
うとしてるのかを知る必要があるのだ。海兵隊でも選りすぐり(SpecOps)の部隊を投入せ
よ。」
「はっ」
イマニュエルは力強く頷いた。
「ヘリによる投入は危険です。複合艇を用いてアルファチームを上陸させます。」
「CDCより発令。17:00に作戦行動を開始する。アルファチームは至急ブリーフィングル
ームへ。整備チームは第二デッキへ集合せよ。」
「海軍軍令部へ作戦を通達。SBSの状況はどうなっているか。」
「SBSは現在船舷に降下。応戦中。」
「つなげるか。」
「は。つなげます。コールサインはトラッドです。回線は安全です。」
「トラッド聞こえるか。」
銃撃音がややあって後、くぐもった音がCDC内に響く。
「……聞こえています。」
「込み入っているだろうから手短に言う。今ここで起きていることを知りたい。賊を一名
確保できるか。」
短い命令ではあったが、トラッドは提督の考えを正確に理解していた。
「それが命令であるのなら。できるだけ期待に添いましょう。」
コンテナの陰に隠れながら敵の様子をうかがう。敵はただひたすらに弾を撃ち込んでいた。
――戦略は一流でも戦闘の腕は三流のままだな。
僚友に手早く合図を送る。敵側面をすり足で進む僚友を掩護すべく、フルオート射撃で敵
に息着く暇を与えない。海賊はこちらに気をとられて、死角から迫りくる脅威には気づか
ない。僚友が完全に位置についたことを確認して、銃撃の手を緩めた。
「コンニチハ」
横合いから突然現れた男に驚いて海賊は動作を止めた。その一瞬のすきに銃床で殴りつけ
て気絶させる。私は近寄ると臥せっている敵を足で転がして顔を確認した。高級時計も悪
趣味な金のネックレスも身に着けていなかった。胸に2発。頭に1発撃ち込む。
――こいつじゃない。もっと大物が必要だ。
「行くぞ。」
隊員たちはデッキ内部に侵入する。開け放したドアの中に海水と血が流れ込んだ。


商船空母フォミサイド ブリーフィングデッキ
PM16:00

「上陸地点ロメオから北に5km地点が目標地点ドロシーだ。あたりはうっそうと茂るジャ
ングルだ。最優先目標は敵支配地域の偵察、次点で墜落した機の破損状況の確認だ。1700
時に作戦を開始する。翌1900時に回収地点マイクにて複合艇で回収する。知っての通り、
ハリアーが墜落した。支援は期待できない物と思え。作戦は隠密に行われる。以上。質問
はあるか。」
「衛士の救出は最優先任務ではないのですか。それに機体の破損状況の…確認?」
「現在救難信号が確認できない。墜落の状況から見ても恐らく生存は期待できないだろう。
…残念だ。大佐は今回の撃墜に疑問を持っておいでだ。衛士の状況確認から墜落までの時
間が短すぎると疑念を抱いておられる。今回の偵察で敵が使った兵器を特定したいという
ことだ。諸君らの健闘に期待する。」

「最近のお偉方は無理難題を競ってるらしいな。言うだけなら誰だって…」
足早にブリーフィングルームを去って行ったイマニュエルに隊員が吐き捨てるように言っ
た。
「ジョゼフ。泣き言は聞きたくない。俺たちはプロで、これは仕事だ。わかったならさっ
さと準備をしろ。」

「了解。」

小隊長がブリーフィングルームを後にしたときイスマエルが話しかけた。

「おいどうしたんだ。お前らしくないぞ。」

「今回の作戦。情報が不足しすぎてどうかんがえても無茶だ。こっちには地理的な優位だ
てないんだ。目をはぎ取られて戦えなんて無茶じゃないか。」

「落ち着け。俺らは今までどんな困難だって解決してきた。そうだろう。大丈夫この件だ
って終われば笑い話さ。俺らはいつもみたいに戦えばいいんだ。」

ここの所ジョゼフが送られてきた子供の写真をロッカーに貼っていることはイスマエルも
知っていた。一児の父になったばかりのジョゼフが子の顔を見ぬまま死ぬことに対する恐
怖におびえているのだということをイスマエルは察する。迷いごとを抱えた兵士を戦場に
送ってはならない。軍はそのために兵士が家庭内でトラブルを抱えないよう、徹底した管
理を行う。だがそういった不安とは別に家族への郷愁が兵士を臆病にすることがある。そ
ういうときの為に部隊員は互いを家族のように扱い悩みは共有した。部隊の空気になじめ
ぬ者がいじめられたり、負の面を残しながらも制度は一定の成功を収めている。
部隊は上陸に向けて準備を進めていた。

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PM12:00??? ?? ???
横浜基地 PX
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宗像美冴はその日同期の風間祷子と食事をとっていた。神宮司軍曹の訓練は厳しかったが、
自分たちが一歩また一歩と衛士への階段を着々と登っていることを実感できた。もうそろ
そろ部隊配属が決まるところまでやってきていた。時期が時期だけに国連軍への日本人志
願者が少なかったこともあり、少ない同期の中で二人は馬が合った。どこに行くにも一緒
であることから、ひそかにレズなのではないかと噂されていた。気品あふれる見かけによ
らず早飯食らいの祷子が美冴を待つのがいつもの二人のスタイルだった。この日もそうし
て二人で過していた。今日は横浜基地に新しい補充の兵士が到着し、昼食にはやや遅い時
間の食堂が彼らでにぎわっていた。年若い中尉が一人、食事をとりながら舟をこぐという
器用な真似をしている以外ことさら語ることのない平和なPXであった。どこか線が細く、
か弱く見える風間少尉に対する好奇の目がいつも以上に多かった。おかげで宗像は少し機
嫌が悪い。
宗像の雰囲気をまるで無視して二人の男が近寄ってきた。祷子が手持無沙汰に見えたのだ
ろう。
「ねえねえ君たちここの訓練生?総合戦闘技術評価演習は終わったの?もし時間があれば
俺たちが教えてあげるよ。」
「お気持ちはありがたいのですけれど、教導のほうは十分間に合っていますので。」
「まあそういわずにさ。」
そういうと男が祷子の手をとった。
本来なら祷子の丁重で明確な拒絶に付け入る余地がないことを悟り男たちは引き上げてい
くのだが、今回は少し強引だった。
「私たちは必要ないと言っているんだ。」
美冴は男の手を払いのけた。自分たちは訓練生で向こうは少尉だ。あまりの強引さに上官
に対する態度ではない事は重々承知の上で言葉が荒くなった。美冴はそのまま立ち上がり
男たちをにらみつけた。周囲の兵士たちは皆整備兵や基地警備部隊の兵士が多く、なるべ
く目を合わせぬようにしていた。あいにく京塚曹長も用事で外出をしており事態を収拾す
るのは難しく食堂は水を打ったような静けさだった。
「あ?おめぇには聞いてねえんだよ。それにその口のき き 方 は 何 だ?」
男は階級を盾に高圧的な態度に出た。これは何発か殴られるかもしれない。美冴は覚悟を
決める。もちろんただ黙って殴られるつもりは毛頭ない。営巣入りも覚悟の上だ。
「聞いてんのか。おい!」
バン!
男が机を思い切りたたいた。その時突如舟をこいていた中尉が立ち上がる。まだ眠いよう
で目をクシクシと掻いていた。自分より年下と思われる中尉の行動に宗像は不覚にも心と
きめいてしまった。
――かわいい
隣の祷子などは凝視していた。突然の中尉の起立に男たちが強張ったのが伝わってきた。
中尉が睡眠をとっていたからこそ、この場で階級の頂点に立てていたのだ。男たちは直立
不動の姿勢をとった。中尉がゆっくりと近づいてくる。まだ完全に覚醒しきれていないの
か頭がゆらゆらと揺れていた。今やPXは中尉の一挙手一投足をかたずをのんで見守って
いた。やがて中尉が男たちの目の前に到着する。
「我々は訓練生たちに教育的指導を…」
男たちの白々しい言い訳を無視して中尉は……通り過ぎた。
!Σ( ̄□ ̄;)






通り過ぎんのかよ!!!






全員の心の中が一つになった。
中尉は何事もなかったかのように窓を開けた。男たちは自分たちの目の前を素通りする様
を見て、何のお咎めもないと解釈した。男たちが再び迫ろうとしたとき、窓から一匹の蜂
がPXに侵入した。やがてその蜂は祷子の前の机に羽を休めた。男はお構いなしに話を勧
めようとした。すっかり気分の良くなった男が話しかけようとしているのに目の前の祷子
は微妙に視線が合っていない。自分を見ているようで実際はその後ろを見ていた。後ろを
確かめようと振り向こうとした瞬間頭を何者かに掴まれたのがわかった。男が理解したの
はそこまでであった。

その士官は男の頭をつかむと机上の蜂に向けて頭を叩きつけた。手の動きはブレ、連続的
な打撃音が鳴り響いた。後にある整備兵は回顧録の中でこう記していた。
“あの時私はその手が素早く動き、わずか一秒ほどで男の頭を16回机にぶつけていたのを
目撃したのだ。中尉の腕は赤くなりその手から煙が立ち上っていた。”

男は額に押し花のごとく潰れた蜂を張り付けながら床に沈んだ。何が起きたのか誰も理解
することができなかった。
「なっ何を…」
呆然とする男の相方にその中尉は律儀に答えた。その顔は至極真面目であった。
「蜂がいた。だから駆除した……ただそれだけだ。」
このどこかズレた回答に一同は戦慄した。いったい何を考えているのか全く読めなかった。
美冴は心の中で突っ込まずにはいられなかった。
――むしろ駆除したのは男の方じゃないのか…
「てってめえ。」
残ったもう一人は相手が上官であることも忘れ、とびかかった。恐らくどう抗っても勝て
ないであろうことはなんとなく察してはいたものの、男にはやらねばならぬ時があった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
男の全身全霊をかけた渾身の右ストレートが中尉に迫った。この年若い中尉は顔色一つ変
えずに、半歩右にずれ、男のストレートの機動から外れると左腕を男のみぞおちあたりに
バーのように突き出した。男は自らの勢いを利用され腕を起点に前周りの要領で、




ゴミ箱に頭から突っ込んだのだった。


「訓練兵。」
「はっ!」
唐突に中尉が当事者のもう片一方にここで初めて言葉をかけた。着席していた祷子は立ち
上がり、美冴共々直立不動の姿勢をとった。内心この得体のしれない中尉の次の餌食になるかもしれないと怯えていた。周囲の整備兵などは逃げ出したかったが今ここで動いて、
注意を引こうものならどうなるかわからない恐怖から皆固まっていた。
「今日は…何曜日だ。」
「よっ曜日でしょうか。」
どちらかといえば天然と言われている祷子もこの唐突なフリに困惑気味だった。しかし答えぬわけにはいかない。視界の端で今もなおピクピクとしている難破男(誤字ではない)の隣
で自らも難破するわけにはいかなかった。
「きょ今日は日曜日です。」
「ありがとう。下がっていい。」
その中尉は曜日だけ確認すると、難破男の前に歩み出た。おもむろにその尻ポケットをま
さぐると中から財布を取り出した。そこからお金を抜き始めたのを見て、さすがに美冴は
慌てて注意した。
「いくら、その男たちが屑とはいえさすがにそれは…」
中尉は美冴のほうをチラリと見た。その眼からは眠気がきれいさっぱり消えていた。一瞬
目があったのち興味を失ったのかまた物色に入った。
「今日は日曜日だ。時間外手数料をもらわなければ…」
中尉は満足したのか財布を男のポケットに戻すとPXを立ち去った。この寒空の中、窓は
開けっ放しであった。
もうどうにでもしてくれ。それがPX一同の心のうちであった。


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