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No.34254の一覧
[0] MuvLuv Alternative Possibility (TE&Alt) オリ主[Haswell](2013/03/11 22:45)
[1] プロローグ[Haswell](2013/08/23 18:40)
[2] 横浜基地にて[Haswell](2013/08/23 18:41)
[3] 想い[Haswell](2013/08/23 18:46)
[4] MANEUVERS[Haswell](2013/08/23 18:51)
[6] War game[Haswell](2013/08/23 19:00)
[8] Alternative[Haswell](2013/08/25 16:33)
[9] 番外編 試製99式電磁投射砲[Haswell](2012/10/29 02:35)
[10] Day of Days[Haswell](2012/10/27 22:34)
[11] Project  Diver[Haswell](2012/11/06 23:11)
[12] Dog Fight[Haswell](2012/12/03 20:55)
[13] Active Control Technology[Haswell](2013/03/12 21:28)
[14] Tier1[Haswell](2013/06/13 16:56)
[15] FRONTIER WORKS[Haswell](2013/08/23 01:10)
[16] ATM[Haswell](2014/01/02 03:12)
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[34254] Alternative
Name: Haswell◆3614bbac ID:85320d04 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/08/25 16:33
2話を1話に統合したり 私事で忙しかったりと更新が遅れました。








「US SPACECOM to all units call on Hive22. Evacuation immediate. Repeat
Evacuation immediate. We have a decided to use new hive weapon.…」

もう何度目かもわからないBETAの地下侵攻をやり過ごした後に突然の通達はやってきた。
今から避難したのでは間に合わない。アクティブウインドウに表示された対象区域を見る
までもない。なぜならば今我々は攻撃対象である横浜ハイヴのただなかにいるのだから。
作戦中盤第17号ホールの制圧中にBETAの地下侵攻を受けて、私の所属するE中隊は壊
滅的な打撃を受けた。中隊長以下隊の主だった指揮官は全滅し、かろうじて私の小隊と1
名の他小隊の隊員を引き連れてハイヴ内部より離脱を図っている最中の通達である。隊員
たちのバイタルデータは脈拍、心拍数ともに危険域に突入しており、呼吸は乱れている。
その様はさながら初めてBETAに相対した新兵そのものであった。
無理もない 蘇芳は一人溜息をついた。 我々が受け取ったのは実質的には死亡宣告なの
だから。

「クソッタレ。ちくしょう。ちくしょう。」

「新型爆弾なんて投下するんなら、なんで俺たちを降下させやがったんだ。」

「中尉、これはいったい…」

「お前たち落ち着け。小隊全機スラストリバース。遅れるな。」

「「「了解」」」


4機のF-15 Eの主機が甲高い音をたてる。主機が逆噴射し4機は次第に速度を落としなが
らハイヴ地面に降下する。誤差0.5 さすが降下衛士だけはある。皆優秀だ。

「こちらブローラー1よりCPへ。先ほどの通達の真偽を確認したい。」

通信中でもBETAはかまわずにこちらに突撃を仕掛けてくる。小隊全機は
「こちらCP。 通達に誤りはない。至急退避せよ。繰り返す至急退避せよ。」

「無茶言うなよ。こっちはハイヴの中にいるんだ。」
CPのあまりに無茶な物言いに、口調が乱れた。なにやら回線の向こうが騒がしい。
「そのまま待機せよ。」
しばらくの沈黙の後CPはそう告げるとこちらとの回線を切った。


CPからの回答は望めない。 隊員たちは直感的にそう悟った。


敵地のど真ん中に残されたたった4人の衛士にできることなどそう多くない。隊員の誰し
もが終わりを覚悟した。だが蘇芳はあきらめていなかった。

蘇芳が招待全員の足を止めたのは決してCPとの通信のためではない。それはあくまで副次
的な産物であって、本当の狙いはルートスキャンを行うことによって、周囲の地形を把握
することにあった。ただし目的となる地形が周囲に存在しているのかどうかは賭けであっ
た。 ルートスキャンの結果を見て蘇芳は思わずにやりとしてしまう。
どうやら運命の女神にはまだ見放されていないらしい。


「中尉 こんな時ににやにやしないでください。」
エレンに一言叱責を受ける。額から汗が流れ落ちており、全くの余裕がないことがうかが
える。依然BETAの脅威は去っていない。蘇芳は笑筋を引き締める。


「来るなよ来るなぁぁぁぁぁぁぁ。」

突然の部下の悲鳴に自分に向ってくるBETA集団に砲撃を加えながら横目でそちらを見れ
ば機体の各所に戦車級が組み付いており、パニックになった衛士がところ構わず突撃砲を
乱射している。

「今はがしてやる。弾の無駄遣いはやめろ。」

IFFが作動しターゲットマーカーが友軍を狙っていることを警告する。
管制ユニット内に響く耳障りな警告音を無視し、容赦なくAMWS-21の引き金を引いた。
F-15Eに組み付いていた戦車級は掃除され血の洗礼がF-15Eのその見事なUNブルーを塗
りつぶす。搭乗している衛士の顔は涙や鼻水その他様々な液体で見れたものではないが、
無視してやるのが礼儀だろう。こちらに押し寄せるBETAの数は時間を追うごとに増して
おり、内部に突入した他部隊が全滅したことを暗に告げている。後方からの支援砲撃によ
る地響きも久しく感じていない。時間がない。

「小隊各機。6時方向のドリフトに急げ。」

蘇芳が指し示す横抗はハイヴのさらに深部へとつながるような急な傾斜で地下に向かって
いた。この状況で最深部に迎えと指示する上官に部下たちは二の句が継げなかった。
だがCPにすら見捨てられている状況下において、目の前の少年を置いて他に頼る当てなど
なかった。4機の戦術機は主機を器用に操り直ちに反転すると一目散にドリフトを目指す。

戦術機を食らわんと天井から降ってくるBETAに36㎜弾を見舞いながら蘇芳はほっと安堵
の溜息をついた。これならなんとか新型爆弾とやらをしのぐことはできるだろう。そこか
ら先については未だなんら戦術をたてることはできていないが、新型爆弾の威力、規模 等
の一切が不明なため戦術をたてることは不可能であった。

突如として大きく坑道が揺れた。 蘇芳は舌打ちをする。 予想より投下するタイミング
が早い。おかげで衝撃によって坑道が崩れはじめた。ハイヴの構造材がBETAを伴ったま
ま下にいる我々に向けて遠慮なく降り注いだ。


「急げぇぇ。」
最初に叫んだのは誰であったのか、定かではない。気が付けばみな死に物狂いで目の前に
見える空洞へと機体を進めていた。

操縦桿を握りしめ上部から飛来する構造材を何とか避ける。しかし何分数が多すぎる。
次第に機体に小さな破片が衝突し機体警告を徐々に赤く染め始める。操縦桿にかかる振動
は次第に激しくなり直進もおぼつかない。それでも生き延びるため隊員たちは必死に前を
目指した。やがて一機が落下物を避けきれずに地に落ちる。 それでも足を止めることは
できない。 エレン、アビーがドリフトに滑り込み、蘇芳がそれに続く、 あと一歩とい
うところで主機が爆発を起こし機体がバランスをとれず管制ユニットを高Gが襲った。
それでも操縦桿を離すまいと強く握りしめたところで蘇芳の意識は暗転した。

朦朧とする意識の中でわずかに声が聞こえた気がした。その声は必死に誰かを呼んでいる
ようで…


「タケルちゃん タケルちゃん タケルチャン…」


Part  Three
 ALTERNATIVE
 




「見事な腕前ね。貴方たちをVFA-01に迎えるわ。おめでとう。」

シミュレーターから降りた私たちを前に香月博士は開口一番そう告げた。
いつの間にか現れたピアティフ中尉からVFA-01の隊章を受け取る。
隊章にはVALKYLIESとALTERNATIVEⅣの文字が並び、真ん中には二振りの剣を持っ
た女性が描かれていた。


「詳しい話は後よ。もうお昼時だしランチでもとりながら親睦を深めてらっしゃい。
食事が終わったら私の元に来るように。」
そういうと香月博士は踵を返しシミュレータールームを後にした。神宮司軍曹も後に続く。

残されたのはこれから生死を共にする隊のメンバーのみ。その最初の顔合わせは葬式のご
とく重い雰囲気に包まれていた。




   

PM01:00 December 22 1999
練馬駐屯地 PX


先ほど演習でしのぎを削った面々は喧騒な食堂の隅の方で自己紹介も兼ねた昼食をとって
いる最中だ。
しかし気まずい沈黙が場を包んでいる。まるで葬式やお通夜のような雰囲気に蘇芳もエレ
ンも食べ物がのどを通らない。蘇芳はその原因である眼前の二人に目をやった。ここに来
てからこの方一言もしゃべっていない。片方はこちらをじっと睨んでいるし、もう片方は
下を向いたままだ。 どちらにも言えるのは表情が暗いこと。まあ演習で負ければ沈みも
する。蘇芳は場の空気を変えるべく尽力することにした。

「私は蘇芳 林太郎だ。部隊のことを色々教えていただきたい。」

そう言うと大尉ははっとして隣の少尉と示し合わせると、互いの自己紹介が始まった。

特殊任務部隊 A-01  VALKYLIES 第9中隊
香月 博士直属の部隊で作戦の失敗は許されない。故に作戦実行のためのコストは問われ
ない。国連軍は正式にその存在を認めていない部隊。 当時は連隊規模で発足し、多くの
中隊を抱えていたが明星作戦における損失で今や第9中隊を残すばかりとなっている。そ
の第9中隊も2名を残すのみと聞けばその過酷さがうかがえる。第9中隊のコールサイン
はヴァルキリーズ。

その隊長。暗褐色の髪の、いかにもできる女といった風な女性は名を伊隅 みちるという
らしい。
階級は大尉で上官にあたる。作戦行動中を除いて、堅苦しいことは抜きにしてほしいとい
う大尉からの命令により、作戦時を除いてこの部隊ではあまり上下関係にうるさくないら
しい。その隣、出会いがしらから強烈な視線で私とエレンを竦み上がらせた水色の長い髪
を後ろで纏めた、いわゆるポニーテールの女性。速瀬 水月 少尉はオペレーションルシ
ファー(明星作戦)、いわゆる横浜奪還作戦の後にこの部隊に配属され実戦経験はまだ浅い。
そして速瀬 少尉から伊隅 大尉を挟んだ隣側にいる優しげな女性。シミュレーションル
ームでは姿を見かけなかったのだが、同じくオペレーションルシファー後にCP(コマンド
ポスト)としてヴァルキリーズに配属された涼宮 遥 少尉。
自分達が配属される隊の隊員を改めて見回してみれば、蘇芳一人を除いてみな女性だった。
戦場で男が次々と戦死して、社会全体として男性の人口が少ないとはいえ、これは少し偏
りすぎだ。
蘇芳の視線に気づいた伊隅 大尉がやがて彼の心中を察したのかニヤリと笑った。

「コールサインがヴァルキリーズなのは中隊に所属する衛士12名が代々女性だったことに
由来する。」

「それはつまり蘇芳、貴様が我が中隊初の男性衛士ということだ。」

隊内の人口比率の偏りに気づいていた蘇芳はもちろんのこと、蘇芳と同上で中隊に配属さ
れたエレンも、そして中隊古参の速瀬 涼宮 両少尉も驚いた。 速瀬 涼宮 両少尉は
多忙を極めるA-01に配属されてこの方、コールサインの由来を伊隅 大尉に尋ねたことが
ないのは勿論として、ヴァルキリーズの意味を深く考えたこともない。 人間というのは一
度になってしまうと意識せずにはいられない生き物だ。蘇芳 林太郎 という一人の衛士
に中隊全員の視線が集中したことを誰が責められようか。しかしこの状況を作り出した張
本人ともう一人は楽しんでいるように見えなくもない。蘇芳は今すごく動物園のパンダと
友達になれる気がした。蘇芳は穴が開くほど見つめられて若干仰け反る。

「なっなんだ。そんなに男が珍しいのか。…まさか今まで一度も男を見たことがないとか?」

「なわけないでしょう!」
蘇芳の一言に速瀬 水月は即座に切り返した。その速度たるや目を見張るものがあった。
机をたたいて身を乗り出した 速瀬 水月のその気迫に蘇芳はたじろいだ。突然の大声に
PXにいた全員の視線を一身に浴びたことに気付いた速瀬 少尉は居心地が悪そうに席に
座りなおした。

伊隅 大尉が咳払いを一つし、場の空気を仕切りなおす。

「こちらの紹介はあらかた済んだ。次は…」

「次は我々の番だな。」

「では改めて。私の名前は蘇芳 林太郎だ。つい先日までエレン 少尉と軌道降下兵団に
所属していた。現在の階級は中尉だ。」


A-01の隊員達がわずかにざわめいた。軌道降下兵団は国連宇宙軍がハイヴ攻略に本格的に
関与した1992年スワラージ作戦において初めて投入された部隊であり、眉唾物の噂等は良
く耳にするものの、その実態は謎に包まれていた。本来ならば軌道降下兵団から他部隊に
転属になった衛士から、様々な話が漏れ聞こえてもいい頃なのだ。だがその高すぎる死亡
率故に他部隊への転属があったなんて話は誰も聞いたことがない。A-01の隊員たちが軌道
降下兵団に関して知り得ている事はただ一つ。地球軌道上から地表の作戦目標に向けて降
下すること。その一点だけであった。軌道降下兵団について興味津々なA-01隊員達に当初
の暗く淀んだ雰囲気はなく、お互いの実戦経験や前の隊での秀逸な逸話などを話して盛り
上がった。


「蘇芳は、初陣は何時だ?」

まだ幼い少年を見て伊隅 みちるは聞かずにはいられなかった。

「初めての戦場は、朝鮮半島南端の光州だった。そこに国連軍の戦術機大隊との交代要員
として送られた。」

光州と言えば日本にとって忘れようのない悪夢が発生した土地である。国連軍と大東亜連
合軍の朝鮮半島撤退を支援するため、日本帝国軍が派遣され、その司令官である彩峰萩閣 
中将が大東亜連合軍と共に、抵抗する避難民の脱出を優先した結果、戦線に穴が開いて国
連軍司令部が壊滅する。指揮系統の混乱により多くの将兵の命が失われた。事態を重く見
た国連は作戦終了後、戦犯として彩峰 萩閣 中将の身柄を国連に引き渡すように通達す
る。しかし時の内閣総理大臣 榊 是親 が尽力し日本国内での厳正な処分と引き換えに
彩峰 萩閣の身柄を引き渡すことを免れる。だがその後の軍法会議において彩峰中将は敵
前逃亡罪を言い渡され、銃殺刑に処される。日本帝国において今もなお苦い経験として名
を残すこの事件は光州作戦の悲劇などと呼ばれている。


その後も転戦を重ねた話や、他国の基地での話など、とりわけ他国の食糧事情に関する話
は大きな盛り上がりを見せた。


 昼食の間ずっと速瀬 少尉に見られていた気がする。何やら少尉は演習の前に、私とエ
レンに勝てなければ昼食からおかずを一つ抜く趣旨の約束を副司令としてしまったらしい。
その結果今彼女の目の前には私達よりも若干貧相な昼食が並んでいた。しかしそれは私の
責任じゃないだろ、と言いたいのだがあの視線に射すくめられると正直無理だった。 と
はいえ弾んだ会話と共に食べた昼食は中々の味だった。




部隊内での互いの情報交換が終わった蘇芳とエレンは、基地内にいる香月博士の元にいた。
博士の隣には見慣れぬまだあどけなさ残る銀髪の少女。長い髪をツインテールにして独特
の髪留めで留めている。その姿はウサギともクワガタともとれる。彼女の瞳は茫洋として
いてどこに視線が向けられているのか判然としない。心の奥底を覗きこまれているような
気がして蘇芳はどこか落ち着かない気分であった。 そろって博士に敬礼をすると博士か
ら意外な言葉を聞くこととなる。

「ちょっとあんたたち。それやめなさい。」

博士の言う“それ”の意味が良くわからず、二人はそろって首をかしげる。

「敬礼よ。け・い・れ・い。 堅苦しい敬礼はよしてちょうだい。もうあんたたちは正式
にA-01の隊員なの。わかったら言うことに従って頂戴。」

香月博士の初めて会った当初とは180度異なる穏やかな視線に二人は身構えてしまう。

「ちょっと。あんたたち失礼ね。」

そういいながらも香月博士はどこか楽しそうであった。

「あんた達をここに呼んだのは他でもないA-01とそれらを取り巻く環境、そしてその任務
について伝える為なのはわかってるわね。」

「VFA-01はオルタネイティブ第一戦術戦闘攻撃部隊の略で…」

香月博士の口から発せられた話は驚くべきものだった。人類が一丸となってBETAに対抗
している陰で、様々な思惑が働いていることに多くの人間は薄々感づいた。しかしそれが
ここまで大きな話であったことを一体誰が予測できただろうか。しかし今思えば嘗て参加
した作戦の中にこの話を裏付けるようなものが存在していた。
話は遡ること1959年 
国連特務調査機関ディグニファイド12が招集され、火星に住むであろう知的生命体とのコ
ミュニケーションを確立するための研究が始められたことに端を発する。
1966年ディグニファイド12がオルタネイティブ計画へと発展。世界規模の巨大計画とな
った。
そしてこの1966年より始まった計画は現在オルタネイティブ1と呼ばれている。
オルタネイティブ1は火星で確認された知的生命と言語・思考解析の観点から意思疎通を
図ろうとしたものだったが、全く解明することができず、またサクロボスコで発生した同
知的生命との戦争状態を受けて1968年計画は第二段階へ移行する。オルタネイティブ2で
ある。この頃より火星で発見された知的生命体はBETAと名付けられる。オルタネイティ
ブ2はBETAを捕獲し調査・分析する計画であった。莫大な犠牲を払ったオルタネイティ
ブ2だが研究結果は芳しいものとは言えなかった。なぜならば犠牲の対価に得た情報は
BETAが炭素生命体であるということだけであったからだ。同年国連は状況の打開の為、
オルタネイティブ3予備計画を招集する。この時ソ連が発案したESPを用いてBETAの思
考を直接読み取る計画が採択され、ソビエト科学アカデミーのESP研究に国連予算の提供
が開始される。計画は順調に推移し1992年 スワラージ作戦の裏でボバールハイヴ攻略作
戦が始動し、オルタネイティブ3直轄の特殊戦術情報部隊と本作戦が初陣となる国連第一
軌道降下兵団がボバールハイヴに突入する。フェイズ4ハイヴの到達深度としては過去最
高となる511mを記録するも広間で師団規模のBETAと接敵し交信が途絶える。地上と
の連絡のために往復していた部隊を残し、他の部隊は全滅した。しかしESP能力者による
思考のリーディングは成功しBETAにも思考が存在することが証明される。なおこの作戦
における能力者の帰還率はわずか6%であった。BETAに対するあらゆる訴えは無効とい
う絶望的な結果を残してオルタネイティブ3は幕を閉じた。

作戦の間も次期オルタネイティブ計画の選定は進められていた。
最終選考には日本案と米国案が残り、両者による一騎打ちの様相を呈した。
BETAの東進が本格化し自国軍のみでは国防に不安を残す日本は国内に国連軍を何として
も引き込みたい。自国の新兵器を使用してハイヴを一掃したい米国。互いに譲れないもの
がある日本とアメリカはロビー活動で激しい火花を散らした。
新型兵器の環境に与える影響の不透明さ、オルタネイティブ3の成果に対する温度差など
からユーラシア各国が米国案に対して不支持を表明し、これが引き金となって国連は米国
案の不採択を決定する。以後アメリカは国連に対して失望し自国案を更に先鋭化し独自の
対BETA戦略を取り始める。
そして1995年オルタネイティブ4に日本案が採択され第三計画の成果を接収しオルタネイ
ティブ4がスタートする。そしてそのオルタネイティブ4の総責任者が今眼前に立つ香月 
夕呼、その人だった。
若干14歳にして因果律量子理論の検証を始め17歳で因果律量子理論を完成させる。
香月博士の独自理論である因果律量子理論の論文がオルタネイティブ計画招致委員会の目
に留まり、日本案の研究を進めている帝国大学応用量子物理研究室への編入を果たす。一
言でいえば才媛といえる。

「第四計画に関しては当然ながら現在も継続中よ。だからその作戦の全体は当然秘密よ。
今あんたたちが知っていなければならないのは、A-01はハイヴを攻略する必要があるとい
うことよ。その為にハイヴに突入したことのあるあんた達の経験は貴重なものよ。A-01の
訓練に役立てて頂戴。」

香月 博士はそこでいったん言葉を切るとおもむろに書類をこちらに投げてよこす。そこ
には横浜基地に籍を置く技術者、研究者、整備兵の年齢 性別 国籍 経歴が仔細に記述
されていた。蘇芳とエレンの二人は目を合わせると肩をすくめた。

「蘇芳、あんたが演習に勝利したら、あんたの言うこと考えてあげなくもない。そういっ
た事は覚えているわね。約束の通りここから好きなメンバーを集めなさい。」

蘇芳は人員が欲しいなどという話は一切上申していないので、今一状況がつかめない。
しかし演習に勝利したからというからには昨日のあの発言の事を指しているのだろうと当
たりを付けていた。しかしそれとこの人員のリストを結びつけるものが全くない。これは
如何したことだろうと困惑した。

「ああっもう。じれったいわねえ。あんたのその対ハイヴ戦術とやらに即した戦術機を作
りなさい。」




この時の衛士両名の顔と言えば○が綺麗に三つ並んだものと言えば的を射ているだろう。
自分で言い出したことながら唖然とする二人の表情を見て香月 夕呼はつい噴出した。

「あんた達。その顔傑作よ。」


それは様々なことで追い詰められていた博士にとって久しぶりに笑えるものであった。

「オルタネイティブ計画では当然衛士は戦術機に乗って戦うことになる。原則としては承
知した国の戦術機を使用することが決められているけれど勿論例外もあるわ。あんたの提
唱するハイヴの攻略方法を実現するためには、衛士の訓練も不可欠だけれど何より現行の
機体では条件に合致するものがないでしょ。だから造りなさい。」


急速にハイヴ戦術の話が巨大化していっていることに蘇芳は少なからず驚いた。一見すれ
ば香月 博士の言うことは理にかなっている。新しい戦術とそれに対応する新しい設計思
想を持った戦術機の開発。 蘇芳 林太郎という人間にとって願ったり叶ったり、いやそ
れ以上の話が舞い込んでいる。しかし香月 夕呼の立場に立って考えればこれはとんだ博
打と言ってもいい。軌道降下兵団が正式に任務を開始したのは1992年の出来事である。ハ
イヴ攻略の戦術が確立したのも同年のことであるから、それから未だ7年も経たずに戦術
の変更の話を口にしている者がいる。しかもその男はまだとても若い。うさん臭い話だと
一蹴するのが普通の反応だ。現にハイヴ攻略戦術を上司に聞かれて以来、中隊内では私は
変人と呼ばれていた。さらに言えば降下経験が3回を超えても死なない衛士はあまりの過
酷さにどこか頭が変になる。という噂が兵団内に蔓延してしまった。もし私がいい加減な
事をのたまっていたとすれば、A-01は本懐を果たすことが出来ずにハイヴ攻略の道半ばで
全滅することになるのだ。オルタネイティブ4の崩壊である。

「博士。何故です。」

「あら、何のことかしら。」

「博士と私はつい先日初めて顔を合わせたばかりです。どんな人間なのかもわかっていな
いのに、そんな大きなプロジェクトを任せるなんて正気の沙汰とは思えない。」


「ああ、そんなこと。」
私の質問に香月博士は何のことはないといった風に答えた。

「確かにあんたが信頼するに足る人物なのか、その人間性で判断できるほどに私はあんた
を知らないわ。でもね、初めて会ったからといって仕事を任せないんだったら、いずれ立
ち行かなくなってしまう。なら人間性と同じように他人を測る物差しがあるじゃない。そ
れはね、蘇芳。 その人間の経歴よ。」

あんたの軍歴はね、あんたが思っている以上に大きなものよ。香月 夕呼はそう告げた。

「それにね、少し厄介な問題も発生しているの。私たちの研究が気にくわない奴らが私た
ちの妨害をしている。アメリカ合衆国は自国案をオルタネイティブ4の後釜に据えている。」

オルタネイティブ4の予備計画にアメリカ案が採用された。
その事実に私とエレンは驚きを隠せなかった。

「アメリカ案は破棄されたのではなかったのですか!」

香月 博士の発言にエレンが食いついた。カナダ国民である彼女にとって、戦略爆弾にて
ハイヴを破壊するという行動は許せるものではないのだと思う。
1974年 カナダ サスカチュアン州アサバスカにBETAの着陸ユニットが降下した。
この時米軍はカシュガルでの教訓を生かし着陸と同時に大量の戦略核の集中運用でこれを
殲滅するが、以後カナダの国土の半分は半永久的に人が住むことを許されない土地となっ
たのだ。仕方がなかったとはいえ国土の半分を失ったカナダ人がアメリカを恨まない筈は
ない。
改めてみると米国の対ハイヴ戦略は当時から何一つ変わっていない。変わっている事は唯
一つ。使用される戦略級兵器が核兵器から新兵器であるG弾に変わったことだけである。
だが同時に新兵器の威力さえ高ければ現実的な作戦と言える。そしてその威力はついこの
間、明星作戦で世界各国に見せつけられたばかりであった。

「いいえ。アメリカは第四計画への選定から外されると、いっそ清清しいまでに強引なロ
ビー活動を始めた。蛇つかい座バーナード星系に地球型の惑星が発見されたこともこれを
後押ししたわ。アメリカは新兵器 G弾によるハイヴに対する一斉攻撃と合わせて約10万
人の人類をこのバーナード星系の地球型惑星に送り込むことを決めた。それによってユー
ラシア各国の意見に配慮した。という形に持ち込んだわけ。」

一瞬、そうたった一瞬の出来事であったが、蘇芳は動揺した。隣にいたエレンはたまたま
それに気づいたが、香月 博士の話の腰を折るわけにもいかない。この場は黙って話を聞
き、後で本人に話を聞こうと心に誓った。

G弾はその威力ばかりが随所で取り上げられ、アメリカ国内ではG弾によるBETA非脅威
論などが騒がれている。しかし実際に投下された横浜の柊町では植生異常や重力変動など
様々な異変が発生しており、手放しで喜んで良い兵器ではない。この爆弾は5次元効果爆
弾と呼ばれ、使用された際の環境汚染の程度がどの程度のものか未だにその全てを把握す
ることはできない。実際に投下されることになるユーラシア地域の反発は激しく、ユーラ
シアを丸め込むためにもバーナード星系に人類が適合できる惑星が見つかったことはアメ
リカにとって渡りに船であった。

「今もラグランジュポイントで宇宙移民用の船団が組まれているわ。アメリカ合衆国はG
弾の威力を明星作戦で示し、今やオルタネイティブ5は勢いに乗っている。何の成果も上
げていないオルタネイティブ4よりもこちらの方がよほど有意義だ。そう言って回ってい
る。実際にそれに賛同する国も少なくないの。」

ブラジルやオーストラリア、南アフリカなど後方国家などは自分達にはG弾の環境破壊の
影響がないと考えている。故に早くBETAを片づけたい一心で米国案に賛同する国も少な
くない。何よりもオルタネイティブ4が目に見えた成果を上げていない以上、こういった
国を説得するのは難しいのだと香月 博士は言った。

「実は私たちに残された時間はあまりないの。計画の要ともいえる部分はまだ研究中よ。
だからこその新型戦術機でもあるわけ。オルタネイティブ4も成果を上げている事を何ら
かの形で示さなければいけない。」

「つまり、時間稼ぎも兼ねているということですね。」


「そういうことよ。でやるの、やらないのどっちなの。」


香月 博士の一言に蘇芳は飲まれている自分に気づいた。今まであまりにも壮大な話を聞
いていたためにそこに自分の意見が取り込まれ、計画が頓挫することへの不安に支配され
ていた。人類の危機を脱する大きな計画に自分自身の意見が聞き入れられる機会など普通
は巡っては来ない。今私は人生で一番大きなチャンスを掴みかけている。これを逃せばき
っと次はない。あの殺風景な横浜の地に降り立ったとき私は人類がBETAに蹂躙されてい
る状況を打開する何かを探していたのではなかったのか。このとき蘇芳 林太郎を後押し
したのはその若さと情熱、そして自分に可能性を託して逝った戦友たちとの記憶だった。

「わかりました。必ず私が責任をもって完成させて見せます。」


「今は、人類の未来のために遊ばせておける人間は一人としていないのよ。」

力強く頷く蘇芳を見て、香月夕呼はわずかながら目元をほころばせた。


「まだしばらくはここと横浜を行き来する生活が続くわよ。宿舎等は伊隅に聞きなさい。
今日は、そうねさっきのシミュレータールームにいると思うから合流しなさい。」

退出する二人を見て、外部からの人員調達も案外悪くないかもしれないと考える香月であ
った。






PM16:00 December 22 1999
練馬駐屯地 PX



「先ほどの演習、見事でした。蘇芳中尉、少しお時間を頂けないでしょうか。」

練馬駐屯地の廊下を歩く蘇芳、エレンの二人組の前に一人の女性が現れる。彼女は蘇芳、
エレンの両名を呼び止めた。
彼女はこの駐屯地まで二人を送り届けた女性。 神宮司 まりもであった。

「わかりました。 エレン、先に大尉のところへ。私は後から行くから、そのように伝え
てくれ。」

「わかりました。」

彼女は少し不安げな視線をこちらに送った。気にするな。そう視線で示せば、エレンは物
言いたげな表情で私と神宮司 軍曹を追い越してシミュレータールームに向かった。

「さて、お話というのはなんでしょう。」

私が尋ねると、ここではなんですからと施設の屋上に連れ出される。神宮寺 軍曹の態度
は、最初に会ったときと同じ当たり障りのない柔らかなものであった。屋上で歳若い男女
が二人きり。それだけ聞けば何か甘酸っぱい恋の匂いがしないでもないが、ここが軍隊の
施設で2人は軍人であり、なおかつ二人がまだ会って間もないとなれば何かあまり良くな
いことの類が、私の身に降りかかっていることだけは理解することができた。



フェンスの向こう、遠くを見渡せば大小さまざまな建物が並び、一時は最前線となってい
たことなど微塵も感じさせない活気がそこにはあった。日はだいぶ西に傾き、茜色に染ま
る空は一日の終わりを告げる。 軌道降下兵団から極東への配置換え、演習やオルタネイ
ティブ計画の事、そして新型戦術機開発。ここ2 3日で周囲を取り巻く環境が目まぐるし
く変化した。  今日という一日が終わり、明日になれば、新しい生活が待っている。
極東国連軍のお客さん、という立場は終わり本格的にオルタネイティブ4遂行のための部
隊の一員として戦場を生き抜くことになる。だから面倒事は今日のうちに処理しておきた
かった。 神宮司 軍曹は肩越しに私の一挙手一投足を観察する。そして階下へと続く扉
がしまった事を確認すると私に切り出した。

「今日の演習とても見事でした。 鮮やかな操縦でしたね。帝国軍機をあそこまでうまく
乗りこなせるとは正直思ってもいませんでした。」

神宮司軍曹は探るような目つきでこちらを伺う。

「ありがとうございます。やはり、本職の方に言われるとうれしいですね。」

「本職ですか?」

「ええ。神宮司軍曹は帝国軍出身とお見受けしましたが。」

蘇芳 が何の気なしに発したその一言は、神宮司軍曹に更なる疑念を植え付けることにな
る。神宮司 まりもの脳内では蘇芳はスパイではないかという疑念が止まることなく膨れ
上がっていく。そう考えればすべてうまくいく。自分が帝国軍出身であることも帝国軍機
の機動特性も、綿密な下調べを経ての潜入であれば十分知り得ていてもおかしくない。
夕呼には散々警告したのだが、演習後は大丈夫の一点張りで決して疑おうとはしなかった。
夕呼は絡め手を使って、いとも簡単に相手のボロを出すことが出来る。しかし自分はそん
な回りくどいやり方はできない。 神宮司軍曹は単刀直入に相手に尋ねた。それはある意
味、神宮司 まりもらしいやり方であった。

「帝国軍機を過不足なく操ることが出来るその技術、私が帝国軍出身者であると知ってい
る事。これらは横浜基地に潜入するために事前に調査していたと考えたほうがシックリ来
る。」


神宮司の言葉に蘇芳は黙り込んでしまう。顎に手を当て何かを考えているようだ。やはり
そうなのか。神宮司 まりもは夕呼の不用心さを注意しなければ、そんな気持ちにかられ
ていた。ここで言い淀んでしまうようでは諜報員としては失格だ。まだ年若いようだし当
て馬として送り込まれたのかもしれない。このことが夕呼にばれてしまえば、ただでは済
まないだろう。この基地から何もせずに立ち去ってくれるのなら私が香月 博士に伝える
つもりはない。そう告げようとした神宮司 まりもを蘇芳の言葉がさえきった。

「戦術機ってのはな、お前やお前の仲間が衛士を止めるまで命を預けることになる棺桶だ。
戦術機に詳しくない衛士に衛士の資格はない。ある人に昔そういわれたんです。乗り手を
失った戦術機や戦術機を失った衛士。前線にそれらを遊ばせておく余裕は何処にもない。」

最初は反発したんですよ。
そういって蘇芳は柔らかく笑う。過去を懐かしむように遠くを見つめながら。

「今日、それが役にたったわけです。決して横浜基地に潜入するために覚えたわけではあ
りません。軍曹が帝国軍出身であることは敬礼を見て分かりましたよ。帝国軍の敬礼は少
し独特ですから。この回答で満足いただけましたか。」

蘇芳はフェンスのそばまで歩み寄ると遠くの景色を眺めた。両者の間に暫し沈黙が流れる。
蘇芳にしてみれば相手を完全に納得させるだけの証拠を出すことは不可能である。まりも
にとって見ても現段階で確実な証拠は持っていないし、何よりこれ以上のアクションを香
月 夕呼が許すとも思えなかった。議論はお互いに平行線をたどり、その終着点を見出す
ことが出来ないでいた。蘇芳が振り返り、二人の視線が交差する。太陽は沈み、電燈に役
割を譲る。どちらも視線をそらさぬまま、たっぷり1分ほどその状況は続いた。まりもは
電燈の灯りに照らされた蘇芳の目をじっと見つめる。不意にまりもは目を閉じ小さくため
息をついた。蘇芳の目に映る自分の姿がとても嫌なものに見えて仕方がなかったのである。
昔の自分とは違う。そう思い続けてきたが、現実的にはあまり変わっていないのかもしれ
ない。まりもは彼から視線をそらす。もとより自分はあまり考えるのが得意な性質の人間
ではない。今考えれば軍に入ったのも深く考えたというよりは激情に身を任せた結果のよ
うなものだ。私より物事を考えるのが昔から得意であった夕呼がスパイではないと言って
いるのだから、やはりそれを信じるべきだったのだ。私が思いつくようなことは既に彼女
が手をまわして調べているだろう。だから今ここで私が彼の部屋、持ち物をあら捜しする
ことができたとしてもおそらく何も出てこない。口より先に手が出てしまうこの性格はい
い加減早く直さなければならない。


「疑って申し訳ありませんでした。処分はいかようにも。」

神宮寺軍曹は直立不動になる。
あまつさえ上官に疑いをかけ、言葉遣いも上官に対するものではなかった。彼とはついこ
の間あったばかりで、その性格や心情など個人的な部分に関してはまったくよくわかって
いない。だが一般的に上官に対する数々の無礼を働いた下士官がたどる末路といえばおの
ずと相場は決まっていた。神宮司 まりも自身いかなる処罰も覚悟しているし、下された
処罰に対して何の不平や不満を漏らす気はなかった。

審判を待つ神宮司 まりもに蘇芳は処罰を与えることはなかった。そこにはこれから着任
する部隊の隊員すべての面倒を見ていた教官に対して、何か処罰を与えることによって部
隊内での彼の立場が危うくなる。そういったことを危惧しての打算的な判断がひとかけら
もないと言えばそれは間違いなく嘘になるだろう。しかしこのとき蘇芳 林太郎は神宮司
軍曹に対してどちらかといえば好感を抱いていたのである。陰でこそこそと色々な噂話が
飛び交っている事ほど気分の悪いことはない。何か知りたいことがあるのであれば直接聞
いてほしいと思うのが人情だろう。そればかりではない。このような特殊部隊にあって機
密性の保持の問題は重大な関心事である。特殊部隊という組織はその任務の過酷さから隊
員たちの結びつきは大変強く、よそ者に対して排他的であることも少なくない。まったく
毛色の違う新参者に対して、このような嫌疑がかかることはそう珍しいことではないだろ
う。そのとき大半の隊員たちは遠巻きにこちらを眺めるだけで、ぶつかってこようとはし
ない。お互いの間に信頼関係ができるまでのしばらくの間、隊内には古参と新参の間で見
えない隔たりができることになる。これを解消するのはその部隊の隊長の仕事の一つでは
あるが、衛士としての腕とは違い、そう簡単にどうにかできるものではないだろう。お互
いの間にある誤解を解く唯一の方法は、相手のことを知ることである。その為には会話を
しなければならないし、軍曹のようにこちらが話に踏み込んでくれたほうが事は円滑に運
ぶのである。簡単なようでいて意外とこれが難しいことなのだ。


「気にしていません。どこの部隊でも起こりうる出来事です。それにいちいち目くじらを
立てていればそれこそ部下になめられます。そうでしょう。」

彼はそう言って気にしていないというそぶりを見せた。
その後に彼が口にした一言がまりもをはっとさせる。


「嫌疑を晴らす唯一の方法は、私の事を知ってもらい相互の信頼関係を築くこと。私は今、
スパイではないという直接的な証拠をあなたに提出することはできない。ですが私のこれ
からの行動によってその嫌疑を晴らしましょう。では私はこれで。」

そういうと
彼は構内へと続く扉の奥に消えたのだった。




―全ての不幸は無知から始まる。教育こそが人類に与えられた最強の武器なのだ。―

教育による平和的な相互融和。


神宮司 まりもの脳裏に私の将来を決めるきっかけとなった恩師の言葉が蘇った。


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