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No.34800の一覧
[0] Muv-Luv after Revenge tragedy[ani](2012/08/25 20:05)
[1] 1[ani](2012/08/25 20:15)
[2] 2[ani](2012/08/30 18:58)
[3] 3[ani](2012/09/02 19:04)
[4] 4[ani](2012/09/06 18:55)
[5] 5[ani](2012/09/09 20:19)
[6] 6[ani](2012/09/15 11:03)
[7] 7[ani](2012/09/23 11:37)
[8] 8[ani](2013/08/03 14:25)
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[34800] 7
Name: ani◆f6f49e6e ID:84516a62 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/23 11:37
 既に漆黒の闇に染まった洋上を、無数の物体が飛行していく。
 中部太平洋で、帝国軍を叩いたテロリスト戦術機部隊だ。
 彼らは戦いが済むと分散、それぞれの割り当てられた帰還先に向かっていた。
 機影は、合計四機。囲まれて飛ぶ一機は、投降した帝国軍機・不知火弐型だった。

「カミカゼやセップクをやるかと思ったが、意外と大人しく負けを認めたな」

 日本側から、テロリスト衛士と呼ばれる男が、極短距離用の通信で味方機に囁きかける。
 その機体が持つ突撃砲の照準は、弐型をぴたりと捉え続けていた。

 帝国軍機から投降が出たのは、偶然指揮官機を先に殲滅できていたのが、大きい。
 斯衛軍とやらのほうは、色や外見で誰が上位者か聞かなくても示してくれているため、意図的に狙い撃ちしたが。

「勝ち目のない無駄な戦いを意地になって続けるより、耐え難きを耐え、次のチャンスを探す。
そのほうが、兵士としても人間としても上等さ……俺達が、降伏を認めるのなら、だが――」

 応じたテロリスト衛士が、意味もなくSu-27モドキの首を振って見せた。

「『メインスポンサー』からの指示は、確か捕虜は取らず全員口封じ、じゃなかったか?」

 自分達が帝国という国家を翻弄できるのは、相手側の情報不足という要素が大きい。
 が、ここまで暴れれば、ただの雑魚ではないと帝国軍が気づかないわけがない。
 防諜の観点からも、捕虜をただで帰すという選択肢はないはずだった。

「……スポンサーは大事にすべきだが、彼らは俺達の主人じゃない。
最終決定を下すのは、我々のリーダーだ」

 こちらのバックは、所詮は都合のよい道具として自分達を利用しているに過ぎず、状況次第では簡単に捨てられる。
 最悪、帝国に売られる事だって否定できない。

 いや、この組織自体が信用できる、とは言い難い。
 現在の世界に疑問を呈し、命がけで革命しようとする事も辞さない――そんな、『正義派』は少数。
 何らかの理由でくいっぱぐれた軍人のなれの果てが、大多数だ。

 理念も、拠って立つ誇りもなく、ただ汚い餌を貰うため誰にでも噛み付く犬の群れ。

 テロリスト? 世間常識どおりの定義に基づくのなら、テロリストのほうがマシだろう。連中には政治ないし思想目的がまだある。

 だが、そんな組織の有り方が、変動しつつある――

「――おい、様子がおかしいぞ」

 衛士の一人が、味方機の異常に気づいた。

 編隊の先頭にいる、巨大な翼に似たスラスターを背部に備えた戦術機だ。
 今回の戦闘の最大殊勲といってよく、その『異常な』機動は、帝国軍機にとっては天災そのものであった。
 今、こうして護送されている間にも、帝国衛士から恐怖を向けられているかのように見える『翼付き』。
 それが、機体を左右にふらつかせはじめたのだ。揺れは、見る間に大きくなる。

「……まずいぞ、例のクスリの副作用が出たんだ!」

「キョウトをやった時より早いな。
これだから薬理的強化ってのは、いくら強くても……」

 舌打ちしつつも、衛士達は助けに出られなかった。
 彼らは、帝国軍機を監視している。武装は解除させたとはいえ、隙を見せれば何か仕掛けてくる恐れがある。
 緊急を示す暗号通信を『拠点』に送るのが精一杯だった。

 十分ほど何とか飛行していた翼付きは、ついに見えない手に押されたかのように、大きく右に傾いだ。
 そのまま、暗い海面に激突してしまうだろう。
 ここまでバランスが悪化してしまうと、助けにも入れない。
 まず、救助機も巻き添えにしてしまい犠牲が増えるだけだ。

「……っ!」

 その時、翼付きに前方から急接近してくる光があった。
 光は、スラスターが吹きだすものだ。
 テロリスト機と同じ識別信号を出すそれは、平面的な外装を持つ……洗練されているとはいまひとつ言い難い戦術機だった。

 最初期戦術機の一つであり、本来は練習機として開発されながら、生産性や操縦性を見込まれて前線に投入されたF-5 フリーダムファイター。
 その違法改修機とおぼしき軽量型戦術機は、生身の人間を思わせる柔らかい動きで、両腕を前に出す。

「――」

 翼付きを、F-5が激突墜落の恐れを微塵も感じさせずに抱きかかえる。
 集音センサーにさえ、両機が接触した音響が拾えないほど、柔らかい動きで。
 F-5の搭乗者が、己本来の肉体のように機体を制御している事の表れだった。
 そのまま、翼付きを抱きかかえるようにして反転する。
 不規則にスラスターを吹かし、ともすればあらぬ方向へ飛んでいきそうな翼付きの動きを相殺するように、F-5が推力を増減しあるいはバランスを変えた。
 何も知らない者が見れば、二機の戦術機が空中ダンスを踊っているように見えるほど、滑らかに。

「…………」

 息を飲み、見守っていた衛士の一人が感嘆を溜息にして漏らす。
 帝国軍機からも、絶句したような気配が伝わってくる。
 ある意味で、BETAのレーザーを空中回避するより難しい動きである、と理解したのだろう。

 そのうち、進行方向から闇を割って一隻の大型船が出現する。
 スーパータンカーを改装した、簡易型戦術機母艦だ。
 スポンサー筋から提供されたモノで、一番ありがたかったのは戦術機よりこの艦。
 限りなく本物に近い偽の国連軍証明書を持つため、テロに使用する現場を押さえられない限り、おおっぴらに航行できる。
 この種の艦艇と無人島が、太平洋における拠点だった。

 その甲板に、まず翼付きを子供を守る親のように抱えたF-5が着陸。
 すぐに応急班が駆け寄っていく。その動きは、正規軍にも引けを取らない。
 次いで、捕虜となった帝国軍機が着艦し、最後にSu-27が続いた。

 翼付きから衛士が引き出され、担架に乗せられて艦内へと消えていく。
 その衛士に日本語で必死に呼びかけ続ける声が、波音に空しく吸い込まれていった。

 F-5から、男の衛士が甲板に降り立つ。
 本来戦術機操縦には不要なはずの、航空兵用ヘルメットを被っているため、容貌は伺えない。
 体を包む衛士強化装備も、体のラインがはっきり出る標準的なものではなく、厚手だ。

「薬の使用……避けられなかったか。
やはり、私が出るべきだったのかもしれん」

 独語を漏らすヘルメットの衛士に、軍艦に似合わぬスーツを着込んだ女性が近づいた。

「いえ、あれで奴は満足でしょう。
命より、恨みを晴らすほうを優先すると常々言っていましたから」

 女性の言葉は、冷気を凝固させたように醒めていた。

 ……祖国を愛していたがゆえに、裏切られたと理解した瞬間には憎悪に転ずる。
 それもただの憎悪ではない、かつて守った物もろとも、己を焼き尽くしても足りない貪欲な情炎――

 それに囚われた者に、配慮は不要だとばかりに。

「『日本隊』は我々にとって、単純に腕のいい衛士という以上の価値がある。
覚悟は了とするが、勝手に死なれては困るのでな」

 衛士は、ヘルメットを外さないまま言う。

「それでも、貴方の貴重さには及びません」

 この女性こそが、アジア圏の雑多な非合法組織を統合し、一つの大勢力へと纏め上げた中枢人物だ。
 スポンサー筋を複数持つことで、スポンサー同士をけん制させ切り捨てられるリスクをいくばくか軽減する、という離れ業もやっている。
(もっとも、相手もさるもので大口のスポンサーほど正体をしっかり隠蔽しているのだが)
 非合法組織らしく、経歴は内部においても明らかにされていないが。
 その高い組織運営能力は、ただの才能ではなく……かつては国家かそれに近い組織の情報機関で経験を積んだ過去がある、と構成員からは噂されていた。

 その彼女が、主に対するが如く接する衛士。
 彼もまた、組織内ですら経歴を秘匿されている人物だった。

 彼らが会話する間に、弐型から引き出された帝国衛士が拘束されていた。
 ちらりとそれを見やってから、女性が問う。

「捕虜の処遇は、いかがしましょう?」

「殺せ」

 素っ気無い即答。が、すぐに含み笑いが続く。

「……と、短絡的に命じるのはいささか芸がないな。
しばらくは監禁し、様子を見よう。鹵獲した機体のほうは、いつも通り整備兵に調べさせてから決める」

 戦術機を丸ごと奪えたのは、大きい。
 自分達が利用してもいいし、部品とデータを取れるだけとってもいい。

 スポンサーへのご機嫌取りの材料にもなる。
 戦術機の装甲組成ひとつとっても、軍事機密として高い価値があるのだ。
 アメリカ最新鋭技術を内包した弐型は、アメリカと関係が悪い国家あたりが目の色を変えるだろう。

「了解です」

「――作戦を、次のフェイズへ移行する。帝国軍の再度の攻撃があった場合は、私が迎撃しよう」

 気負いは微塵もなく言い放った男の声に、弐型を艦内へ引き込む作業音が重なった。



 投降した武御雷C型を連行した別行動の部隊から、急報が舞い込んだのは少し後だった。

『武家の上位者を死なせ、自分はおめおめと生き残った以上、日本に帰ってもろくな目にあわないだろう。
家族にも迷惑がかかる。
だから、自分も戦死した事にして、どこか第三国へこっそり逃がして欲しい。
この条件を飲んでくれるのなら、もっている情報全てを提供する』

 と、搭乗していた平民出の斯衛衛士が申し出てきたのだ。

 斯衛軍がいくら時代錯誤な組織とはいえ、下位者をそこまで制裁するほど馬鹿ではない……法制度上は。
 この平民衛士が恐れたのは、私的制裁や周囲の『空気』のほうだ。
 斯衛や武家そのものが黙っていても、「その情を汲んで」と自称する連中は必ず居る。
 そして、12・5事件などを引き合いに出すまでもなく、法が情に敗北してきたのが日本の現状だ。

 テロリスト達は要求を全面的に受け入れ、斯衛軍の最新情報を入手することになる――が、これが意外な事実を判明させるのには、まだしばらくの時間が必要だった。





 中部太平洋上の、戦術機同士の空戦において、日本帝国軍は完敗――。

 この一報は、直接の当事者でもないアメリカ・ホワイトハウスにも少なからぬ衝撃をもたらした。
 ただのテロ組織とは言い難い、という情報は把握していたが、実戦面でこれほどとは思わなかったのだ。
 入念な諜報活動を行わなくてもわかるほど、帝国の軍機構は狼狽しきりだという。

 急遽、今回の事件にアメリカ人が関わっていないかの調査を前倒しした結果、とんでもない事実が判明した。
 司法長官からの報告を聞く大統領の顔つきは、先日と比べると別人のように厳しい。

「――以上の調査結果から、我がアメリカ合衆国のテロリスト支援者達の多くが、いわゆる反日派ではなく……。
むしろ逆の、親日派と目される者達だったと断定せざるを得ません」

 大統領が、汗ばんだ両手を握り締める。

「本当かね?」

「はい、それもかなり前から……我々がホワイトハウスに入る直前、政権の空白期を狙って既に動いていた様子です」

 額に吹きだす汗を拭う余裕もなく、司法長官はうなずいた。

 大統領の視線が、執務机に据え付けられた情報端末画面に向けられる。
 いくら現政権に能力があろうと、実際に権力機構を把握し動かす前の策謀は制止できない。

 当初、ホワイトハウスのスタッフは、オルタネイティヴ4の成功によって面目も利益も失った、オルタネイティヴ5関係者を疑っていた。
 感情的な話からすれば、彼らはオルタネイティヴ4のホスト国である日本に、真っ先に恨みを向けるだろうから。

 が、実際に支援活動を違法に行っていたのは、桜花作戦前後から急速に力をつけはじめた、親日派の議員や政府高官らだった。

「……なるほど、単純な構図ではなかったわけか。
それにしても、危険な物を流してくれたものだ。これは、警告だけして終わり、とはいくまい」

「御命令があり次第、FBIのユニットを含む実力部隊により、首謀者達を逮捕する手筈は整っております」

「よろしい、すぐにやりたまえ。同時に、軍需産業にも査察を入れる」

 軍縮政策によって、没落の予感に震える企業群。
 大統領は、国連軍や政治的信頼度が高い同盟国への、兵器輸出のハードルを低くする事を選挙公約に入れ、彼らのガス抜きを図ったつもりだったが。

「見込みが甘かったな……」

 足早に去る司法長官の背を見つめ、大統領は呟く。

 流出が認められたのは、あるアメリカの軍民共同極秘計画だった。

 第四世代戦術機の開発。
 当初の計画書にはそう銘打たれていた計画は、やがて

『新概念人型兵器の、第一世代機開発』

 と、名称を変えた。
 人類の常識を超えた強靭さを持った生命体・BETA。その秘密を、体細胞レベルで解析する事で把握。
 BETAの細胞モデルを応用した、極小レベルでの工作によって生み出された合金や、炭素素材……。
 それを利用した戦術機は、もはや旧来概念には納まらない可能性を示していた。
(膨大に入手できるBETAの遺骸そのものを利用するアイデアもあったが、これは保存手段や工作技術の確立が困難とされ、見送られた)

 第三世代戦術機に見られるように、戦術機の火力は第一世代機と比べても頭打ちで、防御力にいたっては運動性との交換で弱体化さえしている。

 が、『BETAモデル』の使用によって、基礎構造レベルからの底上げが可能となる。
 シミュレーションによると、今までの戦術機が

『ジュラルミンレベルの資材しか使っていないレシプロ機』

 と例えられるほどの飛躍を見せていた。
 しかも、主力陸戦兵器的要素――在来戦術機には載せられなかった、大火力と重装甲の搭載も同時に可能。
 光線属種の照射網膜細胞パターンを利用し、エネルギー効率が強化されたジェネレーターは大電力を叩きだし、レールガンや荷電粒子砲のような次世代砲を稼動させられるレベルに達していた。
 防御面においても、電磁装甲のような次世代装甲を採用できる、と計算される。
 画期的なのは、使用する資材はあくまでも地球由来物質で済むという点。
 G元素への依存を減らせる、という事は国家戦略上大きな意味を持つ。

 第三世代戦術機以上の速度と運動性に、主力戦車以上の攻防能力を兼ね備えた汎用兵器。
 これと敵対した場合、通常の在来兵器はただ屠殺されるだけになる。
 対BETA戦においても、圧倒的戦闘力が期待された。

『人類が生み出した、戦闘型BETA』

 というべき存在が、出現しようとしていた。
 このBETAモデル利用開発計画は、『B計画』とそっけなく呼ばれていたが……内実は、恐ろしく野心的であった。

 しかしながら、対BETA戦の戦況が世界的に好転した現在、これほどの人型兵器が必要なのか? という疑問がぶつけられる事となる。
 第三世代機はおろか、近代化改修した第一及び第二世代機レベルが主力であっても、相応の戦力を投入すればハイヴ攻略は可能。
 こんな情勢下では、第四世代機……いやそれさえ超越している! と豪語しても価値を見出す者は少ない。

 素材に対する極小レベルでの工作は、高度な技術(真空環境を用意した中で、マイクロレーザーによる極精密加工が必要だ)と莫大なコストがかかるため、

『開発が順調にいったとしても、一機生産するのに戦艦建造以上の時間と金がいる』

 とさえ言われていた。
 ハード面の拡大に対応したソフトウェア・乗員保護機能の開発や、整備施設の新造を加えると、個別戦闘力の高さをもってしても採算があうか微妙であった。
 アメリカ合衆国の国力回復を第一とする現政権にとっては、容認できる話ではない。

 現在のアメリカ軍が新規開発に力を入れているのは、人的資源消耗を抑える戦術機の無人化ぐらいだ。
(人間の手を作戦において必要としない自律型と、無線による遠隔操作型の二本立て)
 他の計画は、軒並み縮小か中止されている中、B計画も基礎研究を除いての凍結が決定していた。

 が、B計画によって培われた試作パーツが、一部流出した。

 その技術的ハードルの高さから、他国に渡っても再現される可能性は低いとはいえ、痛すぎる。
 『BETAモデル』そのものは無理でも技術をスピンオフされる恐れなら、ありえない話ではない。

 さすがにG元素直系技術(G弾やムアコック・レヒテ機関等)に手をつけた形跡はないが、ここまで反日テロリストに力を与えようとする、親日派。
 奇怪なのが、政治的現実の常とはいえ……。

 桜花作戦以降、ハイヴ攻略の実績を持つ日の出の勢いの帝国と関係を深める事が、アメリカの利益になる。
 そういう考えを持っている『一般的』親日派とも、違う。
 こちらは、公然かつ合法的なルートでの交流や貿易拡大がメインだ。

 いずれにせよ、技術流出の拡大を防ぐため、口実をつけてアメリカがテロリストを直接攻撃する必要性が生じた。
 裏を含めて、外交状況を把握し直さなくては……。

 リー大統領は、胸に滲んでくる不気味さを抑えるために何度も深呼吸した。

「大元は、なんだ……?」

 ひとつの非合法組織に、多数のルートからの支援が流れ込んでいるのは、間違いない。
 カネや武器を出している連中は、どいつもこいつも

『自分こそが本当の黒幕』

 気分なのであろうが。
 本当に今回の一連の事件の絵図面を引き、実施させているのはどんな意図を持った勢力だ?
 大筋において、日本帝国にダメージを与えたい、という事は変わらないだろうが……。

 アメリカ大統領は多忙であり、この一件にだけ囚われている時間はない。
 それがわかっていながら、大統領は中々頭を別問題に切り替える事ができなかった。





 日本帝国政府は、BETA大戦……いや、それ以前から培われていた国内統制技術を駆使し、テロリストの放送を押さえようとした。

 民衆は上に従うようにすればよく、情報を与える必要はない。
 幕藩体制下から続いてきた、支配方式だ。

 情報省が中心となり、政府系はもちろん民間マスコミにも圧力をかければ、不都合な情報は漏れる事はない。
 個人レベルで所有する通信機まではどうにもならないが、噂を立てる者がいれば、逮捕すれば済む。
 最近は、民も妙な知恵をつけてきた気配があるが、それでも帝国の支配システムは揺らいでいない。

 ……情報省は、12・5事件において国内の不穏な動きの抑止に失敗、それどころか一部職員が煽った形跡さえあったため、名誉挽回のチャンスを欲していた。
 あの時、BETAが佐渡ヶ島なり鉄源なりのハイヴから攻撃をかけていたら……。
 日本は消滅していただろう。
 もし、情報省がまともに機能していれば、首謀者及び浸透していた外国工作員の逮捕で、話は終わったはずだ。
 関係者にとっては、まさにトラウマものの失態だった――未だに、クーデターを煽った挙句逃亡した元職員らを逮捕できていない事を含めて。
 お陰で、年々予算と権限の縮小を受けている。
 仕事の多くは、城内省や国防省・軍の情報部門に奪われつつあった。
(皮肉にも、そのために今回のテロ探知失敗の責任を問われていないのだが)

 それゆえ、情報統制作業は迅速に行われた。
 一部、反発するマスコミ関係者に対する行き過ぎた『処置』もあったが、必要な事であるとして容認された。

 が、国民には知らせないとしても、放送を完全に無視はできない。
 敵の意図など、多くの情報を掴むチャンスだからだ。
 限られた政府機関のみが、テロリスト側の放送を待ち受ける体勢を取る。

 同時に、帝国軍は紀伊奪還のための第二次作戦を準備した。
 衛士に疲労度の大きい行動を強いる、というミスはさすがに繰り返さない。
 時間に目を瞑って潜水艦を含む多数の艦を動員、紀伊の周囲を包囲して圧力をかけ、テロリストを投降させようという作戦に変更された。
 再び陸軍と斯衛軍から抽出された戦術機部隊が参加するが、今度は突出せずあくまで艦隊防空に徹する。
 以上の方針で、艦隊編成が開始された。

 水面下で様々な思惑が交錯する中、テロリスト側からの放送が始まった。


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