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No.34931の一覧
[0] Muv-Luv Re:boot the world[オレンジ](2013/09/02 17:30)
[1] Muv-Luv Unlimited RE:boot the world 第一章[オレンジ](2012/09/02 13:11)
[2] 存在しない救世主[オレンジ](2012/09/04 14:24)
[3] 今、俺にできること[オレンジ](2012/09/04 18:49)
[4] 社 霞[オレンジ](2012/09/05 15:14)
[5] 焦燥[オレンジ](2012/09/06 12:55)
[6] 夢。[オレンジ](2012/09/08 11:58)
[7] 自分の意思[オレンジ](2012/09/09 16:16)
[8] 胎動[オレンジ](2012/09/11 18:05)
[9] 第二章 空っぽの器[オレンジ](2012/09/16 07:54)
[10] 鎧衣美琴[オレンジ](2012/09/16 16:36)
[11] 自分さえもまだ知らず[オレンジ](2012/09/22 08:10)
[12] 草薙の名を背負う男[オレンジ](2012/10/24 17:24)
[13] 夢から覚めるとき[オレンジ](2012/10/29 18:21)
[14] 鎖に繋がれたまま[オレンジ](2012/11/06 20:18)
[15] 第三章 消えない傷[オレンジ](2012/11/13 20:49)
[16] 立ち上がる力を (前編)[オレンジ](2012/11/17 10:35)
[17] 立ち上がる力を (中編)[オレンジ](2012/11/24 13:10)
[18] 立ち上がる力を (後編)[オレンジ](2012/12/02 11:28)
[19] 冬の足音[オレンジ](2012/12/03 19:51)
[20] 総合戦闘技術評価演習:プロローグ[オレンジ](2012/12/08 10:56)
[21] 総合戦闘技術評価演習 1日目 2日目[オレンジ](2012/12/29 17:34)
[22] 総合戦闘技術演習 2日目夜[オレンジ](2012/12/29 17:33)
[23] 総合戦闘技術評価演習 3日目[オレンジ](2013/01/23 17:39)
[24] 総合戦闘技術評価演習 4日目[オレンジ](2013/01/20 14:00)
[25] 総合戦闘技術評価演習(終)[オレンジ](2013/01/22 21:50)
[26] 第四章 策士、策に溺れる[オレンジ](2013/02/25 19:01)
[27] その男の軌跡 <春>[オレンジ](2013/08/30 18:04)
[28] 断章:星海を往く[オレンジ](2013/04/14 07:46)
[29] 木葉よ、やがて大地の礎に…[オレンジ](2013/06/10 18:34)
[30] ――世界は、救えない[オレンジ](2013/06/10 18:28)
[31] I LOVE YOU .[オレンジ](2013/06/16 08:25)
[32] 穏やかな日々よ[オレンジ](2013/06/23 06:13)
[33] 僕たちはそれしか知らない[オレンジ](2013/08/30 18:05)
[34] その男の軌跡<夏>[オレンジ](2013/07/10 18:55)
[35] 第五章 雪の散るらぬ[オレンジ](2013/08/30 18:07)
[36] 戦場へ[オレンジ](2013/08/30 18:10)
[37] 姉妹[オレンジ](2013/08/30 18:12)
[38] 烈士、降り立つ[オレンジ](2013/08/30 18:06)
[39] 戦場の中心で愛を叫ぶ[オレンジ](2013/11/08 05:07)
[40] 雪とかす朝陽と共に[オレンジ](2014/05/10 11:16)
[42] 日本軍[オレンジ](2014/07/04 04:15)
[43] 最善のための犠牲[オレンジ](2014/07/22 04:04)
[44] 破綻した覚悟にも気づかず[オレンジ](2014/08/03 19:22)
[45] 守る“力”を[オレンジ](2015/10/10 19:09)
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[34931] 守る“力”を
Name: オレンジ◆3ddfd9ff ID:112703d9 前を表示する
Date: 2015/10/10 19:09
12月9日

茜色に染まった太陽の光を受け数多くの輸送機の隊列が春日基地の滑走路へと降り立った。
輸送機の着陸と同時に多くの軍人が輸送機から降り、整備兵、衛士とそれぞれ分かれて行く。
「大隊、整列!!」
白い軍服の短い黒髪の少女の掛け声と同時に草薙は勇人を手招いた。
手招かれるままに草薙の隣へ歩みを進める。
「本遠征の主な概要を告げる前に、新任衛士の紹介とそれに伴う隊の編成を告げる」
草薙が顎を上げて合図をし、勇人は一歩前へと進み出ると声を張り上げた。
「草薙勇人です。よろしくお願いします」
「階級は少尉だ。本日より約1週間の間、国連より日本軍への研修という形で本隊に合流する。草薙少尉の編入先は第1大隊第2中隊第1小隊。草薙少尉、貴官のコールはオルトロス02だ。覚えておけ」
「――了解」
「次に本遠征の大まかな概要だが、重慶ハイヴおよび鉄原ハイヴのBETA個体数の上昇が衛星画像から明らかになっており、近く侵攻が予測される。1週間後の斯衛部隊到着までの間、九州戦線の防衛をする。その他の細かい概要は明日行う予定であるブリーフィングにて説明する。各員、自分の戦術機の配備先の確認および機体チェック後、宿舎で自分の部屋を確認するように。宿舎の位置及び部屋割りは九条に聞くように。本日は解散。明日に備えろ」
「大隊、解散!!」
呼ばれた白い軍服の短い黒髪の少女、九条静音の掛け声にソロゾロと隊列が三つへ散り、草薙と静音も別れた団体の内の一つへと歩いて行った。
歩いて行く草薙の背を見送る勇人に早凪と呼ばれたポニーテールの少女が団体を引き連れて歩み寄った。
団体の中には佐久間と唯衣の姿も見られた。
「そっくりね。同姓同名で容姿まで瓜二つ…まるで生き写しみたいで奇妙なものだわ。第1大隊第2中隊中隊長、早凪千春。草薙からはアンタをなるべく殺さないように、なんて言われてるけど、現場じゃ死ぬやつは死ぬわ。長生きしたかったら、せいぜいアンタなりの生きる術を身に付けなさい。篁、コイツの面倒はアンタがみなさい」
「了解しました」
最後に勇人を振り返り際に一瞥するとポニーテールをなびかせ、早凪は歩いてゆく。
「それでは、少尉」
佐久間が軽く頭を下げ、早凪の後を追った。
早凪と佐久間が去ってゆくと団体もぞろぞろと散って行く。
散ってゆく人ごみの中で、唯衣を先頭に二人の男が勇人へ歩み寄った。
「草薙少尉、紹介する。第2中隊第1小隊のメンバーだ」
「東 翔平(アズマ ショウヘイ)だ。国連の新任衛士に期待なんてしてねぇが、せいぜい足引っ張るなよ」
不機嫌そうな顔の青年が勇人を睨んでフン、と鼻を鳴らした。
「名は紅 真九郎(クレナイ シンクロウ)。階級は少尉だ。わからないことがあれば聞くといい」
さわやかな青年が微笑を浮かべた。
「今は機体の配備さきの確認と機体チェックが優先だ。この大隊の特殊性に関しての話の続きは道すがら話そう」
唯衣が歩き始め、舌打ちをした翔平、真九郎が後に続く。
その背を勇人は踵を返し追いかけた。
「大隊以上の規模の部隊は基本的に中隊単位での行動をとるが、この大隊は大隊単位で行動する。草薙少佐率いる第1中隊は突撃前衛の役割を担っており、各員は近接戦闘のプロフェッショナルで構成されている。草薙誠治大尉率いる第3中隊は後方支援の役割を担っており、各員は未来予測および射撃精度の高い人員で構成されている。そして、早凪千春大尉率いる第2中隊は大隊の中でも前衛・後衛双方の技術が各員に求められており、第3・第2・第1小隊の順で近接戦闘能力が求められている。そのため、第3小隊は突撃前衛よりの技術を求められる小隊だ。心しておけ。通常の大隊以上の部隊が中隊で行動する理由としては大隊長一人で35人の現状を把握し、行動を統率することは極めて難しいため中隊長、小隊長へ大きく役割を分散している。もちろん、草薙少佐も一人で大隊全体の現状把握および統率をとっているわけではなく、三人の中隊長がそれぞれ12人の現状把握と統率を統率している。斯衛の特殊部隊と言われるだけあってこの部隊の戦闘能力は眼を見張るものがある。より多くを学ぶといい」




「――はいりたまえ」
扉のノックの音に地に轟くような低い声で男は草薙を迎え入れた。
「失礼します」
草薙が扉を開き、部屋の中へと歩みを進めると部屋の中央に置かれたテーブルを挟むように配置されたソファの一側に杖を突いた老人が腰掛けていた。
男は紅いBDUの上に紅い羽織を羽織った草薙を見て片眉を揺り上げるとかっかっか、と豪快に笑った。
「12.5事件よりこの日本も随分と変わったようだが、その赤々しい色は相も変わらず老人の眼に悪い」
「お久しぶりです、遠山(トオヤマ)中将。お元気そうで何よりです」
「久しいな、百目(ヒャクメ)の孫よ。話すなら腰掛けるといい。若造だからとて立たせたままで偉ぶるつもりはない」
向かいのソファに腰を降ろし、男の顔を見据える。
男の顔には無数の切り傷の後が刻まれ、右目から右耳、右側の顎の先端まではケロイド状の皮膚に覆われている。
草薙はその男、遠山虎徹(コテツ)の過去を知っている。
若くして軍へと身を置くとその能力を認められると第一次世界大戦時には大佐に昇進、後に中華民国攻略に貢献した。
BETA大戦開戦後、鉄原ハイヴからのBETA侵攻時には炎に飲まれる基地に最後まで残り部隊撤退の指揮をとった。
結果、九州の部隊は被害を出したもののその大数が本州へと生還を果たした。しかし、その代償に男の顔の半分にはただれた皮膚が今も生々しくのこっていた。
「日本軍、か。随分とおおきく出たものだな」
「国軍という名のくくりの中にいては何も守れやしません。現に12.5事件で他国からの干渉の手がこの日本の政治に伸びていることが明らかになっているのです。だからこそ――」
「――戯け」
低く鋭い声が言葉を遮った。
草薙の眼の先では遠山の鋭く尖った眼が睨んでいた。
「下らん御託を口にするな。大義とはな、己が欲望の隠れ蓑ではないッ!!…百目の孫よ。誰しもが正しさを求めるわけではない。幼いころからの付き合いだ。誰に話すわけでも、咎めるわけでもない。ただ単純な話だ。お前の本音が聞ければいい」
「……この世の中が腐っているのは知っておりました。ですが、明星作戦前に政威大将軍なぞというお飾りに新任なさると聞いたとき……この日本を、五摂家の老人共を呪った!馬鹿げている!腐っている!ハイヴ攻略戦だ!人類の反攻だ!と謳って世間を煽りたて…失敗すれば彼女を犠牲にするだけだ。老人共は彼女の痛みにもその罪の重さにさえ気づかない。この世の中が彼女を守らないというから、俺が守ると決めた。父と母が築いたすべてを投げ打っても俺は、彼女を守りたい」
草薙の声は次第に嗚咽交じりになり、その頬を涙が伝った。
「………それでこそ、だ。この世の中は思い道理にはいかなんだ。手前が守ると決めたなら、手前の命を賭して守りなさい」
遠山は足を引きずりつつ杖を突き草薙の隣へ腰掛けると俯き涙を流す草薙の肩を抱き寄せた。
「小さいころから泣き虫だったくせに突然、毅然とふるまいだしたのは好きな女のためか!」
遠山は嬉々としてかっかっか、と笑うと草薙の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「…虎の爺さん、笑いすぎだってば」
草薙は笑い続ける遠山をバツの悪そうに見ると口を尖らせ呟いた。



「いや~、何度見てもそっくりッスねー」
機体チェック後、第2中隊第3小隊の各員と別れPXで食事を摂っていると声をかけられた。
食事の手を止め振り返るとメガネをかけた短髪の女性を先頭に数人の日本軍衛士が夕食を手に立っていた。
「同席、良いッスか?」
首を傾げるメガネの女性の問いかけに勇人は首を縦に振る。
勇人の周りの席へぞろぞろと座る日本軍衛士の男女の中には、紅の姿も見られた。
「いや~似てるッスねぇ~」
正面の席でメガネの女性がニタニタと笑って物珍しそうに勇人を見つめた。
「蒔原(マキハラ)、自己紹介もなしにそんなに見つめるなんてMP呼ばれても文句言えねぇぞ?」
「お前、結構ストーカーに間違えられるしな」
周囲の日本軍衛士達の間で笑いが弾け、蒔原と呼ばれたメガネの女性がバツの悪そうに唇を尖らせた。
「人をストーカーとは失礼ッスね。私はただ、純粋に情報が欲しいだけッス」
「いいから蒔原、自己紹介しとけ」
右眉の端から右耳にかけて短い傷跡がある男性が呆れ顔で苦笑を浮かべた。
「蒔原彩愛(アヤメ)ッス。第2中隊第3小隊所属ッス。決してストーカーじゃないッス」
「情報欲しいから一線越えるような奴が言っても説得力ないがな。第2中隊第3小隊小隊長の八岳拓斗(ヤツタケタクト)だ。この傷は気にしないでくれ」
「その言い方じゃ誤解がうまれるッス。私はただ、間違って小隊長のテントに入ってしまっただけッス。」
「間違ってはいらないようにテントにはコールナンバーが入ってるだろうが」
「いや~意外と男性の一物のサイズの情報は高く売れるッスよ。ちなみに八岳中尉の眉の傷は昔帝都の奥さんに浮気と誤解されたときに包丁を振り回されてできた傷ッス」
「話し逸らすなッ!!」
「うわぁ…八岳中尉の奥さん、病んでるんだな」
「弁当渡すって理由で北方の基地まで帝都から来るくらいだからな」
「……お前ら、俺の嫁さんを馬鹿にするのは許さんぞ?」
「今発言した岡田少尉、跡部少尉共に独身ッス。彼女いない歴=年齢ッス。童貞ッス」
「ああ!!蒔原、お前!何を新入りの前で!!」
「先輩としての威厳がぁっ!!」
がっくりと肩を落とす二人に八岳が困り顔を浮かべた。
「斯衛の特殊部隊と聞いて思い描いていたイメージがあるだろうが…すまんな、少尉。規律がゆるい、と言われると何も言い返すことができないが、これが我々の日常だ。特殊部隊と言っても日本各地の訳ありや変わり者が集まった部隊だからな。規律は多少緩い部分があるのだ」
「けど、その分ちゃんと結果は残してるッスよ。この前の12.5事件では機体の損傷はでたものの、戦闘での死者は0ッス」
少し誇らしげに話す蒔原に勇人の中で一つの疑問が生まれた。
「死者が出なかったのにどうして俺が入れたんですか?」
勇人の問いに蒔原や八岳を始めとしたその場の日本軍衛士たちが少し気まずそうな表情を浮かべた。
「――僕が戦術機から降りたからです」
意を決して八岳が口を開こうとしたその時、若い男の声が遮った。
振り返るとまだ16にもなっていないであろう少年が食膳を持って立っている。
少年は勇人の視線に笑みで応えると席に着くと勇人を見つめて口を開いた。
「高宮真(タカミヤマコト)です。もと、第3中隊第3小隊に所属していました。今はオペレーターをやっています。僕が戦術機から降りた理由でしたね。12.5事件が僕の初陣だったんですが……撃てなかったです。人が乗っている戦術機をどうしても撃つことができなかった。だから、オペレーターへの転向を申請したんです」
「…第3中隊第3小隊は大隊の中でも未来予測、精密射撃能力にたけた人物で構成された小隊だ。新兵にしてそんな部隊に選抜された高宮は優秀な衛士だ。12.5事件の時には人を撃てなかったが、それは臆病なんかじゃなく、こいつは俺たちよりも人間だったってことさ」
「八岳隊長がしんみり言ってるところ悪いッスけど、オペレーターになるってことはコールは……」
「コールは………ケルべロスパパです」
「…………」
「…………」
「…………ぶっ」
恥ずかしそうに頬を赤らめる真を余所にその場の日本軍衛士たちが声をあげて笑う。
「ぶはははははっぷっ!…あははははは!!」
「パパ!?真がパパぁ!?」
「や~~~~ばいッス!!特ダネッス!!」
「笑わないでくださいよ!!先輩たち聞きなれてるでしょう!?」
「馬鹿野郎。お前のコール口にした時、笑って死なないように今笑っといた方が良いだろ」
「いや~っ、普通オペレーターって言ったら女だろ?男のオペレーターなんてお前が初なんじゃないか?」
「お前ら、それくらいにしとかないと高宮少尉が泣くぞ」
「最初に笑い出した人が良く言うッス」
「そ、そんなことよりだ。蒔原、なんの情報が欲しくて新人少尉に絡んだんだ?」
「ああ、そっした。中尉達の馬鹿話と高宮パパの話で忘れるところっした」
八岳の疑問にきょとんとした彩愛がにやりとした笑みを浮かべた。
その意味深長な表情と視線にその場の空気が重くなるのを嫌というほど感じる。
見つめられた勇人は自分でも知らぬ間に喉を鳴らした。
「草薙少尉は訓練課程を省略してまで何で前線に来たっすか?」
「……力が欲しいんです。もう誰も失わないように。誰かを守れるように」
机の上で力強く握りしめた勇人の拳を悲しげに八岳が見つめた。
「……少尉、きっとここではお前の望む者は手に入らない。なぜなら、きっとそれは―――」
「ハッ!!くっだらねぇな!!」
八岳の言葉を遮り、一人の男が椅子から立ち上り勇人を振り返る。
白のBDUに身を包み不機嫌そうな表情の青年の顔に見覚えがあった。
「……東…少尉」
周りの視線を気にかけることもなく、軽蔑するように恨むように睨めつけながら東は勇人へと歩み寄る。
「東少尉、黙ったまま席にもど――」
「力が欲しいんです?誰かを守れるように?日本の最ッ後方の基地からわざわざ最前線に出てきた国連衛士は言う事が違うな」
「東少尉!!」
「当ててやろうか?誰かにかばって死なれただろ」
勇人の握りしめた箸がミシッと音をたてた。
「そんな独りよがりの餓鬼みたいな希望を抱く奴は決まって手前みたいな救いようもねぇ糞野郎だ。そしてそんな糞野郎は決まって早死にすんだよ。周りを巻き込みに巻き込んでな。かばって死んだ奴も――救われねぇよなぁ?」
不意に東の眼前に拳が伸びる。
東はその拳を直視することなく、片手で受け止めた。
東が見つめる先には拳を突きだした勇人が立っていた。
「おう、どうした国連衛士。図星か?」
「アンタに……アンタに何がわかるんだよ!!」
「…表に出ろ、国連衛士。手前の弱さをいやというほど教えてやるよ」



東の背について行くがままに春日基地のグラウンドへと出ると外はすっかり暗くなり、雲一つない夜空には満月が昇っていた。
「おら、好きなもん使え」
グラウンドの中心へと出ると勇人を振り返った東が短刀と長刀の模擬刀を勇人の足元へと投げた。
未だに憤怒の表情を浮かべこちらを憎々しげに睨む東を一瞥し、足元の短刀を拾い上げる。
短刀を構えた勇人に東はフンと鼻を鳴らすと手にしていた長刀を構える。
「東少尉!!馬鹿なことは止めろ!!」
八岳が詰め寄り東の肩に手を伸ばした瞬間、東が長刀を振る。
振られた長刀に無駄な動きは無く、なめらかに空を切り裂いた長刀の刀身は八岳に身動きさせる暇を与えることなく八岳の首筋へと到達した。
「黙ってろ、雑魚。それ以上、首を突っ込めば手前も潰すぞ」
低く唸るような東の声に八岳はため息を吐き引き下がると勇人の足元の長刀を拾い上げその場を退いた。
「もしもやり過ぎるようなら割って入るぞ」
「――はっ」
八岳を一笑し東が再び長刀を構える。
「おらいくぞっ!!」
東が地面を蹴ったのを見た。
下段に長刀を構え迫る東に短刀を構える。
下方から長刀を振り上げる一撃を短刀で受ける。
――重い!!
衝撃が体の真を揺らした。
思わず短刀を手放しそうになるのを食いしばって耐え抜き、受け流す。
長刀は上方へと流されるも一撃で勇人の姿勢は後ろへのけぞるように崩れ、視界は夜空を仰いだ。
その視界の中で輝く月を背に上方の長刀の刀身が翻るのを見た。
――マズイ!
振り降ろされる長刀を再び短刀で受け止めるもその衝撃に地面へと仰向けに倒れた。
「話にならないな。お前のような糞衛士をかばって死ぬ様じゃ、所詮そいつも甘ったれの糞衛士なんだろうな」
嘲笑するように笑う東を見て勇人は全身の血が激しく脈打つのを感じた。
鼓動は高鳴り、血潮は流れる勢いを増し、全身を走る。
疼きに似た湧き上がる衝動は、怒りであった。
「榊は!!…アイツは他人のために努力を惜しまない奴だった!!アイツは糞衛士なんかじゃないッ!!」
勇人は起き上がると再び短刀を握りしめ、長刀を構えずに立っている東の元へと走る。
迫る勇人を何かを考えるように見つめて立っている東の懐へと入ると短刀を突き出す。
その突きを東は左手の手の甲で弾くと流れるように腕を振り、勇人の腹へと拳をめり込ませた。
「っ!!…がはっぁっ…!!」
衝撃に胃液が喉まで込み上げ、呼吸が止まる。
勇人はその場から数歩後退するも再び、短刀を振るった。
横への一閃。
弱弱しいその一撃を東は長刀を振り軽々と弾いた。
弾かれた短刀は宙を舞い、地面へと転がった。
「糞衛士、所詮お前の力なんぞそんなもんだ。…今のお前には何一つ守れなんてしねぇ。わかったらこの一週間大人しくしてろ」
呆れたように、そしてどこか悲しそうに言葉を吐き捨てると東は短刀と長刀を拾い上げ、勇人に背を向けた。
「――チッ」
不意に東の舌打ちが聞こえた。
顔をあげ、東の見据える基地の出入り口を振り返ると基地の窓から零れる光を背に山吹色のBDUに身を包んだ唯依が立っていた。
東が歩きだし、唯衣も歩き出す。
二人がすれ違う瞬間、東の口が動くのが見えた。
東が何を言ったのか勇人の耳には聞こえなかったが、唯衣はすれ違った後も顔色一つ変えることなく勇人の元へと歩み寄った。
「…格闘訓練でも行っていたのか?」
「…………」
「東が新人を連れ出してな。……いろいろ思い出しちまったんだろ」
報告に戸惑う勇人を見た八岳が代わりに口を開いた。
「…そうでしたか。ありがとうございます、八岳中尉。部下がご迷惑をおかけしました」
「いや、いいんだ。篁中尉はこの新人の重りで、か?」
「はい。彼の自室へ案内しようかと」
「そうか。…篁、東を責めるなよ」
八岳の言葉に唯衣の表情が曇った。
「…草薙少尉、ついて来い」
唯衣は踵を返して基地の出入り口へと歩き出す。
勇人はその背を見て八岳を見た。
八岳は勇人の視線に苦笑すると片付けは任せてついて行け、と勇人を促す。
勇人は戸惑いながらも頷き立ち上ると遠くなった唯衣の背中を追った。
――今のお前には何一つ守れなんてしねぇ。
地面に足をつくたびに体に走る痛みが東の言葉を思い出させた。
不意に足を止めてグラウンドを振り返り空を仰いだ。
空は闇夜に無数の星が瞬き、一際輝く満月が闇を照らし、道を示していた。


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