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空の者達。それを殺せばお金が貰える。私は家の貯金を使ってジャンクパーツから一機の鉄騎士手に入れた。
「良く聞け、お前たちの任務は空の者達を殺してエリアの確保をすればいい。殺せば殺すほど金がもらえる。ただし、生き残れたらだ。生き残れば沢山の金が貰える。俺も沢山、生き残れたら金がもらえる。だから、死ぬな」
私は空の者達を倒すミッションに参加していた。貰える金額は安い方だが、安全性が高い内容だった。一応、生存をあげる為にベテランの鉄騎士乗りが12人に一人ずついる。彼らはこのミッションに参加する鉄騎士乗りを生き残らせればよい割のいいミッションである。ただし、そのミッションに参加するのは新人ばかりである。
そう、このミッションは新人の鉄騎士乗りのためのミッションだ。貰えるお金は少なくても生存率が高い。逆に実力があれば別の割りのいいミッションを受ければいい。
「…」
初めての戦い。ゲームで鉄騎士の動かし方はわかる。実機でも多少は練習した。ただ、ゲームと違う。失敗はできない。
高鳴る鼓動を感じながら鉄騎士のパラメーターをチェックする。
「高度1000m、レーザー攻撃を受けました。降下準備をお願いします」
館内アナウンスが鳴り響く
「対レーザーシールドに異常なし。降下準備完了」
「よし、野郎共仕事だ」
今回の地獄の案内人のベテランの鉄騎士乗りが活気のいい声で言う。
「降下開始」
アナウンスと同時に前から順に鉄騎士の脚に固定されたカタパルトによって強制的に降下されていく。
私の番になった瞬間。鉄騎士の足に固定されたカタパルトによって飛行船の外へ飛び出る。
周囲には似たような飛行船が幾つもあり、大量の鉄騎士が降りていく。
「敵が見えたら目玉種の二目型と一目型だけを撃て」
だが、私の持っている武器では届かない。届くのは長距離ライフルを持っている鉄騎士だ。だが、お金のある人なんていない。私も含めて安い武器しかない持ってない鉄騎士ばかりである。
反撃などできない。ただ、無残にも目玉種の良い的になるだけである。空中でクイックブーストを使い変則的動きをすれば自分の命は繋げる。ただし、悪あがき程度である。エネルギー生産量も貯蓄も低いジェネレーターを使えばすぐにエネルギーが無くなる。動きが止まればレーザーで黒こげにされる。
「うごかない、うごな」
「こわいぃ、いやだぁぁぁあ」
様々な声が聞こえる。鉄騎士にレーザーから身を守るシールドなんて存在しない。レーザーから身を守る装置は大きくて鉄騎士には詰めない。だから、飛行船に積むのだ。飛行船に積んで、毎日のように兵士を戦場へ運ぶ。対レーザーシールドを積んだ飛行船には爆撃に必要な爆弾も沢山つめない。それに、コストもかかる。対して、鉄騎士の方が沢山乗せられて、基本は自分で用意した物である。鉄騎士乗りにお金を払う必要があっても微々たるものである。多くの人が死んでも問題ない。少なくともここにいるのは空の者達を倒してお金を貰える最低な者達だからだ。
だから、自分さえよければよかった。
「じゃまだ」
「!」
偶然にも別の鉄騎士の移動方向に私がいた。だから、相手は私にショットガンを撃ってきたのだ。
「!」
至近距離で撃たれて衝撃が走るのと同時に私は相手の動く斜線からずれて衝突を避けられた。でも、左腕がない。この鉄騎士には再生機能なんてない。だから、左腕は戻るまでは治らない。
「…」
しかし、そんなの待ってくれない。鉄騎士は落下して地面に近づく。
「よし、ブースト噴かして衝撃を殺せ。そして、撃て撃て、着地場所を確保しろ」
私はその声にしたがってブーストを噴かして着地の衝撃を抑える。この時点で何人かが着地失敗を恐れて高い位置でブーストを噴かしたのが原因で目玉種のレーザーに殺されるだけである。
それでも私には焦りがあった。左腕がない。あるのは右手に持っている武器だけである。それでも右手に持ったサブマシンガンを撃って撃ちながら蟹型のいる所へ飛び降りる。
しかし、片手のみでリロードが出来ない。100発のサブマシンガンもすぐに弾切れを起こす。
敵も多い。サブマシンガンで迫り来る蟹型の側面に回りこんで感覚器を殴る。
「うわぁぁぁぁあ」
ゲームで練習した軌道は体に負荷がかかる。でも、死にたくなかった。だから、鉄騎士を必死に動かし続ける。
「ナンバー11、左腕はどうした」
ベテランの鉄騎士乗りが私の目の前にいる蟹型を倒しながら問いかける。
「ショットガンに撃たれました」
「そうか。これを使え拾い物だ」
「は、はい」
私に手渡されたのはロッドという近接武器だった。ある意味で非常に判りやすい武器である。
「死にたくなければ殴れ」
「はい」
非常に安価な武器である。だが、壊れにくい点では信頼のおける武器の一つである。ある意味で安心ができた。ベテランの鉄騎士と一緒にいられる。また、壊れかけのサブマシンガンが駄目になれば武器はないのだ。あとは鉄騎士で直接なぐるしかない。本来なら左手に近接格闘武器装着されていたがショットガンで吹き飛ばされたので意味がなかった。
「おい、誰かいきているか。コールサインヘザー。ほら、応答しろ」
ベテランの鉄騎士は通信をしながら空の者達を倒していく。私もベテランの鉄騎士の後ろで蟹型をロットで殴って倒して行く。
しかし、大量の蜘蛛型が私の鉄騎士の右足に食いついて機動力を大幅に下げる。ロッド必死になぎ払い、幸いにも完全に移動能力を奪われてないのが救いだった。片足でバランスを取りつつも戦いは厳しかった。さらに、大蜘蛛型も来る。
「ちぃ、大蜘蛛型か。逃げるぞ、こいつは俺達には手におえねぇ」
そう言うと一目散にベテランの鉄騎士乗りは逃げる。私もバランスの悪い鉄騎士で必死にベテランの鉄騎士の後ろを追いかける。
逃げる途中に私の耳には肉が引きちぎられる音がしていた。それから、叫び声も聞こえた。
例えお金を貰う為に戦場に来ていても目の前に広がる光景は必死に生を掴もうとしている人たちだった。
右足をやられつつも、3機の鉄騎士と合流する。その後はひたすら空の者達を殺していく。
だが、一人、二人と死んでいく。さらに錯乱した人は鉄騎士から降りて逃げ出そうする。
「おい、鉄騎士に戻れ」
ベテランの鉄騎士乗りの呼びかけもむなしく、模造型に取り囲まれて喰われた。
一方、私は乗り捨てられた鉄騎士に近寄って、今乗っていう鉄騎士から降りる。手に持った大口径拳銃を持って鉄騎士から降りる。
片手で模造型に向かって撃つが衝撃で地面へと倒れる。
「両手で構えて撃て」
ベテランの鉄騎士乗りの声を聞いて目の前まで迫った模造型に向かって撃つ。
弾は模造型の頭に当たって衝撃で上半身が反りつつも粉々に吹き飛ぶ。模造型の血が私に降り注ぐが、私は立ち上がって走る。
「よし、走れ、走れ。っと、あぶねぇな、この野郎」
「はぁはぁ」
鉄騎士にたどり着いた。私は即座によじ登ってコックピットに乗り込む。しかし、蜘蛛型が取り付いた。
「うわぁぁあああ」
咄嗟に手に持っている銃を打ち込む。カチカチと引き金を引く。でも、3発しか弾は装填されていない。なぜなら、鉄騎士乗りが鉄騎士の操縦者を直接殺す為の武器であり、3発しか弾を入れられない銃だからだ。
「1匹しか、取り付いてねぇ。鉄騎士で引き剥がせば大丈夫だ。それに至近距離で対鉄騎士歩兵拳銃を1発喰らっている」
「あっ」
私は弾を装填するのを止めて鉄騎士を動かしてハッチを開いたまま蜘蛛型を引き剥がして左手にあるパイルバンカーで突き刺して止めをさす。
「よし、動けるな。初めての新人にしちゃいい動きだ。ハッチを閉じろ。次が来る前に銃をしまっとけ」
「はい」
投げ捨てた銃を拾って弾を装填してホルスターにしまう。
「よし、譲ちゃん。良い鉄騎士を拾ったじぇねぇか。前の鉄騎士なんかよりいい鉄騎士だ。頼むから生き残ってくれよ。おじさんの給料のためにな」
「は、はい」
ある意味で言い方は酷かった。それでも、このベテランの鉄騎士乗りのアドバイスが無ければ死んでいたのだ。文句なんて言えない。それどころか、私は感謝をしていた。
「じゃあ、来るぞ。槍型だ。側面か目玉種に注意してジャンプして撃ち殺せ」
「諒解」
ゲームとは違う。実態のある敵。
側面に回りこんで右手の中距離用のバトルライフルを打ち込む。その後、右側面に迫っていたからジャンプをする。
その瞬間に二目型と目が合った。自分が死ぬと思った。
「うわぁぁぁぁあ」
二目型に向かってバトルライフルを撃った。気が付くとバトルライフルの弾倉の弾が0になっていた。つまり、私は生き延びた事になる。しかし、下を向けば槍型が走っている。前も横も逃げ場がない。敵を倒すのにも近接武器で倒しても別の槍型に殺される。
「ぼさっとしねぇで、ブーストを噴かしてリロードしろ」
ベテランの鉄騎士の乗りの声に私はリロードをしながらブーストを噴かして着地の時間を遅らせる。それと同時に側面からの援護射撃で私は着地する余裕を得る。私はブーストを切って素早く着地すると、すぐに跳躍する。それと同時に槍型が通り過ぎる。
「自分の着地場所を作れ」
「諒解」
槍型を殲滅なんて考える余裕はなかった。ただ、自分の足場を作る為に槍型を撃っていた。
「よし、いいぞ。譲ちゃんが目玉種を倒してくれたおかげで跳躍が安全にできる。助かるぜ。あとは槍型が反転する前に倒しちまうぞ」
「はい」
私は返事をすると槍型を後ろからひたすらライフルで撃ち殺していく。
「はぁはぁ」
私は疲れていた。でも、戦いは続いている。
「まだ、終わりじゃない。敵は沢山いるぞ」
「はい」
「返事が小さい」
「はいぃい!」
生きようと必死に撃つ。私は知らなかった。実際の戦いはゲームと違って疲れる。神経を研ぎ澄まして生きる為に必死になる。
「ぎゃぁぁぁぁいてぇぇぇぇえ。足が足がくわれたぁぁぁぁ」
だが、相手も生きる為に人を殺した。
その一方で
「邪魔なんだ。無駄弾なんだよ」
と言って人を殺す人もいた。その人は自分の弾が切れたから一緒に戦っていた仲間を殺して武器を奪う。でも、それは戦力を削る事になる。だから、囲まれて喰われた。助けを求める声と共に肉が引きちぎられて噛み砕かれていく声がする。銃声と悲鳴。そこは地獄とも言えた。しかし、そこでは誰もが必死に生きていた。
気が付けば1時間が経過し、戦いは終わった。手に持っている武器も誰のだかしらない武器である。鉄騎士も途中で2回乗り換えた。
それでも私は生きていた。無事に帰路に着き受付所でお金を貰う。キャッシュカードには大金が注ぎ込まれていた。しかし、鉄騎士の修理など考えると妥当と言えるお金でもあった。
「よう、譲ちゃん。無事に生きのびたな。俺の予想が正しければ鉄騎士に乗って初めての給料というところだろう」
「はい、そうです」
「そうか。俺も給料を貰うところでな。譲ちゃんが久しぶりだよ。最近は軟弱なばかりが多くてさ」
そう言いながらベテランの鉄騎士乗りは受付でお金を受け取る。
「まぁ、必死に生きて手に入れた金というのは使いどころが悩むよな」
私は手に持っているキャッシュカードの金額を見て確かにそうだと感じた。一応、別のキャッシュカードにお金を少しだけ移して、大金の入ったキャッシュカードはすぐにしまう。
「頭のいい譲ちゃんだ。この辺りは治安がいいが。別の場所では治安がわるいから正解だ」
「はい。ただ、今日はありがとうございました」
私は今日のことのお礼を言う。
すると、明るい声でこう言う。
「気にすんな。俺は金の為に鉄騎士に乗る最低な者達なんだ。譲ちゃんを生かしたのもお金の為ということだ」
「…そうですか」
「そう、そういうことだ」
両手を組んでベテランの衛士乗りは頷く。
「おじさーん」
「んっ、おお、カリヤ。イリーネ。どうした、俺に会いに着たのか」
小さな女の子二人がベテランの鉄騎士乗りに駆け寄る。その後にすごく綺麗な女の人が来る。このベテランの鉄騎士乗りの妻なのだろうか。
子供を抱きしめて頭をなでると、落ち着いた声で女の人にこう言った。
「やぁ、アネッサ。元気にしているか」
「ええ、しているわ」
「そうか、わかった。それから、もうすぐだ」
「わかった。さぁ、カリヤ、イリーネ。まだ、おじさんは忙しいから帰るわよ」
「はーい」
「またね、ばいばい」
「きをつけてね」
アネッサという女の人はそう言うとカイリとイリーネの手を引っ張って去っていく。
ベテランの鉄騎士乗りはしばらく優しい笑顔で手を振った後にこう言う。
「アネッサは別れた妻なんだ」
「…」
「まぁ、あれだ。アネッサと結婚してまともな仕事をしながら働いていたんだがな。長女が3歳の時に会社が倒産したんだ。結果、おれは金を得る為に鉄騎士乗りに後戻りだ。今思えば若い時に金を貯めておけばと思ったよ。でも、これもそれも次で最後だ」
「次?」
「そうだ、次で終わりだ」
「あとどれくらいのお金が必要なんですか」
「まてまて、譲ちゃん。いくら、何でも止めときな」
「教えてください」
「まて、まて」
私は必死にあとどれくらいのお金が必要か尋ねた。
結局、相手はあきらめて必要な金額を私に教えてくれる。
「…足りる」
「まて、貰えないよ」
「じゃあ、私に鉄騎士の乗り方を教えてほしい」
「…」
「…」
「本気かい?鉄騎士乗りになってお金を貰う最低の者達の世界は厳しい。それでもかい」
「うん」
私は迷うことなく頷く。
「そうか。それ以前に鉄騎士になってまでお金が必要な理由はなんだい?」
「…お母さんが死んだ。死んでお金が必要になったんだ。高校に入学金は何とかなったけど学費が足りない」
「つまり、その為に鉄騎士に乗るのかい。それも何度も出撃する必要があるぐらいに」
「うん」
私は頷いた。
「そうか。よし、覚悟を決めた。こいつは利に適った交渉だ。俺は譲ちゃんに鉄騎士の技術を教える。対して俺は金を貰う」
「うん」
「よろしくな、俺はジャン。ジャン・ホルネルソンだ」
「烏丸 奈之」
「へぇ、名前からして日本からか。俺も丁度そこに住む予定だ。あそこは治安がいいからな」
「何処に住むんですか」
「千葉県だ。あの辺りは条件がそろえばいい県だ」
「私も千葉県の東側に住んでいる」
「おお、もしかして近くか」
「かもしれないです」
「いいね、いいね」
ジャンは私の背中を嬉しそうに叩く。ある意味で私にとって数少ない信用できる友達だった。彼はこの日、戦いを捨てる事ができた。私に鉄騎士の技術を教えるのと引き換えに。
私はジャンによって鉄騎士の技術を1から叩き込まれる。ゲームで基本操作を知っていた。しかし、ゲームと現実は似ていて違う部分もある。だから、ジャンから教えてもらうのは後に生き残るのに役立つ事ばかりだった。
その一方である意味でお母さんに感謝もしていた。お母さんはお父さんが幼い時に人との争いによって殺された後も育ててくれた。そして、私が物心付く頃にゲームを与えた。やるゲームは鉄騎士を動かすシミュレーションゲームが主である。つまり、冷静に今考えるならお母さんは自分に何かあった時の為にとゲームをやらせていたのだと思う。当時の私は純粋にゲームを楽しんでいた。母が帰るのが遅い日もあるから一人でお母さんのご飯も作って待っている間はゲームをしていた。私が難易度の高いミッションをクリアした時、嬉しさとさびしいような笑顔をした理由が少しだけわかった。
だから、私は必死になって生き続けようと思った。
さらにジャンは私が鉄騎士のミッションに出る間にジャンがお金を貯めて立てたレストランの経営を手伝うバイトをした。主な仕事は裏方で掃除や仕込み。時にはウェイトレスもやった。
また、ジャンは様々な武器や格闘技術を教えてくれた。ミッションで鉄騎士に乗る前などに治安のエリアに行く時は護身の技術も必要だからだ。
そして、私は彼のお陰で戦場を生き抜くことができた。大学にも入れた。でも、大学を出た後も鉄騎士に乗り続けた。ジャンは私が鉄騎士に乗り続けることに心配した。でも、鉄騎士に乗る理由はあった。それがイヴとの出会いだった。ジャンにその事を話したら素直に承諾してくれた。そして、私は空の者達から青い星を守る事ができた。
その後、静かな暮らしができると思った。けど、違う。人が人を殺す争いが起きた。結局、私は多くの人も殺した。
幸いジャンは戦いを捨てていた。だから、ジャンは戦いで死ぬ事はなく家族もそうだった。ある意味で友達といえる数少ない人たちだった。
そう守る価値は確かにあったのだ。戦いを捨てた人たちの為に戦う価値はあったのだ。
だからこそ、私とイヴは最後の戦いをした。本当に戦いのない世界を作る為に…