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No.35125の一覧
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[35125] log.42
Name: シギ◆145e19f4 ID:b1c7f256 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/27 15:16
 1998年7月31日

 
  京都嵐山 仮設補給基地 7時12分

  

 アナザーサイド 


 風神22中隊は京都嵐山 仮設補給基地で待機していた。
 
 和宮と廿六木は適当に座れる場所に座って、和宮は廿六木にこう言う。

「訓練生も戦わないといけない状況なのか。大変だな」

 和宮の声は普段とちがってすごく真面目な声だった。

 和宮の視線の先には赤いジャケットを着た隊長と思しき人が訓練生に話をしているところだった。

 それは廿六木にとっては意外すぎて
「なに、言ってのよ。ばかぁ」
と冷たい言葉を言ってしまう。

「そうか。でも、あいつらも瑞鶴か」

「そうね。あの子達は私達と違って斯衛ということね」

「そうだな」

 風神22中隊のメンバーは全員、武家の人じゃない一般人である。それなりの歴史のある家の人もいるが、斯衛ではない。本当だったら、陽炎で戦う予定だった。

 それなのに、風神22中隊は瑞鶴が支給されたのには烏丸が関わっていた。もとは烏丸に不知火が支給される予定だったが、彼女はそれを断り、風神22中隊に使わせるように言った。だが、1機だったら可能だが、12機だと無理があるので、代わりにという事で瑞鶴のA型が支給された。この事は風神22中隊なら誰もが知っている事である。それ故に斯衛と間違えられないようにカラーリングは迷彩塗装が施された瑞鶴となっていた。それはある意味で何処にも属さないという意味合いも含まれていた。

「でも、見ていると戦った事なさそうだな」

「そうね、見た限りだと五月女とは全然違うわね」

「あいつ、すげぇよな。入った時はすごく不安だけど。今は俺達がだか
らな」

「何よ、あいつを偉く気に入ってるじゃないの」

 和宮廿六木が何故か不機嫌なんだろうと思った。少なくとも廿六木の気持ちが今は報われることはないようだ。

 赤いジャケット、つまり嵐山中隊の隊長は話を終えると待機命令を出して風神22中隊の隊長と今後についての話をしに行く。

 隊長が去って訓練生はれ仲のいい人どうしで別れて不安な表情を見せていた。

 和宮や廿六木にもその様子はわかり、和宮は目の前で見えるグループに話そうと
「俺、ちょっと行ってくる」
と言って立ち上がる。

「んっ、何処いくの」

「いろいろ。もしかしたら、一緒に戦うんだ。なるべく不安は取り除いた方がいいだろう」

 それに何故か和宮にはあのグループがとんでもなく暗くて不安だった。

 それも無理もない。なぜなら、彼女らは今年の春に烏丸とシミュレーターで対決して壮絶なトラウマを残されたグループなのだ。

 そうとも知らず和宮は軽い声で
「よっ、辛気臭い顔をしてどうしたんだ」
と山吹色のジャケットを着た訓練生の肩を横から叩いて話しかけた。

「えっ、あっ、えっと」

 いきなり話しかけられて驚く山吹路色のジャケットを着た訓練生。

「よっ、怪しい人じゃないから、安心してくれ」

 そう言った瞬間にぐーで廿六木に殴られた。

「きゃぅん」

「このばかぁ、変態」

 げしげしという嫌な音で蹴られる和宮。風神22中隊の何時もの光景の一つだが、訓練生はドン引きであるのは言うまでも無い。

「まて、俺がいて、何を、ごは、何をした、とぅ、げは」

 3回目の蹴りを回避。立ち上がり構え和宮は回避失敗。

「たぁぁあ」

「ごほっぉ」

 さらに追撃攻撃。後ろに下がりながらも、その後は素早く攻撃を受け流し、場合によっては下がったり、前に出たりして避けていく。しかし、隙あれば
「いて、いて」
攻撃は当たる。

 剛という力は無くても廿六木は力の流れを理解するのが得意である。だから、その流れを利用して攻撃力を上げて和宮を追い詰める。

「あ、あの…」

 山吹色のジャケットを着た訓練生は廿六木を止めようとする。

 すると、笑顔で廿六木は
「いいの。何時もの事だから」
と言う。

「そうそう、何時もの事だからな、おっと、あぶない。でも、止めとけ、廿六木」

「…ぁぁ?ふざけるな、勝負は終わってなわ」

「違う。ここで体力を使ったら、この先の集中力が切れちまう」

「…あっ」

 そう言って和宮の顔に当たる手前で回し蹴りが止まる。

「…なぁ、本当に俺死ぬから」

「戦いで死なないじゃないの?」

「いや、そうだけどさ。お前も俺もある意味で素手でも人間凶器な状態なんだよ」

 実際に風神22中隊での近接戦闘に関しては廿六木と和宮は高いレベルを持っている。

「うっさい。あんたが変態なのがいけないのよ」

「わかった、判ったから、何で構えるの。それに、廿六木。だめだ、ここで体力を使ったら集中力が切れちまう」

「…うぅー」

 和宮の真面目な声に廿六木はうめき声を上げて手を下ろした。

「…」
「…」

 この様子を見ていた訓練生5人はどうすればいいのかと悩んでいた。

 対して、和宮は後ろを振り向いて
「まぁ、あれだ。後方補給基地だし、betaと戦う事になっても比較的楽な方だから安心しな」
と言う。大陸で何度か戦ったことのある和宮だから言える意見だった。

「は、はい。ありがとうございます」

 山吹色のジャケットを着た訓練生は敬礼をする。それにつられて残り4人の訓練生も敬礼する。

「気にするなって、俺は衛士でも底辺の人なんだ。互いに仲良くしよぜ。あ、俺は和宮な。それで、あいつが廿六木。俺の仲間だ」

「風神22中隊 廿六木 葉月中尉」

 何故か廿六木はふて腐れたように言う。

「おい、どうした」

「なんでもない」

 乙女心を理解できるなら廿六木の気持ちに気が付けるだろう。廿六木は他の女の子と仲良くする和宮に嫉妬をしていた。

 和宮自信には下心もなくただ訓練生の不安を取り除こうとしていた。言うまでもなくすごく良い奴である。ある意味で報われない人である。それは廿六木でもあるが…。

「…なぁ、お前らどうした。こんな暗い顔をして」

「あ、いえ。何でもないんです」

 ボーイッシュな訓練生は両手を振りながら作り笑いをしながら言う。

「そうか。もし相談ができるなら廿六木に話すのもありかもな」

「何で、私なのよ」

「男の俺に女の子の悩みはわからないから」

「…」

 自信たっぷりに答える和宮、それを遠くで見ていた平土と七条は和宮、そこまで気を使えるなら、廿六木の気持ちにきがついてやれと思った。





 和宮と廿六木が訓練生と話している間、その頃五月女とイヴは鉄騎士

 歌鶫の整備を終えて休んでいた。歌鶫を整備するにも見たこともない戦術機だと整備班は興味を示したが整備したくても心得がなかった。結果的に五月女とイヴは整備班と共に整備をしていた。

 今日で3日目。鉄騎士の損傷は軽微で簡単な整備で万全な状態まで治すことができた。

「イヴさん」

 五月女はイヴに話しかける。

「五月女さんは人類がbetaに勝てると思いますか」

 その問いにイヴは複雑な心境だった。烏丸がいない今、空の者達、すなわちbetaに勝って青い星を守った後に何が残るのだろうかと思っていた。でも、勝つか、負けるかに関してはこう答えた。

「勝てます。しかし、様々な障害があります。第一にこの防衛で人員の損耗を最小限に抑える事。次に脅威となるハイヴの存在の対策。そして、戦いの決定打となる戦術が確立してない事です。基本的に防衛側は少ない戦力でも防御可能とされています。つまり、攻撃側に回るには防衛する戦力よりも上をいかなければいけません」

「だから、今は勝てないということですか」

「はい、そう言うことになります」

 現段階でbetaに勝てるという楽観をイヴはできなかった。烏丸がたとえ生きていても同じ事である。

「五月女さん、不安ですか」

「…不安なんです。戦って守って、生きても死んでも、答えが見つからない気がするんです」

「…」

 五月女は自分の手を見てこう言う。

「いつか、人は死ぬ。それでも死にたくなくて必死に生きている。でも、何故かただ流されて生きている気もするんです」

「それはあなたが生きているからです」

「えっ?」

「生きるとは酷なものです。生きる為に誰かを犠牲にしています。今日の食べ物でも誰かの死によって生まれる物です。でも、その答えが正しいかわかりません。でも、答えを探して求めているのは生きている証なのだと思います」

「見つかりますでしょうか」

「わかりません。例え、長く生きても真の変わらない不変の答えにたどり着けない事も沢山あります。今の私にも該当する答えは見つかっていません」

「私にも探せるのかな」

 五月女は歌鶫を見ながら呟く。

「行動しない限り見つからないと思います。これは奈之さんも言っていました」

「あの人らしいですね」

 そこに小さな笑いは無い。けれども、穏かで和やかな雰囲気があった。

 歌鶫は静かに羽ばたく時を待ってるかのように静かにハンガーで膝を付いていた。








 戦う事は壊す事、奪う事だけでない。
 時に己に問い
 時に他者に問い
 知ることも戦いである。







  9時11分 



 島崎、佐々木、それから嵐山中隊の中隊長と共に地図を見ながら、betaが来た時の作戦を考えていた。

 佐々木は隊長でも副隊長でもないが、指揮系統に関しては優秀なので、島崎は仲介役として佐々木が作戦を言いやすい状況を作ることだった。

 対して嵐山中隊の中隊長は佐々木の言うことに嫌な顔を何一つ示さなかった。むしろ、戦力を一つとして無駄にしない作戦だった。

 基本は風神22中隊が前に出て戦う。その際、風神22中隊の佐々木、常盤、頬月が護衛をしながら訓練生は後方の支援射撃を担当してもらうという作戦である。場合によっては補給コンテナの代わりをしてもらうわけである。

 変わりに嵐山中隊の中隊長は前に出て戦ってもらう事になる。本来なら嵐山中隊の訓練生を守る事に集中すれば良かったが斯衛の一人として譲れない部分もあった。ただ、この作戦はその事を見越して考えた佐々木の作戦だった。言うまでもなく、頭の回転の速さは恐ろしい人である。ただ、この回転の速さが本来なら佐々木の戦闘能力では生き残れない状況でも生き残れたわけである。

 今のところbetaに対して最終防衛ラインで総勢力を集めて防衛をしている。今のところは善戦して、避難も殆ど順調である。つまりはbetaの猛攻に耐えるだけである。しかし、心配な点は鷹ヶ峰の近くで戦闘が繰り広げられている事だ。

 ただ、島崎の感想だと海軍と陸軍の連携などが取れている気がした。上の方の遅さは変わっていないが末端に対しての中間の人間の対応の早さが良くなっている気がした。その為、前よりも迅速に対応できている気がした。

「ともあれ、基本はこの基地防衛と基地から戻ってくる人たちの一時護衛です。それまで体を休めとくのが得策かと思います」

「そうだな、俺もそう思う。しかし、風神22中隊。噂通りに隊長でない人が指揮を執るとは聞いていたが、本当だったとは」

「中尉、そんなに風神22部隊は有名なのか?」

 島崎が問いかける。

「ええ、有名ですよ。島崎大尉。斯衛でも新OSは人気が高くて私もお気に入りです」

「少しだけ照れますね、島崎中隊長」

「まぁ、少しな…んっ?!」

 島崎と嵐山中隊の中隊長に通信が入る。その内容は退却しているある中隊がbetaに襲われて被害にあって救援を求めているという事だった。場所はすぐ近くなので援護には行ける。

 島崎と嵐山中隊の中隊長、二人は顔を見合わせる。

 それと同時に警報が鳴り響き、コンディションレッドと一部の防衛線が破られて西から接近しているというアナウンスが繰り返される。

「佐々木、行くぞ」

「了解」

 島崎、佐々木、嵐山中隊の中隊長はハンガーへと急いで向かう。





 一方、コンディションレッドになる前に五月女は言葉にならない不安が頭によぎった。

 外の様子を見にいくと景色の遠くが赤い。あの場所では戦いが起きているのだと思わせる赤だと五月女もイヴも思った。

 鷹ヶ峰では防衛の為に多くの人が戦っていると言う。しかし、今の任務は退却する部隊の護衛と補給にこの基地の防衛である。

 幾人か五月女意外の人も来ている。

 誰かが
「ねぇ、あれ」
と言いながら指をさす。

 五月女も指をさす方向を見た瞬間に五月女の不安が爆発して恐怖が最大となった。

「だめ、いけない」

 いきなり叫びだした五月女に周囲はどうしたのかと思った。

 五月女は手を伸ばすように走り出そうとする。

「どうした、五月女」

 すぐ近くにいた七条が押さえつける。

「落ち着け、五月女」

「下げて、早く」

 半狂乱になりながら叫ぶ五月女。

 その理由にはある理由があった。

 4機の戦術機が少しだけ高い高度で飛んでいた。だが、状況は見るからに良くない。一部は腕や足を失っていた。

 五月女が叫びと同時に一筋の光が戦術機を貫いた。それと同時に爆発して粉々になる。言うまでもなく一人死んだ。

「おい、誰か通信入れてくれ、とにかく。まずいぞ」

「わ、わかった」

 一人の整備士が通信を入れる。

 しかし、急に五月女が静かになって両膝をついてこう言う。

「助からない」

 その瞬間、3機の戦術機が3つの光、つまり光線級のレーザーによって撃墜された。

 その場にいた人たちの脅える声がする。

 でも、五月女はまだ恐怖が続いていた。

「…」

 五月女は立ち上がってこう言う。

「まだ、誰かが死ぬ気がする」

「まて、中隊長に許可をもらってやるから、さきに歌鶫に乗って待機してろ」

「わかりました」

「それから、無理するなよ」

「…はい、取り乱してすみません」

「大丈夫です。今の五月女さんなら体が覚えているので半狂乱になっても問題ありません」

 イヴがフォローを入れる。ただ、もっと良い言い方はなかったのだろうと五月女の後ろ姿を見ながら思う七条。ただ、逆にそれが安心した。

 そして、七条が島崎中隊長に連絡をしようとする時、コンディションレッドを伝えるアナウンスと共に警報が鳴り響く。

 戦いが始まる。この警報を聞いた多くの者が感じた。
五月女はすぐに歌鶫に乗り込むと出撃の許可が下りて先行と偵察を任される。

 整備士の誘導の指示に従って鉄騎士 歌鶫を移動させる。

「システム 異常なし。天候快晴。視界良好です」

「イヴさん、行きましょう」

「はい」

 歌鶫を跳躍させ、少しだけ高度を取ってすぐに降下して加速を得る。

 歌鶫が出撃する姿を見ていた人はまるで鳥が飛んでいるのかと錯覚を覚えていた。






 ああ、歌鶫が羽ばたいていく
 救いきれないと判っていながら
 自らの意思で羽ばたいて
 小さな命を救いに行く
 それは生きている者の証であり
 一つの答えなのかもしれない。





9時54分



「怯むな。怯むなら撃って、生き延びるぞ」

 補給の退却途中、防衛線の一部が破られてbetaの襲撃にあった中隊。

 一応、200体ほどの要撃級は耐え切れたが、後続が来ていた。この場から離脱しようとしたら仲間が倒された。つまり、高度を上げて逃げる事も許されない状況である。すぐに光線級を確認すると後方にいる事がわかった。だが、それを守るように前から順に突撃級が、要撃級が数え切れないほどいた。

「お前ら、残弾の確認をしろ、わかるな」

「はい、隊長、友を守る為であります」
「はい、隊長、生き残る為であります」
「はい、隊長、betaを倒して勝つ為であります。」

 これが絶望的状況でも士気は高かった。それだけ仲間意識が強く誰かを救えるなら、最後まで戦い続けられる自信があった。

「よし、全員突撃」

 隊長の合図と共に6機の戦術機は突撃をする。幸い突撃級を倒すために必要な跳躍するだけの余裕はあった。

 ある者は側面から長刀で切り伏せ、ある者は後ろから回り込んで突撃砲のチェーンガンで撃ち倒す。

「人気者は辛いね」

「ああ、辛いさ。でも、嬉しくない。でも、がんばれる、だから、お前もがんばれ」

 仲間を励ましあって突撃級を蹴散らしていく。

「10時の方向、要撃級接近。突撃級に注意して対処しろ」

「了解」

 互いに背中を守り、仲間は兄弟、家族、恋人、仲間は一人の為に、一人は仲間の為に戦い続けた。そこに暗い瞳がせせら笑う事はない。

 もし、あざ笑うなら喰い、潰すかである。

「うあぁぁぁぁ、うってくれぇぇぇえ」

 戦車級に取り付かれて助けようがない状態になる仲間。

 その悲痛な叫びが止まる事はない。

「たすけてぇぇぇ、だすげでぇぇぇ」

 でも、仲間にそんな余裕はなかった。

 それだけ、激戦で仲間の為に最後の手向けすらできない事が辛かった。

 肉が引きちぎられ、苦悶の声。それに対して恐怖ではなく、確かな怒りしか抱かなかった。

 バイタルで仲間が戦いから開放された時、仲間は僅かな安心とあの世で安らかに眠ってくれと願う。

 隊長は長刀で要撃級を切り裂きながら
「あいつの為にいきるぞぉおおお、俺達が死んだら顔向けできん」
と叫ぶ。

 仲間も泣きながら戦い続ける。
「ちくしょおおおおおお、かえせぇぇぇぇ」
 大きな憎しみの声上げる。

 でも、要撃級は右前腕を水平になぎ払い戦術機を吹き飛ばす。

 倒れた戦術機は立ち上がろうとするが駆動系がやられて立ち上がれない。

 仲間は助けに行こうとする。でも、他の要撃級が容赦なく邪魔をして、逃げることを許されない仲間は要撃級に囲まれる。必死にチェーンガンを撃って倒し続けるが弾が切れる。リロードをしようとしたが、腕が壊される。

「やめろ、くるな」

 自分の身に何が起きるか想像ができた。

 その想像は想像通りにことが進む。

 要撃級は脅える人に対して囲み。何度も何度も前腕で粉々になるぐらい叩き潰した。

「ぐあぁぁぁぁぁあああ」

 1回の攻撃で死ねなかった。激痛で悲鳴が聞こえる。操縦室では体から血が出て自分の体がちぎれるのが判った。何かが漏れているのもわかる。でも、幸運なのだろうか、止まぬ攻撃によって戦いから開放される。

 戦場では平等である。どんな者にも平等に生が与えられ、死も与えられる。

 故に仲間を奪った相手を殺す事もできた。

 先ほど仲間を叩き潰した要撃級を隊長やその部隊の人は長刀で切倒す。

 確実に追い詰めていくbeta。仲間も二人へって4人だ。

 これ以上は誰も死んで欲しくない。誰もが思った。そんな時、機械的な声で援軍が来るという知らせが来る。先行として1機が向かっているという。たかが1機というが自分達の為に来てくれるのは嬉しかった。即座に仲間に応援が来る事を伝えてこの場の死守し、耐え抜く事を決し仲間意識と士気を高める。

 でも、ここは戦場であり、負けた者は殺される。

「きゃぁあぁぁぁぁあ」

 突撃級の攻撃をぎりぎりで回避。左脚部をやられて身動きができなくなってしまう。

「ライトニングアロー3、行けるか」

 隊長は叫ぶ。

「ライトニングアロー3了解」

 幸いどのbetaにも狙われていない。ベイルアウトすれば十分に助ける余地もあった。

 仲間の一人が助けに向かう。

「ちっ、どけ」

 目の前の要撃級を切り伏せて前へ。1対程度だったら大きな問題はない。しかし、数で来られたら助けるのも難しい。

「どけ、じゃまだぁ」

 光線級によって跳躍して仲間のところにいけないがすごくもどかしかった。

「やぁぁぁああ、戦車級がぁぁぁあ」

 3体の戦車級に取り付かれたようだった。

「まにあぁあぇぇぇええ」

 長刀が折れた。即座に短刀に切り替えるが間に合いそうにない。

「いや、あぁぁあ」

 彼女には戦車級の手が見えて自分を食い殺そうとしているのが判った。

「…」

 鈍い音。べちゃりべちゃりと肉を叩きつける不快な音がした。

「…」

 戦車級の手が見えない。

「怪我はありませんか」

 機械的声だが、不思議と安心感のある声を彼女は聞いた。痛みを感じない自分が生きていた事に安堵して力が抜ける。

「こちら、風神22中隊、エアロ11です。助けに来ました。急いで乗ってください」

 すると、隊長がこう言う。

「待ってくれ、彼女は我々が助ける。君は君で何とかやってくれ」

「わかりました」

 エアロ11、つまり五月女である。五月女は素直に隊長の言うことを受け入れてこう言った。

「では、光線級を倒してきます」

 五月女はそう言って歌鶫を巧みに操縦してbetaとbetaの間をすり抜けてデータリンクから割り出した光線級の場所まで飛んでいく。その際のエネルギーはbetaを倒してエネルギー補給、それ以外は殆ど無視して向かう。

 他の者が見たら光線級のいる場所に辿り着くのは非常に絶望的だが、五月女はそれを可能としていた。

 光線級の元に辿り着くやいなや、即座に形成炸裂弾で吹き飛ばしつつ、接近、エネルギーランスで突き刺し、切り裂き、腕の機銃も駆使して蹴散らす。

「光線級が…」

「なんだ、あれは…小さいのに何を…」

 鬼神ではない。ただ、鳥が飛んでいるようだった。

「お前ら、ぼさっとするな。礼を言うなら早く助けろ」

 五月女の活躍によって光線級が排除された事で上を取る事ができる。

 弾が残り僅かではあるが、応援にくる仲間に対して少しは数を減らせるだろう。

「ライトニングアロー3はライトニングアロー6の救助、それ以外は近づく奴らを蹴散らすぞ」

「了解」
「了解」

 それぞれがたった一人の仲間の為に戦った。

 程なくして、風神22中隊何名が辿り着く。

 戦車級に食われかけた人も無事に助けられた。
一部は嵐山中隊の護衛である。

「こちら、風神22中隊中隊長 島崎 明菜。ただちに退避をお願いします」

 島崎がそう言うと

「わかった。一度引く。でも、すぐに再編して戻ってくる」

「了解です。お気をつけて」

 3機の戦術機は嵐山仮設補給基地へと向かう。

「よし、風神22中隊。この場を死守して退却する者を支援。安心して補給ができるようにするぞ」

「了解」

 士気を上げるのは島崎の得意分野である。

 対して、佐々木は嵐山部隊が後方支援できる位置に待機させる。

 佐々木の作戦はシンプルだ。先の戦いで五月女は遊撃に向いている。特に光線級の脅威を素早く消すのは非常に大きい。ならば、やる事はただ一つ。数を減らす事である。

 また、佐々木にはある考えがあった。ある程度の損傷になったら乗り換えする作戦である。本来は一機の戦術機を使いまわしなんてしない。むしろ、個々の癖などを反映しているので戦い始めた最初から最後まで同じ戦術機である。だが、烏丸と五月女の戦い方を見て思いついた事である。あの二人は戦術機を使い捨て感覚のように扱う。特に烏丸は顕著だった。鉄騎士での模擬戦も状況に応じて腕などを犠牲にしたりする。

 それを見ていたら乗り換えも良いかも知れないと思った。試しに烏丸に話したら何の否定もせずにいいと思うという返事が返ってきた。その結果、風神22中隊は他者の戦術機を乗る訓練もやっていた。

 そして、それを得意としていたのは…

「まじで、頼むから。来ないでくれよ、うわぁゎうわぁ」

 鈴城である。よく皮肉をいってB級映画の脇役なのか主役なのかはどう
でもいいが、そんな映画に出て絶望的な状況でも生き残れるような男。ある意味で運だけで生きている男だが、他者の戦術機をすぐに順応して乗りこなす男だった。

「あぁー、本当に危ないぜ」

 そして、何故か仲間から孤立してbetaに取り囲まれやすい男でもあった。訓練のシミュレーションでも貧乏くじの大当たりを引くかのごとく囲まれる。でも、何だかんだでしぶとい奴である。

「どうだぁ、まいったか。あはは、やったぜ」

 突撃砲を撃ちつくして、リロードをしながら声を上げる。

「…弾、欲しい」

「んっ、葛葉か。ほら、大切に使え」

「…」

 弾倉を一つ受け取ると素早くその場から立ち去る。

「おい、どうしたんだよ」

 いきなり何処かへ言ってしまう葛葉に落ち込む鈴城。

「たく、何だよ」

 ふて腐れながら前を向く。すると、そこには大量の戦車級の山だった。

「なんかぁ言ってくれよぉおおおおお」

 そして、取り囲まれる鈴城であった。

 一方、佐々木は的確に指示を出しながら訓練生に撃つ場所を指定する。

 訓練生にただひたすら撃たせるだけだが、弾幕の量としても制圧面で
も十分な効果があった。また、佐々木が撃って欲しい場所はなるべくbetaを密集している場所を指定しつつ、それをある程度予測していた。beta全体の動きは理解できなくても、佐々木は何となくbetaの動きを観察する事で何をしようか何となくわかった。

 CPの報告だとbetaの数は6000らしいが、比較的優位に戦えている状態である。

 佐々木はデータリンクから来る情報を処理しながら作戦を素早く考えて移動を開始する。

「エアロ2、エアロ5、今から指定する座標に向かって、囮をお願い」

「了解」

「エアロ2了解」

「エアロ4、エアロ9は確認できた光線級をお願い。それ以外はエアロ4、エアロ9の護衛を」

 五月女は重光線級を殲滅する為に別の光線級を排除できない。

 その為、佐々木は廿六木と和宮に劣りを任す。

 廿六木と和宮は一度突撃して、betaを引き寄せて囮をする。

 そのお陰で光線級を狙撃するだけの余地が生まれる。

 すぐさま八角と平土が狙撃する。

 光線級を撃破すると廿六木と和宮に次の移動場所を指示する。それは訓練生がいる方向である。しかし、佐々木も考えていた。なるべく側面から攻撃できるように訓練生を移動させた。

 すぐに訓練生に指示を出して撃たせる。

 そのうち40体の突撃級が方向転換して向かってくる。

「射撃中止。噴射して上から倒せば大丈夫です。ただし、高度を上げすぎないように注意」

 そう言うと常磐を先行させて手本を見せる。

「今の通りにやるんだ」

 先行した常磐は倒せるだけの突撃急を倒す。それでも、数は20いる。訓練生にはある意味で脅威となる数だった。

「うわぁああああ」

 一人がチェーンガンを撃つ。無理も無い。戦いは怖い。佐々木も早まってチェーンガンを撃つのは予測していた。

 佐々木がすぐに落ち着かせようとするが、

「志摩子、訓練を思い出して」

山吹色の強化服を着た仲間の一人が落ち着かせた。

「あ…うん、わかっている」

「よし、跳躍準備………」

 的確に距離を測って
「跳躍開始」
 しっかりと指示を送る。

 その際、佐々木は高く飛びすぎていない者がいないか確認する。

 幸い、高く飛びすぎた者はいなかった。佐々木は誰か一人は高く飛びすぎると思ったがそうでもなかった。

 確実に後ろを取れば無謀なので的確に指示をだして突撃級20体を片付ける。

「全員、弾薬を確認、9時の方向に支援射撃開始準備。エアロ2、エアロ5、支援射撃がきます」

「了解」

「了解、助かるぜ」

 二人で200ほどの要撃級との殲滅をやめて即座に離脱。

「撃て」

 たとえ訓練生であっても考え方一つで十分な戦力になる。

「こちら、エアロ1、エアロ7、エアロ12が補給に向かう」

「了解、エアロ3、エアロ8は中隊長と合流してください」

「了解」
「了解」

 数はだいぶ減っている。佐々木はデータリンクをして五月女の状況を確認する。

「はぁはぁ」

 体力的には一番大変な役をやっている五月女は必死に息を吸っていた。バイタルに関しては体力的にきついのか心拍数が高い。

「イヴさん、五月女さんを退却させて私の方で合流をさせて後ろで休ませます」

「諒解、即座にそちらに移動します」

 佐々木はイヴの通信を終えるとメンバーの突撃砲を構えて迫り来る要撃級をチェーンガンで撃ち抜く。

 近接戦にならない限り安全だ。また、支援が得意な佐々木にとってどの要撃級を倒せばいいか容易に検討がついていた。

 そして、平土と葛葉が無事に合流。即座に訓練生から弾薬を補給。約120の要撃級を倒して周囲一体の制圧は一応に終わった。

「やった、死の8分を乗り越えた」

 訓練生の誰が言った。

 だが、それは安全とは言えない。

 見える範囲内の敵を倒せただけでレーダーやデータリンクなどで確認して本当に安全が確認できるのだ。

「!」

 要撃級が残っていた。

 即座に反応しなければいけない。佐々木が突撃砲を構えた。

 しかし、それよりも訓練生の一人が滑空砲を撃って対処した。

「よかったぁ、間に合った」

 ボーイッシュでショートヘアーの訓練生が安心した顔をする。

「あ、ありがとう。安芸」

「いいって、それに前に似たような事が訓練であったしさ」

 佐々木は訓練を終えれば戦場で簡単に死なないだけの実力を得られると思った。

 だが、CPで思いがけない通信が入ってきた。

「こちらCP、基地がbetaに襲撃されました。ただちに指定座標に待機をお願いします。基地を破棄します」

 通信の内容は嵐山仮設補給基地がbetaに襲われたらしい。さらに詳細を聞くと基地の残っていた戦術機部隊が対処を行い退却は問題なく行われていた。

 即座に風神22中隊と嵐山中隊は退却を開始。

 指定座標へ向かう。

 だが、五月女が
「高度を下げて」
と言う。

 一体何だろうと思うが、佐々木は高度を下げるように指示を出す。

 すると、レーザー照射の警告音。幸い、誰一人、光線級の餌食になることはなかった。

 でも、状況は最悪だった。光線級によって移動ができなかった。一応、だめもとで島崎は支援砲撃を要請した。

 結果は支援砲撃ができない状況で無理という返答だった。佐々木は即座に現在の地点から光線級のレーザー照射から身を隠せる場所の距離を調べる。

 結果は遠すぎた。全員で突撃すれば一人は辿り着けるだろう。でも、全員が生き残る点では不適合だった。

 しかし、しばらく時間がたって烏丸は周囲を見回して
「…あれ、すみません。佐々木少尉」
と言いう。

「どうしたの?エアロ11」

 佐々木は五月女に尋ねるが、何かに取り付かれたように機体を中に浮かせる。

「もう、大丈夫かも」

「えっ?」

 そして、五月女の歌鶫は高度を試しに上げてみる。

「イヴさん…」

「レーザーロックありません」

 何故か光線級の脅威が消えていた。

「…」

 五月女は何も感じない。ただ、今は普通で何も怖くなかった。

「佐々木少尉、光線級が…」

「もしかしたら、別の部隊が倒したのかも」

 誰かが通信を聞いて光線級を倒してくれたのかもしれない。それか、光線級が別の場所へ移動したと考えることもできる。

 いずれにしろ、好機であるので佐々木は即座に移動を提案。何事もなく目標座標に辿り着いた。その後、第3ラインへの移動の指示が来たので移動するも他の部隊と連絡がつかない状態だったので、交代で周囲を警戒して休憩を取る。その際、定期的な通信は止めずにる。



 待機から11時34分。そろそろ、8月1日になろうとする頃、和宮と廿六木は訓練生3人と歩哨をして周囲の警戒をしていた。本当は和宮と廿六木だけで行うつもりだったが、手伝いという事で、和宮が連絡係として承諾した。

「廿六木、どうしたんだ?」

 和宮は廿六木に話しかける。

「なんでもない」

 廿六木はちょっとだけ不機嫌だった。ある意味で本当は良くないが和宮と二人だけになれると思ったのになれないことに不満を覚えていたからである。

「そうか。それなら、いいんだ」

 そう言いながらも今は奇襲に備えて盾と突撃砲を構えた状態で戦闘を移動する。

「…」
「…」
「…」

 訓練生3人のうち、一人は廿六木の気持ちに恋人がいて歓迎されてない事に気がいて黙って周囲を警戒し、もう一人も廿六木の歓迎されてない何かを感じて黙っている。ただ、若干一名、山吹色の戦術機は気が付かず、ただ、真面目に周囲を警戒していた。

「…」

 和宮はなんだろう。時々、女の子同士が集まった時に言葉にならない怖い気配を感じていた。

「な、なぁ、戦いが終わったら一緒に食べに行かないか」

「…」
「…」
「…」

「うっさい、変態」
 返ってきた返事は廿六木のみ。

「…はい」

 何故だろう、和宮は何も言ってはいけないと感じた。次に何か言ったら廿六木に滑空砲で吹き飛ばされるような気配を感じた。

 返事を返すと再び和宮は戦闘で歩いていく。

 住宅街に入りレーザーによる脅威はないが奇襲は怖い。曲がり角や死角に最新の注意をしながら先に進む。

「…!」

 警報が鳴った。すぐに和宮はセンサー類を調べる。でも、何も表示されていない。

 だが、即座に和宮は過去の経験から
「建物から離れろ。すぐに逃げるぞ」
と叫ぶ。

 廿六木もそれに関しては何も言わない。ただ、過去に地中からの奇襲と建物を破壊しての奇襲で仲間が死んだ経験から導き出された経験だった。

 しかし、訓練生は反応が遅れる。

 壁から突撃級。山吹色の瑞鶴が押し倒される。

「廿六木」

「判っている」

 廿六木は即座に突撃砲を構えて狙いを定めた。

 だが、それを撃つ前に銃声が2発。

「大丈夫か」

 和宮は急いで訓練生に駆け寄って声をかける。

 その一方で廿六木は誰が撃ったのだと思って後ろを振り向くと左腕のない不知火がいた。

「風神22中隊か?君達の通信を聞いて来た。大丈夫か」

「教官」

 訓練生が声を上げる。

「今は大尉と呼べ」

「失礼しました。大尉」

「まぁ、良い。ともあれ、死の8分を生き延びて少しは衛士らしい面構えになったか?今はどうでもいいか、ん?」

 不知火のメインカメラに見たこともない戦術機が移って不知火を操縦する大尉は首をかしげた。

「…大丈夫ですか」

「おっ、エアロ11」

 いうまでもなく、五月女が乗る歌鶫である。

「よかった。通信を聞いてあわてて来たんですが。えっと…」

「帝国陸軍 真田 晃蔵(さなだ こうぞう)大尉だ」

「始めまして、五月女 瑞穂少尉です」

 通信越しで五月女は敬礼をする。

「見たことない戦術機だな」

「はい、歌鶫です」

「そうか、良い名前だ。さて、殿は私が勤めよう。風神22中隊。第8防衛ライン上の京都駅に向かってくれ。あそこが集積所になっている。うまく、いけば補給が受けられる。だから、教え子を頼む」

「却下だ。それなら、俺達の代わりにあんたが守ってください」

「そうね。そいうのは私達の役目ね」

「お、お前達」

「こちら、エアロ6。すぐに京都駅の集積所の方に向かって。要撃級を200確認して今はエアロ1、エアロ8、エアロ12が抑えている。一応、エアロ4、エアロ7向わせます。とにかく、途中合流で逃げてください」

「諒解。怪我人がいるから集積場で治療の準備をよろしくと伝えてくれ」

「な、何故それを!」

「大陸で廿六木と一緒に戦っていた事があるから何となく感で言いました。ほら、早く行ってください。五月女、みんなを頼むぞ」

「はい」

「すまない、このご恩は忘れない」

「気にしないでください。代わりに突撃砲を二つも置いてくれるんだ。とにかく、早く行ってください。訓練生だと逃げ切れなくなっちまう」

「和宮、あんたも手伝いなさい」

「わかってるてぇ」

 和宮はそう言うと廿六木に厳しいお声をかけられながら大量の要撃級へと突撃した。

「急いでください。早く逃げれば和宮少尉も廿六木中尉も逃げられます」

 そう言って訓練生が逃げられるように安全な道を選んで行く。

 途中、嵐山中隊のメンバーと風神22中隊の何人かと合流。京都駅へと向かう。

 その際、なるべく訓練戦でも楽に行けて光線級に脅威に晒されないルートを佐々木は選んで進む。先頭は嵐山中隊の隊長と真田大尉が戦闘を進む。

 そして、何事もなく無事に集積所に辿り着けると思えたが

「あ…」

 即座に五月女が何かに気が付いて急に立ち止まる。

 それと同時に要塞級が建物を破壊して現れる。

「!」

 しかも、運悪く訓練生の一人が激突して2時被害で2機の戦術機が要塞級に激突した戦術機と衝突してしまう。

「敵、大蜘蛛型確認。子持ちでありません」

 五月女は即座に形成炸薬弾を要撃級の頭部に向けて打つ。

 すると相手が五月女の方を向く。

「エアロ10、真田大尉を抑えろ」

「わかってるぜ。お願いだから、耐えてくれ」

「離せ、あいつらを助けなければ」

「嵐山中隊は中隊長の指示に従って移動を。お願いですから言うことを聞いてください」

 風神22中隊は無理やり真田大尉を抑える。幸い要塞級は五月女が向いている。しかし、弾薬類の殆ど足止めの為に渡したのが原因で戦えないのが実情である。

 つまり、この場で戦えるのは五月女だけである。

「…佐々木少尉。要塞級は私が何とかします。だから、急いで逃げてください」

「わかった。すぐに戻る」

「はい、大丈夫です」

 そう言いながら形成炸薬弾を打ち続ける。だが、決定打までいっていない。しかも、全ての形成炸薬弾を撃ちつくした。

「…」

 敵は大きく鉄騎士 歌鶫がから見れば要塞であった。

 しかし、それでも生きる為に臆する事なく歌鶫は身構えた。




 サイド 五月女。


 敵は要塞級。巨大でシミュレーターでも大きくて恐ろしい敵だった。

 そして、私の目の前に現に要塞級がいて私を狙っていた。

 幸い倒しても光線級は出てこないで大丈夫だ。

「…」

 ただ、でかい。一歩、歩く度に地響きを感じる。しかも、一見すると動きは遅くて弱そうに見えるが触手などの素早い攻撃は脅威だ。

 現段階で奴を倒す手段はエネルギーランスである。

 つまり、相手に接近して戦う必要がある。しかも、死角はないと思った方がいい。

「…来る」

 敵の要塞級の攻撃は酸性の攻撃。この隙に距離を縮める。

 だが、すぐに触手という攻撃が来る。今でもなく壁を蹴って加速して回避。自分が蹴った場所の建物が触手で壊される音がする。

 でも、距離が足りない。

 さらにクイックブーストを使って加速、

 尾節を切れば…

「エネルギー20%、エネルギーランス使用不可」

「!」

 加速を得る為にクイックブーストを使いすぎた。即座に私は建物に隠れて酸による攻撃から身を守る。

「はぁはぁ」

 生きている。今のところ、攻守攻防といえるかはわからないが、互い膠着状態。幸い、人を検知する能力が低いので相手は私の場所を気が付いていなかった。

 即座にエネルギーの残量を確認して、この場所を悟られる前に移動。

 建物に隠れながら近づけるだけ近づく。

「…」

「大蜘蛛型移動を開始。京都駅方面に移動を開始」

「!」

「大丈夫です。今の五月女さんなら勝てます」

「…」
「…」

 このまま飛び出さなければ私は絶対に死なない。だけど、場合によっては他の仲間が被害にあうかもしれないと思った。

「…」

 怖かった。でも、仲間が死ぬも怖いし、自分が死ぬのも怖い。

「イヴさん、勝てますよね」

「今の五月女さんなら大丈夫です」

「うん、そうだね」

 歌鶫を私は羽ばたかせた。

「距離50m、攻撃範囲に入りました」

「諒解」

 敵の有効射程に入った。なら、一瞬だけ速度を落とせば

「!」
来た。敵の攻撃が来る。でも、それを見越して即座にクイックブーストを噴かす。

 体に瞬間的にGがかかるが、前へ進む。

 要塞級の下に潜り込んで、尾節をエネルギーランスで突き刺し、一気にブーストを噴かして切り裂いていく。

「大蜘蛛型、撃破」

 倒せた。でも、墜落した訓練生が気になる。

「イヴさん」

「はい、場所を特定しています。墜落した場所と思われる場所を地図でマークしました」

「わかった」

 地図を見る限りは京都駅方面だが、近くの集積場にあるはずだ。運がよければ助けも着ているかもしれない。

「…」

 ただ、何故だろう。何故か怖い。五月女は恐怖に従って様子を見に行く事にした。

 抑えきれぬ恐怖は見に行けば見に行くほど増えていく。

 しかし、今の私には無事を祈るしかできなかった。




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