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No.35125の一覧
[0] Muv-Luv dark night Fes (オリ主)[シギ](2012/11/26 21:03)
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[83] Log.Extra log5[シギ](2013/04/20 04:03)
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[35125] log.62
Name: シギ◆145e19f4 ID:3ceb669a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/17 19:20
 1998年12月31日



 アナザーサイド



 烏丸 奈之の誕生日である。前の世界の誕生日は1988年なので、10歳の誕生日である。

 だが、肉体的には20歳の全盛期の状態。体も大人である。

「…」

 しかし、烏丸は誕生日なのにEFの製作をしている。

 一応、イヴが
「誕生日、おめでとう」
とお祝いする。

 しかし、烏丸は
「ありがとう」
と言うと淡々とEFを作る。

 烏丸は12月31日の誕生日にイヴと母以外にお祝いをされた事がない。一応、行われるが心温まるドラマのような展開はない。誕生日ケーキのケーキが嫌いというのも最大の要因であるが、12月31日は忙しい。大掃除は事前に終わらすので問題はない。しかし、大人たちは疲れてしまうのだ。夕飯に出される料理はざるそば。

 しかし、烏丸の母は普段は仕事で忙しくて烏丸は一緒にいたいのにいれない。料理も自分で作る事がよくあった。結果的には烏丸は母と一緒にいるだけでも誕生日プレゼントだった。この時点で父はいない。

「…」

 烏丸はEFを作る手を止める。

 携帯端末を手に取ると
「エルザに会いに行く」
と言う。

「奈之」

 普段は自らエルザに会いに行こうと思わない烏丸がエルザに会い行くと聞いてイヴはどうしたのかと思った。

 烏丸は巌谷にエルザの居場所を聞きだすと巌谷と共に年越しの準備をしていると言う。

 烏丸は場所を確認すると走って向う。たどり着くと日本作りのしっかりした家だった。

「すみません」

 誰かいないかと声をかける。

 すると、
「はーい、すこしお待ちください」
と一人の女の子が姿を見せるが烏丸を見た瞬間に足が止まる。

「…」
「…」

 何が起きたのだろうかと首をかしげる。

 一方、相手は烏丸によってトラウマを植え付けられた一人である。

 篁 唯衣。偶然、12月31日と1月1日に上官から休暇をもらって巌谷と共に年越しをする為に来ていた一人である。訓練で今でも仲間を撃ったことがトラウマになっていた。たとえ、シミュレーションでありながらも、本人とっては実戦だと思っている。それは京都の防衛で経験した実戦よりも怖かった。

「なんで、ここに」

「あんたは京都の訓練学校にいた訓練生」

「…」

 烏丸は篁の様子がおかしい事に気がついた。でも、それが何かわから
なくて首をかしげた。

「少佐、何故ここにおられるのですか」

「今は少佐じゃない。今は軍曹だ。それより、エルザに会いに来たん
だ」

「…えっ」

 篁はエルザと聞いて驚いた。一体、何のようだという。

「…」
「…」

 篁は下を向いて黙ってしまう。

 対して、烏丸は何か言うのを待ったが何も言わないのでこう言う。

「これをエルザに渡してくれないか」

 烏丸は携帯端末を差し出す。

「…」

 烏丸が手に持っている不思議な薄い長方形の形をした物を見て高性能爆弾と思ってしまう。

 でも、不審に思われたくないので
「わかりました。これは私がエルザさんにお届けします」
と携帯端末を受け取る。

「ありがとう。イヴ、しばらくエルザと一緒にいてくれ」

「はい、わかりました」

「えっ、うわぁあ」

 携帯端末からいきなりイヴの声が出てくるので驚いて携帯端末を落としてしまう。

 即座に烏丸が反応して携帯端末を掴む。

「落とさないように」

「も、申し訳ありません」

 今度は落とさないように篁はしっかりと携帯端末を持つ。

「気にするな」

 烏丸はそう言うと篁に背を向けて走っていく。

 篁は恐る恐る手にある物を見る。

「独立支援AIのイヴです」

「…」

 言葉を話した。これは高性能爆弾とえるのだろうか。それ以前にあの
人は本当に何をしに来たのかと思う。

「あれ、どうしたの?唯衣お姉ちゃん」

「え、あ、その…」

 篁はエルザが後ろに来ているのも気がつかないくらい携帯端末を凝視していた。

 背後から声をかけられて少しばかり焦る。

 一方、エルザは携帯端末を見て
「烏丸お姉ちゃんと会ったの?」
と言う。

「え、えっと」

「エルザ、元気にしていた?」

 イヴがエルザに話しかける。その声は母の優しい声そのものだった。
「お母さん。どうしたの、どうしてここにいるの?」

 エルザはぴょんぴょん跳ねながら大喜びする。

「え、えっと…」

 篁は状況を読み込めないでいる。しかし、エルザが携帯端末を欲しがっているのを理解して高性能爆弾かもしれないので

「駄目です。これは高性能爆弾の可能性があります」

「違うよ、お母さんだよ」

 必死に携帯端末に手を伸ばすエルザ。

「…」

 篁はこの純粋な子が直向に携帯端末を母と言うのが信じられなかった。でも、この子はbetaに親を殺されて、母親代わりになっていたのかもしれないと思った。では、あの人は何故にこれを渡しに来たのだと疑問符がつく。

 しかし、その疑問はイヴによって紐解かれる。

「大丈夫です。私は爆弾ではありません。奈之さんはエルザの為、あと
私の為に年越しを一緒に過せる為に連れて来ただけです」

「…では、普段から一緒にいないのは何故ですか」

「それは私が奈之さんの独立支援AIだからです」

「…うぅー、唯衣ちゃんの意地悪」

 潤んだ瞳で自分を見つめる姿に篁は罪悪を感じる。でも、これは危険だ。これは、危険なんだと自分に言い聞かせるが、必死に携帯端末に手を伸ばすエルザを見て諦めた。

「はい、ごめんね。エルザちゃん」

 篁はエルザに携帯端末を渡した。

「お母さん」

 エルザは携帯端末を抱きしめる。

 抱きしめて嬉しそうに家の方へ走って
「おじ様、お母さんも来たよ」
と言う。

 おじ様とは巌谷のことだった。

 篁は一応の現状理解を勤めながら家の中に戻ろうとする。

 玄関には穏やかな顔をした巌谷がいて
「イヴ君、良く来たね」
と言う。

「…」

「おはようございます。巌谷さん」

 イヴは挨拶をする。

 篁はおじ様まで一体、何をと思った。

 エルザは家の中に入っていくと、電子楽器を取りに行こうとする。

 一方、篁は
「おじ様、あの…」
と話しかける。

「ああ、あれはエルザ君のお母さんだ。前にも言っただろ、預かっていると」

「はい、知っています」

「驚くのも無理はない。極秘事項で言えないが、エルザ君にとって大切な存在なのだ」

 しかし、烏丸君も一緒にエルザ君と一緒に過せばいいのにと巌谷は思った。しかし、イヴの説明で烏丸はEFを作る為に基地へと戻ったことを聞いて烏丸君らしいなと思った。

 でも、一つだけ気になる事があった。

「一つ気になるのだが、君に携帯端末を渡した人は徒歩で帰ったのかね」

「あ、はい。走って立ち去りました」

「そうか、ありがとう」

 巌谷は頭を抱えた。

「どうしたのですか」

「いや、まだ免許が無くて徒歩で走ってきたようだ」

「…」

 冗談はよしてくださいと篁は言おうと思った。でも、何故か言葉でない。実際に走って立ち去るのを見たからだ。

 一方で巌谷は早く烏丸君に車の免許を取らせてあげようと思った。

 





 1999年1月1日。




 「あけましておめでとうございます」

 風神22中隊に整備班やオペレーターの神崎は次の日になると同時に烏丸に会いに来ていた。

 だが、ハンガーに入った瞬間に

「暑い、烏丸少佐。何を」

 和宮は声を上げる。
烏丸自体の階級は軍曹だが。風神22中隊は烏丸の事を少佐と呼んでいた。様々な理由があるのだが、純粋にそれだけ風神22中隊は烏丸を信頼している証拠でもあった。
 
「…」

 一方、烏丸はハンマーでEFの素材の形成の為に素材を叩いていた。

 言うまでもなく自分の誕生日終了である。

 風神22中隊が悪い訳でない。

 だが、烏丸にとっては複雑な心境であるはずだった。

「暑い、まじで、暑いぜ」

 炉で燃え盛る炎を見ながら子供のようにはしゃぐ和宮。

「この、ばかぁ、烏丸少佐に失礼でしょう」

「きゃぷん」

 和宮は廿六木に蹴られる。

 烏丸は作業する手を止める。

「あけましておめでとうございます」

 烏丸はそう一言だけ言うと、作業を再開。

 12月31日で基地内の飲み会に誘おうとしたら偶然にも烏丸がいなくてお酒と食べ物を持って烏丸のハンガーにやって来たわけである。

「…」

 しかし、誰もが烏丸に話しかけづらい状態だった。

「…」
「…」
「…」

 淡々と赤くて熱い未知の素材をハンマーで叩く姿に整備班の何人かは感動すら覚えていた。その一方で何を作っているのと尋ねたいがやっぱり、尋ねられない。

 烏丸はパーツを作り上げて形を固定するために水につけてハンマーで叩く。

 何度か繰り返して、形を完全に固定を終えると形を確認して作業の手を止めて
「どうしたんだ?」
と尋ねる。

「いやー、その烏丸少佐。一緒に宴会を」

 和宮がお酒を持ちながら楽しそうに言う。

 だが、烏丸はたった一言
「断る」
と言う。

 烏丸はどろどろに溶かした素材の確認をすると砂鉄を混ぜて粘り気を作り肩に流し込み硬くなったらハンマーで叩く。さらに半分に折って熱して叩く。

「あの、烏丸少佐、何を作っているのですか」

 島崎が尋ねる。

「EF(イーターフレーム)。でも、この作り方は公開しない。すごく危険だから」

「なるほど、それほどの物を」

「でも、そこにあるCDに入っているデータならいい。五月女の鉄騎士の改良に役立つ設計図だ」

「叶屋、即座にパソコンを用意しろ」

「了解」

「俺も行きます、燕中尉」

「よし、側伍長もいけいけ」

 叶屋と側はハンガーを飛び出てパソコンを取りに行く。

「…」

 その後、パソコンでCDを読み込み新しい設計図を整備班は食い入るように見て、戦術機にも使えると聞いて、和宮と廿六木も一緒に設計図を眺める。

「おおぉ、すげぇ、間接部の装甲アップだよ」

 柔軟性に富んだ新素材を利用した間接部の強化設計図である。Betaから作り上げた新素材は戦術機の補修にも役立つが、それを利用したパーツなど無かったので整備班は新素材の加工法を研究していた。そんな時に新たな設計図。丁度、自分達が得た加工法が役立ちそうだった。言うまでもなく整備班にとってのお年玉に等しい物だった。

 島崎は烏丸に失礼だぞとみんなに言おうとしたが、燕が島崎の肩を叩いてこう言う。

「島崎大尉。一緒に見ましょう」

「…そうだな」

 島崎も新しい武器とか見られたりできるかもしれなくて、結局は全員がパソコンに釘付けになるわけである。

 一方、烏丸は眠くなったので栄養剤を飲むと歯を磨いてダンボールのベッドに横になって布団に包まって寝るのであった。








 1998年1月2日。



 アナザーサイド

 訓練場では風神22中隊の一機の吹雪が自由に飛び回る。それは整備班達が自作パーツで全力改造を施した吹雪は別物と言ってよかった。
新素材で軽量化を図りつつも、脚部の強度が5%アップして、機動力も2%アップしている。

「なんだ、あれ…すごいな」

 訓練中の部隊は複雑な動きをする吹雪に見とれていた。一体、誰が操縦しているのだろうと思った。

 操縦しているのは五月女。複雑な動きは歌鶫の軌道の起動である。なぜ、五月女が吹雪のテストをしているかの理由については様々ある。その一つとしては、烏丸のがテストすると戦術機を高確率で壊すので乗せていないからだ。また、烏丸よりも出撃の可能性が五月女のため、吹雪に行った改良を歌鶫に使用する為でもあった。

 最近は戦術機よりも五月女は歌鶫を愛用している。一通り、飛び終えると吹雪をハンガーに収める。

 整備班達は新素材の状態を確認する。もはや、整備班の技術力は1個の会社を経営するだけの技術である。もともと、新しいパーツを作れるのも燕が会社で働いていたのも大きな理由であるが、普通の吹雪よりも良い機体になっていた。

 五月女は戦術機から降りると七条が合成オレンジジュースを手渡す。

「ありがとうございます」

 五月女はお礼を言うとちびちびと合成オレンジジュースを飲んでいく。

「どうだ、五月女」

 島崎が問いかける。

「うーん、一応データ上だと早いみたいですが、良くわからないです」

「そうか。確かに一部の部品を交換しただけだからな」

「ようし、新しいパーツに交換しろ。これは、ジャンクにして歌鶫に再利用だ」

 燕は忙しそうに部下に指示を出す。どうやら、まだ改良できる様子だ。

 一方、五月女は風神22中隊で優遇されていた。それもそのはず、朝から吹雪の改良の為に戦術機に乗り続けているのである。

 調整までに時間はあるが、調整が終わると即座に機体テストの繰り返しである。

 尋常な体力でない。しかし、操縦に関しては風神22中隊で適う人間はいない。結果的に五月女しかできなかった。

「よし、五月女。調整が終わったぞ」

 燕は手を振りながら五月女に言う。

「はーい、いきます」

 五月女は元気良く返事をすると、風神22中隊のメンバーに
「いってきます」
と笑顔でいって吹雪に乗り込んだ。

「しっかし、本当にあの子。京都防衛から更に強くなったわね」

 廿六木は五月女の後ろ姿を見ながら言う。

「だな、俺達も頑張らないとな」

 和宮はぽんと手を廿六木の頭の上にのっけて言う。

「…」

「うんうん」

「この、ばかぁ、変態」

「えぇ」

「くらえ」

「とぅ、ほっ」

 脱兎の如く和宮逃げる。

「まて、この、待ちなさい」

「誰が待つか。て、なぜ俺が怒られるの」

「廿六木、和宮。ほどほどにしとけよ」

 島崎がそう言った瞬間に
「あぁぁぁぁぁああ」
と和宮が叫ぶ。

「捕まったな」

 平土が哀れむ。

 本当に周りの人間は二人とも結婚しろよと言いたかった。

「そういえば、島崎中隊長」

「なんだ、平土」

「実際に見ていないのですが。五月女、ヴぉールグデータを一人でクリアしたらしいですよ。ただし、操縦による耐久度減少なしですが」

「な、何だと…」

「だから、今は耐久度ありで、こっそりと一人でやっているみたいです」

「ふむ」

 シミュレーターに鉄騎士のデータは入っていない。だから、シミュレーターでは戦術機を動かす事になる。一応、時々は動かすが戦術機だとサイズや耐久度で問題があった。単機突入するなら、歌鶫の方が遥かに楽で実機によるシミュレーションでは歌鶫の実力を遺憾なく発揮している。

 一応、風神22中隊も鉄騎士に乗って見て実機を使ったシミュレーションを行うが、結果は散々だった。風神22中隊の感想は五月女が単機でbetaとbetaの間を抜けて光線級を単機で倒すすごさがよくわかった。チェーンガンのように弾数もない。近接武器は切れ味の減衰を気にせずに使えるエネルギーランスは使い勝手は良いが、エネルギー管理の概念が無いので扱いが難しい。現段階では五月女しか使えない。

 しかし、大量に作られる鉄騎士のパーツ類。ジャンクパーツを入手しては五月女の歌鶫は改良の一途を辿る。それと同時に、戦術機にもその改良が加わっていた。その一つが五月女のテストしている吹雪である。

 今行っている改良は先述機の動きに関する改良で主に島崎、廿六木、和宮など近接戦闘を主にする人の為のものだ。これが終わった後に近接戦の運動性の確認をする。これに関しては五月女よりも島崎や廿六木、和宮が上手だからだった。

「それにしても、瑞鶴はどうするんですか」

 平土はハンガーで最近はあまり使わない瑞鶴を見て言う。

 元は白い瑞鶴だが、迷彩塗装された瑞鶴。斯衛軍でないので迷彩塗装の瑞鶴。

「整備班が分解して使うのもよし、改良するのもいいと思う」

「得意そうですからね」

「ああ、私達は斯衛じゃないんだ。それに迷彩塗装もかっこいいしな」

 島崎は瑞鶴の迷彩塗装が気に入っていた。

 だから、新しい吹雪も迷彩塗装を施したかった。しかし、それは贅沢とも言える。結果的には壊れてパーツ交換を考えると再塗装をしないといけない。しかし、島崎は塗装とかを楽しんでいた。よく、戦術機のパーツを交換する必要のある五月女の瑞鶴の交換パーツに再塗装をしていたのは島崎である。

 一応、五月女を除いて瑞鶴から吹雪へ移行を始めているが、瑞鶴には瑞鶴の良さがある。

 風神22中隊、それを担当する整備班は本当に鉄騎士のように分解して組み合わせたら面白そうだと思っていた。





 その頃、イヴはエルザや巌谷などの人達と楽しく正月を過していたが烏丸は朝からEFの作成。

 そこに月詠 真耶(つくよみ まや)がやってくる。一応、新年の挨拶に非公式で行う為である。これに関しては巌谷にも連絡を入れているから問題ない。しかし、着てみればハンガーは熱気で蒸していて暑い。

 奴は新しい戦術機を作っているが何をしているのだと月詠は思った。

 だが、月詠は烏丸がひたすら、淡々とハンマーでかんかんと鉄を打つような音を立てながら素材を叩く姿を見て声をかけるのを戸惑う。

 しかし、烏丸は月詠に気が付いて
「…月詠か。何をしにきたんだ?」
と言う。

「烏丸、貴様と新年の挨拶を御所望している人がいる。後はわかるな」

「無理だ」

 即答だった。
 
 烏丸は素材を冷やして叩いて熱し形を成形していく。

「まだ、作り始めたばかりだ。このパーツが出来るまでは無理だ」

「なら、作れたら来られるのか」

「行ける」

「なら、待とう」

 烏丸は少しだけ作業の手を止める。

「なら、2時間ぐらいかかる。ちょっと、これを見て待っていてくれ」

 隣のハンガーに月詠を連れてきて小型映写機の再生の準備を始める。

 月詠も巌谷が持ってきたものを煌武院と一緒に見ている。さりげな
く、西洋の使用人と主人の物語がお気に入りだったりする。地味に使用人の服を着てみたいと思ったりもした。

 ちなみに烏丸が再生するのは烏丸のお気に入りのサスペンス作品である。

「ということで、飲み物はその冷蔵庫に入ってあるから」

 烏丸は冷蔵庫の中を開けて見せる。中には水と合成オレンジジュースに栄養剤が沢山入っていた。

「…」

 何て言えばいいかわからないが、月詠は黙って映画を見る事にした。

 映画の内容は絵画に秘められた謎を解き明かしつつ歴史に潜む真実を巡る内容だった。しっかりした裏づけが非常に面白く手に汗握る内容だった。

 前の世界の娯楽だというが、その一方で悲惨な出来事が起きるのだというのが信じがたい。

 つい映画に熱中してしまったが、映画が終わるとすぐに目的の為に烏丸の様子を見に行くと烏丸は作業を終えて道具を片付け終えて、栄養剤
を飲んでいた。

「…烏丸、しっかりとご飯を食べているのか」

「栄養剤を毎日飲んでいるから大丈夫」

「…そうか」

 一応、生態的維持に関して大きな問題はない。言うなれば烏丸が飲んでいる栄養剤の中には合成食料をただ胃の中に入れる物も含まれていた。味のしない固形食糧である。非常に不評であるが、ご飯を食べない烏丸に大量に支給されている品である。

 月詠はこれ以上の追求はせずに烏丸を車に乗せて大きな屋敷につれてくる。非公式なので密談に近い形である。それに形式を教えてない烏丸に対して大きな問題を起こす事を考えれば自然とそうなるのは言うまでもなく。

 入り口で門番をする烏丸を見るなり、またお前かという感じで今度は使用人の作務衣を用意する。

 しかし、今回は月詠が烏丸は大丈夫だと言って入れようとするが、従者が烏丸の持ち物の事を説明。説明を聞いた月詠は烏丸に実物を見せるように要求する。

 烏丸は躊躇する事なく普段から常備している折畳み式の斧に対鉄騎士用拳銃、組み立て式スタンドガンなどを見せる。

「…」

 結果、即座に作務衣を烏丸に着させる事になる。月詠は烏丸に作務衣を着させるのが英断だと心の中で門を守る従者を褒めた。

 そして、ある一室に烏丸を案内。

 新年の挨拶が始まるわけでるが
「あけましておめでとうございます。烏丸」
と言って長々と煌武院はお話をする。

 対して、烏丸は
「あけましておめでとうございます」
と言うだけである。

「…」

 月詠はこういう奴だから仕方が無いと諦めていた。

 煌武院も烏丸の態度に満足していた。

 ある意味、煌武院を対等に見る数少ない人間であり、自分の思った事を言える人間だ。しかも、律儀にこれは他言禁止とすれば守る。これに関してはくそ真面目な女と言うけのことはある。

 故に煌武院は烏丸に楽しそうに思った事を話す。ただ、最近は月詠にもプライベートだったら思った事を話すようになった。

 一応の主従関係はしっかりしているが、月詠は自分の思う事を返す事を許されているので思った事を返していた。昔の自分だったら、確実に気を損ねる事なら絶対に言わないが、粗相のないようにしっかりと伝えた。

 月詠は巌谷の言うとおり殿下という立場でありながら普通の女の子として生きられる日が来るのではと思った。ある意味、それが意味する日が来ることは許されぬ事かもしれないとも思える。しかし、そんな日が来るという事は世界がそれだけ平安の世の実現を意味するようにも思えた。

「へぇー、ナショナルトレジャーハンターか。あれは謎解きと歴史が面白いだよなー」

 前の世界の歴史基準であるが、ある程度の共通点がある。そのため十分楽しめる作品で外を出歩く事が基本的に許されない煌武院にとっては外の世界が見られるのは非常に面白かった。

 烏丸は洋画という海外作品を携帯端末に入れている。本人は邦画と言われる日本の作品は好きでないかが、データのまとめ買いで付いてくるそうだ。烏丸が言うには邦画でもアニメは好きだけど、実写に関しては色合いが日本独特の色合いと世界観が好きじゃないらしい。日本人独自の悲壮感が嫌いらしい。故に烏丸が好きな作品は基本的に終わりが良い作品を好む。それはある意味で自分が知らずに描く夢なのかもしれない。

 ただ、1時間ほどの非公式の謁見。煌武院にとっては楽しい時だった。しかし、新年の挨拶は烏丸だけでない。この後も沢山の人と挨拶をしなければいけない。

 月詠は烏丸を途中まで送る。その際、烏丸は月詠にこう言う。

「すまない。携帯電話の話」

「…覚えていたのか」

「ああ、携帯電話の生産をしようとした先に少尉になって無理になったんだ」

「気にするな。貴様は良くやっている。成すべき事をすればいい」

「…わかった」

 烏丸はそれ以後、別れの挨拶をする意外は何も話さない。

 入り口まで送ると事前に用意した車と運転手に頼んで烏丸を基地まで送る。

 月詠は烏丸が乗る車に背を向けて空を仰いだ。空は青く冬の独特な青の空が広がっていた。







 1999年1月25日


 やっと、全てのパーツが完成した。後はこれらを全て組み合わせるだけである。

 でも、予定よりも早くパーツを完成させられた。後は組みたてである。

 間接部を溶接して慎重に組み立てる。

 予備パーツが無いので失敗が基本的に許されないからである。

 胴体と左足を付け終えた頃、朝から始めて夜になっていた。

 思ったよりも時間がかかっていた。

 でも、終わりが見えてきた。烏丸はその日の作業を止めて休む。







 1999年1月28日 


 パーツが完成して溶接作業3日目。一日、一つの部位の溶接作業を行っている。

 それだけ時間がかかるのだが、思ったよりも右腕の作業が終わった。

 工具を片付けると床に敷いたダンボールに横になって寝る。

 目が覚めると15時になっていた。鉄騎士の整備でもしようと思った。

 すると、私は整備班が鉄騎士の新しいパーツが完成したと言っていた。

 烏丸は整備班に会いに行くことにした。整備班は風神22中隊が使うハンガーで忙しそうに歌鶫のパーツを交換していた。

「あ、烏丸少佐」

 五月女は手を振る。

「どうしたんですか」

「鉄騎士の整備をしようと思って」

「あれ、EFを作っていたのではないのですか」

「あれは先だ。何時になるかわからない」

 一応、終わりは見えたが、肝心な素材が無いので完成できない。もし、素材が入手できればすぐに使用可能状態になる。

「そういえば、烏丸少佐。私、ヴォールグ・データを耐久値減少、弾薬フル装備でクリアできたんですよ」

 五月女はすごく嬉しそうだった。

 それを聞いた私は
「歌鶫でか」
と尋ねる。

 すると五月女は首を横にふった。

「いえ、戦術機ですよ。シミュレーターは鉄騎士のデータが入っていないので」

「そうか。なら、改造してみるかな。そうだ、今度、私とヴォールグ・データよりも難しいのをやるか」

 それを聞いた五月女は嬉しそうな目をして私にこう言った。

「はい、是非」

「そうか、とりあえず、私はハンガーに戻るよ。今日は忙しそうだからね」

 私はそう言うと自分のハンガーへと戻った。

 その後は横になってハンガーに眠った。






 1999年1月31日

 ついにEFが完成した。あとは横浜にある空の者達の住居の心臓から素材を手に入れればいい。

 でも、その前に神経接続のテストを行うことにした。

「イヴ、大丈夫か」

「はい、大丈夫です」

 イヴの返事を聞くと操縦席に座る。

「では、神経接続テストを行います」

 体の中につめたい物が背中から入っている感覚がじわじわと来て、体中に激痛なのか不快な感覚が走る。

「がっ、っ」

 私はばたばたと暴れながら逃げ出すようにEFから降りようとする。

 しかし、降りようにも腕や足を固定して動けない。

「拒絶反応を確認。強制解除します」

 体から無理やり何かを抜くような感覚がする。

「つっっ…ぐっ」

「解除率20%」

 すごい気持ち悪い。頭がおかしくなりそうだった。

「解除率70%」

 何とか無理やり引き剥がせそうだ。

 腕を無理やり引き剥がす。

 すると右腕の感覚が消えた。

「解除90%」

 ただ、右腕の感覚が消えても、それ以外は苦しみと痛みが体中を襲う。

「解除完了」

 そう言った瞬間、体を前へ前へと動いて転げ落ちるようにEFから降りる。

「はぁはぁ」

 私は苦しみや痛みなどから解放されて、息をして体を落ち着ける。

「バイタルチェック。右腕の神経が壊死。現在、再生中です」

「…イヴ、結果は?」

「拒絶反応が強いです。おそらく、使用はほぼ不可能です」

「…そうか。無理か」

「はい。非常に危険です。拒絶反応が発生しても神経接続を利用は可能みたいですが、その副作用でEFに乗った後、最低稼働時間は30分。使用後、10日間は体が動かなくなる可能性があります。原因は私が過去に行った治療が原因みたいです」

「そうか。元々、空の者達の技術も入っているけど、人が主体の技術だからな」

「はい。でも、せっかく作ったEFはどうしますか」

「ゆっくり、考えよう。神経接続をしなくても一応は使えるようにはできるんだ。場合によってはプロテクトをかけて動かなくすればいい」

「はい、そうですね」

 結果、私が必死に作ったEFの結果は拒絶反応で右腕の神経が壊死する
自体になった。

 ただし、すぐに神経は再生して動くようになる。本当に便利な体だった。

 





 1999年2月2日

 EFが乗れない事がわかった。それでも、私はやらないといけない事がある。今日は鉄騎士の調整を行うことにした。

 風神22中隊のハンガーに行って新しい鉄騎士のパーツを選んでいた。

 新素材で軽量化を図って防御力も無いに等しい腕や、重量は上がるが射撃が安定させる為の脚部など様々な物を作っていた。

 あまりパーツは言うまでもなく、イヴが携帯端末無しで動かせるようにして整備班の作業用になっていて一人一機という状態になっていた。

 私は新しいパーツのデータリストを見ながらパーツの変更内容を伝える。整備班は言われたとおりに変更。

 すぐに乗り込んでテストを行い。変更内容を伝える。

 空の物達を使った新素材によって脚部の柔軟性が上がって脚部による負荷をだいぶ抑えていた。様々なパーツを組み合わせて作ると無骨な鉄騎士が出来上がる。歌鶫のように空力よりも壁や地面など蹴ったりして、地上主体に動く私は自然と強度が必要になるのは必然だった。さらにバックアップの跳躍ユニットも使わないから、加速を得る為のブースターは6つ。跳躍ユニットなど機動力を上げる物を付けてないので加速を得る場合は壁や空の者達を蹴る必要がある。

 一応ブースターの性能も向上している。出力の高いブースターだとエネルギー消費が高い。エネルギー消費が少ないブースターだと出力が足りない減少が起きる。

 次の戦闘を考えると少しだけ出力が小さく、エネルギー消費が小さいブースターを使う事にした。平地でのクイックブーストの多用と空の物達の住居に入ったときに壁を蹴るのを多用して空中で急に方向転換をする為だからだ。

 何度かパーツを交換して機体のテストを繰り返す。その後、私自身が改良を加えたりして自分が扱いやすい機体に調整する。

 結果的にブースターの出力が少し落ちた。その分、エネルギーに余裕ができた。また、機体の軽量化を図って防御力を減らした物も移動による耐久度は向上しているので、それに胴体部分と頭部を換装してエネルギー消費をさらに抑えてブーストやエネルギー武器のエネルギーを確保する。今回は長期戦というより、短期決戦を主体にしたい。それでも戦闘時間は1時間以上かかると思う。しかし、前みたく1ヶ月の戦闘はしないので問題ない。

 個人的には長期戦を考えた武装が欲しいが無理だった。

 私が最後の鉄騎士の調整を終えてテストを終わりにした頃に五月女がハンガーにやってきた。

「あ、こんにちは。烏丸少佐」

 少佐じゃないが、みんなが少佐というから一応少佐と言われても最近は黙っている。

「こんにちは五月女さん」

 イヴが挨拶する。

「何をしにきたのですか」

「えっと、歌鶫に乗りたくて。個人的には高く空を飛びたいのですが、光線級がいるので」

「そうか。確かに射程がないからな」

 たしか、200kmから300kmの射程とかだった気がする。そういえば、降下作戦で道中レーザーに撃たれていた飛行船もあった

「五月女、歌鶫でシミュレーターのヴォールグ・データをやらないか」

「え、できるんですか」

「少し私も鉄騎士で練習したいんだ。先にシミュレータールームで待っていてくれ。許可を取りに行く」

「はい」

 私はシミュレータールームの許可を貰う。さらに改造の許可の確認をする。しばらく時間がかかったが無事に許可をもらった。

 調布基地のように私の自由が制限されていたので、勝手に何かすると怒られるので最近は受付によく行く。

 許可を貰うとシミュレータールームに行くと既に五月女が到着していた。

 私は工具を使って筐体と携帯端末を繋いで鉄騎士のデータを入れる。また、五月女に貸している携帯端末を使って五月女の鉄騎士 歌鶫のデータも入れる。

 二つの筐体にそれぞれの自分の鉄騎士のデータを入れると私は筐体に乗り込む。

「五月女、準備はいいか」

「はい、何時でもいいです」

「じゃあ、五月女の後を追う。五月女は自分のペースで進んでくれ」

「了解」

「では、ミッションを開始します。目標は空の物達の心臓室の到達です。カウントダウン開始。5、4.3.2.1.ミッション開始」

 システムが起動してミッションが開始する。

「烏丸少佐。行きます」

「わかった」

 前の世界の空の者達の住居よりも道幅の大きいトンネルの壁を蹴って加速を得る。

 一方、五月女も同じように初速は壁を蹴って加速。数回のクイックブーストでさらに加速を得てスピードを上げる。

 私も壁を蹴って次の壁へ行き、壁を蹴って次の壁へというのを繰り返して五月女を追いかける。

 急カーブでは私の方が壁を蹴ってスピードを落とさないで進む。五月女も壁を蹴って減速を最小限に抑えてスピードを維持する。

 五月女に追いつくのが大変だが追いつけないわけでない。

「蜘蛛型5000、先頭に槍型100を確認。槍型は最大速度で接近」

 ミッションを開始してから2分。ついに空の物達が出てきた。この場合、槍型に道を塞がれる点だった。

「五月女、お前の判断で任せる。後ろは任せろ」

「了解です」

 五月女は即座に道を変更。回り道を選択。

「蟹型接近中。背後から槍型200」

「突破します」

「諒解」

 道を塞ぐ突撃級に対して五月女はエネルギーランスで邪魔な蟹型を倒して敵と敵の間を抜ける。私も五月女が作った道の後ろを追いかけながら、状況に応じて自分にとって進みやすい道を選択する。

 無事に空の物達の大群を抜けると、五月女は速度を上げる。

「迂回ルートになりますが、垂直に下がれるルートがあります。どうしますか」

 イヴも的確にサポートをする。

「えっと、迂回します」

 五月女はそう言うと迂回ルートを選択。

 一方、私は蜘蛛型が束になって作り上げた壁を形成炸薬弾で吹き飛ば
して五月女を追いかける。

 垂直に下がれるルートを選択したという事はと思うと早乙女は壁を蹴ってこれでもかというぐらいスピードを上げる。

 私もクイックブーストを使いながら、壁を蹴って追いかける。

「警告 この速度で行くと地面に激突する恐れがあります」

 ゴーグルに表示される地形の図を見る。

 ほぼ垂直に等しい曲がり角が見える。横から見た図だから、道の先に見えるのは地面である。

 五月女は減速をせずに壁を蹴って僅かに角度をつけて曲がる。

 対して私は水平に壁を蹴って減速を加えて地面に滑るように着地して曲がる。

 少しだけ距離が開くが問題ない距離だった。

 だが、背後から大量の蜘蛛型。足止めにならないが、速度的に追いつかれるので形成炸薬弾を撃つ。その後、クイックブーストを噴かして加速し逃げる。

「…」

 そして、あっさりとはいかないが無事に空の物達の心臓室にたどり着く。

 一応、これでミッションが終わって私は筐体に出る。

 一方、五月女はすごく嬉しそうに言う。

「すごいです。本当にすごいですよ」

 本人にとっては嬉しい事なのかもしれないが、これで終わりでない。

 私は試しに難易度を上げた物も提案してみる事にした。

「五月女、前にも言ったもっと難しいのがあるがやるか」

「!」

「反応路の停止装置を装着、防衛。そのご、脱出までの一連の流れを行うミッションだ」

 五月女はあれという顔をする。少しだけうーんと考えて
「え、反応路を停止させたら終わりじゃないのですか」
と尋ねてきた。

「いや、心臓を停止させても脅威は消えない。ようは拠点の動力を潰せたが兵士が残っている状況ということだ」

「じゃあ、反応路を停止したら急いで逃げないといけないわけですか」

「そうなる。ただ、空の物達にとっては拠点を破壊されたのに等しいから退却するはずだけど、退却中にも襲われる」

「そうなんだ。でも、烏丸少佐」

「何だ?」

「どうして、ハイヴの反応路を停止させても終わりじゃない事を知っているのですか」

「昔、何度か空の物達の住居に入ったことがあるから」

 すると、何故か五月女が驚いた顔をした。

「うそ、じゃあ。ハイヴを何度か攻略したんですか」

「ん?前の世界では何度か一人で空の物達の住居は攻略した事はある
が」

「…嘘、え、でも、待ってください。それって機密事項ですよね」

 五月女は少しだけ慌てた様子を見せた。

「機密事項?」

「だって、人類は一度もハイヴの攻略を成功させてないんですよ」
「…」

 五月女は何か勘違いをしているような気がした。

「五月女さん。落ち着いてください。一応、前の世界です。つまり、この世界ではなく別の世界で奈之さんは空の物達の住居の攻略に成功して
いるのです」

 イヴが誤解を解くために五月女に説明する。

「前の世界?」

「はい、前の世界です」

 イヴは簡単な前の世界の説明をした。

 初めはすごく動揺していたが、すぐに落ち着いた。

「…なんか、すごいです。でも、これ他人に話したらまずいですよね」

「どうだろうか、イヴ」

「現段階で隠す必要はありません。ですが、香月さんの警告が正しければ今後は控えた方がいいかもしれません」

「やっぱり、機密事項じゃないですか」

「…」

 どうやら、話すべき事でないようだ。

 しかし、いずれは空の物達の住居への攻略をする可能性がある。ならば教えておくべき事かもしれない。

「五月女、いずれは空の物達の住居の事は教えないといけない。前の世界の知識が役立つかは実際わからない。けれど、いつかは空の物達の住居に侵入するとなればいずれは必要になる」

「…」
「…」

 五月女は少しだけ私の目を見て元気な声で
「はい」
と答えた。

 その後、五月女と一緒にヴォールグ・データで反応路の停止、脱出の訓練を行う。結果は何度か失敗したが、その後は成功率を上げていく。

 その度にイヴが難易度と空の物達の住居を出た後の脱出ポイントの長さを上げていく。

 気が付くと、風神22中隊や他の部隊が集ってきていた。

「烏丸少佐。これは新しい訓練ですか」

 五月女を休憩させて、私も筐体から出ると島崎が真剣な顔をして聞いてきた。

「そうだが」

「何の訓練でしょうか。見たところ、ハイヴ攻略に見えたのですが」

「はい、島崎さん。新しい訓練です。空の物達の心臓を破壊でなく停止させたと仮定して、停止による装置の防衛、および脱出を想定した訓練です」

「なるほど。我々も行ってもいいでしょうか」

「大丈夫だ」

 そう言うと島崎は
「ようし、行くぞ。私達のそこ力を見せてやるぞ」
と元気な声で言う。

「だけど、五月女がいないぞ」

「大丈夫です。むしろ、五月女抜きで行いたいです。五月女は烏丸少佐と二人でクリアしました。つまり、最低二人でもクリアできる事を意味しています。ですから、11人でも大丈夫なはずです」

「待ってくれ、少し考える」

 今の鉄騎士のサイズは私が作った鉄騎士よりも5mから4mまでサイズダウンしている。この小さいを生かしつつ機動力は戦術機に追いつけるようにできている。早乙女の歌鶫は場合によっては戦術機よりも早い場合がある。心臓室にたどり着くなら鉄騎士の方が有利な気がする。逆に殲滅だったら戦術機の方が上だが、大きさが邪魔する。様々な事を想定すると鉄騎士よりも殲滅しなければいけない量は増える。だとすれば11人という数字は妥当といえるかもしれない。

「よし、試しに行ってくれ。鉄騎士の場合は小さい部分をいかせるが、戦術機の場合は大きいから殲滅量が増えるから11人でもいいかもしれない」

「なるほど。では、早速、挑戦してきます」

 島崎はやる気に満ちた声と共に筐体に入る。しかし、イヴの容赦ない追い詰めによって心臓室に到達した時には一人という状況だった。

 とりあえず、細いルートを選んだら容赦なく槍型を突撃させたり、場合によっては蜘蛛型で道を塞いで時間稼ぎしたり容赦ない。

 人数的な問題もあるが、私と五月女の場合は基本的に囲まれる前に移動が基本だ。

 また、容赦なく掘削作業を行って横穴から戦車級で奇襲したりした。

 だが、風神22中隊は諦めずに何度も挑戦する。次第にモニターには人が集ってきて

「すみません、少佐。我々にもやらせていただけないでしょうか」
とお願いされる。

 特に拘るわけでないので、五月女に貸している携帯端末を使ってデータを使って準備する。やっぱり、NPCで行うよりも誰かが容赦なく追い詰めたほうが訓練になるので私が空の物達の操作を私が行う。

「準備できた。12人ずつ来い」

 そこの部隊か知らないが意気揚々と入り込む。しかし、出てくる敵をご丁寧に倒していくので蜘蛛型と蟹型をひたすらぶつけて行く。その後狭い通路にきたら事前に集結させた槍型で一気に引き倒す。

 結果10分で消沈。

「はい、次の人」

 次は実力に関してはあるがこの部隊もご丁寧に敵を倒している。横穴を掘って足元から戦車級で部隊を混乱させて、前と後ろから事前に集結させた槍型で引き倒す。

「…」

 モニターを見て何を学んだのだろうかと思いながら、次から次へと来る人達の相手をする。

 そんな時、やっと逃げるプランを選ぶ部隊が出てきた。少し様子を見る為に少し数を減らして蜘蛛型と蟹型をぶつける。

 狭い道は槍型を警戒して入らない。

 ならば、ある場所に槍型を配置して待ち伏せする。その後、タイミングを見計らって槍型を突撃させて上に逃げるのを想定して蜘蛛型を行かせる。

 しかし、チェーガンを使って突破。

「!」

 すぐに槍型を反転させて追いかけようとする。しかし、後方にいる戦術機がチェーンガンを撃って無力化をしたのが原因で思うように方向転換後突撃ができない。

 私はゴーグルを装着してホログラム表示を行う。これでハイヴの状況が一望できる。即座に蜘蛛型と蟹型の再編成を行い。槍型を突撃させて大きな音を出す。

 その間に蜘蛛型に掘削作業を行わせて横穴から蟹型を降らせる。これによって、4機減らした。後は8機だ。

 私は大蜘蛛型を大きな道に配置。左右側面は道を塞ぐように蜘蛛型を配置。

 背後から蟹型を進行させる。

 これを抜けるには直線に行き滑空砲で大蜘蛛型を倒せばいい。


 しかし、判断が遅れて乱戦になった。あとは増援増援をさせて包囲網
を抜け出せないように囲むだけである。

 結果、部隊は全滅した。

「烏丸少佐、これってbetaを操作しているのですか」

 後ろから佐々木が話しかけたきた。私が訓練はと尋ねたら今は休憩だという。

「佐々木、これは私が操作している。NPCよりも私が操作した方が訓練になると思ってね」

 すると、佐々木は目を輝かせて
「…私がやってもいいですか」
と尋ねてきた。

「大丈夫だ」

 私は佐々木にゴーグルを渡して操作方法を一通り教える。

 そして、ミッションが始めると佐々木はいくつか、蜘蛛型や蟹型などを突撃させたり、囮に使ったりと実験をする。それが原因で下層まで敵は簡単にたどり着くが、その後だった。心臓の停止装置を心臓に装着。その後に心臓を停止後に佐々木は怒涛のラッシュをかけた。あえて、装置装着から停止までの間に攻撃をしかけない代わりに、空の物達を集結させて包囲を行っていた。無事に心臓が停止して敵の気が緩んだところで佐々木は大量の空の者たちで押し込む作戦に出た。結果、逃げる事も適わずに5分もたたないうちに壊滅。この場合、逃げ道の安全確保を行えば生き残れたかもしれない。一応、自爆装置があるらしいが、押すのを禁止させている。戦力ダウンになるので、押すならば最後まで抗って生き残れる道を模索させる為だった。それ以前に一人でも減れば難易度は上がる。特にメモリやCPUの負担が減るので空の者達の出せる量が増える。

 なので、死なない事も攻略のポイントである。

「…」

 ただ、筐体には長い列が出てきて順番待ちのため予約表まで作られた。さらに何処かの部隊のオペレーターが来てオペレーションを行っている。全員、訓練熱心だと私は思った。


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・第4部 後半に続く
・完成しているけど、一応、ここで一旦投稿終了
・感想ありがとうございます


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