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No.38496の一覧
[0] 【真愛編】Battle Over 九州!【Muv-LuvAL×ガンパレ】[686](2019/01/13 20:44)
[1] "BETAの日"(前)[686](2014/10/05 17:24)
[2] "BETAの日"(後)[686](2013/10/05 23:33)
[3] "一九九九年"[686](2013/10/22 23:42)
[4] "異界兵ブルース"[686](2013/10/04 11:47)
[5] "前線のランデヴー"[686](2013/10/27 21:49)
[6] "ヤツシロの優しい巨人"[686](2013/10/08 01:42)
[7] "光を心に一、二と数えよ"[686](2013/10/26 20:57)
[8] "天使のハンマー"[686](2013/10/22 23:54)
[9] "タンク・ガール"[686](2013/11/01 09:36)
[10] "青春期の終わり"(前)[686](2014/10/05 18:00)
[11] "青春期の終わり"(後)[686](2013/11/01 14:37)
[12] "岬にて"[686](2013/11/05 09:04)
[13] "超空自衛軍"[686](2013/11/16 18:33)
[14] "ベータ・ゴー・ホーム"[686](2013/11/25 01:22)
[15] "バトルオーバー九州!"(前)[686](2013/11/29 20:02)
[16] "バトルオーバー九州!"(後) 【九州編完】[686](2013/12/06 19:31)
[17] "見知らぬ明後日"[686](2013/12/10 19:03)
[18] "月は無慈悲な夜の――"[686](2013/12/13 22:08)
[19] "幻獣の呼び声”(前)[686](2014/01/07 23:04)
[20] "幻獣の呼び声”(後)[686](2013/12/30 15:07)
[21] "世界の終わりとハードボイルド・ペンギン伝説"[686](2014/01/07 22:57)
[22] "強抗船団"[686](2014/01/17 14:19)
[23] "異界の孤児"[686](2014/01/17 14:25)
[24] "TSF War Z"[686](2014/01/24 19:06)
[25] "暗黒星霜"[686](2014/02/02 13:00)
[26] "霊長類東へ"[686](2014/02/08 10:11)
[27] "京都の水のほとりに" 【京都編完】[686](2014/02/08 10:32)
[29] "あるいは異世界のプロメテウス"[686](2014/02/13 17:30)
[30] "地上の戦士"[686](2014/03/11 17:19)
[31] "メーカーから一言" 【設定解説】追加致しました[686](2014/03/16 20:37)
[32] "かくて幻獣は猛る"[686](2014/03/29 14:11)
[33] "地には闘争を"[686](2014/03/29 14:14)
[34] "火曜日は日曜日に始まる。"[686](2014/04/07 18:56)
[35] "TOTAL OCCULTATION"[686](2014/04/10 20:39)
[36] "人間の手いま届け"(前)[686](2014/04/26 21:58)
[37] "人間の手いま届け"(後)[686](2014/04/26 21:57)
[38] "きぼうの速さはどれくらい"[686](2014/05/01 15:34)
[39] "宇宙戦争1998" 【改題しました】[686](2014/05/10 17:05)
[40] "盗まれた勝利" 【横浜編完】[686](2014/05/10 18:24)
[41] 【真愛編】「衝撃、または絶望」[686](2014/05/15 20:54)
[42] 【真愛編】「ふたりの出会いに、意味があるのなら――」[686](2014/05/22 18:37)
[43] 【真愛編】「変わらないあしたなら、もういらない!」[686](2014/06/03 11:18)
[44] 【真愛編】「千の覚悟、人の愛」[686](2014/06/07 18:55)
[45] 【真愛編】「ふたりのものがたり、これからはじまる」[686](2014/09/06 18:53)
[46] 【真愛編】「終わらない、Why」[686](2018/10/19 03:11)
[47] 【真愛編】「最終兵器到来」(前)[686](2019/01/13 20:26)
[48] 【真愛編】「最終兵器到来」(中)[686](2019/01/13 20:44)
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[38496] "暗黒星霜"
Name: 686◆6617569d ID:8ec053ad 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/02/02 13:00
――幻獣が有する同調能力を操作し、幻獣を圧倒する身体能力を以て、幻獣を殲滅する。



 そんなコンセプトの下で開発された新人類、第5世代クローンは大いに戦果を挙げた。
 その高度かつ強力な同調能力は、念話によって形成される幻獣の指揮系統を撹乱するだけでなく、彼らの身体を幻獣を殺すことに特化せしめた。瞬く間に光砲を化した腕を振りかざせば千の幻獣が蒸発したし、彼らが放つ蹴りは虚空で巨大な大樹と化し中型幻獣さえも打ち倒した。幻獣が反撃すれば障壁によりこれを遮断し、また表皮を硬質化させることでこれを凌ぐ。そして次の瞬間には、異形と化した四肢を以て幻獣を叩き潰す。

 ……幻獣を殺戮するその姿は、どこまでも幻獣に酷似していた。



 幻獣の力を以て、幻獣を制する。

 人類軍にとって、第5世代クローンは希望であった。

 そして同時に、恐怖の対象でもあった。
 その姿を異形へと変貌させて、同じ異形を狩る怪物。もはや彼らは、一応人間の外見をしている何かに過ぎなかった。前線将兵は彼らを歓迎すると共にその破壊の矛先が自身らに向かないか気が気でなかったし、政府高官は第5世代クローンが幻獣を巻き込んで叛乱すれば、国家転覆さえ容易い、と彼らを恐れていた。そして第5世代クローンの直接的な親とも言えるラボの人間は、彼らを少年少女としてではなく、対幻獣兵器として扱い続け、幻獣を如何に効率的よく殺せるかだけを教授し続けた。



 第5世代クローンが人類陣営を離れ、幻獣陣営へ鞍替えするのに、そう時間は掛からなかった。



 理由は幾つか考えられる。

 自身を生み出してくれた母とも言える人類を救済する、そんな意志で戦ってきた第5世代クローンは、自身に猜疑心を以て接する人々に嫌気が差したのかもしれない。またそういった戦う目的を持たず、ただただ悲鳴上げる幻獣を殺し続けてきた者達の厭戦気分はピークに達していただろう。
 ともかく一部でも第5世代クローンが幻獣陣営へ奔ったことに衝撃を受けた人類は、手当たり次第に彼らの抹殺を図り、対する第5世代クローンは幻獣共生派のグループに潜んでテロリズムに加担するか、幻獣陣営に割り込んでその指揮能力を発揮するか、あるいは人類の他世代に入り込んで暮らすか、いずれにしても人類軍を去った。



 こちらの世界にも学兵部隊に紛れ込む形で、この第5世代クローンが転移してきていた。



 
 







"暗黒星霜"







 兵庫・鳥取県境、山岳地帯。

 F-14AN3マインドシーカーは、広葉樹をその鋼鉄の身体で押し潰ながら、しゃがみこむような形で停止した。ワンテンポ遅れて突撃砲を携えた瑞鶴ゾンビ達が、その脇を固めるように着地する。生体組織による侵食を受けて赤く発光する頭部カメラは、マインドシーカーの一挙手一投足を注視している。
 武御雷率いる戦術機ゾンビに第6中隊が全滅させられてから向こう、捕獲されたマインドシーカーが逃亡が成功する可能性は皆無であった。F-14AN3は腐っても第2世代戦術歩行戦闘機、偵察機材を投棄して全力機動を取れば瑞鶴を撒くことも出来たかもしれないが、マインドシーカーを駆る衛士は(F-14AN3は複座式であり、後部座席搭乗者が機体を制御する)それをすることが出来なかった。前部座席に搭乗するESP能力者はまだ身体的には未成熟であり、戦術機の超機動に晒されれば命が危ない。
 偵察機材によって悪化した機動性、一切の武装が施されていない機体、オルタネイティヴ3計画の遺産、全てが枷となってF-14AN3を幻獣軍の捕虜たらしめたのである。

「キョーキョキョキョキョ!」

 機材が大量に取り付けられた不恰好な戦術機が駐機するのを見て、害はないと判断したのか、木々の合間から百はくだらない数のゴブリン達が現れて突如として現れた憎むべき鋼鉄の巨兵を仰ぎ見た。
 一方でマインドシーカーは頭部ユニットを僅かに振り、周囲の状況を窺う。木々の合間から現れたのは兵卒級(小型幻獣ゴブリン)のみだが、木陰には無数の赤い目が光っているのが分かる。おそらく士官級(ゴブリン・リーダー)やもしかすれば大型種もがこの森林には潜んでいるかもしれなかった。

「さしずめ新種BETA群の駐屯地、といったところか。辺鄙なところに来てしまったものだ……」

 半ば自嘲するかのように呟いたのは、F-14AN3の後部座席に搭乗し、専ら機体制御を担当する衛士であった。
 彼女は大陸派遣軍にて初陣を経験した後、富士教導団で戦技を極めた歴戦の兵(つわもの)であったが、あまりに非現実的な事態の推移に戸惑いを隠せずにいる。彼女の常識――否、人類の一般常識で言えば、BETAが知能の片鱗を見せた挙句に捕虜をとるなどということは有り得ないはずなのだ。

「だが、これは好機でもある」

 "あんた以外に任せられる人間がいないのよ、こっちも人手不足でしょうがなくて――"そんな憎まれ口とともにF-14AN3を託した、上司(というよりは盟友)である香月博士の信頼に応えるには、生きて先程取ったのデータを持ち帰り、同時にこの体験を語らねばならない。生還の目は、まだある。まだ自身もESP能力者である特務少尉も無事、F-14AN3も物理的拘束が為されている訳ではない。
 神宮司まりもは、脱出を諦めることなく策を練り始めていた。

「……」

 対して前部座席に座る少女は、沈黙を守っている。
 ただ彼女が装着するヘッドセットから生えた、"ウサミミ"とも呼称される触角だけが左右に揺れていた。
 既にF-14AN3の各種センサーは機能を停止していたが、それでもESP能力を保持する彼女は周囲の思念を拾うことが出来ていた。操縦席の外部から雪崩れ込んでくるその思念は、恐怖であったり、怒りであったりがほとんどであった。少女は、驚きもしなかった。彼らにとって戦術歩行戦闘機は、同胞に死を撒き散らす憎悪の対象である。
 だがその謂わば負と総称される思念の中に、一筋の、だがしかし周囲の怨嗟に負けないだけの強さをもつ感情があった。

 好奇心である。



(――私の声が聞こえていますか? 歓迎します)



「頭の中に直接……! 特務少尉ッ!」

「っ……!」

 鼓膜を介することなくふたりの頭脳へ送信されたメッセージは、強く、はっきりとしたものであった。オルタネイティヴ計画に携わる香月博士の手伝いを始めてから、その存在を認知したESP能力について、実を言えば懐疑的な立場でいた神宮司は勿論のこと、ESP発現体として育てられた少女も驚きを隠せない。ESP能力の強弱は個人ごとにバラつきがあるが、神宮寺のような非ESP発現者に明確なメッセージを送信出来るほどの強い力を持つ者は、ほとんど居ないからだ。
 オルタネイティヴ3計画に携わっていたソ連ESP研究者を以てして、「最高傑作」と謡われた少女でさえ距離が離れた相手に対しては思考や記憶を読み取るのが精一杯である。

「ESP能力、です。私と同じ――」

(そうです、トリースタさん。いえ、違いましたね。やしろかすみさん)

 神宮司が気づけば、マインドシーカーを取り囲んでいた兵卒級達と、木々の合間からこちらを覗いていた無数の赤い目は、いつの間にか夜闇へと消えていた。BETA陣営に寝返った瑞鶴さえもが、跳躍装置を噴かして飛び去っていく。まるで何かに命じられたかのように。

 場に残ったのはF-14AN3と、ひとりの少女だけ。

 電子の瞳を通して少女を見た神宮司は新兵か、と思った。
 サイズの合っていない迷彩服に身を包み、頭のに対してあまりに吊り合わない大きさの鉄帽を被った少女は、先程の瑞鶴が着地する際に押し潰した樹木の幹に腰を下ろして、こちらを見上げている。……おそらく、彼女が"声の主"なのであろう。そして新種BETAと何らかの関わりがあることは、間違いなさそうであった。でなければ、BETA占領地に単身残留する彼女は、とっくの昔に殺されていたであろう。

(その通りですよ、じんぐうじさん。私が声の主です。名前は新子。……でもあまり貴方と話すことに魅力は感じません)

「……小官は某衛士訓練学校に務めている、神宮司まりも軍曹だ。不躾で申し訳ないが、貴官は新種BETA群とどういった関わりをもっているのか教えて欲しい」

(貴方がかすみさんの傍にいること自体が、嘆かわしいことです、そしてその知識はあまりに貧弱で哀れにも思えます。貴方が"新種BETA"と呼称しているそれは、人類がこれまで戦ってきた敵性地球外起源種とは異なります。別の世界で私を作り出した人間は、彼らを幻獣と呼称してきました)

「幻獣――別の世界とは――」

(会話での情報伝達はまどろっこしいですね)

 心底うんざりしたような口調で以て声が響いた後、神宮司とESP発現者の脳内に、走馬灯の如く様々な光景と文章が浮かんでは消え、この世界とは異なる世界の常識を全て叩き込んでいく。



 8月19日東京原爆投下――黒い月の出現――米太平洋艦隊撃滅――第二次防衛戦争(アジア太平洋戦争)講和成功――幻獣出現――欧州陥落――仁川防衛戦――欧亜陥落――九州戦――。



(この世界で私は、かすみさんと同じ役割――いえ、少し違いますね。幻獣殲滅を目的に開発された生物なのです。実を言えば新子、という名前も、第5世代215号からとったものです)

「……我々をここまで連れてきた理由は、なんだ。我々に何の目的がある――?」

(正確にはじんぐうじさん、貴方には何の用もありませんよ。むしろすぐさま、殺してやりたいくらいです。是非ともお話したいのは、貴方の前に座っている異界の同胞――やしろかすみさんに対してだけです)

「何だと――?」







(かすみさん、我々幻獣陣営に参加しませんか。貴方の自由を奪っている人類をやっつけて、本当の貴方の人生を勝ち取るために)







 それはまるで児童が友達に、遊びへ誘うような気楽さで語られた。
 前部座席に搭乗するESP発現者――社霞特務少尉は、肩をぴくりと震わせたまま身動ぎもしない。人類滅亡、それを回避する為に製造された彼女は、その存在そのものが母と言える人類を滅ぼすといった大それた考えは、夢想したことさえなかった。
 動揺し口がきけない霞に代わって、神宮司が半ば吼えるように叫んだ。

「馬鹿げたことを云うな、だいたい貴官も同じ人間ではないか! 世界が異なるとはいえ同じ人類では――」

(少なくとも私がいた世界では、我々第5世代クローンは人間扱いされていませんでしたよ?)







 彼女は、第5世代クローンであった。
 先程、神宮司の脳内で再生された映像の中には、第5世代クローンに関する情報も含まれていた。

 社霞の第6世代ESP能力者がBETAとのコミュニケーション実現を目的に開発された通信機械であるならば、彼女達第5世代クローンは幻獣殲滅を目的に製造された謂わば最終兵器であった。
 第5世界(GPM世界)における人類は、勝利の為ならば如何なる方策も採った。新兵器開発と共に、遺伝子を弄繰り回し最強の人類を製造することに力を注いでいた。そうして新子達が、この世に生を受けたのである。幻獣を人為的に操作する為の同調能力、また直接の戦闘を想定し幻獣と同等の身体能力を得た怪物、第5世代クローンは就役と同時に多大な戦果を挙げた。彼女達がもつ高度かつ強力な同調能力は、億単位の幻獣を制御するだけの力を持っていたし、戦闘ともなればその姿を異形へと変貌させ、生体光砲を以て幻獣達を焼き払った。

 その姿は、他ならない幻獣そのものであった。

 故に彼らは排斥された――。







(人類の手によって製造された第6世代ESP発現体のやしろかすみさん、貴方は自分の意志でこの任務にあたられているのですか?)

「……」



 霞は、口をきかない。
 何かを考えることさえ放棄した。
 いま何かを出力すれば、彼女は私の何かを切り崩しに来る――そんな確信があった。



(大方、そのこうづきと云う研究者に命令されるままに動いている、そうではありませんか)

「……」



 図星であった。

 だが霞にとって、それは当たり前のことでしかない。
 オルタネイティヴ3計画に携わっていた研究者は彼女を最高傑作の"対BETA翻訳機"として見做してきたし、彼女自身もそう思っている節がある。増してや香月博士は、謂わば霞の保護者――母の如き存在であった。彼女に「やってくれるわね」と聞かれれば、当然霞の返答は「はい」だ。自身の意志が反映されることはない――そもそも意志を表明する立場に自身はないと、彼女は思い込んでいる。



(こうづき博士は結局のところ、貴方を貴重な機材として用いるばかりで人間としては扱っていない。どうですか……我々幻獣陣営に付けば、人間らしさ、貴方らしさが尊重される生き方を手に入れることも出来ます。――私のように)

「……」



 そもそも霞には理解出来ない。
 香月博士に道具扱いされることが、何故悪いことなのか。
 来る人類救済の日に備える、それが自身に生まれながらにして課せられた使命であり、オルタネイティヴ計画遂行に尽力する、それ以外のあり方を霞は知らない――。

 黙りこくる霞。
 一方で黙っていられないのは、神宮司であった。
 実際に社霞と香月博士の関係を知り尽くしている訳ではない。だがしかし彼女には、確信があった。目的を達成する為にはあらゆるものを利用し尽くす香月夕呼であっても、典型的なマッドサイエンティストのように、自身の影響下にあるものを虐待したりすることは決してないと断言出来る。



「何か勘違いしているように思えるな……香月博士は貴官の世界で幅をきかせていた研究員とは大いに性質を違える。確かにその立場上任務遂行を第一義にしなければならず、故に香月博士の直属の部下である社特務少尉は前線に出向くことになった。しかし彼女は真っ当な人間だ――決して、社特務少尉を道具だとは考えていない!」

(やっぱりどこの世界でも信用ならないのは、研究者と軍人ですね。――いいですか? かすみさん、だいたい貴方くらいの年頃の"人間"というものは、家族と共に食事を摂り、友達と公園で遊び、漫画を貸し借りしては感想を共有し、時には喧嘩をし、学校に通い宿題の見せ合いっこをしたり――そんな生活を送っているものなんですよ、それが人間らしい生活というものです――違いますか、かすみさん。そしてじんぐうじさん)



 と言っておきながら、彼女が挙げた"人間らしい生活"の具体例は想像でしかない。第5世代クローンである彼女は幼少期を全てラボの一室で過ごし、成長してからは戦場とラボの往復のみを経験してきた。当然、「家族と共に食事を摂り、友達と公園で遊び、漫画を貸し借りしては感想を共有し、時には喧嘩をし、学校に通い宿題の見せ合いっこをした」生活経験など皆無だ。
 だからこそ第5世代クローンの新子は、こうづきなる人物に拘束され、現在進行形で普通の生活を失っている少女を放っておくことは出来なかったのだ。戦術機ゾンビの一隊を指揮し第6中隊を全滅させたのが彼女であれば、ESPの"念"を感じ取ったF-14AN3を瑞鶴ゾンビに捕獲するよう命じたのも彼女だった。



「……社特務少尉はその類まれなる素養により、重要計画に参画している。対BETA戦勝利の為、能力がある者にはそれ相応の責任がつきまとうものだ」



 神宮司まりもとて、後ろめたい思いはある。
 大陸戦線を戦い抜き、富士教導団入りした言うなれば"護国の鬼"たる神宮司にも少女時代はあった。だがしかし大人たちはいま社霞に、一般人ならば享受出来る十数年分の平穏な生活を返上させてしまっている。大陸戦線を戦った軍人として、人類劣勢の戦況打開を果たせなかった先に生きる一個の人間として、社霞がいまここに居ることを、全国で徴兵年齢が引き下げられようとしていることを恥じない訳にはいかない。
 だがその恥を忍んで言えば、いまは人類滅亡の瀬戸際なのだ。
 持てる物的・人的資源を全て注ぎ込んででも、勝たねばならない。勝利しなければ次の世代は平穏な生活を享受するどころか、生まれることさえなくなってしまう。この時代では悲しいかな、能力のある者は何人たりとも人類の勝利に貢献してもらわなければならないのだ。

 幼い少女に貴方には選択の自由があるはずだ、と説く新子。
 人類劣勢の昨今には止むを得ないこともある、と考える神宮司。

 どちらも、正しい。



「わかり、ません……」



 そして渦中の人物、社霞の回答はそれだった。

 前述の通り、彼女に自由という概念はない。
 オルタネイティヴ計画により生み出され、育てられた彼女にとって、軍を離れるという考えは有り得なかった。それなのに急に人間らしい自由な生活を提示され、これを実現する為に力を貸そう、と提案されても何と答えていいのかわからない。

(そう)

 新子はただ寂しげに、そう呟いた。
 彼女は強制されることを嫌う、また他人に強制することも嫌う。
 その"他人"が幼き日の自分に近い、人工的に生み出された少女であれば、なおさらのことであった。



(ではまた後日、お話しましょう。じんぐうじさん、幻獣達には帰路は手出しさせません)

「解放するというのか……こう言っては何だが、私を殺して特務少尉を手中に収める方が合理的だと思うが」

(かすみさんは貴方の死を望んではいませんし、それにただで帰す訳ではありません)

「何――?」

(かすみさんの記憶を垣間見させてもらいました。こうづきなる人物は、我々とのコミュニケーション、そしてあわよくば、講和まで考えていたようです。彼女の見通しは端的に言って甘い――いいですか、私とて人類が全て滅びていいと思っている訳ではないんですよ。私が考える講和の条件を、こうづきなる人物に伝えて頂きたいんです)

「新種BE……いや、幻獣との講和か」

(いいですか、こう伝えてください。"幻獣陣営とて一枚岩ではない。長年の戦争に飽き、また新たな世界との戦争に突入した現状を憂い、人類軍との講和を模索する和平派もいるが、過去行われたその幻獣和平派と陸上自衛軍の話し合いでは「人類軍が九州地方から完全撤退する」――これが講和の条件だった。仮に私達が仲立ちに入り、主戦派さえも納得させる条件といえば――)









――人類の武装解除ならびに文明の破棄"、です。









「馬鹿な……!」

 半ば希望を掴んだ思いでいた神宮司は、驚愕のあまり一瞬何も考えられなくなり、暫くしてから止め処なく思考があふれてくる。人類の武装解除、文明の破棄。人類国家間では、絶対に有り得ない講和条件であった。無条件降伏に近い。……いや、文明の破棄が具体的に何を指すのかは分からないが、これは無条件降伏よりも性質が悪い響きをもっている。
 新子はマインドシーカーの頭部ユニットを見上げながら、続けた。



(武装を解除し、文明さえ棄て一個の動物として幻獣が生み出す調和の中で暮らすのであれば、幻獣達も人類を根絶やしにまではしないでしょう。そして人類は種の保存に成功するという訳です――貴方達が散々手こずってきたBETAは、幻獣軍が駆逐します)



 幻獣の占領地には、大自然が生まれる。
 その調和の中にこれまで築いてきた文明を棄てて合流するのであれば、幻獣は歓迎するであろうし、外敵たるBETAからは幻獣が守ってくれる、というのである。
 だがしかしその条件を、日本帝国が、世界中の国家が認めることなど、神宮司には有り得ないことだとしか思えなかった。



「人類の意志が、その方向で一致するはずがない。生殺与奪の権利を異種へ明け渡すような、そんな条件が受諾出来るはずがない!」

(では、人類は滅びる他ありませんよ)



 少女はさもつまらなさげに言った。



(知性の欠片も持たない一千万、二千万足らずの宇宙生物の駆除に手こずってきた貴方達が、億単位の軍勢を誇る異世界軍との現代戦に勝利出来るとでも思っているのですか……? 繰り返します、私とて人類全部が死んでいいと思っている訳ではないんですよ。貴方のような軍人はともかく、何の罪もない子供や赤子、かすみさんのように人工的に製造された少女は何とかして助けたい。そう考えている同志は、幻獣陣営には一定数居るんですよ。私達第5世代クローンと、幾許かの幻獣を中心としてね)

「……全ては香月博士に話をしてからだ」



 神宮司は、そう言うのが精一杯であった。












―――――――
以下解説。












 幻獣陣営にも厭戦派はいます。原作中では和平派と、九州軍参謀長(幕僚長)芝村勝吏の息が掛かった者が会談を行いました(プレイヤーは所持する技能と役職によっては、この会談を邪魔する主戦派幻獣を撃破する"降下作戦"に参加します)。講和の条件は「九州地方の明け渡し」。その後、幻獣和平派の中心人物シーナが主戦派に拘束されてしまい、講和の話は流れてしまいました。
 幻獣陣営からすれば、ゲートが第5世界(GPM世界)から別世界へ繋ぎ直されたことで、侵略状況は振り出しに戻ってしまいました。そういった関係から幻獣軍内でもある程度は厭戦気分が蔓延しており、第5世代クローンはそこに「人類の武装解除・幻獣への恭順」をもっていくことで幻獣・人類間の講和を為そうとしている訳です。

 今回、第6世代ESP発現体として社霞を、後部座席にて戦術機を駆る役どころとして神宮司まりもを登場させましたが、かなり無理があると筆者も思っています。香月夕呼の手許に自由に動かせるESP発現体は社霞しか居らず、またある程度の信頼関係が築かれている衛士は神宮司まりもしか居ないという想定の下で登場させました。特に前者は戦術機に搭乗するにはかなり幼いように思えますが、ESP発現者は衛士適性も高い傾向にあるということで、戦闘機動でなければ大丈夫であるということにさせてもらっています。

 混沌とした情勢になりつつありますが、これからも応援よろしくお願いします。


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