「あれのおかげで随分とぬるくなったわね~」
速瀬は突撃砲を撃ちまくり辺り一帯に36ミリ弾をばらまきながら呟く。
ヤマトの奮戦によりここに来るBETAの殆どは体液を垂れ流してどこか欠損している奴ばかりだ。しかも決定的に数が少ない。捕獲するのはできるだけ五体満足で被弾していないものがいいため損傷しているBETAをなぎ払っている。
だがダメージを受けていて数の少ないBETAなどこの伊隅ヴァルキリーズには恐るるに足らなかった。
「速瀬中尉、そんなこと言ってやられないでくださいよ?」
武はあのにくきBETAをいともたやすく倒せるので完全に調子に乗っていた速瀬をたしなめる。
戦闘開始時点ではヤマトは誤射を恐れてBETA群の中核から攻撃を開始したため五体満足の突撃級などがあふれていた。
だがその先頭集団はもうとっくに切り抜けた。
武は数少ない五体満足のBETAを選別して欠損しているBETAを一体一体確実に潰していた。もう五体満足のBETAが少なすぎて先頭集団を捕獲していれば良かったと思うほどだ。
なのでBETA対して武自慢の変態機動も生かそうにも機会が無かった。
「こんな程度でやられるもんですか!」
武は軽く緊張をほぐすため言ったのだが速瀬はむきになって返す。まあこれが速瀬の取り柄?か。
そしてどんな状況でもいじる機会を見逃さない生粋のいじり屋?が一人。
「速瀬中尉は逆境にこそ興奮する生粋のマゾヒストですから、いや逆にやられたいのでは」
「む~な~か~た~」
速瀬は目を見開いて画面越しに宗像を睨む。
ブリーフィングでは失敗してしまったが築地と同じように宗像も学習した。
「と茜が言っていました」
目標を茜に変えた。茜は今まで目標にされたことが無く更に初めての実戦で緊張しており格好の目標だった。
「えっ!?言ってません言ってません!」
そして案の上の反応。宗像は満足そうな笑みを浮かべる。
「宗像…今は戦闘中だぞ?いじるのは帰還してからにしろ」
本来ならば戦闘中にこんな会話は良いものでは無いが新任達の初めての実戦の緊張感を和らげるので良しとした。しかしさすがにこれ以上いじると戦闘に障害が出そうなので釘を刺しておくべきと判断した。
「了解です」
ここで今のA-01の編成を一度説明しておく。
突撃前衛の速瀬、武の両名は捕獲を邪魔するBETAの排除。強襲前衛の高原、麻原、強襲掃討の茜、築地はうち漏らしの排除とBETAの誘導。迎撃後衛の伊隅、宗像は現在実弾を装備していない後衛の護衛。砲撃支援の柏木、打撃支援の涼風、制圧支援の風間はBETAの動きを停止させる酵素を封入した弾をたたき込む。
この一番矢面にたっている速瀬が無駄口を叩くほどだ。実戦ということを抜きにして、難易度としてはいつもやっているヴォールクデータの改良版の比では無い。
ここで武は速瀬の実戦でのXM3の修練具合を見るために一つ提案をする。
「速瀬中尉、あれ、やりませんか?」
武が長刀でそれを指した。
「…あんたそれ本気?」
速瀬がそういうのもおかしくない。
それは非常に高い耐久力を持つ。それは全方向をカバーし死角が無い。それは酸性液をはき出す。それは体内の小型種を持つ。それは二人で立ち向かうようなものでは無い。それは現在確認されているBETAのなかでも最も大型の種。
つまり要塞級を捕獲しようと言うのだ。
「こんな時に冗談なんていいませんよ」
その要塞級は偶然にも無傷。周りのBETAの死骸を気にするわけでも無く悠々と戦場を闊歩していた。
「まだろくにXM3の性能を発揮していないでしょう。それとももう全力でしたか?」
誰でも分かる挑発。だが戦闘に飢えていた速瀬を飽きさせないためにはちょうどいいだろう。
「やってやろうじゃ無いの!白銀!早く行くわよ!」
速瀬は跳躍ユニットを全力で噴射して武を抜いて要塞級に肉薄する。一般衛士がやれば自殺ととられるだろう。
要塞級が急速に接近する無謀ともとれる戦術機を発見する。だが所詮は1機と思ったのか足を止めもせず触手のみが速瀬に肉薄する。
速瀬はまるで氷上でスピンを決めるように華麗に、そして確実に避ける。
避けると120ミリを触手の先端にあて反撃を防ぐ。
そして跳躍して脚部の間接部に120ミリ弾をたたき込むと足の一本がゆっくりと倒れぐしゃりと気持ちが悪い音を立てて死骸を押しつぶす。
要塞級はバランスを崩しそうになるが残った脚で持ちこたえる。
だが要塞級の進撃は確実に止まった。
そこに武装を下ろして予備の酵素弾を装備した武が到着した。
武はまるで触手が存在していないかのように堂々と真っ直ぐに接近する。
新たな敵の出現に要塞級は触手で攻撃を仕掛けるが要塞級の上から落ちてきた速瀬が長刀で地面に縫い付ける。
しかし触手内部を流れる溶解液で直ぐに溶けて外れてしまうだろう。
だがそれで十分だ。
武は跳躍して速瀬が120ミリをたたき込んだ傷口に接近して殆どゼロ距離で酵素弾を連射する。
すると酵素は傷口から全身にまわり要塞級も耐えきれず体勢を崩して倒れ込む。
まるで艦砲が着弾したような騒音をたててかろうじて生きていた下の小型種を巻き込んだ。
要塞級を捕獲、損害は長刀一本、人的被害なし。これほど鮮やかに要塞級を無力化する部隊はどこを探しても滅多にいないだろう。
だが難題が一つ残されていた。
「ところで白銀、この要塞級をどうやって持って行くつもり?」
そう輸送だ。全高66メートル、全長57メートル、全幅37メートル。不知火の三倍強。これほどのものを輸送するトラックなんて無い、航空機も無い、ヘリも無い。果たしてどうやって輸送するのか。
「…ひとまず香月博士に連絡しましょう」
武が一瞬考えて出した結論は香月博士への丸投げだった。
この任務も中盤、捕獲するBETAも目標数にかなり近づいた。
だがこの任務は突然の凶報と共に一変した。
「CPよりヴァルキリーズ全機、帝都方面に侵攻していた全てのBETAが「撤退」しました。帝国軍は次の防衛線に戦力が集中していたため多数のBETAが生存しています。帝国軍も追撃を開始しましたがなにせ速度が速すぎて有効な攻撃が加えられていません。よって多数のBETAがその地点を通過する予定です」
その通信の「撤退」の二文字に全員が絶句した。
BETAの戦術は進軍し進軍し前線にハイブを建設して進軍する。そう「進軍」ただそれのみ。
だがそのBETAが「撤退」したのだ。この新しいBETAの行動は今までの対BETA戦略に大きく影響を与えるのは明白だ。
皆はこの行動の原因を探る。皆の脳裏に浮かぶのはただ一つ。それの名前はただ一つ。「ヤマト」だ。
あの新兵器には何かがあるのか、BETAが特殊な行動をする何かが?
「ヴァルキリーズ狼狽えるな!」
さきに武が言ったことを次は伊隅が叫んだ。
こちらが狼狽えている間もBETAは絶えず行動をしている。
「我々は長い間BETAの動きを観測してきた、だが完全に行動を予測したことがあったか?答えは否だ!BETAがどのような動きをしようがなにもおかしくは無い!全機、実弾に換装し弾薬を補充しろ!
白銀、耐えれるか?」
BETA群は急速に接近してきている。できるだけ早く実弾を装備して補給をしたい。だがBETAもまとまってくるわけでは無くばらばらとくる。今も少数ながら眼前に迫っている。
だか補給にいている間もこの戦線を維持しなくてはならない。
「勿論ですよ」
武は笑って答える。
この部隊での一番の実力者は間違いなく武だ。
伊隅は信じている、いや確信だ。武ならこの程度ならば余裕であしらえるだろうと言う。
「じゃあ任せるぞ」
伊隅もつられて笑ってしまう。
この状況で笑わせるだけの安心感を武は放っている。
「白銀ぇ!ちったぁ残しときなさいよ!」
武にくってかかる速瀬。なぜ伊隅が自分を選ばなかったのかは分かっている。
だがその武の実力を知りながらもその後塵を拝することはやはり悔しいのだろう。
「大丈夫ですよ、BETAは腐るほどいますから。でも風間少尉の早飯ぐらい早く来てくださいね」
「…それはちょっと難しいわね」
速瀬はにやりと笑いながら答えた。風間少尉の早飯は隊で評判だ。気づくと風間少尉の前には空の皿しか残されていない。
「速瀬中尉!早く行きますよ!白銀大尉もそんな無駄口を叩いてていいんですか!」
風間少尉は顔を赤く染め早く行くように促す。
武をのぞいたヴァルキリーズは轟音を轟かせながら最前線を後にして輸送トラックの方まで後退した。
残されたのは武のみ。
本来ならエレメントが最小だが武の動きについて行ける者はいない。伊隅でも、速瀬であっても。ここにいても足手まといだっただろう。
ヴァルキリーズが戻ってくるとそこにはうずたかく盛られたBETAの残骸があった。
「早かったですね」
武は不知火を赤く染め上げながらもBETAの残骸の上で普段通りに答えた。
その姿はまさしく赤鬼か、いや鬼神だ。いまの武はいつもの人なつっこい様子は全くなく異様な雰囲気を放っている。
「白銀…まあいい。補給の長刀と突撃砲の弾倉だ」
伊隅は何か言いたそうだが言うのをこらえた。その後に紡がれるはずだった言葉は決して単なる賞賛だけでは無かったはずだ。
「ありがとうございます。要塞級に長刀を一本持ってかれまして」
武は涼宮から長刀、柏木から手に持っていた36ミリ弾倉を4つ受け取る。
担架は火薬式ノッカーを作動させたためもう長刀を搭載することは叶わない。だから受け取ると地面に突き刺す。
弾倉はまだあまりがあったらしく三つを腰装甲に収納、一つはまだ残っていたため一瞬ためらうが突撃砲に付け替えてもともと刺さっていたのは投棄した。
「これって白銀一人でやったの…」
伊隅達から武が補給物資を受け取った後涼宮は武の周りを見回した。
そこにあるのはBETAの死骸のみ。生きているのは今到着したBETA達だけだ。
状況を見れば一人でやったことは明らかだが聞かずにはいられなかった。
その顔には驚愕と畏怖、それと憧れが複雑に混ざり合っていた。
「よくもこんなにできたね~、まさか白銀って宇宙人か何か?」
柏木の口調は戯けているが口は引きつっていて額には大粒の冷や汗が光っている。
その瞳にはやはり驚愕と畏怖に満ちていた。
二人とも武と訓練を共にしてこてんぱんに撃破され白銀の実力を身にしみて実感していたつもりだがまだ認識不足だったようだ。
「涼宮に柏木…そこまで言われるとさすがに傷つくぞ…」
そんな鬼神のような実力を示しながらもやはり白銀は白銀だった。戦術機全身を使い気持ちを表現している。果たして戦術機はこんなにも感情豊かだったのか。
そんな武のいつも通りの態度にずっこけそうになる二人。ふたりとも毒気を抜かれて先は引きつっていた口元には自然と笑顔がほころんでいた。
「ヴァルキリーズ!これより輸送トラック護衛しながら波が通り過ぎるまで持ちこたえる!白銀はいったん後方支援に当たれ」
だいぶ緊迫していた雰囲気が適度のほぐれたところで伊隅は戦線を構築し直す命令を声にする。
「「了解」」
全員顔を引き締めて臨戦態勢になる。この姿こそヴァルキリーズ達の本当の姿だ。
「伊隅大尉、俺はまだ戦えます」
白銀はまだ戦えると進言する。
白銀の目的は仲間全員を誰一人失わないと言うこと。確かに武の指導とXM3によりヴァルキリーズはいつの時代のどの部隊にもひけをとらない。
だがしかし武に不安が無いと言う訳では無かった。
「いや、休め。おまえも一応人間だろう。これだけやってくれればもう私たちだけで十分だ。それにもう推進剤も半分を切っているだろう」
武は戦う意欲を見せるがばっさりと両断される。それはもうきれいにばっさりと。そして最後ににやりと笑う。
伊隅は武の心配を理解しているからだろう。伊隅も今までたくさんの仲間を喪ってきたのだから。
だが伊隅にも隊長としてのプライドがある。
たしかにいまでも武には遠く及ばないだろう。しかし守られているばかりでは無い。今こそ伊隅ヴァルキリーズの力を武に示すのだ。
「一応では無くまごう事なき人間ですよ…」
武はその気持ちを信じて戯ける。
器用にも不知火の体の全身を使って意気消沈する。誰が見ても戦術機がしょんぼりとしているように見える。ここまで戦術機で感情を表現できるのはXM3のおかげだろうか…?いやそもそもやろうと思った人間がいなかっただけだろうか…?
ともかくそんなコントをBETAが黙って観戦しているはずが無い。本当の新潟防衛戦は今開始された。
ヤマトは佐渡島のBETAを警戒して限りなく低空飛行しながら主砲と機銃を無制限に撃ち続けていた。
弾薬は波動エンジンから無尽蔵に供給されている。ミサイルなどの実体弾以外はどれほど使っても何ら問題は無い。
突撃級の36ミリをもはじく堅い甲殻に縫い目を刻み、要撃級の白い体から赤い噴水を作り上げ、光線級のいた場所にことごとく数十メートルのクレーターを発生させ、要塞級の関節部しか攻撃できないとされていた柔軟かつ強靱な皮膚を蹂躙した。
「艦長、後方から他方向に侵攻していたBETA群反転してこちらに接近してきています。友軍が追撃をしているようですが速度が早すぎてあまり効果をなしていないようです。横浜基地からの部隊はもうすぐにBETA本体と接敵しそうです」
「横浜基地の部隊は持ちこたえられそうか」
ヤマトがいかに空を飛ぼうとも移動に時間がかかることに違いは無い。
しかも低空飛行によりヤマトの高速移動も満足に発揮できない。
ヤマトがいかに最新技術に結晶といえどその巨体故の旋回能力の低さは否めないのだ。
「平均的な部隊だと考えると難しいそうです」
この平均的部隊と言うのはヤマトが戦場データリンクや各情報機関をハッキングして得たデータから計算した情報だ。
ヤマトの電算能力からすればこの時代のコンピュータなぞおもちゃ当然で一瞬のうちにハッキング可能だ。
しかも宇宙空間を安全に航海するために難解な計算を逐次行うことができるヤマトの電算能力からすれば計算もお茶の子さいさい。
「すぐに反転して友軍を支援に向かう。艦首回頭180度!」
ヤマトは艦首と艦尾の側面噴射をして回頭する。回頭までたった数十秒。その回頭するための風圧で周りの木々やBETAが吹き飛ばされる。
回頭すると目の前に広がるBETAの運河。こんな光景誰も見たことが無い。いや見て生き延びている者がいない。
だがそのようなすさまじい光景を目前にしてもこの巨艦が揺るぐことは無い。また先と同じように真っ直ぐと、平然と運河をさかのぼる。
前方の二基の六門のショックカノンがBETAの先頭集団とは距離があったため低い角度で着弾。貫通力の高いショックカノンは何の抵抗もなく赤い線を引く。もしもショックカノンが地面と水平に発射されれば地平線まで行くのでは無いだろうか。
偶然にも、奇跡的にも生き残ったBETAも豪雨のように降り注ぐパルスレーザーで全滅。
もともとBETAには空を飛ぶという概念は無く対空能力は無かった。いまでも対空能力を有するのは光線級のみ。だが頼みの綱の光線級もヤマトの敵とはなりえ無い。
「CPよりヴァルキリーズ全機。ヤマトが反転して攻撃を加えています。到着まで持ちこたえてください」
「「了解」」
伊隅ヴァルキリーズはちょうどBETA群の真ん中あたりにいた。
谷の真ん中から外れた脇におり、BETAは脇目も振らず一心不乱に後退しているとしてもそれなりの数と交戦していた。
その数は普通の部隊なら対処しきれる数では無い。
だがこの部隊はオルタネイティブ計画の直属部隊の伊隅ヴァルキリーズだ。
速瀬の前に突撃級が2体、その後に要撃級。
突撃級の堅い装甲に36ミリなぞ効くはずも無い。
速瀬は地面を蹴り空高く舞い上がる。その高さはゆうに突撃級を飛び越える。機体が回転していたためちょうど逆さまになった一瞬に空中から突撃級の柔らかい背面を攻撃。36ミリ弾は突撃級の皮膚を難なく貫通して突撃級は抵抗もなく崩れ落ちる。
燃料のお消耗を減らすため空中で噴射を停止していたため機体は回転しながら自由落下運動をする。
速瀬は回転しながら右の脚を前に出す。脚は的確にかかと落としとなり要撃級の感覚器官を捉えて嫌な感触を残しながらザクロのように砕け散る。
この空中での機体の操作はXM3のおかげであり、いままでのOSではできない機動だった。
高原と麻倉の前に要撃級が三体。
歯を食いしばったようにも見れ生理的嫌悪感を抱かせる感覚器官をこちらに向けて突進してくる。
二機は36ミリを撃つがそう簡単に死にはしない。ついに要撃級は二機の眼前まで迫った。
二機は重心を横に向けて回避を計る。片手を地面につきながらジャンプユニットを地面に向けて噴射して手の負担を少しでも減らす。
片手で倒立をしているような体勢になると噴射を止めて片手にもつ36ミリを放つ。そしてきれいな体勢で着地。
そして再度36ミリを放つとようやく要撃級は倒れた。
回避中の攻撃、これもXM3の恩恵だ。
武がこの隊に来てからヴァルキリーズの戦闘方法は一変した。武のXM3の有用性をいち早く認めたヴァルキリーズは貪欲に技術を取り込んだ。この戦闘にはその成果がまざまざと現れていた。回避運動の中止、動きのなめらかさ、XM3の模範的な使い方と言っても過言では無い。これがもしどこかから見られていたら問い合わせが殺到しただろう。だが惜しくもこの任務は極秘であるため誰も見る者はいなかった。
最後に白銀。突然と夕呼先生のつてで入隊して圧倒的技術を見せつけ、更にXM3を開発しあの政威大将軍であらせられる煌武院悠陽殿下と直接お目通りできる謎の存在。
やろうとすればこの戦線でも一人で持ちこたえるぐらいのことはできるだろう。いやヴァルキリーズを一人であしらった男だ。そのぐらいはやってもらわねばならない。だが白銀は常に援護に徹している。
装備自体は突撃前衛のものだ。しかしその突撃砲でうまく援護をしている。
伊隅ヴァルキリーズでXM3を搭載しているといえども所詮はただの人間。不注意も失敗もある。それは戦場では致命傷となる。
だが白銀はまるでこの戦場を衛星で監視しているように全ての行動を監視してまるで機械のように仲間に手に負えそうに無い量のBETAがくればうまく誘導、できるなら殺している。
突撃砲は弾をばらまくためのものなので精密な狙撃はできない。だから最前線の敵の目の前でこれを行っている。
そんな白銀をBETAが見逃すはずも無いのだがその攻撃は白銀を捕らえること叶わず空を切る。たとえるならひらひらと落ちてくる桜の花びらだろう。掴もうにもひらりひらりと突撃級の突進から、要撃級の前腕から逃げていく。掴めそうなのに掴めない。
しかし桜の花びらとは違い戦術機には重力の重さがある。着地地点にはうまい具合に要撃級がいる。それはまるで破裂した水風船のように赤い液体をまき散らせる。
白銀の心の中にはBETAへの憎しみが、怒りが、決壊したダムのように濁流となって渦巻いている。不幸自慢をするつもりでは無いがその流れは誰のものより激しく壮大だ。それをどうして押さえられているのか。それは仲間のために他ならない。BETAへの憎しみなら前回の世界でオリジナルハイブを殲滅することである程度果たした。
敵の頭をたたきつぶしたのだ、個人でできる最大の復讐を果たした。
だが白銀は三度目を願った。そうBETAをたたきつぶすだけでは無く仲間を救うために。
どんな戦果をあげてどんなに賞賛されどんな名声を得ようがその場所に仲間と共に立っていなければ意味が無い。
だがその望みをたたきつぶすかのように10体以上の要塞級や多くの大型BETAがヴァルキリーズに向かっていた。まだそんなに生存していたのか?いやそもそもどうして中央から外れたここにいるのか?理由は何もわからない。
白銀の脳裏に柏木の戦死の報告が浮かんだ。
ヤマトは順調にBETAの濁流を遡っていた。これまでたいした損傷は無い。細かいことを言うのなら二、三基のパルスレーザーが重光線級の照射を受けて砲塔の旋回がぎこちなくなった程度だ。
「こちら横浜基地所属伊隅ヴァルキリーズの白銀武だ!今すぐに砲撃支援を頼みたい!座標は今すぐに送る!今すぐにだ!」
相原にもこの声の必死さが伝わった。そしてその声の主が今救援に駆けつけようとしている部隊だと直感的に理解する。だが殲滅しながらたどり着くにはまだ時間がかかる。かといって今すぐに攻撃しようとショックカノンの射線をとれば佐渡島の光線級の射線に出てしまう。確かに重光線級の光線を受けても殆ど効果は無かった。しかし一部のパルスレーザーに障害が出ている。もしも一カ所にいくつかの重光線級からの照射を受けたら…?
「こちら横浜基地所属宇宙戦艦ヤマト。今そちらに向かっている。もう少し持ち……」
相原はもう少し持ちこたえるように言おうとした。だがそれは古代に阻止された。
「相原、待て」
古代は通信機を耳に当てる。
「こちら宇宙戦艦ヤマト戦闘班班長の古代進だ。白銀か」
そう、古代には白銀を知っている。たった数時間しか会わず多く話したわけでは無い。だが古代と白銀は不思議と気があった。
「はい白銀です」
白銀はヤマト艦橋に古代がいてこの通信を聞いていると思って通信をしてきたようだ。
「分かった」
古代は白銀に対して短い返事を返した。
了解とも拒否とも分からない短すぎる返事。だが白銀はこの返事がどちらか分かっていた。
「艦長!今すぐに上昇して射線をとります」
古代は通信機を置くと立ち上がりすぐさま艦長に即時攻撃を進言した。
「待て古代!そんなことして損傷が出たら…」
その進言を隣で聞いていた島が操縦しているため目の前を向きながらだが反論する。
いままでわざわざ低空飛行をして光線級の攻撃を避けていたが、射線をとってしまえば格好の的になってしまう。
たしかに光線級の攻撃は殆どヤマトの装甲には通じない。しかし戦場は想定外のことがよく起きる。もしも艦が甚大な被害を受けたときは我々はどうなってしまうのか?
「いまあっちは窮地に陥っていて救援を求めてるんだぞ!?いま助けられるのは俺たちだけだ!多少の損傷でどうこう言っている状況じゃ無いんだ!」
古代はいつも仲間を第一に行動する熱い男だ。初めてのワープ航行の時に乗り遅れそうになる山本を配置を離れて誘導しに行くようなおとこだ。
その古代が一時の友人であっても友を見殺しにできるだろうか。
「古代、今すぐに射線をとって砲撃支援を行え。今すぐにだ」
古代の思いを受け取った沖田は危険覚悟の砲撃支援を決断した。
この沖田も古代同様に熱い男だ。しかし古代と違う点はもしもの時には冷静な判断が行えることだ。
もしもの時なら次の反撃のために大切な戦友すらも犠牲に次へとつなげていく。
「支援感謝します!」
沖田のその決断を通信機の奥から黙って聞いていた白銀は感謝の言葉を残して通信を切った。
ヤマトは船底の噴射と反重力により艦首を急速に持ち上げた。急速な噴射により運悪くヤマトの下にいたBETAは宙にまう。
ヤマトの艦首を空高くあげて垂直になった。端から見ると垂直だが艦内は重力発生装置が働いているため何の影響も無い。突然戦場に現れた強大な塔。その高さは佐渡島ハイブをも越える。この塔はBETA群を後ろか追撃している帝国軍達からも確認でき、衛士達には人類の底力を誇示し戦陣を切る旗のようにも見えた。
装甲の厚い船底は佐渡島に向けられている。肝心の砲塔もヴァルキリーズに迫る要塞級に向けられた。後方の噴射口が下に向いているためちょう
そして予想通りに佐渡島から重光線級の集中砲火を船底に浴びる。
「船底に数十の光線を被弾!しかし影響はありません」
だがヤマトの船底は最も装甲が厚い。この程度の攻撃何のことは無い。
「目標補足!ショックカノン一斉掃射!」
ヤマトの第一、第二、第三砲塔から青白い光の束が九本発射される。その光は正確にヴァルキリーズに迫っていた要塞級達を中核とする集団にぶつかる。着弾地点にはキノコ雲こそは発生しないものの巨大な土煙が巻き上げられた。土煙が消えると残ったのは巨大なクレーターと赤い残骸。艦首をあげてから攻撃したといえども角度はさっきよりも低い。よって要塞級の後続のBETAも同時になぎ払われる。
さきのヴァルキリーズの危機的状況は一瞬で解決した。
ヴァルキリーズは常々ヤマトの戦闘力を見せつけられた。
ここで突如ヤマト、ちょうど船底付近で小規模な爆発が起こる。
「船底付近で小規模の爆発を確認!……船底のミサイル発射口に装填していたミサイルに誘爆した模様です!原因は三体以上の重光線級の照射を受けたことにより高温になったためです!……これによりミサイル発射口はしようできなくなりました」
重光線級の照射は装甲自体には殆ど効果は無かった。しかし装甲内部はそうはいかない。
ヤマトは佐渡島に存在する大量の光線級から絶えず照射を受けている。光線により吸収した熱も冷めぬほどに。そこに運悪くミサイル発射口に三体以上の重光線級のBETAの照射だ。
それにより船底側面に装填されていたミサイルに誘爆。
しかし不幸中の幸いでミサイルには誘爆対策が施されていたのでそれ以上は誘爆を防ぐことができた。
だがこれで一部の発射口が使えなくなってしまった。
「すぐに艦首を下げ装填済みのミサイルを全て格納庫に収納せよ!」
沖田艦長は立ち上がり叫ぶ。何にせよヤマトは初めての損傷らしい損傷を受けてしまった。戦果から見れば損傷は無いに等しいが補給もあるか分からないこの状況でこれ以上損傷を出してはならない。
その命令ですぐさま、一分もかからず船体を水平にして高度を下げる。ひとまず佐渡島からの攻撃は避けられた。
「このまま殲滅しながら横浜基地に帰投する。先のようなことが起きるかもしれない。警戒は怠るな」
「「……」」
戦場に残ったのは9機の不知火とできたてほやほやのクレーター群と赤い残骸。
さっきまで迫っていた要塞級達はただ虫や菌に食い荒らされて土に帰るのを待つのみ。
呆然とその惨状を眺めるしかできないヴァルキリーズ。
武でさえ唖然としている。
だが誰よりも早く隊長である伊隅が意識を取り戻す。
「全機これより残存BETAの掃討に移る!」
ヤマトはあくまでも面制圧のみ。完全に全てのBETAを殲滅できるとは誰も思っていない。そしてここからが戦術機の本領を発揮する。
「「りょ、了解!」」
ヴァルキリーズは一方的な残党狩りを開始した。
帝国軍がヴァルキリーズのいた地点にたどり着いたとき残っていたのはヤマトの砲撃とは違い、小口径の砲弾や鋭利な刃物により原型を保ったまま朽ち果てていたうずたかく積まれたBETAの残骸だけだった。
後書き
どうもこんばんは、油揚げです。最近どうも忙しくてぜんぜん書くことができませんでした…。だれか時間を…時間をください…。
今回についてですが、やっと新潟防衛戦を完結することができました!ここまでの道のりはとてもつらく厳しいものでした。(嘘♪)
てかやっぱりヤマト強い!強すぎる!今までの衛士の苦労は何だったのか!と書きながら常々思っていました。しかしヤマトの無双もこのぐら
いにしておきましょう♪無双しすぎるのはつまらないですし♪
なのでヤマト打倒のためBETAに頑張ってもらいます。これ無理じゃないか?とか思われるかもしれませんがしょうが無いんです。
ここから抜けていた話を書いていったり、修正したり、クトゥルフやったり次回の話はとても遅くなると思います。ご了承ください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。