Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第15話 真実が明かされるとき「10月22日、確か先生の話じゃこれまでの世界の俺は因果導体となった事でこの日を起点に何度もループしているって話だ。でも、考えてみたらおかしいじゃないか・・・この世界の俺はこれまでずっとこの世界で生活していた筈なんだ。それなのにそれ以前の記憶が抜け落ち、別世界での記憶だけが鮮明に残ってる・・・いや、話を聞いた限りじゃこちら側の世界に来たって言う俺は元居た世界の記憶も持っていた。と言う事はその記憶も持っている筈なのに、それも曖昧になってる。だめだ、俺一人で考えていても何も分んねえよ」一人になり自問自答を繰り返すうちに武は少しずつではあるが冷静さを取り戻していた。前回の世界での出来事を思い出し、因果空間に漂っている他世界の記憶が自分に流れ込んで来ても、何かしらの条件が得られない限りはその記憶は自身の奥底に眠り続けたままだと言う事を思い出したのである。恐らく柏木との一件は、彼女が彼に話した過去の事が引き金となり思い出されたのだろう。しかし、それでは夕呼に聞いた事とは真逆の事になってしまう。今回のケースは元々あった記憶が欠落し、それが得られた条件によって呼び起されているのだ。夕呼の話では、元々無かった筈の記憶が何らかの理由で自分の中に流れ込み、それが得られた条件によって呼び起されると言うものだ。彼自身、この手の事に関しては経験者であるだけで専門家ではない。こう言った事は専門家である夕呼に尋ねてみるのが一番なのだが、不用意にこの様な事を彼女に告げる事は何故かやってはいけない事だと考えていた。そう、まるでその事に関しての部分だけをブロックされるかの様に・・・暫くして廊下に人の気配がする事に気付いたと同時にドアがノックされる。部屋に戻って来てから1時間ぐらいが経過していただろうか。ミーティングが終了した後は、特に何も指示は受けていない。言ってみれば自由時間だった為に彼は模擬戦に関するレポートを纏めるつもりでいたのだが、先程あの様な出来事があった為それも手つかずだったのだ。誰だと考えているうちに部屋の外からノックした相手が話しかけて来た。『タケル君、少し良いかしら?』「『エクセレン中尉か?』どうぞ、鍵は開いてますからそのまま入って貰って構いませんよ」武がそう言うと彼女は少し申し訳なさそうな表情で部屋に入って来た。恐らく、先程逃げる様にしてミーティングルームを後にした事を気にしているのだろう。そう考えていると、彼女は『さっきは申し訳なかった』と案の定誤って来た。「いえ、俺の方こそすみませんでした・・・柏木にも悪い事をしたと思ってます」「そう・・・でもねタケル君。伝えにくい事だったからってああやって逃げる様に立ち去るのは良くないわよ。彼女、本当に落ち込んでたんだから」「純夏と剛田の事ですか?」「ええ、彼女ね貴方と再会できたって事、本当に喜んでたみたいよ?BETAの本土侵攻時に行方不明になったって聞いてたから、生きてる事が分かって本当に嬉しかったって・・・」「そうですか・・・」「ねえタケル君。純夏ちゃんって晴子ちゃんが言ってた鑑さんって人?」「はい・・・あいつとは幼馴染で、小さい頃からずっと一緒に過ごしてました。でも、ここら辺がBETAの侵攻に巻き込まれた際に離れ離れになっちゃって・・・先日無事だったって言うのは分かったんですが、その時に酷い怪我を負ってしまって今はまだ話す事すら出来ないんですよ・・・」「ごめんなさい。私ったら聞いちゃいけない事聞いちゃったみたいね」「構いませんよ。誰かに聞いて貰う事で楽になる事もありますから」「そうね・・・じゃあ、剛田君って子の事も聞いて良いかしら?」「・・・剛田に関しては俺も分からないんです」「彼もその時に一緒に行方不明に?」武は迷っていた。本当の事を彼女に話すべきかどうかで・・・剛田に関する事は全く何も覚えていない。と言うよりも、10月22日以前の記憶が欠落している為にどう言って良いか分からないのだ。「すみません。剛田の事は本当に何も分からないんです。生きているのか、死んでいるのかすら・・・」「そう・・・無事だと良いわね。純夏ちゃんも無事だったんだし、きっと彼も大丈夫よ。ね、だから元気出して」「ありがとう御座います・・・」しかし、そう言った武の表情は暗いままだ。エクセレンは何とか彼を元気づけようと考え話題を変える事にした。「ねえタケル君」「何ですか?」「タケル君の昔の話聞かせてくれないかしら?」「え?」「突然過ぎておかしいかもしれないけど、前々から貴方に色々と興味があったのよ。横浜基地が誇る国連軍のエースパイロット。超が付くほどの腕前でありながらそれを過信する事無く偉そうでも無い。それでいて仲間との絆を大事にし、内に秘めたる熱い闘志と平和を守りたいと言う志を持ったカッコいい青年・・・女の子から見れば興味津々なんだけど。駄目かしら?」「ハハハ、エクセレン中尉。俺の事を過大評価しすぎですよ。俺はそんなに凄い人間じゃありませんって」「そうかしら?たった数日だけど、貴方を見ていて本当にそう思ったのよ。ね、話してくれないかな?」「・・・」「タケル君?」「・・・」「ねえ、タケル君どうしたの?」「無理ですね」「そう、残念ね・・・」「そうじゃないんですよ中尉・・・俺、昔の事覚えてないんです」「え?」「さっき柏木と話すまで昔の事何も覚えて無かったんですよ。10月22日・・・それ以前の記憶が抜け落ちてるんです」「で、でもさっき晴子ちゃんと親しそうに話してたじゃない」「あれは話を合わせただけです。柏木と別れて部屋に戻ってから急に中学時代の事が頭に浮んで来たんですよ・・・俺の中にある柏木との記憶は、前の世界で俺がヴァルキリーズに配属された後からの記憶しか無かったんです」「記憶喪失って事?」「簡単に言えばそうかもしれません。でも俺にはこの世界で過ごしてきた記憶がある筈なのに、過去の記憶が一切無いんですよ。いや、本当は自分の奥底に在るのかも知れません・・・最初に会った時に俺の事については聞きましたよね?」「記憶を持ったまま世界を何度もループした経験があるって事よね?」「そうです。その際に記憶が引き継がれるのには、様々な世界の間にある因果空間に漂っている俺と言う存在の記憶が世界を移動する際に少しずつ俺の中に流れ込んでくるからなんです。そしてその記憶は、最初は夢か何かだろうと言う位にしか感じ取れません。だけど、何かしらの原因がファクターとなって一気に記憶として流れ込んでくるんです。その際に記憶の補間が行われ、俺自身の記憶として引き継がれると言う事になるそうです」「でもそれだと・・・」「ええ、中尉の仰りたい事は解ります。今回の俺のケースとは矛盾してるって事は、自分自身でも分かってるんです。本来ならこれを夕呼先生に相談すべきなんでしょうけど、何故か頭の隅で何かが引っ掛かって伝えちゃ駄目な気がして・・・」「なるほどね・・・でも一度相談してみるべきなんじゃないかしら?」「そうでしょうか?」「私も専門家じゃ無いから何とも言えないけど、その原因を究明しない事には貴方自身も辛いでしょ?それに仲間と共に過ごした日々の事を忘れちゃうなんて寂しいじゃない」「・・・それもそうですね。自分の中で考えが纏まったら、一度先生に相談してみる事にしますよ」「それが一番良いと思うわ。私で力になれる事があったらいつでも言って頂戴ね」「はい、その時はよろしくお願いします」「それじゃ、私はそろそろ失礼するわね。夕呼センセの話じゃ私のヴァイスちゃんの改修がそろそろ終わるらしいのよ」「中尉の機体ってあの白い奴ですよね?」「そうよ。もしも模擬戦って事になったらお手柔らかにね」「ハハ、こちらこそお手柔らかにお願いしますよ」「じゃあね~」そう言うとエクセレンは武の部屋を後にする。武は彼女と話をしたおかげで幾分か気が楽になったと感じていた。ヴァイスリッターの改修が終わると言う事は、次の新潟での任務に投入する予定なのだろう。彼女が本来の力を発揮できる機体で出撃すると言う事は、それだけ他のメンバーの生存率も上がると言う事になる訳だ。「そう言えば俺は出撃するかどうか聞かされていなかったな・・・後で報告書を持って行くついでに聞いてみるか」そう言うと彼は、机の上の端末を立ち上げ報告書の作成を開始する。報告書は思いの外スムーズに作成する事が出来、あれから時間は一時間程度しか経っていなかった。端末を立ち上げたついでに彼は、報告書を提出する前に端末に送信されてくるメールをチェックする事にした。つい最近まで模擬戦や演習の日程、訓練校での授業を担当する場合などの仕事は全て口頭で伝えられていたのだが、端末が支給された事により左程重要ではない物に関してはこうしてメールが送信されて来るようになったのである。別に日に何件もメールが送られてくる訳ではないが、まめにチェックしておかないと困る事も多々ある訳だ。そして最後のメールをチェックしようとしたとき、送信者の名前が見慣れないものだと言う事に気付く・・・「誰だ?この端末にメールを送って来るのはそんなに居ない筈なのに・・・まあ良いか、とりあえず読んでおくかな・・・」『貴方が今悩んでいる事についてのキーとなる人物はあなたの直ぐ傍に居る。だが、今はまだ知るべきでは無い。無暗に踏み込むと後で取り返しのつかない事になるかもしれない・・・それでも貴方は知りたい?』「何だこれ・・・こいつは俺の記憶が欠落している事を知っているって言うのか?そんな馬鹿な話があるかよ。大体、俺の記憶が欠けてる事は今さっきエクセレン中尉に話した以外、誰にも話しちゃいない・・・それに、このキーとなる人物は俺の直ぐ傍に居るって何なんだよ。誰の事言ってるんだ?最後の一文、無暗に踏み込んじゃ駄目ってどう言う事だ?俺の中に眠っている記憶ってのはそんなにヤバいものなのか?ああっ!クソッ!もう訳がわかんねぇ・・・差出人も不明だし、悪戯かもしれないな。とりあえずは無視だ無視っ!」そう言うと彼は端末の電源を落とし、報告書の提出に向かう事にした。だが無視すると言ったばかりであるにも拘らず、夕呼の部屋に向かう途中も先程のメールが気になって仕方がなかった・・・この時かなり難しそうな顔をしていたのだろう。夕呼の執務室まであと少しと言う所でピアティフに呼び止められた事にすら気付かなかったのである。「大尉、白銀大尉、白銀大尉っ!」「えっ、ああ、ピアティフ中尉。すみません、ちょっと考え事をしていたもので・・・」「やっと気付いてくれましたね。何かあったんですか?」「いえ、大した事じゃ無いですよ。それで俺に何か用ですか?」「はい、改型の事で班長がお話したい事があるそうです。直ぐにでもハンガーに来て欲しいとの事なんですが」「分かりました。報告書を提出したら直ぐに向かいますよ」「それでしたら私が副司令にお渡ししておきますのでハンガーの方へ行って下さい。できるだけ急いで来て欲しいとの事ですので」「それじゃあお願いします。じゃあ俺はハンガーの方へ行きますね」「はい、それでは失礼します」そう言うと彼女は来た道を引き返して行く。武は言われたとおり急いでハンガーへ向かう事にした・・・・・・戦術機ハンガー・・・ハンガーに到着すると自分の改型の他に二機の改型の整備が行われていた。自分の機体は外装が全て外されている。外装以外にも腕部やジェネレーターなどが取り外され、まるで解体している様にも見えるのだが、恐らく模擬戦でリミッター解除を行い負荷をかけ過ぎた事が原因なのだろうと判断した。「殆どオーバーホールしてるのと変わらないよな。ひょっとして班長が急いで来いって言ったのって俺を怒る為だったりして・・・」「そんなに怒られたいんならそうしてやっても構わんぞ?」「ゲッ!は、班長!?」「そんなに驚く事は無いだろう?安心しな坊主、怒ってるんじゃねぇよ。お前さんに話たい事があってな」「何ですか?」「ああ、模擬戦を終えた直後の改型を見た時は確かに俺も腹が立ってしょうがなかったよ。でもな、データを見せて貰って怒るどころかむしろ嬉しくなって来たんだよ」「どう言う意味です?」「お前さんの模擬戦相手、正直言ってあの機体は化けモンだ・・・悔しいがスペックなんかを考えてもこいつをはるかに凌駕している。そんな相手にお前さんは引き分けに持ち込んだんだ。俺達が整備した機体でよくぞここまでやってくれたって気になって来てな。どうやったらあいつに勝てるかって事を考えてるうちに怒りなんてどこかへ吹っ飛んじまったって訳だ」「なるほど・・・確かにキョウスケ大尉のアルトアイゼンは凄い機体でした。模擬戦じゃなく実践だったら負けてたのは俺の方だと思いますよ」「ほう、あの機体はアルトアイゼンって言うのか・・・戦術機にしちゃ洒落た名前だな」「そうですかね?確かにカッコイイ名前だとは思いますが」「独逸語で『古い鉄』って意味だ。確かに杭打ち機なんか装備してたりするのは時代を逆行したコンセプトかもしれねぇな。それでここからが本題なんだが・・・」「何です?」「改型は試作段階だって言う事はお前も知ってるよな?」「ええ、次期主力機開発の為のテスト機だって事は聞いてます」「そうだ。言い換えればこいつはまだまだ改良の余地があるって事だ」「ひょっとして、更にパワーアップさせる事が可能って事ですか?」「その通りっ!実はな、模擬戦が終わった後暫くして副司令から連絡があったんだ。開発中の新型ジェネレーターと高機動型跳躍ユニットを改型に装備させたいってな。データを見せて貰ったんだが、こいつが本当なら改型は今までの数倍の能力を発揮する事が可能になる。アルトアイゼンにも勝てるかも知れねぇって訳だ。まあ、本来ならBETAに勝つためなんだがな。当面の目標は奴を追い越すってのを目標にしようや」「マジですかっ!!」「おうよっ!こんな話聞いたら怒ってなんかいられねぇだろ?近日中に試作機が出来上がるそうだから楽しみに待ってると良い。お前さんの期待以上のモンに俺が仕上げてやるからよ」「分かりました。期待させて貰いますよ班長。ちょっと俺先生の所に行ってきますよ」「おう、完成が近付いたら直ぐに連絡してやるからな」「はいっ!」先程まで落ち込んでいたのが嘘のように武ははしゃいでいた。班長の言った事が本当なら自分の想像のつかないような機体が出来上がると言う事だろう。新型ジェネレーターや跳躍ユニットについて詳しく知りたくなった彼は急いで執務室へと向かう事にした。・・・基地内某所・・・横浜基地内にはいくつか使われていない建物がある。ここはその建物の一つで、基本的に誰にでも出入り可能な場所であった。基地の一画に在るのだが、周囲が薄暗い事もあってあまり人は立ち寄らない。その建物に近づく影が四つ・・・先頭を行く人物は周囲を警戒しつつ、足早にその建物の中へと入って行く。残りの三人は一つしか無い入口の前で周囲を警戒していた。「なるほど、な・・・確かにここならば人目に付きにくい。情報交換を行うにはうってつけの場所と言う事か。見張りは三人・・・恐らくリーダーは中に入って行った奴だろう。内部の情報が分からん以上、迂闊には近づけんか」極秘任務を遂行中のアクセルは、今日この場所でスパイが何者かと接触しようとしていると言う事を突き止めた。そして現在、一定の距離を置いた場所で監視しているのだが、先に現れたのは相手側の方だった。見張りの三人の服装から相手の所属は直ぐにでも分かったのだが、肝心のスパイが現れない。ひょっとして自分の方が罠に掛かってしまったのかなどと考えていたのだが、直ぐにその考えは吹き飛ぶ事となる。遅れる事約10分少々・・・ついにターゲットが現れたのだ。「やはり来たか・・・奴が俺達の世界に居た人間ならば色々と確かめたい事がある。もしかすると俺達が元の世界に戻れるヒントが得られるかもしれんしな」そう言うと彼は、見張りの三人の気が緩んだ隙に一気に接近しあっという間に二人を気絶させる。「き、貴様!何者だっ!」「大声を出すな・・・お前には少しの間眠っていて貰う」「な、なにっ!?グッ!」そう言い終えた直後、彼の拳は相手の鳩尾にめり込んでいた。「悪く思うなよ・・・とは言うものの、やはり女を殴ると言うのはあまり良い気がせんな・・・」そう呟くと彼は、手に持っていた通信機で保安部に向け通信を入れる。もしもの時を考え、相手の退路を断つためだ。慎重にドアを開け、建物の内部へと侵入するアクセル・・・案の定、建物の中は使われていない為に埃だらけだ。だが、こう言った場所だからこそ密会を行うには適していると言うものである。廊下伝いに歩いて行くと暫くして話し声が聞こえてくるのが解った。彼は気配を殺しつつ話し声のする方へと近づいて行く・・・「すまないな。お前にはこの様な仕事を押しつけてしまって・・・」「その様な事は仰らないで下さい。素性も分からぬ私を月詠家に迎え入れて下さったばかりか色々と便宜を図って下さったのです。私にお手伝いできる事があれば何でもお申し付け下さい」『相手も女か?』「助かる・・・それで、例のデータは?」「はい、彼女の協力で全て抜かり無く」『彼女だと?他にもまだ協力者が居ると言う事か・・・』「正直この様な事をせねばならないのは心苦しいのだがな。だが、香月副司令は簡単に全てのデータを我々に提供しないだろう。それに冥夜様や御友人である彼女の願いだ。後の世の為に我等が影となって動く事で世界が救われるのであれば私は喜んで事を運ぶつもりだ」「それは私も同じです」『冥夜・・・確か207訓練部隊の訓練生だな。奴もグルと言う事か・・・』「引き続きお前には任務を継続して貰う。ただし、危ないと感じたら即座に手を引け。恐らく時間はあまり残されていない筈だからな」「了解しました」『そろそろ頃合いか・・・』ある程度の情報を引き出せた事でアクセルは、二人を拘束する為の行動に出る。普通に考えたならば保安部の到着を待ってから行うのだろうが、モタモタしている間に逃げられてしまっては本末転倒だ。それに相手は女二人。最悪一人だけでも捕まえる事が出来れば、そこから更に調査を進める事で芋蔓式にスパイを捕まえる事が可能になる。「そこまでだ!」「何奴っ!?」「あ、貴方はっ!」「フッ、まさか貴様とこの様な場所で再会できるとは思ってもいなかったぞアウルム1・・・いや、オウカ・ナギサ!」「知り合いか凪沙?」「はい・・・」「元上官の一人・・・と言ったところだ、これがな。死んだと聞かされていたが、まさかこちら側の世界に飛ばされていたとは、な」「シャドウミラーは向こう側の世界だけでは飽き足らず、此方側の世界まで手に入れるおつもりですか?」「残念だが俺はもうシャドウミラーの兵士では無い。今は厄介事に巻き込まれてここの副司令直轄部隊の所属だ。昔の好で見逃してやっても構わんのだが、これも任務でな・・・悪く思うなよ?」「クッ!外の神代達は一体何をしていたのだ!」「悪いが外の三人なら始末させて貰った」「き、貴様っ!」「おっと、言葉が足りなかったな。安心しろ、気を失ってるだけだ。さて、そろそろ時間だな・・・後は保安部の連中に任せる事にさせて貰う」「我々をどうするつもりだ?」「さあな?俺はスパイを捕まえろと命令されただけだ。その後の事までは知らん」暫くして保安部の兵士達が建物に突入してくる。アクセルは彼女達を連行するように伝えると、報告の為に夕呼の所へと向かった。・・・夕呼の執務室・・・班長と話をしている裏でそのような事件が起こっている事など知らない武は、はしゃぎながら執務室を訪れていた。部屋に入った直後に『五月蠅い』と怒鳴られたのは言うまでも無い。先程まであれだけ落ち込んでいたと言うのにまるで別人の様である。だが、こうでもしないと落ち込んでしまうのであろう・・・彼の心は思ったよりも脆い。気を紛らわせることで、少しの間だけでも例の事を忘れていたいのだ。「で、何?」「改型に今度搭載される予定のパーツの事ですよ」「ああ、それの事」「はい、そんな物が有るんだったら何で最初から組み込まなかったんですか?」「データ解析が終わって無かったのよ」「データ解析?って事は、新型パーツってPTの物なんですか?」「正確にはそうじゃないわ。PTに搭載されているプラズマジェネレーターとテスラドライブを解析したデータを基に開発した言わばデッドコピー品よ。いえ、デッドコピーなんて言いすぎね・・・コピーしようとした物と言った方が正しいわ」「じゃあ、それを搭載しても今までの改型とあまり変わらないんじゃないんですか?」「そんな事は無いわ。戦術機で使える物に出力を落とした物だから性能はオリジナルに劣るってだけだもの」「テスラドライブって、確か重力制御で飛行させるシステムですよね?って事は改型は飛行可能になるんですか?」「一応飛べるでしょうけど、死にたいならやってみれば良いわ。あくまで高出力の跳躍ユニット程度の物だと考えていて頂戴」「それでも凄いじゃないですか。こんな短時間で解析を終わらせただけじゃ無く、そのコピーまで作っちゃうなんて。やっぱり先生って天才ですね」「当たり前でしょ・・・と言いたいけど、これはアタシ一人の力じゃないわ。とある物を使って短時間に解析を終わらせたのよ」「とある物ですか?それって・・・」そう言いかけた直後、インカムの呼び出し音が部屋に響き渡る。「ちょっと待ってくれるかしら?・・・アタシよ。そう、アルマーには執務室に来るように伝えて頂戴。それから捕縛した奴らもこっちへ連れて来てくれるかしら?」「何かあったんですか?」「前に言ってた例のハッキング犯が捕まったわ」「本当ですか?」「ええ、先日からアルマーには犯人を追って貰ってたのよ。流石は元特殊部隊の隊長ね。仕事が早いわ」「で、犯人は誰だったんです?」「アンタもよく知る人物よ。こっちへ連れて来るように伝えたから、もう暫くすれば来ると思うけど」「情報が外部に漏れる前に捕まって良かったですね」「そうとも言えないわ・・・どうやら他にも協力者が居るみたいだしね」「協力者ですか?」「どうやらそいつがアタシの端末に侵入したらしいのよ。我ながら自分の才能が怖いわ」「どう言う意味です?」「さあ、ね・・・」「そんな、はぐらかさないで教えてくだ・・・」武がそう言いかけた直後に執務室のドアが開く。「スパイを連行した。だが良いのか?この様な場所に連れて来て」「御苦労さま。別に構わないわ。取調室で色々と聞き出すよりもここの方が安全だもの」「なるほど、な。それで俺はどうすれば良い?」「もしもの時に備えてここに居てくれるかしら」「了解した。さて、中へ入って貰おうか?」アクセルが連行してきた犯人を見た武は驚愕していた。何故彼女達がスパイ行為などを働く必要があるのか信じられないでいたのだ。「な、何で月詠中尉と月詠少尉が・・・いったいどう言う事なんですか?」「それは本人の口から語って貰う事にしましょ。さて、何故この様な真似を?」『「・・・」』「そう、それじゃあ質問を変えましょうか。あなた達のバックに居るのは殿下?それとも御剣かしら?」「ちょ、ちょっと待って下さい!斯衛のお二人の後ろに殿下が居るかもしれないってのは分かります。でもなんでそこに冥夜が関係してくるんですか!?」「白銀、アンタは少し黙ってなさい。これは恐らくアンタにも関係してる事よ」「俺にですか?」「そうよ、殿下や御剣では無いとすると・・・『鑑 純夏』ね?」純夏の名前が出た直後、二人の表情が変わった。それ以上に驚いているのは武だ。何故ここに来て純夏の名前が出てくるのか?彼女は脳髄のまま隣の部屋のシリンダーの中に居る筈だ。なるべく時間を作り、武は殆ど毎日のように彼女の元へ足を運んでいる。霞も頻繁にリーディングとプロジェクションを行ってくれているものの一向に変化は現れないのだ。そんな状態の純夏が何故二人と接点を持っているのだろうか?彼女はまだ00ユニットとして覚醒すらしていない。例え覚醒していたとしても調律無しには会話すらままならない筈だ。何が何だか解らない・・・武は混乱しつつも思った事を口に出していた。「ちょっと待って下さいよ先生!二人と純夏にどんな関係があるって言うんですか?大体純夏はまだ隣の部屋に居る筈でしょう?まさか・・・俺に黙ってあいつを00ユニットにしちまったって言うんですか!?」「落ち着きなさい白銀。隣の部屋のアレはそのままよ・・・鑑は00ユニットになっていない。でも、アンタに黙っていた事が一つあるわ」「・・・何ですか?」「00ユニット本体は既に完成している。後は鑑の意識を移植するだけの状態だった」「だったってどう言う事ですか?それに本体が既に完成してるって本当なんですか?」『本当だよタケルちゃん』「!!」声の聞こえた方に振り返ってみると、そこには彼女が居た・・・「すみ、か・・・?」「久しぶりだねタケルちゃん。会いたかったよ・・・」「な、何で・・・どうしてお前がここに・・・」武は更に混乱していた。目の前にはBETAによって脳髄だけにされた筈の純夏が立っている。00ユニット?本当に純夏?頭の中をその事だけが駆け回っているのが自分でも分かる。だが、そんな事はどうでも良かった・・・気付けば彼は彼女に歩み寄り、涙を流しながら彼女を抱きしめていた。「純夏なんだな・・・」「うん・・・私は鑑 純夏だよタケルちゃん」「そうか・・・お前に会えて嬉しいよ」「うん、私も嬉しい・・・でも」そう言った直後であった・・・「そいつから離れろ白銀っ!!」「え?」「・・・ごめんねタケルちゃん。そして、さようなら・・・」「グッ!」武は何が起こったのか解らなかった・・・アクセルの叫び声が聞こえた直後、体に鈍い衝撃と激しい痛みが走ったと思うと、意識が段々と遠くなって行くのが解ったぐらいだ。朦朧とする意識の中、何をされたのか解らぬまま彼の意識はただ闇の中へと吸い込まれて行くのであった・・・「すみ、か・・・なん・・で・・・」武の前に現れた『鑑 純夏』彼女の行動の意味するものは一体何なのか・・・そして彼女の口から語られる真実・・・『白銀 武』は一体どうなってしまうのか?物語は更に加速していくのであった・・・あとがき第15話です。この話で一気に物語が動き出しました。スパイの正体。そして何故彼女がこちら側の世界に居るのか?更なる改良を加えられる改型。そして・・・最後の最後に登場したヒロイン鑑 純夏?彼女は一体何者なのか?そしてタケルちゃんは一体どうなってしまうのか?次回、第16話をおたのしみにっ!!それでは感想お待ちしております^^