Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第22話 覚醒「っ!・・・一体さっきのは何だったんだ?」『解らん・・・兎に角ゲートが開かれたという事は間違いない』『って事は私達はどこかへ飛ばされたって言うの?』『恐らく・・・』「クソッ!訳がわかんねぇよ・・・それよりもここは何処なんだ?」『それよりもコウタ、周囲を警戒するんだ。何やら俺達はとんでもない所へと飛ばされてしまったようだぞ』「何っ!?・・・ゲ、なんだよあの気色の悪い生き物は」『うわぁ何アレ・・・気持ち悪い』『あの生物は此方に対して敵意を向けている様だ・・・それに周囲に展開しているロボット。どうやらこの世界も戦争しているようだな』「んな事はどうでもいい。ケンカを売って来るって言うんなら相手をしてやるぜ!」『まて、状況が解らん以上、迂闊に手を出すのは危険だ』「ヘッ!ケンカの極意は先手必勝!やられる前にブッ飛ばす!」『駄目だよお兄ちゃん。ロアの言う通り下手に手を出して両方を刺激しちゃったらどうするのよ』「だったらどうしろって言うんだ!?このままじゃ埒が明かねえ・・・考えてる間に攻撃されたらどうするんだよ!」『確かにそうだけど・・・っ!何?』「どうしたショウコ?」『オープンチャンネルで通信が入ってる』『どうやら我々の後ろに居るロボットからの様だ。どうするコウタ?』「何が何だか解かんねぇけど、こっちも情報が欲しいのは事実だ。通信を繋いでくれショウコ」『了解』ショウコはコンソールを操作し、先程から呼びかけられている通信に対しチャンネルを合わせる。『この様な通信をいきなり送り付けた事、大変申し訳なく思います。私の名は煌武院 悠陽、この国の政威大将軍を務めさせて頂いている者です。宜しければそなたの名前を教えて頂けませぬか?』「俺の名前はコウタ・アズマだ。ところでここは一体何処なんだ?あの目の前に居る化け物は一体何か教えてくれ」『ちょ、ちょっとお兄ちゃん。いきなり失礼だよ?』「いきなり通信に割り込んで来て何だよ?」『政威大将軍って多分凄く偉い人だと思うよ・・・それをいきなりタメ口で・・・』『まったくだ。お前と言う奴は自分の身分を弁えろ』「うるせえよ!そんなもん俺の知ったこっちゃねえ。それより悠陽さんって言ったか?さっきの質問に答えてくれ」『は、はい・・・ここは日本、そして我々の目の前に居るのはBETAと呼ばれる人類と敵対している地球外起源種です』「敵対って事は要するに侵略者って事か・・・やっぱりブッ飛ばして正解だったんじゃねえかよ」『我々には後がありません・・・ここを突破されては帝都に住む人々が危ないのです。いきなりで申し訳ありませんが、私達にそなたの力をお貸し頂けませぬか?』「要するにあいつ等をぶっ飛ばしちまえば良いって事だろ?任せとけ!」『ありがとう御座います。そなた達に感謝を』「ヘッ、良いって事よ。目の前で困ってる人がいたら助けるのが江戸っ子ってもんだ!行くぞショウコ、ロア!」『うん』『了解だ』相手の話し方などに少々驚いていたものの、協力を取り付ける事が出来た悠陽は内心ホッとしていた。目の前に現れた見た事も無い戦術機は、これまでの情報から異世界のものだと言う事は予想が付く。しかし、異世界の協力者が身近にいるとは言え、その全てが味方をしてくれるとは限らないのだ。だが、今はその様な事を考えている場合では無い。今は目の前のBETAを如何にして駆逐するか・・・何としてでもここで奴らを食い止めなければならないのだ。その為に彼女は自身を鼓舞し、自らも敵を倒すべく皆の後に続くのだった。『先ずは牽制だ。唱えろ、コウタ、バーナウ・ファー・ドラグ・・・!』「言われなくてもやってやらぁ!バーナウ・ファー・ドラグ!!」Gコンパチカイザーの周辺に光が収束される・・・そしてそれらが魔法陣の様な物を形成すると徐々にエネルギーが集まり始める。「ファイヤー・ドラゴン!!行けぇぇぇっ!」真紅の炎に身を包んだ龍が召喚され、眼前に広がるBETAに向けて発射される。炎の龍は唸りを上げながらBETA達を飲み込むと、一瞬にしてそれらを灰に変えていた。「ヘッ!どんなもんだ」『コウタ、最初から全力を出し過ぎだ。周りにいる人達の事も考えろ』「いちいちうるせえんだよ。加減なんてしてたらこっちがやられちまうだろうが!」『駄目だよお兄ちゃん。ちゃんと考えないと他の人たちまで撒き込んじゃうよ?』「・・・解ったよ。ちょっとだけ手加減してやらあ」そんな彼らのやり取りを他所に、目の前で起こった出来事に斯衛軍の面々は驚愕していた。彼等が驚くのも無理は無いだろう。一瞬にして彼らの目の前に居たBETAは消し炭になっている。彼らは驚愕すると共にその圧倒的な力に魅了されていたのだ。「今度はあのデカブツをやる!」『了解!』『撃て、カイザーの両拳を!』「よし!・・・ダブル!スパイラルナッコォォォッ!!」胸の前で組み合わされた両腕が要塞級に向けて発射される。しかし、要塞級はよろめくものの、大したダメージは与えられていない。「まだまだぁっ!!必殺!!・・・」カイザーの胸部装甲が展開されエネルギーが収束され始める。「カイザァァァ・・・バーストッ!!!」エネルギーの波に飲み込まれ、一瞬にして蒸発する要塞級。そしてカイザーの放った攻撃の余波は、周囲に居た要撃級や突撃級と言ったBETAにも甚大なるダメージを与えていた。「す、凄い・・・」「さっきの炎の龍も凄かったけど、何今の・・・」「荷電粒子砲でしょうか?それにしても凄いです」神代 巽、巴 雪乃、戎 美凪の三名は目の前の出来事に対して驚くあまり攻撃の手を休めていた。それも当然であろう。いきなり自分達の目の前に現れた紅い機神は、瞬く間に多数のBETAを倒している。目の前の光景に対し心奪われるなと言う方がおかしいのである。「貴様らっ!呆けている場合ではないだろう。あの者が撃ち漏らした敵を我々が掃討するのだ!」『『「りょ、了解っ!」』』三人の部下に対して檄を飛ばす月詠。しかし、本当の所は彼女自身も目の前の光景に心奪われていた。今まで散々苦汁を飲まされてきたBETAに対し、圧倒的な破壊力で目の前の機神は立ち向かっている。それを見て素直に喜ばない者はこの世界には居ないだろう。だが彼女は、正直複雑な気持ちだった。今は自分達の味方として戦ってくれているが、目の前の機神は味方とは限らないのである。もしも敵に回ったとしたら・・・彼女はその様な一抹の不安を覚えていたのである。「オラオラオラオラ!BETAってのも案外大した事無いんだな。こんな奴らあっという間に片付けてやるぜ!」『油断するなコウタ!敵の戦力が不明だと言う事を忘れては駄目だ』「ヘッ、こんな弱っちい奴らの何に油断するって言うんだよ。このまま行くぜ!」両肩のショルダー・キャノンを連射しながらそう叫ぶコウタ。現在こちら側に展開中のBETAは小型種や中型種が中心で、大型種である要塞級はほとんど存在していない。だが、そう言った油断からこそ隙と言う物は生まれる・・・『レーザー照射警告が出ました!各自回避行動に移って下さい!』「レーザー照射?なんだそりゃ」『そこの特機、何をしている!光線級の攻撃が来るぞ、回避行動を行うんだ!』「レーザーだかビームだか何だか知らねえが、そんなもんでこの俺とカイザーがやられるかってんだ!」コウタがそう言った直後、Gコンパチカイザーに向けて照射される無数の光・・・「ショウコ、フィールドだ!」『了解!』Eフィールドを展開して光線級のレーザー照射を防ごうとするカイザー。どうしても特機と呼ばれる機体はそのサイズが大きい分、被弾してしまうケースが多い。そう言った点からこれらの機体には堅牢な装甲や相手の攻撃を防ぐバリアなどと言った物が装備される事が増えてきている。カイザーにもEフィールドと呼ばれる防御用のエネルギーフィールドが装備されている。コウタはそれを用いる事で光線級のレーザーを防ごうとしているのだ。レーザーと言っても所詮は粒子兵器。装備されているフィールドで防げる・・・彼はそう考えていた。「クッ!耐えろっ、Gコンパチカイザー!!」『駄目お兄ちゃん、フィールドがもたない!』「くっそぉぉぉ!!」レーザー照射が終わる直前、負荷に耐えられなくなったフィールドが消滅してしまう。幾分か減衰していたとは言え、機体に直撃を受けてしまうカイザー・・・「グッ!」『きゃぁぁぁぁっ!』後方に吹き飛ばされるような形で倒れこむカイザーの元に迫る無数の要撃級。このままでは危ない・・・「皆の者、あの特機と呼ばれる機体を援護!第3中隊、レーザーの照射元を割り出し、即座に光線級を殲滅するのだ!」『『「了解っ!」』』紅蓮が指示を出し行動に移る斯衛軍の部隊。カイザーに取り付こうとするする要撃級の殲滅を彼らに任せていた悠陽は、彼らの無事を確認する為に急いでカイザーに向けて通信を繋ぐ。「大丈夫ですか?」「ああ、ショウコそっちはどうだ?』『・・・』「おいショウコ、どうしたんだ返事をしやがれっ!」『落ち着けコウタ。彼女は気を失ってるだけの様だ』「ビックリさせやがる・・・ロア、カイザーの状態は?」『戦闘は可能だが暫くフィールドは使用できん。それからショウコが気を失ってしまっている上に詳しい状態が判らん以上、このまま戦闘を行うのは危険だ』「だったらGサンダーゲートを分離させてカイザー単体で戦えば良いだろう?」『この様な混戦状態で分離させる事は許可できない』『ならば斯衛の者に全力で死守させましょう。光線級の殲滅が済み次第、機体ごと彼女を安全圏まで離脱させるよう手配します』「悠陽さん、すまねえ恩にきるぜ・・・ロア、ショウコが心配だ。早くしてくれ!」『解った・・・だがお前も無理はするなよ?』「俺だってこんな所で死ぬつもりはねえよ。爺ちゃんも心配してるだろうしな」彼らはGサンダ―ゲートを分離させると即座に臨戦態勢を整える。悠陽が手配した斯衛軍の部隊が防御に特化した円壱型(サークル・ワン)の陣形を組んだ事を確認すると、コウタ達は再びBETAに向けて進軍する。「待ってろよショウコ・・・こんな奴らさっさと片付けてやるからな」『ショウコ殿はそなたの大切な妹君なのですね・・・』「ああ、たった一人の妹だ。ちょっと口五月蠅い所もあるけどな」『フフ、羨ましい限りですね』「アンタには居ないのか?そう言う兄弟とか姉妹とか」『私にも大切な妹が居ます。私達姉妹もそなた達の様な関係であれればと思ったもので・・・』「何か良くわかんねぇけど・・・きっとなれると思うぜ?アンタを見てると何かそんな気がする」『ありがとうコウタ殿。そなたに感謝を・・・』「別に感謝される程の事でもねえよ。兎に角今は目の前の奴らを何とかしようぜ?話は後でゆっくりできるだろ?」『そうですわね。では参るとしましょう』「おうっ!」彼らは通信を終えると眼前の的に意識を集中させる。先程のやり取りの後、悠陽は彼等が敵でない事を確信していた。もしも自分達に敵対する様な人物であるのならば、あの様な事は言ったりはしない。決め手となったのは、コウタのショウコを思いやる気持ちである。そしてそれらを含めて他人を思いやれる者は、信じるに値する人物だと彼女は感じていたのだ。彼女はこの戦いが終わったら冥夜を交えて彼らと一度ゆっくりと話をしてみたいと思った。そんな思いを胸に、再び彼女は戦場を駆け巡る・・・大切な物を護るために・・・そして舞台はキョウスケ達の方へと移る。コウタ達がこちらに転移して来た時とほぼ同じ頃、キョウスケ達は北上中のBETA群との戦闘を開始していた。『ねえ、報告された数より少ない事ない?』『確かにそうですね・・・』敵を迎撃しつつ、彼らは報告された数よりもBETAが少ない事に疑問を浮かべる。周囲に味方の部隊は居ない。それどころか、自分達よりも先に接敵した部隊が居ると言う報告は受けていないのだ。そして彼等が感じた違和感は、戦況を観測していたラトゥーニからの報告によって確信へと変わる・・・『何か変です大尉』「どうした?」『前方に展開中のBETA群が後退を開始しています。いえ、正確には進行方向を帝都方面に変更していると言った方が正しいのかもしれません』「どう言う事だ・・・帝都方面から何か情報は?」『いえ、今のところ何も・・・ただ』「些細な事でも構わん。何か気付いた事があるのなら報告しろ」『センサーが微弱な重力変調を感知しました。ポイントは帝都方面、北関東絶対防衛線の戦闘区域周辺です』「奴らはそれに反応してそちらに向かったと言う事か・・・」『キョウスケ大尉、ひょっとして俺達みたいに誰かが転移して来たのでは?』『ブリットの言う事は一理あるかも知れません。BETAは自分達の脅威となりうる物を全力で排除しようとするそうです。もし我々の知る者が転移して来たのであれば可能性は否定できなかったり・・・できないかもしれません』「しかしここを手薄にする訳にもいかん。確認しに行きたいところではあるが・・・」状況を確認したいのは当然だ。味方であるならば何としてでも保護しなくてはならない。だが敵と言う可能性も否定できない。もしも敵であった場合、接触した帝国軍が危険に晒される。だがキョウスケが言ったようにこの場を離れると言う事は、迎撃準備を整えている帝国軍に危険が及ぶ可能性がある。後退しているように見えるBETAは、ひょっとしたらまた陽動を仕掛けているのかもしれない。そう言った状況から彼は即座に決定できないのだ。『ならばここは俺とラミアに任せてお前達が確認に行けばいい。隊を防衛線構築の支援と追撃に分かれたと言えば問題はあるまい?』不意にアクセルが口を開く・・・「だがお前達二人だけを残して行く訳にもいかんだろう?もしもまた地下からBETAが湧いてきたらどうするんだ」『でしたら私が残りますの』「アルフィミィ、気持は解らんでも無いが機体はどうするつもりだ?」『それについては心配には及びませんの。ラトゥーニ、ハッチを開けて下さいませ』『う、うん』言われるままにハッチを開閉するラトゥーニ。「ペルゼイン・・・出てきても良いですのよ」彼女がそう言った直後、叢雲改型の背後に空間の歪みが発生する。徐々に広がり出す歪み・・・「なっ!」驚く彼らを他所に、その歪みの中から出現する赤い鬼を模した巨人・・・アルフィミィの愛機であるペルゼイン・リヒカイトである。『こんな事もあろうかと持って来ておいたですの。ここなら帝国や他の国連の方に見つかる可能性も低いでしょう?』「本当にそう言う悪知恵だけは誰かさんそっくりだな」『何か言ったかしらキョウスケ?』「いや、ではお前達に任せるとしよう・・・危険だと感じたら各自の判断で離脱してくれ」『了解ですの』『任せておけ。それからこれは餞別代わりだ・・・お前達用の花道を作ってやる。行くぞアルフィミィ!』『ハイですの』それぞれが自分の機体にエネルギーを収束し始める。「青龍鱗!」「まとめて・・・いきますの」彼らの機体から放たれる閃光・・・それはやがて巨大な一筋の道となり、次々とBETAを飲み込んで行く。光が消えた後、彼らの目の前には巨大な道が作られていた。多少危険ではあるが、これならば時間を無駄に浪費する事無く最短ルートで目的地に向かう事が出来る。「アクセル、ラミア、アルフィミィ、無理はするなよ?」『この程度の相手に心配はいらん』『きちんと私がアクセルの手綱を握っておきますから心配は無用ですのよキョウスケ』『キョウスケ大尉、御気を付けて』「了解だ。各機、ザコは無視してかまわん。こちらに仕掛けてくる奴だけ迎え撃てばいい。奴等が態勢を整える前に行くぞっ!」『『「了解っ!」』』一路帝都方面を目指すキョウスケ達。そこでは再会と新たなる出会いが待っていると言う事を彼らはまだ知らない・・・・・・???・・・ここが何処なのかは誰にも解らない・・・漆黒の闇に包まれたその空間に青年は一人漂っていた。『君はいつまでそうしているつもりなんだい?』「・・・またお前か」『君の気持は解らないでもない・・・でもそうやっていつまでも落ち込んでいては何も始まらないだろう?』「お前に俺の何が解るって言うんだ・・・」『解るさ・・・』彼がそう言った直後、青年の目の前に集まり出す光・・・やがてそれらは人の形を成すと、再び目の前の彼に対して語り始める。『君は僕であり僕は君だ。いや、正確には因果空間に漂っていた様々な世界の君と言う存在の集合体かな』「それがどうした?俺には関係ない」『確かに関係ないかもしれない。でも聞いて欲しい』「聞くつもりは無い」『グダグダといつまでそんな寝言みたいなことを言ってやがるんだよテメェは!』先程とは別の方向から聞こえてくる声・・・『ったくよう、こんな情けねえ奴が別世界の俺だと思うと泣けてくるぜ・・・』「だからなんだって言うんだよ。俺は俺だ、お前達じゃない」『そりゃそうだ。俺はお前と違うからな。俺はお前みたいにいつまでもウジウジしてるヘタレとは違う』「なんだとっ!」『いい加減にしたまえ・・・我々はこの様な不毛な争いをする為に居る訳ではない』『チッ!』また別方向から声が聞こえ始める。『・・・さて、この世界の私よ。君を随分と辛い目に合わせてしまった事に先ずは謝罪しよう』「お前に謝って貰った所で何も変わらない」『確かに君の言う通りだ。だが彼女の想いも分かってあげて欲しい』「・・・」『彼女が君にした事はショックだったかもしれない・・・だが君だって気付いているんだろう?彼女が意味も無くあの様な事をするはずが無いと』「ああ、あいつがそんな奴じゃないって事は俺が一番良く解ってる」」『だったら何故君は目覚めようとしないんだい?』「分からないんだ。俺がやろうと思っていた事は本当に自分の意志だったのか・・・」『自分に流れ込んで来た記憶のせいで行動していたかもしれない。君はそう言いたいんだね?』「俺は一体何をすれば良いって言うんだ?俺がこの世界を護りたいって思ったのは、お前達の意思が介入したからなんだろ?それじゃ今までの俺の想いは全部俺自身のもんじゃないって事じゃないか」『それは違う・・・良く思い出してみるんだ。君の本当の想いを・・・そして願いを』「俺の想い・・・そして願い・・・」『君には僕達が介入しなくても戦う意思があった筈だ。そしてこの世界を護りたいと言う願いも・・・』青年は眼を閉じ、意識を集中させる。徐々にではあるが自分の頭の中に甦って来る記憶・・・『段々と思い出せて来ただろ?』「・・・ああ、確かに俺はあいつを護れなかった事を後悔し、再び同じような思いをする人を出したくない一心で軍に入った」『だったら何故目覚める事を否定する?』「解らない・・・俺にはもう俺の事を待ってくれている人も居ないんだ。あいつが居ない世界に戻ったとしても俺にはもう護る者も存在しない」『それは違う・・・君の事を待ってくれている人が居る事は君にも解る筈だ。そして、護るべき者も・・・』『聞こえんだろ?お前を呼んでる声が・・・みんなお前の事を待ってるんだよ』「・・・」『よく耳を澄ますんだ。今も君の傍で君の名を呼んでる少女の声が聞こえるだろう?』『・・・さん。・・銀さん。起きて下さい白銀さん』「・・・か、霞?」『彼女だけじゃない。他にも聞こえる筈だ』『今度は私がタケルちゃんを助ける番だ・・・だから絶対タケルちゃんに会うまで私は死ねない・・・だから早く帰って来てタケルちゃん!』「すみ、か?」『彼女は生きている・・・無論00ユニットとしてでは無い。彼女は君が助けたんだ』「な、何だって!?そ、それじゃあの脳髄は?」『あれは偽物だ。彼女もまた君と同じく後悔していた・・・そして君をこの様にしてしまった事も』「・・・」『この世界の鑑 純夏は君を助ける為に戦いの世界に足を踏み込んだ。いつも護って貰ってばかりだった君に対して恩を返したいと・・・そして彼女は今も君を待ち続けている』「そうだったのか・・・」『今の君になら彼女の本当の気持ちが解る筈だよ。そして、君にあの様な仕打ちをしたもう一人の鑑 純夏の想いも』「ああ・・・俺は一体何をやってたんだろうな。お前達に教えられたよ」『いや、僕達は切っ掛けを与えたに過ぎない』『そうだ、私達が言った事を抜きにしても最後に結論を出したのは君だ』『お前が最後までグダグダ言ってるただのヘタレだったらマジどうしようかと思ったけどな』「ありがとう」『礼を言うのは僕達の方だよ』『これで君は再び戦える筈だ』『都合の良い話だけどよ、俺達が叶えられなかった想いを叶えてくれ』「任せてくれとは言えないかもしれない・・・でも俺にできる事を精一杯やらせて貰うよ」『それじゃあ僕達は行くよ』「行っちまうのか?」『消えて無くなる訳ではない』『俺達は元々お前の中に存在しないもんだからな・・・不要なもんは取り除かせて貰うって事だよ』「どう言う事だ?」『これからの戦いにおいて君に必要のない記憶などを元の因果空間へ戻す。これで君が本来持っていた記憶も完全に蘇る筈だ』「そうか、ありがとう」『バ~カ、礼を言うなら俺達じゃなくって純夏に言えよ。あいつが頑張ってくれたから俺達はお前の意識の中に干渉できたんだからな』「解った」『それでは後の事は頼む、この世界の白銀 武』「ああ、お前達の想いも無駄にしない。俺はこの世界を絶対に救ってみせるよ」徐々に光を取り戻し始める空間。そして彼は自分の戦いを再開する為に覚醒する・・・「んっ・・・」「白銀さん?」「おはよう霞」「白銀さん・・・やっと目を覚ましてくれたんですね・・・うっうぅ」「悪かったな、心配掛けてゴメン」「うっうっ・・・い、いえ良いんです。こうやって白銀さんが目を覚ましてくれたんですから」「ありがとう霞・・・色々話したい事もあるけど、もうちょっとだけ待っててくれ」「え?」「俺行かなくちゃ・・・」「行くってどこへ行くんですか?」「純夏が・・・いや、皆が待ってるんだ。だから行かないと」「・・・解りました。でも、無事に帰って来て下さいね。もう待つのは嫌です」「ああ、さっさと片付けて戻って来るよ」「はい」そう言うと武は医務室を後にする。・・・戦術機ハンガー・・・「班長!」「おお、坊主じゃねえか。任務中って聞いてたけどいつ戻って来たんだよ?」「そんな事より、改型の方はどうなってます?」「あ、ああ、改修は終わってるよ。後はテストをするだけだ」「と言う事は動かせるんですね?」「動かせるには動かせるが、こんな時にお前さんはテストするつもりか?」「改型で出撃します」「なっ、ちょっと待て坊主!お前まさか今から新潟に行くって言うんじゃねえだろうな?」「違いますよ。北関東絶対防衛線の戦闘区域に行くと言ってるんです」「馬鹿言っちゃいけねぇ!今から行ったところで間に合う訳ねえだろう!?それ以前にテストもしてねえ機体を実践に投入するなんて許可できん!」「一つだけ方法があるわよ」「何?」二人は声が聞こえた方に振り向く。「・・・先生」「やっと起きたのね。こんなタイミングで起きてくるなんてアンタも物好きねぇ~」「そ、そんな事はどうでもいい。副司令からもなんか言ってやってくれ。このバカが今から改型を出すって言って聞かねえんだよ」「班長の言いたい事も分かるけど、アタシも改型を出すつもりよ」「なっ!お前さんまで何て事を言い出すんだ。例え出せたとしても今からじゃ間に合うはず無いだろう!」「一つだけ方法が有るって言ったでしょ?基地に設置されてるリニアカタパルトを使って改型を打ち出して時間を短縮させるのよ」「馬鹿野郎っ!あれは元々そんな風に使う為にあるんじゃねぇ!それ以前にあんなもんで戦術機を飛ばしたら機体がどうなるか分かってんのか!?」「その辺はちゃんと考えてあるわよ。改型を再突入殻(リエントリー・シェル)に格納して一度高高度まで打ち上げる。その後再突入殻を上空で分離、後はそのまま一気に目標地点まで降下させる・・・理論上は可能な筈よ?」「それでも俺は許可できん。何よりもテスト前の機体を使う事なんか絶対に認められん!」「機体の方は班長の腕前を信じてますよ。だからお願いします!」「・・・」「こうしている間にも失われずに済む命が消えて行くんです。そしてその分悲しい想いをする人も増える事になる・・・そんな想いをする人を俺はこれ以上増やしたく無い。俺一人が行った所で大して変わらないって事は十分に承知してます。でも俺にはここで黙って見ている事なんてできない!だから・・・お願いします!!」「・・・ったく、お前さん達には負けたよ」「班長!・・・ありがとう御座います!!」「まあ、貴方が駄目だと言い張っていたとしてもアタシは強行させてたけどね」「お前さんには敵わんな・・・」「夕呼先生ですからね」「ケッ!しばらく見ねぇうちにいっちょ前の顔するようになりやがって・・・お前ら!白銀大尉殿の出陣だ!改型とリニアカタパルト、それから再突入殻を大急ぎで準備しろっ!」『『「了解っ!」』』出撃準備に取り掛かる整備班の面々。着々と準備が進められる中、夕呼はふと白銀の変化に気付く・・・「いきなり目覚めた事にも驚いたけど、アンタ変わったわね」「いきなりどうしたんですか先生?」「いえ、何となく雰囲気とでもいうのかしらね?まるで数日前のアンタとは別人みたいよ?」「気のせいですよ。俺は俺です。今までも、そしてこれからも・・・」「そう・・・じゃあ頑張ってらっしゃい。アタシは司令室に戻るわ」「・・・先生」「何?」「いえ、何でもありません」「そう・・・無事に帰って来るのよ。色々と話したい事もあるしね」「はい」やはり白銀は変わった・・・以前の彼とまるっきり別人と言う訳ではないが、どことなく変わったイメージがあると夕呼は感じていた。彼が眠っている間、何があったのかは解らない・・・しかし、自分の知りえない何かがあったのだろう。それはどことなく、以前の世界でまりもの一件を乗り越えた直後の彼によく似ている気がした。彼はまた一つ成長したのだろう・・・別に彼の成長を見守っている訳ではないが、彼女は素直にそれを嬉しいと感じていたのである。「可笑しなものね・・・このアタシがこんな事を考えるなんて」彼女はそう呟きながら、一人ハンガーを去って行く。自信に芽生えた一つの感情を胸に・・・『いいか坊主、副司令が開発した新型ジェネレーターと跳躍ユニットの出力は従来機とは比べ物にならんほど強力なもんだ。それからお前さんの機体に装備された新型武器はかなり癖のある物になってる。壊すなとは言わんが、気をつけろよ?』「了解です班長・・・ありがとう」『おう、頑張って来い!』カウントダウンが開始される。『10秒前・・・5秒前、3、2、1、ゼロ!』「白銀 武、行きますっ!!」噴煙を巻き上げながら天へと昇る光・・・新たな決意を胸に、白銀 武は戦いの地へと赴くのであった・・・あとがき第22話です。皆様色々と想像されてましたが、転移してきたのはGコンパチカイザーとコウタ達です。何故彼等がこちらに来たのかは後日書かせて頂きますが、前にも言った通り、彼等が来た事がキョウスケ達の機体復活のキーになる予定です。少々無理やりな気がしないでもありませんが、単機で転移可能なものを考えると現状では彼らしか思いつかなかった事から登場させる事となりました。今後の活躍にご期待下さい。さて、中盤以降で書かれているのはタケルちゃんの精神世界でのお話です。会話をしているのは因果空間から流れ込んで来た異世界のタケルちゃん達、と言ったイメージです。今回あえて性格や話し方を変えてみました。イメージとしては、他作品のタケルちゃんの中の人?と言った感じです(笑)どれがどれかは皆様のご想像にお任せするとして、やっと復活させる事が出来ました><人の内面と言うか、こう言った物を書くのは本当に難しいですね。もう少し上手く表現できればと思うのですが、今の私にはこれが限界・・・orz何かアドバイスを頂ければと思います。さて、以前告知したように改修されたヴァイスリッターの設定を書かせて頂こうかと思います。PTX-007-UN-TFS ヴァイスリッター・ヘクセ転移時の衝撃で損傷したライン・ヴァイスリッターを試作型戦術機のパーツなどを用いて修復した機体。形式番号はアルトアイゼンと同じく識別の為に付けただけのものである。元々この機体には自己修復能力が備わっている為、表面装甲などに関しての損傷は比較的簡単に終了したのだが問題はその外観にあった。植物の蔓のようなものが随所に見られるその外観はどう見ても戦術機として誤魔化す事が不可能と判断された為、表面に更なる外装を施す事で問題を解決している。外装に用いられているのは修復されたアルトアイゼンと同様に改型用に開発されていた特殊装甲が用いられている。背部テスラドライブユニットに関しても同様の処置が取られる事となり、翼と言うよりはマントやバインダーと言ったイメージが強い。武装面に関しても戦術機用の武装を装備できるよう、背部ユニットや増加装甲にマウント用のラックや74式稼働兵装担架システムが追加されている。この機体のメイン装備であるハウリングランチャーにも手が加えられており、それを見たパイロットのエクセレンは『魔女の杖みたい』と言っていた。そう言った事から機体名称も一時的に変更される事となったのである。ヘクセと言うのはドイツ語で『魔女』と言う意味なのだが、これは先ほどのエクセレンが言った事に対して夕呼が名付けた為である。エクセレン本人は『魔女なんて御婆さんってイメージがあるから嫌だ。魔性の女って意味でなら納得する』などと言っていたのはここだけの話。武装スプリットミサイル3連ビームキャノンハウリングランチャー87式突撃砲65式近接戦闘短刀×274式近接戦闘長刀×1とまあこんな感じの設定です。ヴァイスもアルトと同じ様に偽装の意味合いが強い改修がなされてます。ちなみに機体名称なんかは適当に辞書を開いて考えた思い付きですのでツッコミは勘弁して下さい(笑)改修された改型に関しての設定は後日書かせて頂く事にします。次回辺りで新潟編は終了する予定です。それでは感想の方お待ちしております^^