Muv-Luv ALTERNATIVE ORIGINAL GENERATION第48話 御守岩をぶった切れ!!目の前で起こっている光景に次の言葉が出てこない―――それがアラドが率直に感じた事だった。涙ながらに本心を語ってくれた事は素直に喜ぶべきなのかもしれないが、それを全て受け入れてしまえば老婆の命が無に帰するのは時間の問題。ではどうするべきか……難しく考える必要はない。今、自分自身が思っている事を、ありのままの言葉を彼女に伝えれば良いだけだ―――「―――やっぱり婆さんは避難すべきだと思う」搾り出すように開かれた口から聞こえた台詞に周囲の者は驚いていた。「さっきの話を聞いてなかったのかい?あたしは避難する気は無いって言ってるだろう……」やはり老婆から帰ってくる台詞は変わらない。だが、アラドはそれを承知で次の言葉を続ける―――「俺、思うんだ……多分、婆さんの息子さん達はそんな事望んじゃいないんじゃないかって……確かにここが無くなっちまったら、帰る家がなくなっちまったら寂しいと思う―――」悲痛な面持ちを浮かべ、老婆に向けて自分の想いをつづるアラド。その様子に耳を傾け、冥夜とオウカの二人はあえて何も言わずにその光景を見守っていた。「―――息子さん達の帰る家は確かにここかも知れないけど、そこに婆さんが居なきゃ駄目だと思うんだ。家族や待ってくれている人が居てこその帰る家だと思うんだよ。待つ事が婆さんの戦いだって言うんなら、俺はそれを止めるつもりは無い。だから婆さんは生きなきゃならない……きっと死んだ息子さん達もそう願ってると思う……お願いだからここで死なせてくれなんて言わないでくれ……」「アラド……」「……俺は嫌なんだ。助けられる筈の、助けられた筈の命がこれ以上失われるのは……もう見たく無いんだよ―――」彼はかつて、一人の女性を助けたいと願っていた。幼い頃から姉弟として過ごしてきた人物。血の繋がりは無くとも、そこには間違いなく家族としての絆が在った。だが、自分の意思とは関係なくその絆は断ち切られ、引き離されてしまった。やっとの想いで再開した彼女は、自分の事を忘れ、敵として目の前に現れる事となる。しかし、仲間や他の姉妹と共に彼女を取り戻す事ができた。そんな喜びもつかの間、今度は彼女が自分達を助けるためにその身を犠牲にしてしまう。あと少し、もうあと少し……あの時自分がもう少しだけ頑張っていればと後悔することもあった。今の彼は状況は違えど『あの時救えた筈のオウカと老婆を重ねてしまっている』のである。「―――ご老人、私からもお願いします。この少年は不器用なりに貴女の事を考え、そして助けたいと願っています。もしも貴女に少しでも避難の意思が御ありならば聞き入れては頂けないでしょうか?」「……姉さん!?」二人の間に割って入ったのは意外な人物……そう、彼らのやり取りをただ静観して見守っていただけだと思っていたオウカが、老婆の説得を手助けしている。「ご老人の気持ちは重々承知しています。ですが、彼の言うとおり貴女の居る場所こそが御子息の帰る場所なのではないでしょうか?」「―――でも、ね……この家が無くなってしまうのは、そこに在った思い出とかも消えちまうような気がするんですよ……」再び辺りを沈黙が支配する―――必死になって説得に当たる彼らを見て、辛そうな表情を浮かべる老婆。「だったら俺がこの家を護ってやる!」「え!?」「っ!?そ、そなた、何を……!?」「この家に、いや、この場所が護られさえすれば婆さんの思い出は消えないんだろ?だったらやるしかないじゃないッスか!!」「そ、それはそうだが……何か策があるのか?」「アレですよアレ……」そう言いながら何かを指差すアラド。その指が指し示す方向に見えるものは巨大な大岩、すなわちこの地を護ってくれていると信じられている御守岩の事である。「まさか、そなた……」「そのまさかッス!あの大岩を砕いて溶岩を塞き止めるッス!!」「簡単に言うけど、一体どうやってあれだけ巨大な物を砕くつもりなのかしら?」「勿論、戦術機でだよ姉さん」「呆れて物が言えないわ……戦術機じゃどうやってもあれだけの質量を破壊する事は不可能よ?まさか貴方、S-11使うつもりじゃないでしょうね?」「それは駄目だ。戦術核に匹敵する破壊力を持つあれをこの様な場所で使用しては、下手をすれば火山の噴火を早める事になりかねん」S-11……ハイヴ攻略戦において反応炉破壊を名目として戦術機に搭載されている兵器だ。戦術核に匹敵する破壊力を持つ高性能爆弾ではあるが、主に自決用に用いられる事が多い日本製戦術機専用装備の一つ。反応炉を効果的に破壊するために爆発に指向性を持たせてあるため、これを用いる事で彼女達はあの大岩を砕くのだと考えたのだろう。「S-11ってのがどんなもんか知らないけど、そんな物を使うつもりはないッスよ」「では一体どうやって?」「詳しくは皆と合流してから話すッス。婆さん、俺の考えが上手く行けばここは絶対に護れる。だから約束してくれ……成功したら俺達と一緒に避難してくれるって……」「―――少し、考えさせてくれるかい……」「解った。それじゃ、後でもう一度ここに戻ってくるから、その時に答えを聞かせてくれ」心なしか老婆の口元が綻み、笑みを浮かべている様に感じられた気がした―――それを確認したアラド達はその場を後にし、一路作戦実行のために指揮所へと帰還する。その頃、アラド達と別れた武は、真那より連絡を受けた地点に向かっていた。報告に在った謎の機体、そして素性不明の衛士に会う為である。しかし彼は、その存在が恐らくキョウスケ達の仲間だろうと気付いていたのは言うまでもない。真那もまた、彼等が異世界からの訪問者達である事は気付いていた。では、何故彼女は武にそのように伝えなかったのであろうか?答えは簡単だ……彼らの存在はトップシークレットに該当する案件である以上、迂闊な事は言えないのである。「こちらフェンリル1、ブラッド1、応答願います」『こちらブラッド1、お待ちしておりました武さ……白銀大尉』「そちらは現在どのような状況ですか?」『はい、神代達には周囲の索敵、および警戒に当たらせております。そして彼らに関してですが、大まかな事情を説明し、現在は私の直ぐ傍で待機していただいております』「了解しました。もう間もなくそっちに到着する予定です。神代少尉達には、引き続き周囲の警戒を厳に行うよう指示して下さい」通信を終えた真那は、直ぐさま神代達に指示を下し、警戒を強化させる。武は恐らく後続のBETAを警戒しているのだろう。殲滅が完了しているとは言え、完全に安心できるとは言い難い状況だ。確認されていない地域で突如として現れたBETA。特に火山周辺の地域は、どう言った理由からかは解明されていないもののBETAの侵攻を受けていない。それが証拠に、この地域は豊かな自然が育まれており、少数とはいえ人が生活している。もしもBETAが出没する様な地域であれば、この様な状況にはなっていないだろう。そのような事を考えていた矢先、武の改型が到着したのを確認した彼女は、待機させていた二人に機体から出て来るよう指示を出す。先程の事、そして相手の出方が判らない以上の二つを踏まえた上で彼女は、外で会話を行った方が危険性が少ないと判断したのだった。「ダテ少尉、ブランシュタイン少尉、こちらが先程話した白銀 武大尉だ」「リュウセイ・ダテ少尉であります」「同じく、ライディース・F・ブランシュタイン少尉です(……若いな。俺やリュウセイとそう歳は変わらぬぐらいか―――)」真那から紹介を受けた二人が武に向けて敬礼を行う。それを確認した彼女は、機体へ戻って指示を待つと伝えその場を後にする。無論、彼らの行動をモニターすることは忘れていない。もしも万が一、彼らが武に対し何か行動を起こせば即座に対応するための処置だ。「(貴方様の御身を御守りする為、あえてこの様な方法を取らせて頂く事、どうか御許し下さい武様……)」恐らく武にこの事を話せば、間違いなく彼はこの行為を止めに入るだろう。だが、彼女は悠陽より武の護衛の任を受けている以上、彼に何を言われようともその身を護らねばならない。本来ならば冥夜を守る事も優先せねばならないのだが、自分の身一つでは二人同時に護衛につくということはほぼ不可能に近い。常に彼らが同じ場所に居るわけでは無い以上、どうしても片一方が疎かになってしまうのである。悠陽から武の事を頼まれた際、正直彼女はどうすべきか悩んだ。武の方を優先してしまえば、自ずと冥夜の方が疎かになる……そしてその逆もまた然り。冥夜が幼い頃から彼女に仕えている真那にとって、もしも万が一彼女に何かあればと考えるだけで身を引き裂かれる思いだったのだろう。そんな彼女の心情を察したのだろうか、なんと武自身が彼女に自分よりも冥夜を優先するよう嘆願したのである。常日頃からこういった感情を表に出さないよう心がけていたつもりだったが、流石の真那も彼のこの行動には驚かされたという。そういった経緯から基本的に彼女達の役割分担は、真那が冥夜を、オウカが武を中心に警護し、残りの三名が彼女達の補佐を務める事になったのだった。だが、今回に限り冥夜の警護は全面的にオウカが引き受けている。その理由……それは、彼女が今回の任務で『アラド・バランガ』と共に行動することになったという点が挙げられる。以前彼からオウカが姉だと聞かされた際、真那は彼に彼女の記憶を戻すために協力すると伝えた事がある。常々どうすれば良いかを模索していたが、最終的な結論はなるべく二人を接触させる事が最良の策だという結論に至ったからだ。確実とは言いがたい方法だが、やはりこういったものは時間が解決してくれるに違いないと考えたのである。「(冥夜様の方は凪沙に任せてあるとはいえ、これでは護衛失格だな……任務に私情を挟むなど、斯衛の名を汚すようなものだ……)」あからさまに自分を嘲笑する真那。「(真耶が居れば、間違いなく私に向け侮蔑的な言辞を投げかけてくるのだろうな……)」一方、真那がそのような事を考えているとは思わない武は、彼女がその場を離れた事を確認すると、簡単な挨拶交えながら現状を掻い摘んで話していた。「……つまり、ここは我々が住む世界とは異なった世界、そして現在はBETAと呼ばれる侵略者を相手に戦争をしているという事なのですね」「そして俺達は、何らかの偶然に巻き込まれてこっちの世界に飛ばされて来たってワケか……」「ええ、理解していただけた様で何よりです」多少困惑しているのは間違いないが、二人は比較的冷静に事態を飲み込んでいた。余りにも突拍子の無い話ではあるが、自分達が元居た世界でも似たような事例は何度か起こっている。そう言った事柄が無ければすんなりと受け入れる事は難しかったであろう。「白銀大尉、一つ質問があります……先程、我々の仲間……アラド・バランガが大尉の物とよく似た機体に乗って敵と戦闘を行っておりました。彼は今どこに?」「彼の事なら心配はありません。今は他の仲間と合流して別件に当たっています。それから他の人達も全員無事ですので安心して下さい」「そうですか、了解しました……(一先ず皆は無事か……だが、油断はできんな。現状で彼らを信用するには材料が足りなさすぎる)」口では納得したと伝えたライだったが、内心は彼らの事を信用してはいない。詳しい事情を明かされていない上に、自分自身で安全が確認できた人物はアラドだけだったからだ。そして、そのアラド自身も別件に当たっている。すなわちそれは、彼がこの世界の軍隊に所属、もしくは協力しているという事に繋がるのだが、果たしてそれが自分の意思なのかどうかという点が問題なのだ。そして、協力するにしても何故ビルトビルガーではなく、戦術機と呼ばれるこの世界の人型兵器に乗っているのかも問題といえる。PTや特機と呼ばれる機体群は、基本的に地球連邦軍預かりの軍事機密に属するものだ。自分達が乗機と共にこの世界へと転移したのならば、彼らもまた同じだと考えられる。ならば何故、彼らは自分達の機体に乗っていないのだろうか……そういった理由からライは、先程からこの様な事ばかりを考えてしまっていたのである。慎重すぎると思われるかもしれないが、見知らぬ土地に投げ出され、下手をすれば自分自身にも危機が降りかかるかもしれない現状においては彼の判断は概ね正しいと言えよう。「ところで白銀大尉って歳はいくつ位なんです?見たところ俺やライとそう変わらない気がするんですけど」今後どのようにして相手と接し、いかに自分達に優位な情報を引き出そうかと模索しているライを他所にリュウセイは自分が感じた素朴な疑問を武に対して投げかけていた。初対面の相手であっても物怖じしないのは彼らしいと言えるだろう。それに対してライは―――「リュウセイ、今はそんな事は関係の無い話だろう……申し訳ありません大尉、不仕付けな質問をした事をお許し下さい」「別に構いませんよライディース少尉。この歳で大尉なんてやってると皆さん疑問に思うのも当然ですからね。ちなみにもうじき18になります。階級で呼ばれるのはあまり好きじゃないんで、白銀でも武でも好きなように呼んでくれて構いませんよ。場所を弁えて貰えれば敬語も無しで構いません」「という事は俺と同い年って事か……じゃあタケルって呼ばせてもらうぜ。これから暫くの間よろしくな」「ええ、こちらこそよろしくお願いしますダテ少尉」「リュウセイで良いぜ、皆もそう呼んでる。こっちはライだ」「解った。じゃあリュウセイって呼ばせてもらうよ」やはりか、とライは心の中で呟く。彼が武に懐いた第一印象は、軍人らしからぬ振る舞いといったものだった。自分の方が階級が上であるにも拘わらず、いくら自分の部下と違うとはいえ下士官である自分達に対して敬語を使っていたためだ。こういうタイプの軍人なのかもしれないと考えもしたが、先程のリュウセイとのやり取りでそれも違う物だと判断できる。人としては悪い人間では無い様だが、軍人として考えてしまえばあまり好ましい物ではないだろう。「(まるで以前のリュウセイだな……まあ一概には言い切れんかもしれんが……)」ライは武との会話の中で、初めてリュウセイに出会ったときの様な感覚を感じていたのであった。一方の武はと言うと、いつもどおりの彼そのものといった調子で二人と接している。彼から見た二人の印象……リュウセイは比較的自分と似たようなタイプ、そしてライに関しては実直な軍人というイメージを受け取っていた。それが証拠に、比較的フランクに接してくるリュウセイに対し、ライは軍人然とした雰囲気や態度を崩さないのだ。「(多分、冗談とか通じないタイプなんだろうなぁ……さっきからずっと厳しい顔してるし―――)」三者三様の思惑が交差する中、武は、先程から難しい表情を浮かべているライに対し、距離を近づける切っ掛けにでもなればと考えて話し掛ける―――「―――どうかされましたかライ少尉?」「い、いえ、少々考え事をしていたもので……」「ったく、そんな難しそうな顔して何を考えてたんだよ?」「別にたいした事じゃない……それよりも白銀大尉、我々はこの後どうなるのでしょうか?」今は白銀 武と言う人物に対して模索している場合ではないと判断した彼は、即座に話題を切り替え、今後の自分達の処遇を武に問う事にした。現在、活発化した火山地帯に不法滞在している者達の避難活動に当たっていると聞いている。その強力を頼まれれば断るつもりは無いが、問題はその後だ。この世界の人類は、BETAと呼ばれる存在と戦争状態にある。そしてかなり劣勢に追い込まれている状況だというのも聞いた。という事は、それらとの戦いにも協力して欲しいと頼まれる可能性が高い。キョウスケ達が彼らに協力してはいるが、何故彼らに協力しているのかという理由が分からない以上、下手な誘いに乗る訳にはいかないのだ。「とりあえず、現在は我々も任務中です。お二人にも手伝ってもらえると助かるんですが……」「……少し考えさせて頂けないでしょうか?状況が状況だけに即決する訳にも行きませんので……」「解りました。俺は自分の機体の方にいますから、話が纏まったら連絡をください」「了解です」自分の提案が思っていたよりも簡単に受け入れられた事に少々驚いたと言うのがライの率直な感想だ。武がその場から離れた事を確認した彼は、リュウセイと共に機体へと戻り、秘匿回線を用いて先程までのやり取りを相談し始める―――「どう思うライ?」『キョウスケ中尉達が無事だという事は貴重な情報だ。だが、裏を返せば中尉達は人質に取られていると考える事も出来る』「な、それってどういう意味だ!?」『いいかリュウセイ、先程彼は俺達に協力して欲しいと言った。そして中尉達は自分達と共に居ると……』「断った場合はキョウスケ中尉達の命は無い……つまり皆は人質だってあいつが遠まわしに言ってるって言いたいのかよ?考えすぎじゃねえのか?」『あくまで仮定の話だ。状況が状況だけに不用意に彼らを信用する訳にはいかん。彼等が味方と言い切れん以上、こちらも慎重に対応しなければならないんだ』「でもよ、ここが俺達の居た世界とは違う地球なんだろ?他に頼れる味方は居ないんだぜ?」『その点も確かに問題だ。彼らに協力しなかった場合、俺達は完全に後ろ盾を失った状態……つまりは孤立無援の戦いを強いられる事になる。そうなってしまえば補給もままならないし、何よりも情報を得る事も不可能な上にこちらから行動を起こす事もできん』「情報収集と補給に関しては重要だよな……」『せめてこちら側の世界にも連邦軍があれば状況は違ったかもしれんが、現状では情報が不足しすぎている……そこでだ、俺は一度彼の提案を受けてみるべきだと考えている』「オイオイ……お前、さっきから言ってることが滅茶苦茶だぞ?」『慌てるな……さっきも言っただろう、今の俺達には何か行動を起こすにしても情報や判断材料が少なすぎる。だからあえて彼の提案を受けると言ったんだ』「つまり、従ったフリをして情報を集め、あいつらが敵だと分かったらキョウスケ中尉達を助けて脱出する……そう言いたいんだな?」『そうだ、ひょっとすればヴィレッタ大尉やアヤ大尉達も彼らと共に居るかもしれんしな』「お前にしちゃ随分と危ない橋を渡る作戦だな……了解だライ。お前の考えに従う事にするぜ」『すまんなリュウセイ……白銀大尉、お待たせして申し訳ありませんでした。今後暫くはそちらの指揮下に入らせて頂きます』これはあくまでライが仮定した話であり、武にしてみれば全くその様な事は考えていなかった。ただ単に彼は、二人を保護するべく協力して欲しいと申し出たのだったが、完全に間逆の方向で二人は受け取ってしまったのである。詳しい事情を説明しなかった武にも問題はあるが、慎重すぎるライにも問題はあったと言えよう。そんなやり取りが行われていたなどと知る由もない武は、彼らを保護出来た事に安堵していたのだった―――『―――ところでさ、俺達は何をすれば良いんだ?』『白銀大尉は、現在難民の救助活動を行っていると聞きました。ですが、我々がそれを手伝って問題は無いのでしょうか?』「救助活動そのものを手伝って貰うのは流石に無理ですね。二人の存在は公に晒すわけに行きませんし、何よりも事情を知らない人にしてみれば異質な存在ですから」『結構な言われ様だな俺ら……で、何を手伝うんだ?』「彼女達と一緒にこのポイントの調査と警戒を頼みたいんだ。またBETAが現れるかも知れないし、何故BETAが現れたのかも気になるしな」『(とりあえず彼女達は俺達の監視役、と言う訳か……)了解しました大尉。リュウセイも問題はないな?』『ああ、問題無いぜ』武の答えに納得した二人はこの場にて待機し、警戒任務に就くこととなった。そう考えた矢先、彼の元にアラドから通信が入り、武はこの場で指揮を執る訳にも行かなくなる。とりあえずこの場は、信頼の置ける真那に任せると、彼は急いでその場を後にし、合流地点である指揮所へと向かうのであった―――「―――これより本作戦における新たな通達事項を発表する。予想以上に火山の噴火が早まり、このままでは避難の遅れている地域に溶岩流が接近する恐れがある。そこで我々は、溶岩流の進行方向を変える為の作戦行動を行う事となった」指揮所ではまりもが訓練兵達に対しブリーフィングを開始している。「神宮司教官、具体的に我々は何をすれば宜しいのでしょうか?」「それはこれから説明する。先ず、貴様らにはこれから指示するメンバーでエレメントを組み、それぞれ表示されている地点へと向かってもらう。尚、班分けに関してはブリーフィング終了後に白銀大尉より発表して頂く予定だ」『『「ハイッ!!」』』御守岩を砕くための作戦……それは地震の影響で生じている亀裂を増やし、更に亀裂の中心点に強力な負荷を掛けることで大岩を破砕するというものだった。御守岩の左右に二機ずつ、合計四機の機体を配置し、新型装備を用いての砲撃を行い亀裂を拡大。その後、噴射跳躍で大岩を飛び越え、反転噴射降下で一気に距離を詰め、指定されたポイント二箇所に斬撃を加える……口で言うのは簡単だが、少しでも誤差が生じればあれだけの質量を戦術機で砕く事は不可能だろう。現に説明を受けた訓練兵達は、誰もがその内容に驚きを隠せないでいる。そんな彼女達の心境などお構いなしといった様子で話を続ける武。「先ずA班は榊、珠瀬、ゼオラ、ラトゥーニの四名は砲撃を担当、続いてB班は彩峰、鎧衣、クスハ、アルフィミィ、お前達はA班のバックアップだ。そしてC班……アラドと冥夜の二人、お前達がこの作戦の最重要ポイント、長刀を用いての一点攻撃だ。既に霞の方で狙撃ならびに長刀での破砕ポイントを割り出してもらっている。なお、俺とブリットは不測の事態が発生した時のために待機だ……何か質問は?……無いようだな。では各自機体に搭乗しろ、作戦開始は今から十五分後、それまでに各自指定された地点へと移動するように。以上、解散!!」「敬礼!」各自が敬礼を終え、各々の機体に搭乗を開始する。既に整備スタッフによって、破砕作業を担当する機体には用意された兵装が装備済みだ。本来ならあの大岩は自分が砕くつもりでいた。吹雪単体では不可能だが、彼の改型ならば容易に御守岩の頂上へ跳躍する事も可能だし、何よりも従来の戦術機には装備されていない兵装を搭載しているからだ。この様に出撃前から様々な方法を模索していた武だったが、流石に一人ですべての工程を行うには多少なりとも不具合が生じる。一番の難点は、破砕ポイントの割り出しだ。前回は冥夜が計算してくれたポイントに斬撃を打ち込む事で事なきを得たが、今回もそうとは限らない。そこで彼は、霞にこの事を相談したのである。だが、直後に彼女に相談を持ちかけた事を後悔する事となった。何時の間にやらこの事を嗅ぎつけた夕呼が、今回の案件に介入して来たのである―――「―――アンタがそれをやるのは構わないけど、それじゃ意味がないと思うのよ……やっぱり訓練兵のあの子達にやらせるべきなんじゃないかしら?」「でも先生、従来の戦術機の兵装でこちら側に被害を出さずに成功させるのは難しいですよ。やっぱり俺の改型でやった方が確実だと思います」「それは機体の面でかしら?それとも兵装?」「両方です……もう少し破壊力のある武器でもあれば話は変わってきますけどね」「だったら問題無いわね。丁度テストしたいモノがあるからそれを使えば良いわ」「っ!?あいつらに新兵器のテストをさせるんですか?機密とかの問題が大きいじゃないですか!!」「ホント話を最後まで聞かないヤツね……今回使って貰う予定の物は、従来兵器のアップデート版とも呼べる物なのよ。元々あの子達には新型OSのテスト運用もやって貰ってる訳だから、いわばこれはオマケみたいなものよ。それに私が問題無いって言ってるんだから、アンタがそんな細かい事気にしなくても良いのよ。だから言われたとおりにやりなさい……良いわね?―――」と、この様なやり取りが行われていたのだった。正直なところ、夕呼がこう言った形で協力してくれる事を武は素直に喜べないでいた。こんな事を言っては彼女に失礼だが、『香月 夕呼』という人間は損得勘定抜きで行動はしない人物だ。今回の救助活動に関しても、本来ならば彼女に対してのメリットはそれほど多くはないのだ。せいぜい帝国側に借りを作るぐらいのものだろう。それ以上に怪しい点は、必要以上に協力してくれているところだ。その為にテストも行っていない新兵器をわざわざ提供してくれるのもイマイチ納得がいかないのである―――「―――あんまり深く考え込んでてもダメだよな……」彼女らを見送りながらそのような事を呟いていた彼に対し、何か言いたい事でもあったのだろうか?となりに居たまりもが徐に口を開く―――「―――宜しいでしょうか白銀大尉?」「なんでしょう?」「C班が担当する部分ですが、何故ラックフィールドではなくバランガなのでしょうか?部隊内において長刀の扱いは彼と御剣の両名が秀でています。作戦の成功率を上げるならば、二人の方が寄り確実だと思うのですが……」そう言いながらブリットの方へと目線を送るまりも。当のブリットは、指揮所内に設置された機材を操作する霞と何やら話している様子だ。恐らく最終的な打ち合わせか何かだろう。「確かに確実性を取るならばその方が無難かもしれません……ですが、これはアラドが言い出したんですよ。自分になんとしてもやらせて欲しい。必ず成功させて見せるとね。本来ならこういったことが駄目な事は自分でも解ってるんですよ……でも、あいつの目を見て思ったんです」「目、ですか?」「ええ……なんと言うか、強い意志のようなものを感じたんです。何かを成そうとする信念、とでもいうんですかね。そういった想いを持っている人間は、ここぞと言う時に想像以上の力を発揮します。一種の賭けみたいなものですけどね」「なるほど……」口ではそう言っている彼女だが、やはり納得は行っていない様子だ。正直、アラドから御守岩を砕く事を提案された時には驚かされたと言うのが武の本音である。自身の記憶では、この大岩を砕く作戦を思いついたのは冥夜であり、今回もそうなるであろうと考えていたからだ。もしもそうならなかった時の事を考え、彼は自分自身がこの作戦を発案し事に及ぶつもりだった。だが、アラドにその方法を尋ねたところ、彼はリュウセイ達の協力を得る事がこの作戦のキーだと返して来たのである。確かに彼らの力を借りれば事は簡単に済むだろうが、流石にそう言う訳にはいかない。彼らの存在は言うなれば超一級の秘匿情報……すなわち、異世界からの転移者であると言う情報を与えられている者以外と接触させる訳にはいかないのである。この場に居たのがブリット達C小隊の面々だけならば問題は無かったが、B小隊の面々や指揮を執っているまりも、更には救助活動に当たっている帝国軍兵士まで居るのだ。R-1のT-LINKナックルやR-2パワードのハイゾルランチャーで砕くなどといった方法はとれないのである。ハイゾルランチャーならば横浜基地で開発中の新兵器、などと誤魔化しが効くかも知れない。だが、流石に戦術機とそう違わないサイズの機体が、傍から見れば何の武器も用いずに素手で大岩を砕くなどといった光景は流石に説明がつかないだろう―――「それにしても正直驚かされました。よくこれだけの短時間でこのような作戦を考え付くなんて……流石は白銀大尉ですね」「そんな事無いですよ。破砕ポイントの割り出しは霞が計算してくれましたし、何よりもあの岩を砕く事を提案したのはアラドです」「バランガ訓練生がですか!?」「ええ、俺も正直驚かされてます」発案者は武と言う事になっているが、提案者はアラドだと言う事を聞かされたまりもは、普段は見せないような表情を浮かべて驚いていた。それはそうだろう……普段の訓練でアラドの行動を見ている彼女にしてみれば、このような作戦を思いつくとは考えられなかったからだ。訓練中の彼を見る限り、このような作戦を思いつくような人物では無いと受け取られても仕方がない。だが、彼の本質を知る者ならば、この考えを即座に否定する。アラド・バランガという人物は、追い詰められた状況化やここぞと言う時に爆発的な能力を発揮する……言うなれば、スイッチが入れば化けるタイプの人間なのである。「普段の訓練じゃ、多少手を抜いているような面も見れますけど、こういった場面での行動力は評価に値する点ですね。俺も少し考えを改めないといけないかも知れません」「では、先程の命令違反もそう言った面からの行動だと仰るのでしょうか?」「かも知れません……ですが、命令違反は命令違反。アラドには後でそれなりの処罰を与えるつもりです」かつて、自分もまたこの場所で命令違反を犯した事がある。実際には自分ではなく、別世界の自分だが、その時は営倉入りを命じられた。今回のアラドの件は、ほぼ間違いなく営倉入り確定だろう。これが軍隊でなければ彼が取った行動は、評価に値するものかも知れない。むしろ人命救助のために身を呈して戦ったのだ……賞賛に値するだろう。だが、ここは軍隊……素性を隠す為、一時的に間借りしているだけに過ぎない彼だが、そこに居る限りは規律に従わなければならないのだ。『郷に入っては郷に従え』という言葉がある様に、彼の様な存在はそこの風俗、習慣、規律などに従うのが安全な処世術の一つなのである―――「―――白銀大尉、各自指定されたポジションに着きました」「解った……それじゃ皆、機体と装備の最終確認を行ってくれ。何も問題が無いようなら、時間通り作戦を開始する」『『「了解!!」』』砲撃を担当するA班が使用する兵装は、突撃砲とは違う大型の武器だった。対要塞戦……すなわちハイヴ攻略用に開発された携帯式の大型ロケットランチャーである。突撃砲に装備された120mmよりもはるかに大口径の380mm弾を発射可能な兵装で、破壊力だけならば従来兵器を上回る逸品だ。しかし、取り回しや使用する弾頭などの問題から未だ試作の域を脱していない兵器でもある。『正直言って驚きよね……まさか私達に新兵器を使わせて貰えるなんて……』『それだけ僕達が期待されてるってことなのかな?』『……だと良いけどね』『120mmと同じ様な感覚で使えば問題無いって言われましたけど、やっぱり試射も無しに打つのは怖いです』『その辺は一発目の着弾地点から誤差を修正するしか無いと思いますの』『砲撃に関しては問題無いと思いますよ。部隊内でも射撃に関して上位の方々が担当する訳ですし』『そうね、ぶっつけ本番だけどやるしか無いわね……』『自信が無いなら止めておけばいい。失敗した後のフォローが大変』『誰がそんな事言ったのよ!』『さて、誰だろう?』『やれやれ……また始まったか……』作戦開始間際だと言うのに、まるで緊張感の無さそうな会話が繰り広げられている。本来ならば私語は厳禁なのだろうが、武達はあえて止めようとしない。恐らく彼女達なりに緊張を解そうとする為のやり取りだと判断しているのだろう。だが、そんなやり取りに参加しようとしない者もいる―――「―――ゼオラ、大丈夫?」『……大丈夫よ。私は平気だから……』秘匿回線を用いて会話するラトゥーニとゼオラ。口ではそう言っているゼオラだが、その台詞からはあまり感情が込められているとは思えなかった。やはり先程のアラドとのやり取り、そしてオウカの事が引っ掛かっているのだろう。死んだと思っていた姉が生きており、その事を知っていたアラドは何も話してくれなかった―――かつて精神操作を受けた際、クエルボ博士は彼女はアラドに依存し過ぎているかもしれないと言っていた事があった。そんな事をラトゥーニが知っている筈もないが、そう言った面がこれまでも無意識の内にゼオラに対し働き掛けていたのだろう。信頼していた筈の彼に裏切られたような気持ちになり、精神的に不安定になっても仕方がないのかもしれない。「ゼオラ、今は任務に集中して……さっきの事は……『大丈夫だって言ってるでしょう!!』……ごめんなさい」やや強めの口調で切り返すゼオラに対し、ラトゥーニは戸惑ってしまう。彼女自身も先程の一件を整理しきれていないのだ。『ごめん、ラト……私は大丈夫だから……回線、切るわよ?』「うん……」それ以上の言葉が出てこない―――ラトゥーニも彼女にどう言葉を掛けていいのか解らないのだ。『ラト、ちょっと良いか?』「アラド?どうしたの?」『さっきの事なんだけどさ……多分、今ゼオラに何を言ってもダメだと思うんだ。この任務が終わったら、隠してた事を全部話す。だからそれまであいつをフォローしてやってくれ』「……解った。フォローは任せて」『悪いな……それじゃ、また』時間までに何かゼオラに言葉を掛けてあげたい……そう考えるラトゥーニだったが、無情にも時間は待ってはくれなかった。こうなってしまっては、実際に彼女がミスを起こす前にフォローに入るしかないだろう。ラトゥーニは、ただ何も起こらない事を祈るしか無かったのである―――「―――時間です大尉」「よし、皆、準備はいいな?これより作戦を開始する!」『『「了解!!」』』「カウント10秒前、9、8、7、6……」武の号令を受け、霞がカウントダウンを開始する―――「……3、2、1……作戦開始!!」「A班、砲撃を開始しろ!」作戦が開始されると同時に380mmバズーカが一斉に火を噴く。その反動は従来兵器の比ではなく、予想以上の震動が機体を通じて伝わってくるのが解る。『凄いわね……流石は新兵器と言ったところかしら?』『二人一組で反動を抑えなきゃ撃てない武器なんて……ホントにこれ実戦で使えるの?』現状はA班が砲撃を担当し、バックアップに当たっているB班はその反動を抑えるために後ろから支えている状態になっている。当初の計画ではそのような必要は無かったのだが、現存のOSでは完全に発射時の反動を抑える事が出来ない為の処置だ。これは急遽この兵装を用いる事になった為、OSのアップデートが間に合わなかった事が理由の一つである。「破砕ポイントの亀裂、順調に拡大中です」「冥夜、アラド、跳躍開始!頼んだぞ二人とも!!」『「了解!!」』指示を受けた二人が機体を発進させる。『20702参る!!』『20709行くぜっ!!』『滑走20秒!』『了解!!』轟音を立てながら滑走する二機の吹雪。アラドは自身の烈火が損傷している為、ブリットの機体を借り受けている。これは作戦開始前にブリットが言いだした事であり、それなりの理由もあった。やはり剣術に関しては彼の方が秀でている為、どうしてもアラドは彼に比べ見劣りしてしまう。その点を埋めるためにブリットは、自身の吹雪の剣術モーションを使わせることを思いついたのだった。即席の方法ではあるが、何もしないよりは成功率は上がるだろう。「A班、砲撃中止!各機その場から退避しろ!!」『『「了解っ!!」』』その場に居続けていれば、崩落に巻き込まれる可能性が高い。タイミングを見計らって武は指示を出し、彼女らもそれに従う……筈だった―――「クッ、このタイミングで地震だって!?霞、状況は!?」「火山噴火に伴う地震です。作戦に影響はありません」「解った。各自、そのまま続けてくれ、A、B班は退避だ」指示を受けた各々が、それぞれ最後の詰めに入ろうとしていた―――『機体起こし、飛ぶぞ!!』『了解っ!20709推力全開ッ!!』今まさに二人が飛び上がろうとした瞬間、予想だにしない出来事が起こってしまう。「ゼオラさん、早く退避して下さい!このままでは崩落に巻き込まれる可能性があります!!」『このままじゃ、完全に崩落させる事は難しいわ。後もう少しだけやらせて!』「駄目だゼオラ、直ぐに退避しろ!これは命令だ!!」『っ!、了か……きゃあっ!』武からの命令を受け、仕方なく退避を行おうとした次の瞬間、事態は思わぬ方向へとシフトする。「どうした!?」『大丈夫です。足場が急に崩れて……っ!ダメ、アラド!避けて!!』通信機越しにゼオラの言葉がこだまし、何事かと思ったアラドは彼女の方を見て驚愕する事となる―――『クソッ!』眼前に迫る何か……そう、彼女が最後に放った弾は、急に足場が崩れた際に弾道がずれ、あろう事かアラドの方へと向かって行ったのだった。このままでは直撃コースは免れない。更に言うならば推力を全開に上昇している為、回避する事も不可能に近い。そんな状況の中で彼は、誰もが驚く方法を取ったのだった―――『―――外れたら、その時はその時だ!』彼はとっさに武器セレクターを操作し、兵装から突撃砲を選択……眼前に迫る弾頭に対し、無造作に弾を発射する。目標は左程大きいものではない為、狙って撃つだけの技量は彼には無い。だが、彼の取った選択は功を奏し、機体に命中する直前に爆発したのだった―――『やったぜ!』そのまま爆発で出来た噴煙を突き破り、更に上昇を続けるアラド。『無事かアラド?』『大丈夫ッス!行きますよ冥夜さん!!』『心得た!はぁぁぁぁぁッ!!』『行っけぇぇぇぇぇッ!!』指定されたポイントに向け、一気に長刀を振り下ろす二機。程無くして巨大な轟音を立てながら御守岩に亀裂が入り、前回以上の質量が谷へと向けて崩落を開始する―――「よし、二人はそのまま退避しろ!作戦成功だ!!」通信機から武の声が流れると同時に、皆は歓喜の声を挙げる。そして冥夜は、事が上手く運んだ事にホッと胸を撫で下ろしていた―――『どうやら上手く行ったようだな……正直言って成功するとは思わなかったのだが……』『実は俺も微妙な所だったんですけどね……でも、上手く行って良かったッス』作戦が成功し、安堵の表情を浮かべるアラド。そんな彼の下にゼオラが、申し訳なさそうな表情を浮かべ通信を繋げて来る―――『―――ごめんなさいアラド』『気にすんな。それに俺だってお前に謝らなきゃなんねえしな……』『で、でも……』『俺は無事だったんだし、作戦も成功した……良いじゃねえかそれで……これで婆さんも……!?何だ!?』『どうしたのだアラド!?』コックピット内部にけたたましく鳴り響く警告音。即座に状況を確認したアラドは、その事態に驚愕していた。作戦成功の余韻もつかの間、黒い煙を上げながら滞空しているアラドの吹雪。モニターには跳躍ユニット損傷と警告の文字が引っ切り無しに表示されている。『跳躍ユニットが……ヤバい!』恐らく先程の出来事が原因で、跳躍ユニットが損傷していたのだろう。それに気付かず、推力を全開にしていたために損傷部分が拡大したに違いない。『いかん!アラド、直ぐに跳躍ユニットをパージしろ!!』『ダメだ、パージできねぇ!』『ならベイルアウトするのだ!急げ、跳躍ユニットの爆発に巻き込まれるぞ!!』『駄目よ御剣さん!そんな高度でベイルアウトしたら、アラドが危険だわ!!』「落ち付け二人とも……アラド、パージが無理なら短刀でジョイントを破壊するんだ。冥夜とゼオラはアラドの機体のフォローに回れ」『「了解!」』アラドのフォローに入ろうとする二人……だが、彼はそれを制止した―――『来るな二人とも!ダメだ、もう間に合わねえ……』『何言ってるのよアラド!そんなのやって見なくちゃ……』『ごめんゼオラ、約束守れそうに……』彼がそう言いかけた直後、爆炎に包まれる吹雪―――『―――い、嫌……嫌よそんなの……あ、アラドォォォォォ!!』冷たい冬の風が吹き荒れる中、辺り一面に彼女の悲痛な叫びがこだましていた―――あとがき第48話です。先ず初めに、前回から間が空いてしまい本当に申し訳ありませんでした。感想掲示板の方にも書かせていただきましたが、主な理由はあのままです。更新を心待ちにして下さっていた皆様、何とか完成させる事ができました。遅くなってしまって本当に申し訳ありません。さて、本編に関してですが、今回はいつもより長いと思います。後、少々詰め込み過ぎな感じがしないでもないですが、概ね書きたい事は書けたと思っております。御守岩破砕に使用した武器ですが、現状では試作品の域を出ていません。そしてこれをこの話に持って来た事にも理由があります。何故?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、今後の為の伏線とお考えください。今後の展開ですが、どうなるかはお楽しみにという事でご容赦ください。それでは感想の方お待ちしております。