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No.7746の一覧
[0] 【ネタ作品】 リーツ・アウガンの旅記録~マブラヴ編~[リーツ](2013/10/02 23:47)
[2] 迷惑一番が異世界を闊歩する第一話。改[リーツ](2009/07/15 22:50)
[3] 突撃★今夜の晩御飯な第二話。 改[リーツ](2009/08/15 00:25)
[4] 赤いキツネと緑のタヌキの第三話。[リーツ](2009/04/17 10:58)
[5] 魔神の目覚める日は第四話。[リーツ](2009/04/25 08:42)
[6] 禁じられた歌声が響く第五話。 前編[リーツ](2009/06/13 23:37)
[7] 禁じられた歌声が響く第五話。 後編[リーツ](2009/04/30 01:07)
[8] 殿下に呼び出しを食らった第六話。[リーツ](2009/06/13 23:38)
[9] クーデターと第七話 前編。[リーツ](2009/06/13 23:38)
[10] クーデターと第七話 中編。[リーツ](2009/06/13 23:38)
[11] クーデターと第七話 後編。[リーツ](2009/05/23 13:05)
[12] 一難去ってまた一難。懲りない人に第八話。[リーツ](2009/06/13 23:38)
[13] 二度あることは三度ある第九話。[リーツ](2009/06/27 00:14)
[14] 魔法少女は魔女になる第十話。[リーツ](2009/06/27 00:13)
[15] 記憶回帰の第十一話[リーツ](2009/08/02 11:21)
[16] 記憶回帰の第十二話。[リーツ](2009/10/11 08:41)
[17] つなぎDE第十三話。[リーツ](2010/02/01 00:21)
[18] 第十四話・限りなく近く、極めて遠い世界から、因果導体の君へ  前編[リーツ](2010/04/22 23:25)
[19] 第十四話・限りなく近く、極めて遠い世界から、因果導体の君へ  中編[リーツ](2010/05/31 22:44)
[20] 第十四話・限りなく近く、極めて遠い世界から、因果導体の君へ  後編[リーツ](2010/06/22 21:54)
[21] 第十五話・アークバード[リーツ](2011/07/08 02:28)
[25] 第十六話・再誕[リーツ](2011/07/08 02:16)
[27] 第十七話・夜明けの流星 前編[リーツ](2012/06/18 00:02)
[28] 第十七話・夜明けの流星 中編[リーツ](2012/07/15 01:47)
[29] 第十七話・夜明けの流星 後編[リーツ](2013/10/02 23:44)
[30] クロスオーバーの元ネタ表[リーツ](2010/06/02 09:35)
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[7746] 迷惑一番が異世界を闊歩する第一話。改
Name: リーツ◆632426f5 ID:68ab6158 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/15 22:50

<リーツ・アウガン>



流れる時間が遅いなと感じるほど続いた、いつもの事務作業を終え、ロッキングチェアに座って一息つく。

その後ろでは、後輩や先輩に当たる人間が、おおきな書棚に向かって本の整理や本を引き出して目的の情報を探している。

ここは『白い部屋』。

図書館のようにも思える場所で、色んな『私』が経験した体験や経験、記憶などが『本』として安置されている場所でもある。

私は、リーツ・アウガン・ザ・ダッシュ。

いわゆる『並行世界』、『多元世界』を旅するアナザーワールド・トラベラである。

先ほども、剣と魔法の世界群の内の一つから還ってきて、その世界で経験したことや起こったことを情報化、本にして、まとめ終わったところだ。

「ご苦労様。どうだった?ファンタジアな世界は」

そう言ってキリマンジャロを淹れてくれる女性、アンファング。自分と同じ顔立ちながら、女性らしい顔つき。もしも、私が女性であったらという世界の出身者で、名前も同じリーツ・アウガンである---皆、同じリーツ・アウガンであるため、識別するためにアンファングと言われている。

「なかなか楽しめたよ。また行ってみたいね」

「なら、ファーストに頼んでみたら?行かせてくれるかもよ」

「今度は任務じゃなくてバカンスで行きたいね。火トカゲの尻尾ステーキだったか。あれはもう一度食べたい」

「ダッシュは、そういう食べ物が好きねぇ」

「アンファングは、そういうのが嫌いか?」

「いいえ、好きよ。肉は塩胡椒に限るわ。焼き加減はウェルダンで、日本酒か、ウィスキーよ。あなたもでしょう?」

「そうだな。私たちの感覚では、肉にワインは合わない。なにせ、リーツ・アウガンだからな」

くすくす

「わかっているじゃない。じゃ、ゆっくりね。休暇は---あら?」

そう言いかけて、異変を感じたアンファングは眼を細くして戦闘意識を尖らせる。と、ゆっくりと部屋全体が揺れる感覚が全員を襲う。

「・・・地震か?」

「ばか。ここに地震なんてあるはずないでしょ。そもそも地面なんてないのよ」

「じゃあ、この揺れは何だと思う」

「さぁ。どっかのおばかさぁんが次元振動レンズでも作動させたんじゃない?」

「だが、あれはここまで届かないはずだろう。あくまで人生リフレイン現象としての装置だ。魂の根源の一歩手前のここまで届くはずがない」

「んー・・・どうやら、それとは違うみたいね。来るわよ。ほら、そこに」

アンファングが指差す方に、揺らぎが見える。やがて大きなうねりとなって、一瞬、ネガのように色彩が反転したかと思うと、またいつもの白い景色で、しかし、彼女が、そこにいた。

年齢は、17か19までほどの未成年。髪は長く、艶やかだ。全裸ということもあり、プロポーションもよく、顔立ちもいいことが伺える。だが、これはいったいどういうことなのだろう。

この白い部屋は、いくつかの例外を除いてリーツ・アウガンしか入れない場所である。彼女は、新しいリーツ・アウガンなのか?

「どうやら、それは違うみたいね。あれは、カー、コンピュータで言うところのショートカットアイコンよ。本体は、別にあるわ。次元交錯線がぐるぐるになっちゃって、ここに飛ばされたようね。この程度の振動なら、すぐに消えちゃうわ」

「たけるちゃん・・・たけるちゃん・・・たけるちゃん・・・」

何かを言っている。人の名前だろうか。察するに、恋人の名前のようだが。

興味が湧く。

「たけるちゃん・・・たけるちゃん・・・たけるちゃん・・・」

「たけるちゃん・・・たけるちゃん・・・たけるちゃん・・・」

彼女、余程「たける」なる人物に執着している模様だ。

これは余程のことだと思い、彼女意識にアクセス。どうしてここに繋がる結果になったのか、人生を読んでみる。

「ふむん」

「珍しいわね。いつもなら、休暇中は何があっても休むのに」

「気まぐれと物作りは私の専売特許だろう?」

ちょっと考えるアンファング。それもそうね、と笑って言った。

「名前は・・・鑑 純夏。なるほど。宇宙からの侵略者・BETAに身も心も犯された、か。で、次元爆弾『G弾』によって発生した歪みで『白い部屋』に意識が繋がったと。そういうわけか」

「どこの世界?・・・マブラヴ?また、変わった名前ね。データベースには載っていないわ。新種の世界ね」

アンファングも私を通じてアクセスする。

マブラヴ・オルタネイティヴ。

世界名はそれ。歌は『未来への咆哮』。

世界は、安定を好むのが基本である。その安定に一役買っているのが、『歌』だ。歌は、その響きで、その世界を現し、特徴を司る。芋づる式にオリジナル世界の情報と外典、偽典も多く出てくる。それだけ、色々な世界からアプローチされているのだろう。それらの世界群も、歌によって、まとめられている。歌がない世界は、常に不安定で消えてしまう危険が付き纏う。

この白い部屋も、ザ・ファーストが作ったものでファーストの生誕世界群に含まれる。歌もそうだ。

「まぁ、暇だし助けてあげますか」

そして『私が干渉しなかった』場合、起こったであろう出来事、未来も読み込み、保存する。

「あら、助けるの?放っておいても、なんら問題ないはずよ」

「確かに。だが、AAAに相当することも事実だ。G弾とやらの使用回数が続くなり増えるなりすれば、この白い部屋が危険に晒されるかもしれない。憂いは絶つべきだ」

「G弾が使われない世界の流れを作る、と言うこと?」

「そういうこと」

「それは必要以上の介入を招かない?」

「かもしれん。しかしこれはこれ、それはそれだ。助けることに違いはないし、規約違反にもならない。ま、規約と言っても、私たちが消えてしまわないようにするための約束事だ。必要最低限のルールさえ守ればいい、と、ファーストは言っていたぞ」

「そこは同意できないわね。だいたい、境界線があいまいなのよ。もっと厳格にすべきだわ」

「昔、それをやって、いざ動こうと思ったら規約抵触事項だらけで何もできずに死んで、リフレイン現象でもう一回、その世界をやり直す羽目になったんだがな」

「別にいいじゃない。ここを破壊されるか、根源に落とされるかしないと私たちは死ねないんだから。一回目でダメだったら、二回目、三回目でやり遂げればいいのよ」

「私は君ほどタフネスじゃない。人生に予備はいらない。人生は一度きり、一期一会だからこそやる気が出るんだ。何度もやってクリアなんて、質の悪いゲームだよ」

「私は任務を優先するわ。人生を楽しむのは、それからにするわよ。あなたは任務と人生を一緒にするから余計に介入しちゃうのよ」

「そちらでは一回で済むから、私はそっちでいいよ」

流れてきた情報を元に少女の世界へと続く道を作る。幸い、同類のアプローチは、まだ無い。アプローチがあると、干渉者・ダブルヘッダとなって私たちが世界から排除されてしまうからだ。

同時に情報の整理を行い、余分な情報は消す。残るのは、主要・副接触人物、主要・副機械、分岐点因子に、遊び心で残った面白情報だ。

「物好きね。せっかくの休暇なのに」と、腕を組んでアンファング。

「アンファングも行くかね?」

いつもの武装セッティングと、思考調整をしながら言う。出発前の準備運動と、持ち物点検だ。うっかり何かを忘れても、届けに来てくれる助っ人はやってこない。それもダブルヘッダと世界から認定されるからだ。同様に、ここからマブラヴ世界に何かを送るということも出来ない。受精卵のようなものだ。例外を除いて、最初に出会った卵子と精子以外は、排除されるか、進入できないように防御壁が展開される。

初めてそれを知ったとき、なるほど、男の私はまさしく精子だなと思った。未受精卵である卵子は、誰も干渉していない世界で、そこに異物である私が介入することで何かを孕む。そこから、なるべく人の道を踏み外さないようにその世界の行く末を示す。示すと言っても、預言者のように振舞うのではなく、数ある道の中からなるべく最良の道を選ぶように因果の鎖を作るのだ。

産み生まれ、殺し殺され、そうやって世界の住人たちによって作られる歴史の中に、ほんの小さな楔を打ち込む。そこから繋がっていく鎖は、人の絆だ。生き様と言ってもいい。基本を武士道や騎士道として、各世界ごとに最適化を図る。それによって各世界の美や善感覚に合わせた因果の鎖が現れ、彼らを縛るのだ。

だが、それを良しとしない者が現れることもある。そのときは、彼らに鎖を破戒させることにしている。その後に自分たちがいいと思う鎖を作るか、少し違うシステムの鎖を作るか、そのままにするかは、彼らの自由だ。それで崩壊した世界は、ない。もっとも、『世界』が自身の安定のために鎖の存続を望めば、彼らは消え去ってしまう。が、私にも、それは言える。世界が鎖を望まなければ、排除されるのは私だ。

「私は遠慮しておくわ。せっかくの休暇だもの。戦場に行くくらいなら、常春のマリネラに、バカンスに行くわ」

「国王の世界か。正体を知ったら、一生ダイヤか金を生産させられるな」

「そんなつまらないミスなんかしないわよ」

「だといいがね---じゃあ、行ってくる」

「ええ、行ってらっしゃい。死なないようにね」

通路の形成を完了。準備も終わる。鑑嬢のカーを抱えて、飛び込んだ。



「・・・ふむん」

飛び出た先は、荒れた街並み。鑑嬢は、この世界の入れ物に戻った。カーなので当然といえば、当然だ。背後霊になるわけにもいくまい。

さて、情報の通りだとこの近くに横浜基地があるそうだが、正直、どうしたものか。基本的にスタンドアローンの方がやり易い。この世界の主要人物である香月夕呼博士は、自分の目的のためならどんな犠牲を厭わない性格らしい。救いは、その行いに覚悟を持っていることだろう。覚悟がなければ、たちまちのうちに地金を晒して自身を責め抜く。大抵、そのまま死んでいく者が多い。中には世捨て人になる者もいる。が、博士は覚悟を持っている。今まで出会ってきた人間の中でも強い部類に入る人間だろう。

そんな人物に会うと色々とややこしいことになりそうだが、鑑嬢は、当の横浜基地、その地下深くにいる。行かない訳には、いかない。

その香月博士は、今は鑑嬢の脳髄を使った量子電導脳の開発で行き詰っているらしい。計画名は『オルタネイティヴ4』。なんでも、演算ユニットを掌サイズ、しかも性能はスパコン並み(テラフロップスクラス)にすることがうまくいかないらしい。

この世界の前身となる『アンリミテッド』世界では、オルタ4が成功せず、地球脱出計画である『オルタネイティヴ5』が取って代わって発動して、それが原因でG弾が多用される作戦になった。白い部屋に鑑嬢のカーが接続される事態になったのは、そのエネルギーもあるかもしれなかった。

私は、その量子電導脳の核であるスパコンと同等のものを作ったことがある。形式と大きさは多少は違うが、性能は同じである。WIIとドリキャスの関係のようなものだ。あれも形式こそ違うが、性能はほぼ一緒である。

香月博士がそれを知れば、なにかしらの弱みに付け込み、そこを中心にしてなんとしてでも作らせるか、設計図を聞き出すだろう。

決して弱みを見せてはいけない。間違っても助けなんか求めてはいけない。

それが原因でGT-Xが他人の手に渡ってしまったら、取り返しのつかない事態になりかねない。GT-Xは、核だ。ボタン一つで神にも悪魔にもなれる。

そう、例えいきなりBETAに囲まれても絶対に助けなぞ求めぬ。

なんでこんなにいるんだ。おかしいだろう。常識的に考えてお前らはここいらにはいるはずがないのだ。明星作戦といわれるG弾運用作戦で掃討したはずだ。それともなにか?レーダーに探知されないようにやってきましたとか、そんなオチか?勘弁してくれ。

「しかし肩慣らし運転には、もってこいかな」

BBTを起動。武装マスターアームを起こし、戦闘モードに設定する。

「最低出力の消滅攻撃だ。どうなるかな?」

左腕がBETAの方に向き、発光する。さらに光がのびて、BETAを覆う。数秒そのままにして、やめると、ものの見事に、綺麗さっぱりと消えていた。

「おそろしく防御性能のない生命体だな」

情報にあった『あ号標的』が言った作業用生命体と言うのは、どうやら本当らしい。数で押し切れるので、武装生命体は造られていないのだろう。光線級と言うBETAも存在するが、BETAからすれば、それは武装ではなく『ただの光』程度の認識だろう。ぼんぼりか、行灯とも。BETAの巣であるハイヴの中では、この光線級が通路を作るときに一役買っているのだろう。戦闘機や戦術機を撃ち落す機能は、あくまで副次的な物だったが、あまりにも効果があったので対人戦に活用されることになったのだと思う。

BETAが消えたその場所に動いて、詳細な情報を探る。残っている体液や、肉片、骨などの採取だ。が、あんまり残っていなかったので諦める。少なすぎてはサンプルにならない。

「DNAは採取できるが・・・BBTで増幅複製を取っておくか」

ブラック・ボックス・テクノロジー、略してBBTを搭載したGT-Xは、エーテル粒子という原子核を構成しているこの世の最小単位粒子を操作してあらゆる物を作り出す願望投影機だ。その気になれば、魂も構築可能だ。魂もエーテル粒子で出来ているが故に。

そしてその逆も可能。つまり構成パターンを解析・解体処理したり、無理やりエーテル粒子をぶつけて解体処理したりする、今やった、それ。『消滅攻撃』。原子配列が統一されている物ほど、消滅させやすい。

斜め読み的な解析の結果、BETAは、あの硬い外骨格をカルシウムとたんぱく質、それにいくつかの無機質で構成していた。おそらく解体した人間を含む生命体や戦術機、鉱石等を織り交ぜて作ったのだろう。手馴れている。資源の現地調達は、お手の物、と言うことか。

武装マスターアームをオフ。内部冷却を始め、コンピュータとBBTを使って本格的なDNA解析を始める。今日は、とりあえずはここに野宿でもしよう。横浜基地に行くのは、明日でもいいだろう。と、野営グッズを持って降りようとした瞬間、レーダーに映る間も無く現れるロボットたち。全機が、こちらの銃らしきものを向け、外部マイクが、同じく相手機からの外部スピーカから放送されている言葉を拾う。

≪そこの所属不明機!両腕を上げてこちらを向き、所属、氏名、階級を名乗りなさい!≫

あれは、国連軍の不知火だ。肩に書かれた『UN』のマークが目に付く。たしか不知火は帝国で造られ、それほどたくさんでない数が国連横浜基地に支給された、戦術機、だ。この世界では、有人型戦闘ロボットを戦術機、と言うらしい。

野営グッズを元の場所にもどして言われたとおりの動作をする。誰だろう。声からして伊隅か、速瀬か、宗像か。声だけでは、わからない。

≪動くな!≫

それはないだろう、と幻滅する。外部スピーカをオンにして、言う。

「動作を指定したのは、そっちだろう。いきなり何を言う」

返事が、こうも簡単に来るとは思っていなかったのか、黙って、少しの静寂が流れる。やがて、落ち着いた女性の声が、響いた。

≪部下が失礼した。そのままで質問する。動かないでほしい。所属、階級、氏名を教えてほしい。私は、国連軍に所属している伊隅大尉だ≫

「自己紹介ありがとうございます。私は、所属はありません。階級もありません。名前は・・・リーツ・アウガンです」

≪ではリーツ・アウガン。その機体はどうしたのだ?≫

「私が作りました。オールハンドメイドです」

本当だ。

いや、確かに職人と言われる人たちの作った部品を使ってはいるが、それ以外は、ほとんど自分が造ったと言っていい。動作プログラムも、メインフレームの電子溶接も、私がやった。

・・・溶接の神様、と言う人に教えてもらいながら、だが。

≪・・・同行してもらう≫

「たしかに、自分で言うのもなんだが、不振人物をしょっ引くのは普通のことだ。だが、断る」

≪抵抗すれば、どうなるか、お分かりだと思いますが?≫

そう、別の一機。言って構えられる突撃砲。この短絡さは、速瀬か。性格は、短気で損気とあった。

「撃ちたければ、どうぞ」

≪は?≫

「いえ、だから、撃ちたければどうぞ、と」

しばらく沈黙。おそらく通信して相談してるんだろう。ついでだ。こちらも、BETAで出来なかった肩慣らしついでにいろいろと試させてもらう。武装マスターアーム、オン。

≪もう一度警告します。我々に同行しなさい。威嚇射撃はありません≫

総員、銃口をこちらに向ける。しかし、こちらもエーテル粒子がチャージされ、戦闘準備が整う。

「こ・と・わ・る。命令は、昔から好きじゃないのよ」

武装選択、ガンダム・エクシア。

≪・・・撃て!!≫




<伊隅>

BETA出現の知らせを受けて現場に急行してみれば、BETAの姿は無く、代わりに見慣れない戦術機が一体、そこにいた。こちらへは、背後を向けている。

≪伊隅大尉、なんなんですか?アレ≫と、速瀬。

≪あんな戦術機は、初めて見ました≫と、宗像。

「わからん。私もはじめて見る。速瀬、所属を聞いて。宗像は、速瀬のバックアップ。HQ、聞こえるか」

速瀬に正体不明戦術機への職質をさせている間に、カメラの映像をHQに送信する。案の定、すぐに連絡が来た。

≪はいはい。BETAに代わりにいたって戦術機は、これなの?伊隅≫

「は。そうです」

≪見たことないわねぇ。スパイかしら?でも、こんな戦術機なんて見たことないわね。帝国軍ともソ連とも、EUとも違う設計思想・・・≫

ぶつぶつと言い始める香月博士。邪魔しては悪いので放っておく。

速瀬の言うとおりにした正体不明機が、理不尽な物言いに反抗する。侘びの意味を込めて自身から名乗る。

≪部下が失礼した。そのままで質問する。動かないでほしい。所属、階級、氏名を教えてほしい。私は、国連軍に所属している伊隅大尉だ≫

≪自己紹介ありがとうございます。私は、所属はありません。階級もありません。名前は・・・リーツ・アウガンです≫

リーツ・アウガン。日本人ではないのだろうか。いやそれにしては、やけに流暢な日本語だ。博士は結論を出しかねていたが、スパイかもしれない。

≪では、リーツ・アウガン。その機体はどうしたのだ?≫

≪私が作りました。オールハンドメイドです≫

それは、嘘だ。戦術機一機を丸々手作りだと?ありえない。

≪同行してもらう≫

≪だが、断る≫

≪抵抗すれば、どうなるか、お分かりだと思いますが?≫と、速瀬。

やめろと自制を促す前に、リーツは言った。

≪撃ちたければ、どうぞ≫

≪は?≫とは、速瀬。

≪いえ、だから、撃ちたければどうぞ、と≫

本気で言っているのか、こいつは。何を考えている。

≪あっはははは!≫

それを聞いて、考えるのを止め、けたけたと笑い出す博士。

≪いいじゃない伊隅。撃ってあげなさいよ≫

「副指令!?」

≪いいのよ。向こうがどうぞって言ってるんだから。たとえ死んでも、残骸から解析するわ≫

≪さすが副指令。話がわかる≫と、速瀬。宗像は、黙ったままだ。

「最後に通告してからでもよろしいでしょうか」

≪いいわよ~?あなたに任せるわ≫

「ありがとうございます」

気を取り直してもう一度。

≪もう一度警告する。我々に同行せよ。威嚇射撃はない≫

≪こ・と・わ・る。命令は、昔から好きじゃないのよ≫

誰かに従うくらいなら死を選ぶ、と。そういうことなのか。

「構え」

撃て。そう命令した。

当然、機体は、爆散していく。キリのいいところで射撃やめ。後には、ひしゃげたモノがあるだけだった。

「・・・何を考えていたんだ」

そう言わずには、いられない。むざむざ死を選ぶなど・・・まして、これでは犬死だ。

≪大尉ぃー。なんだったんですか、この人≫と、ようやく宗像。

≪私は知らん。ほら、無駄口を叩かずに残骸を---≫

「残骸とはひどいな」

≪な!?≫

≪う、上です!≫と、宗像。

見上げると、確かに、いた。しかし、形状が、著しく異なっている。ついでに、どこからともなくピアノの旋律が聞こえる。なんなんだ、これは。

≪伊隅、どうしたの?何かあったの?応えなさい!伊隅!≫

「戦術機が、浮いています。スラスターも使わずに・・・」

≪はぁ!?≫

「そ、そうとしか表現が・・・!?」

それは、まさしく一瞬。いきなり降下したかと思うと全員の突撃砲を真っ二つにする。撃つ暇がなかった。

次に速瀬、宗像へと斬りかかる。完全な身のこなしだった。あれが、実は着ぐるみで、巨人が縦横無尽に動いている、と言われてもそのまま信じてしまいそうになるくらい、美しく、人間の武道家に近い動きをした。反射的に二人も担架の長刀で応戦しようとするが、手に取る前に全員やられた。両手足を切断され、間髪いれずに自身も、だった。

戦闘中に、敵の技に見とれるなど、初めてだった。



<リーツ・アウガン>

「すこし、やりすぎた、かな・・・?」

手足を切断され、芋虫のように動き回る不知火三機。不意打ちとはいえ、少しやりすぎたかもしれない。GN粒子残量は、98パーセント。GNソードを使っても大して粒子は減らないことがわかる。エーテル粒子も大して減っていない。そこに、おそらく速瀬の声が響く。

≪ちょっとあんたぁぁ!なんなのよそれはぁぁぁ!!≫

「・・・わかったかい、ねぇちゃん。世の中にゃあ、どうしても一人や二人、かなわん相手がいるってことさ」

本当は、にぃちゃんだが。撃たれたダミーを消滅処理する。純度百パーセントの鉄なので処理もし易い。

≪お前は、何者だ?≫

多分、伊隅大尉だろう。声が上ずっているが、先ほど名乗ってくれた声と同じだ。

まぁ、手品みたいに消滅現象を目の当たりにすれば当然だろうが。

「リーツ・アウガンだ、と言っただろう。暇人、とでも言えばよかったか?」

≪暇人だと?ふざけているのか、貴様は≫

「いや、真面目に暇人なのだがな」

さて、では別の場所にでも行こうか。仮にBETAが未だいたとしても、彼女らならば、自力で何とかするだろう。スラスター類には傷つけていないし、担架の銃器も無傷だ。多少無様だが、死ぬよりはマシなはず。そのまま飛んで帰るなり、戦って勝つなりするといい。

≪貴様、どこへ行く?≫

「どこって・・・どこに行こうか。当てがないものでね。君たちの基地にでも行こうかな。捕らわれのお姫様を助けるためには、どの道そうしなくてはならないしな」

≪一体何を言って・・・警報!?BETA!?≫と、伊隅。

≪え、うそ!ちょっと、やばいですよ!≫と、速瀬。

≪これは・・・ダメかもしれません≫と、宗像。

ご丁寧にスピーカーをつけっぱなしで喋ってくれるもので、内情が手に取るようにわかった。

「よし、ではこうしましょう。あなた方を助けますから、横浜基地に入れてくれませんか?」

≪・・・私が、貴様を基地に入れる許可を出せるほど権限の強い人間だと思うか?≫

「まぁ、正確には、そこで聞き耳立ててる香月博士に、ね。どうです?悪い取引ではないと思うのですが」

しばらく沈黙して、レーダーがBETAの接近を教えてくれたところで伊隅大尉から返事が来た。

≪いいだろう、とのことだ。ただし、一人でも犠牲者が出た時点でこの話は無しだ。そのときは、私がお前を殺す≫

ひどくドスの効いた声には、往年の貫禄が受け取れる。この人ならば、たとえ首だけになっても食らい付いてくることだろう。

≪もうじき、増援部隊が到着する。それまでここを守ればそれでいい≫

「わかりました」

武装選択をエクシアのままにしておく。GNドライブは正常。エーテルエンジン、BBT共に不具合は見当たらない。浮き上がり、そのまま直上。眼下に、まっすぐこちらにやってくる二つの集団。一つは、A-01の増援。もう一つは、BETAだ。

「ライフルモード・・・うん、ちゃんと動く」

ライフルを上下に振ってみて照準とカーソルの誤差を修正し、GN粒子が圧縮発射されるシークエンスをテストモードで確認する。

「・・・贅沢を言う気はないが、近接用でも、もう少し火力を持たせた方がいいような気がするな。単独ミッションでは、ちょっとしたミスが命とりな機体だぞ、これは」

全滅させてから言う。

そもそも、このガンダム・エクシアは、他の僚機とチームで運用して成果を上げる機体だ。スタンドアローンでやりにくくなるのは、当たり前と言える。

それでも単独で一体多数の戦闘をこなすときは、トランザムシステムを使えば、多少は何とかなる。機体内部のGNコンデンサに蓄積されたGN粒子を開放して瞬間的な機動を実現させたハイ・マニューバだ。

この型のエクシアでは、いささか使用後の不便があるのでそれもあまりやりたくはない。

地面に降り立ち、振り返ると、応援に駆けつけたヴァルキリーズに担がれた伊隅大尉らと、こちらに突撃砲を構える何機かのバックアップ。このまま、また蜂の巣にでもされるのかと思ったが、意外に素直な言葉が来た。

≪・・・約束どおり、横浜基地に誘導します。武装を解除して指示に従ってください≫

「こちらに、君たちを攻撃する意思はない。それに、銃火器を向けたまま指示、と言うのは、指示ではなく、脅迫だぞ」

≪単機で百体近くものBETAを瞬殺する性能を持つ戦術機に、脅迫、ですか?≫

「こちらに攻撃の意思はないんだ。一方的な要求は、脅迫だよ」

そしてこの声は知っている。涼宮茜だ。会った事はないが、フォースの記録で見たことがある。

「まぁいい、指示に従おう」

戦闘終了。モードをノーマルへ。武装マスターアームもオフ。エクシアを光が包み、GT-Xへと戻す。

「武装は解除した。さ、案内を頼むよ。戦乙女たち」

そう言うと、ヴァルキリーズの誰かが気に食わなさそうに、付いてこい、と言った。一機が先行して匍匐飛行していく。その後を、ロケットモータを点火させて付いて行く。元々、短距離用のロケットモータなのですぐにオーバーヒートしてしまうが、そこはBBTでうまく調整してごまかす。燃料も、同時に精製する。

≪私たちの部隊名を知っているのか?≫と、途中で伊隅大尉。話に乗る。

「ええ。横浜基地近くで国連軍仕様の不知火、しかも女性パイロットと来れば、伊隅ヴァルキリーズ、ですからね」

燃料系が増減してダンスを踊っている。まるであのときのようだ、と思った。

≪ふん。隠密任務が多い我が部隊の名が、貴様のようなどこの馬の骨とも知れぬ輩が知っているのは気に食わんな≫

「有名人は、みんなそういうものですよ。有名になればなるほど個人情報は染み出るように知れ渡ります」

≪減らず口を・・・≫

「実体験ですよ。動けば動いた分だけ、名が知れます。隠そうとしても、誰かが明かしてしまいます。良くも悪くも、有名人は、そんなものですよ」

伊隅大尉は、会話に飽きたのか、何も言わない。ここにいる全員が、そうだろう。たぶん、私が何を言っても誰も何も答えないだろう。上からの命令にしろ、個人的な判断にしろ、だ。

横浜基地に着く。

高校のときの母校と臨時基地を思わせる造りだったが、あれは純粋に軍事基地であった。

正面ゲートは、多数の戦術機でがっちりガードされている。その中心に、香月博士がいた。仁王立ちしていて、少し怖い。

「ありゃあ、怒ってるかな」

むっすりとして、こちらをガン見。怖い。ヴァルキリ-ズの方々は、そのまま格納庫方面へと向かう。最後の一機が見えなくなるのを確認して、マイクを香月博士に向ける。が、博士の行動は実にわかりやすく、人差し指をクイクイと振った。

降りてこい、顔を見せろ。

そんな言葉が詰まった動きだった。

「わかりました。降りますから、撃たないでくださいよ」と、スピーカから伝える。

ハッチをあけて昇降ロープを垂らし、完全に地面に降りて香月博士と対峙する。突きつけられる拳銃。白銀は、当たらないって言っていたけれども当たるときもある。小須田部長も言っていた。数撃ちゃ当たる、と。それで本当に当たってしまったのだから笑えないが。

「あなた、何者?あの戦術機は、なに?どこで作られたの?ここへ来た目的は?」

矢継ぎ早に質問する博士。少しづつ、整理しながら説明する。

「私は、リーツ・アウガン。これでも教授です。プロフェッサー・リーツとお呼びください。後ろのこれは戦術機ではありません。EM兵装、エンディミオンシリーズの異端にして原点、エンディミオン・零<改>です。北九州市スーパーロボット特区、試作製造課で製作しました。ほぼ、私の手作りですがね。そして捕らわれのお姫様を助けにやってきました。以上です」

「・・・それを信じると思っているの?」

「あのGN粒子の輝きと、エーテル粒子の煌きを見れば、この機体が普通の戦術機、でしたか?それではないことが解るでしょう。見ていたんでしょう?」

そのために、わざと空中でビームを撃ったりビームサーベルを投げつけたりしたのだ。まどろっこしいが、異端さを見せ付けるにはちょうど良かった。撃墜数が50を越えた頃から、割と本気で糸引きサーカスをしようかと思った。

「それに、貴女の論文を照らし合わせれば不思議なことじゃあない---そして社霞嬢!君、私の心を読み込んでいるな!?」

ズギャーンと、一指し指を指す。

「なんのことかしら?」

「おや、しらを切ると?なら仕方ない。ここにいる全員にオルタネイティヴ4の概要を説明しようか」

「な!?」

『夢の世界』群が一つ、『ドラえもんの世界』で、ドラえもんから譲ってもらったスペアポケットを取り出し、さらにそこからメガホンを取り出す。

たまたま海中から拾い上げたスクラップの中に、電気ショック拷問でコンピュータを焼かれたドラえもんがいたのは、本当におどろいた。幸い、手持ちの工具とスペアユニットで修復できたのは良かった。

このときに修理に使ったスペアユニットが、香月博士が開発に取り組んでいる量子伝導脳の核となるスパコンだった。

そのお礼にと、貰ったのが、このスペアポケットだった。おまけで色々と役立つ秘密道具もある。持つべき者は、友だ。ありがとう、ドラえもん。

「あー、あー、あー。テス、テス、テス」

ちなみにこのメガホン、アクメツが使ったものである。故に所々赤い染みがあるが、気にしてはいけない。元々警察の備品だったのか、音質はいいのだから。

「この横浜基地は、ハイヴの真上に建設されているのは周知の事実だとは思いますが、その真の理由をご存知でしょうか。実は、明星作戦の折、このハイヴ内に----」

ドン、と、重い音。

「・・・いつっ・・・あ・・・」

胸に衝撃、広がる赤い染み。硝煙が立ち上がる香月博士の持つ拳銃。排出された薬莢が、軽い音を立てて転がる。

・・・なんだ、ちゃんと当たるじゃないか。



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