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[0] 機動戦艦ナデシコ 劇場版後 ~追憶篇 君を『抱きしめたい』~[佐久野伴樹](2011/01/03 07:21)
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[18252] 機動戦艦ナデシコ 劇場版後 ~追憶篇 君を『抱きしめたい』~
Name: 佐久野伴樹◆c86e3130 ID:d05cd748
Date: 2011/01/03 07:21
夕方から雨は雪に変わった
しんしんとした空気の中、アキトは街中を歩いてゆく

街中の店では、どこもかしこもクリスマスソングが流れていた
アキトは遠くにその音を聞きながら一人歩いてゆく

タバコの煙だけがほのかに温かそうに揺れている
身を震わせ足を速めたその時だった

デパート街のショーウインドウにふと足をとめた
小さなダイヤモンドをあしらったペアリングが飾られていた
ショーウインドウはそこだけがまるで別の空間のように輝いていた


「ねえアキト」


不意に彼女の声が聞こえた気がした

はっとして見るとショーウインドウに映るのは自分ひとりきり
燃え尽きたタバコの灰が、冷たい雪の上に落ちて消える

だが、アキトの目には記憶の中の景色がありありと見えた
いつかの春の日、ショーウインドウを一緒に眺めた女性の姿が


あの日の空気は、温かく少し湿り気を帯びていた

春が過ぎ、梅雨が訪れて
雨上がりの雲間から太陽が顔をだした

そんな日の昼間
二人で都内のデパート街をあるいていた時だったと思う

「見て、ペアリング」
「そうだな、ユリカはそういう形のが好きか?」

「ううん、もっと控えめなのがいいかな」
「…無理しなくていいんだぞ。俺の給料でもそれぐらいは」

「そうじゃないよ。値段とかじゃなくって…」
「ん?」

「私が欲しいのはアキトと一緒っていう証」
「ユリカ…」
「だからね、いつでもずっと着けていられるようなのがいいなって」

その時そう微笑んだユリカは驚くほど綺麗だった
アキトは思わず息を呑んだ

雨上がりの街特有の匂いが風にのって通り抜ける
水たまりに日差しが反射して街はキラキラと輝いて見えた
「そうか」

アキトは思った
目の前のこの女性をずっと守れるだけの力が欲しいと


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   第××話 君を『抱きしめたい』  

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国分寺駅付近の安アパートに居を構えたアキト
昼はアルバイト
夜は屋台のラーメン屋

けっして豊かではない
なんとか暮らしてゆけるだけの生活だった

多摩川沿いの並木が紅葉に染まり
夜の空気はだんだんと肌をさす冷たさになり
駅前を行く人々がコートを羽織るようになった

そんな季節だった
とつぜん転がり込んできたユリカ
家出をしてきたと言いはり、四畳半の狭い部屋に無理やり乗り込んできた
しかも、ルリというおまけ付きで

苦しい生活でさらに二人も扶養者が増えてしまった
はじめはあきれたアキトだったが
それでも追い出すことはしなかった

正直なところ淋しかったのかもしれない

ナデシコを降りて、今まで一緒だった皆はバラバラになっていった
自分だけ置いてているような気持ちになった

それが怖くて、まだ何者でもない自分が不安で
何者かになろうと、必死に頑張った

始めた小さな屋台も、初めはおもうようにいかず失敗の連続だった
不安が胸をよぎることは何度もあった

それでも、自分を奮い立たせてあきらめず頑張った
新しいメニューを考えたり、口コミで評判が広めてもらえるよう接客もはりきった

そんな時やってきた二人
ユリカも軍で働く傍らアキトの手伝いをした
ルリもチャルメラを拭いて二人について回った

一人ではないという安心感と、背負っているという責任感
それがアキトを一層奮い立たせた



空気がしんしんと冷たい
高く透き通った空気の向こう、星々が驚くほど沢山輝く夜空
黄色に明滅する信号が寒々しくポツンと瞬いている

「おーいユリカ、行くぞー」
「う、うん」
冷たい風に身を竦めアキトは屋台の荷物をもって家路を急ぐ
家では、先に帰ったルリがお腹を空かせてまっているはずだ

アキトの少し後ろを白い息を切らしながらついてゆくユリカ

アキトは振り向いた
昼間からなんとなく調子がおかしかったユリカ
いつもの軽口も少なく、黙々と屋台の手伝いをしていた

「あっ」
不意にユリカが何かに躓いてよろめいた
アキトは咄嗟にユリカを受け止めた

ひときは冷たい風が、車通りもまばらな道路を吹きぬけて行く
受け止めた手にはユリカの温もりだけがあった

「大丈夫か、ユリカ?」
「うん、だいじょうぶ」
「お前、熱があるじゃないか!」

へへへと笑ったユリカの肩は小さく震えていた
アキトは気が付いてやれなかった自分が酷く悔しかった

「どうして言わなかったんだよ。こんなに無理して…」
「だって…」と言いかけたユリカは顔を上げてアキトを見つめた

「私の夢だから。私の初めての夢…いつかアキトとラーメン屋さん開くのが。」
アキトははっとした
切れかかった街灯の薄明かりの下
ユリカの笑顔が輝いて見えたからだ

「アキトの夢は私の夢だもん。アキトはずっと頑張ってるから、だから私も…」
「馬鹿」
優しい口調でアキトは言った
そしてユリカをそっと抱き寄せた

「あんまり無理すんなよ。でも、ありがとうなユリカ…」
「ううん」

「いつか必ず、一緒にラーメン屋開こうな」
「うん!」

想いが溢れだし涙が出そうになったアキトはユリカの頭を自分の胸に強くおしあてた

一緒に歩いてゆきたいと、強く願った
喜びも悲しみも分かち合って
ユリカと二人で肩を並べて、ずっと一緒に



アキトはガムシャラに働いた
屋台も次第に評判になり、常連客も増えていった
ようやく、やっと軌道に乗り始めたという実感がわき始めていた

冬は過ぎ去り
桜の蕾が膨らみはじめ
空気には次第に春の匂いがまざりはじめた

そんなある日、アキトの家に電話がかかってきた
ちょうど定休日
仕事は休みで、夕飯の準備をしていた時だった
台所に立っていたアキトの代わりにユリカが受話器をとった

ルリはアパートの窓から澄み渡った夕空に瞬く一番星を眺めていた
街灯がパラパラと着き始めるそんな時間

電話を受けているユリカをふと見たアキト
相手と話すユリカの表情が急に曇った
何か口論しているようだった

ルリがつけっぱなしにした夕方のニュース番組の音と、手元のカレーの煮立つ音で話している声は聞こえない
ユリカがふと俯く
かかった前髪で表情はよく見えない
しかし、その目元から一粒の涙がこぼれおちたのをアキトは見た

その夜布団を並べて寝たアキトとユリカ、そしてルリ
澄んだ空に上がった月明かりだけが部屋を照らしていた

ルリが寝静まるころユリカがポツリと話し始めた
「今日、お父様から電話があったの…」
「え…」
「帰ってこいって」

アキトはびっくりしたが
でも少し考えた

家出した娘が、見ず知らず男の家に転がり込んでる
その父親の気持ちはどんなものだろうと

「私ほんとは帰りたくないよ…。でも、お父様の事を考えるとそうも言ってられないみたい」
アキトは黙って聞いていた

「お父様は、私のたった一人の家族だから…」

ユリカの声は涙に震えていた
「ごめんねアキト…ごめんね…」

アキトはどうしていいかわからなかったが
ただ涙に打ち震えるユリカをそっと抱き寄せた
「わかってる、わかってるよ」

父親を思うユリカの気持ちも、ユリカを心配する父親の気持ちも痛いほどわかった
子供のころに家族を亡くしたアキトにはなおさらだった

その夜、アキトは泣き疲れて眠ったユリカの頭を肩にのせて眠った
賢明にも寝たふりを決め込んでいたルリも今はアキトにもたれかかってちいさな寝息をたてている

いつのまにか掛け替えのない存在になっていたユリカ、そしてルリ
自分をいつも支えてくれた
たとえそれはつかの間であっても、家族と呼べるものであった
アキトこの温もりを失いたくないと強く思った

だが、いつまでもこんな生活が続かないこともわかっていた
はっきりと恋人と宣言したわけでもなく
家族ごっこのような居心地のいい生活
そんなはっきりとしない関係を、いつまでも続けるわけにはいかない

そしてアキトは決意した
ケジメを着けることを



澄み渡った青空に満開の桜が映える春の日だった
昼間、いつもの買い出しに二人で出た

多摩川の河川敷を二人であるく
いつも通いなれた道

本当は遠回りだったが、ユリカはこの道が好きだと、いつもこの道を通った
いつしかアキトもこの道を通るのが好きになっていた

川面に日差しがキラキラ輝いている
しかし今日横を歩くユリカの表情は暗い

明日にはユリカは実家に帰る
今日はこうして二人で過ごす最後の日だった

「ちょっと休憩しよう」
「うん…」

アキトは買い物袋を置いて河川敷が眺められる土手の芝生の腰を下ろした
ユリカもその横にそっと座る

散り始めた桜の花びらが光の中を舞ってゆく
しばらく二人で何も語らず輝く川面を眺めていた

そしてアキトはそっとユリカの手に自分の手を重ねた
はっとして、アキトを見るユリカ
「ユリカ。するぞ…」

告げる事を決意した言葉
しかし、いざ言おうとすると、緊張のあまりなかなか声が出なかった

「何…?」
自分を見つめるユリカ
アキトはキュッとその手を握り締めた

「するぞ…け、結婚」

振り絞って出した言葉
きょとんとしたユリカだったが

次の瞬間には舞い散る桜の花びらのように満開の笑顔になって言った
「うん!」
ユリカもアキトの手を強く握り返した




それからのアキトは必死だった
かつては優柔不断だと言われ、自分でもつくづくそうだと思って嫌になった時期もあったが
一度決めたらアキトはもう迷わなかった

柄にもないスーツを着込んで
ユリカの実家に乗り込んで
アキトはユリカの父親に頭を下げた

「ユリカさんと結婚させてください!」
「いきなりきて何かと思えば!そんな話は認めんぞ!!」

初めは思いっきり殴られた
それでもアキトはあきらめなかった

何度も何度も足を運び
門前払いされても
雨の中立ちつくしても
礼をつくして深々と頭を下げ続けた

アキトの真摯な姿勢に、いつしかユリカの父親も考えを変えるようになった
ユリカとルリの説得もあった
しかし、生来頑固だったユリカの父親は素直にそれを認めることができなかった

そしてある日のこと
「何度来ても同じだ。どこの馬の骨ともしれぬやつに、うちの娘はやれん!」
「ちがうよ!アキトは馬の骨なんてつかってないもん!アキトのラーメンは豚骨と鶏がらだもん!」
さりげなくユリカも的外れだが援護をする

「そうか…そこまでいうならば、ワシがそのラーメンとやらを食ってやろう。もし本当に旨ければ結婚でもなんでもするがいい!」
「わかりました!俺の全力のラーメン、食べてくださいッス!!」

そしてラーメン勝負の当日
御統家の屋敷の大広間

噂を聞きつけた元ナデシコクルーたちも集まって物々しい雰囲気のなか
アキトは気合いの入れて屋台の服装に着替え、ラーメンを乗せた盆を持って上座に座るユリカの父の前に正座した

「お願いします!」
「うむ…」

割り箸を割って
一口、一口と麺をすするユリカの父親
表情は険しい

一同が緊張した面持ちで見つめる
そしてレンゲでスープを口に運ぶ

そして静かに箸を置いたユリカの父親
アキトは唾をゴクンと呑みこんだ

「どうなのお父様、アキトの料理は?」
「う…」

「う?」
「旨い!うまい!うまいぞおおおおおおおおおおおお!!」
突如立ち上がって叫びだしたユリカの父親

アキトも観衆もあっけにとられていた

ユリカの父親は叫びながら涙を流していた
「こんな旨いラーメンは食べたことがない!こんな旨いラーメンを作る青年にであえてユリカもさぞ幸せだろう!!」
「ミスマル提督…」

ユリカの父親はアキトの前に土下座をして深々と頭を下げた
ユリカの父親もずっとまえからアキトの事を認めていたようであった
「娘をどうか、頼みます…」

アキトも涙を流していた
「はい、必ずユリカさんを幸せにしてみせます、俺の人生をかけて必ず…」

こうして二人の結婚は認められた



それから話は流れるように決まっていった
アキトの両親の命日に墓前に結婚報告に行くため、新婚旅行は火星に行くことになった
アキト本人は早すぎるからと断ったが、ユリカの父親のたっての願いだった

そして新婚旅行に行く前に取り急ぎ挙式をあげることになった
籍を入れる間もなかった

挙式は元ナデシコクルーとそのほか関係者数名の内々で執り行われることになった

アキトは日々準備に追われながらも
なにか感慨深い気持ちだった
過ぎゆく日々の一日一日が新しいことの連続のようで、その毎日がたまらなく愛おしかった

そして挙式までひと月程となったその日
桜が散り、春が過ぎ、梅雨が訪れた頃

昨日までの雨は止み、雲間から青空が見え始めた朝だった

晴れ間を見つけてため込んだ洗濯物を干し
朝食の後かたずけを終え、アキトとユリカは外行きの服に着替えた
いつもよりすこし御洒落な服に

ルリはテレビで朝のニュース番組を見ていた
(先月3日より行方がわからなくなっている佐藤誠さんの消息はつかめず、警視庁は…)

「ルリちゃーん、悪いけどお留守番お願いね」
「はい、いってらっしゃい」

ルリは振り向くとそう言った
ユリカはルリに投げキッスをする

アキトにはルリの瞳が少しだけ淋しそうに見えたが、ユリカに引っ張られて玄関を出た

(佐藤さんは火星コロニー出身で、近年連続している火星出身者失踪と何らかの関係が…)
テレビの声が流れる中、ルリは一人アキトの居なくなった玄関を見つめていた

二人は国分寺から中央線快速に乗った
吉祥寺駅を通り越し都心へ向かう

青空の元、遠く朝日に輝く新宿のビル群を目指し、オレンジ色の中央線が走って行く
その日は二人で結婚式場の打ち合わせと、結婚指輪を買いに都心に出てきていた

打ち合わせをすませ、都心のデパート街を訪れた二人
昼過ぎには、すっかり晴れて日差しが街中にも降り注ぐ
ユリカは子供のようにはしゃぎながら、跳んで歩く

「ねえアキト」

彼女の声が聞こえた
嬉しそうな表情のユリカがショーウインドウを見つめている

「見て、ペアリング」
「そうだな、ユリカはそういう形のが好きか?」

「ううん、もっと控えめなのがいいかな」
「…無理しなくていいんだぞ。俺の給料でもそれぐらいは」

「そうじゃないよアキト。値段とかじゃなくって…」
「ん?」
不意に落ち着いた声のユリカに、アキトは振り向いた

「私が欲しいのはアキトと一緒っていう証」
「ユリカ…」
「だからね、いつでもずっと着けていられるようなのがいいなって」

その時そう微笑んだユリカは驚くほど綺麗だった
アキトは思わず息を呑んだ

雨上がりの街特有の匂いが風にのって通り抜ける
水たまりに日差しが反射して街はキラキラと輝いて見えた
「そうか」

アキトは思った
目の前のこの女性をずっと守れるだけの力が欲しいと
そう強く願った




冷たい風が吹いて
アキトはふと現実に引き戻された

目の前のショーウインドウは照明が消えて
先ほどまでの輝きを失っていた

ガラスに映っていたのは、雪の中たたずむ男の姿だけだった
その姿は酷く汚れて、疲れきっているように見えた

届かない記憶に手を伸ばせば伸ばすほど
現在の自分への失望が大きくなるだけだった

こんなことを考えるのは止めよう、と首をふり
アキトはショーウインドウから目を逸らし、歩きだした

END


追記
ナデシコ初回放映時から10年以上もたつのですね
当時小学生だった自分も気がつけば社会人になっていました…

ナデシコファンだった自分は、あの頃ナデシコの2次創作を読み漁った記憶があります(笑)

2010年現在、ナデシコSSなんて風化して消えているものと思っていましたが
沢山の2次小説作家というナデシコファンがいることに驚き、ちょっと嬉しい思いでした

小説など書いたことはありませんでしたが、そんな気分に任せて書いてみました
見苦しい文体ですみません(汗)

ちなみに劇場版の後のアキトを想定して書きました
感覚障害なのにどうして見えるの?という突っ込みはナシの方向でお願いします

人生の中で大きな喪失を経験したアキト
彼がこの喪失に自分なりにどう蹴りをつけ、前を向いて未来へ向かってゆくのか
それを続編で見たっかったですが…(涙)

ちなみに書いているときに
Mr.childrenの『抱きしめたい』を聞いていたせいで、なんだか内容に歌詞の影響をうけてしまいました(苦笑)

末筆ながら、私の稚拙な文に目を通していただいた方に感謝いたします。





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