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No.19794の一覧
[0] 天河くんの家庭の事情(逆行・TS・百合・ハーレム?)[裕ちゃん](2010/07/24 18:18)
[1] 天河くんの家庭の事情_00話[裕ちゃん](2010/07/23 17:46)
[2] 天河くんの家庭の事情_01話[裕ちゃん](2010/06/26 12:59)
[3] 天河くんの家庭の事情_02話[裕ちゃん](2010/06/24 07:53)
[4] 天河くんの家庭の事情_03話[裕ちゃん](2010/06/24 07:53)
[5] 天河くんの家庭の事情_04話[裕ちゃん](2010/06/24 07:54)
[6] 天河くんの家庭の事情_05話[裕ちゃん](2010/07/10 22:31)
[7] 天河くんの家庭の事情_06話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[8] 天河くんの家庭の事情_07話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[9] 天河くんの家庭の事情_08話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[10] 天河くんの家庭の事情_09話[裕ちゃん](2010/06/24 07:56)
[11] 天河くんの家庭の事情_10話[裕ちゃん](2010/06/24 07:56)
[12] 天河くんの家庭の事情_11話[裕ちゃん](2010/06/24 07:57)
[13] 天河くんの家庭の事情_12話[裕ちゃん](2010/06/24 07:57)
[14] 天河くんの家庭の事情_13話[裕ちゃん](2010/06/26 02:01)
[15] 天河くんの家庭の事情_14話[裕ちゃん](2010/06/26 11:24)
[16] 天河くんの家庭の事情_15話[裕ちゃん](2010/06/26 23:40)
[17] 天河くんの家庭の事情_16話[裕ちゃん](2010/06/27 16:35)
[18] 天河くんの家庭の事情_17話[裕ちゃん](2010/06/28 08:57)
[19] 天河くんの家庭の事情_18話[裕ちゃん](2010/06/29 14:42)
[20] 天河くんの家庭の事情_19話[裕ちゃん](2010/07/04 17:21)
[21] 天河くんの家庭の事情_20話[裕ちゃん](2010/07/04 17:14)
[22] 天河くんの家庭の事情_21話[裕ちゃん](2010/07/05 09:30)
[23] 天河くんの家庭の事情_22話[裕ちゃん](2010/07/08 08:50)
[24] 天河くんの家庭の事情_23話[裕ちゃん](2010/07/10 15:38)
[25] 天河くんの家庭の事情_24話[裕ちゃん](2010/07/11 07:03)
[26] 天河くんの家庭の事情_25話[裕ちゃん](2010/07/12 19:19)
[27] 天河くんの家庭の事情_26話[裕ちゃん](2010/07/13 18:42)
[29] 天河くんの家庭の事情_27話[裕ちゃん](2010/07/15 00:46)
[30] 天河くんの家庭の事情_28話[裕ちゃん](2010/07/15 14:17)
[31] 天河くんの家庭の事情_29話[裕ちゃん](2010/07/16 17:35)
[32] 天河くんの家庭の事情_30話[裕ちゃん](2010/07/16 22:08)
[33] 天河くんの家庭の事情_31話[裕ちゃん](2010/07/17 01:50)
[34] 天河くんの家庭の事情_32話[裕ちゃん](2010/07/21 01:43)
[35] 天河くんの家庭の事情_33話[裕ちゃん](2010/07/21 23:39)
[36] 天河くんの家庭の事情_34話[裕ちゃん](2010/07/22 04:13)
[37] 天河くんの家庭の事情_35話[裕ちゃん](2010/07/24 18:16)
[38] 天河くんの家庭の事情_小話_01話[裕ちゃん](2010/06/25 20:30)
[39] 天河くんの家庭の事情_小話_02話[裕ちゃん](2010/07/07 03:26)
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[19794] 天河くんの家庭の事情_19話
Name: 裕ちゃん◆1f57e0f7 ID:326b293b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/04 17:21
そのニュースに地球全土が湧き上がった。
火星が陥落したという報せの時点で避難者がいるという情報も共に流れていた。
そしてその保護にネルガルやピースランドが名を挙げたという報道も流れてはいた。
だが、火星陥落という衝撃に呑まれてしまっていた。
それからは絶望的であるという理由で軍が助けに行く事もなく報道も徐々に少なくなっていた。

そんな中10万人近い避難者が続々と到着したのである。
それに沸き立ったのもつかの間、大量の難民をどうするかが議論となる。
地球から出張だった者や家族がいる者は家へと帰っていたがそれでも微々たる数なのだ。
どの国も敢えて避難民がいる事など忘れていたかのようにしていた為、用意など出来るはずもなく対応が後手にまわっていた。
そこで白羽の矢が立ったのがネルガルとピースランドだ。
2社共に火星会戦時には保護を提案していた、その中でもピースランドは1国に相当する土地の所有者でもある。
火星からの厄介者等どうぞ引き取って下さいといった有様である。
結果この行為もピースランドを国として認めさせ、独立への足掛けとなった。

彼らの移動にはネルガルも積極的に協力して行い、かなり迅速に全員の避難が完了する事となる。
避難先であるピースランドは2ヶ月近くの時間をかけて設備を用意してあり、設備は主に避難援助としてネルガルからも提供されていた。
IFSの奨励によりネルガルの設備もかなり整ってきており、火星からの避難者にとって馴染みやすかった。

そして彼らが避難して数日経ち、気持ちも少し落ち着いてきた頃に避難民全員への合同説明会が開かれる事になった。
流石に10万人を一度には無理なので各コロニー毎に分かれての説明となる。

そこへ現れたのは、アオ・ルリ・ラピスの3人とプレミアにウィンドウに表示されたアカツキを加えた5人だった。
ネルガル会長とピースランド経営者である2人だけではなく少女が3人いるという事で会場がざわめく。
だが、その中にいる長い黒髪が目立つアオという少女が語った言葉でその場は騒然となった。
曰く

「火星にはまだ1000万人近い生存者がいます。そして火星と火星の住民、そして貴方方避難者自身の身を守る為に力を貸して欲しい」

仲間が、隣人がまだ生きてるかも知れない。だが、軍人や軍の輸送船からの話を聞いていた彼らにはその言葉が信じられなかった。
そんな中、アオは語る。

「証拠がないのに信じられないのは無理ないです。ですので、すぐに証拠をお見せします」

そう言った瞬間ウィンドウが開かれた。
そこにはコロニーの住人が映っていた。
その光景を確認した瞬間、全員が湧きかえった。
生きているのだ、みんなが。
そう言って涙を流し喜んでいた。
それからアオとルリ・ラピス・アカツキ・プレミアにコロニーの市長を加えての説明が始まった。
説明した内容は現在の火星の状況、そして何を目指しているのか。
更には何故いまこういう状況になっているのか、それを一つ一つ話していった。
そのあまりの展開にまた会場内がざわめき始める。
そんな中、アオは言った。

「では、次に火星にいる生存者の方達へお見せした者を貴方方へもお見せします」

そして、アオの記憶から作成した映像を流し始める。
そして流れ始める映像に、会場は次第に沈黙...そして沈痛な雰囲気へと変わっていったのだった。

「お疲れ様でした、アオさん」

家へ戻ってきたアオはぐったりと身体をソファーへ沈みこませた。
ルリはすぐに飲み物を用意してくると、自身もアオの隣へと座った。
アオはありがとうと伝え、口をつけると深いため息を吐いた。
ラピスもルリの反対側に座っており、アオを心配そうに見ている。

あれから、アオは1日に2度、2日間に渡って同じ説明をした事になるのだ。
終わった後はゆっくり休みたい事もありジャンプで家まで戻ってきていたのが、それでも自分の記憶を4連続で見る事は精神的に堪えた。
アオは乾いた表情でちょっと疲れちゃったねと呟くと2人の頭を抱き寄せる。

「ごめんね、少しの間だけこうさせて?」
「「はい」」

その日はアキトとの約束の時間が来るまでずっと3人で寄り添っていた。

アオの火星避難者への説明から日を待たず、アカツキから連絡が入った。
待ちわびた非生体のボソン運搬技術が完成し、ゲートも出来あがったと伝えられたのだ。
アオはすぐにアカツキの元へジャンプした。

「やほ~!来たよ、ナガレにエリナ」
「やぁ。急いで貰ってすまないね」
「久しぶりね」
「うん、久しぶり。それで、出来たって?」
「あぁ、大きさはエステバリスくらいまでの大きさを運べるように作ってある。テストも済んでるからいつでも使えるさ。
運ぶのはどうする。今すぐ行くかい?」
「うん。すぐ行く」
「わかったよ、すぐ手配しよう」

ジャンプしたアオは挨拶も早々に切り出した。
アカツキもそれに答え、車の手配をするとすぐボソンジャンプを研究していたアトモ社へと向かった。
アトモ社では元々生体ボソンジャンプ実験を行っていたが、アオの持ってきたデータと条件により即時中止となった。
当然研究者は面白くなかったが、アカツキは別の任務として非生体のボソン運搬技術の開発を任せたのだ。
元々管轄だったエリナもそれに乗った形になり、成功すれば今後の輸送システムの根幹を作ったという事で歴史に名を残せると研究員を鼓舞。
生体ボソンジャンプ中止での不満をうまく消し、研究へ没頭させる事に成功させた。
そして、その研究所の地下に作られた巨大なドックに5つのゲートが鎮座していた。
その形はヒサゴプランでナデシコBが通過したゲートをそのまま小さくしたようになっている。
それでも高さ12m・幅12m・長さ100m程はあったりする。

「エステが運べるくらいとはいってもやっぱりそこそこ大きいね」
「いやぁ。もううちが持ってるチューリップクリスタルがなくなっちゃったよ」
「正直つらいですけど、まぁそれでこの成果なら問題ありませんけどね」
「それで、火星にどうやって持って行くのかい?」
「ん、そりゃ私がやるよ?」
「...やっぱりかい。大丈夫なのかい?」
「うん。元々チューリップがCCで出来てるし、ドックの映像は穴が開くくらい見てたからね♪
あ、忘れてた!あっちに連絡入れておいて貰っていい?」
「わかったよ。連絡終わるまで待ってくれよ?」
「はいよ~♪」

アオが言った自分が持って行く発言は元々それしか予定がなかったのでアカツキも予想していた。
だが、正直こんな大きな物と一緒にボソンジャンプをするというのが出来るのか不安を感じていた。
しばらくするとアカツキが戻ってきた。

「全てのコロニーへ連絡が終わったよ」
「うん。じゃあ行ってくるね」

アオはそう言うとそのままドックの方へ降りて行った。
大体の話を聞いている研究員達も興味深そうに見ている。
その内の一人が目に危うい光を灯しながらエリナへと話しかけた。

「あ、あの、エリナ秘書。この後彼女を...」
「貴方、黙りなさい」
「!!すいません...」

研究員がすごすごと退散するとエリナはアカツキへと目線を向ける。
それを受けたアカツキは何も言わなかったがず、エリナの言わんとする事はわかったようで頷いた。
その研究員は数時間後、研究所を出てすぐに何者かによって攫われ行方不明となる。

「よしっと、じゃあ行ってくるよ」

アオはその1件には気付かず、上から見守るアカツキとエリナへと手を振っていた。
本来ならば生体ボソンジャンプの研究データとして詳細な生体データを取りたかったのだが、アカツキとエリナはそれを許さなかった。
アオの記憶を見た事もあるが、アオを好きになっている2人は頷かざるを得ない状況を利用したくはなかった。

そして、アオは1機のゲートに手をつき目を閉じる。
ジャンプユニットが反応しアオの身体にナノマシンの光筋が広がり、更にゲートのチューリップクリスタルへと反応が広がっていく。
アカツキ達は初めて見る大型のボソンジャンプに目を奪われていた。
研究所の全員が見守る中でボソン反応が広がっていき、光が強くなっていった。
そして、アオの中でイメージが固まると微かにトリガーを引く為に口を開く。

「ジャンプ」

研究所からアオとゲートが消えた。

それから10数分経ってアオが戻ってきた。
うまくいったようだ。

「ただいま~。じゃあどんどん行くよ」

それからアオは更に3回ボソンジャンプを行った。
運んだ先は各コロニーに作った地下ドックである。
人が少ないユートピアコロニーでは無理だったのだが、残り3コロニーの地下にコバッタと土木業の者が協力しあらかじめ作っておいたのだ。
それぞれのコロニーへとジャンプで運んだアオは、残り2機の内1機をピースランドへと運んでいった。
これでネルガルとピースランド、そして火星間で運搬が可能になった。
そしてこれを機に火星、そしてピースランドの戦力が充実して行く事になっていく事になる。

この日と前後して、地球連合軍でも一つ動きがあった。
フクベの進退が決定したのだ。
輸送船に乗った民間人を助けた事とチューリップを撃破した英雄として晒される事になる。
地球連合軍が考えてもいなかった壊滅という汚名から民衆の目をそらす為にの生贄となったのだ。

それから数日経ち、ミスマル提督からアオへと連絡が入った。
フクベ提督との会談の段取りがついたという連絡だった。
アオは即日で面会を取り決めると、その足でミスマル提督、ムネタケ参謀、フクベ提督が待つ地球連合軍極東本部へと向かった。

「お久しぶりですミスマル提督、ムネタケ参謀。そしてはじめましてフクベ提督」
「アオ君、久しぶりだね。元気でやってたかい?」
「アオさんお久しぶりですな」
「君がテンカワ・アオさんかね。はじめまして、フクベ・ジンだ。ミスマル君とムネタケ君から話は聞いてるよ」

アオは極東本部へ着くとすぐに一室へと通された。
挨拶を交わしたが、フクベ提督は既にある程度の話は聞いてるようだった。

「えっと。ミスマル提督、フクベ提督にはお話は?」
「あぁ、ある程度はこちらで話をさせて貰ったよ」
「わかりました。ではフクベ提督、私の事を知って頂いてるという前提でお話します。
火星のみんなを守る事、そして地球と木星の目を覚まさせる為に協力して頂けませんか?
火星での件は私も知っていますし火星のみんなも知っています。だからこそフクベ提督にお願いしたいんです。
フクベさんの状況を利用しているのは確かです。ですがこうでもしないと話を聞いて頂けません。
どうか、よろしくお願いします」

アオはそう言うと深くお辞儀をした。
フクベ提督はアオを眺めつつ髭をなでつけていた。
その目線は鋭く、何事か考えているようだった。

「アオさん。いくつか聞いてもいいかね?」
「はい」
「なぜこのわしなのだね?わしのせいでコロニーの方が亡くなっているという事を知ってるのなら尚更だ」
「フクベ提督だからこそですよ。すぐに受け入れられるとまでは思っていません。ですが、輸送船の方を助けたのも事実です。
言うなれば単に運が悪かった、本当にそれだけなんですよ。ですから納得は出来るはずなんです。
輸送船を助けた人なら、コロニーの罪滅ぼしの為に、といった感じでですね。
火星生まれの方は別としてそれだけの理由があるなら十分に裏切られる事はないと安心出来ます」
「...ふむ。火星を守るというのは話を聞いてわかっている。地球と木星の目を覚ますというのはどういう事かな?」
「そのままですよ。汚職と保身と金に塗れた官僚や軍の上層部、そしてそれを疑おうともしない地球。
勧善懲悪のアニメなんていう子供向けの娯楽なんかを聖典にしているおかげで総て相手が悪く、自分達の行動は間違う事がないと盲信する木星。
過去がどうあれ無人機による虐殺を行った木星も、臭い物には蓋をするだけの地球も痛い目を見ないとわかりません。
火星も会戦が始まる前はそうだったのかも知れませんが、既にその怖さも辛さも愚かさもわかってますからね」
「では、最後に一つ聞きたい。ではユートピアコロニーにいたという君からの言葉を聞きたい。私を怨んでいるかね?」
「...そうですね。今回の事では恨みなんて何も。先程も言いましたけど、本当に運がなかっただけだと思うんですよ。
例えフクベ提督があと1秒でも2秒でも早く号令をかけていれば、操舵士の方がもう少し手早く動かせたら。
そんな事を考えていてはそれ以上進めませんから」

そこまで聞くとフクベ提督はしばし目を瞑り、アオの言葉を反芻する。
見た目は中学生程なのにその目に宿っているものは明らかに違っていた。
あの状況で火星の大半を助けるという手腕からも未来から来たという話は本当なのかもしれないと考えていた。

「この老いぼれには心落ち着けて休む事は叶わんという事かな」

フクベはそう言うと微かに笑みを浮かべた。
それは本当に久しぶりの数ヶ月ぶりに浮かべた笑みだった。

「あ、フクベ提督。一つお伝えしたい事があるんですが...」

それから4人で雑談を交え打ち合わせを進めていった。
フクベは長く前線にいた為、軍の上層部でも以前は部下だった事が多い。
だからこそ今回の厄介払いという形になったのだが、それでも影響力が大きいことには変わりない。
ナデシコが発進するまでは軍の内部でミスマル提督やムネタケ参謀と共に動いて貰い、その後ナデシコの提督をするという形に納まった。

ユリカやサダアキはどうなったかと言うと、ユリカに関しては最近いきなり煩くなった父に対してかなり遅めの反抗期らしい事が起きてるようだ。
そして、ついこの間初めて親子喧嘩をしたらしい。それだけでもかなりの進歩なのだが、いかんせん男親なので対応に困っているようだ。
なんとか父としての威厳を見せようとはするもなしのつぶてで、こうちゃんは日々枕を涙で濡らしているとアオに愚痴っていた。
サダアキに関しては地球へ帰還して早々父親であるムネタケ参謀から呼び出された。
自分の失点である第一主力艦隊壊滅ではあったが、フクベ提督が人身御供とされたのを見て小躍りしていた所だったので首を傾げていた。
そして参上してすぐに父親から今までやってきた賄賂や追い落としについて言及され、責任追及しない代わりに父親の元で再教育となった。
日々続く苦行ともいえる程の大量な業務と父親からの苦言、そして軍人という物はと説教が入り少しずつ矯正されているようだった。

アオは話が終わってもすぐには帰らず、一度マナカの元へと向かった。
研究所へ行ったのだが、既にあがっているという事でマンションへと向かう。

「マナカさん。こにちわ~♪」
「あら、アオさん。来てたんですね、言ってくれれば迎えに行きましたのに」
「ううん。用事のついでになっちゃうから時間がわからなかったし大丈夫ですよ」
「あら、また悪巧みですか?」
「そです♪」

マナカはアオと一緒にいた時間が長く、エリナとも呼び捨てで呼び合う程仲が良くなっている。
その為に、雑談の中で見えてくるアオは見えない所で色々と動いているらしかったのだ。
その上火星の避難者をネルガルとピースランドで総て保護をするという形に納まった事もある。
理由はわからないが、それがマナカや火星の人達の為という事はなんとなく理解しているが、一人で背負い込みがちなアオに少し心を痛めていた。

「で、今回はどんな用事なんです?」
「ん~とですね。単刀直入に言った方が早いですね。フクベ・ジン提督と会ってお話してきました」
「え!?」

アオはとても楽しそうに言った。
マナカが驚くのも無理がないだろう。今や名目の上とはいえフクベ提督は火星会戦の英雄であるからだ。

「それで、あの時の事を色々と伺ったんです。なのでマナカさんにもお伝えしようかなって来たんですよ」
「それで、その方はなんて仰っていたんですか?」

正直にいってマナカもフクベにはいい感情は持っていなかった。
輸送船を助けたのは嘘ではないにしてもユートピアコロニーを潰した事が何も表沙汰になっていないからだ。
そんな自分達の見栄ばかりを気にしている連合政府や連合軍を信じられなくなっていた。

「悔んでました。それも途轍もなく。それと助けた輸送船の方とも会ったそうで、そこで言われたそうです。
『助けて頂いた事にお礼を言わなければならないと思いますが、それも出来ない私達をお許し下さい。
私達は仲間を、そして故郷を消し去って私達を生かした貴方にどんな感情を持てばいいのかがわからないんです』
だそうです。その上コロニーへチューリップが落ちて翌日、操舵士の方が自殺していたそうです。
『私は自身の仕出かした重荷に耐えきれません。フクベ提督、不甲斐ない部下で申し訳ありませんでした。
迷惑は承知ですが、どうぞ家族の事をよろしくお願いします』
そう遺書に書かれていたそうです」

アオは一つ一つ丁寧にマナカへと聞かせていった。
そしてマナカは自分が考えていた事の浅はかさが申し訳なく涙を流していた。
アオは涙を流しつつ仕切りにごめんなさいと呟くマナカの元へ寄るとそっと頭を抱き寄せた。

「...ごめん...なさい」
「マナカさんは悪くないじゃないですか、それに誰も悪くないんです。ただそうなってしまっただけなんです。
だから顔を上げて下さい。マナカさんにはやる事があるじゃないですか。下を向いてたらアイちゃんに心配されますよ?」
「...そうですね。でももう少しだけいいですか?」
「しょうがないですね...」
「すいません...」

そうしてしばらくの間マナカはアオの胸で泣いていた。
その後、マナカは落ち着くと少し恥ずかしそうに顔を上げた。

「アオさんありがとうございます。みっともない所見せちゃいましたね」
「いえ、こちらこそいきなりでこんな話を持ってきてすいませんでした」
「いいえ。見当違いに恨み続ける所でしたからよかったですよ」
「そう言って貰えて助かります。それで、マナカさん?」
「はい?」
「もしよかったら一度フクベ提督と会ってみますか?」
「え!?」
「ユートピアコロニーから地球に逃げ延びた知人が二人いるんですと伝えたら是非会いたいと仰ったんですよ」
「それは...アキトさんには?」
「今日の夜トレーニングしてる時に話そうと思ってます。あの子は頭固いから大変でしょうけど」
「クスクス。そうですね」
「アキトさんがいいと仰るならお付き合いします。私はもう特にこれといって思ってる事はありませんから」
「わかりました。あ、そうそう。あの子かなり身体出来あがって来てて男っぽくなってますよ?」
「え。それ本当ですか?」
「はい。結構がっちりしてきてて感心してますから」

それから二人はアキトの話で終始盛り上がったのだった。

そしてその日の夜。
サセボドックのシミュレータールームではいつものように、アオ・ルリ・ラピス・アキトが揃っていた。
アオとアキトはパイロットスーツへ着替えてシミュレーターの中へ入り、ルリとラピスはコンソールで二人の様子を見ている。
だが、この夜のシミュレータールームは普段とどこか雰囲気が違っていた。
いつもはトレーニング中はお互いに真剣になるので私語が自然と少なくなるのだが、この夜だけはアオの方から話しかけていた。
そのため戦闘しているはずなのだが、戯れているだけのようにも見える。

「ね、アキト。フクベ提督って知ってるよね?」
「姉さん、突然どうしたの?」
「ん、大事な話なの。ちゃんと考えて答えてくれると嬉しいな」
「あぁ、そりゃ毎日テレビで名前出てるから知ってるよ」
「じゃあ、あの人がなんで英雄って呼ばれてるのかは知ってるよね?」
「...あぁ」

フクベに対して憎しみに近い感情を抱いているのか、アキトの戦い方がどんどんと荒く力強くなっていく。
目線もかなり鋭くなってきていた。
ルリとラピスは既にアオから話をする事を聞いていた為冷静に対処している。

「うん、わかった。そこでまずお姉ちゃんとして、あの人へ最初にどんな感情を持ったか教えてあげるね」
「姉さんの...?」
「うん、お姉ちゃんとしてね」

そこでアキトの機体が止まった。
思わず呆けてしまったらしい。
そしてアオもそれに合わせて動きを止める。

「私がお姉ちゃんとしてあの人へ持った最初の感情は、憐れみ。こうなってしまったのか、辛い事になるんだろうなって憐れんでた」
「嘘を言うな!」

その言葉に弾かれたようにアキトの機体がアオへと突っ込んで来た。
それはアオがトレーニングを始めてから一番鋭い動きだったが、アオはそれをも冷静に対処していた。
だが、ここに来てルリとラピスが少し焦っていた。
感情の昂りでの火事場の馬鹿力に近い程の能力アップだった。

「嘘じゃないわよ?ちゃんと理由があるのよ?」
「理由なんて関係ない!あいつは、コロニーを!みんなを!みんなを殺しやがったんだ!!」
「こら、アキト。ちゃんと話を最後まで聞きなさい。それにあんまり怒鳴るんじゃないの、いい加減怒るよ?」

アオも自分が昔頑固だった事はわかっていたが、ここまでだったか?と頭を捻っていた。
しかし、落ち着いて話をしようとしても全く効かないアキトに苛立ち始めた。

「怒るのはこっちの方だ!なんでよりにもよって姉さんがあんなやつの味方をするんだ!あんな大量さつ!..ぐぁ!!!」

しかし、その言葉を最後まで言う事は出来なかった。
瞬時に最高速まで加速したアオがアキトのアサルトピットを傷付けないようにしつつ行動不能にまで破壊したのだ。
思わずアオを睨みつけようとウィンドウを見上げた瞬間、アキトの意識が止まった。
アオがウィンドウ越しでもわかるくらいに殺気をアキトへぶつけていたのだ。

「ねぇ、アキト。それ以上言ったら私は許さないわよ。例え言ったのがアキトでもね」

アキトは余りの恐怖に歯を鳴らしていた。

「話を最後まで聞きなさいって言ったわよね?それに怒鳴るなとも。後は怒るよ?とも言ったわ。
貴方は何?耳がないわけ?それとも聞きたくないわけ?」

アオはアキトへ問いただすが、アキトは答えられる状態ではなかった。
その様子を見てため息をつくと、質問を変える。

「いいわ。これで最後よ。アキト、私の話を聞くの?聞かないの?答えられないなら聞かないって事にするわ」

そうして呆れたような愛想が尽きたような、そんな冷めた目をアキトへと向ける。
その視線にアキトは身震いをする。たった一人の家族から愛想を尽かされる。そんな事は看過できない。

「き...聞く!聞くから!」

アキトは気がつくとあらん限りの声を振り絞りそんな事を叫んでいた。
その声は親に置いてかれそうになり必死に気付いて貰おうと叫んでいる子供の様だった。
そこでアオはようやく肩をすくめるとアキトへ言い放った。

「といっても、もう順序立てて説明する気もないので、荒療治するわね」

アオがそう言った瞬間シミュレーターの景色が変わった。
バックには火星、そして火星を半ば囲むように展開する地球連合軍の艦隊、更には巨大なチューリップの姿も見える。

「な!!なっ!!」

アキトは驚きすぎて言葉にならないようだ。

「これは火星会戦の時のデータからシミュレーションしてるの。だから状況結果、そして通信まで総てそのままなの。
なんでこんなのがって聞かれても教える訳にはいかないから聞かないでね?」

アキトはまさに聞こうと思ってる事を突っ込まれ、口をつぐんだ。
そして状況が進んでいく中、自然と艦隊とチューリップへと視線が向けられていった。

それから30分程経っただろうか、アキトは呆然としていた。
目の前の事が信じられなかった。信じたくなかったのだ。
何でそんな事になったのかまでを知ろうともせずにただ流されるままフクベを恨んでいたからだ。

「そんな...」
「信じられない?どうして?憎んだ相手が人を助けようとしていただけだったから?
自分が見当違いの事をしていたのを認めるのが嫌だから?」
「ぐっ...」
「アキト。貴方の意思が強い所はとてもいいのだけれど、思い込んだら周りの話を聞かないのは本当に止めた方がいいわよ?」

アオは口の中で私がそうだったからねと自嘲的に呟いた。

「じゃあ、じゃあどうすればいいんだ!」
「あのね。アキトにこの件で何かしてって誰か頼んだ?私が頼んだのはナデシコやみんなを守ってって事よ?」

アオはさも呆れたように言った。
アキトはかなり鍛えられてきていた。
そのために自分なら何かが出来るように思って気持ちが大きくなっていた。

「まあ、この調子じゃまだまだお姉ちゃんがいないと無理だね。周りから与えられる事だけで判断するような子供だもんね、アキトは?」

その言葉に反論できずただ俯いただけだった。
悔しさに握りしめる拳は力を入れ過ぎて白くなっていた。

「これでもかなり怒ってるんだからね?もう少し状況見れるようになってると思ってたから...
そんなアキトに少し呆れちゃいました。なので、そんな貴方に宿題をあげます」
「...宿題?」
「アキトにフクベ提督と会わせてあげます。だからその感想を私に教えてね?」

そして、2日後にアキトとマナカがフクベ提督と会う事になった。
今回はあえてアオはついていかずにアキト一人を送る事にした。

「アオさん、アキトさん一人で大丈夫ですか?」
「ルリちゃん?そうだね、一人で色々考える事も必要だろうし、いつも私がいて甘やかす訳にもいかないからね」
「アオ...」

二人はアキトがしっかりと話をしてこれるか心配だった。
アキトの頑固さは相当な事をよく知っているからだ。

「でも、あれだけ言ってちゃんと話してこなかったら叩いてでも矯正させないとね」

そう言ってアオは意地の悪い笑みをこぼした。
その表情を見た二人はアキトの事を思い苦笑する。

(アキトさん。ちゃんと話してこないとアオさんが怖いですよ...)
(アキト。ご愁傷様)

その後マナカから無事に終わりましたという連絡が入った。
そして、アキトが帰りのリニアに乗っている時にアオとマナカはウィンドウ通信で話していた。
そこでは話し合いはおおむね順調に進んだこと。
そして、マナカは聞いていた助けた輸送船の方から伝えられた言葉。
操舵士が自殺をした事。
自分が何をすべきか見失い途方にくれていた時にアオから伝えられた事。
ユートピアコロニーの生き残り、そしてアオの弟だからという事もあったのだろう。
通常であれば隠すような事まで包み隠さず答えてくれたそうだ。
マナカはそこまで伝えてくれたフクベへの感謝を、そしてアキトは自身の考えの未熟さを感じていたそうだ。
そして、話し合いが終わりマナカがアキトから聞いたのは、アキトがだいぶ落ち込んでいるという話だった。
与えられた情報をただ鵜呑みにして、見当違いの人を憎んでいた。
それに加え、例え憎むべき相手だったとしても自分が直接憎しみをぶつけても何の解決にもならないと気付いた事。
そして一番大きく悩んでいたのは自分が至らないばかりにアオを傷付けてしまった事、そして子供扱いされた事だった。
そうしてまだまだ話は続いて行く。

「だからね、アオさん。アキト君にちゃんとフォローしないと駄目よ?」
「それはわかってますよ。でも、頑固なあの子にはあれくらいしないとわかって貰えないんですもの」

自分を省みて想像していた以上にアキトは頑固だったのだ。
それもあってアオは少し不貞腐れたような口調で返した。

「そうね...確かに、アオさんのおかげで話し合いの途中でトラブルはなかったわよ?」
「よかった...叱った甲斐がありました。でも、これで嫌われちゃったかな?」

その事は心配であった。アキトが自分へ見せた恐怖の表情が頭から離れないのだ。
例え嫌われると思っても、止める訳にはいかなかった。

「それはないわよ。逆にアキト君落ち込んでたもの。特に子供って言われてた事がショックだったみたいよ?」
「嫌われてないのなら一安心ですが、子供にショックと言われても、実際まだ子供ですよ?」

自分の素直な感想をマナカへ伝えるのだが、それを受けたマナカは苦笑していた。

「そうは言ってもね。アオさんと同い年よ?それにフクベさんから
『君のお姉さん程素晴らしい女性はいない。お姉さんにしっかりと学びなさい』
って言われて、アキト君一段と落ち込んでましたから」
「むぅ~~~」

理解出来ないらしい。
実際その場面を見ていたマナカにしかわからない事だが、その悩み方は姉弟の関係と考えるには幾分行きすぎなぐらいであった。
その光景に、このままでは危ない方向へ向かってしまうという考えがマナカの中に芽生えていた。
そこであまり急激に感情を揺さぶると反動で爆発しかねないと思い、穏便な方へ話を向けていく。

「お姉さんに認めて貰いたいんですよ。だから、あんまり評価が辛すぎると自信喪失しちゃいますよ?」
「わかりました。帰ってきたらたっぷり甘やかしておきます」

その言葉に冷や汗をかきつつ、当たり障りのないように注意を促す。

「逆に甘やかしすぎないように気をつけてね?」
「大丈夫ですっ」
「大丈夫ならいいですけどね」
「どういう意味ですか?」

妙に突っかかってくるマナカにアオは違和感を感じて聞き返す。
しかしポーカーフェイスを崩さずに何でもないように答えた。

「いいえ、ちょっと気になっただけなので見当違いだと恥ずかしいですから言わないでおきます」
「見当違いじゃなかったら言って下さいね?」
「えぇ、その時はお話しますよ」
「わかりました」

その後帰って来たアキトはアオへ包み隠さず聞いた事や思った事を伝えた。
殊勝な感想を受けとったアオはアキトへよく出来ましたと優しく頭を抱き寄せて撫でていた。

「よく考えたね。お姉ちゃん嬉しいよ」
「あ、うん。姉さんから言われた事を色々考えてたから...」
「そっか。でも、もっと頑張らないと一人前とは認められないからね?」
「う...いや、頑張る」
「うん。頑張れ」

普段であれば逃げるはずのアキトが顔を真っ赤にしつつも身を任せていた。
そして、それを見ていたルリとラピスはアキトへ鋭い視線を向けていたのだった。


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