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No.19794の一覧
[0] 天河くんの家庭の事情(逆行・TS・百合・ハーレム?)[裕ちゃん](2010/07/24 18:18)
[1] 天河くんの家庭の事情_00話[裕ちゃん](2010/07/23 17:46)
[2] 天河くんの家庭の事情_01話[裕ちゃん](2010/06/26 12:59)
[3] 天河くんの家庭の事情_02話[裕ちゃん](2010/06/24 07:53)
[4] 天河くんの家庭の事情_03話[裕ちゃん](2010/06/24 07:53)
[5] 天河くんの家庭の事情_04話[裕ちゃん](2010/06/24 07:54)
[6] 天河くんの家庭の事情_05話[裕ちゃん](2010/07/10 22:31)
[7] 天河くんの家庭の事情_06話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[8] 天河くんの家庭の事情_07話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[9] 天河くんの家庭の事情_08話[裕ちゃん](2010/06/24 07:55)
[10] 天河くんの家庭の事情_09話[裕ちゃん](2010/06/24 07:56)
[11] 天河くんの家庭の事情_10話[裕ちゃん](2010/06/24 07:56)
[12] 天河くんの家庭の事情_11話[裕ちゃん](2010/06/24 07:57)
[13] 天河くんの家庭の事情_12話[裕ちゃん](2010/06/24 07:57)
[14] 天河くんの家庭の事情_13話[裕ちゃん](2010/06/26 02:01)
[15] 天河くんの家庭の事情_14話[裕ちゃん](2010/06/26 11:24)
[16] 天河くんの家庭の事情_15話[裕ちゃん](2010/06/26 23:40)
[17] 天河くんの家庭の事情_16話[裕ちゃん](2010/06/27 16:35)
[18] 天河くんの家庭の事情_17話[裕ちゃん](2010/06/28 08:57)
[19] 天河くんの家庭の事情_18話[裕ちゃん](2010/06/29 14:42)
[20] 天河くんの家庭の事情_19話[裕ちゃん](2010/07/04 17:21)
[21] 天河くんの家庭の事情_20話[裕ちゃん](2010/07/04 17:14)
[22] 天河くんの家庭の事情_21話[裕ちゃん](2010/07/05 09:30)
[23] 天河くんの家庭の事情_22話[裕ちゃん](2010/07/08 08:50)
[24] 天河くんの家庭の事情_23話[裕ちゃん](2010/07/10 15:38)
[25] 天河くんの家庭の事情_24話[裕ちゃん](2010/07/11 07:03)
[26] 天河くんの家庭の事情_25話[裕ちゃん](2010/07/12 19:19)
[27] 天河くんの家庭の事情_26話[裕ちゃん](2010/07/13 18:42)
[29] 天河くんの家庭の事情_27話[裕ちゃん](2010/07/15 00:46)
[30] 天河くんの家庭の事情_28話[裕ちゃん](2010/07/15 14:17)
[31] 天河くんの家庭の事情_29話[裕ちゃん](2010/07/16 17:35)
[32] 天河くんの家庭の事情_30話[裕ちゃん](2010/07/16 22:08)
[33] 天河くんの家庭の事情_31話[裕ちゃん](2010/07/17 01:50)
[34] 天河くんの家庭の事情_32話[裕ちゃん](2010/07/21 01:43)
[35] 天河くんの家庭の事情_33話[裕ちゃん](2010/07/21 23:39)
[36] 天河くんの家庭の事情_34話[裕ちゃん](2010/07/22 04:13)
[37] 天河くんの家庭の事情_35話[裕ちゃん](2010/07/24 18:16)
[38] 天河くんの家庭の事情_小話_01話[裕ちゃん](2010/06/25 20:30)
[39] 天河くんの家庭の事情_小話_02話[裕ちゃん](2010/07/07 03:26)
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[19794] 天河くんの家庭の事情_33話
Name: 裕ちゃん◆1f57e0f7 ID:326b293b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/07/21 23:39
「ルリちゃん!」

その瞬間ユリカは顔を引き締め、ルリへと状況を確認した。
ルリは既に詳細な状況を把握しており、ユリカへ間髪を入れずに答える。

「はい。地球連合海軍佐世保基地から通達。佐世保基地から西約200kmの位置。
済州島以東の海域に木星蜥蜴のバッタと思われる機影が多数確認されました。
数はおよそ500、マッハ0.5で真っ直ぐに基地へと向かっています」
「わかりました。総員戦闘配備、艦内警戒態勢はパターンAへ移行します。
正パイロットが怪我のため、コック兼パイロットのアキトに空戦フレームでの出撃準備をお願いします」
「了解。総員戦闘配備、艦内警戒態勢パターンAへ移行。
出撃準備をアキトさんと整備班へ通達、準備完了まで10分掛かります」
「メグミちゃんは佐世保基地へ打電。現時刻を持ってナデシコを発進。一番槍はそちらへお譲りします」
「了解しました」

ルリの返答を聞いたユリカはすかさずメグミへ佐世保基地への通達を伝える。
そこまで聞いたフクベがユリカへと尋ねた。

「艦長。作戦を伺ってよろしいかね?」
「はい。目的はグラビティブラストによる敵の一網打尽です。アキトには準備が出来次第出撃して貰います。
そのまま地球連合陸軍の駐屯地付近で敵無人兵器への攻撃と惹きつけを行って貰い一箇所に固めてもらいます。
その間にナデシコは弓張岳頂上口より空へ、一箇所に固めた無人兵器をグラビティブラストで撃ち抜きます」
「...ふむ。わかった」
「艦長。その作戦でしたら、私も出撃しますね。確実性も増しますしアキトの危険も減りますから」

ユリカの作戦を聞いたフクベは幾分難しい顔をしているが、髭をさすりながら頷くと提督席へと戻る。
サダアキもナデシコ初戦闘からか、厳しい表情を浮かべてそわそわしている。
そしてアオも同じく眉を顰めながら作戦を聞いていた。
ユリカへが話し終わるとすぐに声を掛けてオペレーターの席を立つとブリッジの扉まで歩いていく。
しかし、アオはその間一度もユリカへと目線を向けていなかった。

「え?あ...わかりました。オペレーターはルリちゃんとラピスちゃんがいますもんね。
アキトだけでも大丈夫だとは思いますがよろしくお願いします」
「えぇ、任されたわ。それじゃ、ルリちゃんとラピス、ダイアも後お願いね?」
「「『はい!』」」
「フクベ提督、プロスさん、ゴートさんもお願いします」

ユリカはアオの声を受けて一瞬考えるような素振りを見せたが、すぐにアオの意見に乗った。
そしてアオは頷くとルリ達とフクベ達へそれぞれ声をかける。
アオの言葉にルリとラピス、ダイアはしっかりと返事を返し、フクベとプロス、ゴートは静かに頷いた。

ブリッジを出たアオはアキトとウリバタケへと通信を入れて自分も出る事を伝える。
それを受けてアキトは嬉しそうな表情を浮かべるが、すぐに表情を引き締めた。
ウリバタケはすぐに頷くと近くにいた整備班へと声をかけ、アオのエステバリスを用意させる。

「姉さんが出るなら益々下手な所見せられないね」
「アオちゃん、アキトと同じ時間でエステの用意は出来るぜ!」
「ウリバタケさんありがとうございます。アキト、前みたいに気負いすぎてない?」
「わかってるよ」

ウリバタケの言葉に頷いたアオはおちょくるような声でアキトへと問い掛けた。
初出撃の事を思い出したアキトは少し頬を染めながらもしっかりと返答をした。

アオは格納庫へと到着するとすぐにエステバリスへと乗り込んでいく。
すぐに各部の調子やOSの確認を行い、それが終わると同時にウリバタケから通信が入る。

「アオちゃん、アキト。準備出来たぞ」
「ありがとうございます。アキト、行こっか」
「わかったよ。ウリバタケさんありがとうございます」
「うし、しっかり帰って来い!」
「「はい!」」

ウリバタケの呼び掛けを受けたアオとアキトは威勢よく返事を返すとカタパルトデッキへと向かっていく。
その二人へルリから通信が入った。

「アオさん、アキトさん。カタパルトデッキで射出するとドックの壁に当たっちゃいますから自分で飛んでいってください。
ドックのエレベーターは既に用意してあります。1月の襲撃時に使ったエレベーターと言えばわかりますよね?」
「うん。ありがとね、ルリちゃん。じゃあ、ちょっと間抜けだけど飛んでいこっか」
「あぁ、わかった」

出港直前という事もあり、ナデシコへの搬入が総て終わっている。
それはエステバリスについても同様な為に、ナデシコからの発進をした後にエレベーターに乗るという二度手間を行っているのだ。

「面倒くさいけど、艦長の作戦だからね。なるべく早く向かいましょう」

アオはアキトへそう声を掛けると一気に加速してカタパルトデッキから出るとエレベーターへと向かっていく。
その操縦に半ば見惚れていたアキトも、すぐ後に続いてエレベーターに向かっていった。

「艦長。アオ機、アキト機共にエレベーターで上昇中。
なんとか無人兵器がサセボを襲撃する前に先制出来ます。」

ブリッジではルリが状況を報告。
サセボへの襲撃を阻止出来そうだというその内容を聞いて安堵するような空気が流れた。

「わかりました。では、すぐに発信して弓張岳頂上口より空へ上がります。ミナトさん、お願いしますね」
「えぇ、いつでもいいわよ。かんちょ」
「ナデシコ発信します!」
「「ナデシコ発進」」

ユリカの号令に従いルリとラピスはナデシコを発信させる。
二人の両手にIFSの印が浮かび上がりそのIFSと彼女たちの両目にナノマシンが奔っていく。
それを切っ掛けにして核パルスエンジンと相転移エンジンが唸りをあげてナデシコの全身にエネルギーを行き渡らしていく。
ミナトはナデシコが浮かび上がると同時に操舵を開始し、ナデシコの艦体を弓張岳頂上口へと向かって進んでいった。

その頃アオとアキトは地球連合陸軍の佐世保駐屯地に到着していた。
目の前には大量のバッタがこちらへ向かっているのが見える。

「アキト、ナデシコが来るまで遅くても10分みたいだよ。
迎撃に出た地球連合海軍の航空部隊は全滅。でもみんな緊急脱出装置がうまく作動したみたいね」
「そっか。じゃあ、みんな生きてるかもしれないんだね?」
「そうね。ただ、助けるといってもあの無人兵器を倒さないとどうにもならないけどね?」
「わかったよ。それじゃ、ナデシコが来るまでここで惹きつけていればいいんだね?」
「そ、後はグラビティブラストの射程内に固まるよう誘導だね」
「あぁ」

話をしている間にもバッタは近づいており、もう目の前まで来ていた。
あちらは先制攻撃するつもりか、前面にいるバッタはミサイルを撃つために背中のハッチを開放している。

「さって...アキト、行くわよ?」
「ああ!」

アキトの返答を合図に二人はバッタ達の中へと突っ込んでいく。
それを切っ掛けにバッタ達はミサイルを射出、視界を埋め尽くすほどのミサイルがアオとアキトへ迫っていく。

「いかにも誘爆させてくれって感じよね?」
「そこ!」

アオはのんびりとした口調で、アキトは気合い交じりに叫びながらミサイル群へとライフルを撃ちこむ。
密集しながら突っ込んで来るミサイルはそれが仇になり、一気に誘爆していく。
それをチャフ代わりにしてアオとアキトはバッタの群れへと突入。
背中合わせになるようにして周辺のバッタを落としていく。

「艦長。アオ機とアキト機がバッタの群れと交戦を開始しました」
「わかりました。ナデシコは弓張岳頂上口から出たらすぐに移動。
グラビティブラストの使用により周りの被害が出ない空域までの移動が完了し次第発射します」
「かんちょ。あと30秒で空に出るわよぉ?」

ミナトの言葉を聞いたユリカは自然と口に笑みが浮かんでいた。
戦闘中にも関わらず、その心は期待に溢れていた。
ついに...そう、ついに見れるのだ。訓練中に幾度も見たアキトの戦う姿。
華麗で、どこか我武者羅で一所懸命な彼の戦う姿が。
その姿を夢想し、微かに頬を染めたユリカは一目も見逃さないようにブリッジ前面を真剣に見つめる。
傍目にはそれは、真摯に戦闘へと赴く頼りがいのある艦長の姿に映った。
そして、ナデシコが空へと上がるとユリカの望む光景が広がっていた。

アオの乗る艶を消した黒い機体とアキトの乗るピンクの機体が背中合わせにバッタの群れの中心で舞っていた。
両機は群れへと突っ込んだ所からほぼ動かずにバッタ達を落としていた。
お互いがお互いをフォローし合うようにそれぞれの持つライフルのマズルが火を噴く。
その度にどんどんとバッタが撃墜されていき、両機を脅威と認識したバッタ達はナデシコが空へ上がってもそちらへは向かおうとしなかった。

「アオさん、アキトさん。これからナデシコは発射予定位置まで移動します。
移動完了まで30秒。完了し次第発射しますので、グラビティブラスト範囲内へバッタの誘導をお願いします」
「「了解」」

ルリの言葉を受けた二人は微かに場所を移動しつつ、攻撃を加えバッタの群れを誘導していく。
その間にナデシコは静かに場所を移していく。

「アオさん、アキトさん。カウントをしますので5カウントで離脱して下さい。
発射15秒前、10、9、8、7、6、5...」
「アキト!」
「わかった!」

ルリの声が5を告げた瞬間にアオとアキトが群れの中から外へと突っ切って行く。
そしてカウントが0を告げた時には群れからの離脱が完了していた。
その様子を見たユリカがブリッジ全体へと告げる。

「グラビティブラスト、射てぇ!」

その黒い閃光は残存する総てのバッタを巻き込み圧潰させた。
300以上残るバッタが総て爆発していく。
その光景を感慨深げにブリッジの全員が眺めていた。

「目の前で見ると凄い...」
「そうだね。あ、ルリちゃん航空部隊の人達の救助は依頼してある?」
「はい、もう地球連合海軍が向かってます。無線の様子からすると全員無事なようです。
一般の方への被害もありません。今回は人的被害ゼロで済みそうですよ」
「そっか、よかった」

グラビティブラストの威力に見惚れるアキトを他所に、アオはルリと航空部隊の心配をしていた。
ルリは無線の傍受も合わせて確認をし、人的被害がない事をアオへと伝えていた。
そこでようやくアオは安心して脱力した。

「アオさん、アキトさん。帰ってくるまで気を抜かないでくださいね?」
「ありがとね、ルリちゃん」
「わかったよ」

そして無傷の2機はゆっくりとナデシコへと向かっていった。
しかし、アキトも気付いていなかった。
戻っていくアオが戦闘が始まってから一度も笑みを浮かべていない事を。

アオがブリッジへ戻るとその場の空気が凍った。
その中でも一番戸惑っていたのは艦長であるミスマル・ユリカだった。
そんなユリカを見ながらアオは聞こえなかったかな?と何とも場違いな事を考えていた。

「あれ、聞こえませんでした?」

戸惑う彼女に向かってアオはもう一回言おうか?と視線で尋ねる。
その視線を受けて戸惑いながらも言葉を返した。

「あの、お言葉ですが。被害はゼロに抑えてます」
「えぇ、結果はそうなるわね。でも、次からもあんな指揮を取るんだったら最悪艦を下りてもらうわよ?」

そう、アオはブリッジに入ってすぐにユリカの指揮はおかしい、訓練当初より酷くなっていると告げていたのだ。
その言葉にユリカはもとより、アオと一緒に入ってきたアキト、ジュンとミナトにメグミ、プロスとゴートも戸惑っていた。
人的被害がないのにそこまで酷評されては戸惑うのも無理がない。
そしてユリカは最初こそ狼狽えていたが、アキトの目の前で言われたことにより貶されたという考えが増していき怒りが湧き出してきた。

「統括官の言葉でも納得出来ません!人的被害が出てないのにどうしてそこまで貶すんですか!!」

ユリカがここまで感情を顕にするのは珍しいのだろう、アキトもジュンも驚いたように彼女を見ていた。
しかし、そんな怒りの篭った視線を受けてもアオは全く動じていなかった。

「確かに、ユリカさんの能力は凄いわ。戦局を見通していると思えるくらいね。
でも、その使い道が間違ってるんじゃ毒にしかならないわよ?
まず優先順位がおかしい上に、それをわからせないようにギリギリの所へ指揮を取っているでしょ」
「そ、そんな事ありません!!」

アオの指摘にユリカは一瞬怯むが、視線に負けないように気を入れると言い返す。
そんなユリカへ悲しそうな目線を向けると一度溜息を吐いた。

「そう、言っても認めないのね...
わかったわ、ならシミュレーションをしましょう」

アオの言葉にまたブリッジが凍った。
その中でアオは手短に指示を出していく。

「ルリちゃん、ラピス、ダイアとフローラもお願い」
「「『『はい!』』」」
「アキト、先にシミュレータールームへ行ってもらえないかな?」
「え?わ、わかったけど...」
「訳は後で全部説明するから大丈夫」

アオの指示を受けたルリ達は何をするのかわかっているのか、素早く準備を始める。
アキトも戸惑ってはいたが、全部説明してくれるという言葉を信じてシミュレータールームへと走っていった。

「ユリカさん。このシミュレーションで文句のない成績が取れたらアキトとの事認めてあげるわね。
統合戦略シミュレーション無敗の貴女なら楽勝でしょう?」
「!!」

アオの言葉にユリカが大きく目を見開いた。
真意がわからず、アオを呆然と見つめ返している。

「やるの?やらないの?」
「や、やります!今の発言撤回は許しませんからね?」
「えぇ。じゃあ、私は一度シミュレータールームへ向かうわね」

そう言って、アオがブリッジから退出した。
それを見送ったユリカの目には先程行った実戦以上の気合いが漲っていた。

一方、シミュレータールームではシミュレーターへ乗り込んだアキトへアオが話しかけていた。

「簡単にいうと今回のシミュレーションはユリカさんの荒療治よ」
「あ、前姉さんが言ってたやつか」
「そ、だからと言って手を抜きなさいとは言わない。ただ、必ずユリカさんの指示通りに動きなさい」
「...必ず?」

必ずという所に力を入れて喋るアオにアキトは違和感を覚えた。
訝しげな顔をするアキトに軽く微笑みかけると声をかける。

「えぇ、色々思う所が出るかもしれない。でも独断はせずに必ずあの子の指示通りに動きなさい」
「そこまで言うなら何かあるんだね?」
「今回のシミュレーションなんだけど、音声も含めてかなりリアルに作ってあるの。
アキトにもかなり辛い思いさせちゃうけどそこまでしないとあの子はわからないと思うから...お願い」

アオの辛そうな、悲しそうな表情を見たアキトはそれこそ火星会戦での出来事でも流れるのだろうかと考えた。
そして、フクベ提督からの視点で見るそれをリアルに想像してしまい身体中に寒気が走った。

「...わかった。約束するよ」
「ありがとう、アキト...あと、ごめんね」

しばらくの間アオはアキトの頭をその胸に抱き寄せた。
アキトはアオの身体が微かに震えているのを感じて不思議と恥ずかしさを感じなかった。

「それじゃ、私はブリッジに戻るね。シミュレーションが終わったら着替えなくていいからブリッジまで来てもらえる?」
「あぁ、わかった」
「じゃ、また後でね」

シミュレータールームで一人になったアキトはハッチを閉じると軽く目を閉じた。
あのアオがあそこまで罪悪感を感じる程のシミュレーションを予想して、本当に火星会戦なのかもしれないと考える。
音声まで作ってあるという事は、色々な物が聞こえてくると思いつくと心構えだけはしっかり持とうと考え固く手を握った。

アオがブリッジへ戻ってくるとシミュレーションの簡単な説明が始まった。

「まず、今回のシミュレーションに私は参加しない。それとガイもあの身体だから参加しないのでエステバリスはアキトだけになります。
あと、ミナトさんとメグミさんは初戦闘後で疲れてるでしょうから観戦してて下さい」
「ありがとね、アオさん」
「アオさんありがとうございます」

アオの指示にミナトとメグミはほっと溜息を吐いた。
戦闘直後の急展開に加えていきなりのシミュレーションを行うと言われ、頭が混乱しっ放しだったからだ。
これもアオにとっては二人が動揺して行動が疎かにならないようにという目的があった。

「場所はサツキミドリ2号のある宙域で、ナデシコがサツキミドリ2号と通信をするのと時を同じくして木星の無人艦隊が出現という設定になるわ。
サツキミドリ2号を守り切るか、民間人の脱出を完了させるのが目的になります」
「...それでいいんですね?」
「えぇ、敵艦隊の指揮するAIがオモイカネ級だったらという設定だから難易度は高いわよ?」
「そんなの!」
「木星と同じ技術使ってるのにその可能性がないとは言えないでしょ?
それに始めから内緒にしておいても問題ないのに伝えてあげたんだから逆に感謝するべきではないかしら?」
「ぐっ...」
「じゃあ、始めるわね」

そうして実戦後のシミュレーションが始まった。
いきなりブリッジからの景色が宇宙空間へと変わる。
訓練中に幾度も見たのだが、ダイアがウィンドウを使ってシミュレーションに合わせた景色をリアルタイムで表示しているのだ。

進行方向にはサツキミドリ2号の姿が、そしてブリッジから見て右側遠方にいくつもの影が見えていた。
訓練中に幾度も見た木星の無人艦隊だ。
黄色い影も見えるため無人兵器もかなりの量が確認できる。

「艦長。サツキミドリ2号からの通信です」
「はい、繋いでください」
『丁度良かったよ、その戦艦の噂は聞いている。そいつならあいつらを倒せるんだろ?』

その言葉にブリッジがざわめいた。
本当に人が喋っているような声だったからだ。
驚いていないのはアオとルリ、ラピスぐらいである。

『あれ、お~い。ナデシコ、聞こえてるのか?』
「あ、はい。私はナデシコ艦長のミスマル・ユリカです。すぐにサツキミドリ2号の防衛に向かいますので安心して下さい」
『わかった。そう伝えるよ、ありがとう助かった』

通信が切れるが、ブリッジはまだ動揺していた。
何故ここまでリアルにしているのかアオの意図が読み取れない。
しかし、それでも状況は刻一刻と変わっていく。

「艦長、このままだとこちらがサツキミドリ2号へ到着するより敵無人艦隊が射程内に収める方が早いです」
「グラビティブラストで直接叩くとどうなりますか?」
「広域発射なら敵を収められますが、それですと全滅させられずに残った無人戦艦の重力波でサツキミドリ2号は落ちます」
「わかりました、アキトへ出撃を要請して下さい。」
「了解」

そのままだとサツキミドリ2号を落とされると知ったユリカは何も躊躇わずにアキトへ出撃を要請。
真剣な表情の中ではまたアキトの活躍する姿が見れると喜んでいる部分もあった。

「艦長。アキト機出撃準備が出来ました。」
「では、アキト機へ繋いでください」
「ユリカか、俺はどうすればいい?」
「先行して撹乱をお願いします。その間にナデシコはサツキミドリ2号の前面に出てディストーションフィールドで無人艦隊の射線を防ぎます」
「わかった。テンカワ・アキト出ます!」

アキトは出撃するとそのままの勢いで艦隊へと突撃していく。
どんどん距離がなくなってくるが、アキトはそこで微かに違和感を覚えた。
そして、バッタの群れが襲ってくるとその違和感は確信へと変わっていく。

「な、こいつら守ってるのか?」

普段ならこちらが何であれ先制して重力波を放っているのだが、そんな素振りが全くしない。
その上アキト機をバッタに任せて、艦隊は元々の進路を変えようとしていなかった。

「ナデシコ!こいつらいつもと違う!」
「え!?」
「こいつら艦隊の進路を変える気はないみたいだ。なんとかするけど急がないとサツキミドリ2号が落ちる!」
「わ、わかりました!」

バッタ個々の動きもかなり洗練されており、それぞれがフォローしあうように動いている。
普段であればバッタがいくらいようが問題なく無人戦艦を落とせるのだが、今回は一機では難しい。

「く、くそ!それでもなんとか!」

しかし、流石アオと1年鍛えてきただけはある。
なんとかバッタを倒し、かい潜り無人戦艦を1機撃墜する。

「アキト!!...私も頑張らないと!
アキト機へ戦闘状態のまま艦隊を出来るだけ惹きつけるように伝達して下さい!」
「深追いになりませんか?」
「アキトなら大丈夫!」
「...わかりました」

アキトが戦艦を落とした事でブリッジが湧いた。
ユリカもそれを見ていつもと違う敵の動きに戸惑っていた自分を叱咤し気合いを入れ直した。
アキトへの信頼が大きいのだろう、ルリから心配するような声がかかるが心配いらないと返した。
そんな中サツキミドリ2号からの音声もしっかり歓声に包まれていた。

「はぁ...そこまでシミュレーションしなくてもいいのに...」

ユリカは軽くボヤくが、目線は厳しく前を向いている。
一方アキトはかなり苦戦していた。
アキト機が戦艦を落としたことで敵無人艦隊が二手に分かれ、一方がアキト機を倒そうと展開しているのだ。
バッタも加わってかなり厳しい状況である。
しかし、かなり手練たパイロットでも厳しい状況にあってアキトはまだまだ諦めていなかった。

「こんなのより怒った姉さんの方がよっぽど怖い!」

そう叫ぶと叫び声と共に突貫していく。
そのアキトの心からの叫びはもちろんブリッジにも流れていた。
アオは表面上気にしないでシミュレーションの様子を追ってるように見えるが、微かに半眼になっている。
組んでる腕の手の平が触っている所に皺が寄っているので思ったよりも強く手を握っているようだ。
何よりすぐ傍に立っていたプロスが汗を拭きながら微妙に距離を離している。

「ルリ...」
「ラピス、今は戦闘に集中」

ルリとラピスは真っ先にアオがさっきの言葉に怒っている事に気がついたようだ。
少し微妙な空気が流れたが、それを吹き飛ばすように戦闘は進んでいく。

アキト機

「艦長!アキト機が離されています!」
「え!?どういう事?」
「無人兵器群に囲まれて、戦闘区域が徐々に離れていきます。
このまま進むと30秒後に重力波エネルギー圏内から外れます!」
「な!すぐにアキト機へ伝えてください!」
「もう伝えてあります!」

そこで一気に状況が変わる。
アキト機がかなりの敵を惹きつけたと思っていたのだが、実際は敵がアキト機をナデシコから離そうとしていたのだ。
そしてブリッジにはアキトの操縦する映像と声も流れている。

「な、ナデシコの進路をアキト機の方へ!」
「艦長、それでは無人艦隊にサツキミドリ2号を落とされます!」
「では、その無人艦隊をグラビティブラストで!」
「敵も警戒して広がって進軍しています!収束しても広域でも倒しきれません!」
「アキト機は後どれくらい持ちますか?」
「内蔵バッテリーでは全力の戦闘を3分行えれば僥倖です。
サツキミドリ2号を庇った後のカウンターで敵艦隊を殲滅。
その後助けに行ったとして、どれだけ早くても5分はかかります」
「!!」

ここに来てユリカは迷った。
生まれて初めてかもしれない程迷っていた。
頭の中ではサツキミドリ2号を庇うのが常道である事はわかっている。
しかし、心はそれを拒否していた。
自然とアキトの映像へと目が行ってしまう、アキトの声が耳に入ってしまう。
声を出そうとしても舌の根が乾いて喉が張り付いたように息が漏れるだけだった。
どれだけ悩んでも時間は刻一刻と過ぎていく。

「アキト機、エネルギー供給範囲から外れました」
「!!」

ルリの言葉に弾かれたように顔を上げた。
その表情は普段のユリカからは想像出来ないほど狼狽えている。

「あ、ダメ!ダメェ!!!待って!ほら!シミュレーションなんでしょ!」
「で、艦長。貴女はどうするの?」

そこでシミュレーションが始まって初めてアオが声を出した。
ユリカは呆然とした表情を浮かべてアオを眺めた。

「ミスマル・ユリカ艦長。アキトを犠牲にしてサツキミドリ2号を助けるの?
サツキミドリ2号を犠牲にしてアキトを助けるの?それとも全部投げ出す?」
「!!!」

その言葉を聞いた瞬間ユリカは全力でアオを睨んだ。
親の仇を見るような、それこそアキトもジュンも見たことがないような...
いや、コウイチロウでさえ見たことのない程の怨みの篭った表情だった。
その表情にアオ以外の全員が息を呑んだ。
しかし、アオはそんなユリカを涼しい顔で眺めつつ口を開く。
ただ、その手は微かに震えているようにも見えた。

「私を睨んでもどうにもならないわよ。それにもう時間がないけどいいの?
アキトを犠牲にしてサツキミドリ2号を助けるの?
サツキミドリ2号を犠牲にしてアキトを助けるの?それとも全部投げ出すの?」
「そ、それは...」

アオの質問にユリカは答えられなかった。
口篭ってしまい、きつく唇を噛みしめると震えながら俯いてしまう。
そんな押し黙った空気の中、淡々としたルリの声とアキトが戦う声だけが響いていく。

「サツキミドリ2号の前面に到着、艦長の指示通りディストーションフィールドを最大へ」

「敵艦隊から重力波来ます。ナデシコへの被害はゼロ、サツキミドリ2号も無事です」

「グラビティブラストの用意出来ました。敵艦隊との距離が詰まっているため一撃で沈められますがどうしますか?」

「...艦長。指示がないとグラビティブラストの発射は出来ません。どうしますか?」

「艦長。アキト機のエネルギー残量が30秒後に無くなります」

全く反応のなかったユリカがその言葉にやっと顔を上げた。
その目はアキトのウィンドウをすがるように見詰めると、アオへと視線を移した。

「だ、だめ...」
「何がですか、艦長?」
「なんで!なんで!!もう止めて!!いいでしょ!!もうわかったでしょ!!もう止めてぇ!!」

ユリカがアオへ向かって泣きながら懇願するが、アオはその目を見返しつつ何も言わない。
それでもこれ以上は見たくないと何度も何度もユリカはお願いした。
その光景に口出し出来る者は誰もいなかった。

「アキト機、エネルギー残量無くなります」
「...え?」

ルリの声にユリカがウィンドウへと目を向けるとアキトの顔が映っていた。
そしてその声だけがよく聞こえた。

『くそ、ここまでか...』

ふぅ...と溜息を吐いて頭を掻きながら微笑していた。
そのウィンドウがノイズへと変わる。

「アキト機、撃墜されました」

ユリカはノイズの走るウィンドウをただ呆然と眺めていた。
これはただのシミュレーションと頭の中で何かが言う。
でも私はアキトを見殺しにしたと心の中で何かが言う。
ただただ、それを認めたくなかった。

「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

その場に蹲って目を背けるように叫んでいた。
誰も声をかける事は出来なかった。

そのままブリッジにはユリカのなく声だけが響いていた。
そして、しばらくするとブリッジの扉が開く音がする。

「はぁ...抜け出せなか...た...」

入ってきたアキトは悔しそうにアオへと話しかけようとしたが、異様な雰囲気に戸惑っていた。
ユリカが蹲って泣いている上に、全員の視線がアキトへ注がれているのだ。

「えっと...姉さん?」
「ん...ユリカさんお願いね」

アキトは思わず視線で、これが荒療治?と尋ねた。
アオはその視線を受けて軽く頷くとアキトへ小声で話しかけ、前を向く。

「アキトが戻ってきたし、総括したいんですがよろしいですか、艦長?」
「...その前にいいですか?」

アオの言葉に顔を上げたユリカの表情を見て、アキトは驚いていた。
ユリカがアオを睨んでいるのだ。
アキトは彼女がそんな表情を浮かべるのを初めて見た。

「えぇ、いいわよ。なに?」
「なんなんですか、今のシミュレーションは!ただの嫌がらせですよね!!私にアキトを...アキトを...!!!
そんなにアキトを取られるのが嫌なんですか!?いえ、貴女は私が嫌いなんですよね?そうですよね!そうに決まってます!!
アキトのお姉さんだからと思って安心して損しました!!こんな仕打ちをする貴女は許せない!!私も貴女が大嫌いです!!!」

言葉を続けるにつれ鬱屈が爆発したのか、どんどんと声も感情も強くなっていった。
アキトはそれを止めさせようとしたが、アオはアキトの手を引いてやめさせていた。
そして、アキトを止めたアオの手は震えていた。

「ねえ...」

アオへ声をかけようとしたが、そのアオの表情を見た瞬間アキトは固まっていた。
ルリとラピスもアオの表情を見て息を呑んだ。
彼女達でさえ初めて見るような表情だった。
能面のような無表情、感情を押し隠すように固く組まれた腕、その腕を掴む指は力が入りすぎて真っ白になっていた。
そんなアオが口を開くが、唇は震えて全く声が出ない。
そして次の瞬間突然アオは後ろを振り向いた。
そして震える声で微かに呟いていた。

「...嫌われちゃった」

アオはブリッジから出ていってしまった。
それが聞こえたのは近くにいたアキトとフクベ提督、プロスだけだった。
そして彼女が涙を流しているのに気付けたのもその3人だけであった。

「何よ!!何よ!!!何なのよあの人は!!!」

ブリッジにはアオが出て行った扉へぶつけるようにユリカの声が響いていた。


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