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No.2437の一覧
[0] 最強AI グランマ![かっぱ](2007/12/24 04:01)
[1] 最強AI グランマ![かっぱ](2007/12/24 03:55)
[2] 最強AI グランマ![かっぱ](2007/12/30 02:59)
[3] 最強AI グランマ![かっぱ](2007/12/30 02:58)
[4] 最強AIグランマ![かっぱ](2008/01/05 02:23)
[5] 最強AI グランマ![かっぱ](2008/01/05 03:07)
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[2437] 最強AI グランマ!
Name: かっぱ◆d8cccb5f ID:6cd802e4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/12/24 03:55
機動戦艦ナデシコ 最強AI グランマ
『第1話 その名はおばあちゃん』:Bパート





「はぁ!?」

 機動戦艦ユーチャリス、そして機動戦艦ナデシコBに搭乗する全員が、目を剥いて宇宙空間に浮遊する黒い機動兵器を見つめた。

「テンカワ……コハル?」

 呟いたのはハーリー。

「アキトさんのお父さんのお母さん、つまりお婆さんに当たる人の名前です」

 その疑問形に答えるように、ルリは冷静に呟いた。

『ラピス、そっちからこのプログラムを止められるか?』
『多分無理。アキト、大丈夫?』

 黒い機動兵器とその母艦との微笑ましいやり取りに、ルリはふんと小さく鼻を鳴らした。

「解除できませんよ、アキトさん。これは私とオモイカネが三ヶ月もかけて開発した、『アキトさん説得プログラム~君よ心の故郷へ帰れ~』なんですから」

 サブロウタが振り返る。

「アキトさん説得プログラム?」

 サブタイトルまで付いているところが細かい。

「はい」

 ルリは頷いた。

「アキトさんの父方のお婆さんであるテンカワ・コハルさんの人格を模したAIに、アキトさんを説得してもらうんです。犯罪者を改心させるには身内の説得が一番だって、山村精一著ビジネス新書『オトシの裏技』に書いてありました」
「ふーん……」

 ぽりぽりと、サブロウタは指の先で額を掻いた。何と言っていいものやら、コメントに困っているような表情だ。

「あれっ、でもアキトさんって、身内は全員亡くなったって」

 ふと思い出したように言ったのはハーリー。アキトとの直接の面識はないものの、前回の「火星の後継者騒動」以降、ルリの戸籍上の家族のパーソナルデータについては調査済みだ。もちろん、「義理のお父さんになるかもしれない人だし」などという下心は、ルリには内緒である。

「ご両親は子どもの頃に亡くなって、以来施設で育ったんでしょう? お婆さんなんていたんですか?」
「生物学的にお婆さんが存在しない人はいません」
「いえ、そういう意味じゃなくて」

 ずびし、という突っ込みアクションが四方八方から入る。

「確かにテンカワ・コハルさんも15年前に他界されています。ただ、彼女の個人情報は、ほかのご親戚の方に比べ、比較的データ化されていましたから」
「データ化?」

 ええ、と頷きつつ、ルリはウィンドウに小さなファイルを表示させた。ファイル名には『女の九死に一生』というタイトルが、どこかノスタルジックな隷書体で記されている。

「テンカワ・コハルさんが自費出版した自叙伝です。この自叙伝の記述により、テンカワ・コハルさんの65年分の生涯のうち、約63年分が追跡可能でした。さらに地方自治体をはじめとする公的機関やかかりつけの医院、カウンセラー、ご近所の寄り合い、民間の娯楽施設などに記録されていた様々な情報からオモイカネと協力してその人格を類推、シミュレーションを重ねて作り上げたのがこのAIです。架空のプログラムではありますが、人格再現率はオモイカネの計算によると98%を達成しています」

 98%、と呟きながら、ナデシコBのブリッジクルーたちはゴクリと唾を飲み込む。つまりルリのプログラム能力は、死んだ人間の人格さえも再現してしまうということか。

「そういうわけですから、アキトさん。お婆さんにたっぷり叱られちゃってください。私はここで、あなたが心を改めて帰ってくるのを待っていますから」

 彼女には珍しい不敵な笑みを浮かべ、「幽霊ロボット」に宣言するルリ。
 一方のアキトはさっぱり言うことを聞かないブラックサレナに、四苦八苦していた。
 手動で制御しようとしても、レバーに手を伸ばすだけでサレナのセキュリティシステムが反応し、コクピット内のあちこちで不穏な火花が散る。

「くそっ、何とかならないのか、ラピス」
『何ともならないよ、アキト。サレナ、乗っ取られちゃった』

 相変わらず淡々と、薄情な言葉を呟くラピス。

《アキト?》

 と、そんな二人の通信に、別の声が混じった。先ほどルリに書き換えられたAI、テンカワ・コハルのものだ。

《へえ、あんたが孫のアキトかい?》

 どれどれ、などという暢気な声がスピーカーから漏れる。

《ふーん……》

 AIに視線などないはずなのに、全身舐めるように眺め回されているような気がして、思わずアキトは身震いした。ぞわわ、という不快な感覚が背筋を駆け上ってゆく。
 やがて、

《ちっ》

 心底不満そうな舌打ちと共に、ぼそりとした声が漏れる。



《チェンジ》



「出張ホストじゃねえ!」

 思わず声を荒げ、アキトはガツンとコンソールに拳を叩きつけていた。
 そして、そんな自分に一瞬呆然とする。

《へえ》

 何かに感心したように、AIの音声は言った。

《割と素直な反応ができるじゃないか。いろいろあってすっかり捻くれちまったって聞いてたから、どんな子かと思ってたけど》

「……」

 アキトは口を閉ざす。
 ルリはこのAIに、自分のことをどんな人間だと吹き込んだのだろうか。知るのが怖い気がする。

《さてと、ゆっくり自己紹介したいところだけど、そうも行かないね。この機体の特性はだいたい掴んだから、後はトンズラするだけさ》

「えっ?」

 呆気にとられたのはアキトだけではない。
 AIとアキトとの会話を傍受していたルリたちも同様に目を見開き、とんでもないことを言い出した黒い機体を見つめる。

《ここであんたをあのナデシコとかいう艦に連れ帰っちまったら、あたしゃその時点でお役ご免、さっさと削除されちまうからね。そんなのごめんだよ》

 AIの音声に、淡い笑い声が混じる。

《せっかく娑婆に出られたんだ。このままおさらばさせてもらうよ》

「ええっ!?」

 ナデシコBのブリッジに、驚愕の声が響き渡る。AIの正式名称は「アキトさん説得プログラム」だったはずだ。つまりアキトを説き伏せてナデシコへと連れ帰るのが、このプログラムの目的ではなかったのか?

《ユーチャリスとかいったね、そっちの格納庫に直接ジャンプする。着いたら間髪入れずに離脱するよ。用意はいいね、お嬢ちゃん?》
『わかった。待ってる』

 唯一思考停止状態に陥っていなかったラピスが簡潔に応えると、ブラックサレナはアキトの反応も待たずに、その場から姿を消した。
 少し離れた宙域で待機していた機動戦艦ユーチャリスも、間もなくレーダーから消える。
 その間、一分もかかっていない。だがフリーズしたままのナデシコBブリッジでは、再び時が流れ出すまでに、さらに数分の時間を必要とした。


「あー、艦長」


 ルリはいまだ、ブラックサレナの飛び去った方向を見つめ、呆然としている。
 傍らから、サブロウタが何か言いにくそうにルリを見上げた。

「人格の再現率は98%と言いましたね?」
「はい。言いましたが?」

 やっぱり、とサブロウタは小さく呟いた。

「こっちのデータによると、テンカワ・コハルさんは最初の夫であるテンカワ・フユヒコ氏と結婚後、わずか半年で失踪。その後も複数の男性と関係を持ち、詐欺や恐喝、諸々の軽犯罪の累積で逮捕歴6回、さらに収容された刑務所では看守を巻き込んで大規模な賭場を開帳、その事実がマスコミに露見しそうになって政府は慌てて彼女を釈放し、口止めと引き換えに身体の半永久的な自由を約束したっていう……いやはや、すさまじい婆さんだなあ」

 ほう、というため息がブリッジいっぱいに響く。この場で感心していないのは、表情を凍りつかせたルリくらいなものだ。

「つまり性格の再現率が高すぎて、並みのストッパーじゃ暴走を止められないような凄まじいAIができちゃったってことですか」

 天真爛漫なハーリーが、一番触れられたくない部分をピンポイントで刺激した。ピシリ、とルリの頬が引きつる。

「あー、さすがにこの展開を予測するのは不可能だと思いますよ。あまり、お気になさらず」

 宇宙軍少佐の肩書きを持つとはいえ、ルリはまだ十代の少女である。世の中の酸いも甘いも噛み分けた人生の達人と渡り合うには、経験不足は否めない。もっとも、ヴァーチャルとはいえその人生の達人を自らの手で生み出してしまったのだから、皮肉といえば皮肉だが。
 仕方ないとばかりに、サブロウタが緩く微笑みながら首を振った。

「艦長、あなたは天才ですよ。しかしこの場合、それが裏目に出ましたね」
「……」

 ルリは黙って、漆黒の宇宙が広がる窓外を見つめている。
 やがて小さく息をつくと、ほかの誰にも聞こえないよう、小声で呟いた。



「……ガッデム」


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