例えナデシコCと言えど、一隻で出来ることなどたかが知れている。
敵側の船が、通信回線をはじめとしたありとあらゆる外部からのアクセスを断ち切っている以上、今のこの船は”ただの高性能な船”でしかない。
つまり、十二隻のリアトリス級を相手にするなんて不可能だ。しかし、逃げるにも敵の攻撃を受け、ジャンプの制御が破損し、アクセスができなくなってしまった。
「作戦失敗ですね」
船が揺れる。ミサイルが右舷に直撃したようだ。
艦長席から叩き落され、無様に床に叩きつけられた。
立ち上がろうとするが、断片的な揺れが続きうまくいかない。ディストーションフィールドの出力が落ちているせいだろう。
「逃げないと」
私は生きなければならない。それは私の義務だ。
ほとんど這うようにして、ボソンジャンプの制御ブロックを目指す。そこで直接操作をすればどうにかなるかもしれない。
途中で誰にも会わなかった。当然だ。初めから私一人しか乗っていない。そういう任務なのだから。
「アキトさんも、こういう気持ちだったのでしょうか?」
返事なんて期待していない。ただ声を出していないと不安に押しつぶされそうだ。こんなの私らしくない。
なんども大きくゆれ、遠くで爆発音が聞こえた。まだ船がもっているのが驚きだ。ウリバタケさん良い仕事してます。
馬鹿になった扉を無理矢理落ちていた鉄パイプでこじ開け、ようやくジャンプブロックに辿り着いた。
艦長席で、すでに制御部が壊れていることはわかっている。私は端末を自分のIFSに接続し、直接ナビゲーションを実行しようとするがうまくいかない。
「当然か……」
所詮私はB級ジャンパーだ。イネスさんのようにはいかない。また、揺れた。こんどの揺れはひと際大きい。
「それでも!! まだ死ねない」
諦めるなんて死んでからやればいい。思いつきでもなんでも良い。足掻いて、足掻いて、足掻き抜く。
イメージ不足を補うために、むりやり相転移エンジンから基準値以上のエネルギーをジャンプブロックにむりやりつぎ込む。
細かい理論も冷静な推理も何もない。たぶん昔の私が見たら馬鹿にするだろう。
「最後の賭けです」
アラーム音。当然、相転移エンジンのエネルギーをこちらに回したのだからフィールドは消失している。正真正銘次の一撃でアウト。
だた、私の賭けが終わるのはそれより早い。
悲鳴を上げるジャンプブロック。細かいイメージはやるだけ無駄だ。今ここで必要なのは少しでも強いイメージ。だから私は、ひたすら願う。切実に、真摯に、壮絶に。ただ、
「帰りたい」
それだけを。
ジャンプブロックの悲鳴が雄叫びに変わった。景色が消える。浮遊感、喪失感どちらともつかない。ただ、圧倒的な感覚。何かが起こった。それだけを知覚し、私の意識は途切れた。