4月28日 0958時(日本標準時)
東京上空 JNA903便
「当機は9時55分、羽田発。JNA903便で御座います」
生徒達でざわつくキャビンに機内放送が流れるなか、ラピスはひとつの疑問を持っていた。
(なんで明人がいるの?)
そう、ラピスは明人がこの飛行機に乗っていることに気がついていた。
搭乗口から機内に入ってくる明人を偶然見つけたのだ。
いつものバイザーをかけて顔を隠してるつもりだろうか?
見慣れてるラピスにとっては意味の無いことだった。
(バレバレだよ明人……)
「うわー。ねぇねぇ、カナちゃん、ラピちゃん見てごらんよ」
デジカメを窓に向けながら恭子は二人に話し掛ける。
「ん~……」
「?」
ボーっと前を向いて上の空で返事を返すかなめの頬を恭子は人差し指でつつく。
「ん?」
「ねぇ、どーしたの?昨日からずっと変だよ」
「べつにぃ……」
「相良のこと?」
「ラ、ラピス!何よイキナリ。んなわけないでしょ。わはははははは……」
かなめは笑って誤魔化した。
「かなめ。相良のことで悩んでるならわたしに話して」
「ラピス……」
かなめはラピスの言葉に感動した。
「わたしがあのストーカーをシメてあげるから」
「…………えっ?」
「この前もロンゲの変態をシメたの。両腕と足の関節を外してやったの」
自分の友人が危ないことを言い出した。せっかくの感動が台無しだ。
「あの~、何の話を……」
「そしたらね、これくらいいいハンデだ~、とか言い出すの。アレはマゾね。だからお望みどおり絞め落としてやったの」
「………」
「だから、いつでも言って。瞬殺でもなぶり殺しでもどっちでもいいよ」
「ラ、ラピス……」
その時、突然機体に振動が走り生徒達がざわめきだす。
「おいおい!傾いているぞ!!」
「………!」
「大丈夫よ。これくらいなら」
椅子にしがみつくように体を縮める恭子を見て言う。
「……うん」
「変。こんなに天気がいいのに」
それから数時間後。
(おかしい、さっきから山しか見えない)
窓の外を見ていたラピスは疑問をいだいていた。
「ねぇ、カナちゃん?」
「ん?」
「沖縄ってまわり海だよね?」
「あたりまえでしょ」
「でも、さっきから山ばっかだよ?」
(他の生徒も気づき始めた。明人に連絡しないと)
そしてラピスはカバンを開けた。
天河明人はそのとき複雑な胸中にいた。
(二度もハイジャックを経験する人生って……)
一度目は新婚旅行のとき。火星行きのシャトルを北辰達が乗っ取った。その後爆破され、表向きは事故となったが、ある意味ハイジャックだろう。そして今回が二度目である。
(俺の人生は呪われてるのか?)
明人がネガティブになっていたとき。
(明人)
(ラピス?)
(うん)
ラピスとのリンクがつながった。かつて明人の五感をサポートするため二人はナノマシンによって感覚を共有していた。
この世界にジャンプアウトしたときそのリンクが切れてしまった。明人の五感もある程度治ったためそのままにしておいた。
(リンクが!?ラピス、いったいどうやった?)
(コミュニケを使ってダッシュ経由でつなげてもらった)
ラピスは緊急事態のために常にコミュニケを所持していた。そのコミュニケからネルガル本社のダッシュ、軌道衛星、明人といった順にリンクをつなげたのである。
(よく思いついたな)
(前にダッシュと考えたの。それより明人、この飛行機のことだけど)
(ああ、どうやら。ハイジャックされたようだ)
(どうするの)
明人にラピスの不安という感情が流れ込んでくる。
(ラピス、実はかなめちゃんは狙われている。このハイジャックも彼女を狙ったものだろう)
(!?)
(詳しい事は俺にもわからん。だが事実だ。相良宗介も犯人の仲間である可能性が高い)
ラピスは困惑した。クラスメイトの二人がこのハイジャックに関わっているのだから無理もない。
(この飛行機が何処に向かってるかわかるか?)
(うん。このままだと北朝鮮の順安航空基地に着く)
北朝鮮―――朝鮮民主主義人民共和国、民主主義と言っているが本当は独裁国家である。
(まずいな。救援を呼べんぞ)
(でも人質の数が多すぎる。わたし達だけじゃ無理)
(とりあえず静観だ。飛行中ではどうにもならん)
(わかった)
そして、903便は順安航空基地に着き、乗客達は現状をを知ったのである。飛行機がハイジャックされた事を……