5月13日 2055時(西太平洋標準時)
西太平洋 <ミスリル> メリダ島基地 第一会議室
この日、ミスリルの作戦部及び情報部の幹部が会議を開いていた。
その中にはテレサ・テスタロッサもいる。
「で?ネルガルについてわかっているのはこれだけかね」
報告書を見た作戦部部長ジェローム・ボーダ提督はうなり声を漏らす。
「ええ、以上です」
情報部の報告に作戦部の面々は明らかに不満そうだ。
先日の順安事件から2週間がたった。
作戦そのものは成功したのだから問題はない。乗客は全員無事だし、『千鳥かなめ』の情報操作も行った。
しばらくは彼女も安全だろう。しかし、この事件において最大の問題が残っていた。
ネルガルである。
この事件に関わった現会長、天河明人。
そしてその義妹、天河・ラピス・ラズリ。
2週間の間、情報部は彼らの事を調べ上げたのだが、満足のいく情報は皆無だった。
「天河明人。たった3年でネルガルを世界屈指の大企業にし、各方面で話題になった男。その名前を知らぬものはいないが本人は表舞台に出ることがないため顔を知っている者は皆無」
「この程度の事は我々でも把握しているよ」
作戦部の人間が皮肉を言う。
「後は<トゥアハー・デ・ダナン>戦隊のM9と互角の性能を持つAS、そして<ダナン>以上の潜水艦を所持している事。それに同AS部隊以上のパイロットであることぐらいですかな」
「……」
情報部も負けてはいない。
「もういい」
ボーダ提督は周りを一括した。
「ミスリルの情報部でさえ調べる事が困難なのだ。我々が争っている場合ではない」
「そうですな。もう少し建設的な話をしましょう」
「しかし、これだけの物を見るとネルガルにはウィスパードが協力しているのでしょうな」
「会長の義妹が候補ですからな」
「おまけにその友人が『千鳥かなめ』とは」
「やっかいですな」
「日本政府に圧力をかける事はできないのですか?」
「むずかしいな。一応パイプはあるがこの前の選挙がな…」
「たしか自民ではなく新党が勝ったのだろう。党首はたしか元東京都知事の…」
「あの男はたしかタカ派だったな」
「国のトップが変わっても、組織全体が変わるわけではないだろう。外務省などいい例だ」
「そのとおりだ。あの国は平和ボケした国だからな」
「まて!話が脱線してるぞ!」
議論が白熱している中でテッサは、
(くだらない……こんな議論に意味なんてないわ。情報部もあてにならないし………<ダーナ>はどうしてるかしら?ここに来る前にハッキングを命じたけど…)
ひとり今後の戦略を思考していた。
同時刻
東京都 ネルガル本社ビル
『おや???』
突然ダッシュが不可思議な声を発する。
「どうした?」
声をかけても返事がない。
「ダッシュ?」
『………何でもありません』
「?…まあいい。それよりミスリルの本拠地は見つかったか?」
『不明です』
「まだわからないのか」
『この手の組織は大抵ヨーロッパにあるのですが…』
「見つからないと?」
『いえ。このような組織がたくさんありまして…ハッキングに手間どってるんですよ』
「そうか…」
溜め息を吐く明人。
『もしかしたら、別の地域かもしれませんね。ラピスがいれば楽なんですけど…』
「それはダメだ!」
『そうですよね。やっぱし』
MCであるラピスがダッシュと組めば1週間で世界経済を崩壊する事ができる。それだけの力を持っているのだ。
しかし明人はラピスに普通の生活をさせたかった。このような裏の仕事を手伝わせるわけには行かない。
「まあ、気長に待つよ。後は?」
『え~っと、グレイさんからの報告ですね。エステバリスの実働データです』
「ほお、中々のものじゃないか」
AS-02:エステバリス
明人達がいた世界における<蜥蜴戦争>で地球側の主力だった人型機動兵器である。
ASの技術を取り入れており、IFSはもちろん、マニュアル操作でも動かす事ができる
元の世界と同じく陸戦、空戦、重機動の各フレームを造るはずだったがコスト面や整備する人間にとって複雑すぎるとの声もあり陸戦フレームを基本に造り上げた。
もちろんロケットパンチことワイヤードフィストも装備している。
「これで熱光学迷彩が付いていれば完璧なのだが…」
『光学迷彩マントはありますが、待ち伏せにしか使えませんからね』
元の世界では光学迷彩マントがある。だが、エステとは別のパーツな為それだけ持ち運びに不便であるし、車両や航空機に応用がきかない。
「ミスリルはその技術を持ってるんだよな…」
明人はミスリルが撤退する時に彼らの輸送ヘリが空中に溶けていくのを見ていた。
『ええ』
「ウィスパード…だな」
『まず間違いなく』
「ミスリルにハッキングを仕掛けた際にその技術を…」
『ゲットするんですね?』
「ああ。色々便利だアレは…」
『そうですね……ミスリルの事は私に任せてください』
おまけ
『でもマスター。ワイヤードフィストって必要ですか?』
「あまりないな」
『じゃあ何で取り付けたんです?』
「ロマンだ」
『………』
「冗談だ。奇襲とかに使えるだろ?」
『まあ、いいですけどね…』
あとがき
とりあえず幕間です。
リアルで色々忙しいです。
あとがき(その2)
Mさんのご指摘により光学迷彩マントというものの存在を知りました。ありがとうございます。
私はナデシコのゲームはやったことがないので今まで知りませんでした。
一応ハリー・ポッターが持ってるヤツをイメージしましたがどうなんでしょう?