ブラックサレナが戦場をかける。その飛翔は旋風がごとき。古代火星人たちが敵対した彼等の力を以って、半分の0.5パーセクをいう光速でも達することのできぬ領域を知覚し、すべてへと照準を向け機動兵器を破壊し、追従するエステバリスが動力アンテナや改良型バッタエンジンを破壊し損ねたそれらを壊す。
「パージ」
拘束具に捕らえられた手甲、己が手が握るハンドル型のIFSコネクタに指示して、補助ユニットを排除する。
航空機型のレールカノン運用推進ユニットがブラックサレナとの融合ボルトを解除して、衝撃吸収素材をゲルに変換させた後にパージされる。
ユニットはそのままブラックサレナをおいて帰還行動へと移る。
反転。今まで向いていた視界を上方から下方へと変換される。
弾薬などの実体弾はもうない。テールバインダーとハンドガンのみ。
エステバリスを連れて、オーディンは十三番隔壁へと侵入を開始する。
「エステ1、2、ついて来い。あとはユーチャリスの防衛。」
「し、しかし、わたしは。戦い「黙れ。」」
反論の言葉を一蹴する。声は女であり、この戦いに命をかけていると言っていい。その覚悟をもっている者だった。
「私情は良いが、今は仕事だ。しっかり働け。」
アキトは殺人などを割り切って行うために、「仕事」として行っている。確かに殺すことは楽しいと否定できないときもあるが、そんなのは狂気に飲まれたときだけ。こまめだけが頼りだったテンカワキトは惰性と怠惰という分別を身につけていた。
だからこそ、境界を設定することで無関心にも、家族にも、人間にも、そして殺人者である軍人にもなれる。
「いくぞ、敵の本陣に。」
狭い隔壁の中へと進入を開始する。
防衛用のクーゲルはすでに攻撃を停止させている。システムハッキングは、ラピスにより気づかれないように進行させているのだ。
「艦長の位置は分かります。それに状況も分かります。けれど・・・」
ハーリーは格納庫に待機するエステバリスのサブロウタの報告していた。
「だから、どうしたんだよ。」
サブロウタがハーリーの煮え切らない言い方に思わずいらだったように言った。
「報告してくれ。マキビ少尉。」
もうひとつ展開したウインドウの向こう、アマリリスにいるジュンも聞いてくる。
「敵に四方を囲まれ、映像データーが省略されています。敵による妨害でしょう。そして、こちらの応答にかかわらず、ファントムは外部対応用データを送って、こちらも質問にそれを回答として送信しています。
ですが、ファントムとの相互通信ができないんです。」
「それは・・特務部隊としての規定かもしれない。」
闇に動く特務部隊の存在などジュンも始めて、ユーチャリスの活動とコードを見せられたときに知ったのだ。
その存在はあまりに鮮烈に戦い、殺戮を振りまき、平和を守ろうとする意思と憎しみや恨みといった感情を撒き散らすものだった。
彼等自身が悪い人間ではない。だが、その敵対する相手によって彼等の非常さや非人間のような対応が相対化するのだ。
「ユーチャリスの対応はどうなんだ?」
サブロウタの声にあわせるように、ウインドウがもうひとつ展開する。
「特務部隊ファントム、大尉のヤマサキです。」
ウインドウの向こうにいたのは、3人が始めてみる顔だった。
整髪剤によって整えられた髪と、切れ目で笑みを浮かべるさまは一般のサラリーマンをイメージするかもしれない、どこか病院にいそうなイメージを受ける。
「ホシノ少佐に関してはこちらも理解しています。」
「では、対応を。」
ジュンの声に、ヤマサキは「おや」と初めてあわせる顔に驚いて見せ、にこやかに対応した。
「まあ、性急を求めるのも結構です。ですが、こちらはこちらで対応しています。遺跡の確保。」
ウインドウが追加され、ハーリーが言っていた妨害されていた内部映像が投影される。そして、その内部と現在行われていることも。
一同が内部の様子をみて絶句する中、ヤマサキは口に出す。
「ミスマルユリカ、およびホシノルリの確保ということにもなりますがね。ちなみにミスマルユリカは最悪の場合殺傷許可が出ています。」
「それを、誰が許した。」
ジュンはそれを聞く。誰がそれを許したのか、許せる立場にある者を想定できるからこそ聞いた。
「ミスマル提督です。」
ジュンは渋顔をつくって、無言でうなずくようにした。
「了解した。ホシノ少佐の確保をお願いできるか。」
「了解です。」
どこかで誰かがくるくると世界を回している。
その劇を誰が見ているのか、演じているのかなど知らない。
ただ自身の道を行くしかできない。
「どうして・・・」
ハリの力ない声が大人3人の憐憫を切開した。
カンソープリーズ!kannso Sil dux ples!
多分スペル違うね。