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No.33683の一覧
[0] 三千世界の女神 [灰色](2012/08/10 02:14)
[1] 第01話 過去では無い過去へ[灰色](2012/07/04 18:00)
[2] 第02話 神妙不可思議にして胡散臭い男?[灰色](2012/07/04 18:02)
[3] 第03話 テンカワ兄妹[灰色](2012/07/04 18:03)
[4] 第04話 暑苦しい人、登場![灰色](2012/07/04 18:04)
[5] 第05話 いたってシンプルな作戦[灰色](2012/07/04 18:05)
[6] 第06話 まずは荷解きから[灰色](2012/08/10 02:15)
[7] 第07話 ジュンの初めてのお留守番[灰色](2012/07/04 18:06)
[8] 第08話 ジュンとアカネの大ピンチ[灰色](2013/02/16 20:21)
[9] 第09話 夕方5時の再放送[灰色](2013/02/17 10:14)
[10] 第10話 青い地球も金次第[灰色](2013/02/16 20:25)
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[33683] 第07話 ジュンの初めてのお留守番
Name: 灰色◆a97e7866 ID:b190063f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/04 18:06
艦内放送で銃を突きつけられるブリッジクルーの姿が放送されている。

『はあ…いやはや全く、困りましたな、これは。』

その中で、プロスペクターは普段と全く変わらない調子で溜息を吐いた。

『これは重大な契約違反ですぞ?』

『契約というものは、対等な力関係の者同士でこそ、対等に機能するものでしょう?
 違ったかしら?』

抗議するプロスペクターに、ムネタケはニヤリと笑いながら返答した。

『ま、それもそうですな。
 対等な力関係があってこそ、契約相手の不履行に対する制裁が成立するわけですし。』

『物分りが良いのは好い事よ。』

プロスペクターがムネタケの物言いにあっさり頷いたのを見て、ムネタケは満足そうに笑った。

『じゃあ、艦長をここに呼んで。
 この艦を引き渡させるのよ。』

『おや、何を勘違いしていらっしゃるのですか?』

プロスペクターはムネタケの物言いに、惚けた表情で首を傾げて見せる。

『関係が対等でないのであれば、対等以上の関係に天秤を戻せば良いだけの話なわけですが。』

プロスペクターはそう言うと、ゴートに目配せする。
合図に気づいたゴートが、パンパンと二回手を叩いた。

『よしお前達、芝居は終了だ。
 直ちに原隊に復帰せよ。』

『ハッ。』

ゴートの一言と同時に、連合軍の兵士が一斉に銃を下ろす。

『ど、どういう事?
 あんた達、何で勝手に銃を下ろしているのよ!?』

『そりゃまあ、彼らはこのナデシコの警備班ですしな。
 ま、これで取り敢えず、艦内における関係は対等に戻ったというわけです。
 めでたし、めでたし。』

プロスペクターがそう言うと同時に連合軍兵士達は顔につけていたマスクをバリッと剥がした。
その下から出てきたのは、勿論全然違う男達の素顔である。

『目出度くないわよ!
 私の部下達はどうしたの!?』

『艦内でひとつの区画に集まって武器を持っていたので、催眠ガスで眠って頂きました。
 現在、脱出ポッドの中にて、冷凍冬眠状態でお休みされております。』

『わ、私の完璧な作戦が…。』

プロスペクターの説明に、愕然とした表情でムネタケがくず折れた。

「ぶい。」

そんな彼の後ろでルリがこっそりとVサインをしていたりするが、勿論誰も見ていない。
おちゃめな所は人に見せない、そんな思春期少女なルリだった。

ちなみに何でナデシコに冷凍冬眠装置が運び込まれているかというと、火星で避難民を発見した場合に冷凍冬眠状態で眠っていて貰うためである。
クルーを食わせる物資は積み込んでいるが、場合によっては数千人規模になりそうな避難民を地球帰還までの1年間もの間食わせる物資は積み込め無い。
なので地球に送還する迄の間は眠っていて貰おうという寸法である。
冷凍冬眠装置は折り畳み式で、火星から地球まで向かう為に用意された食料庫のデッドスペースを有効活用することになっており、2千人の収容が可能とされている。

今回の件は、場合によっては再び地球に戻るまで彼らを解放出来ない可能性があるので、手っ取り早く何も出来なくする為の手段として冷凍冬眠装置が使用された。
冷凍された連合軍人達にしてみれば、ナデシコを制圧しようとしたら不意に眠たくなって目覚めたら2年後とか何それ怖いといった風情だ。
少々強引だが、保安上仕方の無い合理的な措置である。




「まあ、事の顛末を話すとだな…連合軍から出向してきた人員が反乱起こすと拙いだろうと、アキトから指摘があったわけだ。
 プロスペクターさんは、その可能性は低いであろうとは言っていたがね。
 万が一の可能性で備えられるものに備えておくのは、安全保障の基本だろう。」

一方食堂では、コウスケがのんびりと煎餅齧りながら茶を啜っている。
ブリッジの喧騒も何のその、物見遊山の雰囲気である。

「それで艦長がルリちゃんに頼んで、連中を見張っていたら案の定というわけ。
 …で、艦長。
 何でここに居るんだ?ブリッジ行けよ。」

そう言いながらアキトも、自分で作った芝麻球チーマーチュウという中華風揚げ胡麻団子を頬張った。

「艦長と副長が一緒の場所にいて、同時に身柄確保されたら困るだろ?
 コレでいいの、コレで…あむ。」

コウスケは、アキトの皿から胡麻団子を取って頬張る。

「なるほどー…って、何で私だけノケモノなの?」

不服そうに眉をしかめると、アカネもアキトの胡麻団子を奪う。

「ちょ、おまえら!?
 俺の特製芝麻球チーマーチュウを…。」

「あむ…ケチケチしない、減るもんじゃなし。
 いやー美味しいね、アキトの胡麻団子。」

香ばしい胡麻の風味と、中に入った甘い餡にアカネも大満足である。

「減るよ、芝麻球チーマーチュウが…まあ、良いけど。
 …って、言った傍からもう一個持って行くか!?」

情け容赦なくアキトの胡麻団子を奪っていくアカネ。

「ああもう、他の人にもおすそ分けしようと思って作った分まで…仕方が無い、後で作り足そう。
 まあそれは兎に角として、こういう黒い事は俺達に任せとけって事だよ。」

アキトはアカネの頭をぽふぽふとしながら、そう言った。

「む、子ども扱い?」

「まあ実際、俺達より年下だろ。」

コウスケもアカネの頭をぽふぽふし始める。

「二人して人の髪を弄るなー!
 無造作に見えて、これでも結構セットに時間かけてるんだからね!」

「おっとっと。」

「すまんすまん。」

アカネがうがーっと吠えると、二人は手を離す。

「つまりさ、裏で動くのは二十歳超えてからで良いって事。
 大体、アカネは他にもしなきゃいけない事がいっぱいあるんだから、わざわざ増やす事は無いさ。」

「そういうこったな…お~い、ジュン?」

『あ、コウちゃん、何?』

コミュニケが繋がり、ジュンの顔の映った映像が浮かび上がる。

「終わったか?」

『うん、ちょっとびっくりしたけど終わったよ。
 副提督は冷凍冬眠装置に連れて行ってもらったから、大丈夫。』

聞きようによっては鬼のような台詞を吐きながら、ジュンがにっこりと微笑んだ。
この世界のジュンは元の世界のジュンよりも、こういう場においては肝が据わっているようだ。

「抵抗、しなかったか?」

『呆然としていたから、簡単だった。
 と言っても、私がやったわけじゃないよ。
 ゴートさん達がやってくれたの。』

かくしてムネタケ副提督以下、連合宇宙軍の面々はカチンコチンに凍った状態になってしまったわけだった。
下手すりゃ目覚めるのは二年後である…南無南無。

「さて…と、んじゃそろそろ行くか。
 出来ればアカネも来てくれ。」

「んぉ?どうかしたの?」

胡麻団子を頬張りながら、アカネはコウスケに問い返す。

「作り足すどころか、作り直しだな、こりゃ…。」

アキトが泣いているが、それは無視である。

「多分だが、親父が来る。
 ナデシコに行く直前でアカネを乗せるのが親父にバレたから、今は携帯切ってるし。
 親父はアカネに甘いからな…。」

「えーと…あんなに優しいコウイチロウ小父様に何する気なの、コウ兄ちゃん?」

最後の胡麻団子をテッシュで包んでポケットに入れながら、アカネはコウスケに尋ねる。

「結局、殆どアカネに食われた…。」

落ち込んでいるアキトは無視である。

「だから、優しいのはアカネに向けてだけだっつうの。
 俺とは結構喧嘩してるだろ、親父。
 それは兎に角として、質問の件だが…アカネを盾にしつつ、親父と交渉する。」

「おう…相変わらず極悪だねコウ兄ちゃん。」

胡麻団子の食い過ぎで少々膨らんだ腹を押さえながら、コウスケの言い分に感心した声を上げるアカネ。

「アカネが火星の人達を心配していた事は親父も知ってる。
 悪いようにはしないさ…交渉は決裂だろうが。」
 
「決裂するのに、悪いようにはしないの?」

アカネが不思議そうに首を傾げる。

「話が纏まる筈が無いのは、親父だってわかってるさ。
 …まあ、何とかなるだろ。」

そう言って、コウスケはブリッジに向かって歩き始める。

「あ、待ってコウ兄ちゃん!」

アカネもその後に付いて行ったのだった。

「一つ情報リークしただけで、随分とまあ展開が変わったもんだ…。」

その二人を見送ったあと、アキトはボソッと呟く。

「まあ取り敢えず、芝麻球作り直しますかね~。
 それとも壽桃にするかな?」

アキトはそんな事を言いながら、厨房へと向かって行くのだった。




「お待たせ~…親父は来たか?」

ブリッジに入るなり、コウスケはジュンに訪ねる。

「ううん、まだコウイチロウ伯父様は来ていないみたい。
 ルリちゃんが、各種センサーで探索中だけど…。」

「重力波ソナーに感あり、質量的計測にて照合…一致。
 連合宇宙軍の戦艦1に駆逐艦2です。
 100km程先の海中にて潜行中、こちらに向かってます。」

ジュンが見つかっていないと言うか言わないかのうちに、ルリからの追加の報告が入った。
空中に浮かぶ映像に周辺海域の地図とナデシコの位置、海中で潜行中の連合宇宙軍艦艇の位置が表示される。

「すげえな、重力波ソナー…。」

「海水という密度変化の激しい大質量の中を走査しているので、オモイカネの演算力をもってしても精密に走査出来る距離はこの程度です。
 大気中や宇宙空間であれば、探査距離は数百倍まで跳ね上がります。」

重力波ソナーの性能に感嘆するコウスケに、ルリが淡々と答える。
 
「さすがホシノ君、詳しいな。」

「いえ、オモイカネからの受け売りです。
 私、少女ですから。
 あと、呼び方はルリでいいですよ、あまり苗字で呼ばれるのは好きじゃないので。」

コウスケからの褒め言葉に、ルリは淡々と返答する。
ついでに半ばネルガルに自分を売り払った養父母のものなので、あまり好きではない苗字で呼ばないようにやんわりと要求する。

「いや、受け売りでも何でも詳しいのは良い事だ、よくやったルリ君。
 さて、親父に呼ばれるか、親父を呼ぶか…ジュン、アカネ、どっちが良い?」

「いや、ジュン姉ちゃんは兎に角、私に聞かれてもわかんないよコウ兄ちゃん。」

コウスケの問いに、アカネは困った表情で言う。

「そんなに難しく考えなくてもいいぞ?
 親父と会うのが早くなるか遅くなるか、その違いだけだから。」

「じゃあ、早い方で。
 コウイチロウ小父様と会うというよりも、連合宇宙軍との折衝でしょ?
 遅ければ得出来る事でも無さそうだし、疲れる事なら早く始めたほうが良いと思う。」

「あ、私もアカネちゃんと同じで良いよ。」

アカネの返答に、ジュンも続く。

「よーし、わかった。
 じゃあルリ君、重力波ソナーをアクティブで、振動として伝わるように調整して連合宇宙軍戦艦と思しき船に数回打ってくれ。」

「諒解。」

ルリが頷くと同時にナデシコは舳先を連合宇宙軍が居る方に向け、グラビティブラストの機構を利用して重力波振動を連合宇宙軍戦艦に照射した。

「慌ててる慌ててる…連合宇宙軍戦艦、急速浮上を開始。」

連合宇宙軍の戦艦としては、いきなり謎の重力振動に襲われたのだから堪ったものではなかったのだろう。
戦艦の異常事態に反応して随行艦も一緒に浮上を始めている表示が、映像としてブリッジ内に流れる。

「流石は親父。
 潜水による目眩ましが通用しないとわかって、浮上して身分を明かす方向に変更したか。
 ルリ君、連合宇宙軍戦艦が浮上次第、IFF(敵味方識別)を確認。
 恐らくはリアトリス級のトビウメだとは思うが…。」

「IFF確認、連合宇宙軍リアトリス級戦艦、艦名はトビウメです。」

リアトリス級戦艦トビウメは連合宇宙軍第3艦隊の旗艦である。
そんでもって第3艦隊は現在、東アジア一帯の管轄を任されている。
わかりやすく言うとミスマル・コウイチロウ中将は、連合宇宙軍における東アジアの責任者なのだ。

「トビウメよりナデシコに通信を開くようにとの要請が入っています。
 開きますか?」

「うむ、開いてくれメグミ君。」

メグミからの報告に、コウスケは頷いた…耳を押さえて。
アカネとジュンも耳を押さえる。

『アカネエエエエエエェェェェェェェェェェェェェ!
 大丈夫だったかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!?』

回線を開いた途端、ブリッジ内に洒落にならない大音量が響き渡った。

「きゅう…。」

ヘッドフォンを被っていて直撃を食らったメグミが気絶する。

「何?何?何これ、新手の兵器?」

何とか咄嗟に耳を押さえる事に成功したミナトが、狼狽した声を上げる。

「艦長たちが耳を押さえるのを真似していて良かった。
 教えてくれて有難う、オモイカネ。」

指で耳を塞いでいたルリがお礼を言うと、《どういたしまして》という文字が書かれた映像がルリの前に現れた。

「しまった…ついいつもの癖で耳塞いでいて、周囲に親父の音波攻撃教えるの忘れてた。」

「あー、レイナードさん倒れてる。」

「ごめんなさい、メグちゃん…。」

良い軍人の特徴として、《声がでかい》というものがある。
砲声轟く古代の海戦なら兎に角、通信設備の充実した宇宙戦艦の中で声がでかい必要がある場合など滅多に無いのだが、今でも伝統で何となくそういう事になっている。
そしてミスマル・コウイチロウという男は、まず声のでかい男であった。
通信機を使わなくとも、艦の全域に通信を行き渡らせる事が出来ると言わしめるほどの声量の持ち主である。
そのオペラ歌手に匹敵する声量の全力全開が通常の通信用に増幅されると、このような悲劇を引き起こすのだ…。

「親父、声がでかい。
 ボリューム絞れ。」

『やかましい莫迦息子。
 アカネを巻き込むなと言っただろう。』

迷惑そうな表情でコウスケが抗議するが、コウイチロウはそれを一蹴する。

『…と、それは取り敢えず置いておいて…連合宇宙軍第三艦隊司令、ミスマル・コウイチロウ中将である。
 ナデシコに告ぐ、貴艦は現在我々第3艦隊の包囲下にある。
 直ちに武装解除し降伏せよ。』

「第三艦隊司令官へ告ぐ、当方の航海計画に降伏の予定は無い。
 とっとと帰って飯でも食ってろ。
 具体的に言うと冷蔵庫にアカネが作った茸炊き込み飯の冷凍した奴があるから、それをレンジでチンしてくれ。
 親父の好物だからって、アカネが作り置きしておいてくれたんだぞ、有難く思え。」

「コウイチロウ小父様には何時もお世話になってるもの、当たり前よ。」

コウイチロウからの降伏勧告に、コウスケは冷蔵庫に入っている茸炊き込みご飯のある場所で応えた。

『アカネの炊き込みご飯美味いんだよなぁ…ではなく、どうしても降服しない気か?』

「お生憎様だが、そちらが送り込んだ制圧部隊は制圧したから、期待しても無駄だぞ?」

コウスケがそう言うと同時に、カチンコチンに冷凍されたムネタケの姿が映る。

「捕虜は全員、冷凍冬眠中だ。
 スペースの無駄だから、返還請求があればすぐ応じる。」

『ううむ…余りにもあからさまだったから、正直あまり期待はしておらんかったのだが。
 これはまた見事な凍りっぷりだな…。』

こちらの世界では、あまり期待されていなかったらしい。
ちょっと可哀想である。

『なあコウスケ、そしてアカネ。
 お前たちが火星に行きたいという気持ちは、パパにも良くわかる。
 だがな、現在連合宇宙軍には木星蜥蜴とまともに戦える艦艇が一隻も無いのだよ。』

「だから取り敢えずビッグバリアで防いでいる間に入渠させて、今ある艦艇に相転移機関とグラビティ・ブラストを搭載するんだろうに。
 だいたい、このナデシコじゃあ色々と新基軸過ぎて、連合宇宙軍艦艇との共同作戦はとりづらいぞ。
 うちみたいな企業なら兎に角、こんなガチの試作兵器に頼っちゃ駄目だろ、軍が。」

軍という組織が欲しがるのは、実は画期的な新機軸をこれでもかと盛り込んだだけの兵器ではなく、武人の蛮用に耐えうるだけの耐久力を持ったある程度熟れた兵器である。
勿論強力である事に越した事は無いが、強力でもしょっちゅう壊れるようなものは、生死がかかっているだけにおっかなくて使えないのだ。

『いやまあ、そう言われるとその通りなんだがなあ。
 改装したリアトリス級でも、ナデシコには全く及ばないんだぞ?
 上が欲しい欲しいと言う気持ちもわかるんだ。』

「ンな事言ったってなあ…。」

コウイチロウとコウスケは、お互いに眉をひそめて困り切った表情を浮かべている。

「では、交渉ですな!
 困った時は利害調整をするに限りますぞ!」

唐突に現れたプロスペクターの眼鏡が、キラーンと光った。




「…で、コウスケとアカネとプロスペクターさんはトビウメに行っちゃったと。」

「うん、そういう事なの。」

アキトにブリッジで質問され、ジュンは苦笑を浮かべて応えた。

「アオイさんは、何でナデシコに残ってるんですか?」

《俺の記憶が正しければ、前回はユリカとジュンが一緒に行って、しかもジュンは置き去りにされたよな~》とか思いながら、アキトは尋ねる。

「え?艦が稼働中なのに、艦長が出かけている時に副長が一緒とか有り得ないじゃない。
 指揮官が居なくなっちゃうわけだし。」

「はー、そういうものなんですか。」

《そういや前回はユリカがマスターキーを抜いていったから、艦が止まっていたんだっけか》と、アキトは思い出していた。

「うん、そう…って、あれ?
 アキトさんって、あんなにエステバリスの操縦上手いのに、軍人じゃないの?」

「ああ、俺は民間テストパイロット上がりですから、軍の常識には疎いんですよ。」

アキトは何だかんだで、まともな軍事組織に属した事が無い。
ナデシコに乗っている間もそうだし、復讐者と化してからはラピスと二人きりの軍事組織という凄まじく歪な構成だったからだ。

「これからはある程度軍隊っぽくしなきゃならない場面もあるだろうし、そういう時はご指導ご鞭撻の程、宜しくお願いします。
 …つーか、艦長に聞くと嘘教えられそうだし。」

「くすくす、そうだね。
 コウちゃんなら、そうしそう。
 あと、私の呼び方はジュンで良いよ。
 アキトさん歳上だし、そんな畏まった口調でなくても良いから。
 ナデシコは軍艦のようなものであって、軍艦じゃあないし。」

困ったように後頭部を掻くアキトに、ジュンはくすくす笑いながらそう言った。

「わかった。
 で、何で俺は呼ばれたわけ?」

「うん、実は気になるものが海底にあって、アキトさんにも確認して貰おうかなって。
 ほらアキトさんって、この艦では実戦士官相当じゃない。
 ルリちゃん、例のものの投影お願い。」

「諒解。」

ジュンの指示で、重力波ソナーで捉えられた物体が三次元的に投影される。
それはチューリップと呼ばれる、木連が使用する空間跳躍装置だった。
平行世界から来たアキトにとっては、お馴染みの装置である。

「チューリップか…。」

「うん、現在は休眠しているみたいなんだけどね。
 休眠状態だったチューリップが再起動した例は過去に何度もあるから、アキトさんにも確認して貰おうと…あっ。」

チューリップの一部で爆発のようなものがあった直後に、ふわりと浮上を開始した。

「ええっ!?
 本当に再起動したの?」

「チューリップ再起動、連合宇宙軍の軍艦が何か余計な事やっちゃったみたいです。」

驚くジュンに、ルリが淡々と報告する。

「えーと、余計な事って?」

「折角だから、チューリップを捕獲しようとしたみたいです。
 …で、アンカー打ち込んだら、目を覚ましたみたいですね。」

ジュンが恐る恐る尋ねると、ルリがやはり淡々と答える。

「あちゃー、余計な真似を。」

「折角だからって、コンバット越前じゃあるまいし…。」

メグミとミナトが呆れている。

「え、えーと、アキトさん…私どうすれば?」

ジュンは咄嗟に近くに居るアキトに指示を仰いでしまった。
指揮する事に、まだ慣れていないらしい。

「え?うん、取り敢えずディストーションフィールド展開…したらコウスケ達が戻れないから展開はしないで、グラビティブラストのチャージだけでも始めちゃどうかな?
 あと、全艦戦闘態勢への移行を通達、エステバリス隊は発艦準備。」

アキトは聞かれたので、思わず指揮してしまった。

「う、うん。
 ルリちゃん、グラビティブラストのチャージ開始!
 メグミちゃん、全艦戦闘態勢への移行を通達して!
 アキトさん、エステバリスをお願いします!」

『諒解!』

ジュンの指示で、全員が仕事を開始する。
空中に浮かぶモニターには、チューリップに吸い込まれるクロッカスとパンジーの姿が映っていた。


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