「生きたとして、なにをしたいかわからない。」
「そう。」
リンクの会話でもわかる。
アキトはまったくどうしていいのかわからない。この先自分がどうやって生きていけばいいのか、わたしがどうして欲しいのか。
過去の世界に来たのは、理解している。
わたしが教えてあげたネットワークのアクセス方法で、現在の世界情勢をアキトは理解している。
「アキト。わたしは、アキトに生きて欲しいだけ。一緒に居て欲しい。一緒に生活したい。」
如何すればいいのかわからない状況で、わたしはわたしの願いを伝えるしか、生きてもらうための言葉を持たない。
気持ちを伝えるというのは、恥ずかしいものだ。
衝動的な感情で脳内麻薬を分泌させながら言うのも良い。
だけど、まったくの理性から発する言葉に熱は伝わりにくい。
その考えから行けば、わたしの伝えるに、力はあまりないかもしれない。
「結婚とか、恋愛とかの心は一緒に居たいだと思う。わたしも一緒。物欲とか肉欲とか、さびしいとかいろいろひっくるめて。
一緒に居たい。
それがわたしのお願い。」
ポッドの中のアキトはぼろぼろだ。
体組織がチューリップクリスタルに変化している。
これは、イネスの施した肉体の劣化を固定させるための施術の結果だ。
肌色の皮膚がひび割れて、内部の体組織が見えるはずの割れ目から、青の色が見える。
人間から外れた外見だ。
劣化防止のためだが、これはやりすぎだという状態だ。
「アキト、肉体構成の情報はもう大丈夫な状態になっている。それに、実験も終わっているわ。」
情報伝達を行う。今までの情報収集と理論の概要だ。これらはジャンプの肉体構成メカニズムと、人体へと改変を及ぼすための入力方法。そして、人体実験を行った結果を。
「人体実験をしたのか。」
「レポートは完璧。実験体はジャンパーじゃないけど、A級ジャンパーの外部入力で実験をした。成功している。」
処理を展開する。秘められていた力だ。
外部ネットワークに接続。現在の社会情勢や、ネルガルなどの経済変動。政府が管理する市民情報や、イネスが進めているユーチャリス追加ユニットのデータ。全てが防護壁など、侵入者を阻む領域に置かれた情報だ。
そして、わたしの瞳と額のみにナノマシンの光が現れる。
「わかる?」
息をのむようなことはない。ただ、アキトはそれがどうしようもなく過ぎ去ったことであると知った。わたしの閉じていた領域が解放されて、記憶すらアキトは得た。
「実験を受けたのはわたし。マシンチャイルドの頂点に立つ効率化と、肉体の強化。外見や意識などには変化はなく、神経組織などの再構成で、運動面の強化に漸く適応してきている。」
「イネスは、つらかったな。自分からやることのない実験だ。処理能力を上げる必要もない。」
記憶のイネスは、わたしに対して申し訳なさそうだった。
エリナには、このことは言っていなかった。
ユーチャリスを横目に彼女と会ったとき。アキトと会話を続けている最中に、後ろで控えていたわたしは、身体の噛みあいが不完全に、ぎりぎりの直立を維持していた。
「アキト、やる?」
「ああ、やろう。夢はないし、未来も見えない。仕事をしなくても生きてゆける。困ったもんだ。でも、時間があればこその困っただ。見つけるためには時間が必要だ。」
やっとで説得できた。これで、やっとアキトの身体を直せる。
まず施術を受けるというので、わたしは安心した。
・・・
いいもわるいもリモコン次第。悪いのは外部の悪を書かないからかもしれない。