「ああ、この時代というのはのんきなのですね。」
ナデシコが存在した時代は戦乱の時代だ。
戦舟が活躍するために開発され、武力を発揮する世界が存在する。
ホシノルリにとって、自分の人生の仲で平穏だったのは12歳の前半。人類進化研究所にいたころが一番であった。
黙々と研究のためのデータ集積と学習が続けられる、人ではない、機械としての生活だった。
だからこそ、自分が降り立ったこの時間軸に違和感を覚えたのだった。
空を見上げればナノマシンが舞い散ったテラフォーミングされた大地。異臭を放つ地面は土壌改良のために生ごみなどを散布した区画だからだ。それを人型の機械がミキサーでするように槍を軽く落として持ち上げる作業を繰り返して攪拌させている。
「ルリ、どうしたの。」
身近に寄ってきた女の子、いや、彼女自身が相手の少女と同じく9歳に対して首を向ける。
「いえ、おかしなもので、不思議なことがあるから。」
「なんで。昨日もあの作業はやっていたよ。農地区画を広げるのと、地球から生ごみをジャンプさせるの。」
はてと思う、相手はこちらに面識がある。
ルリは探るように思い出し、研究所に一緒に来た友人であると思い至った。
「そうだね。」
はっきりと精査しないと結合してくれない記憶に辟易しながら、ルリは見逃せない単語を聞き逃さなかった。ジャンプ、この一言だ。
「ボソンジャンプが、この時代に民生利用されるような歴史ですか。やはり、ここで間違いがないようですね。」
ホシノルリ、肉体年齢9歳にして精神は17歳の元ナデシコC艦長たる彼女はこの時代に降り立った。
見上げる上空にバッタが四角に配置されたリングを輸送してくる。
チューリップ環状ゲート、ボソンリング。それは記録に残されぬユーチャリスに初めて実戦配備されたジャンプ補助機械だ。
確信に至る。
成功したようだった。彼女が伝えられた可能性の始まりを阻止することが出来る時代に行くという大前提の段階が。