「世界は過去に回帰したけれど、完全に世界が変容したわけではありません。
イネスさんは理解していました。過去になった私たちの世界もまた、主導権を
失っただけで存在し、存在するからこそ幻影としてこの世界にあらわれます。」
ラピスは幼いルリの解説を聞いて、アキトに振り返る。
アキトはその意味を吟味するように、考える。
ラピスとてこの状態は本位ではない。好きな人が好きに生きられる状況を生み出すために起こした行動だ。
慮外ではあったが、この世界が滅びようともアキトと共に居て、満足のゆく人生を歩めればいいのだ。
「どうする?アキト。」
「状態としては理解できた。いや、理解した気分になっているのだろうな。
つまりは、俺たちの去った未来は今の未来へとも続いている。そう、解釈していいのかな。」
混乱した頭ではあるが、理解を示したアキトにルリは頷く。
「はい、私たちのいた未来もまた、こちらの影響を受けました。いえ、そうなのかという
自覚はありません。イネスさんが影響を受けているというのだから、影響を受けたのでしょうね。」
ルリは悩ましい表情だ。幼い童子に身を移したが、おおよそとして彼女は変わっていない。
装飾のない表現ならば、彼女はホシノルリであるといえる知性を宿していた。
「私は覚えているんです。
ナデシコC艦長のホシノルリであるということ。
ラピスおねえちゃんの妹であり、ヒスイと一緒に楽しく暮らしたこと。
アイちゃんとヒスイと一緒に学校で学んだこと。
戦争を起こして私たちが招集されること。
ナデシコCをヒスイと共にオペレーターとして戦った記憶。
アイちゃんがボソンジャンプでの移動シークエンスで事故でいなくなったこと。
いえ、いえ、いえ、覚えて、覚えて、覚えて・・・いる、はずです。」
混乱した様子だった。いや、恐慌にあったと言って間違いはない。
口角に泡を飛ばしていた、錯乱する様。
ホシノルリという少女が思い出したのは万華鏡のような記憶だった。
彼女は覚えてるのだ。覚えているからこそ、このようにしか混乱できない。
「そうか、見えてきたな。君はメッセンジャーであり、メッセージの伝達はほぼ成功だ。もし、君が来なければどうにもならなかったな。
いた、イネスが来なくてルリちゃんが来た。これはどういう巡り合わせなのかはわからないが、つまりは偶然のか、イネスの意図なんだろうな。」
お互いに椅子に座りテーブルにコップを置いたまま、アキトはラピスを見る。
ラピスとしては、理解のつかないことだが、アキトが検討のつく結論ならば、真偽はどうかとして聞くしかない。
「それで、どういうこと?」
つづく
完結、次回でさせます。
作者自身忘れていました内容を読み、内容と紡ぐ。
主語も表現も少ない「詩」臭い文書と評されていたのを見て、なるほどといった感じです。
ちなみに、作者にょしょうにあらず。痛みばっかり見てきて、奇跡をなかなか信じないおまぬけです。
よしなに。