緩々とした日光を窓を通して浴びる中、眠気はいつもやってくる。
ここは忍者学校ことアカデミー。忍となるべく、基礎を学ぶという普通の学校。その教室の一角であるここは、最年長クラスでもあり、もうじき卒業する。しかし、ここは普通に考えずとも分かるだろう。
試験があるのだ。
毎年変わるそれだが、去年は担当の教師を相手に10分以内に一撃を浴びせること。まあ、担当となった教師によりけりだが実技のみ担当である人物に当たれば不利と言う事からハンデをつけてもらえるのだ。羨ましい限りだ、とほざくバカもいるが実際には随分と厄介だと思われる。
何故なら、教師陣は今まで見てきているのだ。生徒を。どれだけハンデをつけようとも見切られる確率は高いし、それだけの策を練らねばならない。それは面倒であるし、そう簡単に合格は出来ないだろう。事実、去年落ちた奴らが数人紛れている。恥のように思ってるのか影に隠れていることもあり、余計に駄目にしていることに気付かないのだろうか。
そんな思考回路も次第に麻痺し始める。
眠気にはそうそう勝てない、少女はよくそう漏らす。しかし、それを許さないのが教師である。だが、少女は常習犯でありながら成績は上位。これ以上ないほどに優秀であるのだから教師はいつも歯痒くいる。一泡吹かそうにも立場が立場なため一向にそういう機会はやってこない。
悲しい事実である。
「たるぃー・・・」
「めんどくせぇー・・・」
ほぼ同じタイミングで呟かれた両者の一言。それを聞き逃さない教師はギロリ、と血走らせた目で睨む。その手にはチョークしかないはずなのに、投げる構えを取った。そして。
「あーぶなーいぃー」
棒読みな少女。しっかりと手の内に握りこまれているチョークは確かに先ほどまで教師が持っていたものだ。
教師は歯軋りするとともに、悔しいのか、当て付けのように地団駄を踏む。しかし、生徒の視線は少女が独り占めしている状態であり、悲しきことかな。誰一人として教師に視線を向けない。哀れだ。
その注目の的となっている少女。名前は春野サクラと言い、くの一クラスだけでなく、学年トップの成績を持つオールマイティーな存在だ。しかしながら、性格面においては残念であり、更正及び矯正をよく教師陣から求められてるが、何分親が親だった。母親は嘗て綱手の弟子であり、父親ははたけサクモとツーマンセルを組んでいたという実績。今はもう、両親ともに故人であるがその話は割愛させてもらうとする。師匠についてもそのときに記述するとしよう。
とまあ、そんな彼女は髪が手が足が長く、色白なためか気味悪く思われそうだが、性格がそれをカバーしているためか特に省られるなんてことはない。寧ろ好奇心から話しかけるものも少なくないため浮いてはないだろう。親友を上げるならば奈良シカマルや秋道チョウジ、山中イノらであるので、いじめにも滅多に巻き込まれない。
そんな彼女のお話なのだが、今は何分授業中なのだった。
「サクラ、お前が何でここに通ってんのか甚だ理解できねーよな・・・。」
「そぉー?」
「そのバカっぽい間延びした喋り方が駄目なのか。」
「もしそぉだったらぁー、笑えるなぁー。」
「・・・メンドクセー。」
この間延びした喋り方はとにかく、癇に障るというのは教師談だ。
「・・・授業を再開するぞ。」
諦めがついたのだろう。新たに取り出したチョークを手に持ち、板書をし始める教師に生徒は置いてかれまいと食らいつくようにノートにペンを走らせた。
しかし、それでも何名かはだらけている。先ほどの二名は言わずもがな。他にいるのは旧家ばかりであるのはどう考えても集中力が養われていないのだろう。もしくは戦闘面ばかりに気をかけているのか。どちらであっても、座学の成績は悪そうだ。
「――春野、この問題を解いてみろ。」
それは故意に、難しく出した問題だった。
メンドクセー、とぼやいてばかりの少年、奈良シカマルは気難しそうな顔で眉間に皺を寄せた。その隣にいる秋道チョウジもいい顔はしていない。少しはなれたところからは山中イノが教師に向かって千本を投げようとしている姿が見受けられた。恐ろしいことだ。
だが、それは不発に終わった。
「・・・答えなんてぇ、ねぇよぉー。ばぁか。」
「なっ!!」
「そこの数式の当てはめる公式はぁ間違ってやがるし、法則にぃ反してますよぉ?理屈にもあってねぇのもあるけどぉ、一番はぁ、その説明文かなぁ?」
不条理だけどぉ?
少女のそれは教師のプライドをへし折るに等しかった。言葉遣いを気にする間もない。
教師はばっ、と教室を飛び出していくと共にコケタ。それも盛大に。それに生徒は笑を堪えることなく吐き出し、涙目で教師は去り行く。その後姿は小さく、矮小であったと後で山中イノは笑いながら話すのだが、それはまた別の話。
◇
ガヤガヤと賑わうそこは、下忍合格説明会のために用意された教室だった。
一昨日、卒業試験が催された。試験内容は至って簡単。分身体を三体以上出すというだけ。去年とは違い、ハードルの低すぎるそれに少女は眩暈がした。
「ないんだなぁー・・・。」
そしていつだったかの恥をかかされた教師はこの学校勤務を外されたらしく、今はどこで働いているのかは見当も付かない。穴埋めするかのように、そこには海野イルカが時間を削って受け持ってくれたのは、不幸中の幸いというか。
ともかく、少女にとっては僥倖だった。不安はあるにしろ、決して悪いことでもないだろう。多分。
「よし。全員揃ってるな?」
では、今から下忍合格説明会を執り行う。
「班の構成は力が均等になるよう、こちらで決めさせて貰った。」
それは生徒からのブーイングを誘う、ふざけているわけではない話だった。
正直なところ、少女にしてみれば誰と組むかなど問題視はしていない。あるとすれば、どのような戦闘タイプであり、被っていないかだ。それさえクリアできていれば文句なしで円満解決。この少女はオールマイティーなのだが、近・中距離を得意とする体術をメインとしたものだ。これも割愛。
だからこそ、場合によっては直訴も否めない。
「――第五班。春野サクラ、夏村カイ、冬島ユキ。担当上忍は秋田モミジさんだ。次、第六班。――」
誰だろうか。
少女は果てしない疑問に囚われた。
***
補足もどき
→この小説は平行世界ですので同じように歩んだりしません。ですので、このような事態に。
七班にはオリジナル転生キャラを突っ込もうと思います。
次回更新は・・・冬。