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No.36294の一覧
[0] こんなNARUTOは嫌だ[さば](2013/02/24 01:08)
[1] こんなNARUTOは嫌だ2~もう一人の化け物~[さば](2012/12/27 04:07)
[2] こんなNARUTOは嫌だ3[さば](2013/01/01 22:00)
[3] こんなNARUTOは嫌だ4の1[さば](2013/02/24 01:47)
[4] こんなNARUTOは嫌だ4の2[さば](2013/04/07 23:03)
[5] こんなNARUTOは嫌だ5[さば](2014/03/28 03:58)
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[36294] こんなNARUTOは嫌だ5
Name: さば◆cc5fc49e ID:f15c353b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/03/28 03:58
「いくら……出せます?」

 ミズキは目の前で暗く佇んでいるアカデミー生の思いもよらぬ発言に、校庭の片隅で言葉を失っていた。

 木の葉の里は新しい春を迎え、そこらじゅうに生えている新芽の数々が、その息吹を知らせている。
 里のアカデミーも例外なく春を迎え、新入生の入学と在学生の卒業の時期となった。目出度く卒業となったアカデミー生達は、卒業とともに木の葉の下忍となり、学生時代とは決別してこの春から新しい人生を歩んでいく事となる。
 アカデミーの校庭では、卒業生達やその親族が集い、それぞれが祝いの言葉を交わしたり、別れの涙を流していたりしている。春の風物詩とも言える、この時期特有のアカデミーの情景だ。
 そんな中、校庭の片隅では、情景にそぐわない異質な二つの影があった。

「里の巻物を盗めって事ですよね……そんな危険な仕事なら、それなりの見返りがあってもいいはず…………いくら、出せるんですか?ねえ、ミズキ先生」

 ミズキの内心は激しく揺さぶられていた。まさかアカデミー生に、それもアカデミーを卒業する事さえできない落ちこぼれと目していた学生に、金を要求される事になろうとは、と。教師という立場の手前、必死に冷静を装いはしているが、背中を伝っている冷や汗がミズキの焦燥を表している。
 ミズキに金銭を要求している少年、うずまきナルトは、春の陽気さとは程遠い陰湿な空気を身に纏いながら、うつむき加減にミズキと対峙している。

「ナ、ナルト君!何か勘違いしているようだね。先生はただ、ナルト君が下忍になれるよう……」
「下忍なんて、どうでもいいんです」

 苦し紛れに取り繕おうとしたミズキの言葉は、ナルトの一言で遮られる。

 ミズキは里の中忍であり、アカデミーの教師として後輩の育成に努めている。
 アカデミーでは笑顔を絶やさない良き教師として仕事をしているが、実際は腹に一物をかかえている人物である。実力はあるものの、なかなか出世できないのは、その性格に問題があると上層部から判断されているからであった。その実情を知らぬ本人は、現在の自身への評価は至極不当なものであるという考えに至り、やがては逆恨みとも言える里への反意を募らせていく。
 そして考えは、行動へと至る。ミズキは他里の忍者と秘密裏に連絡を取り合うようになっていた。そうしていくうちに、ミズキは里の秘密である術の巻物を手土産に里抜けする計画を密かに企てていた。
 しかし、平和ボケといっても、さすがは忍者大国火の国。里の秘密などそう簡単には手に入らない。そこで、ミズキは自身が巻物を盗むのではなく、誰か違う人間をそそのかして巻物を手に入れようとする。白羽の矢が立ったのが、里の問題児うずまきナルトだった。
 卒業試験の分身の術では見るも無残な結果に終わり、校庭で意気消沈している様子のナルトに声をかけ、『下忍になれる』とそそのかし、落ちこぼれ忍者であるナルトは計画通りに行動をする。はずであった。

「ドライにいきましょうやミズキ先生。いくら出せます?」

 陥れるはずの落ちこぼれ忍者から返ってきた言葉は、意外すぎるものであった。
 忍術はもとより学力等も人より劣り、他愛のない悪戯を繰り返しては周囲の反応を楽しんでいるだけの少年、うずまきナルト。素行も良いとは言えず、敬語なんかとは程遠い。そのナルトが敬語でミズキに返してきたのだ。いつもなら人と話すときは目を見て喋る少年が、目を伏せている。声の調子も普段とは打って変わり、感情のこもっていない随分と冷徹な声であった。その普段のナルトとは全く違う不自然さが、より一層のある種の不気味さとなり、話している内容も相まってミズキを戦慄させた。

「………………」

 こいつは本当にあのナルトなのか。なぜ落ちこぼれに金銭を要求されているんだ。まるで恐喝ではないか。まさかこいつは、俺が里を抜けようとしている事を知っているのか。
 焦りとともに、そんな考えがミズキの頭に駆け巡る。返す言葉なぞ出てくるはずが無かった。
 ナルトの要求を最後に、二人は沈黙したままとなる。すると突然

「おーい!イルカ先生ぇーっ!」
「!!」

 ナルトが叫ぶ。
 卒業の余韻を味わっていた生徒達は、その大半は親族とともに帰路へと着いている。校庭には仕事を済ませて校舎へと戻るイルカという教師の姿があった。
 イルカはミズキと同じくアカデミーの教師であり、その人柄の良さから生徒の信頼も厚い忍者である。

「俺は絶っ対あきらめないんだってばよー!」

 校庭を歩くイルカの姿を遠巻きに見ながら、ナルトは勢いよく手を振っている。その表情はいつもの無邪気な落ちこぼれ忍者に戻っていた。
 しかし、この行為は『いつでもタレこむぞ』という明確な意思を含めた、ミズキに対する牽制であった。

「わかった!ナルト!…………払う」

 ナルトに声をかけてからは驚きの連続で頭が回らないミズキは、慌ててナルトの言動を遮る。その顔は普段の笑みを忘れ、冷や汗とともに若干引きつっている。待ってましたとばかりに、ナルトの口角が醜く歪んだ。

「いくらです」
「…………これで、どうだ」

 両の手の指を広げてナルトの前に突き出す。内容が内容なだけに、子供のお使いなどではないのでかなりの金額となる。少しの間をおいて、ナルトの首が数回うなずいた。交渉成立であった。

「では、今日の夜に例のブツを示された森まで持っていきます。現ナマでお願いしますよ」

 冷徹なナルトの声に、ミズキはしかめっ面と舌打ちで返すのがやっとであった。願わくば一刻でも早くこの場所から、目前の金の亡者から姿を消したい。というかナルトを消したい。そうミズキが思った時に、ナルトの掌が無造作に差し出された。

「…………何だ、その手は」

 ミズキは差し出された掌を見て、汚物でも見ているかのような眼をした。ナルトを嫌う里の人間たちと同じ眼であった。

「……前金」
「チィッ!」

 この時点でミズキの顔は、完全に心優しい教師の顔ではなくなっている。こめかみには青筋が浮かび、目は充血さえしている。かろうじてミズキが理性を保てているのは、日がまだ明るいという事と、場所が校庭であったからであろう。
 ミズキは乱暴に自身のポケットに手を突っ込むと、くしゃくしゃになったお札をナルトに握らせた。

「これで何かうまいもんでも食えっ!」

 間抜けな捨て台詞であった。しかし、何か言わないと気が済まない。そう思ったミズキは既にギリギリの状態である自身の理性と誇りを守るべく、捨て台詞を吐きつけてその場を後にする。
 早々に立ち去ったミズキの後姿を見ながら、ナルトは持たされた札を握りしめると邪悪にほくそ笑む。

「でっけえヤマなんだってば」

 小声でそう呟いた。ミズキとの交渉の結果、成立した金額は果たして妥当なのか、割高なのか。ナルトにはわかっていない。なぜなら、こんな交渉を試みたのは初めてだからだ。ただ、舞い込んできた話に金の匂いを嗅ぎつけただけである。どのような金額が提示されたとしても、ナルトは受けるつもりであった。目前にぶらさがった『金』のために。多めに提示してしまったミズキは、完全にナルトに呑まれていたともいえる。
 札を握りしめた少年は、これからやるべき仕事の内容を頭に反芻させる。秘伝とされる巻物の奪取。向かう先は、目的のブツが眠る火影邸であった。

 そして、ナルトとミズキの一連のやりとりを、一人の少年が誰にも気づかれることなく始終監視していた。天才うちはサスケ。
 試験にも合格して無事に卒業できたサスケは、校庭に集う同級生達の姉や母親といった親族に欲情してしまい、ナルト達とはちょうど逆サイドの校庭で一人黙々と筋トレをしていたのだ。一族から受け継いだ無駄に良い眼を持って、ナルトが札を握らされる現場の一部始終を目撃する。
 春特有の発情と闘う少年の心理が、好奇心へと変化する。サスケの眼は、校庭を去っていくナルトの姿を追った。



「仕事なんてのは、こんなもんなんだってば」

 目的である巻物を手中に入れると、ナルトは警戒の気を緩めることなく火影邸からの脱出へと取り掛かる。その顔は普段の落ちこぼれ忍者の顔ではなく、その道のプロの貌であった。
 ナルトの仕事は驚くほど迅速で、確実で、一切の無駄が無かった。
 うっかり三代目火影に見つかってしまいお色気の術で撃退するなんて事は無く、里の上忍の眼をも完全に欺けるほどの完璧な侵入、盗難、脱出であった。
 ナルトはもともと優秀な忍者の血を受け継いでいる。金への執着がナルトの集中力を研ぎ澄まし、細胞に眠る溢れんばかりの忍びの才を、存分に奮わせた。誰に倣うというわけでもなく他人の気配を敏感に伺い、己の気配を消すという忍者としての基本的な行動が自然とできた。やっている本人はお金の事しか考えていなかったのだが、ナルトは忍者としても盗人としても高い天稟を持っていたのだ。

 例のブツを懐に収め、火影邸を出た足は足早に受け渡し場所である、依頼人のミズキが待つ森へと進む。まだ見ぬ大金に胸をふくらまし、ナルトは里を駆け抜けた。




 ナルトは受け渡し場所に到着すると、近くの適当な切り株に腰を下ろす。森の合間からは綺麗な満月が怪しく光り、木々の騒めきとともに時折フクロウの声がこだましている。
 懐に手を当てて巻物を確認すると、割と大きめな安堵の溜息をついた。

「これを元手に、一儲けできるんだってば……」

 手にした巻物を弄びながら、頭上で怪しげに光る月を見つめる。その光はこれからのナルトの道を明るく照らし、祝福してくれているかのよに思えた。
 依頼人の姿は、まだ無い。しかし、ナルトは絶対に来るという確信を持っていた。もしも来なかったら、タレこむだけなのだから。
 待っている間、『見たって減るもんじゃないんだってば』という安易な考えが頭によぎり、ナルトは巻物を開く。その巻物には術の原理や印の結び方などが記されている。忍術には興味が無いナルトであったが、この巻物がもうすぐ大金に替わると思うと眺めているだけで楽しい気持ちになれた。
 暇つぶしがてらに印の手遊びを交えながら、ナルトは月明かりを頼りに巻物を読んで時間を潰した。

「…………ナルト」
「ミズキ先生!」

 どれくらい待っただろうか。ナルトが巻物をあらかた読み終える頃、依頼人の声がナルトを呼んだ。ナルトは手にした巻物を手早くまとめると、嬉々として声のした方向に振り向く。
 そこには依頼人であるミズキが、いつもの笑みを浮かべ静かに立っていた。その手にはお金が入っていると思われる布袋を持っている。思わず、ナルトの口が厭らしく歪む。

「巻物は、持ってきたかい」

 笑みを浮かべたミズキの顔は、ナルトにはお金にしかみえなかったのであろう。ミズキは何も持っていない方の手を、静かに差しのべた。ナルトは疑うことなく巻物をその手に差し出す。そして、同時にミズキの腕が鋭く動き、布袋でナルトの顔面を振りぬいた。

 声にもならない短い悲鳴をあげ、ナルトは吹っ飛ぶようにして倒れる。布袋の中身は金ではなく、大量に詰められた石であった。ナルトは打たれた顔面を両手で覆い、痛みに耐えかねて身をよじらせ転げまわる。ミズキは相変わらず笑みを浮かべたまま、転げまわるナルトに歩み寄った。

「この化け物がっ!お前にやる金なんざビタ一文ねえんだよっ!」

 ミズキの攻撃が続く。わざと急所を外しているのか、手に持った布袋でナルトの体の至るところを打ち据えていく。ナルトはそのたびに短い悲鳴をあげ、身を亀のように丸くして守ってはいるが、ミズキの執拗な攻撃から逃げる事はできなかった。

「冥途の土産に教えてやる! お前が里から嫌われてんのはなあ…………」

 攻撃を加えながらミズキが叫ぶ。しかし、ナルトの耳には届かなかった。痛みによって聴覚がマヒしているのではない。金を払わないミズキへの憎しみが、そうさせていたた。

(なんでっ!何で払ってくれない!こいつ、払うって言ったのに……何で!何で!)

 ミズキから痛めつけられるたびに、ナルトは心の中で叫んだ。ただただ、悔しかった。金を払わないミズキが憎く、どうする事もできない自身の無力が悔しかった。悔しさのあまり、その眼からは涙が溢れ出た。
 いかにナルトが頑丈な体を持っていたとしても、いかんせん子供である。ミズキからこうも執拗に体を殴打され続けると、さすがに限界というものがやってくる。急所は外されてはいるものの、その痛みによりナルトの意識は段々と遠のいていった。

『……小僧ォォォ』

 ナルトの耳に、誰かの声が聞こえた。いや、耳ではなく、脳内に直接語り掛けられているといった方が正確なのかもしれない。その声は、とても人間の発するような声色ではなく、何か別のおどろおどろしい物騒な声であった。

『小僧ォォォォッ!』

 ミズキの容赦ない一撃が、ナルトの首元に入る。
 再びナルトの意識が飛びそうになった時、その声はまたもナルトの中で響いた。さっきよりも明確な声になっている。どうやらその声は、ナルトの腹の中から聞こえてくるようだった。

『憎かろう……約束を反故にされ、一方的に痛ぶられ……殺してしまいたいほど憎かろう』

 ナルトに語り掛けられたその声は、なんとも禍々しい声色ではあったが、ナルトは飛びそうになっている意識の中で耳にした。喚き続けているミズキの叫び声は一向に耳に入ってこないが、不思議な事にこの禍々しい声は鮮明であった。現実とは違う、別の世界の中で聞いているような感覚であった。

『小僧、わしを解き放て……力を貸してやる』

 日常生活の中でならば、耳を塞いでしまいたくなるような声。だが、今のナルトはその声を自然と受け入れる事ができた。どこかその声に懐かしさのようなものすら感じていた。

「誰だ、てめえは」
『眼を開けて、よおく見てみろ』

 ナルトの問いかけに、声の主は目を開けろという。ミズキの執拗な攻撃により、ナルトの眼は重く塞がったままであった。言われた通りに重い眼を見開くと、見えてきたのはとてつもなく大きい檻。その檻の中に、声の主と思われる化け物の姿があった。パッと見は狐のようないでたちだが、その体躯は通常の狐をはるかに超えていた。巨大な九本の尾を怪しく動かしながら赤黒い眼で檻の中からナルトを見据え、凶暴な牙の間からは涎を滴らせている。異形という言葉では片づけられない、まさに化け物であった。

『見えたか小僧……わしはいつもお前を見てきた。お前は周りの人間から蔑まれ、恨まれ、迫害され続けてきた。現に今のお前の中は、憎しみで溢れかえらんばかりであろう』

 化け物がナルトに語りかける。その迫力に押されてか、真実を言い当てられてか、ナルトは震えながらうなずくだけであった。

『もう一度言うぞ小僧……わしを解き放て……ここの人間どもを思い知らせてやろう…………わしを解き放て!』

 化け物が叫ぶ。この世の全てを恨んでいるかのような咆哮であった。

「……い、いくら、出せる?」
『…………はぁ?』

 恐怖に怯え、引きつった表情をしている少年が発した意外な言葉に、異形の狐は面をくらった。

「そ、その檻から出てぇんだろ!いくら出せるんだってばよ!化け狐ぇっ!」

 奥歯の音が聞こえそうなほどに震えている少年は、声を上ずらせながらそう叫ぶ。

『いくらって……いくらもあるけど』
「現ナマだっ!出してほしけりゃ現ナマで持ってきやがれ化け狐ぇっ!」
『……………………』

 異形の狐は考えた。今までこれほどまでに醜い、いや、己の欲望に忠実な人間がいたのだろうかと。
 人間は、醜い。夢だ、希望だ、勇気だと崇高に謳いながらも、その行動の原理は人間の持つ欲望によってである。欲によって動きながら、理想を掲げてひた隠し、そして隠しきれない欲が見え隠れするという人間の姿に、狐は憎悪していた。
 しかし、目の前で震えるこの少年はどうだろう。恐怖により顔面は蒼白し、芯から体を震わせているこの少年は。命乞いしてでもおかしくない状況であるにもかかわらず、圧倒的な力の差を目の当たりにしながら一歩も引かず、金銭を要求している。対峙している少年の姿は、恐怖に打ち勝つ欲望の姿であった!
 そして、狐の口角が緩む。

『……気に入ったぞ、小僧』

 檻の外、ナルトの足元に大量の札束が煙とともに現れる。狐がその妖力により産みだした『現ナマ』の姿。

『持っていけ、小僧。はした金だがくれてやる……儂は今まで多くの人間を見てきた………しかし、貴様ほど欲にちゅ』
「前金なんだってば化け狐っ!」

 言葉の終わりも待たず、ナルトは現ナマの山から一握りの札束を掴むと姿を消した。残されたのは、檻の中の狐と、札束の山。それ以外には何も無い。

『……………………』

 異形の狐は残された札束の山を見ながら再び考える。札束を握りしめて姿を消した少年の事を。今までこれほどまでに醜い、いや、己の欲望に純粋な人間がいたのだろうかと。
 そして、狐は嗤った。

『カカカカカ……気に入った!ますます気に入ったぞ小僧!貴様なら、儂が出ずとも楽しいものがみれそうじゃ。ちいとばかり、儂の力をかしてやろう!カカカカカ』
 
 何も無い空間の中、狐の高笑いが不気味にこだました。


 ミズキの執拗な攻撃を受け続ける中、ナルトは一瞬失っていた意識を再び取り戻す。相変わらず攻撃されているようだが、不思議と痛みは感じていない。朦朧としていた意識も、鮮明になっている。何もない空間で、一匹の巨大な狐と話をしていた。今までに味わった事の無いような恐怖を感じたが、一つだけはっきりと覚えているのは、この手には札束が握られているという事。
 欲望が神経を凌駕した。痛みを感じぬナルトは、『現ナマ』を確認するために握りしめた拳を開く。しかし、そこにあったのは、握りしめていたはずの札束ではなく、ひとひらの落ち葉であった。

(ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう……)

 ナルトの頬に涙が伝う。血が出るほど落ち葉を握りしめ、怒りで肩を震わせた。欲望を果たせなかったナルトの激情は、チャクラとなって体全身から溢れだしていた。ナルトの中に住む狐のテコ入れもあり、その禍々しいチャクラはナルトの体から狐の尾のようにうなりをあげている。その異様な姿に、ミズキの攻撃の手が一瞬止まった。

「ちくしょう……どいつもこいつもよぉ!」

 凶暴なチャクラをまとったナルトが、ミズキに襲い掛かる。ひるんでいたミズキに躱せる術はなかった。力任せに振りぬいただけのナルトの拳は、ミズキの顔面へと吸い込まれる。まともにくらったミズキは大きく吹っ飛ぶ。森の木と衝突する事によってようやくその勢いを止めた。俗に言う、ワンパン。勢いを止めた木の根元には、気を失いうなだれているミズキの姿があった。

「やってやる……やってやる……やってやる」

 一撃のもとにミズキを沈めたナルトだが、それで怒りが収まるナルトではなかった。自己暗示をかけるかのように同じセリフを繰り返し、その眼は完全に常軌を逸していた。ナルトはゆっくりと、気を失っているミズキに近づいていく。

「やってやる……やってやる……」

 口から洩れる言葉は、同じだった。ミズキの目前へと迫ると、近くに転がっていた人の頭大の石を両手に持ち、ゆっくりと頭上に振りかざす。

「やってやる」

 ミズキの後頭部へと、両手を振り落した。




「クソッ!間に合わねえ、ウスラトンカチッ!」

 アカデミーの卒業式も無事に終わり、明日からはいよいよ下忍となる。少し昔ならば、一族総出でこのめでたき日を祝うのが習わしであった。しかし、今はサスケ一人。おとなしく家に帰っても、やることは発情と修行の繰り返し。そんな日常に飽き飽きしていた天才サスケは、日中校庭で見たナルトとミズキの怪しい会合を目撃し、好奇心からナルトの後をつけていた。息をひそめて尾行する事により、発情を未然に防ごうとしたわけである。盗人として天才的な能力を発揮したナルトが火影邸へ忍び込んだときも、ナルトに気付かれることなく尾行できたのは、サスケもまたたゆまぬ日々の努力により実力を身につけていった結果である。
 森の中に入り、ナルトがミズキから一方的に打ちのめされている時に止めに入らなかったのは、『このまま消えてくれれば、もうアイツからたかられる事は無い。悪く思うなウスラトンカチ』という思いがあったかどうかは別として、ここは一つ『単純に見ていなかった』という事にしていただきたい。彼が持つ無駄に良い眼は、このときばかりはナルトとミズキではなく、森の中で密会している男女の姿か、はたまた春の色香に発情した獣の交尾であったのか。何を見ていたかは、彼しか知らない。
 今までに感じたことの無いような禍々しいチャクラをサスケが察知し、ナルトの方へと目を転じた時には、石が振り上げられている頃だった。理由は何にせよ、凶行に及ぼうとしている同級生を止めようと急ぎ駆けつけたが、もはや手遅れとなっていた。

「やっちまったな……ウスラトンカチ」
「…………サ、サスケ」

 見るも無残な姿となったミズキを前に、ナルトはうつむき加減に立ちすくんでいる。正気へと戻ったナルトは、己のしでかした事の重大さに気づき、その身を震わせていた。サスケの問いかけに、心ここにあらずといった状態で、力なく返答する。
 サスケは身をかがめ、固まっているミズキの鼻筋に手をあてると、首を左右に振った。

「どうすんだよ……これ」
「こ、こいつが……払わねえって……金払わねえなんて言うから!……俺……俺ッ」
「落ち着け!ナルト」

 動揺を隠しきれないナルトは、わなわなと震えるばかり。そんなナルトと足下で固まっているミズキを見て、サスケの脳裏に彼ならではのあるひらめきが産れる。
 春の夜風が森の木々を揺らしている。遠くからはどこからか、遠吠えなのか、喘ぎ声なのか、獣の声が耳に入る。

「ナルト……これは、俺がやった事にしてやる。お前は里に帰れ」
「…………えっ」

 サスケの思わぬ発言に、ナルトは我が耳を疑った。

「俺は、今日より里を抜ける」
「な、何を言ってんだお前」

 理解できないでいるナルトを前に、サスケは続けた。

「いつか、里を抜ける日が来ると思ってたんだ……俺の……俺自身の、野望の為に………」

 空には月が出ていた。木々の間から、二人を照らしている。獣の声は、相変わらずだ。

「ナルト……これは、お前が教えてくれたことでもあるんだ」
「…………え」
「この国は、一夫多妻じゃねえからな!」

 決して、サスケはかっこいい事をいっているのではない。しかし、このときばかりのサスケは、森から差し込む月の光と相まってか、かはたから見れば一見かっこよさげに佇んで見えた。

「ナルト、早く帰って報告しろ。木の葉も馬鹿じゃない。じきに追手がかかるぞ」

 そう言い終えると、サスケは踵を返して歩き出した。里とは真逆の方向へ。その足取りは力強く、迷いは感じられなかった。

「ま、待ってくれ!サスケッ!」

 歩み去っていくサスケを、ナルトが呼び止める。その声は、身を切られているかのような悲痛な叫びであった。

「俺も……俺も一緒に連れてってくれ!」
「な、何を言ってんだお前」

 止まる事はないと思われたサスケの足が止まった。

「このまま里に帰ったとしても、俺はどうせ日陰者」
「下忍になれたとしても、一生日銭暮らしなのは目に見えてるんだってば」
「ならいっそ、俺も、俺も里を抜けて、でけえヤマあててやる……!」
「だからサスケッ!俺も里を抜けるっ!」

 決してかっこいい事は言っていないと解りきっている。しかし、二人の頭上で輝く月が、草木をざわつかせる春の風が、ナルトの姿を強い意志を持った漢の姿へと変貌させている。

「……フン、勝手にしろ、ウスラトンカチ」
「サスケ……」

 しばらく対峙しあう二人。二人の間に静かな時間が流れる。静寂を打ち破ったのは、言葉ではなく動作であった。互いの利き腕の、二本の指を交差させる、木の葉に伝わる決まりごと。どちらからともなく、月明かりの下で互いの指が交差される。印を結んだこの森は、奇しくも決別の地とは真逆の方向であった。

『ナルトォ!どこだ、出でこいナルトォ!』

 遠くの方から、声が聞こえる。ナルトを呼ぶ声だ。

「チッ!追手か……!思ったより早いな」
「この声は、イルカ先生だ!」
「イルカ……あのAV女優みたいな名前の教師かっ!」

 うみのイルカ。常に生徒の事を思う、アカデミーの良き教師である。

「グズグズすんな、行くぞっ!ウスラトンカチッ!」
「わかってるってばよ!」

 暗闇の森の中、二つの影が風を切り駆けていく。里から逃げるように、いや、新しい目的地へと向かうように。吹き続けていた春の風は、追い風のように二人の背中を押した。

「抜けるのはいいけど、どこに行くんだってば!」
「……南だ…………南しかねえ!」
「何で南なんだよ」
「…………緩そうだからだ……!」

 欲望に悩まされながらも、欲望に従う道を選んだ二人の少年。里を飛び出し、向こう側へと駆けていく。運命とも言うべき道から大きくそれた二人の少年が、少年から青年、そして中年壮年へと年を重ねていったとしたら、その眼には何が写っているのだろうか。今よりも素晴らしい世界なのか、どん底の絶望なのか、市井の一角なのか。これ以上先の事は、知ったこっちゃあ無いのです。

こんなNARUTOは嫌だ 完
すんませんでした


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