「あ、あれって……」
ハクジャと一緒に修行した後の帰り、ハクジャにお礼として甘味処に行ってお団子を奢ってあげていると、視界の端に金髪が映り込んだ。
「ナルト兄ちゃんだ!!任務終わったんだ」
「にゃに?!(なに?!)」
口いっぱいにお団子を詰め込んでいたハクジャが喋った事によって、口の中に入っていたお団子の欠片が飛び散った。それにしても蛇がお団子なんて食べて良いのかね?ハクジャは水神で忍術を使えるって事以外、他の蛇と変わらないのに。ま、いっか。
「ナルト兄ちゃん!!」
「あ、オウミ……………よぉ」
あれ?なんか元気ない?何時もだったら、ニッコニッコ笑いながら話掛けてくるのに。何かもの凄い違和感がある。
「ナ、ナルト兄ちゃん?何かあったの?」
「え、……いや……何でも……ないってばよ……」
いや、あるだろ。
◆
ナルト兄ちゃんを甘味処に無理矢理連れて行くと、お団子を口いっぱいに詰め込んだハクジャが待っていた。そのハクジャがナルト兄ちゃんを視界におさめた瞬間、眼をキラーンと光らせナルト兄ちゃんへひとっとびした。
何時もならナルト兄ちゃんは吃驚して逃げようとしたり、抵抗したりするんだけど今のナルト兄ちゃんは逃げるどころか、抵抗すらしようとせずただされるがまま。これにはナルト兄ちゃんの手に噛み付いていたハクジャも、驚いたのかナルト兄ちゃんの手から口を離して、地面に降りるとシュルシュルと僕の脚から肩へと登ってきた。
「小僧の奴ど、どうしたのだ?」
「に、任務の時に何かあったんだと思う……」
コソコソとハクジャと話しているとナルト兄ちゃんの雰囲気が、どんどん暗くなっていった。これは絶対何かあったなぁと思って、ナルト兄ちゃんを椅子に座らせて甘味処で働いているお姉さんにお団子を追加注文する。……………さてと、
「ナルト兄ちゃん。任務の時に何かあったの?」
「……………何もないってばよ……」
いや、だからあるだろ。この暗い雰囲気。鈍感な人でも分かると思うけどなぁ。じゃあ、質問を変えよっか。
「ナルト兄ちゃん。サスケ兄ちゃんとか、サクラ姉ちゃんとかと何かあったの?」
「違う!!何もないってばよ!!」
あ、あるねこれは。反応が1番大きい。ナルト兄ちゃんはサクラ姉ちゃんが好きだから無いとして、てことは……………
「サスケ兄ちゃんと、何かあったんだ」
「ないってばよ!!!!!」
大きな声を出したせいで、甘味処に居たお客さんたちが僕たちの方に振り向いた。お団子を運んで来たお姉さんは吃驚して、お盆に乗せていたお団子を落としそうになっていた。
「ナルト兄ちゃん!声もうちょっと低めて!」
「あ、悪かったってばよ……………」
しゅんとナルト兄ちゃんが大人しくなると、お姉さんがお団子を置いてさっさと奥へ引っ込んで仕舞った。甘味処に居るお客さんたちも僕たちから視線を離して、お団子を食べ始めた。
「それで、サスケ兄ちゃんと何があったの?」
「……………これ、誰にも言わねぇ……?」
「当たり前だよ。僕こう見えて口固いから」
ちょっとだけ微笑んで言えば、ハクジャがブフッと笑ってナルト兄ちゃんは少しだけ暗い雰囲気が和らいだ気がした。
◆
「へぇ~。波の国でそんな事が……そっかそれで」
ナルト兄ちゃんの話を聞く所によると、C級の任務が本当はB級でそれでもナルト兄ちゃんたちは任務を続行。途中で桃地っていう凄く強い忍と出会(デクワ)したけれど追い忍のおかげで倒したんだけれどその追い忍が敵の味方で……………あ、これ説明してると長くなる。だから要点だけ言うと、
「なるほど、ナルト兄ちゃんのせいでサスケ兄ちゃんが死にかけた、と」
「(グサリ)」
何故かナルト兄ちゃんの方から、心に何かが刺さる音がしたけれど気にしないでおこう。ハクジャも無視してるし。
「でもさ、サスケ兄ちゃんがナルト兄ちゃんを庇ったせいで死にかけたんなら、それはサスケ兄ちゃんが駄目なんじゃない?」
「え、?どういう意味、だってばよ」
あれ?僕なんか変な事言ったかな?ハクジャもナルト兄ちゃんに向かって首を傾げてるし。
「だって、任務を遂行するためには命がまず1番大事じゃない。それなのに、ナルト兄ちゃんを庇うだなんて、サスケ兄ちゃんはよっぽどナルト兄ちゃんを信頼してたんだねぇ」
あ、何かナルト兄ちゃんの雰囲気が明るくなっていってる。そりゃあもう見違える位に。キラキラしてる。
「し、信頼されてるぅ?!」
あ、顔真っ赤。顔を真っ赤にしたナルト兄ちゃんは、ガタッと立ち上がると僕の手をガシリと握って「それじゃあな!!」と大きな声で言って、立ち去って行った。何か、あったのかな?
「あれは、勘違いするじゃろうな」
「え、何が?」
追加注文していたお団子に口をつけたハクジャは、ナルト兄ちゃんの後ろ姿を眺めながらムシャムシャとお団子を食べた。口がリスみたいに膨らんでいる。可愛い、可愛い。
「あんな風に言うのでは、あの単純な小僧では直ぐに信じて仕舞うぞ?」
「僕知らない。僕はただそう思ったから口にしただけだから。サスケ兄ちゃんがナルト兄ちゃんを信頼してるかどうかは知らない」
ジトッとした視線を感じるけれど、無視しよう。って、あぁ!!ハクジャがお団子全部食べてる!!!!!
◆
「うぅ、ハクジャが僕の頼んだお団子全部食べたぁ……………」
「良(ヨ)いではないか。オウミよ、お主には何時も修行をしてあげておるのだから」
肩に乗ったハクジャは、口元にアンコをつけながら話すせいで僕の肩にアンコがつく。やめて。母さんに怒られちゃう……………。
「あれは、ナルト兄ちゃんに頼んだお団子でハクジャにはあげたでょ!!」
「小僧が食わんかったらよいじゃろう」
僕とハクジャが話していると、フッと僕たちの上に影がさした。
「「?!」」
バッと飛び退き、脚の太股につけているポーチから苦無を取り出し、影に向ける様にして構える。
「あ、ごめんね。吃驚させちゃったかな?」
「え、?」
この声、聞いた事あると思い影の顔を確認すると、
「カカシさん?」
「や!」
右手をあげて、挨拶をしてきたので慌てて僕も頭を下げる。頭を下げると同時に肩も下がるので、ハクジャが慌てて僕の首に絡み付いてくる。苦しい。
「ちょ、ハクジャ苦しいよ」
「お主がいきなり頭を下げるからじゃろう?!」
「あ~、なんかごめんね?」
ハクジャのせいでカカシさんに気を使わせて仕舞った。シュルシュル首から離れるハクジャにちょっとだけ殺意を込めた視線を送る。
「あ、そう言えばカカシさん。どうして僕たちに話し掛けて来たんですか?何か用ですか?」
「ナルトの事なんだけど」
カカシさんの話してきた事はナルト兄ちゃんから聞いた事と一緒で、カカシさんはナルト兄ちゃんと仲が良い僕がたまたま視界に入ったからこれ幸いにと、ナルト兄ちゃんを何時もの状態に戻して欲しいから僕に何か良い案がないかと訊いてきた訳です。
「それなら大丈夫だと思いますよ。ナルト兄ちゃん、何時もの状態に戻ったと思いますから」
へへんと得意気に笑って言えば、カカシさんは「そっか」とやけに反応が低かった。何でだろう?
「あ~、それとね」
「はい、何ですか?」
「その白蛇。強い?」
「え、?」
ポカンとして目を丸くして仕舞った。カカシさんはマスクで口元を隠しているし、表情がよく分からないから何を考えているのかたまによく分からない事がある。
「その白蛇、どれくらい強い?」
「あ、あのカカシさん?」
僕が困惑して焦っていると、何故だか首の後ろがピリピリと針に刺されているみたいに痛み、額から冷や汗が垂れてきた。これは多分、
殺気。
カカシさんが、眉間に皺を寄せていた。首の後ろから発せられる殺気の正体はきっと、ハクジャ。
「小僧。お主に私の事をオウミに訊く資格など無い……。私の事が知りたいのであれば、私に話し掛けい……。そして何よりオウミから私の情報を聞き出そうとしてみろ、
殺 す ぞ 」
ハクジャの殺気がかなり強いものに変わった。カカシさんだけに当てているつもりなんだろうけれど、僕まで殺気が当たってる。“何時もは”ここまで強く、無いんだけどなぁ。
「ハクジャ。駄目だよ。カカシさんは、ナルト兄ちゃんたちの班の先生なんだから」
「……ムッ、すまん」
ちゃんと謝ったハクジャは、頭を下げる。
「あ、そう言えばアカデミーの宿題まだだった。カカシさん、今日はすみませんでした行こうハクジャ」
ポンッと軽い音を経てて白い煙が左手首に現れる。白い煙が晴れると、ハクジャだったミサンガが僕の左手首に現れた。
「それでは」
カカシさんにペコリとお辞儀して、家へと帰る。晩ご飯までに終わらせないと、母さんが怒る。
◆
【カカシ side】
あの白蛇……………。かなり強いなぁ。あのみくまり一族のオウミとか言う子には殺気を当て様としてはいなかったけど、あまりにも強すぎてあの子にも当たってたな。ごくわずかだけど。
「火影様にどう説明しよっか」
ポリポリと頭の後ろを掻いて、あの子が走って行った方向とは逆の方向を向いて歩き出す。あの白蛇、確か名前はそのまんまのハクジャだったけ?あの白蛇はかなり強いと思う。けれど、性格には大分難あり、だな。
そうじゃなかったら、暗部の人間が6人も居なくなったりしないよね。しかもその6人全員、
元の形状が分からないくらい、グチャグチャだったらしいし。
まぁ、死の森に放置されてたのもあるけどあれは多分胃酸のせいだ。骨が溶けてたし。それにしても、性格難ありの白蛇を彼処まで手懐けるだなんてあの子凄いな。もしくは、みくまり一族に何かあるのかもしれない。
けれど、調べれば調べる程さして強くもなければ弱くもない普通の一族としか結果は出て来ないらしいし。
「どうしよっか」
曲がり角を曲がった瞬間、何か違和感が身体全身に走った。脚を一歩踏み出したまま、動けない。なんだこれ?まさか、幻術か?いやでも、さっきまで何も……………。
それに幻術から脱け出そうにも脱け出せない。身体が全く動かない。これじゃあ、幻術返しはできない。それどころか、印も組めそうにない。
「全く、お主等には呆れて物も言えん」
「?!」
目の前に現れたのは、巨大なそれこそ死の森にいる大蛇とは比べ物にならない位大きな大蛇がそこに居た。なるほど、
「この幻術、ハクジャのモノか」
「私の名を呼ぶな小僧」
あ、怒らせちゃったみたい。それでも、幻術に抜かりはない。身体を動かそうにも動かない。
「小僧……お主は、オウミの知り合いのようじゃからな。生かしてやろう。しかし、次は無いぞ?」
こいつは……………随分と、
「死する時は、ゆっくりと締め殺してやろう。この様にな」
「?!」
動かない身体に、白蛇の大きな身体がグルリと絡み付くとゆっくりと力を込められる。ボキボキと骨が折れ、息ができなくなり遂には意識が飛んで仕舞った。最後に聞こえてきたのはあの白蛇の声で、
「オウミに傷を付けたら問答無用で殺すぞ」
と言う、白蛇の言葉だった。
ハッと目を開けると、俺は呆然と立ったままだった。これ、火影様にどう説明すりゃいいのさ……………。