彼氏や彼女が出来る事……。それは、お互いを求めて、お互いの欠けた部分を求めて、そうなることが多い。その言葉に、誤りはなしい、納得できることも多い。その言葉に性別はない。だけど、私の場合は違う。私の場合は、お互いが持っているものを持っている人に惹かれてしまっている。欠けた半身……自分の身体の半分を求めているかのように。それはそれで、きっと惹かれてしまう原因なんだろう。私は、自分がおかしいと思っている。だって、そうでしょう?相手は、私と瓜二つの容姿。異性には好まれない強気な性格だって、人に言えない恥ずかしい記憶だって、全部全部一緒なのに。なのに……さ、私は、彼女に惹きつけられている。こんなの誰にも相談できないよ。誰にも相談が出来ない。だから、それは私の中でどんどん膨らんでいく。誰にも発散が出来ないから膨らんでいって、そして破裂する。私は想いを吐露して……目の前の私に向かって吐き出した。眼の前の自分自身にと向かって。私は、いつもだったら泣かないのに、その時は、涙を零していた。ああ、私って本当に、コイツのこと……好きだったんだ。改めて、私は彼女を見て、そう思った。朝、目が覚めたらベットの上で、私は二人になっていた。最初は戸惑って、喧嘩もしたけど、それも一週間もすれば慣れていく。慣れていって、共同生活が始まって、約二週間。徐々に、私の心はおかしくなっていった。「「……好きなの、藍」」私は、震える声で彼女へ、もう一人の私へ告げた。街灯に照らされた公園の道。月明かりに照らされた中で、私と私が一緒に住んでいる家へ向かって歩いている中で、黙って歩いていた中で、私は口についた。でも、それは、私だけじゃなかった。二人して、同じ驚いた顔、それでいて、ああ、やっぱりな……そんなわかっていた顔を浮かべながら私と私はお互いにと告白をした。震えながら、緊張をして……。そして、お互いが告げた言葉が重なっていたことに気が付いたことで私と私は、静かに微笑んだ。嬉しかった。それは間違いない。間違いはないのだけれど、私はその未来を知ってしまっていた。私が、私と付き合う事にある未来。その未来が、決して幸福だとは思わなかったからだ。それを、私も、私も……理解をしていた。付き合って、私と私は幸せだった。今まで付き合った経験をしたことはあったけれどもそれが霞んで消えてしまうほどに、幸せだった。記憶も、趣味も一緒。話すネタには困らないし、お互い空気は読めるし、それこそ、お互いの身体に触れたいなと思う気持ちさえも一緒だった。ずれることのない感情。お互いに対する想いは、比例し続ける。自分同士で、付き合ったことがある人なんか過去にいるはずもない。私達みたいに付き合うことなんてあるんだろうか?友達に、もし自分が二人になったら付き合える?と問いかけた。5人中5人がNOだった。それがきっと普通なのだろう。ううん、私だって、今、こうした状況でもなければ、自分と付き合うなんて考えもしなかった。それが、どうして、こうなってしまったんだろう。夜、二人でベットで眠る時、お互いの身体を寄せ合いながら眠りにつくことが多い。その時、私と私の身体が触れるだけで、心に充足感が沸き上がる。お互いを抱きしめたときなんか、特にそうだ。肉体的な欲求を求めているのかなと思ったこともあった。勿論、それでも幸せを感じるのは感じるのだけれど、抱きしめ合った時とさほど変わらなかった。要するに、私と私は、お互いに触れ合っていたいと願っているのだ。少なくとも、無意識には……。手を繋いで、私と私は、お互いを見つめる。「「おやすみ」」私と私が付き合うようになって、1か月が経過しようとしていた。「いってきます」「いってらっしゃい」笑顔で手を振る私と、制服姿で学校へと向かう私。お互いの間にある扉が閉ざされて、私と私の距離が離れていく。家に残る私の笑顔が消えて、学校にと向かう私の表情が暗くなる。私は、学校へと向かいながら、胸の痛みを堪えながら登下校の道を歩いていく。私と私のお互いへの想いは、日に日に高まっていた。それはなぜか?私と私が普通の関係じゃないからだ。別の人間なら、想いは一致しない。その時の状況にもよるし、感情にもよるし、体調にもよる。でも、私と私は一緒だ。なにもかも、一緒なんだ。だから、私と私の想いは一致して、どんどんエスカレートしていく。ブレーキの壊れた車かのように、ジェットコースターのように……走り出したらもう止められないのだ。「あはは、こんなに弱くなっちゃうんだ、私」家に残る私は、ベットの上で自嘲気味に笑う。いつも強気で、クラスの男子から怖いなんて言われていた私が、自分自身がいないだけでこれだけ弱くなってしまうことが信じられなかった。今まで付き合ってきた奴で、こんなことになることはなかった。だからこそ、わかる。これは、全部、もう一人の私のせいだってことに。「どうすればいいのさ、こんなの」私は蹲りながら呟く。辛い、悲しい、苦しい、痛い……。様々な感情が溢れてくる。「……耐えられない」気が付けば、私は出かける準備をしていた。どこにいくの?自問自答をする私。もう一人の私の元へ……。そんなことをすれば、私が二人になってしまったことバレてしまう。関係ない。もう学校にいられなくなってしまう。それでもいい……。どうして?「私は、私と一緒にいたいんだ!!」玄関の扉を開けた。そこに立っていたのは、もう一人の私だった。「あ、あれ?学校は?」今から会いに行こうとしていた私の言葉は酷く薄っぺらいものであった。もう一人の私は、ゆっくりと顔をあげた。「もう……行きたくない」私は、そういって、荷物を投げ捨てて、制服姿のまま、私にと抱きついた。勢いのまま、私と私は玄関で倒れ込む。一人暮らしで良かった。実家だったらどうなっていたことか。私と私は、同じ顔でお互いの顔を見る。もう一人の私の顔は、幸せそうなのに、どこか、辛そうな表情であった。そして、それはきっと、私も同じなんだと思う。「そっか……」私は、自分も同じ想いでいたはずなのに、どこか寂し気に告げる。そんな私の言葉に、不安がよぎったのか、顔をあげるもう一人の私。そんな私の頭を撫でながら、私は、静かに笑った。「一緒なんだよね、どこまでも」私の言葉に、もう一人の私が小さく頷いた。その彼女の表情は、安堵した表情であった。きっと、私が逆でも同じ顔をしただろうね。それから、私と私は、学校に行かなくなった。行けなくなってしまったと言った方が正しいかもしれない。もう、眼の前にいる私と離れられなくなってしまったのだ。朝、目を開ける私。隣で目を覚ましたもう一人の私も眠そうに欠伸をしながら、私を見る。私もまた、寝癖のついた私の起きた顔を見る。普通なら、恥ずかしいであろう自分自身の寝起きの顔。それが、これを見れるのは私だけだ、という気持ちになってしまっている。もう一人の私が腕を伸ばして、私の頬にと触れた。「どこまでも、ずっと一緒だよ」そうつぶやく私の言葉はある意味の覚悟の言葉だった。私もまたそれに応えるように腕を伸ばして、私の頬にと触れる。「うん、どこまでも……ずっとね」そうして私達はお互い顔を近づけて、キスをする。洗濯物を干して、朝食を作り一緒にべットの上でまどろんで、二人で寄り添いながら一緒にいることの幸せを感じ取る。昼食は二人で、出かけて、二人だけしか見ないで、お互いの声や姿しか目に入らないで……。そして、一緒にお風呂に入って、夕食を食べて、眠る。そんな幸せな生活を私と私は過ごしていく。さらに一か月後。「今月でもうお金ないな」私の言葉に、もう一人の私は頷いた。「そろそろだと思った」「もう少し節約しなよ、あんたは」「人のこと言えるわけ?私の癖に」「私だから言ってんだよ、私」そんなやり取りをしながら、私と私は、お互いを見つめる。お金がなければ、アルバイトをすればいい。普通ならそうだろう。でも、私と私にはそれは出来ない。二人離れることがもう出来ないのだ。自分同士で付き合うということ……それは、お互いへの想いが比例をして高まり最終的には、こうなってしまうことを示していた。「最後まで一緒だからな?」「わかてるって……嫌でも離れないから」「怖い怖い、ホントヤンデレだな」「自分に言ってるわけ?」「そう、自分に言ってるの」私と私はそういって笑い合った。お互い寄り添いながらベットの上に座る。さらに一か月後……。真っ暗な部屋の中で、私と私はベットに寝ていた。身体が思うように動かなくても、それでも、隣にいる私とは離れない。私は、最後の力を振り絞って聞いてみる。「ねえ……私は、幸せだった?」「当たり前……だろ?私は?」隣にいる私からの問いかけに、私は、笑う。「幸せに決まってるだろ……」避ける方法は幾らでもあったかもしれない。でも、私は、この選択肢しか選ぶことが出来なかった。後悔はしてない。私は、私と付き合った時から……ずっとこうなることがわかっていた。でも、それでも……。「私」は『私』と恋をする。episode 17 虚井藍