37-1「長い夜」
俺はもう寝ようと思い、スワルが待つ、部屋に戻った。
鈴子は後悔してて、自分の行いを反省していた。
でも彼女はタケオのことをちっとも好きじゃなかった。
もちろんそんなのウソである。彼女はタケオのことが気になって気になって仕方なかった。
自分の兄の親友がこんな人だといつも見ていたが、彼女はタケオのことを理解していた。でも実のところをいうと彼女はタケオの性格自体はあまり好きではなく、むしろこいつ大人の癖に情けないなとさえ感じていた。
だが、それでも彼女はタケオの生き方に惚れそうになった。自分のことを顧みず、他の人を助けるその精神に。
彼女は自分とは真逆の考えかたが出来る彼を尊敬した。
そして私は彼に秘かに興味を抱いた。そして彼のことを観察してから何日かして彼のことを一晩中考えていた。
私はそうしていつもいつも彼のことで惑わされた。
彼の顔とかはけっしていい方ではないが、悪くも無く。いわゆる普通の男だと思っていた。
でも違う。彼は完全懲悪主義の正義のヒーローを気取るような博愛主義ではなく、自分の曲がったことが嫌いなただの自己中でしかなかった。
でもそれが結果的に彼の魅力となる。
そして鈴子は今ベッドの上でだらんと力を抜いて横になり、何もやる気が起こらない、そんな感覚だった。
でもいつもの癖で私はいつもの場所に手を伸ばして、自分自身で行為に及んだ。
このときもちろん同居人のルカは気づいていたが、気づいてないふりをして寝てるふりをした。
ルカは察した。彼女とタケオの間に何があったか。ルカは先を越されたという感情しかなかった。ルカはタケオのことを既に意中の相手として認識していたし、タケオも私をもう見ていてくれていたと思い込んでいた。
だが現実は違った。彼女は思い違いをしていた。彼女の心はタケオのことでいっぱいだった。ルカは泣いた。一晩中。涙と声を押し殺して、鈴子を背中合わせにして。
鈴子は自分で自分を愛し、能動的に自身の体のバランスを保つために発散した。ルカは意中の相手は既に恋人がいると知り、後悔と無念の思いで泣きまくり落ち込んだ。
タケオの部屋は漠然としていた。スワルはもう寝ていた。タケオは今日あったことを思いだしていた。
何でこうなったんだろう? 俺フラグをいつの間に建てたんだ? 鈴子ちゃんとの恋愛フラグをだよ。
だっておかしいじゃないか。予想外だよ流石の俺でも。
むしろルカなら理解出来たよ。ルカだったら自然だったよ。
でも違った。今までたぶんあまり話したこともないし、行動を共にしていたのはこのゲームの世界だけである。
なのに何で? 俺はこんな結末にした神様を恨むぞ。マジで恨むからなこんなもやもやした状態で寝れるわけないだろ。
俺は自分をなんとかしようとおもむろに、絶対にいつもならしないことをしようと企んだ。俺は一人で寝ているであろう彼女の部屋に泥棒でも入るかのようにこっそり侵入した。
そこは見たことも無い光景があった。妖しげな占いグッズ、蛍光ペン、チョーク、何かの本、そして魔導の銃が机の上に無造作に置いていた。
俺は足音をたてないように部屋を回る、すると服を一か所に纏めている場所があった。
俺はそこに一目散に行き、俺は下劣な行為をし始めた。あまりにも下劣な行為だった。テルネアスの冒険服を手にとり、俺はその彼女の残り香を鼻から吸った。
まるで危ない葉っぱを吸うように。
俺の中の危険なボルテージが上まで上るとガラガラと下まで崩れた。
それはまるで工事現場のビル解体作業をしているときに、一個の素敵なものがビルに張り付いているから壊せない、そんなことを思っているがそれでも俺はそれを壊してしまった感覚を感じた。
その晩俺は寝どこに戻ると、あの時の匂いを思い出して、悶絶した。
なぜこのようなことをしたのか、後悔した。俺は確かに気になる女がいた。
テルネアスである。彼女は神秘的で世界のどこを探したって普通なら絶対に見つからない美しさと強さと華やかさと不思議さと……それ以上はもういいだろう、それよりも俺は彼女のことを愛していた。
一方的な感情だな。俺は彼女に嫌われないように表には一切そういうことを疑われない素振りを見せないでいた。
当たり前のように会い、ただ話すだけ。それだけしかしなかった。それだけでも俺は幸せだった。毎日彼女のことしか頭になかった。
俺はその日から変わった。毎日彼女のことを考えるのをやめた。
その代り、俺は鈴子のことを少しだけ考えた。もちろん好きであるが、順位をつけると
一位がテルネアス。二位が鈴子。三位が美知。四位がしずく。五位が……誰だろう、ルカか……美月かな……たぶん。
俺はそんな本人たちが聞いたら嫌われるであろう順位づけをしていた。
最低な男だな俺は。最初はハーレム万歳とか思っていたが、現実は非常だ。
これが当たり前なんだ。俺は一人を選ぶなんて出来ない出来ない……したくない、このままがいい、それはワガママだろうか?
そうだ、みんなで一夫多妻制の国に行けば解決するんじゃないか? 俺は名案が浮かぶが直ぐに自分で却下する。それじゃあ解決とはいわんだろ、たぶん。
俺は寝れないでいた。俺は今までの行いと、出会いを振り返った。
まず最初に……あれ……そういえば俺の高校時代の記憶と言う思いでなのかただの記憶が俺はなぜにか思い出せないでいた。
まるで霧でもかかって全然見えないように真っ白に覆いかぶされて隠されているかのように。俺はあまりにも思い出せないので何か嫌なことがあったんだろうと考えた。
人間は良いことは忘れないが嫌なことを直ぐに忘れると俺は思った。
でももちろん俺は小学時代の虐めとか中学時代のいじめを思い出せる今でも。
なので高校時代だけ思い出せないのは変だと思った。
だから俺は高校時代に何か俺のトラウマでも刺激される出来事があったのかと考えた。しかしいくら考えても俺は忘れたことがあるのは事実だったのでもういいやと思い考えるのをやめた。
大学時代、俺は最初は普通に大学に行き、勉強していた。
でも途中から俺は大学を休みがちになり、ついには行かなくなり中退した。あのときの俺は孤独にさせ悩まれていた。
でも俺はそれでも頑張った。でも無理だった。俺のメンタルは弱かった。あのとき俺の背中を押して、一緒に遊んでくれたええと……名前なんだったかな?
思い出せないや、友達ではない……せいぜい知り合いと友達の中間だろう、そんな奴が一人だけいたんだが。
彼はいったい今何をしているんだろう。
俺はそんな僅かに覚えている大学生活時代を思い出していた。
あの時俺は未成年なので酒も煙草もせず、女遊びなんかもってのほかだし、球遊びとかも興味なかった。
まじめに勉強して単位を取っていたが、ある日俺は大学に行かなくなった。
なんでそうなったのかわからない、そして俺は大学を中退した。19歳の冬だった。
それから必死に中退しても俺を雇ってくれる会社を探した。
そして運よく8月から会社に行くことになった。俺はその時安堵した。良かった、これでまともな生活が送れる。そう思っていた。
しかし会社の業務は俺にはかなり難しく感じた。
だけどみんな親切に俺にやり方を教えてくれた。
なのでかなりやりやすかった。俺は心が軽くなった。
そして二か月ぐらいで仕事に慣れた。
俺はそれからある程度して、ほどなく例のカツアゲ事件が起こり、超能力検査に行くことになる。
そこから俺の物語は始まったようなものなのかな。
長々と語ってしまった。誰に話すとも知らず、俺は電気を消して、もう寝ることにした。
そして俺は長い夢を見た。
ここはどこだろう? 上のほうが神のような意向を放つ、黒猫がいる。
その黒猫は俺を見ると何か伝えたいのか俺を上の世界に案内した。
そしてそこは昔と言うのもあれだが、意外と最近のほうで生活していた、あの都市だった。
そこは下界と切り離された世界で、まるで最新鋭のおもちゃが毎日変わりばんこに俺の相手をしてくれるような場所だった。
そして黒猫は俺についてこいと言わんばかりにその町を案内した。そしてある場所で止まる。
ここは……俺が昔住んでいた学生寮だ。
懐かしいな、やっと少し思い出したような気がする。
そして黒猫はそのままどこかに行ってしまう。
おい!どこ行くんだよ黒猫!! 行っちゃった。
俺はあの黒猫を知っているような気がする。
なんか記憶にもやがかかる。
でも黒猫は俺が昔飼っていた猫とかなのかな? そこらへんはどうしても思い出せない。
そして俺は元の何もない空間に戻り、今度は下の世界に行く。
そこはそこはまるで見たことのない異世界に感じた。いつもと違う自然がそこには流れている。そこにはたくさんの人が住んでいる。
そしてその人たちは毎日自然の中で暮らしていると思ったら、意外にも立派な建物にも住んでいる。
そしてそこにいる人は何か奇妙な服装をしていた。何かの儀式でもするかのようなどう見てもコスプレにしか見えない。
教会の神父? いや違うそうではない。
ならばKKKみたいな怪しげな服装ではない、顔は隠してない重そうなごてごてした装飾のローブのようなそんな感じだ。
そしてみんなで手を上に翳して何か呼ぶようなそんな気がした。
そしてそこには、髪色が一人だけ白に近い銀髪の少女がいた。
彼女は何か思い悩んだような顔に見えた。
そして儀式が終わると彼女は疲れたように家路に戻った。
そこで夢は終わる。
俺は何故か涙が出た。
なんでなのかわからない。
そして朝の日差しが俺の目に差し込んでくる。
「もう朝か……」と一言言う。
俺の中の時計は迷うことなく、刻み続けていたと思う。
スワルはまだ爆睡していた。
37-2「後戻りできない後悔と悲劇」
俺とスワルは共同洗面所に行き、顔を洗い、歯磨きをして何かを話していた。
「タケオさんは……昨日どこに行ってたんですか?」と俺を探るように聞いてくるスワル。
俺は「別に……特に言う必要ないだろ」とさらりと言う。
「そうですか……まあいいですけど、隠し事は嫌いなんですけどね」と少しだけ不満そうに言う。
俺は「別に隠し事とかそういうのは無いだろ……」と嘘をつく。
スワルは歯ブラシを口からだして、蛇口から水を出して歯ブラシを洗いながら俺に話しかける。
「そうですかね? タケオさんはみんなに言ってないことがあると思うんですが?」と俺の眼を心底どうでもいいように見ていた。
だがその時のスワルの眼は何か思い悩んでいるようなそんな気がした。
「じゃあ逆に聞くが、お前は言う必要のないこともみんなに言うのか? それを言ってしまったらPTの関係が壊れてしまうようなことでも?」と俺はまくしたてるように言う。
スワルは少し考え込むようにして、直ぐに返事した。
「俺は信用している人には言いますよ」と嘘偽りなく言う。
「そうか……」と俺は小さく返事する。
「もう話は終わりですか? じゃあもう戻ります」と言ってスワルは口を漱ぎ、帰って行った。
俺は何も言い返せなかった。そんな後悔を感じていると。
鈴子が現れた。そして急に近づいてきて俺の腹に強力な一撃を加えてきた。
「おりゃあ!!」「グフッ!!」もちろんダメージは無いが何故か痛かった。
ここは宿屋の中で町の中なので安全地帯で他のプレイヤーに危害を加えられないはずなのに。
まるで創造主が空気を読むように俺に破壊的な痛みが襲う。
そしてもう一発腹に拳の一撃。
そして今度は俺の左頬にも一発、右頬にも一発、そして最後に股間に蹴りを叩きこんできた。
俺は悶絶する。あまりの痛みに死にそうな声を出す。
「いきなり何すんだ……鈴子……いてえなくそ……」
「私を弄んだ罰だよ……シネ!この淫獣!ロリコン野郎!!」
そう言って今度は冷静になるようにゆっくり話し始める。
「よく考えたら私あんたのことそんなに好きじゃないかも……だからね昨日の自分はどうかしていた、雰囲気に流されたと思う。だからもう私に近づくな!!話しかけんな!!とにかく好きになんな!!私にもう構うなよ!絶対に!!」と虚空を見ながら本心と思わせるように巧みに怒りの表情を詐称している少女がいた。
俺にはわかる。彼女は嘘をついたんだ。
それでもまだ確信は持てない。
実際にその時だけの気分だったのかもしれないいわゆる吊り橋効果である。
でも俺はそれでも鈴子が俺に本心を語ってくれるように見えない。
彼女は俺を汚物でも見るように睨んでいる。
まるで女の敵かのように。そしてもう一度口を開いてこう言う。
「じゃあね、タケオさん、悪かったねこんなにボコボコにして。でもお前が悪いんだよ、私にあんなことして……その気にさせて、乙女の純情を遊んどいてこの程度ですむなら。良いほうだよね。ここが現実世界ならお兄ちゃんにいたずらされたって言って、タケオさんは半殺しにして貰いますよ普通なら。たぶんお兄ちゃんはあなたを許さないと思いますよ。もう私の体は汚されたようなものですね。もうお嫁にいけないかも~まあいいか私にはお兄ちゃんがいるしね」と言う。
そしてそのまま俺の前から姿を消した。
俺達は宿屋の食堂件休憩所で話し合った。そしてもうそろそろ良いだろうということで俺達はついに出発することにした。
長い道のりだった。長い長い曲がり角を進み現れる雑魚を適当にあしらい進む。
そしてボス部屋に来た。進む。そしてボスと戦う。
そのボスは特に変なとこもない普通の魔物だった。
兎のような耳をつけているが、顔は猿のような感じだった。
そしてぴょんぴょん飛び回り俺達に近づいてくる。
そして一人の女を睨み、顔が急変する。
そして悪魔のような狡猾な笑顔を向けて物凄い速さである少女に近づいた。
そしてがっちりと掴み掛る。
彼女は回避しようとする、しかし何故か体が動かない、まるで見えない力に邪魔されるかのように。
そして彼女は魔物に捕まる。俺達は引きはがそうとするが物凄い力で剥がせない。
そして魔物は悪魔のカウントダウンを始める。
「悪魔の消滅を行います。犠牲的な感覚破壊魔術、『苦悪理亞(クオリア)』を発動します」
謎のアナウンスが広場を木霊する。
そして30、29、28と数字の羅列が始まる。
俺達は何が起こるのか予想がつかなかった。
だが何か不味いことが起きると思った。
俺達は一斉に鈴子を多い被るように掴んで離さない魔物に破壊的な攻撃を起こす。
何度も攻撃する。俺は全力で爪を伸ばし、何度も突き刺す。肉を引き裂く。
そしてなんども敵の肉体を抉り取る。
それでも魔物は消滅しない。
見るとHPゲージは10本ある。残りは8本だった。
なんだよこれ……タフすぎるだろ。残り時間は10秒を切っていた。
俺は自身のSPがいつの間にかかなりあることがわかった。
現在のレベルは39。そして最大SPは135ある。残りは105ある。
そして俺はメニューウインドウを大急ぎで開き、ユニークスキルの項目を開く。
そしてそこには二種類使用可の点滅を示す技があった。
無限逃避(インフィニティエスケープ)と時間逃避(タイムエスケープ)だった。
この二種類のユニークスキルのどちらかを俺は使用することができた。
俺は考えている時間が無かった。
なぜなら残り時間は後3秒前の瞬間だったから。
俺は直感で選んだ。
そして辺りは光に包まれた。
魔物は消滅していた。鈴子は……いないどこにも存在していない。
俺のユニークスキルが発動する瞬間、相手の魔術も発動していた。
壊滅的破壊の音が聞こえたと思ったら魔物は光輝いて空間を光が飲み込んだのである。そして目が元に戻ると、魔物と鈴子は消えていた。
俺達はどうして何が起こったかわからなかった。
もしかしたらその辺に鈴子が隠れているのかもしれないと思い探したがもちろんいなかった。
俺達はとにかく先に進んだ。そして一気に40階層まで進んだ。