―――セーフハウスから放れ、マギ達に連れられたレイシア隊は中央セクター、セントラル交通網の中心へと司法機関仕様の装甲機動車二両に別れてやってきていた。
南部方面の中で現在の共和国支配領域内最南端に位置するセクター32。
当然、中央セクターからはかなり離れているのでレオは必然と軍用機か何か、それこそゼンベルの操縦で航空路を辿るものだろうと考えていた。
しかしマギ達の運転で連れらた中央セクター内の恐らく下層に位置するこの場所は、とても空輸に関する機能を持った場所のようには思えなかった。
どちらかと言えば周辺は鉄道網関連の役割を持った施設が混在しているし、明らかにここはその事に関連しているとレオは察した。
装甲機動車から降りたレイシア隊は、そのまま大多数の民間人が利用する一般ターミナルへと足を運んだ。
そしてホームへ到着すると、マギ達はとある列車の乗車口手前でその歩みを緩やかに止めた。
「さてそれじゃあ、レイシア隊の皆々様。これに乗車して頂いて南部戦線の旅へと共に出発する事と致しましょうか」
マギが華やかな身の振りでそう言うと、レオを除くレイシア隊の面々は特段リアクションを取ることもなく黙々とその列車に乗り込んでいく。
「え、これって装甲列車......ですよね。ちょっと待ってマギさん?空から行かないんすか......?現状最南端のセクターに行くんですよね......?」
「そうだよ、確かに軍用輸送機とかで行く方が早いには早いだろうけど、とにかく行ってみればその理由も分かるよ」
マギは微笑みながらそう言うと、「さぁ」と言ってレオの手を取る。
そのまま列車の中に駆け込むように乗り込むと、それにマギの護衛役重装兵士二人もそれに続いた。
レイシア隊の乗り込んだその列車は『民間用南部戦線仕様第301装甲列車』、中央からセクター32までの経路を運行する装甲列車シリーズの一つだ。
席は二手に分かれてレイシア隊とレオは別々の車両、レイシア隊は一般車両へ。マギ達は監視の名目でレオと車両貸し切りの同席となる......。
はずだったが、レフティアの強い要望によって重装兵士二人を物理的に押し切りレオとマギの席にレフティアも同席する運びとなった。
レオの隣にマギが座り、そのレオの正面にレフティアといった配置だ。
「あら?残念、貴方もここに座るつもりなんですか?」
「当然でしょこのメギツネさん?」
「メギ......ツネ......?」
頭に疑問符が浮かんだかのように顔をかしげるマギとレフティアがそう言い合う中、レオは唯黙ってそれを静観する。
(今の俺にできることは、何もねぇよ......)
乗車後しばらくしてから車内アナウンスが鳴り響く。
発車の案内に伴って装甲列車は動き出し、遂にセクター32へと向けて装甲列車は出発する。
出発してからしばらく数時間後、レオの席周りの空気感はひたすらに沈黙を極めていた、その空間にはささやかに装甲列車が鳴らす騒音だけが残っている。
マギは頬をつき車窓をゆらりと眺め、レフティアはレオの側に気を向けることもなく、持ちこんだ何かしらの雑誌に読みふける。
マギの護衛達は貸し切った車両の前後の出入り口をそれぞれが分かれて警備している、ずっと立ちっぱなしのはずだがそこに疲労の様子はなく、護衛達は向かい合い装甲に包まれた手を使って何かしらのジェスチャーゲームをして時間を潰しているのがレオの席から伺える。
(意外とフランクな連中なんだな)
そしてその空気に斬り込むように列車出発後、最初にマギがその口をゆっくりと開いた。
「そういえば~、彼女たちと交流してみてどうだった?」
マギはそう言うと、レオの方にゆっくりと顔を向ける。
「え、彼女たちってのは......」
レオはマギにそう聞かれ一瞬戸惑ったが、すぐにその意図を理解する。
「それって『楽園』の事......、ですかね」
「そうだよ」
マギはにこやかに即答する。
「いやぁ......。どうもこうも......」
レオが回答に手間取っていると、案の定レフティアが雑誌を勢いよく畳んで話に割り込んでくる。
「ちょっと、何よ彼女たちって!?それに楽園?なんの話よレオくん?」
レフティアは前のめりでマギにガンを飛ばしながらレオにそう問いただす。それにレオは慌てながら応える。
「あーいや実はなんというか!帝国の一件後俺が意識を失って目覚めたら『楽園』ってそう呼ばれてる施設に気づいたら居たんですよ!えっとていうかその前にマギさん!これって極秘情報とかじゃないんですか!?いいんですかね話して!?」
「もちろん極秘だよ?」
「えぇ!?!?いやちょっとこのタイミングで極秘機密漏洩とかで捕まるのは勘弁ですよマギさん!?」
「極秘中の極秘だけどいいよ話してもらって、私が保証する」
マギがそう言うと、レオは息を整えて目を逸らしながらレフティアの方を向く。
「えーとですね......、その『楽園』って場所に目が覚めて気づいたら居て。それでマギさんの言った彼女たちっていうのはそこに居た子達の話なんですよ......」
レオが簡潔にそう説明すると、レフティアは「ふーん」と言いながら席に戻る。
「私達が帝国から帰ってきた途端、あんた達司法機関の部隊に取り囲まれてレオ君をどこへやらと連行していったと思ったらそんな所に連れ込んでたわけね......、それに何。彼女たちって?そこには女の子しかいなかったってわけ?レオ君は、その子たちと、和気あいあいな日々を過ごしてその感想を今そこの女に聞かれてるって状況認識でいいのかしら?」
レフティアは妙に憤った口調でそういう。
「いやぁまぁ和気あいあいって訳じゃないですけど......、多分そういう感じで合ってます......」
「はぁ......、まぁでも当然ただ単にキャバクラしてたってわけじゃないでしょ。レオ君をそこに放りこんで何かを観察していたというのが大筋よねきっと、で、何者なわけその子たちは?」
レフティアがそう聞くと、レオは「それは......」とマギに視線を流す。そしてそれに応えるようにマギが口を開く。
「『人外終局者=エンプレセス』、だよ」
「えん......ぷれせす?何なのよそれは」
「そこに居るレオくんと同じような存在、そう云わば特異点とも呼ぶべきその存在の総称のようなものだね。私たちはその存在を楽園にまとめて収容しているんだ」
「何よ、それ。レオ君みたいなのが他にも居るって言うわけ......?本当に実在するの......?」
レフティアはレオに向けてそう言った。
「あっ、あぁ。確かにあの人たちは軒並み普通じゃなかった......、何というか個性的過ぎると言うか......」
そしてレオは楽園で出会った少女たちの事やエクイラ、そしてレジスタンス地下要塞を単騎で壊滅させたその存在をレフティアに話した。
「旧剣聖ブラックエマ―シェンに、イージス・デネレイ、そしてイズ・ラフェイル......。どれも過去に名を馳せた英雄達ね......まだ生きていたなんて到底信じられないけどその人達がレオ君と同じ特異点的存在だったなんて......、それにあの最近即位したエクイラとかいう皇帝陛下も......。例のあの地下要塞が襲撃されてレジスタンス諸共壊滅したという話は後に聞いた話だけど、あのエクイラって子は元々そこの副司令官なのよね?当然あの時にそこに居たはずだけど、今あぁして生きているという事は......。そういう事なのね......」
レフティアは驚愕した様子でレオの話を聞き入れた。
「でも、そのセツギン......?という名前は聞いたことがないわね。それに余りその名前の語感は聞きなれてるものじゃない......、どこの国の由来なのかしら......」
「その事に関してなんだけど、私たちの調査でも彼女がどこから由来した人物なのか全くの不明なんだよね。今私達が収容している中で最も謎の多い人物だよセツギンは」
レフティアのボソッと出た疑問にマギが答える。
「うーん、まっ話は少し分かったけど。でもレオ君。よくそんな連中と数日も歩調を合わせていられたわね」
レフティアはレオにそう聞く。
「まぁ話して見れば案外普通でしたけどね、約二名は余り口が利けませんでしたけど......」
レオがそう言うと、マギは再び車窓に目を向けた。
「なるほどね、彼自身と彼女たちとの間に関わりは無かったんだ」
マギはそう小声で窓を見つめながら囁いた。
―――中央セクターから出発して約10時間が経つ頃、装甲列車がトンネルに差し掛かるといよいよレイシア隊とマギ達は、南部戦線領域へと足を踏み入れようとしていた。