『―――あら閣下、閣下は《《こんなところ》》でのさばってていいようなお方でしたでしょうか......?、バスキアの方は大丈夫なんですか?』
マギは明らかにその人物を挑発する言い草でそう言う。
「貴様に心配されるほど共和国軍は落ちぶれてなどおらんよ」
その大層豪傑そうな人物は、あのマギの言葉を軽く遇らう。
「えっ......誰このおっさん......」
レオはおもわずその言葉を口から漏らす。
「「えっ、マジ?」」
ロップ中尉とジェディ大尉は口を揃えてそう言う。
「あっ、やべ......!」
「お、おまえ......」
レオはその己の失言に気づきを口を塞ぐ。
レイシア少佐やその他付近の人物達はレオの漏らしたその言葉に絶句する、いやそれ以上の言葉が見つからない様子で唖然とする。
「こ、この御方は共和国南部統合方面軍統括指揮官......ガルガン・エスタール大将であらせられるぞ......」
ダンボリス准将は丁寧にレオへそう説明する。
「た、大将!?さ、流石に分かるぞ......めちゃくちゃ偉い人じゃねぇか......、なんでこんなところに......」
ダンボリス准将は「それは私が一番知りたいよ」と内心でそう呟く。
「なんと無礼な......!」
エスタール大将のそば付きの護衛と思われる豪華なロープを着たその男性がそう言うと、ソレイスを顕現しかける。
「よせレストレンド大佐、其奴のことなどどうでもよい。ワシが用があるのはそこの司法機関の女だけじゃ」
「し、失礼致しました......」
レストレンド大佐はソレイスを収め、マギは何のことやらと言わんばかりの仕草をする。
エスタール大将に宥められるレストレンド大佐を見るもう1人のそば付き護衛と思われるその女性は、レストレンド大佐を冷ややかな目つきで見つめる。
その目線にレストレンド大佐は唾を呑む。
「うお......こわぁ......」
レオはそう言うと、隣のレイシア少佐がため息をつく。
「はぁ、レオ。あまり彼らを刺激するんじゃない......。言っとくが彼らを相手取れる自信は私にはないからな」
「えっ、それはどういう......」
「やれやれ、いいか?あのそば付きの護衛の身につけているあのロープやいかにもな勲章達、彼らこそ正真正銘のプレデイト級イニシエーター。協会筆頭戦力だ、それがこの場に二人もいる」
「えぇ......まじですか。てことは......」
「そういうことだ、少なくとも私が逆立ちしたってなかなか敵う連中じゃない。今は大人しくしておけ」
レオはそう言われると静かに頷く。
「さぁ、マギよ。ワシがここに何を言いにきたのか、分かるかのぉ?」
エスタール大将はそう言うと、空席となっていた椅子に堂々と座り込む。すると付近に座っていた指揮官やオペレーター達は颯爽と退席する。
「えぇ、まぁ。不倶戴天のよしみですから......」
「ガーはっはっ!き〜らわれてるのぅ。マギの背後の連中にも一応釘を刺しておくがの、ワシの目の届くところで司法権限を振り撒きながら余りに好き勝手荒らされるのは困るのだよ、諸君」
「はて、好き勝手?ですか。こちらとしてはそんな覚えはないですが、作戦計画書は上層部をきちんと通過していますし」
「ふーむ?ほんとかの〜?」
エスタール大将はそう言うと、もう一方のそば付きの護衛の女性が書類を取り出して前に出ると、それを机上に提出する。
「ご苦労フィービリスト大佐」
その女性、フィービリスト大佐は静かに頷いて身を引く。
「それは?」
マギはそう問いかける。
「もっちろんそれは貴様が言う上層部とやらに提出していた偽りの計画書類じゃが?分ーっかっているのだよー鼻から貴様らの目的がこんな辺境調査などという有り体の物ではないことなどのぅ。こちらの調べで議事録は改竄されているものだと判明しておる、貴様らが司法取引した新世代麻薬カルテル【ロサ・カリオサス】と関係を持つ汚職議員共は普通に白状しよったぞ?痕跡からして承認者は記載通りの連邦評議会ではないのぅ?んー?貴様らが司法機関が領外で軍事作戦を展開するには連邦評議会の正式な承認手続きが必要なのは知っておるが、さすがに詰めが甘いんじゃないのかのぅーマギよ、ちなみに取引に応じた議員共はワシが粛清したぞ。感謝するがいい、貴様らの代わりに国益を損じる売国奴どもを片付けてやったのだからのぅ!」
エスタール大将は一人で高笑いをする。
「ほう、そうですか。それは何ともまぁ無茶をなさる、彼らを粛清して一体どれだけの国内反抗勢力を買う事になるのやら皆目見当もつきません」
「ワシはそんなものには屈しないぞぉ?貴様が巻いたタネなど全て真正面から踏みつぶしてやる。それが貴様ら司法機関の些細な邪魔になれてるのなら尚の事結構じゃ!!!」
エスタール大将は机を勢いよく右拳で叩きつけ、満面の笑みをマギに見せつける。それから少し落ち着きを見せると、席に座り直す。
「んでな、実際のところどうじゃ?デュナミス評議会が絡んでいるのではないのかのぅ?」
マギはその言葉に無言を貫く。
「ふーむ、まぁ間違いなく裏では別の計画が動いておるのじゃろうが......、先に言っておくぞマギよ。ワシは貴様らの真の作戦計画のことなど知らん、それだけはいくら調べても手掛かりは掴めなかったからのぅ。だぁから忠告じゃあマギ、バスキア戦線の情勢を脅かすような真似だけはするんじゃないぞぉ?ワシらは散々貴様らの機関に振り回されてもううんざりしているのだ......。この地でなにかしでかそうものなら、我が全軍を以て貴様らを撃滅するからの。覚えておくのじゃ、この場の他の連中にも警告しておくぞ」
「ふむ、そうですか。遠路はるばるご忠告痛み要ります、閣下」
マギは動揺を見せる様子もなくただ冷静にお辞儀をする。
「相変わらずいけ好かない奴じゃあ貴様は。もうよい、戻るぞ」
エスタール大将がそう言うと、そば付きの護衛達は堂々たる声音で返事をする。
そしてエスタール大将が最初にテント内から出ていくと、護衛達も大人しくそれに続いた。
「一体どうなってんだよこりゃ」
「いやぁあの護衛の女の人、めっちゃ綺麗てか上品な感じの人だったわね。なんというかあの冷徹な目線、なかなかいいわね」
第一声にそう言ったのはレオ、それに続いてレフティアがそう言った。
「説明、できるのかマギ」
レイシア少佐はマギにそう問う。
「無理です、とにかく今は作戦に集中なさってください。今回の件は、本作戦に特段影響があるわけではないですからご安心を」
「いやいや、他の連中にも釘刺さされてただろぉがよ......。下手したら皆殺しらしいぃぜぇ?」
ゼンベルはマギにそう返す、その言葉に第72師団の主要メンバー達は動揺を隠さずにはいられなかった。
その様子を見たマギは一考する。
「ふむ、もし仮にそのような事があれば我々司法省直轄ESM特務機関が当該軍閥を保護します。なのでご安心を、この作戦計画は評議会からの正式な命令です」
「―――評議会ってのは、どっちの事ですか......?連邦評議会ですか、デュナミス評議会ですか。貴方はどちらに従っておられるのだ......?」
ダンボリス准将はマギにそう問う。
「ふむ、ここでは建前上連邦評議会という事にしなければ我々は領外では活動出来なくなりますので、便宜上連邦評議会という事になりますね。先ほどエスタール大将閣下を仰っていた事が事実ならこの作戦計画を承認した議員連盟はもはや存在しない事になりますが、この計画は既に発動しています。何れにせよこちらの貴重な手勢が奪われている状態で今更引き返すことは出来ません、ご協力お願い致しますね。准将」
マギは鋭い目線を准将へ送る。
「くっ......、なんにしても我々は師団の仲間をあの領域から見つけ出さねばなりません。変に戦線を刺激する事はないはずですが、各隊は肝に銘じておくように。改めてブリーフィングは解散とする......」
ダンボリス准将のその言葉を以てして、ブリーフィングは終了した。