2020/01/13(月)
01:05
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スカートであることを気にしない勢いで部長が立ち上がった。
何か悪態を吐いたかと思うと向きを変えて廊下への扉へと駆け寄る。
内側から開ける分にはロックは簡単に解除される引き戸が音を立てて開き切る前に出ていこうとした。
どこに行こうとしているのか、なんて分かりきったことだ。
ブルガリ
「まだバス停にいるかもしれません」
私がそう声をかけると、部長は前のめりに急ブレーキをかけて私を見た。
「よし!
一輪は椿のところに行ってくれ。
私は事務室に行く。
ケイは室内にドローンが無いか探してくれ」
指示を出すと脱兎のごとく走って行く後ろ姿を見てから、私も慌ててバス停へと向かうために反対方向の廊下を走る。
第4校舎から第2校舎へと2階の渡り廊下を進み、そこから1階へ向かう階段を駆け降りる。
早くしないと、つーちゃんがバスに乗って帰ってしまう。
焦りながら折り返して降りている時に、機械無線部顧問のブランド先生とバッタリ行き会ってしまった。
タイミングが悪い。
出先でトイレに行きたくなった時に限ってどこも混んでいるようなものだ。
「危ないじゃないか、一輪。
走りたいんだったら運動部に入りなさい。
それとさっき準備室のロック解除申請を許可したけれども急すぎるじゃないの」
注意を受ける間も、私は両足を交互に上げていつでも走れる姿勢を維持する。
少しだけ息が上がり始めていたからか一回に吸い込む空気の量が増えていて、先生から漂う香水の香りが鼻孔をくすぐってくる。
良い香りだ。
なんて思っている暇なんてない。
「すみません。
どうしても急いでいるんです」
再び階段を降り始めた私に後ろから小言が投げられてきたけれども今は無視するしかない。
ごめんなさい先生!
お叱りは後で受けようと心に決めて、1階の渡り廊下から第1校舎に入った。
下駄箱は1階中央にある。
眼前の突き当りの角を左へ、今度はスピードを落として誰かと鉢合わせしても大丈夫なようにして曲がる。
額に風を感じながら。
真っ直ぐ伸びた廊下、そして校舎を前と後ろに横断するように設けられた昇降口には誰もいなかった。
やっとこさ靴を履き替えて昇降口を出る。
つーちゃんは見当たらない。
それでも、と一縷の望みを持ちながら校門を抜けてバス停を見やる。
いた!
良かった。
まだバスは来ていなかったんだ。
笑い始めた膝を前へと動かして近付くと、つーちゃんが私を見た。
目と目が合い、無言で距離を詰めていく。
心臓が高鳴り、息は荒くなっているけれども、気にしていられない。
あと数歩で手が届く距離になる所で、私ははたと気付いた。
「(なんて声をかければ良いの!)」
つーちゃんを探すことばかり考えていてそこまで至らなかった。
貴方がドローンを隠したの?
単刀直入にそう聞く?
駄目だ。
いきなり疑ってかかるのは良くない。
部長が話したいことがある。
先程の提案の答えを言うから呼びに来た。
そういうことにする?
駄目駄目。
それはつーちゃんを騙すことになる。
考えが纏まらない内に私は対峙してしまった。
相手は私のことを目を細めたり首を傾げたりしながら見て、息が整うのを無言で待っている。
「わ、私は……」
どっと疲れが出てきた。
運動なんて授業以外していないせいだろう。
次の言葉を出そうとしても乾いた息しか出ない。
「言わなくたって分かるさ」
涼し気につーちゃんが言う。
どこか私を見透かしている風でちょっとだけ癪に障る。
やっぱりドローンが無くなったのに気付いて慌てて私が来たのを予想していたのね。
だんだんと息が普通になってきたから少しだけ問い詰めるのを試みた。
「それは認めるということなの?
今、部長は慌ててるのよ」
あの部長が、猛ダッシュするのを見たのは初めてだ。
まるでフリスビーを取りに駆けるチワワみたいだった。
「おいおい、余裕たっぷりに振る舞っててそれかよ。
張り合いねぇな。
だから言っただろう?
俺がいないと困ることになるって?」
「だからって……。
だからって私達が飛ばすドローンを盗むのはやりすぎでしょ!」
「何!?」
「操縦できる人がいないとせっかくの廃部阻止のチャンスを逃すことになるわ。
上手く飛ばせなくても精一杯頑張ってドローンを飛ばすことすらできなくして、そうまでして自分を売り込みたいの?」
「何言ってんだか分からないぞ?
それと、あの部活を廃部にしてAI部に入りたがっているのはいちりんだろ?」
やっぱり知っていたんだ。
足から力が抜けるような感覚に陥るのを堪えながら斜め上にある目と目を合わせた。
「言っとくけどな、いちりんが廃部を目指しているのを教えたのは、お前が恋してやまない生徒会長兼AI部の部長だぞ。
あんな奴のどこが良いんだ?」
「顔よ!」
後は二の次だ。
人の好みに口をはさんでほしくない。
「あの人の悪口を言わないで。
私が勝手にAI部に入る条件を課したのよ。
あの人は、部長とケイト先輩の機械へのスキルを欲しがっていたから」
AI部に体験入部した時だ、部長が不意に言っていた類似部活のスキルが高い話。
それを聞いたからこそ、先輩二人を連れてAI部へ入ればイケメン生徒会長とお近づきになれると打算した。
木乃伊取りが木乃伊になったけれども。
でも、それ以上にーー。
「とにかく……。
ドローンを返して」
「一体何の話をしてるんだ?」
非難がましい視線に私も負けじと眉間に力を入れる。
「とぼけないで、困ることになるって言ってたでしょ?」
「ちょ待てよ!」
つーちゃんが初めて焦りの声を上げた。
痛いところを突いた気になったが、次の言葉でそれが消し飛んだ。
「俺はドローンなんてもんを盗んじゃいない!」
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色々あって更新が途絶えがち。
でもエタらない。
次回更新日
01/19(日)予定
タイトル変更しました。