老婆が月が出てくるのを待っている間、月見団子以外のお供物をしていなかったことに気がつき、月見団子以外でお供えするものを取りに行った。
老婆「わしゃ最近ボケがすごいのぅ。ついつい忘れてしまうわい。でも幸せな生活を送れてるから良いのじゃ。」
老婆はしばらく外で風で揺られるすすきなどを見ながら待っていたら、とうとう月が出始めた。日没はもう既にすぎているため、月の光が照らされていた。
老婆「ほっほっほ。ついに来ましたの。わしゃの毎年楽しみにしてるお月見がやって来ましたの。この月を見てるとやはり爺様のことを思い出すのう。若い頃からの記憶が蘇ってくるわい。...はて。何故か涙が出て来たわい。やはり、爺様が天国に行ってしまった時の記憶も蘇って来たのう。今でもやはり悲しいのう、一人で暮らすのはもう寂しいのう。...息子、娘、今は元気にしとるかの。そろそろわしの長男は70代となるのう。長女も68か。次男が66、次女が65、三男が64となるかの。孫が今30代後半〜40代じゃの。そんで、ひ孫が10〜20代前半、その息子も確かおったかの。ひ孫どころか孫たちも滅多に会わないからの。息子からの情報しかないのじゃ。」
老婆が月を見て記憶を辿り、記憶を辿り終えた頃にはもう夜7時半になっていた。
老婆「はて、もう午後7時半じゃの。95年も生きたら、記憶を辿るのにここまでかかるのう。ほれ、爺様。わしゃ、これからも幸せに生きていくぞい。どうか、わしを100歳、せめて99歳まで生きさせておくれ。じゃないと、東京世界陸上が見れぬからの。さて、わしゃもうしばらく月見を続けるとするかのう。最近わしゃ全然走っとらんからそろそろ走りにいくとするかの。明日走りに行ったついでに買い物も済ませてくるとするかのう。...何か電話がなっとるが...知らん番号じゃの。恐らく詐欺じゃな。詐欺事件多いからのう。わしもかなり気をつけないとあかんのう。」
老婆はそう言って、記憶を辿った後もしばらく月見を続け、風を少し受けた後に月見を終えた。
老婆「今日の月見ももう終わったのう。わしゃ来年も月見ができるかどうか分からんが、どこかで誰かが月見をしていると良いのう。わしゃ、今日はもう月見ができたからもう満足じゃ。さて、片付けるかの。」
老婆はそう言って辺りを片付け、お供物も家の中に入れ、お供物を食べた。
老婆「ほっほっほ。月見の時のお供物は食べた方が幸せになったりするとも言うからの。わしゃ食べてこれからもしばらく幸せに生きさせてもらうわい。爺様、天国からわしのことを見てておくれ。幸せに生きさせてもらうからの。」
老婆はそう言ってしばらく外を眺めた後、自分の部屋に行って寝て、その日は終わった。