「……?」(きょろきょろ)青年の相棒ローラ(聖母プラーマ)が召喚されたのは、風雷の里から少し離れた森の中だった。青年『チャーハン』が帝国軍相手に無茶をした時刻からはそう経ってはおらず、小ぶりになったとはいえ、雨はまだ降っている。「ローラ、コッチ…だ」背後から、彼女の召喚主の声が聞こえる。ローラが慌てて振り向くと、手頃な大きさの石に座った青年が、右肩をおさえてうずくまっている。「雨の中、悪いが急いで治療…を」そう言って、青年は自分の肩を左手の指でトントン、と叩く。見れば、青年の服は右肩が大きく破れ、肩が露出している。誰かに破られたのではなく、自分で破った跡。「……!」(ぞわっ!)いやな予感がしたローラが急いで青年の背後に回ると、右肩の背後からかなりの量の血が流れていた。よく見れば、肩には小さな丸い跡と、それを無理やり広げたかのような傷跡が見える。「弾はポワソに抜いてもらったんだけど、出血はどうしようもなくて…さ」まいったね、と言葉の上では強気を保つ青年だったが呼吸が荒い。ローラは急いで右肩の治療に当たる。よくよく見れば、他にも葉っぱで切ったような跡など、細かい傷も確認できる。「ホント、あの人いい狙撃手だよ。あの雨と雷の中で標的に当てるんだからさ」治療が終わった青年が、独り言のように呟く。それは、相手に対してへの悪態ではなく、純粋な感嘆の言葉だった。「……」(……)「どうした、ローラ」青年は、背後の相棒の様子がおかしいに気づき、声をかけるが反応はない。「……」(ぎゅッ!)一体どうしたものかと思っていると、突然ローラが青年の首に腕を回し、背後から彼を抱きしめた。長い間雨に打たれ、血の気の引いた青年の体が、やさしい温かさにつつまれる。「あ…」一瞬呆けてしまう青年。青年にはローラの顔は見えないが、付き合いが長い彼には、彼女がどんな気持ちでいるのか、よくわかる。彼女は怒っていて、悲しんでいるのだ。「ごめんな…もう、なるべく無茶はしないようにするから」青年がローラの小さい手を自分の手で優しく握ると、彼女はゆっくりと腕を首から離す。「ほら、行こう? こんなところにいると風邪をひくから」そう言って、青年はローラの手を引いて歩きだした。黙ってついていくローラ。彼女は天使ゆえ…いや、青年とは長い付き合いだからこそ青年の魂の機微…言いかえれば『心』が手に取るように分かる。だから、青年が本当は『ドウナルコト』を望んでいるのか、知っている。だけど、彼女はそうなることを望んでいない。『私が止めないといけない』…彼女はいつだってそう感じている。しかし、人間の言葉を話せない彼女には青年を説得することはできない。力づくで止めようと思っても、非力な彼女には止められない。彼女ができることは2つしかない。青年の負傷を癒すこと…そして『この人が無事でいますように』…、と祈ること。それだけだった。~~~~~~~~~~後書き作者です。次回は第一章完だったりします。あと、諸事情で話がだいぶ飛びます(具体的には9話と10話と11話)。今回の話はノートに下書きした後に書いたのですが、やはり自分はこういうやり方が合っているようです。