「ほうほう、ふ~ん、なるほどね」「コバルディアさん、そこらにある石碑ちょくちょく眺めてるけど、何か良い事でも書いてあんの?」「べっつに。それよりアンタは後ろに集中なさい」「ん?」青年が後ろを振り向くと、ベロを出した提灯妖怪の魔物が飛びかかってくる所だった。青年は慌てて身をかわす。「危ねえ、そして死ね!」振り下ろされた剣の一撃で、魔物はあっけなく両断、霧散、消滅した。弱い魔物でよかった。「これで何体目だっけぇ?」「さあ。遭遇数50からは数えるのやめた」界の狭間を行く放浪者、青年『バカ(仮名)』あるいは『チャーハン』と、女性型悪魔『氷魔コバルディア』の鬼岩洞探索は佳境に差しかかろうとしていた。今のような魔物との遭遇や、自然由来のトラップなどはあったが、青年達はなんとか無事に洞窟内を探索し続けている。とはいえ未だに落盤で封鎖された出口の代替がみつからない。新たな出口を求めて洞窟の調査につとめてはいるのだが、そろそろ探索できる場所も限られてきていた。そんな時である。青年にしてみれば、洞窟突入から数時間といったところだろうか。洞窟の深部で、少々開けたスペースと、そこに『いかにも何かありそうな扉』を発見した。「……う~む」しかしその扉の前方には、まるで封をするかのように『炎を纏う円柱状の祭壇』がせり上がっているのである。祭壇の纏う炎はそりゃもうすさまじく、熱気のせいで祭壇の周囲数メートル以内に近づけないほどである。「行けるところは粗方探索したから、後はあの祭壇の向こうだけなんだけどなあ」奥へ通じるわき道も探してみた青年だったが、そんなモノがあるはずもなく。結局のところ、前方の炎の祭壇をなんとかしないと、活路は開かない。「どうしたもんかなあ。ねえ?」「……さぁ」投げやりに返した氷魔コバルディアは、明らかにゴキゲンナナメだった。表情にも、若干の陰りが見える。「大丈夫か? やっぱり『氷魔』だから暑いところは苦手なのか?」洞窟内ということもあって熱がこもっているのだろう。祭壇のある小スペースは、サウナでもかくや、というくらいに蒸し暑い。「別にぃ、これくらいどうってことない」口では強がってみせたが彼女だったが、実際の所は暑いのと熱いのが大キライだった。別に弱点とかではない。ただ氷と冷気を操る能力を持つ彼女にとって、過度な熱は本能的に受け付けないのである。彼女としては、今すぐ自身の力で周囲を冷やしてやりたいところなのだが……彼女はそれが得策ではない、と知っている。精神生命体である天使や悪魔は、肉体という「器」が無い。それ故に彼・彼女らはサプレス以外では、実体化のためにチカラの源であるマナを多量消費している。現状、死者の魂だけ――つまりサプレスと近しい性質の『界の狭間』において、消費は他の世界よりもマシのようだ。しかし、供給のアテが無い今は節約するに越した事はない。「もっとも、供給源があれば別だけどぉ」「……?」恨めしそうなバルディア。彼女は迷える青年を見やりながら、心に怒りを沸々と湧きあがらせていた。それに気付いているのかいないのか、青年は視線を祭壇に向けた。「考え方を変えてみるか。そもそもなんでこんなヘンピな洞窟に、祭壇なんてあるんだろうか。それにこの炎、魔力めいた力を感じるな。ということは、放浪者を阻む試練なのか? もしくは封印? だとしたら何を封印しているんだ……」別のアプローチを試みようとしても、青年の思考はあらぬ方向へ飛び火する。別の解決策などは到底思いつかない。そもそも、うまいやり方を思いつく頭脳を青年は持ち合わせていないのだからしょうがない。結局のところ策を練ろうが、何をしようが、青年では炎の祭壇は絶対に突破できないのである。あくまで青年だけでは、の話ではあるが。「あ~くそっ。何か良いアイデアはないもんかなあ、コバルディアさん」それはなにげない問いだった。自分がわからない問題を他のヒトに訊く……至極当然なことである。「あ」しかしコバルディアにとってその質問は、されるにはあまりにも不躾で、『侮辱』にも捉えられうるモノだったのである。青年も自分の失言に気が付いて口を手で塞ぐが、後の祭り。むしろ気付いてしまったという事実が、その時の青年の表情が、コバルディアの憤怒を助長させた。「……あ゛ぁ!?」この瞬間、コバルディアの堪忍袋の緒が切れた。先ほどまで練っていた、青年を理想の玩具にする姦計は遥か彼方へ吹っ飛んだ。そして彼女は自身のモットーが、『感情、欲望の赴くまま』であるのを思い出し、考えるのをやめた。姦計なんてのは、リィンバウムに侵攻してボコられたどこぞの悪魔王に任せていればいい。彼女はそう考えて、悪魔らしく自身の憤りを直接、暴力に訴える事にした。そうと決まれば後は簡単簡潔。手始めに、コバルディアは青年の胸倉を鷲掴みにし、そのまま宙に吊るし上げる。「あぐッ!?」彼女の手と腕は細くて繊細な女性そのものだったが、万力のようなパワーを発揮している。やはり彼女も悪魔、ニンゲンとは身体の仕組みが違うのだ。「あら、アンタ。首元にデカイ切り傷があるの。……まぁ、それはいいか」「ぐ、うう!?」服の襟に首を締め付けられて苦しむ青年の呻きに、コバルディアは冷笑で返した。「よりにもよってこの私に『炎の祭壇をどうにかする方法があるか』ですって? 『炎』に相反するのは『氷』って、エルゴが世界創造した時からの摂理でしょうが! 氷魔であるこの私ならあんなチャチな炎、指先1つで抹殺できるっての」「く、苦しっ……」「そしてぇ、アンタはバカだけどソレに気付かないおマヌケさんだとは、さすがに思えない。……というかさっき『しまった』って顔してたわね。しかも『これは言っちゃいけなかった』って言いたげな、イタズラがバレて焦る子供の顔だったわよ? 察するに、アンタの中には何らのの『ウソ』があった、ってことよね」「マ、ズイ、って」「あ~、思えば私に協力させない理由が『私が召喚術を嫌がったから』とか『協力の無理強いをしたくなかったから』っていうのが怪しかった。キレイごと大好きな天使とかならともかく、欲深なニンゲンが、そんな偽善的理由で行動するわけないもの。まぁ中にはいるかもだけど、アンタは違うわよねぇ? ん?」「……ッ! ……!」コバルディアの手は、彼女自身の不快感に比例して握力が増していた。すると青年の服、特に首回りが窮屈になっていき、当然気道も狭まる。青年、彼女の腕を懸命にタップし、意識はおろか命が飛び立ちそうなのを懸命にアピール。ここでコバルディア、ようやく青年の危機を察した。彼女としても、青年が2度目の死を迎えるのは都合が悪い。そう思って手を放す。自然落下した青年は、凹凸激しい地面に尻を強打した。「~~イッ!? ェボッ、ゲボッ!」「死人が息苦しくなるってのも、変な話」尻の痛みを嘆けばいいのやら、呼吸をしていいのやら……青年はよくわからなかった。コバルディアはそんな青年の呼吸が整うまで、心に冷ややかな怒気を孕みながら、そしてどこかニヤニヤしつつ彼を眺めていた。「さぁ、準備ができたらキリキリ吐いてもらいましょうか。ココは暑くてしょうがないし」「ゲホ、あ~それって、自分が吐いてる『ウソ』について?」「当然。まぁ、悪魔であるこの私にウソを吐いて白々しくする、その度胸は認めてあげる。それ以外は、今すぐ氷の工芸品にしてやりたいくらいムカついているけどぉ」青紫の肌に青筋を浮かべるコバルディアの視線の先で、あまり悪びれる様子の無い青年は困った様子で頭を掻いた。「言っておくが、自分の言葉に貴女への『ウソ』は1つとして無いよ(誰かさんとは違って)。ホントに、貴女に協力を無理強いする気なんて毛頭無いんだ」そう断言した後、青年は大きな溜息を1つ吐きだして「……ただ」と続けた。「貴女に協力を要請しない一番の理由は『言っていない』けれども」一瞬の沈黙。「はぁ?」「だから、自分はウソツキではないのです。ただ隠し事をしていただけなのです。まずはそこん所をわかってもらわないと」「結局似たようなモノじゃない」「いやいや、イモリ(両生類)とヤモリ(爬虫類)くらい違う。例え軍法会議に訴えられても、勝つ自信あるよ」「アンタねぇ……そういう話じゃないでしょうが」青年の妙な自信とバカさ加減に、コバルディアは激怒を通り越して呆れかえってしまう。そしてそれを見越していたかのように、青年は話を進める。「例えば、誰かに『召喚師が召喚術を使うにあたって、一番大切な事は何だ』と問われれば、自分は『信頼だよ』と答える。他のヒトはどうか知らんが、信頼に比べれば、強弱だとか種族だとかは問題じゃあない。召喚した相手に背中を預けても後悔しないか否か……自分が重視するのはソコさ」「……ちっ」コバルディアは、青年の顔から視線を逸らした。「正直、貴女が自分に執着心のある眼差しを向けていたはわかっていた。かなり露骨だったし。ただ、なぜ自分に執着するのかどうしてもわからなかった。理由を聞いてもきっと貴女ははぐらかすだろうから、しばらく泳がせておいて機会を窺っていたわけ。ゴメンな、貴女を試すようなマネをして」「最初っから私の思惑はバレてたってわけ」「貴女はニンゲン……というか召喚主の事を舐めすぎたんだよ。自分はこれでも生前、サプレスの召喚術をかじってたらしいからね。悪魔が『負の感情』を欲する事を知ってたし、悪魔のやり口と対処も、だいたい心得てるつもりさ」あっけらかんと答える青年に、コバルディアはすこしむかっ腹を立てた。「私が痺れを切らして、アンタを殺害する可能性もあったはずけど?」「貴女は召喚師が死ねば帰れなくなると知ってたみたいだし、特に問題視してなかったなあ。道中も自分に対して貴女は怒っていたみたいだけど、最後まで手は出してこなかったから、時間が経つほどにむしろ安心が増してた。ま、その時はその時って感じかな。最後の宙吊りは死ぬかと思ったが」「私のチカラがなきゃあ炎の祭壇は突破できないわよ?」「そんときゃあ横穴掘って鬼岩洞脱出する」自信満々に言い放つ青年に、いよいよもってコバルディアは自身の犯したミスと、青年のバカさ加減を痛感した。つまるところ最初の最初から、彼女の謀略は、青年に対して成立し得なかったのである。そして彼女は悟った。自身の欲求のためには、このバカっぽい青年と正面切って話をしなければならないと。彼女としては、それは悪魔らしくない振る舞いなのでイヤだった。しかし嫌悪の感情以上に、彼女の本能が「欲求を満たせ」と求めてくる。それに逆らうことはニンゲンが呼吸をしないのと同様、悪魔として不可能なことであった。「……ていっ」「イデ!?」とはいえ、本能と感情は別である。自身を謀り、あまつさえ試していた事実を、彼女は到底許せない。なので青年の頭頂部に拳骨をひとつ、振り下ろした。「この一発でチャラ」というわけらしい。「あ~あ、せっかく慣れないマネまでしたのに、台無し。せっかく何も知らないアンタからマナやらなんやら絞り取る予定だったのにぃ」「いてて……そりゃ残念。それでどうする? 本音で語り合うか、サプレスに送還されるか」「前者でないと、問答無用で送還されるんでしょう? ここはオトナな私が折れてあげる。それで、話したら私と『契約』してくれるのかしら?」「契約、ねえ。内容によるかな。待て、拳を振りかぶるのはやめてくれ。善処する、前向きに善処するから!?」召喚術といえども、強大・強力な存在を従えるのはなかなか困難である。そんな時――特に悪魔のチカラを借りる場合、召喚師は悪魔に貢物をする事で、対価として悪魔の庇護を受けるということがある。これが『契約』である。貢物の内容としては、一般的なもので『マナ』、ひどいものだと『魂』、変わり者だと『リィンバウムへ通じるゲート』など。ようするに、契約を交わす悪魔のチカラと趣向、目的に左右されるわけだ。「別にアンタにはそれほど期待してないわよ。私が欲しいのはアンタの『魂の負の輝き、負の感情』なんだから」青年は2つ目のタンコブに顔をしかめながら、コバルディアの身の上話に耳を傾けるのだった。「悪魔は生命の負の感情を糧とする存在。だけどニンゲン個々の味覚に好き嫌いがあるみたいに、悪魔も負の感情に好みがある。もちろん私にも。……結論からぶっちゃけちゃうと『不運なニンゲンの魂』が好みなのよ、私は」「つまり『貴女のお眼鏡にかなった自分は最高の不運野郎』だと」「自覚無いの?」「…………ある」星の巡りの悪さは、青年自身がよく知っている。鬼岩洞での様子にしても、青年は何度死にかけたことか。その内2回の実行犯であるコバルディアは気にする様子も無く、続ける。「不運な目にあった奴の心ではね、実に色々な感情が生産されるのよ。『こんなはずじゃあなかった』『なぜこんな目に』『助けてくれ』そう叫びたくなるほどの後悔・憤怒・絶望・不安などなど。……それだけなら戦場にでも行けば同じモノは得られるんだけど。不運な奴ってのは、原因が『運』なんて不確定要素だからね、それらの感情をぶつける相手を明確に定められないのよ。近場の奴か、エルゴへの八つ当たりがせいぜい。根っ子の部分は発散されない。そうなると、負の感情はほとんど発散されずに心の中にどんどん貯蓄されていくわけ。そして貯蓄された多種多様の感情は、心という窯の中、憤怒の熱で渦巻き混ざって煮詰められ……最終的に深くて仄暗い魂の輝きとして現れる。その凝り固まったヘドロのような感情と、黒く鈍く光る魂の輝きこそが、私の至高とするモノ」「うわあ」コバルディアの語りに、恍惚の響きが混じっていた。いつかの昔に彼女が見た魂の煌きを回顧し、頬が緩んでいるようだ。青年はそんな彼女に内心ちょっと引いた。「……でもさ、自分よりもひどく運が悪い奴も、探せば大勢いると思うんだけどなあ。いくらか運が悪いって言っても、自分がワーストではないだろ、たぶん」「そこが泣きどころなのよ。そもそも全生命体のうち、幸運な奴と不運な奴とが半々いるわけでもなし。幸と不幸が入り乱れた生涯なんてザラ。だから幸運より不運が勝る奴を探すだけでもメンドクサイ。そしてせっかく数少ない標的を見つけても、そいつらの大半は己が不運故、勝手に破滅しちゃう。そうなった奴の感情なんか、絶望一色ですぐ飽きちゃうからいらないし」拗ねたように口をとがらせるコバルディアは、得てして子供っぽく青年には見えた。しかし欲望に忠実な故に自然とそうなるだろうし、話の内容は身勝手そのものだ。「私、一回で極上の食事をするよりは、毎日朝昼晩と継続して上質な食事を味わい尽くしたいタイプなの。だからぁ、負の感情を遂次産み出す『不運を呼び込む体質』でかつ『心身共にしぶとい』奴を常々探してたんだけど、私の眼鏡に適う奴はほとんどいないのよねぇ。特に前者のハードルが高くて高くて」コバルディアはわざとらしく首を横に振った。しかしその後、嬉々とした笑みをうかべると共に、青年の表情を除き込んだ。「その点、アンタには及第点をあげてもいいわ。この洞窟での魔物との遭遇数、恨みったらしく延々と続く不幸自慢、魂が纏う鈍色のオーラ……それらを総合して判断すると、アンタは10年、いいえ100年に1人の『逸材』ね。ついでに言うなら、アンタの一見特徴が無いように見える顔もグッド。……『あ、コイツ幸薄そう』って見ただけで直感的にわかるって、そうそうないわ」「……(心が折れそうだ)」自分の精神がガリガリと削り抉られている幻聴が、青年に聞こえ始めていた。しかしコバルディアは気にも留めずに饒舌に話し続ける。そもそも正面切って話し合うことになった要因は青年にあるので、彼女には遠慮する気がさらさら無かった。「むしろもっと鬱屈して、私に負の感情を献上しなさい」とさえ思っていた。「あと、身体の方は問題無いでしょう。気持ち悪いくらい半無尽蔵のスタミナと、黒光りする節足動物並みのしぶとさは、素直に賞賛してあげる」「それ絶対バカにしてるだろ。特に後半」「なんのこと? ……ま、ここまではいいんだけどねぇ」大きな溜息を吐くコバルディア。どことなく、末期患者に告知する医師のように見えた。「問題は精神面ね。どうにもアンタは、ハングリー精神が欠けているというか『生きてやる』っていう意思に欠けているというか」「そりゃ死んでるからな」「わかってて茶化してるでしょ。そうね、一般的なニンゲンで言う所の『死んでたまるか』っていう気概、でどうかしらかしら。アンタには決定的にソレが欠如してる。自分を軽視している、と言い換えても良い。とにかく、アンタは『協力の無理強いをしない』とか『悪魔に殺されてもその時はその時』とか、まるで自分を大事にしていない。別にニンゲンがどうなろうとかまわないけれど、私の食料たる者、他者を踏み台にしてでも命にしがみ付くようでないと。色々と困るのよねぇ、私が」「……」コバルディアの話はメチャクチャな部分もあるが、その言葉は青年の琴線に触れたようだった。青年にしてみれば身に覚えがありすぎるし、生前にも同じような事をしでかしていた確信があった。「まあ、うん。それは確かに自分の欠点だ。だけど生前からこんな性質だからなあ。シルターンでは『三つ子の魂百まで』という言葉があって、生まれついての性はどうにも更生しづらく………………ん?」「なに、どうしたの」「な~んか、自分の言葉に違和感があるような、ないような」青年は腕を組み、脳内(魂か?)に残留している自分の記憶のサルベージを試みる。界の狭間へ紛れ込んだ死者の魂は、生前の記憶を忘却しているのがほとんどだが、重要な記憶やなじみ深い記憶を憶えているケースも少なくない。そう知り合いの導き手から聴いていた青年は、先ほど感じた違和感を頼りに、必死に自分の記憶を探る。「生前……三つ子の魂……生まれついての性、サガ……『生まれついて』?」なぜそこまで必死になるのか、青年自身も理解できなかった。自分の根幹に関わる問題だということを、本能的に感じていたのかもしれない。「ああ」瞬間、青年の脳裏に衝撃が走った。今回ばかりはコバルディアにぶたれたせいではない。失われていた記憶が復旧し、それが自分の性質・行動の裏付けとしてがっちり歯車が噛み合ったのだ。今まで記憶喪失のために感じていた『自分なのに自分では無い部分』が、きっちり自分のパーツとして受け入れる事ができた爽快感が、青年の心を満たす。「何よ、そのシンキクサイ顔は」しかしその一方で、青年の顔色はどうにもすぐれなかった。「幸薄い」と評された表情に少し影が差し込み、目の下には若干のくまができた……ように見える。「あー、あれだ、ヒトには思い出したくない記憶というのがあってだな。まあ、ソレを引き上げてしまったわけだ。うん」青年は話をそれで打ち切り、それ以上口を開かずに虚空を見つめはじめていた。言葉は無いが、どうにも「これ以上語らせないでくれ」と良いたげな雰囲気がプンプンとにおっていた。「話しなさい」「うっ」「まさか、いたいけな乙女の本心をあらわにしたあげく、自分だけ口を閉ざすなんて、そんな不義理なことないわよねぇ?」「うううっ」もちろんその程度の拒絶で怯む悪魔はいない。そして再三言うが、「腹を割って話そう」と持ちかけたのは青年なので、拒否権がないのである。「さぁ、素直に語るか無理やり語らせられるか、どっちが好みかしら」~~~~~~~~~~幕間ができたので正直この第4話が鬼門だった。