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No.19511の一覧
[0] 世界を巡る被害者と加害者の物語 2019/10/17 投稿[普通のlife](2019/10/17 21:56)
[1] 第1章 忘れられた島 第1話 宣告は突然に 2014/6/6改訂[普通のlife](2014/06/06 00:36)
[2] 第2話 彼の居場所 2014/6/6改訂[普通のlife](2014/06/06 00:48)
[3] 第3話 招かざる来訪者達 2014/6/6改訂[普通のlife](2014/06/06 00:58)
[5] 第4話 青年の想い その① 2014/8/31 改訂[普通のlife](2014/08/31 19:38)
[6] 第4話 青年の想い その② 2014/8/31 改訂[普通のlife](2014/08/31 19:41)
[7] 幕間[普通のlife](2011/03/06 11:26)
[8] 第5話 教育者 前半[普通のlife](2011/03/25 01:12)
[9] 第5話 教育者 後半その①[普通のlife](2011/04/08 02:13)
[10] 第5話 教育者 後半その②[普通のlife](2011/05/18 00:46)
[11] 第6話 裏切者[普通のlife](2011/05/25 23:12)
[12] 幕間 ※短い[普通のlife](2011/09/05 04:27)
[13] 第7話 タソガレ 前半[普通のlife](2011/06/02 22:54)
[14] 第7話 タソガレ 後半[普通のlife](2011/06/28 05:00)
[15] 第2章 界の狭間 第1話 エピローグ ※タイトルのみ改訂[普通のlife](2011/09/05 04:25)
[16] 第2話 そして青年は思い出す[普通のlife](2011/07/25 23:45)
[17] 第3話 小さき者たち その①[普通のlife](2011/09/05 04:26)
[18] 第3話 小さき者たち その②[普通のlife](2011/09/20 00:29)
[19] 第3話 小さき者たち その③[普通のlife](2011/10/07 01:08)
[20] 第3話 小さき者たち その④[普通のlife](2011/10/15 21:47)
[21] 第3話 小さき者たち その⑤ あるいは カバVSバカ[普通のlife](2011/10/30 01:05)
[22] 第3話 小さき者たち その⑥[普通のlife](2011/11/11 23:53)
[23] 第4話 氷魔コバルディア その①2014/6/6改訂[普通のlife](2014/06/06 01:08)
[29] 第4話 氷魔コバルディア その② 2014/6/9改訂[普通のlife](2014/06/09 00:05)
[37] 第4話 氷魔コバルディア その③ 2014/6/19 投稿[普通のlife](2014/06/19 22:28)
[38] 幕間 プロローグ[普通のlife](2014/06/24 18:41)
[39] 第3章 聖王都~城塞都市 第1話 サイカイ その① 2014/9/29章の名前変更[普通のlife](2014/09/29 22:36)
[40] 第1話 サイカイ その② 2014/7/20投稿[普通のlife](2014/07/20 16:24)
[41] 第2話 サイカイと旅立ち その① 2014/7/30投稿[普通のlife](2014/07/30 23:17)
[42] 第2話 サイカイと旅立ち その② 2014/8/13投稿[普通のlife](2014/08/13 01:12)
[44] 第2話 サイカイと旅立ち その③ 2014/8/17投稿[普通のlife](2014/08/17 02:09)
[45] 幕間 2014/9/20投稿[普通のlife](2014/09/20 00:41)
[46] 第3話・表 ハヤト、最初の遭遇 2014/9/29投稿 10/24 誤字直し[普通のlife](2014/10/24 04:41)
[47] 第3話・裏 タベルナ、最初の遭遇 2014/10/7投稿[普通のlife](2014/10/07 00:15)
[48] 第4話 バノッサとの初戦 その① 2014/11/3投稿[普通のlife](2014/11/03 22:56)
[49] 第4話 バノッサとの初戦 その② 2014/11/24投稿[普通のlife](2014/11/24 03:07)
[50] 第4話 バノッサとの初戦 その③ 2015/1/24投稿[普通のlife](2015/01/24 02:25)
[51] 第4話 バノッサとの初戦 その④+夜会話 2015/3/30投稿[普通のlife](2015/03/30 23:13)
[52] 番外編 エルゴの王とゆかいな仲間たち 2015/4/21投稿[普通のlife](2015/04/21 00:27)
[53] 第5話 その銘を知る者 その① 2015/5/15投稿[普通のlife](2015/05/15 01:08)
[54] 第5話 その銘を知る者 その② 2015/6/14投稿[普通のlife](2015/06/14 14:15)
[55] 第5話 その銘を知る者 その③ 2015/8/15投稿[普通のlife](2015/08/15 18:01)
[57] 第6話 金の派閥にケンカを売る(仮題) その① 2015/11/1投稿[普通のlife](2015/11/01 03:45)
[58] 第6話 金の派閥にケンカを売る(仮題) その② 2018/7/14 投稿[普通のlife](2018/07/14 02:34)
[59] 第6話 金の派閥にケンカを売る(仮題) その③ 2019/1/20 投稿[普通のlife](2019/01/20 12:08)
[60] 第6話後日談+番外編[普通のlife](2019/10/17 21:50)
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[19511] 第5話 その銘を知る者 その① 2015/5/15投稿
Name: 普通のlife◆b2096bb9 ID:34884a85 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/05/15 01:08
オプテュス戦の翌日、そろそろ昼食が恋しくなる頃。

ニッポンの高校生『ハヤト』は、サイジェント北西を流れる川を目指していた。彼はリプレが仕立てたリィンバウム衣服を纏い、手にはカゴを持っている。

なぜハヤトが川へ向かうのか、それはスラムチーム・フラットの屋台骨『リプレ』にお使いを頼まれたからである。



***



時はわずかに遡る。

「なあ、タベルナは?」

アジトの台所にいたリプレに、ハヤトは問う。彼は午前中ずっとアジトをウロウロしたが、昨夜ここに泊まったはずの旅人(自己申告)『タベルナ』だけは見つけらなかった。

「タベルナならアルク川に行くって、朝一番に出かけたよ。倉庫にあった釣竿も一緒に」
「そうなのか……リプレって、タベルナには敬語で『さん』付けじゃなかったっけ?」
「『同い年くらいだからフランクに』らしいよ」
「へえ」

ちなみにリプレは17歳、ハヤトとも同い年である。

「そうだ1つ頼まれてくれない?」
「ん?」
「タベルナにお昼ごはんを持ってって欲しいの。『昼はサカナを釣って鉄板焼きにでもするさ』とは言ってたけど、お魚だけだとさびしいでしょ」
「いいぜ、俺も出かけようと思ってたから。俺の分も頼むよ、一緒に食べる」
「はーい」

リプレはエプロンの帯をきゅっと背中で締めなおし、作業に取り掛かる。

取り出されたのは一斤のパン(自家製)と、野菜やらビン詰めジャム。メニューはサンドイッチだろう。

「ケッ、あんなよくわからん奴のメシなんか心配するなっての」

パンを端っこから切り分けていくリプレに、たまたま通りすがったフラットリーダー『ガゼル』がぼやく。ただでさえ貧しいフラットに、他人の食に回す金なんてないのだ、と言っている。

「ガゼルぅ、そんな言い方失礼でしょ? これからしばらく、タベルナとも一緒に暮らすんだから」
「はあ!? 聴いてねえぞ!」
「そうなんだ。私とレイド、エドスには話してたけど……アンタ起きるのが遅かったから、」
「後回しにされたって? なんだそりゃ」
「……(ガゼルに話すと十中八九こじれるから、外堀からうめにかかったのかな)」
「私達のせいでタベルナもオプテュスと敵対しちゃったし、『宿泊費です』ってお金も貰っちゃったんだから。文句言わない!」
「へーへー」

そうこう言っている間に、リプレは美味しそうなサンドイッチを4つ完成させていた。そしてサンドイッチはキレイな紙でクルクル包装、カゴに入れられハヤトに託された。

「ついでにお魚を釣ってきてくれると嬉しいな」
「じゃあいってきます」

なにげなく「いってきます」と言える仲間がいるっていいな、とハヤトは思った。



***



移動していたら困ったが、タベルナはちゃんとアルク川にいた。例によって土色の作業服、たくさんポーチが付いたベルトを腰に巻き、黒い石のぶら下がったネックレスをしている。

タベルナは川辺に座って釣り糸を垂れていたが、ややあってハヤトに気付き手を振る。左手首にはめた腕輪が、日光を反射して鈍く光った。

「やあハヤト……襟にファーのついたコート、リプレが仕立ててた服か。これでキミもリィンバウム人の仲間入りだ」
「ありがと。そっちの釣果は?」
「全然」

タベルナは視線を川に戻しながら、隣に置いた金属バケツ(魚を入れる用だろう)を指差した。

にゃーん。

馴染み深い鳴き声がして、バケツから小動物が顔をだす。縦に割れた瞳孔を持った大きな目が、ハヤトをじいっと見つめる。

「……(ネコだ。おこぼれにあずかろうと寄ってきたのか? でもバケツの中で遊んでるくらいだから、1匹もつれてないんだな)」

ハヤトはネコ好きだった。

別にイヌやトリとかも嫌いじゃないが……撫でがいのある毛並みにピョインと跳ねたヒゲ、そしてツンとすました態度が大好きだった。『ネコのしぐさをレポートする』なんてバイトがあったら、真っ先に応募して一日中没頭する自信があった。

「よーし」

ハヤトはサンドイッチのカゴを置いて、ゆっくりバケツに接近していく。温厚なネコのようでハヤトが近づいても逃げず、むしろ「かまって」と言うかのように、肉球のカワイイ前足を突き出してくる。

「よしよし、イイ仔だ」

バケツの傍まで来たハヤトは、両手をネコの前足の下に差し込んで抱えあげる。

ざばあ。

「!?」
「にゃあ」

水を滴らせてたネコの下半身は……魚だった。ネコにあるべき後足も尻尾も無く、かわりに立派な尾ひれがピチピチしている。

「3時間粘ってニャン魚1匹なんて、あんまりだ」
「ニャン魚!?」
「ああ、ニッポンには生息してないのか」
「そもそも俺の世界に存在しないよ!?」
「ならば説明しよう……生態は、ネコとサカナをごちゃ混ぜにした感じ。特徴は生命としてのタフさ、かな。水中・陸地で呼吸可能、淡水・海水を問わず生きていける。
半獣半魚という種がなぜ誕生したのか? 有力な説によると、メイトルパの古き妖精の誕生にも見られる『魂の共鳴』によって、ネコとサカナの間に生まれた仔だとかなんとか。
でも僕としては『ニャン魚』という種がはじめにあって、より陸地に適応するよう進化したのが『ネコ』、より水中に適応するよう進化したのが『サカナ』じゃないかと思うんだ。そこのところ、ハヤトはどう思う?」
「う、うん。(どうでも)いいんじゃないかな」

ニッポンの常識からすれば「奇抜」なリィンバウムの生態系に、ハヤトは狼狽ぜざるをえない。

「せっかくの異世界の珍味、どうだ1口?」
「食えるのか!? というか食うのか!?」
「強要はしないよ。無理やり食わされる者の痛ましさは、辛いほど知っている。
まあどっちにしろ僕は食う。まさか『食べるな』なんて下らんこと言わんよね」
「いや、でも」
「食べるために釣りをして、食える魚が釣れたんだ。そりゃあ食うさ」

あっけらかんとタベルナは言う。

「その通り、だけど」
「に゛ゃ~……」
「~~~~~っ!」

大きな目を潤わせて、悲しげに鳴くニャン魚。「ぼく、たべられちゃうの?」と語っている……ように見えるのは、ネコ好きハヤトの罪悪感ゆえか。



ハヤトの脳裏に浮かぶのは、これから起こる惨劇のイメージ。

まな板の上のニャン魚と、その傍らに立つタベルナ。

ニャアニャア鳴く声もタベルナは気にせず、むしろ嬉々とした様子で、手に持つ包丁をニャン魚の首に……。



「ああっ!」
「はっ!?」

我に返ったハヤトは、ニャン魚が空を泳ぐ姿を目撃した。いや、ハヤトがニャン魚を川へと投げ込んだのだ。

やがてポチャンと着水。それでニャン魚は、2度と姿を現さない。

「僕の昼飯が……鉄板焼きが」
「お願いだから、後生だからアイツだけは食べないでやってくれ!」
「後生なんて知ったこっちゃない……今の空腹の方が大事だよ……」

2人は泣いた。互いに全く違う理由だが、涙がとめどなく溢れた。腹の虫も鳴いた。

「ホントごめん! 昼ごはんならリプレのサンドイッチ持って来たし、なんなら俺の分も全部食べていい! 魚もリリースした分俺が釣るから!」
「ニャン魚がダメで、他の魚は食べていい……そんなのおかしいよ」
「う」

恨めしい眼差しのタベルナに、痛い所をつかれてしまった。



それから釣竿を手にしたハヤトは、意外な才能を発揮する。

ものの数分で、1匹目を釣りあげたのである。しかも体長がニャン魚の倍近くある大物だ。

それからも入れ食い状態。タベルナがサンドイッチ2個を食べるより、魚のエサが切れる方が先だった。

「僕の3時間はなんだったんだろう」
「はは……運が良かっただけだよ」
「あるいはニャン魚の加護、かな。どっちみち僕に勝ち目はなかった」

金属バケツに収まらない釣果を見ながら、タベルナはため息をついた。



~~~~~



「買い取りならやってるよ。鮮魚は手に入りにくいからな」

ハヤトとタベルナは、街のとある魚屋へやってきた。

釣れすぎた魚の処理について「食う分と保存する分を持ち帰り、残りは売って金に換えよう。サカナの保存にも労力がいるし、金は必要だ」と進言したのは、他でもないタベルナだ。

「で、売りてえのは?」

タベルナは、金属バケツを店主の男に見せた。バケツの中には、魚が10匹ほど詰まっている。これだけでも釣果の半分くらいで、1番の大物やその他の魚は風呂敷に包んで、ハヤトが持っている。

「商品にならねえモンはタダでも引き取らんぞ。……ちょいと準備があるから、裏口で待ってろ」
「はい!」

タベルナの明朗な声を聞くと、店主は店内へ引っ込む。

「ホントに大丈夫なのか?」

いぶかしむ様子で、ハヤトはたずねた。

「ちゃあんと活き締め処理までしたんだから、売れないと困る」
「……アレはすごかったな」
「昔ちょっと魚屋でアルバイトしていてな。その時に教わったんだ」
「いやそうじゃなくて」

活き締めというのは、魚を即死(あるいは脳死)させた上で血抜きして、魚の鮮度を保つ手法。つまり血がドバドバ出るのである。

釣果がありすぎたので、作業中タベルナの手元とその周囲は大量の血で染まった。嬉々として作業をこなすタベルナとあいまって、「血祭り」と呼んでも遜色ないほど凄惨な光景だった。

「……(あの中にニャン魚がいなくて、ホントに良かった! その上目の前で鉄板焼きになんてされたら俺はもう……って、あれ?)」

疑問が1つ。

「……(鉄板焼きをするには、鉄板が必要だよな)」

しかし鉄板なぞ川にはなかった。当然、鉄板をタベルナが携帯しているわけない(そもそもクソ重い鉄の板を持ち歩く奴はまずいない)。

もちろん、彼の腰に巻かれたポーチ群に入ってるわけはない。魚を包んだ風呂敷や、活け締めに使ったナイフくらいの小物しか入らない大きさだもの。

「なあ、ところで鉄板焼きをどうやって」
「ホラ」
「え」

流れをぶった切るように、タベルナは金属バケツを渡した。

「こっからの交渉はハヤトに任せた」
「ええっ!? 無理だよ、やったことない」
「これくらいできなきゃあ、ココじゃあ生きていけないぞ」

そう言われるとハヤトは弱い。ニッポンの常識が通じないリィンバウムで暮らすのだ、未体験に慣れておく必要はある。いいように使われている気もするが。

それに「フラットのためになる仕事をしたい」とハヤトは思っていた。余分に釣った魚を換金できるようになれば、家計のたしになる。

モットーが「悩むよりもまず行動」だし、ハヤトは決意を固めた。



ちょうどその時。



「おっとっとと……」

タベルナの背後を、ヒトリの少女が通り過ぎようとしていた。それがただの少女なら、ハヤトも気に留めなかったのだが。

少女は大きな荷物を抱えつつも、急いでいるのか小走りしているのだ。大荷物が少女の視界を塞いでいるし、足元も少しおぼつかない様子だったので、ハヤトは見ていてとても危なっかしく思った。

「うわっ、わわわっ!?」

案の定小石にでも躓いたのか、あるいは体の支え方をミスったのか。少女はグラリと体勢を崩す。

持っていた大荷物は放りだされ、彼女そのものは前のめりに倒れこむ。

「あ」

飛んでいく大荷物と、倒れる少女が向かう先には……タベルナが立っている。どっちかは外れそうなものだけど、吸い込まれるかのごとく、両方がタベルナに襲いかかる。

「どいてどいて!」
「……?」

タベルナが振り返るがもう遅い。

「ぶッ!?」

まず顔面に、大荷物がクリーンヒット。ゴチンッ、と硬くて痛そうな音もする。

「きゃあ!」
「お゛う゛ぅッ!?」

そしてトドメとばかりに、少女のタックルめいた一撃が脇腹に突き刺さる! タベルナが踏ん張れるはずもなく。2人はもつれ合うように地面に衝突、そのまま倒れ伏す。大荷物は2人の足元に落ちた。

「……」
「……」
「……」

一瞬の静寂。ハヤトが声をかけるべきだろうが、突然の悲劇に呆ける他なかった。

「いった~……」

沈黙を破り、起きたのは少女。長そうな赤毛をかんざしでまとめていて、首に長いマフラーをはためかせている。

「あ、荷物!?」

彼女はタベルナをまるで無視して、放りとばした大荷物に跳び付いた。

「よかったぁ無事だ。……いそがないとお師匠にしっかられる!」

少女はピョコンと立ち上がろうとするが、直後「ぐえッ」と呻いて尻もちをつく。そうなった理由は、ハヤトの視点から容易にわかった。

うつ伏せたタベルナの手が、少女のムダに長いマフラーの先を掴んで引っ張っていた。

「おい」

ゆらり起きるタベルナは、少女のマフラーを握りしめつつ呟いた。

「ネエチャンのほうから激突しといてさ。シカトは酷いな、オカシイなあ」
「ぐぐぅ……ごめん謝るからマフラー離して! なんか生臭いしっ!」
「……(やばい)」

ハヤトが思い返すのは、タベルナとの初遭遇。タベルナにちょっかいをかけたゴロツキは、哀れオムレツを受け付けない体になった。
 
そう、激昂したタベルナからは「容赦」の2文字が抜け落ちるのだ。少なくともハヤトはそう認識している。

「イッテテテ……タックルされた脇腹スッゲエ痛いわ~、こりゃあ肋骨にヒビ入ってるわ。腕利きのストラ使いか、召喚師に治療してもらわんと」
「何、言ってんの?」
「慰謝料30000バームな」
「はあ!? それって聖王都でしばらく暮らしてける額じゃん!」

タベルナの言動が当たり屋めいてきた。過失があるのは少女だが、これ以上はハヤトも容認できない。

「さすがにやりすぎだ!」
「言うがなあハヤト、落とし前は大事さ」

そうやってハヤトとタベルナが、ちょっとだけ視線をそらした途端……

「あ!?」

少女が消えた。

さっきまで確かにいたのに、今はもう影もかたちもない。彼女の荷物もなくなっている。

タベルナの手に残ったマフラーの切れ端がなかったら、「狐か狸にでも化かされたんだろ」と言われれば納得したかもしれない。

「マフラー切断しやがったな」

言うようにマフラーの切り口は、それが鋭利な刃物の仕業であることを物語っていた。

つまり少女は、あの一瞬の内に刃物を取り出しマフラーを切断、大荷物を抱えてこの場から去ったということになる。しかも己の行動を悟らせないよう音を立てず、気配を殺しながら。

「只者じゃあない、が、あの大荷物だ遠くへは……」
「タベルナどこに行く!?」
「あのアマに報復せねば気がすまん! 執念深さで生きてるからな僕は」
「魚の交渉は!?」
「任せる。なあに、さっきの僕を交渉の手本にすればいい」

「『無慈悲に強気で』がコツだ」と言い残しつつ、タベルナは走り去った。


「いたな、待てゴラアッ!」
「ひいっ!? シツコイなもう!」


「恐喝の手本だよ、あれは」

遠のく少年少女の喧騒を耳にしながら、苦い表情でハヤトはこぼした。

「タベルナも悪い奴じゃない……と思う……思いたいけどなあ」



「ありがとうございました~。今後もぜひ当店をごひいきに」

交渉は終わった。キレイな女性店員の手引きもあって、素人のハヤトもなんとかかんとか できた。

「どうだった?」

意気揚々と裏口から出たハヤトを、タベルナが出迎えた。いつの間に戻ったのだろう。

「なんとかなったよ……1人で心細かったけど」
「う、ごめんなさい反省します」
「そっちは?」
「屋根へ飛び乗られちゃあ、さすがに打つ手なし」
「はは、冗談だよな」

2人は雑談を交わしながら帰路につく。早くしないと、おみやげ用の魚が悪くなってしまう。

「あ、タベルナに伝えることがあったんだ」
「?」
「朝方ガゼルに言われたんだ。街外れの荒野へ、俺が召喚された場所を探しに行こうって」
「元の世界に還る手がかりが見つかるかも、か?」
「うん。それで明日、みんなで出かけるんだけど」
「おお!」
「留守を任せていいかな?」
「………………おお」

露骨にガッカリ声を出すタベルナ。



こうして留守番をするハメになったタベルナは、幸運にもトラブルを回避するであった。

第5話『その銘を知る者』 ―完―










なんて、旨い話があるはずもない。



~~~~~~~~~~



正直すまんかった


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