ディエルゴが覚醒したことで島全体に溢れている亡霊たちの数を減らしながら住民の避難を行っていた真樹は、それらを終えるとメイメイの店にも戻らずにディエルゴが巣食う遺跡へと向かった。
倒しても倒しても湧いてくる亡霊たちを相手にさすがの真樹も無傷というわけにはいかず、纏っている衣服はボロボロになっている。
「きりがないにも程があるな」
遺跡内部に侵入してからさらに増加している亡霊たちを手にした布都御魂で薙ぎ払いながらため息を吐く。
「この半日で千を超える亡霊を倒しておいてため息一つ……君は本当に人間なのかな?」
紅の暴君を揮って真樹の後ろに続くイスラが呆れたように言う。
すでに魔力放出による攻撃をやめている真樹は、それでも布都御魂の一振りで2、3体の亡霊を斬り裂いている。
しかし、湧いてくる亡霊の数はいっこうに減る様子もなく、相対的には増加の一途を辿っている。
「一応、まだ人間だ。“普通の”、とは言わないけどな」
「大佐殿は、確かに普通の人間ではないのであります。誰もが認める“変態紳士”なのであります!」
「おいおい、ヴァルっち。そんなに持ち上げるなよ」
亡霊相手に銃を撃ちまくるヴァルゼルドが誇らしげに言うと真樹も身悶えして照れながら亡霊を斬り裂く。
「いや、変態なのに紳士って……おかしくないかい?」
独特の感性をもつ真樹の反応や聞き慣れない単語の組み合わせに困惑しながらもイスラは亡霊を倒し続ける。
満身創痍、疲労困憊状態のイスラが肩で息をしながらクロッツァの実を食べてながら必死に先を行く真樹たちに続く。
自らの死を願い、けれど少しでも意味のある死を望むイスラは、真樹と共に島の住人の避難と亡霊討伐に尽力した。
破損した魔剣を扱うイスラは、真樹と比べてかなり多くの傷を負うことになっていた。
それでも亡霊に飲み込まれて死ぬことは、イスラとしても受け入れ難いものであり、姉や迷惑をかけた者たちに迫る危機を少しでも軽減するためにも剣を揮う事をやめることができなかった。
回復効果の高いクロッツァの実や回復系召喚術を使用することで辛うじて戦闘可能な状態を維持しているが、精神的な疲労に加えて抜剣覚醒状態を長時間持続させているイスラの魂は限界をとうに越えている。
群がる亡霊たちも一撃で倒せなくなっており、先を行く真樹やヴァルゼルドの援護が入らなければすでに物言わぬ骸に成り果てているはずだった。
「おいおい、イスラ。これからが本番だってのにもうギブアップか?」
亡霊の一体を斬り崩したところで肩膝をついたイスラを振り返り、真樹が声をかける。
「……冗談。僕は、まだまだ、戦えるよ」
もはや感覚さえ薄らいでいる四肢に魔力を通わせて無理やり身体を奮い立たせるイスラ。
そんなイスラの様子を見ながらも真樹の声や表情に気遣う様子はない。
足を止めたイスラを振り返ることはしても、決してその歩みを止めない。
「……わかって、る。僕の、命は……姉さん、たちの為に使うんだ」
「そんな襤褸雑巾みたいな格好で言われても格好ついてないっての。もうちょっとシャキッとできないかな?」
ため息混じりに言う真樹は、亡霊の一体を斬り倒してその手にした刀で軽く自分の肩を叩きながら機界の召喚術を発動させて複数の亡霊たちをレーザーで薙ぎ払う。
普通の召喚師であればとうに精神力も魔力も尽きていてもおかしくないほどの召喚術を行使している真樹だが、その限界はまったくみえない。
「っ、本当に、化け物だよ。君は」
言葉では悪態をつくイスラだったが、今は優しい労わりより真樹の力強い言葉が心地良かった。
ボロボロの身体に鞭打ちながらも立ち上がったイスラは、後方から迫る亡霊を斬り払いつつ真樹の背を追った。
ここに至るまで、幾度と無く行われている二人のやり取り。
それは、贖罪を求め、死に場所を求めるイスラを生き長らえさせる拷問であり、真樹なりの叱咤でもあった。
「……ねえ、マキ。どうして君は、ここまで戦うんだい?」
「はい? そんなの皆を助ける為に決まってるだろ?」
イスラが感じた純粋な疑問に、何を今更と言うように真樹は応えた。
もうすぐすべてが終わろうとしていること時にそれを問うたのは、ただの気まぐれでしかない。
イスラは予感していた。
この戦いが終われば、きっと自身と真樹は運命が別たれるのではないかという確信にも似た予感が。
その予感がイスラの心に小さな好奇心を逸らせていた。
「君は、もともとこの世界の住人じゃないんだろ? 何の関係もないはずの人間を助ける為にどうして命を賭けることができるんだい?」
「住んでた世界なんて関係ないっての。俺は、ただ女の子に良い格好を魅せたいだけだし、戦うことも楽しいから戦ってるんだ。それと今のところ命を賭けるほどの事態じゃないしな」
イスラの問いに軽い調子で応える真樹。
真樹の言葉に嘘はないということは、イスラにも分かった。
最近は自制できているようだが、真樹の女好きは周知の事実であり、戦闘行為を楽しんでいることも見ていれば分かる。
しかし、あらゆる理不尽を押し通すほどの力を真樹が手にしたのは、生を受けた瞬間ではない。
初めて真樹がこの島に現れた時、彼は見た目通りの子供相応の力しか持って居なかったと聞いている。
それがいつの間にかあらゆる理不尽を跳ね除け、自らの理不尽を押し通す力を身につけていた。
ただの子供がそれほどの力を得るのにどれほどの鍛錬が必要だったのか計り知れない。
それを真樹は、見栄を張りたいからと、楽しいからという理由だけで成したと言う。
それが事実であるのなら真樹は、自分よりも歪んでいるとイスラは感じた。
「大佐殿! あれが核識の間に繋がる最後の扉であります!」
ラトリスクに残されていた喚起の門のデータを取得し、遺跡内に入ってから真樹たちのナビをしていたヴァルゼルドが一際強固そうな防壁を指し示した。
「お、ようやくラスボスか。とりあえず、ここで最後の休憩でもしてくか?」
おどけた調子で最後尾についているイスラに言う真樹。
「必要ないよ。ここまで来たらさっさと終わらせたい。もともと僕の役目は遺跡の扉を開くことだけなんだろ? 戦力として数えないのなら僕が休息する意味はない」
疲労に顔色を悪くしながらも皮肉るイスラに真樹は満面の笑みを魅せた。
「分かってるじゃんか。それじゃあ、最後の役目を果たしてくれよ」
「ふん、本当に最後まで君はブレないんだね」
これから始まるであろう想像を絶した存在との戦い。
真樹の強さが常軌を逸していることはど百も承知のイスラでも、この先の戦いの勝敗を予想できない。
地上からでは天上の星々の高さは比べられないのと同じだ。
それでもイスラは真樹を信じることしかできない。
ここまで辿り着いたのは、真樹の力があったからこそであり、真樹がディエルゴとの戦いに入れば余力のないイスラは一人で亡霊たちの相手をしなくてはならなくなる。
ヴァルゼルドはあくまでも真樹の護衛獣であり、例え危機的状態に無くとも戦闘中は真樹の傍を離れることはない。
それでもイスラに恐れはなかった。
此処から先は、真樹が運命を決すること。
その先にこそイスラが守りたかった者たちの未来がある。
ならば、自分はようやく歩みを止めることを許されるのだとイスラは思った。
「……マキ。必ず、勝ってよ」
「はっ、俺が負けるわけがない!」
ここに至っても自信過剰な真樹の姿にイスラは自然と笑みがこぼれた。
「それじゃあ、開くよ」
そう言って真樹に表情を見られないように扉の前に立ったイスラは紅の暴君を掲げる。
イスラがキルスレスに魔力を込めると扉に描かれていた機械の回路のような紋様に四界を示す四色の光が奔り、重い揺れとともに扉が開く。
「お、開いた、開い――イスラ!」
「えっ?」
開き始めていた扉の置くから亡霊たちと同じような外見の腕が無数に飛び出した。
「うあっ?! くそっ、放せッ!」
「イスラッ!」
雪崩のように押し寄せた亡霊の腕がイスラを掴み上げる。
「っ、マキッ!」
腕に掴まれたイスラに真樹が手を伸ばし、イスラもその手を掴もうと自分の手を伸ばすがあと僅かのところで核識の間へ引き込まれてしまう。
「こんなのありかよ、おいっ!」
ここまで余裕を崩さなかった真樹だが、想定を大きく外れる事態に初めて隙を見せてしまった。
その隙を知ってかしらずか、扉から飛び出した腕の一部が絡みあい、蛇のように真樹を喰らおうと襲い掛かってきた。
「た、大佐殿! gっオゥ!?」
対応が遅れる真樹の前にヴァルゼルドがカバーに入るが大樹ほどの胴を持つ亡霊の蛇の大口がヴァルゼルドを頭部から喰らいつき、その巨大な身体を巻き付けて核識の間へとヴァルゼルドも引き込まれる。
「ヴァルっ! くそっ、なんだってんだ!」
イスラに続き、ヴァルゼルドまで引き込まれ、立ち止まっているわけにもいかず同じように自分にも迫る腕や大蛇を引き裂きながら核識の間へと飛び込んだ。
真樹が飛び込むと同時に溢れていた亡霊の腕や大蛇も核識の間へと戻り、核識の間へと続く扉の前に静寂が訪れる。
それまで島全体や遺跡中を埋め尽くしていた亡霊たちが溶けるように消え、影となった亡霊の残骸が次々と核識の間へと流れ込んでいく。
まるで島に存在するすべての怨念がディエルゴに吸い寄せられているかのように集まり、それ以外の場所には不自然なほどの静寂が広がっていった。
静寂に包まれた扉の前に、遺跡の柱の陰から一人の影が姿を現す。
「――ここが、最後の……場所なの?」
覚束ない足取りの影は、どこまでも薄い気配でありながらその眼は、怨念の力が渦巻く核識の間の淀みを確かな意思を持って見詰めていた。
核識の間に飛び込んだ真樹の目の前に広がっていたのは、幾万の亡霊が折り重なった澱みの深淵。
中央にある台座。
それがこの遺跡の中枢部であり、核識となったハイネルの魂が封じられた棺でもあった。
澱みとなっている亡霊たちが重々しく、緩慢な動きで核識の間に踏み入った真樹を澱みの其処へと誘おうと真樹の足に纏わりついてくる。
「だああっ、もうっ! 鬱陶しいっ!! 纏わりつくのは亡霊でも美女・美少女だけにしろっての!」
死してなお怒りと嘆きに縛られて苦しみ続ける亡霊でも容赦無しに蹴散らしながら歩を進める真樹は、部屋の中央に座する巨大な澱みを見上げた。
オオッ、おおオォおぉぉォォォ…っ!!
澱みの中心にある存在が封印の中で長年溜め込んだ怨嗟を吐き出すような咆哮をあげる。
巨大な澱みは、どす黒い巨躯の全体に遺跡内に描かれている紋様と同様の紋様が刻まれている。
「おい、ラスボス。ビジュアル変わりすぎだろ? 2Pカラーのつもりか?」
纏わりつく亡霊たちを薙ぎ払うのを中断した真樹は、自分の記憶の中にあるディエルゴと目の前に座するディエルゴの違いに戸惑いと呆れを示す。
オ、オオ、オオOOOOOOOooooォォッ!!
真樹の言葉に反応を示したかのように真樹が知っていた姿から変質したディエルゴが怨念の塊で構成された巨腕を振り下ろす。
「いきなりだな、おい」
想定と違う状況に動揺を示してもこと戦闘に関しては多分に趣味の領域が閉めていることもあり、真樹は敵からの攻撃にすぐさま碧の刃を顕現させる。
Gu、グUオヲオオオオOおォoォぉォ…ッ!?!?
ディエルゴの攻撃に真樹が揮ったのは、アティから所有権が移った碧の賢帝シャルトスだった。
碧の輝きを放つ剣は、ディエルゴの巨腕を軽々と斬り裂くだけに留まらず、斬り落とされた腕はホログラフのプログラムが解けるように澱みに還ることなく消失した。
「やっぱり封印の魔剣の力は有効みたいだな」
メイメイより託された神剣『布都御魂』を鞘に収め、封印の魔剣を顕現させた真樹。
ここに至るまでの亡霊との戦いでどれほど強力な攻撃で倒してもすぐに湧き上がってきていた。
無尽蔵ともいえる亡霊の存在にさすがに違和感を感じていた真樹は、亡霊たちは倒されてもすぐに再生しているモノとして判断し、それを経つ方法をとることにした。
「――という感じだから、キルスレスもこっちに貰えるとさっさとこいつをぶっ倒せるんだけどな」
「……相変わらず、無茶苦茶を言う」
群がる亡霊たちをシャルトスで斬り払いながらもう一つの魔剣の所有者に声を掛ける真樹。
その真樹の声に弱々しく応えたイスラは、ディエルゴの巨躯に飲み込まれており、ディエルゴの胸部付近に頭と胸肩にキルスレスを握る左腕しか出ていない。
よくよく見ればイスラのほかにも多くの人間がディエルゴの腹部に同化するように埋もれていた。
イスラ以外の人間は、死相が張り付いており、一切の精気が失われた状態であることは誰の眼にも明らかだった。
「た、大佐殿ぉ~。本機のことも忘れないで欲しいであります!」
「いや、お前は捕まるなよ。というか、絵的にも微妙な位置に取り込まれてんのな。なに? 股間パーツ?」
「ひ、酷いのであり、あり、A、ari、i、i、i……ッ?!」
たとえ真樹が亡霊の大蛇に対応できたとしても主人を守ろうとするのが護衛獣であり、軍用の機械兵士の性である。
そんなヴァルゼルドの献身にも軽い調子で冗談まで言う真樹に嘆くヴァルゼルドだったが、突如言語能力に支障が出始める。
「おい、ヴァル? ……なんか、その状態ってやばいのか、ッとっと。人が話している時は、静かに待ってろよ」
ヴァルゼルドの眼の光が薄らいでいるのに気付いた真樹は、ディエルゴが発したと思われる怨嗟の魔力攻撃をかわしながら同じ状態に居るイスラに問う。
「たぶん、ディエルゴは、島中の亡霊を取り込んで、力を、増してるんだ、よ」
声も絶え絶えに応えるイスラは、しかし、その手にキルスレスを持つことにより辛うじてディエルゴの生命力・魔力の吸収にヴァルゼルドより耐えていられる状態だった。
「なるほど、な。どういった変化かわかんね、けどまあ悪知恵付けて、抵抗しようとしてるってことだな」
そういうと真樹は魔剣に魔力を注ぎ込み、その力を解放させる。
碧の輝きはより強く大きくなる。
その形は姿を変え、突撃槍もかくやという巨大な刃を形成していく。
ぐるるウォォォォォォァッ!!
封印の魔剣に再び強大な力が集まっているのを感じ取ったディエルゴが蘇る恐怖と絶望に再び咆哮をあげる。
封印など、させるものかああアァァァァぁぁッ!!
ワれラの絶望を……悲嘆を! 憤怒をッ! Oもi知れえええエエエエぇぇェェェッ!!
真樹とシャルトスの魔力に呼応するようにディエルゴもまた壊れた歯車を無理やり動かしながら魔力を搾り出す。
絶望の底から引き出される魔力は、絶大であり、共界線と繋がり、擬似的な界の意志として機能しているディエルゴにこの島で死んでいった者たちの怨念までもプラスされている現在の状態ならば、単純な魔力量だけであれば真樹を超えているだろう。
そんな強化されたディエルゴの姿に真樹は、深いため息を吐きながら大剣と化したシャルトスを小柄な体格に見合わぬ膂力を以って手首だけの回転で振り回す。
「さて、と。さっさと俺の封印も解いてもらわないといけないし……おっぱじめようかな。ラストバトル、いくぞッ!」
グルルッ、ぐ、グオヲオオオオおおォォォぉォ…ッ!?
長い煩悩封印状態に我慢の限界に達しかけている真樹は、シリアスはこれで最後だ、とでも言うように真剣な戦意を携えてディエルゴへと襲い掛かる。
最後の戦いがついに始められた。
本日の真樹のパラメータ
Lv.120
クラス-四界の統率者
攻撃型
横・短剣,横・刀,横・杖,投・投具,射・銃
MOV7,↑6,↓6
耐性-機・大,鬼・大,霊・大,獣・大
召喚石6
特殊能力
誓約の儀式(真)・全、送還術、魔剣覚醒
見切、俊敏、先制、闘気、バックアタック、ダブルムーブ、勇猛果敢、心眼、絶対攻撃、狙い撃ち
異常無効<狂化・石化・沈黙・麻痺>、アイテムスロー
サルトビの術、居合い斬り・絶刀、抜刀術・驟焱、フルスイング・改、ストラ、バリストラ、
憑依剣、煩悩封印
特殊武装-縦・刀(神刀・布都御魂)+ 縦・剣(魔剣・碧の賢帝)⇒縦・大剣(魔剣・碧の賢帝)
召喚クラス-機S、鬼S、霊S、獣S
護衛獣-ヴァルゼルド
装備中召喚石
ヴァルハラ、天使ロティエル、聖鎧竜スヴェルグ、クロックラビィ、ジュラフィム
オリ特殊能力解説
<主人公>
誓約の儀式(真)・全‐誓約者と同じ召喚法。
送還術‐召喚術をキャンセルする。誓約に縛られていない異界の存在ならば強制的に元の世界に送り返すことができる。
魔剣覚醒-抜剣覚醒の上位変換技。術者ではなく、魔剣が形態変化して力を増す。
居合い斬り・絶刀‐距離・高度の射程が大幅に延長された居合い斬り。
抜刀術・驟焱‐抜刀と同時に前方を炎で範囲攻撃。
フルスイング・改‐横切りタイプの攻撃力が1.5倍になる。
憑依剣-武具に異界の力を憑依させる憑依召喚術の発展技術。
煩悩封印-真樹の潜在的な欲求を強引に封じ込めることにより、シリアス戦での出力3割増。ギャグ戦での出力3割引?