「おいっ、本当にこの船でいいんだろうな。」
「レクサス、君もしつこいなさっきから何度も確認しただろ、大丈夫だよ。」
「おまえの大丈夫は当てにならないんだよ。パスティスまで船一本のハズがなんでトレイユみたいな田舎に着いたりするんだよ。」
「じゃあもう一回誰かに確認すればいいんだろ。」
さっきから大丈夫と答えながらも僕はあせっていた。
帝国領のアドニス港がこんなにでかいとは思っていなかったから。
リィンバウムのなかじゃかなりでかい港だと思う。
まぁここらへんに来るのは久しぶりだし迷っても仕方ないよな?
迷ったとしてもちゃんと謝ればレクサスは赦してくれるし話を聞いてくれそうな人はいるかな?
辺りを見渡すがもう船の出発時間なのかほとんど人がいなかった。決していない訳ではないが明らかにボケた日向ぼっこ中の老人、
あまりの忙しさに殺気立つ船員、猫、かもめ・・・
都会の風はやっぱりこの世界でも冷たい。
途方にくれていると船の前で会話している赤い髪の女性と白髪のお婆さんがいる。
「あの、すいませんパスティス行きの船はこれでいいんでしょうか?」
近付いてみると今回仕事に失敗したらクビだみたいな話をしていたので話し掛けにくいが、
他の老人や船員に話掛けるよりはましだろうと思い恐るおそる話し掛けると、
お婆さんは怪訝そうな顔こちらをみただけだったが女性は優しく微笑んで答えてくれた。
「ええ、そうですよでもすぐでますから乗るなら急いだ方がいいですよ。」
そういって女性は船に乗り込んでいった。
優しそうな女性だったけどなんか落ち込んでたなやっぱり仕事がクビとかの話だったのかな?
「なにやってんだルーファス、早くしねぇと船が出ちまうぞ。」
先に船に乗り込んだレクサスの呼びかけに思考を中断する、昔恋人に他人のことにすぐクビを突っ込むのが悪い癖だといわれたが
悠久の時を過ごした今でも変わらないらしい。
「ごめんレクサス、すぐいくよ。」
昔を思い出し苦笑を浮かべボクも船に乗り込んでいく。
どんっ
船内に乗り込んで部屋に向かおうと廊下を曲がった拍子に線の細い黒髪の男性とぶつかってしまった。
「あっすみません大丈夫ですか?」
互いにそれほど速度をだしていた訳ではないので大した衝撃はなかったが礼儀として相手を気遣っておく。
「いえ大丈夫です、そちらこそ大丈夫でしたか?」
相手の男性もこちらを気遣い声をかけてくる。ぶつかった相手は優しそうな笑顔を浮かべているがなにか大きな悩みでも抱えているのか
瞳の奥に暗い灯りをともしている。
さらに病魔に取り憑かれているようなので祓うべきか考えているとその男性は立ち上がって
「すみませんが急いでいるのでこれで。」
といって去っていってしまった。
男性の姿を見送ってまた他人のことにクビを突っ込むとこだったと気づき少し反省して部屋にはいった。
「遅かったななんかあったのか?」
部屋に入るとまず目に入ってきたのは剣の手入れをしているレクサスの姿だった。
「うん、ちょっとぼーっとしてて人とぶつかちゃってね。その人病魔に取り憑かれてたんだけど急いでるみたいで祓う前にどっかいっちゃった
んだよね。」
ボクが答えるとレクサスはまたかとため息を吐いて説教を始める。
「あのなルーファス、お前の優しいところは確かに美点だけどな頼まれてもいない優しさはただの親切の押し売りだぞ。だいたいお前は・・」
(しまったなぁレクサスは見た目に反して細かいからなぁ)
細かいのではなく面倒見がいい性格なのだが説教を受ける側から見れば細かい性格に見えるのだろう。
そもそも見た目に反してといってはいるが、レクサスの見た目は真面目そうではないが細身で身長も高く優しそうな顔立ちをしているので、
むしろ普段の言動の方がよほど見た目に反している。
「ちゃんと聞いているのか?」
「ああうん聞いて・・」
ずどんっ
船になにかがぶつかったのかグラグラと船が揺れた。
「おいルーファス、この船海賊船に襲われているみたいだぞ。」
レクサスが窓から外を眺め状況を教えてくれる。
その言葉を聞いたときにはボクは部屋から飛び出していた。
「ええ、いきましょう。ウィルくん」
甲板にむかう途中の部屋から声が聞こえ船に乗る時に話した赤い髪の女性と男の子が出てきた。
女性は警戒するようにこちらに剣をむけ男の子は女性の後ろに隠れる様にこちらを見ている。
「あれ、あなたは・・・?」
女性はこちらの存在に気づいた様で声をかけてきた。
「すいません、今から海賊を退治してくるので部屋でおとなしくしていてくれませんか?」
女性に声をかけて走り出そうとすると女性が後ろから声をかけてきた。
「待って下さい、私もこの子の為に早く解決させたいんです。手伝わせて貰えませんか?」
「相手は海賊ですよ、危険ですから下がっていて下さい。」
「私はこう見えても元軍人です。」
女性はどうあってもひいてくれそうになさそうだ。
「分かりました、でも危険な事はしないで下さいね。」
「ありがとうございます、あっ私はアティっていいます、この子はウィルくんです。」
「ボクの名前はルーファスです。こっちのでかいのがボクの護衛獣でレクサスです。それじゃあさっさとかたしましょう。」
甲板にむかおうとするとレクサスがボクを呼び止める。
「待てルーファス。」
「なにレクサス?」
「お前は戦うな」
「なんでっ」
「子供の前でお前の戦いを見せる気か?そもそもお前は戦いが嫌いなのだろう?海
賊くらいオレだけでも十分だ。」
「っ分かった、レクサスに任せるよでも危なくなったらボクも動くよ」
「任せとけ。いくぞ」
甲板に出ると何人かの倒されて逃げ回っていた。
レクサスは甲板に出ると一気に海賊の下に向かい剣の腹で殴り飛ばした。
「ここはオレ達がなんとかする、あんたらは乗客の安否の確認してこい。」
船員達は慌てて船室の方へ逃げる様に駆けていった。
「ほぉ・・ようやっと骨のあるヤツが出たか、ずいぶんと勇ましい様だが言ったからには口だけで終わらないよなぁ」
「ウィルくん後ろに下がってて。」
「ルーファスお前は子守りでもやってろ」
レクサスはボクに指示をだすと海賊に向って剣を構える。
「御託はいいからさっさとかかってこい」
「ははっいいぜ気にいった。野郎どもやっちまいな」
「おおっ」
海賊達は号令とともに突っ込んでくる、レクサスは近いやつから剣の腹で次々ぶっ飛ばしていく。
アティさんはシャインセイバーという5本の武器を召喚して降らせる召喚術を使ってレクサスの横から向かってくる海賊を的確に足止めしている。
・・・予想以上の使い手だなアティさんって。
アティさんの援護もあって海賊達もあっという間に半分が片付いた。
「すごいっ・・・」
ウィルくんは二人の戦いに見入っている様だ。
確かにあの二人と海賊達とは役者が違い過ぎる。
「まだ、やりますか?」
「・・・下がってなテメラにはちぃと荷が勝ちすぎるぜ。そういうわけで今度は、俺が相手だ。」
海賊達の船長らしき男が一人、前に出てくる。
「素手かよ、面白えアティちょっと剣を預かっといてくれ。」
レクサスはアティに剣を渡し構えをとる。
・・・またレクサスの病気が始まった。ちょっと強そうな相手が出てくるとすぐ相手の得物に合わせるんだからなぁ
「その構えあんたも素人じゃねぇないいねぇ気にいった。俺は強いヤツとバチバチやるのが好きなんだよ。」
相手も同じ病気か・・・
「いくぜっ」
「おうっ」
気合とともに船長が正拳突きを放つがそれをレクサスは右に捌き一歩踏み込む船長は距離を詰めることで攻撃の威力を減らし体勢を入れ替えるレクサスはそのまま後ろ回し蹴りを放つが流され体勢を崩す。
船長はその隙を逃さず一気にたたみかける様に拳を連続で放つレクサスはかろうじてその拳を捌いているが体勢を整える隙がなく防戦一方だ。
レクサスは一撃を覚悟してカウンターの蹴りを放つ。
船長の拳の方が先に当たったが浅かった為蹴りが船長に当たる。
・・・しかし拳が当たっていたせいかこの蹴りも浅い。
二人の実力はほぼ互角で二人はその戦いに夢中になっていた。
さっきまで晴れていた周りの天気が急に嵐になっている事にも気付かないぐらいに。
その時嵐によって折れたマストがレクサスの方へ倒れてきた。
しかもレクサスは戦いに夢中でそれに気付いていない。
「召喚ソード」
ルーファスは手元に一本の剣を召喚してマストを全力で斬りつける。
マストは斬れはしなかったが方向を変えて海へと落ちた。
その瞬間船が大きく揺れた。
「うわぁ」
その揺れに幼いウィルくんは耐え切れず海に投げ出されてしまった。
「ウィルくんっ」
「ウィルくん!?」
その声に反応したルーファスとアティは同時に海に飛び込んだ。
「バカやろうっ」
それを追ってレクサスも飛び込む。
・・・辺り一帯を探したがウィルくんもアティさんも見つからない。この嵐の中一時間以上泳いだせいか意識が途切れて・・い・・・く・・・