その日の晩飯時、海賊一家+αと先生の生徒達──ベルフラウとアリーゼ。ベルフラウが姉で、アリーゼが妹である──に、今日回ってきた集落のことを根掘り葉掘り訊かれたあと、俺が分類『妹』であるソノラとアリーゼにアプローチをしたことから、ひょんなやり取りが始まった。
「ソノラ、俺の妹にならないか? あっ、アリーゼも」
「はあ?」
「えっ、あの、その……」
ソノラからは、なに言ってんのこいつという怪訝な表情を。アリーゼからは、口ごもるという反応をそれぞれいただいた。だがもちろん、そんな解答は求めていない。
そして、案の定奴はくいついてくる。初対面からいきなり妹をめくる攻防を繰り広げた、俺の宿敵、ベルフラウが。
「ちょっと、勝手に人の妹を取らないで下さる?」
集落めぐりをして、船に戻ってから今までは特にやり取りらしきものは全然なかったのに、アリーゼの妹に~~って言った直後にこれだ。どうやら、ベルフラウはアリーゼを妹にするって話題の時だけくってかかるようだ。やる時はやる、やらない時はやらない。メリハリがはっきりしているのは良いことだ。常にフルブーストじゃ疲れちゃうからね。
「いいだろベルフラウ、別に減るもんじゃないんだから」
別に取って食おうってわけじゃない。妹にして守りたいのだ。
「1人減るでしょ!?」
確かに、1人減って、ベルフラウの妹のアリーゼはいなくなるかもだけど、俺の妹のアリーゼになるから、その点は安心してくれてほしいものだが。
それならば仕方ない、妥協案ということでこんなのはどうだろう。
「じゃあわかった、共有財産ということで。あとソノラも」
つまり、アリーゼを2人の妹ということにしましょうってこと。ソノラもその案に含む。
「私ついで扱いされた!?」
ベルフラウの言葉より先に出るは、ソノラのショッキングなお声。なにがショッキングなのかわからないが、我ながらナイスな妥協案だと思う。
「却下します。私が嫌なのは、アリーゼを貴方の妹だと容認してしまうことですから」
断れた。あっさりと。理由付きで。
くっ、お互いハッピーになれる案だというのに。そんなにもアリーゼを俺の妹だと認めたくないのか。何故だ。
「他人にいきなり妹にしていいと言われて、はいどうぞなんて言う人はそうそういませんわよ。ただでさえ、貴方みたいなわけのわからない人物に」
あれ、もしかして口に出てた? だがまあ、答えてくれたのは好都合だ。そこからベルフラウを納得させる案を思い浮かべればいいわけだから。
むむむ……。
「あっ、じゃあさ、まずはお試しってことで、一週間だけ妹にするというのはどうだろう。そうしたら、わけのわからない人物かどうか判断できるよ。それ以降はアリーゼの自由で」
キャッチコピーは、『始めてみませんか? 一週間妹生活』。それらしきキャッチコピーといい、こいつは名案だな!
「結局貴方の妹にするの前提じゃないそれ!?」
「1日毎にお小遣いあげるから」
「一気にいかがわしくなったわよ!?」
むう……どうやら、お気に召さないらしい。やれやれ、お小遣いあげるって言ってるのに。あくまで一週間の間だけだけど。本格的に妹になってもらってからそんなことをしていたら、なんか金で無理やり妹にしてるみたいなので、ダメ。お兄ちゃんは清く正しい兄妹の在り方がいいのだ。
だから、妹(トリス)との結婚はオッケーもオッケー。それが兄妹の正しき在り方なので。
「……貴方がなにを考えているのか知りませんが、姉としての直感でわかります。そんなのが正しき在り方であるわけがない、と」
直感でそこまでわかる姉すげー。
「どこぞのお姉ちゃん気取りとは大違いの直感っぷりだな」
「偽物と本物を一緒にしないで下さる?」
ベルフラウ、どうだと言わんばかりの顔である。やはり、本物は格が違ったようだ。
「2人のやり取りを微笑ましく見ていた私、まさかのとばっちりを受けたんですけど!? しかも、偽物扱いは酷いよベルフラウちゃん!」
「だって事実ですし」
「まあ、事実だよな」
ベルフラウのそれには思わず肯定。
「そこはフォローするべきところじゃないですかレックスくん!? 『確かに偽物だけど、俺にとっては本物だよ』みたいなことを言って!」
「あはははは」
ないわー、それないわー。
「な、なんで笑うんです!?」
「アティさんがアホらしいこと言ったからですよ。だって、俺がそんなことを言うとホントに思ってるんですか?」
自分でも、そんなことを言う自分が想像できない。それくらい、ありえないことだ。
「それはまあ、あんまり期待はしてないですけど……でも、世の中にはつ、つんでれ?という人もいるらしいですし」
どこでアティさんがそんなワードを聞いたのか、そちらが気になるといえば気になるが……ふーん、ツンデレねえ。
うん、ない。綺麗さっぱりない。
「アティさんがお姉ちゃんぶるのを止めてくれれば、デレはしないでしょうけど、もっと好きにはなれますけどねえ……」
お姉ちゃんぶるから嫌なだけで、アティさん自体は嫌いじゃない。
「──えっ」
アティさんは顔がカーッと赤くなった。いや、なんでさ。好きって言ったから? お姉ちゃんぶるの止めてくれればって言ったじゃん。あくまで仮定の話だよ。
「あっ、あれ、私なんで照れて……つ、つんでれって凄いんですね」
「ツンデレじゃねーよ」
ただの勘違いだよそれ。
そんな時、カイルの口から聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「──よし、話はわかった。これでもソノラの兄だ、俺を倒せたら妹をあいつ(の嫁)にやろう」
「なん……だと……!?」
なにがどうしてそうなった……!?
…………。
少し時間がまき戻る。
レックスがベルフラウと盛り上がってた頃、ソノラはソノラの方で盛り上がっていた。
「良かったわねソノラ、これでカイル一家も安泰よ」
スカーレルが笑いながら、ソノラをからかう。からかっていることはわかるソノラであったが、スカーレルがなにを言いたいのかわからない。だから訊いた。
「ちょっとスカーレル、それどういう意味!?」
「うふふ、さあ? それにしても、ソノラが告白される時がくるなんてねえ。ソノラがお母さんなんて想像つかないわ」
スカーレルはとぼけてみせた。それにしてもちょっと待て。告白? えっ、お母さん? 途端、ソノラの顔が真っ赤になった。レックスのあれは、告白だったのか? あんなのが?
──アリーゼにも同じことをレックスは言っていたはずなのだが、テンパるソノラはそこまで頭が回らず。
幼少の頃から海賊の仲間入りをしていたのと、男勝りな性格もあって、今までに、異性を意識するとか、告白をするとかされるとか、そういう経験はなかった。つまり、ソノラは恋愛初心者なのである。だからなのか、スカーレルのからかいに反応してじまう。そうなのかと思ってしまう。
「こんな告白普通告白っていうの!? それに、お、お母さんって──!?」
そういう体験がないので何ともいえないが、遠回しな告白だとしても、遠回しすぎるだろう。ああでも、そういう告白もあるのかもしれない、自分が知らないだけで。
レックス本人はそんな気など、全くもって微塵すらないけれど。
「スカーレル、からかいすぎですよ。顔が真っ赤になってしまってるじゃないですか」
そう言ったのはヤードだ。……やはりそうか、スカーレルがからかっていただけなのか。
キッと、お怒りの表情でスカーレルを見据える。スカーレルは笑っていた。もとい、にやついていた。
「やあねえソノラったら、うぶなんだから」
こ、こ、この……ッ!
「す、スカーレル~~ッ!!」
その一部始終を聞いていたカイルが、突然、行動を起こす。
「──よし、話はわかった。これでもソノラの兄だ、俺を倒せたら妹をあいつ(の嫁)にやろう」
「なっ、兄貴!?」
カイルがいきなりなにを言い出したのか、ソノラにはわからない。わかることは、自分の許可なくカイルが言い出したということだけだ。
カイルは思った。多分、レックスはしつこく何度もソノラを妹(嫁)にしようとするのだろう。
レックスが折れるか、ソノラが折れるか、それはカイルにはわからない。だからせめて、今のうちに兄としての役目を果たしておきたい。妹(嫁)にしたいのなら、自分より強くなければ、安心してソノラを任せることができない。妹が欲しいなら、自分を倒し、妹をいただいていけ。それが海賊だ。
その後にソノラがレックスに惚れるかは、そちら次第だが。
「えっ、ホントにいいの!? ホントにソノラを(妹として)もらっていいの!?」
レックスは瞬時に反応した。素早い動きでカイルの元に詰め寄る。
「男に二言はないぜ、俺より強い奴じゃないと妹は任せられないからな」
カイルは思ったことを改めて口にする。レックスにわからせるために。
「じゃあ早速! 今すぐ早速!」
それにしても、このレックス、実にノリノリである。嬉しすぎて興奮がおさまらないといった様子だ。
「おう!」
レックスはカイルを強引に外へと誘導した。
だって妹だよ!? 兄公認で妹にできるんだよ!? 早くしない理由がないでしょうに!
そんなことをレックスは思っていたが、そこまでカイルは理解することはできない。理解したところで、どうにかなるわけでもないが。
「ちょ、ちょっと2人ともぉ!?」
あまりのスピード展開に、動揺を隠せないソノラ。
「ほらほら行くわよソノラ! 男2人が女を巡って闘う……まるで恋愛小説みたいだわ!」
そんなソノラを引き連れて、スカーレル達も部屋を出て行く。
──そして、部屋は静かになった。
「「…………」」
唖然とするアティとベルフラウ。ソノラほどではないが、2人もこの急展開に付いていけなかった。つんでれって凄いんだなあと思っていたら、いつの間にかこれだ。
「……私達も行きましょうか、アティさん方」
まだ部屋にいたらしいヤードに言われ、アティは頷く。なんであれ、行かないわけにはいかないだろう。個人的にも、レックスの実力は気になる。もし仮にレックスが弱かったら、自分が守ってあげないと。まあ強くても守るわけだが。なんせ、お姉ちゃんだし。
「はい、そうですね」
「……全く、もう夜だというのに元気なこと。やれやれね……ってあれ、アリーゼは?」
アティと共に立ち上がったベルフラウ。ふと、アリーゼの姿が見当たらないことに気づいた。さっきまで隣のイスに座っていたはずなのに。
「アリーゼちゃんなら──」
アティが答えようとしたところ、部屋の外からスカーレルの声がした。
「あらアリーゼ、あなたも来たの?」
「……はいっ」
どうやらアリーゼ、スカーレルが退出した後にはもう退出していたようだ。そして、ベルフラウは思い出す。
「そういえばあの子、恋愛物の本とかもよく読んでいたっけ……!」
アリーゼが読書好きなのは知っていたが、その手の小説もけっこう読んでいたということを。
「なるほど、乙女なんですね」
やけに冷静に返す天然に、これまた冷静に返すベルフラウ。
「夢見る少女とも言えるわ」
そうして2人は部屋を出て行く。ちなみに、ヤードはもう先に部屋から退出していた。
…………。
船を降りてすぐの平地で、俺とカイルは対峙していた。
「──へっ、まさか、あんたも格闘術の経験があるとはな。しかもなかなかやるじゃねえか、驚いたぜ。なんだ、その腰にあるのは飾りか?」
「剣のこと? 剣も扱えるよ。格闘術はまあジンガからストラを教わるついでに何度も組み手してたから、それが理由かもね」
ストラを使ってるジンガを見て、なんかストラってカッコ良い!という理由でみっちり教えてもらったわけだが、何気に便利だよね、ストラって。使い道色々あるし。
「けっこうやる相手と組み手してたみたいだな。しかもその口振りだと、ストラも扱えるってわけか。なら、長期戦はお互いに疲れるだけか」
「ストラで身体回復できちゃうからね。ジリ貧になるかも」
「じゃあ、一撃で決めさせてもらうぜ!」
一定の距離──一歩踏み込めば相手に打撃を与えられる距離──を保って話をしていた俺とカイルだが、その言葉の後に、「コオオォォォッ……!!」と、何だか聞き覚えのある息遣いを始めた。ジンガも似たような息遣いをしていたことがある。カイルはどうやら、ストラを使うつもりだ。
ならば、俺も。
お互いに聞こえるストラの息遣い。これが終えた時、勝負は決する。ストラで高めた身体能力の一撃、それが、最後の攻防となるだろう。
…………。
夜空に星が瞬く、そんな夜。2人の闘いを見に来たアティ達は、レックスとカイルに習って船を降り、邪魔にならない距離で2人の闘いを見守っていた。
先程まで拳や蹴りの打ち合いをしていた2人だったが、今は一定の距離で止まっていた。変な息遣いがアティの耳に入ってきた。前にカイルがストラを使用した時、このような息遣いをしていた気がする。
何かを察したのか、スカーレルは言う。
「出るわね、カイルの必殺の一撃が……あの壁をも破壊する一撃、果たしてレックスには耐えられるのかしら」
「壁……ですか?」
スカーレルの言う壁というのは、あの壁だろうか。あの堅いの。
「そうよ先生、壁壊しのカイルといっても過言ではないわ」
「そんな名があるんですか?」
「ないけど、それくらい強力な一撃だということよ」
「……ないんですね。でも確かに、普通の人じゃ壁なんてそうそう壊せないですもんね。……レックスくん、大丈夫かな」
カイルの拳の威力は、戦闘中に見かける機会が多いので、アティにもよくわかる。はぐれ召還獣や帝国軍の兵士が、一撃くらうだけでぶっ倒れていった。あの一撃をレックスにもぶつけるというのか。心配にもなる。そもそも、何故仲間同士で戦わなきゃならないのか。しかも全力で。腕試しとかならまだしも、一歩間違えば死闘になるようなものは、アティとしては、してほしくない。
「男にはねセンセ、例え味方だとしても、全力で戦わなきゃならない時があるのよ」
アティの心情を理解したのか、スカーレルがそんなことを言う。女であるアティにはわからない世界だが、そういうものなのだろうと思うことにした。
でもせめて、もしもの時は割って入ろう。レックスはきっと、嫌な顔をする──暴言すら吐いてくるかもしれないだろうが。
「それにねセンセ、あの2人なら大丈夫よ。誤って相手の命を取ることはない、それくらいの技量はあると思うわ。怪我はまあ仕方ないでしょうけど」
「スカーレル……」
「カイルの力量はアタシがよくわかってる。レックスの方はさすがにわからないけど……彼、色々と普通じゃなさそうだから大丈夫でしょ」
あっけらかんと言うスカーレル。そのレックスの力量がわからないから心配しているというのに。今のところ、特に致命的なんかは見受けられないが。
「今日始めて会ったばかりだけど、私知ってるわ。ああいうのを、変態っていうんでしょ」
レックスは普通じゃない=変態だと、ベルフラウは高らかに公言する。どこぞの天然は、変態という言葉にすら口にするのを躊躇っていたというのに。
「お、お姉ちゃん……」
わざわざ口にするのはさすがに失礼ではと思うアリーゼ。だが、
「あなたも実際、そう思っているでしょう?」
「そ、それは……まあ」
口にするのは失礼だと思うだけで、アリーゼも、あのような人物を変態というのだろうという認識はもちろんしている。
「(子供達にも早速変態認定されているなんて……。確かに、レックスくんのあれ──異様な妹好き──は変態としか言いようがないんですけど。あっ、そうだ)ソノラにお訊きしますけど、もしレックスくんが勝ったらどうするんです? 本当にレックスくんの妹になるんですか?」
この問題の被害者であるソノラにたずねる。被害者は、現在進行系でテンパっていた。ついでに、混乱もしていた。
「えっ!? そもそも、あいつの言いたいことがわからないよ! なに、妹になるって! あたしはなにをどうすればいいの!? 全然わかんないよ! これだったらまだお母さんになる方がわかりやすよ! それとも、やっぱりあれなの!? あいつにとって妹になれっていうのが愛の告白かなにかなの!? そう考えた方がいいの!?」
「そ、ソノラとりあえず落ち着いて……! (うわ、完全に混乱しちゃってますねこれは……)」
混乱は、まだ続きそうだった。
「わけがわからないよ~~ッ!!」
「──しっ。静かに。決着が着きそうですよ」
ヤードの言葉に、皆がレックスとカイルの2人に視線が集中する。
『ッっ!?』
今こそ、決着の時。
…………。
「くらえ、一撃必殺ッ!」
カイルが一歩を踏み込み、全力の一振りが俺に迫る。俺もそれに合わせ、踏み込む──ことはせず、そのまま、渾身のストレートをカイルに向けて放つ。カイルが踏み込んだタイミングで。
俺が狙うは、相手の攻撃より先に攻撃がヒットする、カウンターだ。しかし、俺の距離では攻撃は本来ならば当たらないだろう。射程距離というもので説明するならば、格闘術による攻撃は大抵射程距離目の前の一マスのみの攻撃、カイルの繰り出そうとする必殺技らしきものも、それに準じているはず。だからこそ、一歩踏み込んできた。攻撃可能圏内に入るために。
それに対し、俺はカイルが踏み込んでくる前から攻撃を繰り出している。その時点ではお互いに一歩分の距離があるので、普通に攻撃するだけでは俺は空振りするだけという、悲しい結末を迎えることになってしまうだろう。
だから俺は──
「はあああ──なっ!?」
「「「「「「!?」」」」」」
──その距離を、無理やり攻撃可能圏内へと届かせることにした。
「これぞ、ズームパンチ」
まあ簡単に言うと、足りない分は腕の関節外して無理やり届くように伸ばしただけなんけどね。
ただこれ、地味に痛い。ストラを使っているから多少は痛みもマシになっているんだろうけど、なにせ関節を外しているわけだから、そりゃあ痛い。
それに、関節を外しているわけだから、普通に相手に向けてこの攻撃をしてみても、ダメージは対して期待できない。ぶっちゃけ、関節外さずに同じ攻撃をした方が、何倍も強い。当たり前といえば当たり前だが。
だからこそ、この技は基本、カウンターとして使用している。俺の攻撃はパッとしなくても、カウンターならば、相手の威力が高ければ高い程、相手の元に、それ以上の威力になって返っていくからだ。勢いよく後ろに吹っ飛んだらしいカイルが正にそれを物語っている。やっておいてなんだけど、死んでないだろうか、カイル。そして、もしカイルの攻撃が俺に当たったら、俺もあんな感じに吹っ飛んだのだろうか。恐ろしい話である。
ちなみにこの技は、ジンガとの組み手中、「相手の届かない範囲から攻撃できるならパンチとか強いんじゃね?」という考えから発案された技である。当初はカウンター技という考えはなかったが──普通に使ってもパッとしない威力なわけだし──ジンガが必殺技らしい攻撃をしてきた時に、喰らったら痛そうだから喰らいたくないという一心で使って見たところ、想像以上にダメージを与えられた。で、「こういう時にその技を使えばいいんだよ!」というジンガのお墨付きをもらえたので、こうしてカウンター専門として使うことになった。そして最後に、この技は、初見ならばまずビビる。あと、ストラを使って地味に痛いレベルなので、ストラ無しでこの技は絶対使いたくない。
ぶらーんとしている腕をストラを使用しながら無理にくっつけ治し──関節は外しすぎると癖になって外れやすくなるらしい。使わないようにしようとは思うんだけど、つい、勢いで、ね──カイルの元に近付く。その側で、いつの間にかいたヤードが、召喚獣を喚び出して回復させていた。
「俺の勝ち、かな。カイル」
「……つつ、ああ、負けちまったみたいだ。でもな、正直なところ、なんで負けたのかよくわかってないんだ。何かにぶつかったと思ったら、勢いでこんなところまで吹っ飛んじまっていた。お前、一体なにをしたんだ?」
「それは──」
レックス説明中……。
「なるほどな……自分の関節を外して、か。なかなか無茶苦茶なことを考えるなお前。格闘家の俺には手を出せない手段だぜ、そいつは」
「関節外れやすくなったら致命的だもんねえ、格闘家は」
ジンガも、俺には真似できないみたいなこと言ってたし。格闘家がわざわざ肉体に爆弾抱えるようなことはしたくないだろう。ズームパンチなんて使っておいてなんだが、俺も爆弾は抱えたくないけど。
「なんであれ、俺が負けたことが事実であり現実だ。……妹のことをよろしく頼む」
「ああ、任せろ。俺は妹を守るために強くなってるんだからな。必ず守るよ、ソノラのこと」
「……そうか、そいつが聞けりゃあ安心だな。ただ、俺本人が許可しても妹のやつが許可するかは知らねえ。そこら辺は自分で頑張りな、レックス?」
「もちろん、全力で!」
そして俺達は、互いに笑い合うのだった。
…………。
「な、なんですかねこれは……」
高らかに笑い合っている2人を見ながら、アティはこんなことを言わずにはいられなかった。
「茶番というものではないの?」
正直頭ではわかっていたことを、ベルフラウが見事に代弁してた。
それにしても。
「さすがはレックスくん。お姉ちゃんとして誇りがたいです」
レックスの活躍を見て、笑顔になるアティ。自分の弟が活躍してくれるのはやはり嬉しいものだ。どんなことであれ。
それに釣られたのか知らないが、ベルフラウの友達である召還獣 オニビが鳴いた。
「ビビイ♪」
「……もう、なんでもいいわ」
気のせいか、レックスに会ってから、前よりも色々と……その、アティはダメになっていると、ベルフラウは思わなくもなかった。
「最後は妹を託して互いに笑い合う。いいわね、実にいいわ! まるで、恋愛小説の一シーンみたい!」
スカーレル、まだまだ興奮が止まりそうにない。時々もれる黄色い声も、止まりそうにない。
「今でもドキドキしてます……私、今夜眠れないかも」
胸元の心臓に触れる。アリーゼもアリーゼで、ドキドキがまだ、止まりそうになかった。
「キュピキュピィ♪」
アリーゼの友達召還獣 キュピーはただ、楽しそうに鳴く。
「2人が笑い出したので思わず離れてしまいましたが……おや?」
笑い出した2人を見て、まるで部外者のような居心地の悪さを感じたヤードは、気づかれないようにそそくさと退散した。
「お兄ちゃん……お兄さん……兄者……兄貴……いや、兄貴だと被るか……むむむ……」
声が聞こえたのでそちらを見ると、ソノラがなにかをぶつぶつと呟いていた。気になり、声をかける。
「……ソノラさん?」
「わっ!? なに!?」
ソノラは、ヤードの存在に気付かず──ソノラが完全に自分の世界に入っていたからだ──にいたので、名を呼ばれた時は飛び上がるほどに驚いていた。
「いえ、俯むきながら何やら呟いていたのでどうしたのかと」
「あー、いや、まあ、いまだによくわかってないけど、あたし、レックスの妹になるんでしょ? だからその場合、どう呼んだらいいものかなって……」
「先程まで凄く混乱していたように見えていたのに、随分と今は冷静ですね」
アティが話を振った時なんてすごかったのに。ソノラは言う。その顔に、陰りが見えた。
「……なんというかもう、この現実を受け入れるしかないのかなって……考えたところで、わけわからないのはわけわからないままだし」
「(冷静を通り越して、もうどうにでもなれ思考に陥っていたとは……!)」
前向きで明るく、猪突猛進。当たってくだけろ。なるようになれ。そのような性格のソノラでも、そういう思考になる時はなるのだ。人間として生きている以上は。
──その後すぐに、「まっ、なったもんは仕方ないか」と割り切るソノラであった。
といっても、割り切ったことと、レックスを兄として慕うことはまた違うようだったが。