「あ〜あ、偶然船に乗っていただけなのに、何でこうなるかな」
船の甲板。男、ローグは片手で床に押えつけている海賊に問い掛けた。
ローグの周囲には、海賊の仲間と思われる男が数人倒れていた。
皆、誰か分からないぐらいまで顔を殴られていた。が、ローグの腰に吊された剣が使われていたなら、それだけでは済されなかっただろう。
「ぐっ……」
「お、まだ意識残っていたか。おい、お前ら何の目的でこの船襲いやがった?答えろ」
「誰が…答えるかってんだよ…」
海賊はか細い声と共に唾を吐いた。
元々長くないローグの気はそこが限界だった。
「へぇ…いい度胸だな。覚悟は…っ!?」
剣の柄に手を伸ばしたローグは、突如響いた発砲音と同時にその場を飛びず去った。
「あんた、うちの仲間に何してんのよ!」
ローグから見て左前方。変わった形の銃を構えた少女が睨んでいた。
「何する、だと?それはこっちの台詞だ。
民間船に堂々と砲撃して、襲撃してきたのはそっちだろうが!殺されたって文句はねえはずだ」
うっと詰まる少女を冷めた眼で見ながら、ローグは逃げ道を模索していた。
その時、空が割れた。
「何っ!?」
暗雲が立ち込め、海流が荒れ船体を揺らす。
「な、何これ!?きゃっ!」
少女の悲鳴に、はっとしてそちらを見る。
傾いた船の甲板を滑り落ちて行く少女を瞳に捕らえた瞬間、身体が動いた。
「馬鹿野郎!」
毒づき、跳躍して落下していく少女まで飛び、その華奢な身体を抱き止める。
「え!?な、何で…」
「いいからしっかり掴まってろ!」
何か言おうとした少女だが、今はそれどころじゃない。
近付く海面を見、少女を強く抱き締め落下に備える。
数瞬遅れて衝撃が背中全体に走り、意識が途切れる。
意識の奥で、誰かが呼んだ気がしたが、返す前にブツリと意識が途切れた。