「……ここは…」
ゆっくりと目を開くベルフラウ。
まず一番に映ったのは心配そうにこちらを見ている赤い球体の生物とどこか遠くをみている純白の騎士だった。
起き上がろうと体を動かしたところでこちらに気づいたのか純白の騎士……アルファはベルフラウへ視線を向けた。
「ん? 目が覚めたか」
「……アル……私は……たしか」
なぜ自分が横になって寝ていたのか思い出そうとするベルフラウ
確か自分は先生に救われたあと意識を失い……。
そういえばどうしてアルがいるのだろうか?
等と考えているベルフラウ。
そこでここがどこかのか聞きたくなりアルファに尋ねたところ
「知らん」という一言で返された。
「……知らないって無責任すぎません!?」
「だから俺に言われてもな、そもそもマスターがここに流れ着いたのは偶然……いや、確率的に言えば奇跡だ。生きているだけでもうれしいと思うべきでは無いか?」
ふぅっとため息を吐いてアルファはベルフラウから視線を逸らし立ち上がる。
「それは……そうですけど」
「ならば今はそれでいいだろ。アティもそろそろ来るだろうしな……いや、噂をすれば……か」
アルファは海岸の先を見る。
そこには何やら色々持っている女性……アティがいた。
少し重そうに持っていたからかアルファがため息をひとつはいてアティの元へ向かい全部持ったのは言うまでも無い。
「お前も一応怪我を軽くにしろ負っていたのだ。それを俺が考慮して探索に出ようとしたら『私が出るからアルファさんはベルフラウちゃんを見ていて』と言うか普通?
……またはぐれ召喚獣が出たらどうする? あの剣でも抜くつもりだったのか?」
「そういうわけじゃないんだけど……でも私よりも寝ていたベルフラウちゃんが危ないと思ったから…」
「貴様も同じだろうが……まぁ、いい。どうやらお前のそれは直せれる領域を超えているようだしな」
ガックリと項垂れながらアルファはアティと共にベルフラウの元に戻る。
ちなみにその間に自分が使えそうなもの、アティが使えそうなものを一通り探していたのは当然だった。
「……にしてもバンドエイドの名前がFエイドで体力を回復効果がある……なんでもありだな」
自分に効果はなさそうだが、と心につけたしておいてアルファは二、三個アイテムラックへ収納する。
いざというときはアンカーの先端にでも付けて投げ渡せばいいという寸法だ。
これがのちの事件発展するとはだれも思ってもいなかったわけだが。
「あ、ベルフラウちゃんも起きてたんだ。おはよう」
「あっ……おはようございます先生……せめて一言くらい何かを言ってから行くべきではないですか?」
一度顔を明るくするが直ぐに不機嫌になるベルフラウ。
当然だ、いくら使用人(仮)になったとは言え見た事も無い機械兵とそばにいることは思った以上に緊張するのだ。
彼女が不機嫌そうに頬をふくらませてアティを睨んでもおかしくないだろう。
「あぁ、すまん。そういえばアティに言われていたな。『起きたらベルフラウちゃんに私が探索に言っている事を教えておいてください』と」
「貴方が原因じゃないのっ!」
その直後、アティに向けられていたベルフラウの怒りが彼に向いたのは言うまでも無かった。
暫くベルフラウがアルファに対して怒りの声を上げていると突然彼女のお腹が鳴った。
それに気づいたアルファは原因を検索、すぐに答えがいきついた。
「ふむ、マスター。腹がへったならそう言えばいいと思うが?」
「……」
顔を少し赤くしてベルフラウはアルファの足を蹴る。
しかしそれでどうかなるほどアルファは弱く無く、逆に彼女の足が痛くなるだけだった。
「だ、大丈夫? ベルウラウちゃん……アルファさん。あんまりベルフラウちゃんをいじめないでください」
「そのつもりはないのだが……以後気をつける。それよりも朝食はどうするつもりだ? まさか草木を食うわけじゃないだろうな」
草を見ながら呟くアルファ。
食事をしなくても大丈夫だが流石にそんな光景を見たいとも追わなかったのだ。
「その点は大丈夫です。アルファさん例の物作ってくれました?」
「ん、あぁ。糸の代わりになる奴が無かったからアンカーのリールを少し使ったがな……お陰でアンカーの最大射程が縮んだが。少なくともこれで糸部分が切れることはないはずだ」
そう言いながらアルファはアティに向かってその例の物を投げる。
長い棒、そこの根の部分に糸を巻く部分、そして垂れ下がっている針。
アルファは見た事も無い釣り竿がそこにはあった。
「先生、どうするつもりですか?」
「ふふ、先生にまかしておきなさい。まずはエサだけど……そう言うのは地面にいるはずだからっ」
そう言いながら砂浜の地面を掘りミミズを掘りだしたアティは釣り針にミミズを刺す。
その手際は手慣れたものだった。
「へぇ……」
「さすが軍人だな、サバイバル技術もお手の物か」
「それじゃ、釣りますよー!」
そして釣りが開始された。
餌(ミミズ)はアルファが新たに五匹ほど取り出したので多分問題ないだろう。
彼女が力強く投げ比較的遠くに餌を飛ばす。
そして………
小さな一匹しか釣れなかった。
他は全部餌が食われたり糸が頑丈過ぎて逆に針が千切れてたりと散々なものだった。
「あ……あれ?」
「……そもそもアンカーのリールの強度は剣を弾く強度だからな……針の穴が壊れたのか……」
そう言いながら釣り竿の糸を自分のアンカーリールへと戻していくアルファ。
そしてアンカーのアームを展開し海に向ける。
「アルファさん?」
「黙って見ていろ」
少し体の動きを止めてアンカーを発射。
ソレはまっすぐ海に潜り……暫くするとリールが揺れ動いた。
「この場合はフィッシュ……だったな。アンカー巻き戻しだ」
『了解』
補助AIに命ずるとアンカーのモーター部分が高速に回転し引き戻していく。
そして魚の尾びれが見えてきて……猫の上半身が現れた。
「……」
「あ、猫魚ですね。めずらしい」
「こんなものもいるんですね、海というのは」
知っているのかアティは懐かしそうにソレを見ていた。
ベルフラウは当然というか知らないようでもの珍しそうにソレを見る。
ピチピチと鰭を動かしながらニャーニャーとなく魚の猫。
ソレは酷く滑稽だった、だがソレの存在を認めようとしないアルファはソレの尾びれを掴み。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
己が出せる最大出力で砲丸投げの如く投げた。
ソレは勢いよく海に落ちたが、落ちた後スィっと何かが動いたところを見ると恐らく生きているのだろう。
「ふぅ、さて釣りなおしだ」
「……見事にいない事にしていますわね……」
ある意味関心するベルフラウ。
アティはそんな彼女とアルファを見てベルフラウの将来を少し心配していた。
……ちなみに、その次のはアティが釣った魚よりも少し大きい魚だったというのを言っておこう。
そんな事がありながらも何とか魚を調理できた彼女たち。
尚アルファは火を用意しただけだったりする。
ソレも対人用胸部連射砲の弾薬を外しそれをばらし中の火薬を石で制作したカマドに塗す。
そして剣と剣をその少し上でぶつけて火花を散らし、あとは勝手に燃え上がっただけである。
ちなみに全てアティが考えてやってほしいと頼んだ事である。
基本的に彼はただアティの言葉にしたがって動いただけ……という悲しい状況であった。
そして内蔵を抜き血抜きもて骨も殆ど抜いた魚を串にさして持ってきたアティ。
それを受け取ったアルファは火が燃え上がる簡易カマドの横に置いた。
後は時折回転させて出来上がるのを待つだけだった。
とは言ってもアルファは食事を必要しない、つまりは比較的暇なのだ。
故に彼は少し生存者がいないか探すことにした。無論それは建前で実際は少し暇をつぶしたいだけなのだが。
「さて、俺は少し辺りを見てくる。生存者がいるかもしれないからな」
「あ、気を付けてくださいね」
アティに断りを入れてアルファはその場後にした。
「さて……探すとは言っても。マスターとの奇跡的な合流等を考えると偶然では考えられない状況だ。となると……この一件は誰かが引き起こした可能性が高い」
もしあの中にいる者全員を連れてきたいならばこの浜辺の近くにいるはず、だが彼のセンサーには人らしい反応はアティとベルフラウだけしか映っていなかった。
「全員脱出していて俺達だけ残された……と言う可能性も否定できないがな」
空を見上げるアルファ。
その顔はマスクで見えないがやはり諦めを覚えたような顔だった。
「最も、この世界に来た時点でこうなりそうだとは思ったがな……なんで思わずマスターを助けに海に飛び込んだんだ? 俺は……」
後悔後先立たず。
この言葉が今の彼の心情と言えるであろう。
「……そろそろ戻るか」
少し悲しそうにしながら彼はアティ達の元へ戻っていく。
彼が戻るともう魚を食い終えたベルフラウとアティが何かを話していた。
邪魔するわけにもいかないと思い彼は息を顰める。
その姿は女性二人を見ている怪しい白い鎧を着た男そのものだった。
「倒れていた私をこの子が起こしてくれたんです」
そう言いベルフラウは赤い球体の生き物を抱えてアティの前に出す。
……そう赤い球体だ、それに火の様な模様があってクリっとした目がある。
それだけだ、少なくとも普通の生き物に該当できない生き物だった。
「ビィ♪」
「はじめまして、だね」
その赤い生き物は元気にアティに挨拶するように鳴いた。
アティも笑顔で返事をする辺り、この世界ではあのような生き物は普通にいるという事だろう。
アルファは軽いショックを受けるが決して物音をたてないあたり流石と言えた。
「私をどこかに案内したかったようなのですけれど……その途中で」
そこでベルフラウの顔は少し暗くなる。
恐らくはぐれ召喚獣にその時に襲撃されたのだろう。
「……この子。私を守ろうとしてくれたんですのよ、ちっちゃなからだのくせして…」
それは恐らくかなりの勇気だろう。
少なくともアルファならあの体なら逃げる。生きるために、契約もしていないのに助ける道理などどこにもないのだから。
「……でも、私が軽率だったことは……」
「いんじゃないかな」
彼女の謝罪をその一言で切るアティ。
この言葉にはさすがのアルファも思わず素っ転んだ。
「きゃっ!?」
突然の物音に驚くベルフラウ。
アティは何事かと杖を構えるが……その音の原因が自分の生徒の使用人(仮)だと気づいて杖を下ろす。
「あ、アルファさん? どうしたんですか?」
「……いや、気にするな。ちょっと躓いただけだ」
さすがに立ち聞きしていた。とは言えなく話をそれで切り
ゆっくりと立ち上がるアルファ。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、それよりも。なにが「いいんじゃないかな」だ? 下手をすれば彼女は大けがを負っていた。そのような軽率な行動をお前はそれで終わらせるのか?」
彼にとってそれは愚行以外の何物でもない。
もしまた次の時もそのような行動を起こさないという保証はどこにもないのだ。
「……でも、間違ったことじゃないと思うよ」
「そうだな、それは正しい……だが、他者を守れるだけの力が無ければそのような行動は今後控えろ。それくらいは言うべきじゃないか?」
「それはそうですけど……でもそれじゃ、悲し過ぎますよ」
「なんだと……」
思わず彼は動きを止める。
今までそんな返答をする人物に彼はあったことが無かったからだ。
返答内容は何時も「そのとおりだな」か「あんたに言われたくないよ」という否定だけだった。
だからアティは否定だと思ったのだ、だが違った。
「他の人を守るのは力がある人だけなんて……そんなの力が無い人は大切な人を守る資格が無いと言っているようなものですから……」
「……」
アルファは言い返せなかった。
彼女のウソ偽りのない言葉に何も言い返せなかった。
「わかった、お前の意見も正しいし俺の意見も正しい、それでいいだろ。ソレでこの話は終わりだ」
「…はい」
だから彼はため息を吐きこの話を切り上げることにした、逃げるようだな。と己自身を笑いながら
「そういえばソレの名前は?」
「あ、私も気になってました」
「び、ビィ~~……」
二人は赤い球体を見る。
いきなり二人に見つめられたからだろうか、赤い球体はもともと赤い体をさらに赤くして照れた……気がした。
「オニビって私はよんでいるわ」
「お、オニ……?」
思わずアルファは聞き直した。
可愛らしい外見なのにオニがついていれば誰だってこうなるだろう。
現にアティも少し意外そうな顔をしていた。
「いいじゃない、可愛い名前でしょ」
少し不機嫌そうに二人を睨むベルフラウ。
これでは不味いと判断した二人はこの赤い生命体名前をオニビと認めることにした。
「そう……だね、よろしくねオニビ」
「……まぁ、以後よろしくなオニビ」
「ニビィ~♪」
嬉しそうにするオニビ。
どうやら彼にとっては『オニビ』という名前は満更でもなかった。
「で、まずはどうする?」
そう言いながらアルファは左側の武器ラックに仕舞っていたノヴィスソードを取り出す。
当然人を切る為では無く草木を切るためだ、さすがに自分の愛剣であるTRブレードをこういう事に使う気にはなれなかったアルファである。
「そうですね……一先ずこの付近を探索してみましょう。島の人が見つかるかもしれませんし」
「わかった、マスター。俺の肩に乗るか? 恐らく長距離を移動すると思うが……」
自らの肩を叩くアルファ。
その声は本当に彼女を心配していた、なにせ今までこのような場所に来た事も無いはずだ。
途中で倒れても困るので最善の選択を彼は選んだだけなのだ。
そしてそれはアティも理解できていた
「なっ……だ、大丈夫ですわ。このくらいなら何ともありませんからっ!」
だから突然怒ったベルフラウを見てアティはただ疑問を浮かべるだけだった。
「……さすがに子供扱いしすぎたか」
原因がすぐに分かったアルファは誰にも聞こえないようにそう呟いた。
そして林。
今彼等はそこを探索していた。
ちなみに編成は……。
前アティ
中ベルフラウ
後ろアルファ
である。
最初はアルファが前にいたのだがそれでは前が見えないと二人が気付いてこういう編成になっていた。
その為今ノヴィスソードはアティが握って草木を切って進んでいた。
「うー……っ」
「足元に気を付けてね、やぶに危険なものが潜んでいるかもしれないから」
ノヴィスソードで草木を切りながらアティはベルフラウの足元を見る。
そして何もない事を確認して前に進んだ。
「今のところそれらしい反応はないがな……またか」
そう言いながら彼は定期的に肩にかかる蜘蛛の巣を払っていく、酷い時は肩が蜘蛛の巣だらけになっている時もあった。
ベルフラウはと言うと疲れていた。
プライド故に思わずアルファにはあぁ言ってしまったがやはりこのような島など初めてでしかも女の子なのだ、体力が持たないのは普通と言えた。
アルファもそれに気づいていていつ倒れてもいいように補助AIにベルフラウの体調状態を常時モニタリングしてもらっている。
無論ベルフラウには内緒だ、言えばただでは済まない事は明白なのだ。
暫く歩いているとベルフラウはアティに話しかけようとしていた。
「ねぇ……」
「はい?」
アティは前に進むのをやめてベルフラウを見る。
「一応、昨日の事は感謝しておきます。といっておきますわ」
「どういたまして」
ニッコリと笑うアティ。
ソレを見ながらベルフラウはそのまま続けてポソリと呟く。
「アルには感謝はしませんけど」
なぜか絶対零度だった、遠慮ない言葉がアルファの胸に突き刺さる。
「わかってるから言うな……なぜか俺が悪人のように思えてくる」
ガックリと肩を下げるアルファ。
やっぱり子供に嫌われるのは結構きついものだった。
「ふふ、でもそんな事言わなくていいんだよ? 私は約束を守っただけなんだから」
「それは……そうですけど」
ソレでは申し訳がつかない。彼女はそう言おうとした瞬間。
「それに、あなたは私の生徒ですもの」
「なっ、ばっ……」
アティの言葉を聞いたアルファはその続きがわかった。そしてそれにより引き起こされる出来事も。
だからとめようとするがそれは間に合わずに。
「先生なら生徒の面度くらいちゃんとみれないと先生とは言えませんよ」
「……はぁ」
言ってしまったか……そう心に呟いてアルファはため息を吐いた。
「………っ!」
案の定彼の予想道理にベルフラウは不機嫌になっていた。
「っふん!」
そして先に行ってしまった。
ソレに気づいたオニビも慌てて追いかけていく。
取り残されたのは突然の出来事に唖然とするアティとそのアティをじろ目で見るアルファ。
「あ、あれ? ベルフラウちゃん?」
「……アティ、子供というのは子供扱いされたら不機嫌になる。それぐらい先生やっているなら覚えておけ」
そう言い残しアルファはベルフラウを追いかける。
その時に肩に蜘蛛の巣が引っ掛かるのはもはやお約束だった。
もう二度と林の中には入らない。
そう心に誓うアルファだった。
そして取り残されたアティはしばらく考えて。
「……あっ! ご、ごめんベルフラウちゃん! 別にそう言うつもりで言ったわけじゃないの!」
かなり今更気づいて慌てて二人を追いかけた。
ちなみにベルフラウが機嫌をよくするまでにはかなりの時間がかかった。
とだけ言っておこう。
そして今彼等は海岸にいる。
あれから林をかなり回っていたが人の影すら無かったのだ。
アルファはこれ以上の行動は危険だと判断しアティも同意、そして戻って来たのだ。
「で、結局前の場所にもどると……まぁ、これ以上は準備をしないと危険だろうから当然だがな」
「でも、これからどうしますの?」
「う~ん……どうしようかな」
等と彼等が悩んでいると、アルファのセンサーが反応を二つ。今さらキャッチした。
「っ!? 反応二つ……人間だっ!」
「ほ、本当!?」
アティは思わずアルファへ近寄る。
だがそのアティを気にせずにアルファはその反応を見る。
そしてその反応がこちらに近づいている事に気がついた。
「反応は……まっすぐでは無いにしろ近づいてきているぞ」
「あ、人影ですわっ……おーい!」
嬉しそうに声を上げるベルフラウ。
だが味方だというわけでは無いのにその行為は軽率すぎた。
「やっほー!」
だが声が返ってきたところ襲うつもりはなかったようだ。
ふぅ、安堵のもう何度目か分からなくなってきたため息を吐くアルファ。
「マスター、軽率な行動は危険だっていっただろ……って今の声……アティ、俺の鼓膜センサーがおかしくなければ……」
「うん、私もどこかで聞いた気がする……」
慌ててアルファとアティも追いかける。
そしてそこには……。
「あっ」
「あ……っ」
「げ……っち」
「あ……あぁぁぁぁぁっ!!」
「あら、ソノラ。アンタの知り合い?」
人影がどこかで見た事もある……というか忘れるわけが無い人物だと気づき足を止めるベルフラウ。
その人を思い出しベルフラウを庇うように前に立つアティ。
凄い嫌そうな声を上げながら仕方なくノヴィスソードを左手に構えるアルファ。
三人の人影が誰かわかり声を上げる……海賊の一人ソノラ
そしてその後ろから追いかけてこの光景を少し離れて眺めている一人の少しオカマ口調の青年。
「昨日の海賊っ!」
「……初めて島であった奴が海賊か……なんだこの因果」
厳しい表情になり構えるアティ。
アルファは構えていたノヴィスソードを回転させる。
「わ、キミたち生きてたんだ……」
「まっ、頑丈なのが売りだからな」
そう言いながら回転させていたノヴィスソードを再び構える。
「んで、船員の次は幹部のお前らか?」
「……へぇ、アンタが皆を倒したっていう純白の騎士って事」
少し意外そうに呟く青年。
何せソノラから聞いた話では「ウチの船員を一人でやっつけた、アニキ(カイト)と素手で渡り合っていた、なんかロボっぽかった」である。
だからてっきりもう少しロボっぽいのを想像していたが、実際の外見は本当に騎士のような姿だった。
「ようやく人影を見つけたと思ったのになぁ、あーあ」
「ガッカリしたのはこちらも同じです……あとアルファさん剣仕舞ってください、なんで戦闘態勢はいってるんですか……」
残念そうに呟くソノラ。
アティは顔を引きつかせさらに剣を握っているアルファに対して突っ込む。
「いや、襲ってきたら厄介だからなけん制だ」
「むしろ逆に逆上させたらどうするんですか……」
「そん時はそん時だな」
シレっと答え剣を再び構える。
どうやら戻すつもりはどこにもないようだ。
「あ~もう! いちいちムカつくわね本当にぃ! あとそこの白ぽい騎士! あたし達に武器を向けている=戦うつもりありって事だから行くわよっ!」
「あ~あ……おこらせちゃったわね、しらないわよぉ」
怒り心頭で武器である投げナイフを構えるソノラ。
まさか本当に逆上するとは思ってもいなかったアルファはアティを見る。
「……アティ」
「だから言ったのに……ベルフラウちゃん、危ないから後ろに下がっていて!」
肯きベルフラウは後ろに下がるそれを確認し杖を構えるアティ。
その手には無のサモナイト石を握っていた。
つい先ほど契約の儀式で作ったサモンマテリアルである。
「それとアルファさん……ごにょごにょ」
彼女の内緒話を聞いたアルファは愉快そうに笑いながら剣を構える。
「お前も案外酷いや……あた」
早速仲間であるアルファにサモンマテリアルは使われた。
出てきたのはピコピコハンマーである辺り彼女の優しさがうかがえる。
「ニビ~!」
オニビが前に出る、戦うつもりのようだ。
アルファはそれを見て思わず「……戦えるのか?」と思うが気にしない事にした。
「んじゃ、行くぞっ!!」
「泣かしてやるんだからっ!」
アルファがノヴィスソードを構え突撃するのと、青年……スカーレルがそれを追撃しようと動くのと。
それを阻止しようとサモンマテリアルを召喚するアティとアティを守ろうとソノラに突撃するオニビ。
僅か一瞬の攻防。
戦いの決着もまた一瞬だった。
さて……結論を言うと。
ソノラたちの完敗である。
まずアルファは迫りくるスカーレルに対して何もしなかった。
スカーレルに対していきなり空から船に使われるイカリが降って来たのだ、
慌ててそれを回避するスカーレルだったがそれが罠だと気づいた時にはアルファのアンカーが彼の武器を弾いた時だった。
ソレを見て驚くソノラはオニビの突撃を顔面で受け取り気絶。
呆気無くアルファが用意した縄で二人はしばれた、という結果だけ残った。
「うぅ~! 悔しいぃ! 銃があれば絶対勝ってたのにぃ~!」
ジタバタと暴れるソノラ。
それを上から見下ろしてアルファは呟く。
「どっちにしてもさっき戦法で負けてただろうがな」
「うるさいわねぇ! 大体そのアンカー卑怯よ。逃げようとしたスカーレルをどこまでも追うなんて~!」
指が付けないために目で左腕の盾でありアンカーである彼の武器の一つを睨むソノラ。
だがその睨みもなんのそのシレっとした顔でアルファはその武器をソノラ達に向ける。
「これは俺の武器だ、最も使える武器を出し惜しむ馬鹿はないだろ?」
「まぁ、その通りね」
納得するスカーレル。
だがソノラは納得できなかった……だが、剣を突き付けられて黙ってしまう。
その剣から放たれるはただの殺意。
先ほどの殺そうとする意思はない剣とは違う。ただ『殺す』という事を宣言している武器だった。
「さてと、おしゃべりはここまでだ。そろそろお別れと行くか?」
「ちょ、アンタなにその剣」
思わず顔を蒼白にするソノラ。
さっきまでかなりフレンドリーに喋っていたのだ突然声の色を変えられて武器を突き付けられたら誰でもこうなる。
「……まぁ、当然よね。襲って来たんだから倒す。自然の摂理ね……でも、殺すのはアタシだけにしなさい。ソノラに傷を一つでも入れた時アタシはアンタを殺すつもりだから」
「……わかった。なら、うごぁっ!?」
剣先をスカーレルに向け振り下ろそうとした瞬間どこからか『巨大なピコピコハンマー』が落ちてきてアルファを潰した。
そしてその後ろにはどう見てもかなり怒っているアティが無言で無のサモナイト石を握っていた
「な、何をするアティっ!? 俺はただ危険障害を取り除く為にぃっ!」
怒りをあらわにして起き上がるアルファ。だが全てを言う前に今度は『無駄にでかいイカリ』に押しつぶされた。
「な、だから……どうして……」
「アルファさん」
起き上がろうとしたアルファは今まで聞いたことが無い色合いのアティの声を聞いて思わずその体を止める。
「な、なんだ?」
「貴方はベルフラウちゃんの使用人(仮)ですよね?」
「あ、あぁ」
取り合えず肯くアルファ。
だがその声はどこか震えていた。
「そしてベルフラウちゃんは私の生徒……ですよね?」
「そう……だな」
「なら、私はベルフラウちゃんにとって害になる光景を見せるのを阻止する義務があります、それはわかりますよね?」
「そ、それが……どうした?」
「あの二人の縄を解いて武器をしまってください」
「……」
思わず黙るアルファ。
なぜか「それはできない」と言えなかったのだ。
「アルファさん?」
「……はぁ、わかった……」
がっくりと折れてアルファはスカーレルとソノラの縄を切り剣を仕舞う。
そしてオニビを連れてベルフラウの前に立った。
「ごめんなさい、大丈夫でしたか?」
「へ、あ……うん、大丈夫!」
突然の展開に呆けていたのかソノラは座ったまま頷く。
「驚いたわね……アンタ怖くなかったの? アイツの殺意に」
スカーレルは縛れた腕を鳴らしながら立ち上がりアティを見る。
「……怖かったですけど、アルファさんを人殺しにすることがもっと怖かったので」
「優しいのね……よかったわねアルファ……でいいのかしら?」
優しい微笑みを浮かべてアルファを見るスカーレル。
アルファは不機嫌そうに腕を組んで立っていた。
「……アルファシオンだ、だからアルファで別にいい」
そしてまたソッポを向くアルファ、かなり不機嫌だというのが目に取れた。
「それで、アンタはどうするの? 一応命の恩人だから身ぐるみは無理でもお金くらいなら上げない事も無いわよ?」
「そうですね……それじゃぁ、今後私達を襲わないでくれますか?」
少し考えアティはそんな言葉を呟く。
ソレを聞いたアルファは「今更だ」と誰にも聞こえない小さな声で呟き海を見ていた。
「……へ?」
間抜けな声を上げるソノラ。
そりゃ死ぬかと思えば助けられてその助けた人物の頼みが「襲わないでほしい」である。驚かないのも無理はない。
「アタシ達がその約束を破らないっていう保証はないのよ?」
「そう言うときはそう言うときです、繰り返すのは嫌ですけど」
少し辛そうに呟くアティ。
できればあのような殺意に塗れたアルファは二度と見たくなかったのだ。
ソレを聞いたスカーレルは思わず噴き出す。
「アハ、ねぇ、ソノラ。アタシ、この人の事を気に行っちゃったわ」
「へっ!?」
さらに驚くソノラ。
アルファは我関せずを貫きオニビの頬をつねっていた。それをベルフラウに見つかり怒られていた。
「ねぇ、アンタ達。よければアタシらの船に来ない?」
「……先ほど殺そうとした俺もか? 俺が襲わないという保証はどこにないんだが?」
怒られていたアルファがポツリと呟く。
ソレを聞いたスカーレルは問題無しと指を立て説明する。
「アンタはあくまでそこの二人か自分が襲われない限りは戦うつもりはないでしょ? なら連れて行っても問題ないわ」
「まぁ、そうだけどな」
頷くアルファ、それを見てスカーレルは満足そうに頷く。
後はアティの答えを待つだけになるが……アティは頭を下げた。
「ごめんなさい、たしかに願っても無い提案ですけど……ご迷惑が……」
「大丈夫よ、今更一人や二人増えても関係ないし。船の修理が済み次第出航できるし。アルファがいれば修理なんて早くすみそうだし……ね?」
ソレを聞いて悩むアティ。
流石にこの島での野宿は危険すぎると判断したのだ。
「アルファさん、貴方はどちらが……」
「……アティ、お前が決めろ。お前が先ほど言った言葉道理ならお前が俺達の最高責任者という事だ」
そしてアルファと相談しようとしたが未だ不機嫌なのかアルファは一言で拒否した。
「………わかりました、その提案に乗りましょう」
「っ!?」
「……はぁ」
驚いた表情でアティを見るベルフラウ。
もう涙を流せる機能があれば涙を流しているであろうアルファはため息を吐くだけだった。
「よし、そうと決まれば船の皆にも紹介しないとね」
「ちょ、勝手に決めていいのっ!?」
「いいのいいの、それにカイルだって気にいるわよきっとね」
楽しそうに笑うスカーレル。
ソノラは肩を下ろして彼の言葉に従うしかなかった。
「それじゃ、ついてらっしゃい」
「はい、行きましょう。皆」
スカーレルを追いかけるアティ。
その手はベルフラウとアルファを手招きする。
「……え、えぇ」
「はいはい、どこまでも行きますよ……たく」
緊張の表情でついて行くベルフラウ。
アルファはかなりやさぐれた返事をしてついて行った。
だがこの先でも彼等は困難が待ち受けるだろう。
……そう言う運命と言う奴だからだ。
続く。