この作品は、サモンナイト3のssです。
オリ主視点で物語を進めて行きます。
作者の独自解釈が多々ありますがご了承ください。
長い前置きは嫌われますので、そろそろ本編スタートします。
帝国のとある港。
多種多様な船が並ぶそこでは若干小さめな客船。とは言っても、小奇麗な船体はそこいらの船よりは目立っていた。
そんな船を間近で見上げる男がいた。
歳はニ十といった所だろうか?肩まで伸ばした小麦色の髪は跳ね放題で、掛けている眼鏡にも少し掛かっている。
その眼鏡の下では、何が楽しいのか細い瞳が笑みを作っていた。
南方の薄い生地で作られたロングコートをはためかせる姿は、場所が場所ならさぞ決まっていた事だろう。
出航までまだ一時間。周囲の人間は男を奇異の視線で見ていた。
(早く来すぎたな…)
周囲の視線に気付かない男、ユウ・ロックソルトはそんな事を考えていた。
軍を辞めてさてどうするか、と考えていた所を幼馴染であり、軍を辞める原因になった天然に捕まったのが全ての始まりだった。
彼の大貿易商、マルティーニ家の現当主に家庭教師を頼まれたのだ。
へぇ、おめでとう。と言ったら、そいつはとんでもない事を言った。
曰く、生徒は二人居ると。
曰く、一人で二人を見るのは新米教師には難しい。
そこで出てくるのが、天然と同じ立場にいた自分だ。
気付いた時にはこちらの承諾無しで話は決まっていた。
話を聞いた後、とりあえず苦笑いを浮かべている天然の頭を殴っておいた。
そりゃ殴りますよ。お前らのは何色だ!!と叫んだ後に仕方なく了承した。
そして今に至る。
「ん?」
視界に見慣れた物が映り、反射的にそちらを見る。
(あれは…海兵隊?)
客船の甲板。少し前まで自分が所属していた…部署は違うが…軍の人間をそこに見、疑問に思う。
先程から言っている通り、ユウの目の前にあるのは客船だ。
だが、なぜかそこに軍人がいる。
……厄介事には関わりたくないな~~。と言うか、海兵隊という事は、自分のよく知る人物の部隊かもしれない。
別れが別れなだけあり、今は万が一にも会う分けにはいかない。
もし会えば、涙か血の雨、どちらかしか見ることができないな~~……。
(………よし)
思考時間約三秒。最速でたたき出した最高の答え!!
それは………逃亡だ。
「船に乗れば会う可能性大ですから。そう、これはしょうがない事なんです。レックスには後で手紙でもだしておきますかね~~」
「…なぁ、さっきから何言ってるんだ?」
「へっ?」
呼ばれ振り向くと…天然、もといレックスがそこにいた。
「レックス…いつからそこに?」
「五分ぐらい前からだけど…気付かなかったのか?」
ええ全く。逃げる算段つけるのに必死でしたから。
なんて言える筈も無く。泣く泣く逃走は諦めた。
「でも、俺なんかに教師が務まるのかな…」
生徒が来るまでの時間に雑談をしていると、唐突にレックスがそんな事を聞いてきた。
知りませんよ。と言いたいが、レックスの考えは分かるので止めておく。
実際、彼程ではないが不安はある。
もっとも、恐らく自分とレックスの不安の種類は違うのだろう。
「まぁ、そんなに気張らなくてもいいんじゃないですか?こちらが新米だって言うのはあちらも分かっているでしょうし」
「そんなもんかな…」
「そんなもんです」
う~~んと唸るレックスは置いておいて、ここで疑問が一つ。
そもそも、なぜ自分達なのだろう?
たしかに、今ここにいる自分らは能力が高い。それは、軍学校を主席で卒業したレックスだって自負しているだろう。
剣術、召喚術、戦術戦略、その他諸々の知識と実際に行った経験。
才能と努力の積み重ねで勝ち取った、軍人としての、戦士としての力。
当主はそれを見込んで自分達に家庭教師を任せたのだろうか?あるいは、別の何か?
(駄目ですねぇ…情報が足りません)
これ以上は思考の無駄。
そう考え、下を見た所で目が合った。
綺麗なオレンジ色の瞳がジィっと此方を見ている。
(可愛い子だけど…僕に用かな?)
見ると、レックスの方にも少女が居た。
ただし、そちらはいかにも気の強そうな少女で、自分の目の前にいるお姫様の様に可憐な少女とは正反対だった。
しかし……反応が無い。レックスなど、何故か服装のチェックをされていると言うのに、こちらはだんまりである。
「えっと…僕に何か用でもあるのかな?」
「……あ、あの…その……」
あと一歩と言う所で黙ってしまう少女。
ああ、神よ…僕にどうしろと?
思わず神に祈りを捧げる。と、神の使い(?)が現れた。
「お嬢様!」
速足でこちらに向かって来た初老の女性には見覚えがあった。
「ばあや…」
目の前の少女は、こちらに分かるぐらい肩をビクリとさせる。
反対に赤い帽子を被った少女は、どこか尊大な態度だ。ほんと、正反対だねこの二人。
「あなた方ですね、新しい家庭教師というのは。…あら?そちらの方は…」
「どうもサローネさん。お久しぶりです」
こちらに気付いたサローネさんが驚いているのを見て、苦笑しつつ挨拶をする。
驚いたのはレックスも同じなのだろう。こちらに耳打ちしてくる。
「知り合いだったのか?」
「まぁ、少し。後で話しますよ」
「確か…ユウさんでしたよね?あの時はありがとうございました」
「いえいえ、大したことでは無いですよ」
レックスの問いかけを軽く往なして頭を下げてくるサローネさんに続きを促す。
「コホン、では改めまして。私サローネと申します。亡き奥様に替わりまして、お二人のお見送りに参りました」
「はあ、お疲れ様です」
「です~~」
簡潔に自己紹介を済ませるサローネさん。変わってないなぁ。
と、なぜか事の成り行きを見届けていた二人の少女の方を見た。
「それにしても。アリーゼ様、ベルフラウ様。お二人だけでは行かれないよう言った筈ですが?」
きつい視線を向けられ、アリーゼが泣きそうになりながら答える。
「あ、あの…早く先生にお会いしたかったから…」
「アリーゼ様」
「…ごめんなさい」
こちらにとっては嬉しい事を言ってくれるアリーゼだが、一言で轟沈。
恐るべきばあやだ。
その矛先が、今度はベルフラウに向こうとするが、すんでの所でレックスが止める。
……何か釈然としない。
「お二人ともたいそう優秀だと聞いております。
武術と召喚術、どちらがお得意なのですか?」
「武術です」
「…召喚術ですかね」
サローネの問いに、先にレックスが答え、若干の間をおいてユウが答えた。
「なるほど」
ボォォォォオ
丁度その時出航準備の音が聞こえてきた。
「さ、アリーゼ様、ベルフラウ様は先にお乗りください。私はまだお二人にお話がございますので」
「分かりましたわ。ばあや、言っておきますけど、くれぐれも余計な事は言わないように…」
「姉さん!
すいません。先に乗ってますね」
なぜか喧嘩腰のベルフラウがアリーゼに連行されていった。
苦労しているんだなぁ。
その後、幾つかの注意点を聞かされたユウとレックスは、内心かなり不安に思いながら船に乗り込むのだった。