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No.43591の一覧
[0] 草食系男子ですけどなにか?[フランチィスコ](2020/06/07 00:14)
[1] 桜通りの吸血鬼さん——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:15)
[2] 桜通りの吸血鬼さん——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:16)
[3] 素晴らしき学園長と先生——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:17)
[4] 素晴らしき学園長と先生——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:17)
[5] 死神と恋愛とストーカーと——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:17)
[6] 死神と恋愛とストーカーと——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:18)
[7] 四の思惑が交錯する中心——幕間その壱[フランチィスコ](2020/06/07 00:18)
[8] 四の思惑が交錯する中心——幕間その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:18)
[9] その頬を伝うものは——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:19)
[10] その頬を伝うものは——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:19)
[11] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その壱[フランチィスコ](2020/06/07 00:20)
[12] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その弍[フランチィスコ](2020/06/07 00:20)
[13] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:21)
[14] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:21)
[15] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その伍[フランチィスコ](2020/06/07 00:22)
[16] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その陸[フランチィスコ](2020/06/07 00:22)
[17] ある少女の英断——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:23)
[18] ある少女の英断——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:23)
[19] 学園長からの依頼——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:24)
[20] 学園長からの依頼——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:24)
[21] 学園長からの依頼——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:24)
[22] 悪が跋扈する街、京都——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:26)
[23] 悪が跋扈する街、京都——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:26)
[24] 正に、驚天動地と言えよう——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:26)
[25] 正に、驚天動地と言えよう——表その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:27)
[26] 正に、驚天動地と言えよう——表その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:27)
[27] 正に、驚天動地と言えよう——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:27)
[28] 正に、驚天動地と言えよう——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:28)
[29] 正に、驚天動地と言えよう——裏その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:28)
[30] 正に、驚天動地と言えよう——裏その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:28)
[31] 一体全体、意味がわからない——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:29)
[32] 一体全体、意味がわからない——表その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:29)
[33] 一体全体、意味がわからない——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:30)
[34] 一体全体、意味がわからない——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:30)
[35] 一体全体、意味がわからない——裏その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:30)
[36] 一体全体、意味がわからない——裏その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:31)
[37] 一体全体、意味がわからない——裏その伍[フランチィスコ](2020/06/07 00:31)
[38] その暗闇を沈み行くものは——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:31)
[39] その暗闇を沈み行くものは——表その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:32)
[40] その暗闇を沈み行くものは——表その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:32)
[41] その暗闇を沈み行くものは——表その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:32)
[42] その暗闇を沈み行くものは——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:33)
[43] その暗闇を沈み行くものは——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:33)
[44] その暗闇を沈み行くものは——裏その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:33)
[45] その暗闇を沈み行くものは——裏その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:34)
[46] その暗闇を沈み行くものは——裏その伍[フランチィスコ](2020/06/07 00:34)
[47] その暗闇を沈み行くものは——裏その陸[フランチィスコ](2020/06/07 00:34)
[48] その暗闇を沈み行くものは——裏その漆[フランチィスコ](2020/06/07 00:35)
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[43591] 一体全体、意味がわからない——裏
Name: フランチィスコ◆c175b9c0 ID:bf276d6a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/06/07 00:30
—神楽坂明日菜side—
 
 
 
 
 
「あ、姐さん、皮を! どうか皮を剥ぐ事だけは勘弁してくだせぇー!
 あ、あれはそう……事故! 事故だったんでさー!」

 テーブルの上で俗悪な小動物が血相を変えて、へこへこと土下座を繰り返している。
 顔色は極端に青ざめて、その声音は半ば哀願するように揺れていた。

「は、ははは、カモっちの言う通りだって。
 だ、誰も悪くないっていうかさー。
 あ、アスナ? 聞いてるかなー……?」

 T字のソファーに座る朝倉は萎縮でもしているのか、小さく乾いた笑みを漏らした。
 冷や汗が、額から頬にかけてゆっくりと流れ落ちていく。
 両手を前に出し左右に揺らす様はせわしなく、まるで、迫り来る最期の時に抗う罪人のように思えた。
 だけど、一つだけ違いがある。
 この不届き者の中にも、ネギだけは猛省をしているようだったからだ。
 もしかしたら、私の言葉が心に響いたのかも知れない。
 早朝、事の真相を聞かされた。
 その説明に私は異様に腹が立って、こう切り返したんだ。
「あんだけ大口叩いて起きながら、小林先輩に泣きつくなんてバカじゃないの!
 アンタ、嫌われたって知らないわよ!」
 その後のネギはというと、それはそれは酷い有り様だった。
 息も絶え絶えと肩を落としたんだ。
 まるで、たった今、家族の訃報を聞かされた親族かのように、茫然自失といった様相だった。
 でも、思う。こんな事くらいで、小林先輩が人を嫌いになるなんてあり得ないとはわかっている。
 だけど、私はそれを承知で言い放ったんだ。
 大きな怒りに任せて、といった部分もある。
 でも、どこかの誰かさん達のように、自分の不手際を言い繕うよりかは、何十倍もマシだと思えて。

 窓の奥の空は眩く、鮮やかな色彩を放っていた。
 雲間から朝日が頭を出して、見慣れてきた景観へと陽が差し込んでいる。南風が木々の葉を揺らす。ゆるやかに過ぎ去っていった。
 爽やかな眺め。酔いしれてしまいそうになる、色彩豊かな情景。
 だけど、そんな景色とは不釣り合いにも、ホテルのロビーは重々しく静まり返っていた。
 私は、憤りを隠す事が出来ないままに腕を組む。有無を言わさないとばかりに、不届き者達の顔を見下ろした。
 後の方から、刹那さんの声が響いてくる。
 表情は見えないが、予想は出来ていた。その声色は、神妙なまでに恐縮しきっていたからだ。
 勿論、携帯電話で連絡を取っている相手は、小林先輩に他ならない。
 穏やかで和やかな、包容力のあり過ぎる先輩。率直な気持ちで、私はこう言えた。
 刹那さんの言葉を借り受けるのならば、その在り方というものに、途方もないほどの尊敬を隠せない大人な人だ、と。

 この期に及んで、未だに言い訳を宣おうとした二人を無言の圧力で黙らせた。
 だけど、内心は違う。
 私は必死になって、内の感情を押し殺していた。
 それは、時が経つにつれて、如実に肥大していく焦燥感に似た感情。
 ある、事実。こんなにも関係者が大集合しているというのに、小林先輩の連絡先を知っているのが、刹那さんだけだという事実。
 そんな些細な事。些細な事のはずなのに、それだけで私の内情は、凍えるように寒々しく、同時に煮えたぎるような熱を帯びていく。
 感情の出所、起因ははっきりとしていた。
 それは、私に巣くう浅ましさ。羨ましいという感情から、作用されているんだろう。

 胸の内のモヤモヤが、騒ぐ。何とか吐き出せないかと、小さくため息をついた。
 そして、その瞬間だった。
 拍子に、ある疑問が脳裏を過ぎったんだ。
 私は、どうして。
 私は、どうして、怒っているんだろうか、と。
 その憤りの熱量は、まるで、水が沸騰するかのようにグツグツと煮えたぎっている。
 考えて見れば答えは簡潔だった。結論というものは、明確に掴めた。
 小林先輩が、だ。
 私達を善意で助けようとしてくれている小林先輩に対して、不必要な迷惑をかけた。その事に対するふがいなさ、憤りから来ているんだろう。
 あそこまで調子の良い事を宣言していた癖に、色恋沙汰ごときで頼ったネギに。そして、あまつさえ仮契約まで結んでしまったネギに対して。
 こんな状況下だというのにも関わらず、遊び半分で事を起こした朝倉やカモに対して。
 そういった単純明快な理由や動機は、ごく自然に理解出来ていた。

 だけど、それは、真実なんだろうか。
 いや、捉え方が違う、と思う。厳密にはそれだけが、騒ぐモヤモヤに繋がっていく真実なのだろうか。
 そうだと、仮定してみる。それならば、ある疑問が浮かんだ。
 この、大吹雪を彷彿とさせる冷たさ、寒々しい冷気は、どこから生まれたんだろうか、と。
 眉根を潜めて、目を閉じた。
 すると、ある答えと共に、身体中が火だるまになったんじゃないかと錯覚するほどに熱くなった。
 まさか、私は。まさか、私は、嫉妬でもしているんだろうか。
 いつも一歩先を行く、刹那さんへ向けて。仮契約を結んだ、ネギへと向けて。
 仮契約、その言葉が浮かび上がると、やっとある事柄に気づいた。
 それはつまり、二人は、キス、を。
 慌て、ふためいた。勢い良く、左右に首を振った。
 色々な感情が、浮かんでは消えていく。
 そ、そんな訳、ないじゃない! だって二人は男同士だし……す、凄い人だと思うけど、私はもっと年上というか、高畑先生みたいな……!
 す、少しは思うけど、どうせ仮契約をするのなら先輩の方が良か……。

 その時だった。
 ふと脳裏に、あの満点の夜空が呼び起こされた。
 先程の起こった事のように、鮮明に浮かび上がっていく。
 鋭くて、力強い瞳。小刻みに鼓動する、心音。静かな、息遣い。お姫様抱っこ。
 満月を背景に、闇を裂きながら飛ぶ二人。
 それは、とてつもなく恥ずかしいけど、大切な思い出。
 そして、気づく。私は、嫌じゃなかった。嫌じゃなかったんだ。
 どうして、なんだろう。
 その言葉が文字となり、脳裏を錯綜した瞬間の事だった。

 あの時の感覚が、ふいに蘇ったんだ。
 揺れる、新幹線の車内。
 木乃香に話しかけられたために掴み損ねた、黄昏の記憶。ぼんやりと明滅しながらも輝きを放つ、失われた記憶の断片。
 そこで私は、新な映像を見た。いや、厳密には、見えたような気がした。
 覆い込まれるようなまでの包容力。心を安らがせていく瞳をした人物の姿を。
 茜に染まる、雲の海に大空。涼しい風が、互いの前髪を大きく揺らす。
 あの停電の夜と同様に、私は抱かれて空を飛んでいた。
 それ以上、思い出す事は、出来そうにない。逆光で黒くぼやけた、シルエット。私に優しげな眼差しを送る人物の、顔も。

 だけど私は、確かに感じた。まるで、現実の世界で触れているかのように感じたんだ。
 その、温もりを。郷愁を感じさせる、そして、せめぎ合うように拮抗する、身を切るようなまでの切なさを。
 やはり、そう、なのかも知れない。
 私と小林先輩は、昔。そうだったのかも、知れない。
 居ても立ってもいられなくなった。
 知りたいという、答えを得たいという欲求は、身体中を急速に支配していった。
 そして、ある結論が導き出された。
 小林先輩に、聞いてみよう、と。
 小林先輩ならば、全ての謎に終止符をつけてくれるんじゃないか、と、

 ふうと、小さくため息をつく。
 自然と、小さく含み笑いが漏れ出た。
 ある青年の、優しい微笑みを思い出してしまったから。
 まだ、出会って間もない。だというのにも関わらず、私の心の根幹に、さりげなく侵入してきた青年の汚れない微笑み。
 目を開く。どうしてか、こちらの顔色を窺う朝倉達を無視して、自然な素振りを装い、胸元を指の腹でなぞった。
 固形の鋭利な感触、銀の翼。絆。
 肌を差す冷たさは、暴れ回っていた感情を正常へと戻していくような気がした。

 嬉しく、なった。
 なぜならば、他の誰も、だから。
 初めて、私が一歩、先へ進んだ。
 刹那さんさえも、知らないんだ。
 この世界の中で、二人だけしか知らない、秘密の思い出は。

 胸の中が、高揚感で満たされていくのを感じた。
 すると、どうしたんだろうか。
 ネギは変わらず茫然自失の有り様だけど、カモと朝倉の表情が引きつっていた。
 まるで、今にも襲い来る幽霊でも目撃したかのように唇を震わせていた。

「あ、姐さん。
 か、考え直して下せぇー……。ほ、ほんの出来心だったんでさぁー」

「ち、ちゃんと謝るからさ……」

 はずむような心地に耽っているのを邪魔されて、少しだけ腹が立った。

「はあ? なに言ってんの、アンタ達」

「い、いやなにをというか……ねぇ、カモっち」

「へ、へぇ、そうでさぁ。まだ怒ってんのかなーって」

 朝倉達は、顔面蒼白で口々に言う。私の顔を、恐る恐る覗き見た。
 ふと、羞恥心が騒いだ。顔が、酷く熱くなっていく。
 平静を装って、口を開いた。

「怒ってなんかないわよ
 元々、私が怒るような事でもないでしょうが」

 まるで、天の助けと言わないばかりに、朝倉達の目が輝きを取り戻す。

「ほ、本当ですかい!」
「ほ、本当に!
 ゆ、許してくれるかなぁ。
 か、カモっちから、小林さんは女子共問わず平等に制裁を加える男だって聞いてたんだけど……」
「ち、ちょ! ブンヤの姐さんそれをここで!」

 ムッとした。
 カモが小林先輩をどう思っているのかが、よくわかったからだ。
 その発想はどこから出て来たのか、小一時間、問い詰めてやろうか。
 カモを、鋭く睨みつけた。

「……なによ、それ。
 さんざん、小林先輩に頼っておいてそれはないでしょ。
 ……というか、アンタ達がきちんと謝ればすむ話しじゃない。
 小林先輩なら、許してくれるわよ。
 もしかしたら気になんてしてなくて、開口一番、構わないよ、くらい言っちゃう人でしょ、先輩は」

 カモが、うろたえながらも声を上げた。

「あ、姐さんの言う通りでさぁー!
 小林の旦那は、話しのわかるお方っス!
 オレっちみたいな小物は眼中にないっていうか……」

 それからのカモは、小林先輩の素晴らしい部分を口々に上げていった。
 取ってつけたような様に酷く嘘臭く感じられて、少しだけ腹が立った。
 だけど、小林先輩を誉めている事には変わらない。 悪くは、感じなかった。

 まだまだありますぜとばかりに、ヒートアップしていくカモ。
 私は無視して、ネギに問いかけた。
 ふと、興味が沸いたんだ。
 小林先輩の仮契約カード、称号は、どんな感じなんだろうか、と。

「ちょっと、ネギ。
 先輩のカードは、どうしたの?」

 未だに、虚構の世界に旅立っているんだろう。
 ネギは口から魂が抜け出てでもいるのか、うんともすんとも言わなかった。
 もう一度、問いかけようとすると、カモが慌てた様子で口を開いた。

「こ、小林の旦那のカードですかい!
 それならばここにあったはずっス!」

 大至急といった素早さで、ネギの懐に潜り込む。
 そして、私へと、まるで帝にでも献上するかのような物腰で掲げ上げた。

「ちなみに称号は、表裏一体なる奇術師っス!
 いやーまったく、旦那に相応しい称号だぜ!」

 その胡散臭さに、若干、辟易とした。
 何か口を挟もうかとも思ったけど、好奇心には勝てない。カードを掴み上げた。
「表裏一体なる奇術師」
 さあ、表を確認しよう。
 すると、間近から声が聞こえてきた。
 その声色は真剣で、どこか、意味深な響きにも思えた。

「表裏一体なる奇術師……ですか。
 アスナさん、私にも見せて貰えますか」
 
 
 
 
 
 —桜咲刹那side—
 
 
 
 
 
「わかった。
 とりあえず俺は、ロビーの方に降りていけば良いんだね?」

 携帯電話から響く、慈愛に富んだ声が耳をくすぐった。
 彼に対する多大なる感謝、申し訳なさから、自然と畏まってしまう。
 私は失礼に当たらぬよう、直立不動の姿勢で声を返していた。

「は、はい。
 私達の不手際だというのに申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

 早朝。やっと、太陽が起床し始めたようだ。
 外から聞こえてくる、小鳥の囀りでさえも茜に染められていのではないかという感慨が湧いた。
 小林さんの声色は、普段通りに聡明でいて、尚且つ、当然かのようにこう言う。
 こんなに朝も早いというのに。照れからか、説明がしどろもどろになってしまったというのに。
 彼は、無条件でこう言ってのけるのだ。

「構わないよ」

 その簡潔なまでのお言葉。それは小林さんの人柄を知り得るには、十分過ぎる文字数だろう。
 なぜならば私は、その生き様を見せつけられて来たからに他ならない。
 何の見返りも求めない、打算なき姿勢。自らの信念を貫き通し、決して揺らがない、強固な意志を。
 その様には、誰もが憧れてしまう。畏怖じみた思想を抱く事も、想像に難くないだろう。
 比喩させて貰うのならば、戦う者。現代に生きる武士のようなお方だと言えよう。
 彼に取って言葉は、一切、必要のないものなのだ。浅ましくも、自らを言葉で言い繕わなければならない必要性は皆無なのだ。
 小林さんはただ、そのお姿を晒すだけで良い。ただその場に在るだけで、事を為してしまう。
 未来を見据え、予期するかのような類い希なる慧眼。大海原のように広大でありながら、厳しさも孕んだ器量。
 そして、高峰のようにそびえ立つ、果てしなく広い背中。
 それらは私、いや、私達に大きな影響を与える。
 まるで、導かれるかのように変化させられ、成長させられていくのだ。

 再度、御礼の言葉を言う。
 携帯電話を、ゆっくりと閉じた。小気味の良い音が、辺りに響き渡る。
 一日の中で、喧騒が鳴りを潜める時間帯。私は一つ、ふうと溜め息をついた。
 視線は自然と、皆がいるソファーの方向へと移っていく。
 遠目から見てもわかる。そこには、重苦しい雰囲気が渦巻いていた。
 その中心に、鬼のような気をまとうアスナさんが仁王立ちしていた。
 ネギ先生は、今にも息絶えそうな有り様だ。糸の切れた人形のように、屍を晒していた。
 蛇に睨まれた蛙のように、朝倉さん達は青ざめ乾いた笑みを漏らしていた。

 確かに早朝から、小林さんのお声を聞けたという事は暁光だと言えよう。
 だが、ネギ先生はまだ良いが、朝倉さん達には困ったものだと言わざるを得ない。
 自らが仕出かしてしまった罪の重さを、本当に理解しているのだろうか。
 私の心の湖は、憤りという熱に作用され、グツグツと煮えていた。
 小林さんは私達のために、自らの危険を度外視してまで京都へと赴いてくれた。
 それなのにも関わらず、またしても、由々しき心労をかけるとは。
 あまつさえ、遊び半分で事を起こすなど、正に神に唾を吐く行為だと言えよう。

 アスナさんには、誠心誠意のお礼を言って置くべきだろう。
 いち早く、彼女が怒鳴りつけてくれたから良かった。
 そうでなければ、この私が直々に、この世とのお別れを、引導を渡していたとこ……。
 いや、この表現は適切ではない。引導を渡すような、説教をしていたところだ。

 内情は、未だに憤りに満ちていた。
 だが今は、小林さんの素晴らしさを皆に伝えなければならないのだ。
 早朝だというのに、突然だというのにも関わらず、小林さんは二つ返事で快諾してくれました、と。
 遠回しの非難、ではあるのだが、これくらいの仕返しならば小林さんも許してくれるだろう。
 ゆっくりと、ソファーへと歩を進める。すると、新たな変化、騒動が起こっていたようだ。
 カモさんがテーブルの上で、カードのようなものを掲げ上げていたのだ。

「ちなみに称号は、表裏一体なる奇術師っス!
 いやーまったく、旦那に相応しい称号だぜ!」

 あの口振りから察するに、小林さんの仮契約カードで間違いない。
 普段の私であるならば、一度、拝見したいと頬を緩ませていた事だろう。
 だが私は、眉根を潜めていた。
 それはある種の、嫌な予感を感じていたからだった。
 称号。
「表裏一体なる奇術師」
 奇術師とは、言い得て妙だ。率直に、そう思う。
 未来を先読み、形作られる戦略。それは、小林さんに取って見れば、息を吸うようにごく普通の事、なのだろう。
 だが、常人の見地からすれば、それは異様であり、異端でもあるのだ。
 常人の及ばぬ発想。神がかり。それは時に、奇術と称されてしまうのかも知れない。
 そう、考察を終える。
 彼の戦闘を言葉で表すのならば、正しくこれほど適切な単語もないように思えた。

 だが、問題はそこではない。
 表裏一体。その言葉の持つ意味に、嫌な予感は過ぎっていたのだ。
 考えれば考えるほど、心は不安定になっていく。
 こう、推測していたのだ。
 それは表裏の顔、相反する二つの顔、という意味なのではないか、と。
 表の顔とは、普段の人情味溢れる青年の姿。
 そして、裏の顔とは隠し通さなければならない、魔族の血が脈動する化性の姿。
 ただの杞憂、ならば、それで良い。私の思い過ごしならば、それで良い。
 だが、それは、絶対に知られてはならない真実、なのだ。

 アスナさんが、カードを掴む。
 表を見ようとしているのだろう。私は間近に寄ると、静かに口を開いた。

「表裏一体なる奇術師……ですか。
 アスナさん、私にも見せて貰えますか」

「えっ、うん。良いわよ」

 アスナさんは、どこか驚いたように目を瞬かせると頷いた。
 これは私の仕事なのだと、一人、心の中で呟く。
 見極めなければならない。
 そして、露わになる可能性があるのならば、何らかの手段を用いてでも排除しなくてはならないのだ。
 それが私の誓い。小林さんを支えられるようになりたい、という願いへの道筋。
 自ら以外では、初めての感覚だった。
 素性を知られる事の、恐怖。まるで、血液の脈動を模したかのような痛み。
 それが故に、理解出来る。
 私の中で彼が、どれほどの存在と成り得ているのかを。

 視界に、綺麗な絵が映り込んだ。
 そこには、紛う事なく、小林氷咲という男性が描かれていた。
 正中にひっそりと佇む人影は、黒の印象にまとわれていた。
 フードを頭から被り、見えているのは口許だけ。張り付く、薄い笑み。闇色のロープから、怪しさを孕む紫紺の波動が発露されている。
 だらりと下げた右手には、銀に輝く大型の鎌が。
 そして、左手には清廉さを滲ませる真っ白な書物が携えられていた。
 風に揺れてでもいるのだろう。胸の前にて、パラパラと頁がめくられている。
 黒に覆われた、白。それは闇に浮かぶ、一筋の救いの光のように縁取られていた。

 内心、ホッとした。
 素性が明るみに出てしまうような要因は、見受けられなかったからだ。
 真っ白な書物が、気がかりではある。
 だが、アーティファクトなどだろうと結論づけた。
 心の底から、杞憂で良かったと思えた。
 そして、私の口許に笑みが浮かびそうになった瞬間だった。
 ある違和を感じ取ったのだ。
 目を凝らして、注視する。そして、小林さんの肩口に腰掛ける何かを視認した。
 姿は、限りなく透明に近い。だからこそ、見逃してしまうところだった。
 その小さな何かは、小林さんと類似した格好で腰掛けていた。
 比喩するのならば、小さな死神、だろう。
 アスナさんも気づいたのか、不思議そうな表情で小さな死神を指差した。

「えっと、これなに?」

 アスナさんの視線が、ごく自然にこちらに向けられる。
 私は小さく首を振った。

「いえ、私にもわかりませんが……」

 使い魔などかも、知れませんね。
 そうは、言えなかった。
 アスナさんが、遮るように声を上げたからだ。
 心の底から、驚愕したかの表情で。

「ええ。そうなんだ。
 刹那さんにも、あるんだ」

 意図が、わからなかった。
 不思議と、問うように視線を向ける。
 アスナさんは、ゆっくりと口を開いた。
 まるで、驚天動地だと、目を見開きながら。
 だがその声は、どこか、嬉しそうな響きにも聞こえた。

「小林先輩の事は、何でも知ってるんじゃないかって思ってたから」

 暗転した。私の心の世界が、突如として、闇に閉ざされた。
 それは、事実だった。真実だった。
 まだ私達は、出会って間もない。
 小林さんの過去を、全てを、知り得た訳でもない。
 そんな事は、わかっていたはずだ。わかりきっていたはずだというのに。
 独りでに、口から声が漏れていた。
 後悔、してももう遅かった。
 アスナさんは、良い人だ。
 わかっているのだ、そんな当然な事は。
 悪気などなかったかも知れない。ただ、思った事が、口を突いただけかも知れないのに。

「確かに私は、小林さんの全てを知ってはいません。
 ですが、私だから知る事が出来た、私しか知る事の出来ない秘密。
 それを、知っています」

 重苦しき風が、二人の前髪を揺らす。
 私は、胸の小さな痛みに負けた。


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