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No.43591の一覧
[0] 草食系男子ですけどなにか?[フランチィスコ](2020/06/07 00:14)
[1] 桜通りの吸血鬼さん——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:15)
[2] 桜通りの吸血鬼さん——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:16)
[3] 素晴らしき学園長と先生——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:17)
[4] 素晴らしき学園長と先生——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:17)
[5] 死神と恋愛とストーカーと——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:17)
[6] 死神と恋愛とストーカーと——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:18)
[7] 四の思惑が交錯する中心——幕間その壱[フランチィスコ](2020/06/07 00:18)
[8] 四の思惑が交錯する中心——幕間その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:18)
[9] その頬を伝うものは——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:19)
[10] その頬を伝うものは——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:19)
[11] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その壱[フランチィスコ](2020/06/07 00:20)
[12] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その弍[フランチィスコ](2020/06/07 00:20)
[13] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:21)
[14] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:21)
[15] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その伍[フランチィスコ](2020/06/07 00:22)
[16] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その陸[フランチィスコ](2020/06/07 00:22)
[17] ある少女の英断——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:23)
[18] ある少女の英断——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:23)
[19] 学園長からの依頼——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:24)
[20] 学園長からの依頼——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:24)
[21] 学園長からの依頼——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:24)
[22] 悪が跋扈する街、京都——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:26)
[23] 悪が跋扈する街、京都——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:26)
[24] 正に、驚天動地と言えよう——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:26)
[25] 正に、驚天動地と言えよう——表その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:27)
[26] 正に、驚天動地と言えよう——表その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:27)
[27] 正に、驚天動地と言えよう——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:27)
[28] 正に、驚天動地と言えよう——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:28)
[29] 正に、驚天動地と言えよう——裏その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:28)
[30] 正に、驚天動地と言えよう——裏その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:28)
[31] 一体全体、意味がわからない——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:29)
[32] 一体全体、意味がわからない——表その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:29)
[33] 一体全体、意味がわからない——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:30)
[34] 一体全体、意味がわからない——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:30)
[35] 一体全体、意味がわからない——裏その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:30)
[36] 一体全体、意味がわからない——裏その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:31)
[37] 一体全体、意味がわからない——裏その伍[フランチィスコ](2020/06/07 00:31)
[38] その暗闇を沈み行くものは——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:31)
[39] その暗闇を沈み行くものは——表その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:32)
[40] その暗闇を沈み行くものは——表その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:32)
[41] その暗闇を沈み行くものは——表その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:32)
[42] その暗闇を沈み行くものは——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:33)
[43] その暗闇を沈み行くものは——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:33)
[44] その暗闇を沈み行くものは——裏その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:33)
[45] その暗闇を沈み行くものは——裏その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:34)
[46] その暗闇を沈み行くものは——裏その伍[フランチィスコ](2020/06/07 00:34)
[47] その暗闇を沈み行くものは——裏その陸[フランチィスコ](2020/06/07 00:34)
[48] その暗闇を沈み行くものは——裏その漆[フランチィスコ](2020/06/07 00:35)
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[43591] 素晴らしき学園長と先生——裏
Name: フランチィスコ◆c175b9c0 ID:bf276d6a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/06/07 00:17
ー近衛近右衛門Sideー
 
 
 
 
「それにしても面倒じゃのう」

 窓の外から、生徒達の好ましい喧騒が響いてくる。
 普段はそれを耳に届けながら、熱いお茶でも啜っているのじゃが、困ったものである。
 学園長室のお決まりの椅子に座り、ため息をついた。

「ハハハ……しかしまだ関係者と決まったわけではないですからね」

 机の横側に立つ高畑くんが、苦笑を漏らした。

「うむ、それはそうじゃが……あのエヴァがあそこまでご執心となるとはのう」

 再度、深きため息が漏れた。
 どうにも困った事態。混迷とした思考は、昨日に遡っていった。
 
 
 
 
 わしは学園長室で、写真とにらめっこしていた。孫である木乃香の、お見合い相手を吟味していたのじゃ。
 あれでもない、これでもないと、頭を悩ませていた時じゃった。
 ふと、魔力の波動を捉えたのじゃ。
 それはそれは微かであり、気づけた事を褒めてもらいたいほどの微細な波動。
 注意深く探っていくと、それはエヴァの魔力の波動であるように思えた。
 いや長年の付き合いじゃ。確かに彼女の波動であった。
 あまつさえ、殺気を孕んだ波動のようにも感じられた。

 当初わしは、ネギくんでも襲っているのじゃろうかと考えた。
 じゃが、それは違う。彼は教室にて食事をしているとの報告があったからじゃ。
 それならば、相手は侵入者じゃろうか。遭遇し撃退でもしたのじゃろうか。
 そう結論づけたが、待てども待てども、肝心のエヴァがやってくる事はなかった。
 わしはまた、不思議じゃと髭をさすった。
 侵入者を撃退したならば、連絡を入れてくるはずだからである。
 エヴァが侵入者に遅れを取るとも思えんし、長きに渡るつき合いとなったが、こんな事はなかった。
 ならばなぜ、じゃろうか。
 不思議に思ったわしは、彼女に呼び出しをかけた。
 程なくしてエヴァはやってきた。けだるそうに目を細めて、こちらを睨みつけてきた。

「なんだじじい」

 全く持って、言葉使いが悪いのう。

 それから、先ほどの一件を問いただしてみたのじゃが、返ってくる言葉は少なかった。
 知らぬぞんぜぬを繰り返すばかりで、どうにもその意図が理解出来なかった。
 なぜ、桜通りで魔法を使ったのかと問うても、使っていないと言いはるのじゃ。
 しかしわしは、確かに感じたのじゃ。微かではあるが、殺気を孕んだ魔力の波動を。
 殺気を孕んでさえいなければ、ただの魔法と納得することが出来よう。
 じゃが、殺気とは相手がおってこそ生まれるものである。
 つまりそれは、一つの事柄を表していた。
 エヴァは何者かと戦った。じゃが、それを隠さなければならない理由がある。
 そういう事としか、考えられなかった。

 この学園での違和は、徹底的に解消しなければならない。
 愛する孫や生徒達が心配で、夜も眠れなくなってしまうからじゃ。
 これは埒があかないと、切り札を切った。
 それは、エヴァにとって死活問題であるが、わしにとっては何ら害はない切り札。
 いずれは釘を刺そうとしていた事じゃ。問題はない。
 それは、簡単な事じゃった。
 ネギくんとエヴァの二人の争い。その渦中に置いて、死人を出さぬと固く約束する限り、黙認するという進言じゃった。
 エヴァは終始、じじいめと呟きながら顔をしかめていた。
 じゃが深く考え込んだ後、解呪には変えられないと事の顛末を語り始めた。

 それは要約すると、二つの事柄から生まれた嘘であった。
 一つ目は、佐々木まき絵くんへの吸血行為を隠すため。
 二つ目は、ある少年との戦いを隠すためじゃった。
 前者については、明るみに出ると計画が狂ってしまうためじゃった。
 後者についても同様で、舞台が桜通りであったために、打ち明ける事は出来なかったという。
 わしは納得して頷いた。
 佐々木まき絵くんについて厳重注意をしてから、少年について詳しく聞いてみると途方もなく驚く事になった。
 少年の名は小林氷咲くん。男子高等部の一年生として在籍している。
 それだけでは驚く必要性はなかった。じゃが、なんと彼は、虚空瞬動の使い手であるというのじゃ。
 エヴァの話しを要約すると、小林氷咲くんは一般人という仮面、擬態を有効に活用してエヴァに接近した。
 エヴァは絶対の強者ゆえの驕りからか、その擬態を見抜けず、油断してしまった。
 エヴァの攻撃の一瞬の隙をついての見事な虚空瞬動で、氷咲くんは唐突に一般人の仮面を脱ぎ捨てた。
 そして、巧妙な話術と戦略にて翻弄した。あまつさえ、市販の万年筆一本で、エヴァと対等に渡り合ったというのじゃ。
 じゃが、小林氷咲という名の魔法生徒などいない。
 それならば彼は、一体。
 わしの怪訝な表情を見て取って、エヴァが愉しそうに笑った。

「私の見解ではまだ技を隠し持っているはずだ。
 それと同時に実力は未知数だが、そこまで危険視する必要はないだろう。
 タカミチとでも向かい合って試合えば十戦して十戦、奴は負けるだろう。
 向かい合って試合えば、だがな。
 小林氷咲はこの私に喧嘩を売った。久しぶりに興味が尽きない獲物なんだ。
 じじいは手を出すな。
 心配しなくてもいい。殺す…つもりはないからな」

「そんなことを素敵な笑みで言われても困るのう……」

 困惑しながらも、彼の目的、なぜエヴァに接近ししようとしたのかと尋ねた。
 エヴァは、即座に言った。

「知らん」

「は、はあ」

 余りの潔さに、声が漏れた。
 エヴァが虚空を見つめた後、口を開いた。

「だが一つ考えられるのは、小林氷咲は酷い性格破綻者だからじゃないか?
 だが奴は無闇に殺生はしないだろう。
 身動きができない私に、何一つ攻撃しなかったんだからな。
 案外ただの気まぐれでこけにしにきただけかも知れん」

「いや……気まぐれでエヴァをこけにしにくる少年は危険だと思うんじゃが……」

 わしの本心からの呟きは、エヴァの一声で、いとも簡単にかき消された。

「うるさいじじいだな。その煩わしい後頭部を、スッパリ切り落としてやろうか」

 それにしてもこやつは、気にしていることを酷いのう……。
 わしだって傷つくんじゃぞい……。

 そう落ち込むと、エヴァはさも簡単に一笑に伏すと去ろうとした。
 慌てて留め、話すくらいならと承諾を貰った。
 弱みを握っているのはこっちじゃというのに、偉そうなところはさすがのエヴァであった。

 それから大急ぎで、小林氷咲という生徒の経歴を洗った。
 じゃが、どれだけ洗って見ても、白と黒でいうならば、結果は白じゃった。
 成績優秀の上、教師受けも良い。友人達の数も多く、真面目な一生徒という事じゃった。
 玉に傷なのが、体育の成績が悪い事。それに、男子高等部内では不運の男と呼ばれるほど、沢山の災難に見舞われていることだけじゃった。
 勿論、魔法生徒でもないし、侵入者でもなかった。
 念のために顔写真を見てみたが、正に爽やかな一般生徒じゃ。
 エヴァの言っていた、人を騙して愉しむような性格破綻者には見えなかった。

 ふと、ある考察が浮かび上がった。
 エヴァから、証拠品として学生鞄を貰い受けていたのじゃが、本当に実力者なのかのう。
 不運に不運が重なって、その上不運に押し潰された。
 そして、勘違いしたエヴァに狙われているだけなのじゃないのかのう……。
 じゃが、エヴァがあれだけ断言するのじゃ。
 彼女の目は、確かである。その点は信頼できるが、この問題に至ってはのう……。
 さながら、白と黒なら白に近き灰色。
 そう言った心境で、明日、氷咲くんを呼び出すことに決めたのじゃった。
 
 
 
 
 思考に没頭していたわしは、ドアのノックの音で意識が覚醒していった。
 わしの頷きを持って、高畑くんが優しげな声音で言った。

「入っていいよ」

 限りなく白。じゃが、写真と本物は違う。
 さて、どんなものかのう。
 食い入るようにドアを見つめた。

「失礼します」

 ドアが静かに開いていき、わしと高畑くんは互いに目を見合わせる事となった。
 高畑くんの表情には、純粋に驚きが表れていた。
 わしもわしで、余りの普通さに驚いていた。
 顔写真で見当はついていた。じゃが本物は、より一層として普通過ぎたのじゃ。
 魔力も気の量も、一般的。筋肉の量も一般的である。
 歴戦の兵から滲み出る、風格もない。
 どのような角度から見たとしても、一般生徒にしか見えないじゃろう。

 唖然を隠せなかった。
 氷咲くんは我関せずと、静かにソファーに腰掛けた。
 その瞳がこちらに向けられる。
 三者三様に無言という、不思議な空間の中で、高畑くんと目だけの会話を試みた。

 これは、エヴァに担がれたんじゃないか……?

 エヴァを、信じたいですけどね……。

 もう、帰しても良いんじゃなかろうか?

 ハハハ……一応、エヴァが言っていた擬態かも知れません。

 ふむ……聞くだけ無料、か。

 一応、じゃろう。
 高畑くんが目を細めた。量るような視線が、氷咲くんに向かった。
 致し方なしと、髭をさすりながら、沈黙を払うように言った。

「きみは男子高等部一年B組の小林氷咲くんで間違いないのう?」

「はい」

 氷咲くんは、澄み渡る瞳を逸らさずに頷いた。
 わしも頷きを返した。

「きみを呼んだのはちと、聞きたい事があってじゃな」

 ふと、罪悪めいた感情が沸いてきた。
 氷咲くんの真摯な瞳を見ていると思えたのじゃ。守るべき一般生徒を、疑ってしまっているのではないか、と。
 悩んでいる間も、彼が目を逸らす事はなかった。
 心の中で呟いた。
 これは、良い子じゃ。
 完全に、良い子じゃよ。白と黒とか考えていたわしが、馬鹿みたいじゃわい。
 この子は、精練潔白。真っ白じゃ。
 じゃが、聞くだけは無料。
 そう罪悪感に痛む胸を抑えつけて、無理矢理口を開いた。

「きみ……昨日の昼休みはなにをしておったのじゃ?」

「なにもしてませんが」

 返す刀で、氷咲くんはそう言った。
 瞬間的に頷きかけたわしの動きは、ある違和感を捉えて制止した。
 おかしい。それはおかしいのじゃ。
 なぜならば、エヴァから譲り受けていたからじゃ。
 桜通りで戦った後に拾ったという学生鞄を。
 中には筆記用具などの他にも、彼の名前が記された生徒手帳もあった。

 不思議と目を細めておると、氷咲くんが挙動不審な行動を取り始めた。
 しきりに辺りに目を凝らし、何かを探しているようなのじゃ。
 次の瞬間には、真顔になり目を閉じた。じゃが笑顔になり、再度、真顔となった。
 まるで百面相じゃな、と心の中で呟いた。
 高畑くんの目に、微かにじゃが、力が戻っていく。
 少々、怪しい雲行きとなってきた。じゃが、まだ断定するには至らない。
 中間の灰色、その程度になっただけなのじゃから。 
 氷咲くんを見つめて、口を開いた。

「ふむ……なにもしてないか。
 ……桜通りの方には行っていないかな?」

「はい」

 小林くんに、躊躇いなどはなかった。
 その表情は実直であり、とても嘘をつこうとする者には、到底思えなかった。

「ふむ…」
 
 
 わしと高畑くんは、どちらからともなく黙り込む事になった。
 氷咲くんの話しでは、桜通りには行ってなどいないという。
 エヴァの話しでは、彼と桜通りで戦った後、学生鞄を拾ったというのじゃ。
 導き出される結論は一つ。
 どちらかが、嘘をついておることは明白じゃが。

 ではこう考えて見よう。
 エヴァが嘘をついているのだとしたら、それによりなんの得をするのじゃろうか。
 考えても考えても、得などはないように思えた。
 では氷咲くんが嘘をついているのだとしたら、これも考えて見たものの、得などはないように思えた。
 色々な思考が渦巻きはしたが、消えていった。
 そもそも、彼が実力者などとは思えぬのじゃから。

 では、この学生鞄はなんなのじゃろうか。
 エヴァが何らかの事柄に一般生徒である氷咲くんを恨み、陥れるために学生鞄を盗んだ。
 静かに、首を振った。
 ない、じゃろう。
 エヴァはそんな回りくどいことをする暇があれば、単独でも倒しに行くじゃろうて。
 では、氷咲くんが嘘をついておるのじゃろうか。
 彼は桜通りにおったのにも関わらず、それを嘘をついてまで否定した事になる。
 なぜ、そんな嘘をつくのじゃろうか。
 エヴァの言う、一般生徒の仮面に準じておるのじゃろうか。
 実力を悟られぬために、じゃろうか。
 じゃが、その考察も首を振る事となった。
 所作に不審な所はあれど、彼は見るからに一般生徒にしか見えないからじゃった。

 わからん。
 わからんわい。
 困惑の表情のまま高畑くんを見遣ると、同様の結論に辿りついたのじゃろう。
 困惑とした面持ちで、虚空を見つめていた。
 沈黙に次ぐ沈黙に、部屋や空気さえも混迷と化していた。
 逡巡しておると、高畑くんが意を決した表情で口を開いた。
 それは、氷咲くんの内情を量ろうとする揺さぶりじゃった。
 わしは心の内で、高畑くんに頭を下げていた。
 彼も、辛いだろうからじゃ。
 ほぼ限りなく一般生徒と思われる、氷咲くんを疑わなければならないのじゃから。

「吸血鬼」

 氷咲くんは聞こえていないのか、身動きを取らなかった。静かにわしらを見据えていた。
 高畑くんがテーブルの上に、学生鞄を置いた。
 氷咲くんの目を、見据えて言った。

「これがね。
 桜通りに落ちていたんだよ」

 高畑くんの勇気には、素直に脱帽した。
 内心、心が痛いじゃろうに。
 氷咲くんが、不思議そうに首を傾げた。

「なくしたと思っていたらそんなところにあったんですか」

「なぜ落ちていたんだろう?」

 高畑くんが念には念をと、言葉の追撃をかける。

「誰かが盗んで捨てたのかもしれません。
 見つけて下さってありがとうございます」

「うん。それはいいんだけどね……」

 決まり、じゃな。
 氷咲くんは、一般生徒じゃ。断じて、こちら側の人間ではない。
 不可解な事はあるにはあるが、彼には揺らぎさえなかった。纏う空気も穏やかであり、エヴァの言った印象とは似ても似つかなかったからじゃ。

 じゃが、一つだけ疑問が残った。
 エヴァと氷咲くん。どちらかが、嘘をついているという事柄であった。
 じゃがどちらとも、嘘をつくようには見えない。
 その時、ある考察が浮かび上がった。
 もしかして、双方共に嘘をついてはいなかったのではないじゃろうか、と。
 氷咲くんは、不運の男と呼ばれておるらしい。
 不運。それらが積み重なり、誤解や勘違いを生じさせ、ある事態を作り上げた。
 その結果、なのではないじゃろうか。

 高畑くんと顔を見合わせて、二人して苦笑した。
 全く、エヴァには困ったものじゃのう。
 氷咲くんは一般生徒だから狙わないようにと、厳重注意しておかなければならんのう。
 部屋の空気が緩んでいく。
 じゃが、取り越し苦労で良かったと、安堵の息を吐き出した瞬間であった。
 氷咲くんが、ふいに立ち上がったのじゃ。
 気配を消した動作。音一つ無く、こちらに近づいてきた。
 不穏なる空気が、辺りを覆い込んだ。
 エヴァが言っていた言葉の数々が、脳裏に自然と思い起こされた。

 一般人という仮面を被り、擬態を有効に用いて。
 絶対の強者故の、驕り。それ故の油断。
 攻撃の一瞬の隙をついて、一般人の仮面を脱ぎ捨てた。
 巧妙な話術と戦略。それはエヴァさえも翻弄させた。
 用いた物は市販の万年筆一本。それだけで対等に渡り合った。

 高畑くんが素早く振り返ると、牽制の声を発した。

「どうしたんだい?」

 そのまま、戦闘態勢に入る。
 高畑くんの必殺技、居合い拳。ポケットに手を入れた態勢で、氷咲くんを見遣った。
 じゃが、高畑くんにそれを打つ気配はなかった。
 これはただの牽制、なのじゃから。
 万が一、極めて低い確率で、氷咲くんが攻撃してきた時のために備えただけである。
 それは、鋭い目で威圧してはいるが、殺気を孕んでいない所から明白であった。

 じゃが予想外にも、氷咲くんの歩みは止まらなかった。
 殺気がないとはいえ、高畑くんの威圧、なのじゃぞ。
 それを柳のように受け流す一般生徒。
 まさか。
 氷咲くんは足取りを止めぬまま、ふいに胸元に手を入れた。抜き出すと、黒色の棒状の物体が握られていた。
 それをわしらが、万年筆なのだと理解した時じゃった。
 唐突にも、その表情が切り替わった。
 実直な表情から一転、口許に愉しげな嘲笑いが浮かべられたのじゃ。
 鋭き威圧をものともせずに、さながら、陽気な春から凍てつく冬へと変化していくようじゃった。

 高畑くんの身体中から、膨大なまでの殺気が放たれた。
 居合い拳。放たれた拳圧が、氷咲くんの腹部を目掛けて飛んでいく。
 わしも高畑くんも、自然と顔がしかめられた。
 それは高畑くんが、打とうとして打ったわけではないからじゃ。
 高畑くんが、長年かけて培ってきた戦士としての本能。
 それが反射的に騒いだ。結果的に、その行動を呼び起こしてしまったのじゃ。

 それにしても、まずい。
 最悪な結果が想像された。
 氷咲くんが一般生徒であった場合に置いて、怪我ではすまない事態に陥るじゃろう。
 顔面蒼白。
 放たれた拳圧は、もう、止まる事はない。

 じゃが、次の瞬間じゃった。
 結果として、高畑くんの戦士としての本能は間違っていなかった事を思い知らされた。

 わし達に見せつけるかのように、氷咲くんは愉しげな笑みを残したまま、垂直に跳び上がった。
 足元を居合い拳の拳圧が通り抜けた。まるで、トラックが壁に突っ込んだかのような轟音が響き渡った。
 そのまま拳圧を足場に活用して蹴り上げ、凄まじい速度でわし目掛けて飛来した。

 わしも高畑くんも、唖然とする他なかった。
 それはそうじゃ。
 今の今まで、一般生徒だと信じ切っていた少年。
 彼が高等難易度である虚空瞬動を、嘲笑いのままに行ったのじゃぞ。
 ここまで来ると、もはや不運という言葉で片付けようにも、説得力は皆無と化した。
 ただの一般生徒に不運が重なったとしようではないか。
 じゃが、逆に聞きたい。
 ただの一般生徒がじゃ。嘲笑いを浮かべたまま虚空瞬動を行う。
 これを不運などで片付けろという者は、おるのじゃろうか。

 一般生徒の仮面を被り、信用させる。
 そして緩みきった一瞬の隙をついて、攻撃に移る。
 こんな巧妙な擬態を、誰が見破れるというのじゃろうか。

 心からの呟きが漏れた。
 エヴァの言っておった事は、紛れもない真実じゃった…!
 即座に戦闘態勢を整えようとしたが、もう、遅かった。
 わしの胸元に、その速度を利用した衝撃がぶつかった。
 命からがら、障壁を張れたためさほどダメージはなかった。
 じゃが鈍い痛みに襲われ、低い呻き声を漏らしながら吹き飛ばされた。
 揉み合うように転がっている途中で、高畑くんらしき声が聞こえてきた。

「居合い拳を初見で見切ったうえ、その拳圧を蹴って……虚空瞬動をしたのか……?」

 そんな事を呟いておる場合じゃなかろう…!

 そして勢いが収まった時、もはや勝敗は決していた。
 無防備にも仰向けにならざるを得ないわしの胸元に、氷咲くんが馬乗りになっていたのじゃ。
 口許には愉悦の笑みが、浮かべられていた。
 ゆっくりと、首許に万年筆をあてがわれた。
 全身が総毛立ち、独りでに口が開いた。
 過去はただの万年筆であったが、現在は本当の爆発物であったならば。
 障壁を容易く突破できるほどの、刃が隠されていたとしたら。

「ま、まいった!」

 恐る恐る見遣ると、氷咲くんは不思議そうな視線をこちらに向けていた。
 時が止まったかと錯覚するような沈黙が、辺りに広がっていく。どこかから聞こえてくる烏の鳴き声が、酷く印象的に聞こえた。
 わしはその時、恥ずかしながらやっとその意味を理解した。
 この件の発端をつくったのは、わし達なのじゃ。
 勝手に疑いをかけた上にじゃ。咄嗟とはいえ、居合い拳を放ってしまったのじゃ。
 氷咲くんは、戦うつもりなどはなかったのかも知れない。
 じゃが、高畑くんが攻撃した時、彼の中である変化が起こった。これは戦いなのだ、と。
 つまり、会話から殺しあいへとその色が移ってしまったのじゃろう。
 これはルールがある試合、などではない。
 殺しあいにルール、などはない。卑怯も糞もないのじゃ。騙された方はただ死に行くだけ。
 彼はその無法に乗っ取った。わしという王将を人質に取るという、戦略を実行した。
 そんなわしから、降参などというたわけた言葉が漏れたら、不思議に思うのは当然じゃろう。

 なぜだ?
 これは、殺しあいではなかったのか?

 氷咲くんの歪んだ瞳から、そう言った意思が有り有りと見えていた。
 甘く、見ていた。
 そう言わざるを得ない。
 エヴァの注意があったにも関わらず、この醜態。
 自分で思うよりも遥かに、老いてしまったよう、じゃな。
 心で呟くと、氷咲くんがなにかを覚ったかのように愉しげな笑みを浮かべた。
 わしの怯えを、感じとったのじゃろう。
 再起動を果たした高畑くんが、やっと動いた。

「氷咲くん……そのへんで許してくれないかな?」

 高畑くんよく言った!
 なんとかしてくれ!

 恥を忍んで、心から願った。
 孫の日の目を見るまで、わしは死ねないのじゃ。
 半ば祈る思いで氷咲くんを見遣ると、苦笑していた。
 それは、そうじゃ。
 彼にして見れば、とんだ茶番だと笑うしかないのじゃろう。
 逡巡の後、彼は笑顔を表して言った。
 その笑みは、なんらかの意思を持っているように思えた。

「学園長、誤解ですよ。
 僕は草食系男子を自認していますし、最初から戦ってなどいないでしょう?
 だから勝敗をつけるのはおかしいですよ」

 最初から戦ってなどいない、とは如何に。
 唖然としながらも、考えを巡らせた。
 一つの考察が浮かんだ。
 それの言葉の意味。それはつまり裏を返せば、戦った事を隠蔽しろ、という事じゃろうか。
 自分達は戦ってなどいないではないか。
 それはつまり、自分を一般生徒だと黙認しなければ、殺す、と。
 未だに万年筆は首許に当てられていた。
 強制をしいる意思を、まざまざと感じ取った。
 選択肢はなかった。わしは無様にも冷汗を流しながら言った。

「そ、そうじゃったな……。
 きみはソウショ?男子……?じゃ!わしが認めるぞい!」
 
 
 氷咲くんは逡巡の後、満足げに笑った。
 ゆっくりと、万年筆を退けていく。
 この騒動を隠蔽する事と、一般生徒だと黙認する事を、認めたからじゃろうと思われた。
 音もなく立ち上がると、床に落ちていた紛失物届けに記入していた。
 わしは情けなくも、座り込んでほっと息を漏らした。
 高畑くんがおらなかったら、冥土行きとなっていたかも知れなかったからじゃ。
 氷咲くんが学生鞄を肩にかけて、声を上げた。

「では、俺は授業にいきます。失礼しました」

 わしも、高畑くんも、唖然とする他なかった。
 なぜならば、授業、そう言った氷咲くんの顔に原因はあった。
 先ほどの愉悦の嘲笑とは一転、一般生徒の笑顔。さながら、花が咲くような爽やかな笑みにしか見えなかったからじゃ。
 こ、これが氷咲くんの持ち得る、トップクラスの擬態とでもいうのか。
 氷咲くんがドアを開こうとしていた。
 わしは呆然としていたが、慌てて言った。
 これだけは聞かなければ、ならないからじゃ。

「氷咲くん。
 最後に聞かせてほしい。
 きみの目的はなんなんじゃ?なにを思いここにいる?」

 氷咲くんの歩みが止まった。
 こちらに背を向けたままで、言った。
 笑みを孕んだ優しげな声音。それが逆に、強い意思が篭った言葉に感じられた。

「言ったでしょう。
 僕は草食系男子ですよ?
 その僕がここにいる目的なんて、勉強をしてサラリーマンになるため以外にありませんよ?」

 さ、サラリーマン。

 愕然とするわし達を残して、氷咲くんは颯爽と去って行った。
 長き間、固まっていたが、なんとか立ち上がると椅子へと腰掛けた。
 高畑くんが苦笑を隠せぬままで、煙草をくわえた。
 吐き出された紫煙が、換気扇に吸い込まれて行く。
 わしは、単刀直入に聞いた。

「なんじゃったんかのう……。
 高畑くんは、どのように思った?」

 高畑くんがもう一度紫煙を吐き出すと、真面目な表情で言った。

「そうですね。
 もう彼の戦法、戦略などはわかっていますから、真正面から戦えば、まず負けないでしょう。
 ですが……あの天才的な擬態と、巧妙な戦略には驚かされてしまいましたね」

「そうじゃのう……。して、危険じゃろうか?」

「その点に関しては、大丈夫だとは思います。
 彼のスタイルは、暗殺タイプで間違いないでしょう。
 あの長年かけて習得しただろう擬態を有効に用いて、相手を油断させる。
 相手から自分に敵意がなくなるその瞬間に、全てを賭ける。
 ハハ……まさに擬態に関してはトップクラスですよ。
 ですが、一つだけ言える事があります。
 それは、彼が学園長を殺せるチャンスはもうこの場だけだったという点です。
 それに彼は、無防備なエヴァにも危害をくわえなかったという一例もあります。
 これは他になにかを隠し持っている可能性がありますが、僕はこう思いました。
 彼の言葉を鵜呑みにすると、本当にサラリーマンになるために勉学に励んでいるのじゃないか、と。
 だから殺さないし、自分を一般生徒として扱え、と」

「わしは、眠れる獅子を起こしてしまったのかもしれんのう……」

 わしを殺せるチャンスとは、物騒な発言をするのう。
 じゃが、わしも概ね同意見じゃった。
 じゃが監視なしとはさすがにできないが、適任がいない。
 高畑くんは実力的に申し分ないのじゃが、仕事があった。
 下手な人物に監視させれば、氷咲くんを怒らせかねんしのう。
 誰か、適任はいないものじゃろうか。
 そう考えた時、脳裏に光明が差した。

「高畑くん。後の事は全て、エヴァに任せるというのはどうじゃろうか?」

 高畑くんが苦笑して言った。

「ハハ……適任、ですね」

「そうじゃろう!
 エヴァは氷咲くんを気に入っておるようじゃしな。
 決まったぞい。これで安心じゃわい」

 独りでに、笑みが浮かび上がった。
 すると、ある疑問が浮かび上がった。
 苦笑を漏らしていた、高畑くんに聞いてみた。

「それはよしとして、高畑くん。ソウなんとか男子とはなんなんじゃ?」

 沈黙が広がって行く。
 高畑くんの口が、静かに開いた。

「……僕に言われてもわかりませんよ」

 辺りに授業を告げる、チャイムが鳴り響いた。
 目配せの後、高畑くんは周囲の見回りに去って行った。
 わしは気を取り直して、お見合い相手探しに勤しんだ。
 夕刻に、予期せぬ来訪者が訪ねて来るまで。
 
 
 
 
 ーその日の幼女吸血鬼さんー
 
 
 
 
 夜分遅く、家にタカミチが訪ねてきた。
 その表情に苦笑が混じっているのを見た後、家に入れと顎をしゃくった。
 リビングに招き入れると、ソファーに座る。テーブルを挟んでタカミチも座った。
 茶々丸が、飲み物を取りにキッチンへと向かった。
 好奇心からか、笑みを持って聞いた。

「で、奴はどうだった?」

 タカミチが苦笑してから、呟いた。

「そうだね。してやられたって感じだね」

「ほう……それで?」

 その後、タカミチが語り出した事の顛末には、腹を抱えて笑わせて貰うことになった。
 なんと小林氷咲は、初見であるのにも関わらず居合い拳を高く跳躍することでかわした。
 その拳圧を蹴ることで虚空瞬動を発動し、反発の速度を利用してじじいに蹴りを入れた。
 それだけでも大笑いと言うのにも関わらず、そのまま馬乗りになった。
 あまつさえ、じじいの首筋に万年筆を押し当てて、人質にとったというのだ。
 怯えきり汗をダラダラと流すじじいに向けて、暗に構うなと言い放ったという。
 二対一の状況という、絶体絶命の境地に置いてだ。
 天才的なまでの擬態を有効に用いて、勝負を一瞬にかけた。
 じじいとタカミチ。二人を相手になお底どころか、欠片さえ見せないのだ。
 その狡猾なまでの策略は、素直に見事と賞賛出来た。
 それにしても、これほど出来る奴だとは思っていなかった。

「ハーハッハッハッ!
 面白い!面白いぞ小林氷咲!」

 タカミチがまた、苦笑して言った。

「笑い事じゃないよ。学園長が殺されかけたんだからね」

「クックックッ……いい様だな。
 じじいには、図に乗っていると痛い目にあうという、いい教訓になっただろう」

「ハハハ……厳しいね。
 それとね、氷咲くんはサラリーマンになりたいそうだよ」

「はあ?」

 目が点になった。
 良く言葉が聞き取れなかった。
 タカミチが、少々、腹が立つ笑みで言った。

「サラリーマンになりたいそうだよ」

 さ、サラリーマンだと……?

「そんなわけあるか!
 どうせ隠れみのにしたいか、お前らを小馬鹿にでもしただけだろう!」

「そうかな?」

「あんな奴がサラリーマンになったら会社が潰れるわ!」

 叫び上げていると、戻ってきた茶々丸がタカミチに一礼した。テーブルの上に置かれたカップに、紅茶を注いでいく。

「ありがとう」

 タカミチは紅茶を一口啜り、珍しく真面目な顔で言った。

「でね。
 学園長が氷咲くんの監視の件は、エヴァに一任したいと言ってるんだけど……どうかな?」

「いきなり話しを変えるな!
 ……まったく。
 とは言え……ほう、この私にか」

 タカミチが静かに頷く。
 逡巡ののち、言った。
 まあ、どの道、小林氷咲は試すつもりであったからいいだろう。

「任せておけ。
 だが……結果、五体不満足となっても知らんぞ?」

「ハハハ……監視なんだけどね。お手柔らかに頼むよ」

 タカミチがカップに入った紅茶を、一気に飲み干した。

「フン。では借り一つだ」

 タカミチは頷くと、去っていった。
 リビングに足早に戻ると、昂揚感を隠せずに呟いた。
 脳裏に、小林氷咲の嘲笑いが浮かんでいた。

「小林氷咲、貴様の悪の本質を見せてもらうぞ。
 私を納得させられるだけの貴様の生き様を。
 証明してみせろ」

 茶々丸が背後で、マスターがどうとか言っていたが無視して、窓の外にある夜空の月を見上げて高笑いした。
 
 
 
 
 ーその頃の不運な少年ー
 
 
 
 
「やはり、風呂上がりには牛乳だよな」

 テーブルの上に放置しておいたコップを手に取った。
 冷蔵庫から、冷えたままの牛乳を直で飲むとお腹を下してしまうからだ。
 だからこそ、風呂の前に牛乳を出して置く事は必須であった。
 なぜならば、それほど俺のお腹は弱いからだ。
 どれくらい弱いかというと、さながら、生後間もない赤ちゃん並と言っても過言ではないだろう。

 牛乳が並々と注がれたコップを口許に傾けた。
 その瞬間だった。
 さながら、太鼓を叩いているかのようなリズムで、波打つように激しい悪寒が体中を駆け巡ったのである。

「ぶほぁ!」

 突然の事に、抗う暇もなく、牛乳を吹き出してしまった。
 床一面、さながら銀世界の様相である。
 その惨事を眺めながら、体を温めようと両手でさすった。

「な、なんだぁ……?今の悪寒は……?
 しいて言うなら…そう、夜空に浮かぶ月を見上げて、何者かが厨二病的なことを叫んでいるような気が……。
 しかもなぜか、俺へと向かって…」

 しかし、さすがにそれはないだろう。
 全くその人物に思いあたらないし、現実的ではない。
 自らの妄言に、苦笑せざるを得なかった。
 深呼吸して気を取り直すと、一面の銀世界の掃除に取り掛かった。


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