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No.43591の一覧
[0] 草食系男子ですけどなにか?[フランチィスコ](2020/06/07 00:14)
[1] 桜通りの吸血鬼さん——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:15)
[2] 桜通りの吸血鬼さん——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:16)
[3] 素晴らしき学園長と先生——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:17)
[4] 素晴らしき学園長と先生——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:17)
[5] 死神と恋愛とストーカーと——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:17)
[6] 死神と恋愛とストーカーと——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:18)
[7] 四の思惑が交錯する中心——幕間その壱[フランチィスコ](2020/06/07 00:18)
[8] 四の思惑が交錯する中心——幕間その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:18)
[9] その頬を伝うものは——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:19)
[10] その頬を伝うものは——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:19)
[11] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その壱[フランチィスコ](2020/06/07 00:20)
[12] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その弍[フランチィスコ](2020/06/07 00:20)
[13] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:21)
[14] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:21)
[15] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その伍[フランチィスコ](2020/06/07 00:22)
[16] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その陸[フランチィスコ](2020/06/07 00:22)
[17] ある少女の英断——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:23)
[18] ある少女の英断——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:23)
[19] 学園長からの依頼——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:24)
[20] 学園長からの依頼——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:24)
[21] 学園長からの依頼——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:24)
[22] 悪が跋扈する街、京都——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:26)
[23] 悪が跋扈する街、京都——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:26)
[24] 正に、驚天動地と言えよう——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:26)
[25] 正に、驚天動地と言えよう——表その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:27)
[26] 正に、驚天動地と言えよう——表その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:27)
[27] 正に、驚天動地と言えよう——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:27)
[28] 正に、驚天動地と言えよう——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:28)
[29] 正に、驚天動地と言えよう——裏その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:28)
[30] 正に、驚天動地と言えよう——裏その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:28)
[31] 一体全体、意味がわからない——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:29)
[32] 一体全体、意味がわからない——表その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:29)
[33] 一体全体、意味がわからない——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:30)
[34] 一体全体、意味がわからない——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:30)
[35] 一体全体、意味がわからない——裏その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:30)
[36] 一体全体、意味がわからない——裏その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:31)
[37] 一体全体、意味がわからない——裏その伍[フランチィスコ](2020/06/07 00:31)
[38] その暗闇を沈み行くものは——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:31)
[39] その暗闇を沈み行くものは——表その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:32)
[40] その暗闇を沈み行くものは——表その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:32)
[41] その暗闇を沈み行くものは——表その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:32)
[42] その暗闇を沈み行くものは——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:33)
[43] その暗闇を沈み行くものは——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:33)
[44] その暗闇を沈み行くものは——裏その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:33)
[45] その暗闇を沈み行くものは——裏その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:34)
[46] その暗闇を沈み行くものは——裏その伍[フランチィスコ](2020/06/07 00:34)
[47] その暗闇を沈み行くものは——裏その陸[フランチィスコ](2020/06/07 00:34)
[48] その暗闇を沈み行くものは——裏その漆[フランチィスコ](2020/06/07 00:35)
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[43591] その暗闇を沈み行くものは——表その参
Name: フランチィスコ◆c175b9c0 ID:bf276d6a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/06/07 00:32
—小林氷咲side—
 
 
 
 
 
「小僧、戯れが過ぎるぞ。
 私のものを盗もうとするその根性は、賞賛に値する。
 だが、この愚か者が欲しいというのならば、この私の息の根を止めてからにしろ」

 化け物の体躯から発露される、金色の光量は凄まじく、正に神々の偉大な後光を彷彿とさせている。
 天地万物全てを、煌々と照らしているのではないかとさえ錯覚させられていた。
 壮絶、の一言だった。
 次元を隔絶するようなまでの唸り声。天を衝く咆哮。それは俺を恐怖に縛るばかりか、激しく大地を振動させていた。
 意識は朦朧。迫り来る疑問のうねりは解読不能の様相を呈し、口を噤み凝視するという選択肢しか取れはしない。
 あの奇妙奇天烈さを遺憾なく発揮し喋り倒した、白髪の少年の姿はいずこへ。
 そして、この身を支配し匂い立つ、破滅の如き焦燥心は、どのような真実を示しているのだろうか。

 半ば、現実逃避を敢行していた脳裏は、認識する。圧倒的。絶大なまでの存在感を欲しいままにする、ある少女を視認していた。
 特徴的な金色の毛髪の一本一本は繊細で、夜風に惑うようにサラサラと揺れている。
 正に我々日本人が思い描く、西洋のお人形さんのよう。
 ではあるのだが、その服装は教育上、余りよろしくはない。漆黒を基調とした女王様スタイルだった。
 まるで、吸血鬼のように、いや、彼女は吸血鬼だったかとふと思う。

「エヴァンジェリンさん」
「エヴァンジェリンさん!」
「エヴァちゃん!」

 皆も、気付いたのだろう。
 視線は知らず知らずの内に彼女、一点へと向かうのも自明の理と言えた。
 陰影から這い出し、その身を現わにした少女は振り返ると、フッと妖艶な笑みを浮かべる。
 だが、宝石のように蒼く煌めく瞳には、慈愛が込められているように感じられた。

「ヒサキ、待たせたようだな」

 いや、すまない。少しばかりではないが意味の方がと、失礼な返答をしようとした口を必死に閉じる。
 久方振りに対面出来た嬉しさもそうだが、彼女の闇を思い返したからだった。
 英断を選択した少女。穢れを知らない聖母。感謝してもしきれる事は未来永劫としてない、エヴァンジェリンさんは尚も続けた。

「さすがの小林氷咲、といったところか。
 この私が京都に降り立った時点で、お前の描いた策は成った。
 まさか、一度も戦わずして、一度の変身もせずして、相手の思考を誘導し、時間を稼いで見せる、とはな」

 たちまち、周囲がしんと静まり返る。いや、BGMとしての咆哮は喧しいほどではあったが、俺の脳内はそれを打ち消していた。
 傍らに立つ桜咲さんが、息を呑む。

「ま、まさか、小林さんは……この時を待っていたんですか」

「ああ、この私としても恐れ入ったよ。
 全ては、コイツの掌の上にあったに過ぎない。
 いつ把握したのかは知らんが、いや、じじいの行動も予測済みだったという訳か。
 まさか、麻帆良にいるはずの私、という不確定なものまで策に組み込んでいたとはな。
 コイツは愚者でありながら、シビアなリアリストでもある、という事だ」

 エヴァンジェリンさんは、心底、愉しそうに口許を歪ませた。
 桜咲さんの唖然とした表情が、印象に残る。
 背後の方向から、神楽坂さんの不思議さを隠さない疑問の声が響いた。

「え? ごめん。どういう事?」
「カァー! カァー!
 情けねぇ! 姐さん、情けねぇ!
 小林の旦那はなぁ……」

 まるで、同時多発テロのように、俺を中心に騒動の火の手が上がっていく。
 俺はというと、エヴァンジェリンさんと同様に、苦笑を隠せなかった。
 全く持って、だ。
 全く持って、意味がわからなかったからである。
 心に住むミニヒサキはというと、その場で意識を手放し深い眠りについていた。
 苦悶の表情で、譫言のように呟く。
 うん。
 意味がわからない。

 白髪の少年の台詞を拝借させて貰うのならばと、内心で呟く。
 幻想の世界も、何もかもを捨てて……リアルヒサキの方も就寝させてはくれないか、と。
 だが、そのように切実に願ったとしても、追っ手は止まる事を知らないようだ。
 際限などはない。最早、無限なのだよと嘘ぶかれても、俺は無条件に信じる事が出来るだろう。

 面食らっている俺をよそに、桜咲さんが口を開いたのだ。
 その瞳は異様に力強く、その声音は意を決したように揺れてはいない。
 先程の泣き顔はどこへ行ったのか。
 真正面から俺を見つめる様は、例えるならば、雛鳥の一人立ちを彷彿とさせた。

「小林さん!
 いえ! ひ、氷咲さん!」
「ぬ」

 俺は、ただ見つめた。
 いきなりのファーストネームを叫ばれた事に、思考が飛んでいただけではあるのだが。
 桜咲さんの瞳に、俺が映り込む。その頬は強張り、仄かに朱が差していた。
 彼女の特徴的な髪型。サイドポニーテールが、振動に上下する。
 それは、薫風に踊らされる稲穂のように見えた。

「……氷咲さん。
 あなたは、ゆっくりで良いと言ってくれました。共に前に進もうと言ってくれました。
 ありがとうございます。
 ですが、今、なんです。過去の私と決別するのは。
 今じゃなければだめなんです」

 桜咲さんの左手が、握り拳へと変化していく。
 不安からか、身体は小刻みに揺れていた。だが、相反するように、瞳には並々ならぬ決意の色が浮かんでいた。
 視線が、ぶつかり合う。
 知らず知らずの内に、俺の苦笑はなりを潜めていた。真摯に、彼女を見据える。
 過去との決別。心情の吐露。未来への希望。彼女は今、穢れのないその心の翼を、羽ばたかせようとしているのだから。
 理由はわからない。俺の必死な言葉、からかも知れない。神楽坂さんやネギくんが、背中を押していてくれたのかも知れない。
 だが、一つだけわかる事があった。
 自然と、当然のように、心が震えてしまうのだ。
 自分の事のように、途方もなく嬉しい。微力でも、彼女の力となれたという結果が。

「氷咲さん……、あなたのお陰で、私は私の産まれた意味を知りました。
 だから、氷咲さんになら、あなた達になら……。
 私はもう、迷いません」

 桜咲さんはその声を合図に、徐に目を閉じた。一拍の後、背中を丸めると背筋を伸ばした。
 その、瞬間の事だった。
 突如として出現した、無数の白色の物体が、俺の視界をかすめたのだ。
 周囲の空間を、粉雪のようにヒラリヒラリと舞い散って行く。
 俺は、目を見開いた。見開かざるを得なかった。
 その白色の固体は、純白の羽。月明かりに照らされて、煌めき輝く。
 その出所は、彼女の背中に生える、大きな天使のような両翼から生み出されていた。

 目を奪われる。致し方、ないだろう。
 それほどまでに、美しかったのだ。
 桜咲さんと純白の翼。それらが合わさって生まれる破壊力は甚大であり、俺の琴線に触れるばかりか、鋭利にもえぐって行った。
 そうか。そう、だったのか。
 人は仮初めの姿。彼女は、天使だったのだ。
 吸血鬼もこの世に存在している。それならば、天使が存在していてもおかしくはなかった。

「ふぅーん」

「あの、アスナさん? どうしたんで……」

「きゃう!」

 惚けを隠せそうになかった。
 未だに、今生の身でありながら、まさか天使と拝謁出来ようなどとは想定外に過ぎる。
 前々から思ってはいたが、神楽坂さんは誠に恐れ多いお方である。
 現状、不敵にも、清らかなる翼に頬ずりまでする様は正に縦横無尽。万夫不当。
 脳裏に否応もなく、ある文章が通り抜けた。
 一騎当千。この世に彼女に敵うものなし、と。

 呆け、からだろう。
 一連の騒動を、赤子のようにただ眺めていた俺は、意識を覚醒させられた。
 それは眼前に、美しき天の使い、桜咲さんが立っていたからだった。
 どうしたのだろうか。不思議に思えた。
 瞳は充血し、頬も紅潮していたからだ。恥ずかしそうに、指と指を絡める仕草のおまけもついていた。
 さすがに可憐過ぎるだろと、内心で突っ込む。
 俺は心に決めた人がいるのだが、彼女は危険だ。エマージェンシーコールが鳴り響かなければ、危うく意識を持っていかれる所だった。
 その時、ふと脳裏に、彼女との短かくも濃い思い出が連鎖するように蘇っていった。

 そして、俺はその意図に気付いた。
 間違っているかも知れない。だが、桜咲さんに巣くう闇の正体が露わになった気がした。
 人との違い。人種の違い。俺には理解する事は叶わないが、そうなのかも知れなかった。

「あの……氷咲さん。どうで」
「きれいだ」

 彼女の声を、遮るように言った。
 そうしなければならないと、直情的に考えたからだった。
 自らの思慮の浅さに苛立つ。神楽坂さんこそが、揺るぎのない正解を導き出していたのだ。
 俺は何を、勘違いして呆けていたのだろうか。
 彼女は、天使なのかも知れない。人間には、属さないのかも知れない。
 だが、声高らかに叫びたい。
 それが、どうした。それが、どうしたというのだろうか。
 俺は、彼女が心優しい事を知っている。
 俺は、彼女が真面目過ぎて、思い込みやすい事も知っている。
 彼女は、桜咲刹那だ。それ以外の肩書きなど、重要ではないのだ。
 なぜならば彼女は、こんな俺を慕ってくれるのだから。愛すべき妹のような存在、それに変わりはないのだから。

「え?」

 桜咲さんが目を見開いた。
 俺はその様に、苦笑してしまう。
 彼女の揺れる心を定められたらと願いながら、口を開いた。

「その翼は、綺麗だ。
 きみが何者でも関係ない。
 俺は、俺達はきみを信用しているって、言っただろう?
 それは今でも、これからも変わる事はない。
 なぜならば、きみはこの世界でただ一人しかいない、桜咲刹那なんだから」

 再度、桜咲さんは目を見開いた。
 その様がおかしくて、皆が笑う。ほどなくして、桜咲さんは大きな声を上げた。
 その口許に浮かべられた心からの笑みは、今までに見た事がないほどに爛々と輝いていた。

「はい!」

「フン。
 おい、桜咲刹那。近衛木乃香は良いのか?」

「あ」

 桜咲さんが慌てて翼を広げると、どこかへ向かい駆け出した。
 そして、夜空に飛び立とうとする最中、俺を見つめて言った。

「氷咲さん。いってきます」
「ああ。いっておいで」

 桜咲刹那という少女が飛び立つ。
 その純白の翼は、未来への希望を乗せているように思えた。


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