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No.43591の一覧
[0] 草食系男子ですけどなにか?[フランチィスコ](2020/06/07 00:14)
[1] 桜通りの吸血鬼さん——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:15)
[2] 桜通りの吸血鬼さん——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:16)
[3] 素晴らしき学園長と先生——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:17)
[4] 素晴らしき学園長と先生——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:17)
[5] 死神と恋愛とストーカーと——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:17)
[6] 死神と恋愛とストーカーと——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:18)
[7] 四の思惑が交錯する中心——幕間その壱[フランチィスコ](2020/06/07 00:18)
[8] 四の思惑が交錯する中心——幕間その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:18)
[9] その頬を伝うものは——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:19)
[10] その頬を伝うものは——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:19)
[11] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その壱[フランチィスコ](2020/06/07 00:20)
[12] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その弍[フランチィスコ](2020/06/07 00:20)
[13] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:21)
[14] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:21)
[15] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その伍[フランチィスコ](2020/06/07 00:22)
[16] 嗚呼、かくも楽しき学園生活——幕間その陸[フランチィスコ](2020/06/07 00:22)
[17] ある少女の英断——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:23)
[18] ある少女の英断——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:23)
[19] 学園長からの依頼——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:24)
[20] 学園長からの依頼——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:24)
[21] 学園長からの依頼——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:24)
[22] 悪が跋扈する街、京都——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:26)
[23] 悪が跋扈する街、京都——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:26)
[24] 正に、驚天動地と言えよう——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:26)
[25] 正に、驚天動地と言えよう——表その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:27)
[26] 正に、驚天動地と言えよう——表その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:27)
[27] 正に、驚天動地と言えよう——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:27)
[28] 正に、驚天動地と言えよう——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:28)
[29] 正に、驚天動地と言えよう——裏その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:28)
[30] 正に、驚天動地と言えよう——裏その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:28)
[31] 一体全体、意味がわからない——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:29)
[32] 一体全体、意味がわからない——表その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:29)
[33] 一体全体、意味がわからない——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:30)
[34] 一体全体、意味がわからない——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:30)
[35] 一体全体、意味がわからない——裏その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:30)
[36] 一体全体、意味がわからない——裏その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:31)
[37] 一体全体、意味がわからない——裏その伍[フランチィスコ](2020/06/07 00:31)
[38] その暗闇を沈み行くものは——表[フランチィスコ](2020/06/07 00:31)
[39] その暗闇を沈み行くものは——表その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:32)
[40] その暗闇を沈み行くものは——表その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:32)
[41] その暗闇を沈み行くものは——表その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:32)
[42] その暗闇を沈み行くものは——裏[フランチィスコ](2020/06/07 00:33)
[43] その暗闇を沈み行くものは——裏その弐[フランチィスコ](2020/06/07 00:33)
[44] その暗闇を沈み行くものは——裏その参[フランチィスコ](2020/06/07 00:33)
[45] その暗闇を沈み行くものは——裏その肆[フランチィスコ](2020/06/07 00:34)
[46] その暗闇を沈み行くものは——裏その伍[フランチィスコ](2020/06/07 00:34)
[47] その暗闇を沈み行くものは——裏その陸[フランチィスコ](2020/06/07 00:34)
[48] その暗闇を沈み行くものは——裏その漆[フランチィスコ](2020/06/07 00:35)
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[43591] その頬を伝うものは——表
Name: フランチィスコ◆c175b9c0 ID:bf276d6a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/06/07 00:19
 —ヒサキside—
 
 
 
 
 真っ暗闇の中を、俺は死神姿で飛んでいた。
 今日は年に二回ある一斉停電の日。
 蝋燭を買い忘れていたことを思いだし、最寄りのコンビニを目指していたのだ。
 門限破りと寮母さんに烈火の如く怒られるため、窓から忍び飛んできたためであった。

 それにしても、暗い。
 当然である。
 光という光が、すべて消えてしまったのだから。

 これも当然の如く、俺は怯えきっていた。
 本当は、さながらヤドカリのように部屋に閉じこもっていたかったが、それはできない。
 長い時間、明かりもなしに生活することは困難である。
 眠る時に豆電球が必須であるまるで兎のように淋しがり屋の俺には。
 苦渋の選択に迫られ、恐怖の空中散歩を選んだのであった。

 闇に包まれた学園都市。
 それはまるで、罪人達が堕とされる地獄のように思えた。
 極力、肩は見ないようにしている。
 さながら、地獄の番人のようなお方がいるからである。

 寒気に身震いしたとき、それは微かに聞こえた。

「うお!」

 聞こえたのである。
 すいませーん…と。

 思わず急停止した。
 耳を澄ますことに集中した。
 やはり、聞こえた。
 何者かが、確かに俺を呼んでいた。

 まずいまずいまずいまずい。
 間違いなくもののけの類であろう。
 固まっていると、今度は確かに聞こえた。

「ちょっとー!」

 いかんいかんいかんいかん。
 完全なもののけだ。
 脳裏には、女性に化けたのっぺらぼうという妖怪が浮かび上がっていた。

 背筋が凍った。
 早く逃げなければ、そう思うが身体は恐怖心から動こうとはしない。

「すいませーん!死神さーん!」

 ほ、ほら!
 や、やっぱり俺を!
 死…死神?

 不思議に思い、声が聞こえてきた方向である真下を見ると少女がいた。
 それは見た覚えがある少女だった。
 先日、猫に餌を与えていた心優しき鈴の髪飾りの少女のように思えた。

「こっちですー!」

 心から安堵した。
 人が近くにいるだけで、こんなに安らげるとは。
 一人きりは嫌だ。
 そんな子供じみた考えで俺は地面に降りた。

 少女の顔が、引き攣っているように思えた。
 それはそうだ。
 こんな真っ暗闇に少女が一人とは寂しかったことだろう。

 笑顔で言った。
 笑顔は人を落ち着かせることができると、本で読んだことがあった。

「こんな夜更けにどうした?」

 少女はあっと声を上げると、何度も頷いた。

「そそそ、そうなんです!
 助けて下さい!」

 首を傾げた。
 そして、次の顛末には驚愕せざるを得なかった。
 なんと、少女の肩に座っていたイタチが日本語を発したのだ。

「死神の旦那ぁー!
 助けて下せぇー!
 ネギの兄貴が大変なんでさー!」

 しかも流暢な日本語をだ。
 そこらのチンパンジーより知能が高いであろうことは良く理解できた。
 これは凄い。
 こんな生き物がいるとは知らなかったが、凄いぞ。
 ウチの死神でさえ、まだ話せないというのに。
 それと死神の旦那は止めて貰いたいが、いまの格好ならば仕方ないと言えよう。

 それにしても葱の兄貴とはなんなのだろうか。
 まさしく言葉通りだとするならば、最低でも葱の弟がいることになるのだが。

「葱の兄貴…?」

 疑問が口をついて出た。

「こ、この前広場であなたが踏んだ子供です!」

 これで合点がいった。
 「葱の兄貴」という言葉は、「ネギの兄貴」という言葉なのではないだろうか。
 欧州の人のようであったから、ネギという名前なのであろう。
 先日不可抗力にも、広場で踏み付けてしまったスーツの少年のように思えた。
 それにしても、両親はどういった想いでネギと名付けたのだろうか。
 いや、欧州では普通なのかも知れない。

 ならば整理しよう。
 少女とイタチはこう言った。
 助けて下さい。
 ネギの兄貴が危ない。

 直ぐに理解できた。
 な、なに!
 こんな真夜中に年端のいかぬネギ少年が、迷子になっているだと!

 俺でも怖いのだ。
 ネギ少年は、より一層怖いであろう。
 可哀相に。
 脳裏に、暗闇の中でネギ少年が怯えきり涙を流している映像が流れた。

 同時に思う。
 この少女はなんて子供好きなんだろうか、と。
 慌てて、着の身着のままで寮を出て来たんだろう。
 寮母さんに怒られるのもいとわずにだ。
 このイタチにしてもそうだ。
 心優しき生き物だと言えよう。
 度々災厄を巻き起こし、ただ笑うだけの死神に見習わせたいほどであった。

 それならば早く、ネギ少年を見つけてあげなければならない。
 暗闇の怖さは、俺には痛いほど理解できた。
 ネギ少年はまだ幼い。
 これから長く楽しいであろう将来が待っているはずだ。
 それが、最悪なトラウマによって台なしになりかねないのだ。

 上空からの方が、見晴らしが良く探しやすいだろう。
 真剣な表情で言った。

「早く行こう」

「え?」

 少女が固まった。
 イタチも固まっていた。

 時間がない。
 トラウマになるまえに。
 強く言った。

「助けに行くんだろ!」

「は、はい!」

「あ、ありがとうごぜぇーます旦那ぁー!」

 少女の瞳が輝いた。
 本当に優しきイタチだ。
 器用に土下座までしていた。

「事態は急を要する。
 すまないが」

 少女をお姫様抱っこの形で持ち上げた。
 変身中の俺ならば、少女を抱えるくらいならば可能である。
 当然ながら、少女が慌てふためいた。

「ち、ちょっとー!」

 その言葉を無視して、俺は空中に浮かび上がった。
 事態は急を要するのだ。
 セクハラ紛いに思われるかも知れないが、いまは俺の今後よりネギ少年の今後の方が百倍大事であると言えよう。
 少女が意図を理解したのか黙り込んだ。
 セクハラの疑いは晴れた。
 これで後腐れはなくなった。

 周囲に目を凝らした。
 見つからない。
 いや、辺りが闇に閉ざされているため目が利かない。
 ならばと、質問した。

「当てはあるのか?」

 少女は聞こえていないのか、俯き黙り込んでいる。
 イタチが指差しながら答えた。
 本当に頭が良いイタチだ。

「向こうですぜ旦那!」

「向こうだな」


 全速力でそちらに向かった。
 未だに恐怖心はあるにはあるが、気にならなくなっていた。
 ネギ少年はより一層怖い思いをしているはずだ。
 年長者である俺が怖がってはいられないのだ。

 さながら空を裂くように、速度を上げた。
 この紫紺の霧のお陰か、少女とイタチにも風圧の影響はないようだ。

 途中にあった壮大なる橋を追い越し、そのまま進んだ。
 ネギ少年はどこで泣いているのだろうか。
 イタチが慌てて叫んだ。

「死神の旦那!
 通り過ぎちまいましたぜ!
 さっきの橋です!」

「なに!」

 即座に転身して、橋に向かった。
 前方に橋が見えてきた。
 ネギ少年らしき小さな人影を確認した。

 深く安堵した。
 ネギ少年は恐怖心からか倒れていた。
 しかし、更に二人の人影が確認できたことから、介抱されているようであった。
 徐々にその人影が明確になり、正体が判明した。
 それはメイド姿がお美しい茶々丸さんと、なんとマント姿のエヴァンジェリンさんではないか。
 茶々丸さんが優しいのは周知の事実だが、あのエヴァンジェリンさんもやはり心優しき美幼女だったのだ。
 怯えるネギ少年をトラウマから救うため、エヴァンジェリンさんが抱きしめていた。
 なんて美しい場面なんだろうか。
 この美しさには、さながら国宝級の絵画でさえも無条件に平伏すであろう。

 イタチが言った。

「死神の旦那!あそこに寄って下せぇ!」

「任せろ」

 当然だろう。
 早くネギ少年の側まで赴き、安心させてやらねば。

 イタチが少女に言った。

「姐さん!姐さん!何してんでさぁ!」

「う、うるさいわね!わかってるわよ!」

 俺の胸元に、少女が顔を埋めたまま叫んだ。

 茶々丸さんとエヴァンジェリンさんが、こちらに気づいた。
 少女を抱えているため、開いている右手で感謝の意を示した。

 ありがとう。
 これで一見落着である。

 しかし、ネギ少年たちの側に急停止したときだった。
 とんでもない事態が起こったのであった。

「いくぜぇ!
 オコジョフラァーッシュ!」

 突如、目が潰されたかと誤解するほどの光源が発生したのだ。
 反射的に瞼を閉じた。
 少女が危険なため優しく降ろした。

「あ、ありがとう」

 声だけが聞こえてきた。
 それにしても、それにしてもである。
 オコジョフラッシュとやらは、あの声からイタチが発生させたに違いない。
 こいつは、なにを思いあんな行動をしたのだろうか。
 やはり小動物、ということなのだろうか。
 まあ、ハッピーエンドには変わりないから良いだろう。
 人間にはわかり得ない、イタチなりのお礼の一種なのかも知れなかった。

 光が納まり、ゆっくりと瞼を開いた。
 傍らにいたネギ少年が、こちらを見つめて小刻みに震えていた。
 感動しているのだろう。

「し、死神さん…!」

 俺は笑顔を返す。
 良いんだ。良いんだよ。
 暗闇の怖さは重々承知の上だからね。

 少女が笑って言った。
 イタチも言った。

「ネギ、この人は助けに来てくれたのよ」

「そうでさぁーネギの旦那!」

 おいおい照れるよ。
 そんなに誉めないでくれ。

 ネギ少年の瞳が輝いた。

「そ、そうなんですか!?
 あ、ありがとうございます!」

「構わないよ」

 優しく言った。
 人助けとは、なんと気持ちの良いことだろうか。

 これにて一見落着。
 めでたし。めでたし。
 さて、蝋燭を買いに行かねばなるまいな。
 そう考えていると、唐突にもイタチが言った。

「ささ、ネギの兄貴!
 ここは死神の旦那に任せて仮契約を!」

「ネギ、こっちよ!」

「そ、そうですね!
 死神さん少しの間、お願いします!」 
 
 うん。
 意味がわからない。

 唖然としていると、二人と一匹は足早に、高くそびえ立つ橋脚の陰に隠れた。

 これは、どういうことなのだろうか。
 素直に不思議であった。
 エヴァンジェリンさんと茶々丸さんならば、なにか理解しているかも知れない。
 振り返ってみると、エヴァンジェリンさんが愉快そうに笑っていた。

「小林氷咲よ、今宵の月は綺麗だと思わんか?」

 質問に、反射的に頷いた。
 月の身体が半分ほど、雲に隠れていた。
 その様は幻想的であり、まさにお月見に持って来いな夜であった。

 エヴァンジェリンさんがまた愉しそうに笑った。
 そして、仰々しい所作をして言った。

「ではお前に選択肢を与えるとしよう。
 答えはYESか、NOだ。
 単刀直入に言おう。
 小林氷咲。
 お前、私のものになれ」 
 
 愕然とせざるを得なかった。
 これは、まさしく、そういうことなのだろう。
 愛の告白。
 吸血鬼らしく遠回しな言い方ではあるが、これは愛の告白ではないだろうか。

 誰が?
 エヴァンジェリンさんが。

 誰に?
 俺、小林氷咲に。

 驚愕はまだ続いていた。
 しかし、これでネギ少年たちが、なにやら理由をつけてこの場から去った理由が理解できた。
 空気を読んだのであろう。
 いや、ネギ少年の迷子という騒動さえ、エヴァンジェリンさんによる愛の告白の舞台を整えるための嘘のように思えた。
 それにである。
 茶々丸さんから貰った「果たし状」は、もしかしたらエヴァンジェリンさんが俺に宛てた恋文だったのではないだろうか。
「魔力を辿ってこい」
 まさしく吸血鬼であるエヴァンジェリンさんが選びそうな言葉であった。
 それを俺が茶々丸さんとの交換日記だと勘違いしたことを、吸血鬼的能力で知った。
 だから急遽、皆で告白する舞台を整えたのではないだろうか。
 可能性は極めて高く思えた。

 俺のどこに、エヴァンジェリンさんが惚れる要素があるかは皆目検討はつかない。
 しかし、こんなに嬉しいことが辛かった人生の途中に、定めづけられていたとは。

 純粋に、感動した。
 俺に幼女趣味などはない。
 ないが、エヴァンジェリンさんが成長すると、さながらモデル顔負けの金髪美女になるであろうことは容易に想像できた。

 嬉しい。確かに嬉しかった。
 だが、しかしだ。
 俺にその魅力的な誘いを受けることはできない。
 それはエヴァンジェリンさんが悪い訳ではない。
 いや、どこも悪いところはないと言えた。
 器量、将来性に性格、吸血鬼だろうとなんだろうと、どこをとっても非の打ち所のない素敵な女性であった。

 しかし、俺には心に決めた女性がいるのだ。
 それは絡繰茶々丸さんという女性だ。
 エヴァンジェリンさんに負けずとも劣らない素敵な方である。
 茶々丸さんはどこか緊張した面持ちで、俺を見つめていた。
 その表情は、固かった。
 なにかを恐れているような感覚がした。
 それは、そういうことと捉えても良いのだろうか。

 いや、駄目だ。
 エヴァンジェリンさんは真剣なのだ。
 こんな状況なのにも関わらず、姑息なことを考えている恥ずべき己を叱咤した。

 エヴァンジェリンさん…すまない。
 愛の告白を断るときは、女性を傷つける曖昧な表現だけはするなと、本で読んだことがあった。
 断腸の思いで言った。
 申し訳ない気持ちで、一杯であった。

「すまない。
 魅力的な誘いだが…それを受けることはできない」

 恐々とエヴァンジェリンさんを見遣ると、不敵に笑みを浮かべた。
 唖然とした。

「ハーハッハッハッ!
 小林氷咲、やはりお前は不器用な生き方しかできんようだな。
 私たちは、少々プライドが高いところがあるからな。
 本当に、お前という男は気高いな。
 お前の気持ちは痛いほどにわかったよ。
 ならば…無理矢理にでも私のものにするだけだ。
 茶々丸、手を出すな。
 こいつは、私の手で屈服させねば意味がない」

「了解しました」

 うん。
 全く意味がわからない。

 しかし、物事を整理する時間は与えられなかった。

「行く、ぞ。
 魔法の射手(サギタマギカ)
 連弾(セリエス)氷の17矢(グラキアーリス)!」

 エヴァンジェリンさんがそう叫んだ。
 同時に、背筋に冷たいものが走ったのだ。
 これは慣れたくても、慣れることなどできはしないある予感。
 死の、予感であった。
 咄嗟に、鎌を前に出した。
 それでどうなると考えた訳ではない。
 ただ咄嗟に。

 鎌が怪しく紫色に光り、軽い衝撃と閃光が断続的に続いた。

 生きているのかどうかでさえ、自分でもわからない。
 それほど、焦燥心が暴れ狂い混乱した。
 なんとか落ち着き、エヴァンジェリンさんを見遣ると唖然としていた。

「その鎌はなんだ?
 魔法無効化能力でも付加されているのか?
 面白いじゃないか」

 いや、面白くはない。
 それから断続的な、死の予感が襲い続けた。
 怯え混乱しながらも、なんとか鎌を振り続けた。
 閃光、冷風、紫色の光。
 闇を裂く、爆発音。

 焦りながらも、思考が冴えていった。
 なぜこんな事態に陥っているのだろうか。
 それはエヴァンジェリンさんの愉しげな笑みから推測できた。

 間違いない。
 これはヤンデレである。
 愛の告白を断ってしまったため、先日の桜咲さんと同様、逆上してしまったのだろう。

 しかし、エヴァンジェリンさんすまない。
 こんな危機的状況に陥ったとしても、きみの誘いを受けることはできないんだ。

 攻撃が止んだ。
 静寂が辺りを覆い込んだ。
 それを切り裂くようにエヴァンジェリンさんが言った。

「そうだな。
 やはりこの程度ではお前は倒せんか。
 さすが私が認めた男、か。
 フッ。
 次は少々、力を入れるぞ。
 生き残れ。小林氷咲!
 来れ氷精 爆ぜよ風精 氷爆(ニウィス・カースス)!」

 叫び声が、俺の鼓膜に突き刺さった。
 これまでとは比較にならないほどの、悪寒が身体を襲った。
 身体中が激しく震えた。
 ここまでの激しい寒気は、人生で初めてのことだった。
 脈拍が乱れ、口が渇いた。

 選択肢を考える余裕はない。
 俺は高く跳躍した。
 靴の裏に、凄まじい衝撃が加わった。
 無情にも、身体が空中へと投げ出された。
 死んだな。
 そう、他人事のように思えた。

 しかし俺は生き残った。
 持ち前の悪運が、発揮されたのだろうか。

 上空へと飛ばされ、天を目指せとばかりにそびえ立つ橋脚の上に着地したのだ。
 脈拍が激しく、胸が苦しい。
 額の脂汗を拭った。
 そのまま、倒れ込んだ。
 深呼吸を繰り返した。

 雲間から覗く星が瞬いた。
 浮かぶ月が、儚く感じた。
 唐突に、不幸ばかりの人生だったと思った。
 不運ばかりが起こった。
 死神にとり憑かれても、誰も、両親さえも信じてはくれなかった。

 真下から光が上がった。
 身体を起こして、腹ばいで覗いてみた。

 余りの高さから、エヴァンジェリンさんが小さく見えた。
 こちらには気づいてはいないようだ。
 安堵の息を漏らした。
 何度、殺されかけたかわからない。

 注視すると、エヴァンジェリンさんとネギ少年が戦っているように思えた。
 それにしても、ネギ少年は何者なのだろうか。
 あのエヴァンジェリンさんと対等に、光弾を打ち合っていた。
 ネギ少年も吸血鬼なのかも知れない。

 ネギ少年は、エヴァンジェリンさんの暴走を諌めているのだろう。
 なんて、優しい少年なんだ。
 ネギ少年頑張ってくれ。
 元々手におえる相手ではないし、当人である俺が出ていけば、またエヴァンジェリンさんは逆上してしまうだろう。

 その戦いは、さながら夢物語のようであった。
 闇空の下、幾多もの光弾がぶつかり合い爆発していた。
 それはまるで広大な宇宙を彷彿とさせた。

 どれほどの時間が経っただろうか。
 その様に目を奪われていた。

 エヴァンジェリンさんとネギ少年の両方から、太い棒状の光線が放たれた。
 それはぶつかり合い、拮抗しているようだ。
 橋脚が震えた。
 この壮大な橋脚に、振動が起こったのである。
 有り得ない、衝撃であった。

 そして、事態は起こった。
 唖然としていた俺は、その振動から体勢を崩した。
 落下していく。
 徐々に速度が上がっていく。
 不運なことに、光線が拮抗する中心へと落下していっているようであった。

 飛べぇ!

 念じるが、間に合わない。
 辺りの風景が、スローモーションのように感じた。
 だが諦める訳にはいかない。
 光線が拮抗する中心に、鎌を突き立てた。
 それは一縷の望み。
 この鎌には火や水などを消失させる能力があったはずだ。

 突如、爆発的な閃光がほとばしった。
 身体が空中へと回転しながら投げ出された。
 なんとか助かったようだ。
 空中で身体を急停止することに成功した。

「マスター、停電から復旧します!
 修正予想時間よりも早い!」 
 
 茶々丸さんの声に、辺りを見回した。
 マスターとは誰のことを指しているのだろうか。

 橋の上には吹き飛ばされているネギ少年を、少女が介抱していた。
 次に、空中に浮かぶエヴァンジェリンさんを見遣ったときであった。
 突如、エヴァンジェリンさんの身体に電気が走ったのだ。
 呻き声を上げて、真っ逆さまに湖へと落ちていく。

 どうしてこういう事態になっているか、皆目見当はつかない。
 つかない、つかないがだ。
 エヴァンジェリンさんが例え吸血鬼だとはいえ、この高さから水面に叩きつけられては生きてはいられないように思えた。

 身体が独りでに動いていた。
 ローブを翻し、エヴァンジェリンさん目掛けて、全速力で降下した。
 エヴァンジェリンさんには、度々殺されかけた。
 だが、しかしだ。
 俺に向けて愛の告白をしてくれた女性一人助けられないなんて、それは余りにも情けなさ過ぎるだろ。

 空中で手を伸ばす。
 届け。届いてくれ。
 水面が、徐々に近づいてきている。
 必死に手を伸ばした。

 そして、届いた。
 エヴァンジェリンさんの右腕を確かに掴んだ。
 すると、ネギ少年も真剣な表情で左腕を掴んでいた。

 ネギ少年がなにやら呟くと、湖畔から杖らしきものが飛来してきた。
 杖を片手で受け止め、跨がろうとして言った。

「魔力が安定しないんです!
 死神さん!」

 望むところだ。
 俺は二人とも、まとめて胸元に抱えた。
 ゆっくりと、上空に浮かび上がった。

 良かった。
 本当に良かった。
 気持ち良く笑った。
 ネギ少年も笑い、橋の上の少女も笑っていた。

 エヴァンジェリンさんがこちらを見つめて呟いた。

「お前たち…なぜ助けた」

 笑顔で、言った。
 ネギくんも同時に言った。

「だって人を助けるのに、理由はいらないじゃないですか」
「人を助けるのに、理由はいらないからね」

 エヴァンジェリンさんが一瞬唖然としてから、俺の胸元に顔を押し当てた。

「貴様ら…」

 ゆっくりと、橋に降りた。
 茶々丸さんと少女とイタチが出迎えてくれた。
 まさに、ハッピーエンドではないか。
 心地好い疲れを感じながら、ネギ少年を先に降ろす。

 続いてエヴァンジェリンさんも降ろそうとしたとき、感慨深げに呟いた。

「私は、お前を全ての災厄から守ろうとしたのだが…。
 結果は私の負け…か」

 優しい声音を聞いたとき、その言葉の意味を知ったとき、短き人生の走馬灯が駆け巡った。
 死神にとり憑かれたこと。
 不運が重なりだしたこと。
 エヴァンジェリンさんに桜通りで殺されかけたこと。
 広場で一般人から掛け離れはじめたこと。

 エヴァンジェリンさんは、こんな不運だらけの俺を守ろうとしてくれていたのか。
 そこまで好きでいてくれたと言うのか。
 感謝してもしきれない。

 独りでに口が開いた。

「こんな俺を…守ろうと…」

「ああ、当たり前だろう…。
 私とお前は同類…。
 ど、どうしたんだお前!」

 エヴァンジェリンさんに言われて、頬を伝う水分に気づいた。
 俺は泣いているのか。
 それは感動の涙のように思えた。

 涙を拭い、笑顔で言った。

「エヴァンジェリンさん。
 ありがとう。
 守ろうとしてくれて」

 エヴァンジェリンさんは一瞬呆気にとられたが、直ぐに暖かく笑った。
 それはまるで、聖母のような神聖な笑みに思えた。

「いいんだ。
 私は全部わかっているからな」

 夜空の星が、煌めいた。
 胸が苦しくて、そして、途方もない安らぎを感じた。


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