ベルナデット・エレシュキガルは両親が死んでから一人で
暮らしていた。軍人である兄アルトリア・エレシュキガルが
いるだけ。
珍しく誰かが家にやってきた。目深にフードを被り顔を隠していた。
「少し俺を匿ってくれないか」
声からしても背丈的にも男だ。とりあえず彼を中に入れた。誰かから
逃げているようだったので自室に隠す。再びドアをノックする音が
聴こえた。今度は筋骨隆々の男たちが現れた。
「ここに琥珀色の眼をした男は来なかったか」
「いいえ来ていませんよ。あ、でも私…この人が先に走っていくのを
見かけました」
勿論、嘘だ。それを彼らは信じ込み家を離れていく。
「…あの人たち、出て行ったよ」
その青年は綺麗な黒髪に琥珀色の眼をしていた。さっきの男が見せた
絵と同じ顔だ。
「ありがとう、匿ってくれて。迷惑をかけてしまったな」
「そんな!迷惑だなんて思って無いよ。それよりあれって軍人でしょ。
何をしたの」
彼はアイン・ヴァンと名乗り片腕を見せた。乱暴に巻かれた布を
取ると腕が変形した。赤黒い大きな異形の腕。
「俺は魔族の力を持った化け物。大昔の戦いで多くの人間を殺した
魔族の中の一族に生まれた怪物だ」
人間の魂を喰らう魔族として人間には伝えられているが実際は違う。
人間の感情を餌とする魔族だというのだ。唯一、人間を陰から守り
魔族を喰らって生きながらえていた。
「あの男共は魔族だ。かつて人間に封印された、な」
赤黒い腕にはまた乱暴に布が巻かれていた。
「でもアインは悪い魔族じゃないんだね」
「…怖がらないのか」
「勿論、そういうのは多分慣れればどうにかなると思うし」