空は語り出した。俺と自分が結ばれる世界を見つける為に気が遠くなるほどの長い時間を生き続けたことを。「どうにかならないのかよ」慟哭する俺に対して空はボソリと小さな声で言った。「実はね、別に灰色のクリスマスを避けるパターンはいくつかあるのよ」「え?」希望がある、だが空の表情はあまり優れない。「例えば、久利原先生がたまたま交通事故にあって死亡したり」こいつ何かとんでも無いことを言いだした気がする。「でも、そのパターンの分岐ではどうしてもまこちゃんとくっついちゃうのよね。何というかお父さんみたいだった人が突然死んでしまって弱気になっているところを甲が親身になって、甲のお母さんも電脳症だから、あの世界の甲も思うところがあったんじゃない。絶対離さない、俺が真ちゃんを守るんだってね」「・・・ちなみにその時の空はどうしたんだ」「千夏と二人でやさぐれていたわ」おそらくクリスマスパーティで大暴れしているであろう美少女二人が脳裏に浮かぶ。「私と甲が死なないという条件だけなら結構あるのよね。千夏と結ばれて自棄で私がクリスマスパーティに参加していたり、たまたまレインと知り合ってそのまま仲良くなったり」記憶が流れてくる。千夏に負けて奪われてそのままなし崩しでつきあい始めた世界。クウのところにあまり行かないでたまたま知り合ったレインと仲良くなる世界。何か桐島長官が「八重さんばかりか娘まで奪っていくのか門倉の男は!」と咆吼している気がする。何だろうこの重厚なシュミクラムと戦わされる俺の図。「凍結されたのがクウじゃなくてコウの世界もあったわ。その世界では甲と亜季先輩がラブラブ関係に。菜ノ葉が試験に落ちているときに深く慰めると幼なじみ効果か菜ノ葉と付き合うことになるのよね」「甲は弟のことを好きになるお姉ちゃんのこと嫌い?」とにじり寄ってくる亜季ねえが、慰めるために菜ノ葉とあんなことになっている俺がいる。でもファーストキスがニラの味なのは正直嫌だ。「そうやって色々見ている内にむかついてきて、どうやったら私が灰色のクリスマスに甲とデートにこぎ着けることができるのかわからなくなって」空は慟哭するが正直俺が泣きたい。「もう私が甲とクリスマスを過ごすための分岐を見失っちゃった」「私、メインヒロインよね。今人気投票やったらクゥより下なんてことないよね」→まあレインの人気は不動なんだが。 俺は空のことが好きだから良いじゃないか。 実はジルベルトが何か脳裏で選択肢が浮かんでいるのだが、AIからの天啓じゃないよな。あと最後の選択は死んでもごめんだ。「落ち着こう空、何か手があるはずだ」正直やり直しができるなら、アレな性格の空をどうにかしたい。くそ、これもノイツェーンに感染してしまった影響なのか。「いくら設定をやり直しても私と甲の仲が進むと灰色のクリスマスが起きる。私って地雷キャラなの? 周囲もろとも爆発させる疫病神なの」泣いている空に対してかける言葉が見つからない。そりゃ料理の腕はあれだし、勢いがつき始めると周囲が見えないし、暴走機関車みたいな性格だもんな。学園時代は色々振り回されたよなあ。ああ何か昔を考えていたら疲れた。「聞いてるの甲、ねえ甲ってば」俺は考えることを放棄した。げーむおーばーリトライ?メインヒロイン(空)メインヒロイン(空気)Dive1では間違いなく、Dive2は目下最大のライバルがクゥという彼女。嫌いとかではなく、ただ淘汰された可能性の上で起きている物語。その大前提を崩してみるかという話。